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1 : 2014/06/21(土) 00:28:26.88 -
※カップリングは特にありません。※ご都合主義、脳内変換よろしくお願いします!
※たまにグロい表現がございます。
ども。ちょっと振りですかな
遅筆ですが、投下を開始していきます荒しが出ようが気にせず投下するんで
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403278106
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403278106/
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2 : 2014/06/21(土) 00:32:26.01 -
垣根「……」
垣根帝督は壁に背中を預け、ボーっと目の前の壁を眺めていた。
近くの長イスには浜面が横たわっている。物音一つなかった院内だったが、もぞもぞと衣服が擦れる音がした。
すぐに男の呻き声が聞こえてきた。
垣根は声の持ち主が誰だか既に判っている。垣根「起きたか」
浜面「いつッ……ここは?」
垣根「病院だ。リーダーを治療してもらうためにな」
浜面「あの男は、どうなったんだ?」
垣根「今も学園都市のどっかにいる。俺らが動くのを待ってるんだとよ」
浜面「そういうことか……一方通行は?」
垣根「ん」
くいっと顎で示した。
浜面はその方へ顔を向ける。
十メートル以上先の長イスに———白いのが二つ並んでいた。 -
3 : 2014/06/21(土) 00:34:36.88 -
浜面「は……いや、あれって……?」
一瞬、己の目を疑ったが、よく見ると二人とも見覚えのある姿だった。
片方は一方通行、もう一人の方は……。垣根「どうやら、ここの医者にコンタクトを取ってわざわざ学園都市に来たみたいだぜ」
浜面「なんでだよ?」
垣根「俺が知るわけねぇだろ。本人に聞け本人に」
二人の姿を見つめ、浜面は思う。
少女の理由はどうであれ、よく一方通行が喋ろうと決心したものだ。
何だかんだで気にかけてるくせに、気にしていないフリを演じていた一方通行である。
あれだけ少女を遠ざけていた彼が、こうして面と向かって話しているということは……何か心境の変化があったのかもしれない。今も喋ってるのだろうか。
この距離からでは判らなかった。
音さえ響かないので本当に話してるかどうかがあやふやな所だ。浜面「あいつも、いつまでも逃げてるばかりじゃないってことか」
垣根「……あークッソ、どう考えても演算し切れねぇ」
見ると、垣根は自らの頭を乱暴にかき乱していた。
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4 : 2014/06/21(土) 00:38:31.46 -
演算……何を演算しているのかは判らないが、第二位である彼が演算できないこともあるのか。
そんな考えが顔に出てたのか、垣根は察したように「あぁ……」と納得し、垣根「何とかして『魔術』の対応策をと思って、俺の未元物質で試してるんだがダメだ。あの露出狂の女までだったら辛うじていけるんだが、どう足掻いてもアックアってヤツのは『魔術』の他に何か『別のモン』が働いてやがるみてぇだ」
浜面「『魔術』の他……あのねーちゃんが言ってた『聖人』とかか?」
垣根「正直それも輪をかけて邪魔してんだ。更に言うならあの男はその『聖人』と断言していいぜ。一撃を食らった時にチカラの解析したら一致したからな」
浜面「加えて未だに解析できないもう一つ謎の『チカラ』ってことか」
垣根「第一位の『反射』すらまともに効かねぇんじゃ、俺も新たに調整が必要だと思ってんだけど……こうも難解じゃ時間のロスで終わっちまう」
打開策が喉から手が出るほど欲しいとのこと。
単純な計算式なら暗算でスラスラと解いていく彼であるが、方式が判らないのに問題を突きつけられるようなものだ。
二重三重と方式が重なったものを無知な状態から解けと言われるのは、厳しいどころか無茶な話だった。
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5 : 2014/06/21(土) 00:42:06.88 -
浜面「……垣根ってさ、一方通行の『反射』を突破したんだよな?」
垣根「あ? あー……まあ再演算されちまったけど、一度は破ったぞ? それがどうかしたか?」
浜面「……」
浜面は垣根や一方通行みたいに頭が良い訳ではない。
二人が十ある内の九や八だとしたら、きっと浜面は一や二でしかないだろう。だけど、浜面はその一や二で———上条と並ぶ思考を持つことができる。
浜面「『魔術』は限界があるとしても、単純な腕力で振るった一撃は防げるのか?」
垣根「……なるほどな。浜面、テメェはリーダーが居ない時の指示役決定」
浜面「は!? 急になんだよ怖ぇよ!」
垣根「ようやく雑用以外に役割ができたんだぞ? 素直に喜べって!」
肩をバンバン! と叩かれる。
意味が分からなかった浜面は痛みに耐えつつ、
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6 : 2014/06/21(土) 00:46:24.58 -
浜面「……俺は二人みたいに能力がある訳じゃねえから、やり方を変えるしかない。実際それで麦野には届いた」
垣根「俺ほどじゃねぇけど充分すげぇよ、テメェは」
浜面「でも、今回は俺が加勢しても足手まといだろうさ。たとえ能力があってもよ」
垣根「ほぅ? 何故?」
浜面「あの男に勝つためには戦力を上げたってダメだ。打開策が必要になってくる。一方通行と垣根はその場でその場で打開策が生まれてくると踏んでる。
ってことは、二人に思う存分暴れられた方がいい。そこに俺が混じるなんざ、お荷物どころか自殺行為だろ」垣根「ヒュー! この俺を納得させるとは、浜面も随分成長したもんだぜ。とても彼女欲しいと連呼していた野郎とは思えねぇ」
浜面「うるせえ! それは垣根も同じだろ! モテたいモテたいってイケメンのくせに!」
垣根「くせに、って酷い言い種だなオイ!!」
一方「ぎゃあぎゃあとうっせェぞ」
盛り上がってきたところで、思わぬ介入が入った。
垣根は思わずキョトンとする。人物に驚いた訳ではない。憎たらしいが馴染みある声だ。
余りにも戻ってくるのが早かったから驚いているのだ。垣根「もういいのか?」
一方「長くする必要はねェだろ」
シンプルな返答だった。
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7 : 2014/06/21(土) 00:59:10.64 -
彼がそう言うなら良いんだろう。変に気を遣うのも面倒だ。
第一位も子供じゃない。過去の清算処理ができる大人ぐらいには成長しているはずだ。一方「……他の連中は?」
垣根「先に向かった。俺らは俺らで作戦を練らないとな」
浜面「向かったってことは、何かしら策があるからか」
一方「とりあえず浜面はどうすンだ? 付いて来るのか?」
浜面「いや、大将のトコにいようと思ってる。せめてあのシスターが来るまで、な」
一方「ン。オマエはどォすンだ」
垣根「愚問だな」
浜面は手術室の前で待ち、学園都市のトップの二人は戦場へ歩き出した。
歩きながら、一方通行は先ほどの会話を思い出す。
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8 : 2014/06/21(土) 01:01:35.40 -
百合子『突然ですいません』
一方『なンで謝ってンだよ』
百合子『本当は陽が昇ってからお会いしようと思ったのですが、たまたまここに入ってくる姿を見かけてしまって』
一方『……』
百合子『勝手に、足が動いちゃってました』
一方『学園都市から離れたンじゃねェのか』
百合子『はい。今回は用があったので、先生にお電話して招待させていだきました』
一方『チッ……』
百合子『……』
一方『……』
百合子『迷惑、でしたか……?』
一方『……誰も、ンなこと言ってねェだろォが』
百合子『なら、よかったです。これでも緊張していましたから』
一方『どこまで知ってンだ。オマエ自身のことを』
百合子『全部です。私はクローンであることも、誰のクローンであることも』
一方『……なら、尚更なンの用だ。オマエの元となったオリジナルはもォこの世に居ねェ』
百合子『……』
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9 : 2014/06/21(土) 01:04:09.00 -
一方『“ソイツ”も、殺した“ヤツ”も居なくなって、とォとォ俺だけが残っちまった。そンな野郎に一体なンの用がある?』百合子『……』
一方『あァ、あれか。“見殺しにした”俺を恨ンでここまで来たってか? だったら納得だわ。オリジナルが死ンで俺が生きてる、これほどフザケた話はねェからな』
百合子『……』
一方『……なンか言えよ』
百合子『いえ、優しいんですね』
一方『なに?』
百合子『私、どうしてだか判ります。とても優しい方だと伝わってきました』
一方『ちょっと待て。どォなったらそンなイカレた解釈になるンだ』
百合子『帰らそうとしてるんですよね? わざと私を怒らせて』
一方『……』
百合子『敵意の矛先を自分に向けようとしてまで、あなたは私のオリジナルのことを思っているのがスゴく伝わってきました』
一方『……』
百合子『そうすることで、少しでもオリジナルが報われればと。そして自分の犯した罪を清算できればと思っていませんか?』
一方『俺の、罪……?』
百合子『はい。言いましたよ? 見殺しにした、と。心のどこかで感じていたからスッと言葉に出てきた。違いますか?』
一方『……』
百合子『何よりも、あなたはクローンである私の身も危惧してくれています。きっと何か理由があるから、私を帰らそうとした。これ以上に優しいと感じる説明は要らないでしょう?』
一方『……自意識過剰すぎンだろ』
百合子『はい! そうかもしれませんね。私が勝手にそう思い込んでるだけなので』
一方『ハン。どっからそンな根拠が生まれてくるンだか』
百合子『どこからでしょうね。ただ、言えるとしたら———』
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10 : 2014/06/21(土) 01:09:14.87 -
一方「俺も随分とヤキが回ったもンだ」
垣根「は? なに、いつからジジィになったの?」
一方「なンでもねェよ。こっちの話だ」
———私はあなたの妹のクローンですから、判っちゃうんです。
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11 : 2014/06/21(土) 01:14:50.04 -
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数時間が経った。
手術も無事に終え、今は点滴に繋がれた状態である。
本人は麻酔が効いているのか、眠っていた。
浜面は特別に同じ病室に居た。もちろん、騒がないことが前提だ。
一人用の個室らしい。上条以外のベッドは置かれていなかった。手術を終えてから何分経過しただろう。
そう思い、浜面はベッドの近くにあった時計を見る。浜面(遅いな……。インデックスのヤツ、道に迷ってんのか?)
連絡を入れてからどれくらい経つのかは判らない。
しかし、幾ら何でも遅すぎではないか?
まさか事件に巻き込まれた、もしくはアックアと接触したのではないか?……気になり始めたら落ち着かなくなってきた。
浜面(電話してみるか。さすがにここじゃマズいから外へ———)
———その時だった。
———浜面が突然、プツンと糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
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12 : 2014/06/21(土) 01:18:38.00 -
上条「……」
浜面が意識を途絶えた直後、代わりに眠りから覚める者がいた。
深い深い、眠りから。
「おやおや、こんな所で倒れている場合なのか? お前はようやく『ここ』までたどり着いたというのに」
この部屋には上条と浜面しか居ない。
居ないはずの部屋に、女性の声がした。「よもや力尽きたと言うつもりか? つまらないマネはするなよ。私はそんな矮小な存在のために力を振るった覚えはないぞ」
また、声がした。
この部屋には……この部屋にはだ。
上条「……隠れてないで出てこいよ。どうせ俺と喋るためにこの部屋一帯だけ別の位相(世界)へ転移した。そうだろ? ———オティヌス」
———空間が割れる。
———割れた『奥』から少女がこの世界に降り立った。
毛皮のコートで、その中に黒の革の装束、鍔広の帽子をかぶっていた。
一際目立つのは隻眼と……槍。
名称を『主神の槍(グングニル)』。彼女の名はオティヌス。
魔術を扱う神、魔神である。
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13 : 2014/06/21(土) 01:25:17.03 -
オティヌス「さすがだな、人間。理解が早い。私を“知っている”なら?」
上条「ああ。思い出したよ」
オティヌス「どこまで?」
上条「“全部”だ」
上体を起こしてオティヌスを見据える。
彼女は何やら槍の上に座って、宙にフワフワと浮かんでいた。とりあえず上条は溜息をついた。
上条「……お前、たまに緊張感の欠けるような奇妙な行動するよなー」
オティヌス「奇妙とは心外だな。無邪気と言ってくれ」
上条「魔神が無邪気とかなにそれ萌え要素かよ」
オティヌス「偏った趣味思考は構わんが、それ、私はともかくそこら辺の人間なら引くぞ?」
上条「うるせーよ! てか、こんなのんびり話をしに来たんじゃないんだろ? オティちゃん」
オティヌス「その呼び名はやめろ」
上条が反撃に転じようとした時だった。
「君達はいつまでそうしてる気かね」
……と。この部屋(位相)に新たな声がした。
音もなく現れた人影は、全身緑色の服を身にまとっていた。
男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』。学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリー。
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14 : 2014/06/21(土) 01:30:59.26 -
上条「いつから?」
アレイスター「初めから」
上条「てことはタイムアウトか」
アレイスター「むしろオーバーしているぐらいさ。やむを得ず浜面仕上には眠ってもらったよ」
オティヌス「役者が揃ったのなら、さっさと始めてしまおう。お前が完全に入れ替わる前に」
よく言う、と密かに思う上条だった。
しかし的を射ていることも確かである。
一回でも完全に乗っ取られた今、いつまた来るか判らないのだから。トッ、とオティヌスは槍から降りる。
オティヌス「感慨深くはあるがな。『ここ』までの道のりは果てしなく、そして長い年月を要したのだから」
上条「……まあ、な」
アレイスター「時間が過ぎていくほど君の心が支配されるなか、よく『神の右席』の所で限界がきたものだ」
上条「運が良いのか悪いのか、これじゃあ戦争が加速されて待ったなしですよ……」
オティヌス「しかし、本当に大丈夫なのか?」
上条「なにが?」
オティヌス「これからのことだ」
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15 : 2014/06/21(土) 01:33:50.40 -
上条がオティヌスを見れば、僅かに心配の色が窺えた。
心配してくれてるのか。
彼女にしては珍しいことで思わずクスッと笑ってしまった。それが気に食わなかったらしく、槍を持つ手とは逆の方で思いっきり殴られた。
オティヌス「ふん。別にお前が出なくとも、私が出れば一瞬で終わるだろう?」
殴られた頬をさすりながら、上条は答える。
上条「いや、それじゃ意味がないんだオティちゃごぶっ!?」
オティヌス「続けろ」
上条「は、はひ……。アンタが勝っちまったら、『コイツ』は強い敵を求めるから一層俺に対する抵抗が増すんだ。俺が『コイツ』を叩きのめして判らせてやるしか方法がないんだよ」
オティヌス「面倒だな」
アレイスター「幻想殺しのことは幻想殺しに任せればいい」
上条「……悪いな」
アレイスター「気に病む必要はない。それより、どうやら禁書目録がじきにここへ到着するみたいだ」
上条「ん、その前に」
オティヌス「始めなければな」
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16 : 2014/06/21(土) 01:36:13.08 -
上条は思う。
これからが本当の戦いだと。昔も今も自分と現実との戦いだった。
もはや何回失敗してきたか判らない。
それでも挫けずに“繰り返した”のは守りたい存在が居るからだと感じる。時には親友が死んだこともあった。
時には守りきれなかったこともあった。
時には仲間を全員失ったこともあった。
そんなことを何万とこの目で見てきて、何万と繰り返してきた。
全ては自分の力不足が原因だ。
弱くて、惨めで、頼りない矮小の人間でしかない。でも———上条当麻は絶対に逃げない。
もう逃げたくないから———前を向くんだ。
オティヌス「またな。愛しき『理解者』」
アレイスター「また会おう。我が友人よ」
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17 : 2014/06/21(土) 01:39:00.46 -
———————————————
『元の世界』に戻って僅か数分のこと。
上条の病室に新たな人影が二つ現れる。
それは世界中を探し歩き回ったとしても、これ以上に上条のことを知る人物いない、と言える二人である。
中学生の女の子だった。
同じ学校で、同じLevelで、上条と同じ幼馴染みだった。学園都市の常盤台中学に君臨するLevel5、御坂美琴と食蜂操祈だ。
美琴「……こういう時ってアンタの能力は便利よね。私の場合、場所は特定できても人はどうにもできないし」
食蜂「御坂さんってえ、どちらかというと野蛮力が高めだから後先考えない傾向が強いもの」
美琴「それはアレか、行動力だけの馬鹿と言ってるのかっ」
食蜂「あらあ、ごめんなさいねえ。そんなこと言われてもほら私、深く考えて言葉にするほど読解力に自信はないからあ☆」
美琴「嘘つけ!!」
小声で言い合いをするも、誰もいないことを確認したり扉を閉めたりと、ちゃっかりやることはやってる。
倒れている浜面に美琴が気付き、上体を起こして壁に背中を預けるようにした。
その間に食蜂はバッグから何個かリモコンを取り出す。 -
18 : 2014/06/21(土) 01:41:57.63 -
美琴「……どう?」
食蜂「問題力はなさそうねえ。右手に触れさえしなければの話だけどお」
美琴「こいつに能力効かないんじゃなかった?」
食蜂「ええ。でも、小学生の頃のだしい。会えなかった期間も長かったから気付かなかったのかもねえ」
美琴「そういうもんかしらね。今は考えたって仕方ないし、どうでもいいわ」
食蜂「どうでもいい、そうね、珍しく同じ意見だわあ」
丸イスをベッドへ近付けると、できるだけ上条の近くで二人並んで座った。
食蜂はリモコンを二つ用意する。美琴「皮肉なもんよね」
食蜂「私達が手を取り合ってることがかしらあ?」
美琴「あんだけ毛嫌いしてたのに」
食蜂「主に御坂さんがねえ」
美琴「食わず嫌いもあるでしょうけど、やっぱりコイツが」
食蜂「“原因”ね。ほら、早くしてちょうだい」
言われて、美琴は食蜂の腕に手を添える。
もう片方の手を上条の頭に置く。
全ての準備はととのった。後は二つのリモコンを同時に操作するだけだ。
食蜂「覚悟は?」
美琴「アンタこそ」
合図と呼ぶべきものがあるなら、それが合図だった。
食蜂は二つのリモコンのボタンを同時に押した。
その瞬間、二人の意識は途絶えた。上条の精神世界へ飛ぶために———。
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19 : 2014/06/21(土) 01:44:49.77 -
『当麻お兄ちゃんはあの日から、ずっと一人で戦ってきてるの』
『なんで? 護るために。なにを? みんなを』
『頑固だよね。だから私からお願いがあるんだ』
『———当麻お兄ちゃんを助けてほしいの。きっと、お姉ちゃん達にしか無理だから』
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20 : 2014/06/21(土) 01:51:00.78 -
投下しゅーりょー
次から上条当麻過去篇へ突入します
※アックアと誰も最後まで戦うとは言ってない
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21 : 2014/06/21(土) 02:41:31.47 -
おっと、前スレ
【上条浜面】とある四人の暗部組織【一方垣根】
【上条垣根】とある四人の暗部組織【一方垣根】2
上条「だから俺は……強くなるって決めたんだ」 -
31 : 2014/07/03(木) 08:01:46.51 -
———————————————
目が覚めると、空が見えた。
雲一つない空だった。
風もない。音もない。そもそも自分は今どうなっているんだろう?
美琴「う……こ、ここは?」
御坂美琴は見た。
重たい上体を起こして、追いつかない頭は回らないまま、『世界』を見た。
美琴「なに……ここ……?」
モノクロだった。
建物も木も空も、何もかも色を失い、白と黒だけの世界。食蜂「上条さんの心の中でしょうねえ」
隣に食蜂が立っていた。
彼女は髪を後ろへ払いながら、辺りを見回す。食蜂「学園都市で間違いないみたい。第七学区かしらあ?」
美琴は立ち上がる。
そうだ。自分は食蜂と共に上条の精神世界へ飛び込んだのだ。
目的を思い出したのはいいが、これから何をすべきか手段が見つからない。 -
32 : 2014/07/03(木) 08:12:23.96 -
美琴「この『色』はなにか意味があるの? 例えば……当麻の心を映しているとか」
食蜂「それはないけどお、『色』が変なのは確かだわあ。時間が止まってるのかもしれないわね」
美琴「私は精神のプロじゃないから判んないけど、そんなことありえるの?」
食蜂「もちろん」
言いながら食蜂は誰もいない道を歩き始め、慌てて美琴も追いかけるように後ろへ付いていく。
食蜂はキラキラの目で辺りを見回し、食蜂「て言ってもお、このケースは初めてよ。時間は止まってても、人はいるはずだもの」
美琴「ふぅーん。で、私達はどこに向かってる訳?」
食蜂「特異点。どんなに時間は止まってても、記憶の引き出しはドコかにあるはずなの」
美琴「……こういう場合って、本人の思い入れが強いところにあるとかそんな感じ?」
食蜂「ビンゴ☆」
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33 : 2014/07/03(木) 08:19:25.89 -
それから彼女達は歩き回った。
出来るだけ自分と縁のある、そして思い出がある場所を。公園の自販機前。鉄橋。小学校。常盤台。地下街。
彼のゆかりある場所にも赴いた。
もしかしたら自分とは関係のない場所かもしれないと思ったからだ。高校。スーパー。ファミレス。自宅。
時間そのものが動いていないから感覚が狂ってるものの、数時間は歩き回っただろう。
良かったのは現実ではないからか、疲れるという感じが不思議としなかった。
運動音痴+息切れが早い食蜂もここでは平気なようだった。
しかし、こうも見つからないと気分的に滅入ってしまう。セブンスミストの屋上で、彼女達は第七学区を見渡していた。
疲れてもないのに自ずと溜息が出てしまうのは人間の性だろう。食蜂「どうしたものかしらねえ……」
美琴「思いつく限り当たってみたけど無駄足かぁ……。アンタ精神のプロでしょ、どうにかなんない?」
食蜂「投げやりにならないで。この世界に入ることで手一杯なんだから、無茶言わないの」
けど、と続けて彼女は目を細めた。
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34 : 2014/07/03(木) 08:24:39.75 -
食蜂「どうやら第七学区にあるのは確かなようねえ」
美琴「根拠は?」
食蜂「ほらあ、第七学区以外のエリアが消されているわ」
美琴「……ホントだ」
食蜂「もお、御坂さん察しが悪いゾ☆」
美琴「うっさい。てか、手当たり次第探しまくって見つかんなかったのにこれ以上一体どこを……」
食蜂「どうかしたの?」
美琴「あれ、なに?」
彼女が指す方向は一つのビルだった。
そこは誰もが知るようで誰もが知らない、尚かつ普通の方法では立ち入ることが許されないビルだ。
唯一の手段として『空間移動』の能力者との協力が必須だった。
聳え立つビルの中身の実態を知るものは、きっとこの学園都市でも一握りだろう。
中の様子を覗くことも出来なければ誰が居るのかも判らない。
何せそのビルは窓がない。入口も出口もない。
ビルの呼び方も様々であった。
ある者は『牢獄』と呼び、ある者は『地獄』と呼ぶ。
色んな呼び方がある中、ビルの実態を知らない学生でも知るような、一般的で、馴染みのある名称があった。窓のないビル、と。
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35 : 2014/07/03(木) 08:36:44.78 -
美琴「あそこの建物の所に小さな光が見えない?」
食蜂「くすくす。みーさかさん、大当たりよお」
美琴「よっしゃ!」
判った途端に美琴の行動は早かった。
食蜂の腰に乱暴に腕を回すと、磁力を作用したのだろう。
二人とも宙に浮かび、ビルの所まで急降下し始めた。……当然、こんな強引なやり方に慣れていない食蜂の大絶叫が辺りに響き渡る。
食蜂「い、やあああああああああああああああああああああッッ!!??」
文字通り命綱なしの“落ちる”体験は、きっと彼女にどんな絶叫マシーンよりも恐怖を与えてくれるだろう。
一瞬の出来事に過ぎなかったが、食蜂はその一瞬の内にかなり疲労していた。
走って疲れるのとは異なった性質である。張本人の美琴は至って涼しい顔なのが腹立たしくて仕方がない。
美琴「そんなに?」
食蜂「私は! 御坂さんとは! 違うの!!」
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36 : 2014/07/03(木) 08:45:22.87 -
着地するやいなや、食蜂はそのまま地面に崩れた。
無理もない。誰もが美琴のように行動力の強引化をしている訳ではないのだ。
もはやここまでアクティブになられたら手に負えないレベル。一方通行が危惧し、垣根が感心し、浜面が驚愕する。
問題点があるとするなら、その『優しさ』と、『浅はか』であることだ。
食蜂「ふーっ、ふーっ」
美琴「……落ち着きそう?」
食蜂「えぇ……」
心臓は未だにバクバク鳴ってる。
しかし立ち上がれるぐらいには回復した。
充分だろう。特異点を目の前に腰を抜かしている場合ではない。……と、そんな時だった。
「あっれー?/escape なんでこんな所にお姉様が居るの?/escape しかも隣に居るのは目の敵のみさきちじゃない/return」
どこからともなく、陽気な声が聞こえてきた。
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37 : 2014/07/03(木) 08:51:17.71 -
声の持ち主は小さな光のすぐ側に居た。
常盤台中学の冬服に、茶色い色のショートヘア、おでこにはゴツい軍用のゴーグル。
これは……、美琴「あなた、『妹達』の……?」
「んー、当たらずといえども遠からずって感じよねー/return」
ぺこりと頭を下げて『彼女』は言った。
総体「『この私』では初めまして/return。いつも物理的末端がお世話になってます/return。ミサカネットワーク、その総体としての『大きな意識』です/return。どうもよろしくね☆/return」
ビッビッ、とポーズを決めた。
まるで魔法少女が登場するシーンのようだった。総体「もしかして、お姉様が来たってことは上条ちゃんがようやく“覚悟”を決めたってこと?/escape ……あーでも/backspace。あの人がそんな素直に話す訳ないし、お姉様が我慢できなくなったからここに来た可能性の方が濃厚かもね/return。
上条ちゃんの頑固っぷりにも困ったものだけど、お姉様もお姉様で普段は自らガツガツ行くくせに肝心なところで遠慮が働いて踏み込まないし/return」とすれば次の瞬間にはマシンガントークが始まっていた。
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38 : 2014/07/03(木) 08:55:29.85 -
こんな感情豊かでマイペースな妹は見たことがない。
00001号も充分マイペースだったが、これほどではなかった。
総体の場合、完全に自分達は置いてけぼりだ。総体「別に貶してるんじゃなくて、褒めてるから怒っちゃやーよ?/escape」
美琴「安心しなさい。怒ってないから」
総体「うそー/backspace。眉間にシワ寄せてるじゃーん/return」
そして割と落ち着いてる自分が一番驚きである。
食蜂「あなたとこの止まってる空間は関係力なさそうだからいいけどお、なんでここに?」
総体「そーそー!/return 聞いて聞いて!/return 上条ちゃんったら私をここに閉じ込めたのよ、あんまりじゃない!?/escape 絶対に将来は束縛するタイプだと思うの/return。
あ、でもでも/backspace。上条ちゃんにだったら束縛されてもいいかもー、歯の浮くようなセリフでもドキッとしちゃうのが惚れた弱みってやつ?/escape いやー嫁候補として、まず物理的に肉体を得ないとと思ってたけど、まさか先に愛情を手に入れちゃうとは私も隅に置けないなー☆/return」うん、誰かこの娘を止めてくれ。
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39 : 2014/07/03(木) 09:01:52.29 -
総体「ところで二人は誰の意志の下、ここへ来たの? 自分の意志で? それとも誰かの意志で?」
食蜂「きっかけはその誰かでも」
美琴「ここに来たのは相当な覚悟な上だから」
総体「うんうん/return。それでこそ強敵、『過去を見る権利』がある/return」
美琴「あの子……円周も当麻のこと知ってるの———」
総体「あーっっ!!!!/return ひょっとしてあの『泥棒猫』のことか!/return もーねえ、ぶっちゃけみさきちよりあの子の方が『泥棒猫』な気がしてならないわよ!/return なにあのポッと出のくせに上条ちゃんの隣に座ったり、大事な“役目”を背負わされたりっ!!/return ずーるーいー、私も座りたいけど我慢してるのにあんちくしょうったら———」
しばらくお待ちください。
総体「とにかくムカつくの/return。お姉様みたいに雷で勝負挑んでやろうかってくらいプリプリしてる訳/return」
食蜂「御坂さん」
美琴「あによ」
食蜂「どうやら私、読解力だけじゃなくて記憶力もないみたい」
美琴「要は困ってるのね。大丈夫、私も八割は聞いてなかったから」
総体「なにそれ二人してー/return。上条ちゃんなら可愛いから屁理屈の一つぐらいは返してきてくれるのに/return」
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40 : 2014/07/03(木) 09:05:31.94 -
さっきから話が進まない。
立っているのも疲れてきた。
こんなファミレスでするような話をしにきた訳でもないのだ。美琴「……で、妹が一人増えようが驚きはないんだけど」
総体「それはそれで悲しいですなあ/return」
美琴「当麻に閉じこめられたってどういうこと?」
総体「そこ突いちゃう?/escape やだなー、上手にかわしたと思ってたのにぃ……/return」
食蜂「どうなの?」
総体「閉じこめられたってのは言い過ぎだけど/backspace。お願いはされたかな、記憶を覗こうとするヤツらを追い払ってくれって/return」
彼女は今も中に浮く光の玉を見つめる。
サッカーボールぐらいのある光を、どういう原理かは判らないが手の平まで近寄せる。総体「見たい?/escape」
食蜂「追い払うんじゃなかったかしらあ?」
総体「追い払ってほしいの?/escape」
美琴「こら。そんなことをやってる場合じゃないでしょ」
総体「んふふー/return。うそうそ/backspace。つーか、追い払う気なら見つけた時点で追い払ってるし/return」
少女は二人を見据える。
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41 : 2014/07/03(木) 09:15:10.60 -
総体「意固地になってる上条ちゃんには悪いけど、お姉様の頼みとあらば断れないからね/return」
光の玉がふよふよと二人の下まで近付いてきた。
そして、まばゆい光が美琴と食蜂を包んでいく。総体「上条ちゃん、そろそろ少しは弱くなったっていいんじゃないかと私は思うよ/return。大切なものだから護りたい気持ちは汲むけど、上条ちゃんは上条ちゃんを護りたいと踏み込んでくるあの子達の気持ちまで汲めるようにならないとねー/return」
誰もいなくなった空間で静かにつぶやき、彼女は子供のように無邪気に笑った。
総体「バカにはできないさ/return。誰かと一緒に傷つくなら、もうそれは傷なんかじゃなくて、価値があるものに変わってるよ/return。
あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!/return こういうこと言ってると上条ちゃんに叱られちゃうなー☆/return」
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52 : 2014/07/19(土) 21:49:32.80 -
上条「んー……どうも着慣れないな……」
洗面所の鏡の前で自分の学ラン姿をチェックする上条が居た。
身長もやや低く、どこか幼い顔立ちが窺えた。
彼は襟を整えてみては何度も唸る。
進学ともあってイメチェンしてみようと意気込んだが、そういうのに疎いのでワックスをどう扱っていいか判らない。
とりあえずツンツンにしてみた。良いのか悪いのかすらあやふやだ。人生初となる制服もまた同じ。今まで私服だったので新鮮味は感じるけども違和感がある。
でもまあ着たばっかだから仕方ねえか、と心の中でつぶやいた。上条「それにしても、まだ片付かないよなぁ」
リビングに戻り、部屋を見渡す。
ベッドやテーブルなど大きな家具は既に配置してある。
細々とした小さい家具は部屋の端に詰めてあるダンボールの中だ。
この量の荷物を中学生になりたての男子学生一人でやるのは些か重労働ではないか。
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53 : 2014/07/19(土) 21:57:05.14 -
上条当麻。中学一年生である。始業式も終え、授業が始まるのだ。
小学校から中学校にあがるに従って、一人暮らし兼用の学生寮生活をすることに。
おそらく自立化を目的なんだろうが上条当麻はそんなの知ったことではない。上条「あ、やっば! 早く行かねえと遅刻する!」
と彼は言うが、普通に行けば時間は全然間に合う。
“普通”に行けばの話である。
忘れることなかれ。彼は不幸体質の持ち主だ。
この体質がそう簡単に学校へ行かせてくれるとは思えない。それに『あの子』も待ってるかもしれなかった。
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54 : 2014/07/19(土) 22:00:56.96 -
上条「みこっちゃーん!」
第七学区の公園。少女はそこに居た。
小学生の時はいつもここから一緒に登校していた。御坂美琴。現在小学五年生である。
ランドセルではなく、手さげカバンを持つ姿は低学年だった頃とは少し違った印象をもたらしてくれた。
背伸びしたくなる年頃なのだろう。
自分も髪型に興味を持ち始めたのが高学年の時期だった。上条「ランドセルじゃないじゃん」
美琴「ダメ?」
上条「なんか変」
美琴「えーっ、いいじゃないべつに! 私も五年生になったんだし、それにほら、可愛いでしょ?」
手さげカバンにはお馴染みのゲコ太がプリントされていた。
成長はしたものの、この子の可愛い物とゲコ太好きは変わらないようだ。
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55 : 2014/07/19(土) 22:03:58.93 -
いくつか会話を交わし、二人は歩き出す。途中の道まで一緒に行く約束を卒業式にしたのだ。
中学という新しい領域に踏み出すことにワクワク感が止まらないが、美琴に簡単に会えなくなる寂しさももちろんあった。
上条にベッタリであった美琴が何よりも心配で仕方がなかった。
ただ学校が違うだけで遠くなったように感じるのは、それだけ上条も美琴に甘えていた部分があるのだろう。
依存というよりも、名残惜しいものがある。しかし、上条はその感情に気付けない。
彼はまだ若い。少女もまだ若い。知れというのは酷なものだろう。美琴「中学校ってどう? 楽しい?」
上条「んー、あんま変わんねえだろ。むしろ一人暮らしがうまくやってけるかどうかが不安だ……」
美琴「家、遊びに行ってもいいよね?」
上条「ああいいぞ。でも今は荷物まだ片付けてないから、終わってからな?」
美琴「なら私も手伝う」
上条「いやいや、重い物もあるし量も相当あって大変だからいい———」
美琴「手伝う!」
上条「お、おぉ。わかったわかったよ。じゃあまた日を合わせような?」
頑固な所も変わっていなくて、上条は安心した。
何だかんだでドコか不安だったのかもしれない。
それは中学校という未知の領域であり、美琴と離れることもあるだろう。
本人は気にしなくても、無意識の内に気にしていたりするのだ。
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56 : 2014/07/19(土) 22:08:43.58 -
……人は変われずにはいられない。漫画にこんなセリフがあったのを思い出す。
今の上条ならこのセリフの意味をひしひしと伝わるであろう。
時が経てば身の回りどころか、文化ですら変わっていく。
不変なものを探す方が大変だ。
永遠なんて言葉は幻想であり、幻であり、まやかしだ。高校生の上条ならば、らしい答えを導き出したかもしれないが、今の彼はそんな先の難しいことすら思いもしない。
今を生きて、『何も知らず』に、中学生に進学してしまったのだから。上条「俺はこっちだから、ここでお別れだな」
美琴「うん。また……放課後?」
上条「おう。ていっても昼までだろうし、ご飯食ってから連絡入れるよ」
美琴「一緒に食べないの?」
上条「そこは友達と食べとけって。せっかく新しいクラスになったんだしさ」
美琴「むぅ、はーい。わかったわよ」
二人はお互いに手を振り合って別れる。
御坂美琴は思いもしなかった。
想像もしなかったはずだ。
考えすらしなかっただろう。変化は唐突にやってくる。
何の前触れもなく、それは起こるのだ。御坂美琴。この日この会話を境に上条当麻を見失ってしまうことを。
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57 : 2014/07/19(土) 22:12:20.90 -
———————————————
午前授業が過ぎた。
ホームルームを終えた学生達は教室に残って喋ったり、部活を見学する人や運動場で遊ぶ人、帰ってる人で分かれている。
授業初日とあってか、サッパリした感じで終わった。上条はおとなしく帰路につこうか悩んでいた。
今から帰って昼ご飯を作るってのも億劫だ。
どうせこの後は美琴と公園で待ち合わせだし、わざわざ家に帰るのも考えものである。
それに確か帰り道にホットドックを売ってる店があったはずだ。
買い食いで済ました方が楽であろう。方向性は決まった。なら本能に従おう。
上条「……ん?」
その途中、顔見知りの人物が木の陰に隠れてこちらを窺っていた。
少女にしてみれば完全に隠れてるのかもしれないが、丸見えである。 -
58 : 2014/07/19(土) 22:13:41.44 -
どうやら自分に能力が効かないのを不満に思ってるらしく、行く先々を警戒に満ちた目で睨みながら付いてきていた。
しかし、構ってやるとそれはそれで満更でもなさそうな態度を取る。
ツンデレというやつなのかもしれない。食蜂「……」
上条「みさきち、なにやってんだ?」
声をかけるとビクッと飛び跳ね、ロボットのようなぎこちない動きで出てきた。
少女とは低学年からの付き合いだが学校は別である。
その頃から食蜂はランドセルではなく肩から掛けたバッグだった。食蜂「なんにもないし。歩いてたらあなたがいて、面白そうだからついてきただけよお」
上条「はいはい。今日も美琴がいるけどそれでも来るか?」
食蜂「……厄介力が高めね。ていうより、私はそこまでして行く理由はないわあ」
上条(と言いつつ俺の隣に来るみさきち。素直じゃねえなー)
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59 : 2014/07/19(土) 22:16:19.28 -
上条は少し歩くスピードを緩める。食蜂との歩幅の差を埋めるためだ。
横に並ぶ少女はどこか嬉しそうに見える。何故だろう。そういうのに疎い彼にとって、少女の感情を理解するにはまだ時間が必要なようだ。
上条「そういや学校の方はどうだ? 新学期だろ?」
食蜂「……どうかしらねえ。結局、関係力のリセットしただけだもの」
上条「おいなんか小学生が言うセリフじゃない気がしますよ」
食蜂「ふん。私の勝手でしょ」
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60 : 2014/07/19(土) 22:19:58.54 -
どれくらい話したろうか、たくさん喋った気がした。
ホットドック屋が見える手前で食蜂とは別れた。
今日は彼女も予定が詰まっているらしい。
逆を読めば気忙しくなってでも会いに来てくれた裏返しにも繋がるが、上条はもちろん気付かない。そして食蜂はそれを否定する。
この際どっちもどっちだ。上条「……あれ?」
道を曲がったところで『工事中通行禁止』との看板が立ててあった。
朝通った時にこんな看板あったっけな? と疑問を抱きながら、しぶしぶ遠回りの道を選ぶ。
時間はあるが、ゆっくりしていたら美琴から連絡がきてしまう。
あまり待たせたくはないのが本音だ。
自然と上条の歩くスピードは速くなった。……のはずだが。
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61 : 2014/07/19(土) 22:22:03.59 -
上条「どうなってるんだ……?」
道を行けば車が立ち往生し、路地裏に踏み込めば物が山積みで通れない。
どこに行っても必ず何かで道をふさがれて、ますます目的の所から遠ざかっていく。
遠回りに遠回りを繰り返した挙げ句、見覚えのない道へと出てしまった。
もはや当初の目的は忘れ、知っている道を探す方へ変わっている。辺りをキョロキョロ見回しながら歩いていると、大通りへと出た。
そこには大きなビルが佇んでいた。しかし、ビルと呼んでいいものか判らない。
何故なら窓がない。入り口も出口もない。
皆は『窓のないビル』と呼んでいたが、それが正しい呼び名ではないような気がした。上条「ここに出たのか。でも、もう時間がないなあ。昼抜きになるけど仕方ねえか……あー不幸だ」
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63 : 2014/07/19(土) 22:28:59.62 -
音もなく現れた『人間』に上条は一瞬警戒したが、すぐにそれは解かれた。
知っている人物だったからだ。いや、知っているどころか学園都市を入るキッカケを与えてくれた人物である。何やら統括理事長を務めるらしいが詳しいことは判らない。
きっと聞いても一割も理解できないと思う。
そういう難しい話をできる年頃でもなかった。上条「おー! 久しぶり! もう何年も会ってなかったから、こんな所で会えるなんて思わなかったぞ」
アレイスター「すまないな。こちらも仕事に追われる日々だったのでね、顔を会わせずにいたよ」
上条「いやいや、全然大丈夫ですよ。お陰で上条さんは今日も元気に過ごせてます」
アレイスター「それは何よりだ。ところで、話があるんだがいいかい?」
上条「話? あー……少しだけなら」
アレイスター「ふむ、時間を懸念するか。ならば考慮しよう。君は時間を必要とし、私は場所を必要とする」
スッと手を前に出す。
突如、その手に一本のねじくれた銀の杖が出現した。アレイスター「両方を兼ねよう。一時的ではあるが時間を停止させ、そして場所を移そう」
上条「……え、時間を、いやそれよりも、もし異能を使うなら多分上条さんには効かないと思いますよ?」
アレイスター「気に病むことはない。その能力の特性は把握してあるよ。月並みな方法で駄目なら、多少荒い方法を取らせてもらう」
そのまま『人間』は杖の底の部分で地面を二回続けて打つ。
トントン、と。
音は波紋のように広がり、響き渡り、“世界を塗り替えた”。
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64 : 2014/07/19(土) 22:31:16.25 -
気が付けば景色ががらりと変わっていた。
ここはドコだ。「部屋」と呼ぶには言い難いほどの広大な空間である。
しかしそれにしてはドアや階段、エレベーターと通路すらないところ。
唯一存在するのは、中央に床から天井まで繋がってそびえ立つ、培養液で満たされた巨大なビーカーだった。その中に『人間』は逆さまに浮かんでいた。
上条「え、ええええええええええええっっっ!!!? ななななにが起きたんだ!?」
狼狽える上条を放って置いて、アレイスターはようやく落ち着いたと一息つく。
感情の読めない瞳に上条を映す。アレイスター「これでゆっくりと話が出来る。ああ、君の疑問を先に解決しておこうか。なに単純な話だ。右手で動けないのなら、私達以外を『動かした』まで」
上条「いやいやいやいやいや……」
アレイスター「強引なやり方ではあるがね。さて……どこから話していこうか」
上条「こっちのことは無視ですかいいよもう! で! それぐらい大事な話があるんだろうな!?」
アレイスター「あるとも。君にとっても……御坂美琴にとっても」
その名前が出てきて、上条はピタリと止まり驚愕した。
何故、あの少女が関係してくる?
これは自分の話ではないのか? -
65 : 2014/07/19(土) 22:34:08.23 -
アレイスター「君にとって最も影響を与える人物を選ばさせてもらった。しかし、これは御坂美琴に限らず、必然的に君の周りにいる人間全員が関わってくるだろうな」
上条「どういう……?」
アレイスター「今は判らなくても、いつか判る。すぐに判るものでもないさ。君なら尚更、腑に落ちないと頑なになる」
上条「わけ、判んねえよ」
アレイスター「だから納得してもらうためにこうして『時間』と『場所』を用意したのだよ」
ふむ、とアレイスターは二本の指を顎に添える。
何から説明したものかと、悩んでいるようにも見えた。
混乱状態であろう上条に時間を与えているだけかもしれない。何も言葉を発しない上条を見て、『人間』は滑らかに話し出す。
アレイスター「まずは質問形式にいこう。君は曲がったことは嫌いかね?」
上条「……曲がったことがどんなのか判ってねえけど、でも、理不尽なことは好きじゃない」
アレイスター「好きじゃない、と。では目の前にしてしまったらどうする? そうだね、例えるなら『女性一人に対して大勢の男性が取り囲む』。場所は路地裏だ。君はその現場を目撃してしまった」
上条「なんとかして助けるよ。殴り合いじゃなくても、標的が俺に移っちまえばいいだけだから」
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66 : 2014/07/19(土) 22:45:27.25 -
アレイスター「なるほど。らしい判断だ。君は何事にも『放ってはおけない性格』をしている」上条「結果的にそうなっちまうな、うん」
アレイスター「では新たな質問をしよう。君はその“先”を見据えているか?」
上条「先……?」
アレイスター「ああ。何を生むと思うかね、戦いの果てに」
上条「そんなの、考えたこともない。俺は自分勝手なヤツだから、あっちは頼んでもいねえのに俺が勝手に気にくわないと感じたから動いてるだけだ」
アレイスター「卑下することはない。ただ、今は何とかなってるが、今後……必ず“甘さ”は君に牙を剥くだろうね」
上条「……」
アレイスター「答えを言っていなかったか。明快さ、戦いの規模が増す。極端なこと言えば路地裏の喧嘩だったものが、国と国との戦争に発展する可能性も———」
上条「ちょ、まっ、待ってくれ!!」
アレイスター「なにかな?」
上条「ありえねえから! いくらなんでもねえよそれは!!」
アレイスター「ほう? 何故言い切れる? その根拠は一体どこにある?」
上条「むしろどこをどうやったらそんな風に発展するんだよ!!」
アレイスター「私は可能性の話をしているのだがな。必ず、とは言っていないぞ。ではスケールを小さくしようか。『殴り合いから殺し合い』だとどうだろう? ありふれた話じゃないか?」
上条「まぁ、うん」
アレイスター「過程の長さが違うだけで、規模は変わっていく。ならば、戦争に発展も無きにしもあらずだろう」
上条「う……否定しづらいですよ……」
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67 : 2014/07/19(土) 22:51:22.36 -
アレイスター「本題はここからさ。君は人助けをしてしまってる訳だが、果たして良かったのか?」上条「良いも悪いもないですよそれは。俺がそうしたかったからそうなっただけです」
アレイスター「なら、君がある事件の渦中に巻き込まれたとする。そこに御坂美琴が介入してきても仕方がないね」
上条「……え? なんで美琴が」
アレイスター「あの子の性格は君がよく判っているのではないか? もし、君の身に危険が迫ると知れば一目散に駆けつけてくるだろう」
上条「……」
アレイスター「そしてこれは御坂美琴に限ったことではないと断言しよう。判るかい? これから先、“今までのようにはいかない”ということを。
君が正しい正しくないかはもはや関係ない。自然と脅威は君に干渉する者達も含まれてくる。何故か? 簡単な話さ。君を討つ側の人間は『勝てればそれでいい』のだから」上条「もういい」
アレイスター「……」
上条「言いたいことはわかった。アンタは俺になにを求めてんだ?」
アレイスター「君にチカラを付けてほしい」
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68 : 2014/07/19(土) 23:03:36.22 -
上条「チカラ……?」アレイスター「勘違いだけはしてくれるな。私は君にこんな憎まれ口を言いたい訳ではない。……一人の『友』として、君が壊れる前に、必ず護ってもらいたい」
上条「……」
アレイスター「その経験を培う為ならば『場』を、そして『状況』を用意しよう」
上条「心のどこかで感じてはいた。俺は自分のために拳を握って、人を傷つけて傷つけられてきた。でも……誰かを護るためにやってきたことじゃない」
アレイスター「護ってくれたと思う人間もいるのでは?」
上条「だとしても、俺自身そうじゃないから『護るやり方』を知らない」
アレイスター「君も強情だな。さて、これを受けるなら苦しいものとなる。それでも君はやるかね?」
上条「やるよ。……最後に、名前を教えてくれ。昔のことだから忘れちまってさ、すまん」
アレイスター「———アレイスター=クロウリー。取るに足りない『人間』さ」
上条「ありがとう。覚えておく」
アレイスター「ああ。君がもし、またここへやってくることがあるとするなら、楽しみにしていよう」
上条「必ず戻る。これだけは曲げてやらねえから」
アレイスター「……信じているよ。君のその言葉を」
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79 : 2014/07/29(火) 23:32:18.63 -
上条「ん、ぐ……ここは……?」
いつ眠ったのか。
いつ仰向けに倒れていたのか。
判らないまま上条は目を覚ました。
全身に痛みを感じつつ、上体を起こす。
地面だ。地面の上で倒れてたのだ。ここがドコだか把握するために辺りを見回すと、そこには見たことのない景色があった。
広さにして学校の体育館ほどで、平地だが雑草が生えている。
人の手によって整えられたような印象を受けた。
この平地以外はメートル単位で伸びきった雑草や木で埋め尽くしていた。
それこそ本当に人の手が加えられていなく、森林というより原生林の方が近い。
-
81 : 2014/07/29(火) 23:40:27.66 -
あれからどうなったのだろう。
どのタイミングで眠らされたのか判らないし、どんな試練が待ち受けているのかも判らない。……けど、
上条「なんか、想像と違ったな。もっとこう、研究施設みたいなトコで特訓みたいなのかなと思ってたんだけど」
「お待たせいたしました」
その時、男の声が響いた。
声のした方へ振り向くと本人であろう人間が立っていた。
しかし上条には、どうも不気味に見受けられる。
真っ白な仮面を被って素顔を隠すそれも充分怪しいが、この男そのものに何か妙な感じがする。「早速『ゲーム』にご参加の皆様にルールを設けさせていただきます」
「ルールだと?」
参加者であろう人間が疑問をぶつけた。
納得がいかないのか、彼は眉をひそめている。 -
88 : 2014/07/30(水) 00:05:36.81 -
背中から声をかけられた。
突き刺さるようなトゲのある言葉だった。顔だけ振り向くと、目つきが鋭い、黒髪の若い男性が立っていた。
服装は黒いタンクトップに迷彩柄のズボン。
軍や警備員に属していそうな感じである。「一人か」
上条「……そう、ですけど」
「ついて来い」
それだけを言うと背を向けて勝手に歩き出した。
あまりにも唐突すぎるため、上条は理解が追いつかない。
キョトン、とマヌケ面を晒してしまうほどに。「なにをしてやがる! 早く来い!」
上条「うぇあはい!?」
怒声が飛びかかってきた。
上条は反射で駆け出して後を追う。
付いて来てると判断した男は、止めていた足を再び動かせる。 -
89 : 2014/07/30(水) 00:10:01.49 -
原生林に差しかかったところで木にもたれている少女と遭遇した。「たいちょー! その子ですカ? さっき言ってたのって」
少女は外国の血をひいているのか、口調は何だかたどたどしい。
肩までの金髪に碧眼。
跳ねるように上条へ近付き、じろじろとくまなく眺めてきた。思わず立ち止まって一歩たじろいてしまった。
上条「な、なんでせうか……?」
「んー? いやぁ、珍しいから見ておこうと思ってネ」
上条「はあ。なにが珍しいんだ?」
「たいちょーが自ら声をかけに行くなんてと思ってさ。でも、うんうん! 納得かも!」
寡黙で無情な彼とは違って、無邪気な様子でニシシと笑ってみせる。
自分のことを棚に上げるようであれだが、この少女も充分『あの場』では浮いた存在だろう。
居づらくはなかったのか、そんなマイナス思考を中断させるかのように男の方から言葉が飛んできた。 -
90 : 2014/07/30(水) 00:13:02.15 -
「貴様ら、突っ立ってんじゃねぇよ」
「まあまあ。時間はありますし、のんびりといきましょうぜ?」
「やれることは限られてる。無駄なロスは避けていきてぇんだ」
「判ってるってー。ほら、君も。一緒に行こう?」
促される形で連行される上条は不満げな顔だった。
見た目通りそのまんまの愚痴をこぼす。上条「……何故だろう。最近俺の意志が無視されてる気がしますよ」
頭をがしがし掻きながら二人に付いていく。
……正直な所、状況が二転三転も変わってるので軽くパニックに陥ってもオカシくはなかった。
こんな異質な空気が漂うなかで平常心を保っていられるほど、自分は強くない。
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92 : 2014/07/30(水) 00:23:05.11 -
「『心』をねじ曲げてまで、この状況を納得するな。代わりに覚えておけ。さっき見たのは夢や幻想でもない、現実であることをな」
“さっき”。
あれが現実。チカラなき者は崩れ、チカラある者が残っていく。
確かにそうかもしれない。けど、素直に受け入れられるはずもない。「腑に落ちないか」
上条「……まあ、はい」
「それでいい。何故いいかどうかは、貴様自身で考えろ」
これ以上は何も告げなかった。
考えるのは簡単だが、答えを見いだせるか見いだせないかは本人次第だ。
それでも尚、彼は任せるというのか?「大丈夫でス」
何が大丈夫なんだと言いたかったが、少女の屈託のない笑顔に言葉を飲み込む。
会ってまだ五分経つか経ってないかの人間に何が言えるのだろう。
知っても上っ面な部分だけではないか。……それなのに目の前の少女は、そして前を歩く男は、根拠を持った顔で言ってくるのだ。
「私とたいちょーが選んだから間違いないの」
上条はまだ、動揺していた。
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113 : 2014/08/17(日) 22:15:08.19 -
上条「ぷはぁっ、あー冷たくて気持ちいい……」
川で顔を洗っている上条の姿があった。
どれくらい時間が経っただろうか? 二人について行き、活動の拠点となる場所を決めてから随分時間が過ぎた気がする。まず最初に始めたのは服装を動きやすくすることだった。
上は学ランを脱いでシャツ一枚、下はそのままで大丈夫らしい。
次に始まったのは、ひたすら修行とも言える実戦の訓練である。
やはり特別な所に所属していたのか、隊長と言う男は精通した知識と確かな実力を持っていた。
合間に十五分の休憩を入れ、また長い訓練が開始される。これの繰り返しだ。今のところ黙って従っているが……果たして何の意味があるのだろうか?
疑問に思い始めたら気になって仕方なくなるのが人間の性だ。
これでは集中に欠ける。「気分はどうだ?」
と。背中から彼の声が聞こえた。
投げた疑問は自分へよるものだろう。
もう一人の少女は確か寝床を作る作業に取りかかっているから。
-
114 : 2014/08/17(日) 22:19:30.59 -
上条は濡れた前髪を掻き上げながら、上条「大丈夫、かな。こう見えて俺、体力はある方なんで」
「見れば判る。走る時のフォームに無駄が目立つが、走り方は慣れているように感じる。つまり、理由はさておいて普段から走ることがあるということだ」
上条「うへぇ、そんなことまで判っちゃうのか」
「自然と体が疲れないやり方を身に付けたんだろ。けど、俺が貴様に聞きたいのはそこじゃない」
意図が判らず、首をかしげる。
「なに。そろそろ疑問に思う頃だろうとな。今やってることの『意味』について」
上条「……っ」
言葉が、詰まった。
今まさに疑問に思っていた時だった。
この人と居るようになってから、見透かされてばかりな気がする。
そんなに判りやすいのか?「ここらで聞いておこう。貴様がこの“下らない遊び”に参加した目的はなんだ?」
誤魔化しは通用しない瞳をしていた。
-
115 : 2014/08/17(日) 22:22:11.83 -
自らこのゲームを“下らない”と言うことは、彼も自覚はあるってことか。
イカレた連中、イカレた感覚を持つ連中と同じ空間にいることに。上条「強くなりたいって思ったんだ。一番なんて望まないし、誰よりも強くなりたいとも思わないけど」
「……けど?」
上条「誰かを護るために強くなりたい。結果的にじゃなくて、きちんとこの手で護ってみせたい」
何で、こんなことを吐いてるのだろう。
言うつもりなんて更々なかったのに。
言ってどうこうできる問題でもないのに。けど———この人ならどう返してくるか気になってしまった。
他の参加者よりも、先を見据えていそうなこの人なら『道』を見出してくれるかもしれなかったから。
-
116 : 2014/08/17(日) 22:25:20.03 -
「護る、か……」
上条「はい」
「どうしてほしい? 崖から蹴落とされるか、手を差し伸べてもらえるか。……いや、ここは『戦場』だったな」
上条「……」
「簡潔に言おう。“無理”だ」
上条の心の中で、動揺が走る。
否定的な返答は予想していたものの、これほどのダメージ負うのか。「何故、無理だと思う?」
上条「そ、それは、えっと……チカラがないからとか?」
「チカラがあっても、護れないヤツもいる」
上条「経験とか? それとも体格とか武器とか」
「はぁ……。来い、その身に叩き込んでやる」
隊長と呼ばれる男は構えを取った。
先ほどの訓練でずっと見てきた彼特有の戦闘態勢だ。腰を据え、片足を一歩退き、両手に拳を作る。
油断してはならない。
それは本命であり、フェイントでもある。
-
117 : 2014/08/17(日) 22:31:19.98 -
「言っとくが、この一戦だけは甘さを捨てる」
上条「んなの……判ってるッ!」
彼相手に隙を衝けたことは一度もない。
どう足掻いても捌かれ、圧倒的差をつけられて終わる。
けれど、何戦も繰り返していればパターンが判ってきたのだ。上条(チャンスは一回、逃すわけにはいきませんのことよ!!)
頬を狙って拳を放つ。
男は払う訳でもいなしたりもせず、首を横に逸らしてかわした。
冷静だ。それ故に攻撃に転ずる前に叩き込むのが一番だ。
密かに握っていた反対の手で男の腹を打つ!「———遅い」
いとも容易く片手で受け止められ、もう片方の手の平は上条の顔面を捕らえる。
上条「が……っ!?」
上条が本能的に危機回避行動として、男と距離を取ろうと後退するも意味がない。
男はその動きを読む。上条の両足の間に引っかけるように踏み込んで、態勢を崩したのだ。
後は流れ作業だろう。鷲掴みしてある顔を地面へ叩きつけた。いつもならこの瞬間で終わりのはずだ。
しかし彼は始める前に言った。甘さは捨てる、と。
「……」
サバイバルナイフが握られていた。
いや、上条がナイフと認識する頃にはもう振りかぶった後だった。
ためらいはない。ナイフはそのまま狙いを定めて振り下ろされる。ザクッ、と突き刺さる音がした。
-
121 : 2014/08/17(日) 22:39:07.63 -
上条「っ」
上条は生きていた。
ナイフは首の真横に斜めから地面を抉っていた。
掠めるか掠めないかギリギリのラインで彼は直撃を免れた。……正確には外されたのだが。
言葉が詰まり、動くことすらままならなかった。
僅か十秒にも満たない間、決着は容易く、そして呆気なく訪れた。
男は変わらない目と口調で、だが呆れたように吐き捨てる。「ふん。貴様の本能的な危機回避行動が功を奏したか。喜べ。まぐれではあるが、本来なら首から血飛沫をあげているところだ」
ナイフを引き抜く。
それ以上は何も告げずに背を向けて立ち上がる。
付着した土をハンカチで拭き取っている彼の背中に上条は、上条「もし、俺が避けなかったら刺してたのか……?」
「さぁな。“もしも”話は不毛でしかない。しかしまぁ、貴様は結果として命拾いしただけのこと」
上条「……」
「聞こうか。貴様はその手で何を護るつもりだ? その迷いのある拳で」
上条「———ッ、だとしても! 踏み越えちゃいけねえ線ってもんがあるだろ!!」
「だから貴様には“無理”だと言った」
ぐっとナイフの切っ先を下に持つように握り直す。
月光に反射する銀の刃は上条を照らし、威嚇を示した。「見ろ。今の貴様なら痛いほど判るはずだ。この『刃』に込められた意志を」
———殺意。
-
124 : 2014/08/17(日) 22:50:20.95 -
———————————————
どうやらこの空間はずっと夜らしい。一向に朝がやってこなかった。
こうも暗いと雰囲気に呑まれてしまいそうになる。
実際、もう手遅れだろう。さっきからマイナス思考が離れない。上条「覚悟……か」
川のせせらぎがせめての癒やしだ。
自問自答を繰り返すもジレンマに陥る今の自分には、『音』は安らぎに近い。覚悟。
人を殺める、覚悟。
責任を背負う、覚悟。そんな簡単に決められるものでもない。
命を奪うなんて……俺に出来るのか?「やはー。何やら落ち込んでいるようだね少年」
チームの少女だった。
この場が戦場だと忘れるくらい、彼女は無邪気で笑顔が絶えない。
何とも脈絡のない発言ばかりで男を困らせている。
ムードメーカーというやつだろう。上条にとって非常に助かる存在だ。
-
125 : 2014/08/17(日) 22:54:08.98 -
上条「ええ、まあ。あの人に痛いところ突かれまして」
「ありゃ。んもー、たいちょーってば不器用なんだから。ごめんネ? やり方荒いから困るでしょ?」
上条「そんなことありませんよ。……今まで目を逸らしてきたツケが今になってきたようなもんですから」
「んー……あれカ、覚悟とかそんな感じの。たいちょーが教えることって、大体判りますから」
隣に腰を下ろす彼女は、これまでの笑顔とは違っていた。
彼の姿を思い出すように目を細め、しょうがないなあ、と笑ってみせた。
それでいて、どこか哀しみが帯びる。「たいちょーと私は長い付き合いになりますし、だからこそあんな気難しい人でも愛着が湧くんでス。
それにたいちょーも、昔は絶対に人を殺めない人間、君と同じだったんですヨ?」上条「……え。本当ですか……?」
「はい! 私はたいちょー率いる『隊』の初期メンバーの一人でしたし」
そう言って、少女は懐から一枚の古びた写真を取り出した。
十人くらいの集合写真のようだ。
真ん中に引っ張り出される形で隊長と呼ぶべき男が居た。
今よりも幾分幼く、若い。
こんな時から隊長という座に就いていたのか、と素直な感想を抱く。
実力はもちろん、人望も厚かったに違いない。
彼を取り巻く隊員を見れば一目瞭然だった。
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126 : 2014/08/17(日) 22:56:16.81 -
「みんな仲良くて、たいちょーもこの時は笑ってました。人情味溢れる、真っ直ぐな人でス」
上条「なら……余計にわからない」
何故変わってしまったのかと、その少ない語彙から思いを伝えた。
どうしてそんな人が、あそこまで感情を削ぎ落としてしまったのだ。伝わったのか、彼女は寂しそうに微笑む。
「色々あったのさ。そう、色々と」
ぴょんと跳ねるように上条の前へ出ると、両手を背中で組んで、見つめてきた。
月に照らされる彼女はどこか儚げに佇み、慈しむように目を細める。上条は言葉が出なかった。
隊長と呼ばれる男に痛いところを突かれて黙ってしまうのとは違う。
彼女の雰囲気そのものに呑まれ、何も言えなくなる。「君の想像もつかない、なにか。また今度話してあげまス。今はまだ早い」
上条「……」
「あ、そだ。私にも聞かせてくれないかな? 君の“目的”」
上条「……誰でもない俺の手で、護りたいやつがいる。いや、護りたい人達がいる」
「うん。良いじゃん。素敵だと思う。私達はダメだったけど、君にならできる。そう私は確信してまス」
満足したのか、彼女は去っていく。
「諦めないで。どんなに過酷な壁に当たっても、君なら必ず乗り越えられると信じてますから」
-
127 : 2014/08/17(日) 23:00:43.00 -
———————————————
残り九六時間。
「だいぶ戦いの呼吸が判ってきたみてぇだな」
上条「何回も繰り返してればバカの上条さんでもさすがに学習しますよ、っと」
「貴様に接近戦で教えることはもう何もねぇ。んじゃ……」
間髪容れずに何かを放り投げてきた。
突然だったので、上条は慌ててしまい落としそうになるが何とかキャッチ。
思った以上の重量感がある鉄の塊———拳銃だった。「扱ったことは?」
上条「あ、あるわけないだろ!」
「そうか? この世界では割りと普通にあるんだがな。無いなら撃ってみろ」
上条「……ゴム弾?」
「わざわざ用意してると?」
ですよね、とがっくりしながら溜息をつく。
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128 : 2014/08/17(日) 23:05:56.55 -
初めて握る拳銃という凶器に、自分はますます“殺める”ことへ近付いた気がして恐くなった。
どれだけ曲がっても、人を殺めることだけは絶対にしたくない。「あそこの木を的にしてみろ」
上条「……」
テキトーに構える。
ドラマや漫画を意識した訳でもない。……が、男は物珍しげにつぶやいた。
「ほー、片手で構えるか」
上条「両手で狙い定めても当たりっこなさそうだし、どうせならもう片方は自由にしときたい」
「ん、肘をあんまり伸ばすな。後は撃つ前は息を止めておけ。貴様のことだ、舌噛むぞ」
ズガン! と銃声が響く。
見事、木のド真ん中に命中した。「才能あるかもな。貴様の意志に反して」
上条「……不幸だ」
「んなら少しリアルにするか」
近くにあったバッグの中から何やら衣服を三着、取り出した。
それぞれ別の木に着せるように掛けていく。
何を意味するのか判らず、首を傾げる。上条「そういや、アンタと特訓してる間、あの女の人見かけないけど……なにしてるの?」
彼は何も言わず、耳を指でトントンと叩く。
これは教えてもらったハンドサインだ。
こちらの動きをバラす言動は良くないとのことで、ゲームが開始したら支障が出るらしい。
確かにもし聞かれていたら危ない。……つまりそれは、上条(今ここにいないのは始まった時のために動いてくれてるって訳か)
ある程度なら、言葉の裏読みができるようになってきた。
七二時間は無駄ではない。順調に上条には成果が見られてきている。「準備できたぞ」
言われて男の方を見て———息を飲む。
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130 : 2014/08/17(日) 23:11:47.29 -
上条「あ……」
端にある女子学生服に見覚えがあった。
あれは確か、常盤台中学の制服のはず。
ほんのつい最近にあの服を見る機会があった。『ねぇねぇ、わたし、中学は常盤台にしようと思うんだけど……どう?』
そう言って雑誌を見せてきた幼馴染みの少女。まだ鮮明に思い出せる。
否定されたらどうしようという不安の瞳を覗かせ。
肯定であってほしいと願う少女の顔色が窺える。
多少の事なら自分の道は自分で決めていった少女が、珍しく聞いてきたのを今でも覚えていた。
常盤台はお嬢様学校で有名であるし、少女の一番の心配はこの学校は『学舎の園』と呼ばれる敷地内にあるからだろう。
もちろん外に行って会いに来る事も可能だが、時間は極端に減る。
それでも少女の意志で常盤台に通うのを望んでいるなら、と了承した。だからあの子が制服を着たところを想像した事もあれば、一番に見せると約束さえ結んだ。
上条「……ッ」
目を固く閉じる。
視界を塞げば多少はこの感情もおさまるかと思ったが、逆効果のようだ。
想像力を膨らませてしまいますます掻き立てられる。ギリ……ッ、と奥歯を噛みしめた。
男はもう何も言ってこなかった。自分がぐちゃぐちゃになっているのを見越してだろう。
それはありがたいのかすら、今は判らない。というか曖昧だった。
「放って置いてくれ」は間違いなく本音で、「何か気を紛らしてほしい」も本音だ。いや、そもそもの話をする。
まずあの子を撃つなんてありえない。
例え違う学生の子だとしても変わらない。
可能性はゼロだ。万が一もない。
状況に応じて拳を握る事はあっても、決して銃を向ける事は絶対に……。「……」
結局、それ以降、銃声は鳴り響かなかった。
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131 : 2014/08/17(日) 23:18:45.90 -
———————————————
タイムリミットまで残り僅かのところで、彼はようやく己の在り方について考える。
元々は強くなるために要求を受け入れ“ココ”へやってきた。
実際、強くなったのか?
肉体的にならば当初と比べて筋肉は付いたし、体が慣れてきたのか細かい動きも身軽にこなせられる。
しかし、アレイスターが言いたいのはそういう事ではないのだろう。
だとするならば、この疑問は解けない。強くなったかどうかなんて自分じゃ判りっこないのだから。自分にとって大事な物を捨ててまで大切な人達を護るのか、自分にとって大事な物を護って大切な人達を傷つけるのか。
何て酷い矛盾なのだろう。
両方とも失いたくないと思うのは、綺麗事で済まされてしまうのだろう。こっちの方が楽なんて選択はない。
どちらも等しく険しい道だろう。上条「……」
『強さ』とは何なのか。
『護る』とはどういうことなのか。
覚悟を決めることに繋がるのか。
あの男のように感情を削ぎ落とすことなのか。
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132 : 2014/08/17(日) 23:21:50.21 -
上条「そういえば……」
彼も、昔は人情味溢れる男だと聞いた。
人を殺めることを良しとしない人間だったと。
今では考えられない。過程がもちろんある。どんな理由だとかまわない。
純粋に思う。上条「知りたい、な」
「おやおや、知りたくなっちゃいました?」
ひょこっと。いつの間に忍び寄ったのか、背中から少女の顔が覗いてきた。
思わず驚いて飛び跳ねてしまった。
してやったり、と小悪魔じみた笑みを浮かべる少女。
こういう悪戯には慣れているはずなのに、今はそんな気分ではなかった。「ふむー。どうやら前より落ち込んでるみたいでス」
上条の様子を察したのか、親指と人差し指を顎に添えて唸った。
上条「あの……」
「いいよ」
嫌な顔を一つもせずにあっさり彼女は微笑みながら答えた。
自分で聞いといてなんだが、申し訳なくなってきた。ためらっていると、またもや笑われた。
何て返せばいいか判らず、困ったように頬を掻く。ひとしきり笑った後に彼女は静かに語り始めた。
「どこから話しましょうカ……。私達の部隊はみんなの悩みや相談事を『依頼』って形で活動していました。言わばボランティアってやつでス」
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143 : 2014/08/18(月) 00:21:05.34 -
———————————————
「始まるぞ」
「君は準備できてますカ?」
上条「は……はい! 今終えました!」
「気を抜くな。特訓と実践では訳が違う。一瞬の油断も命取りに繋がる」
上条「わかってますよ。上条さんの体に叩き込まれてますから」
「ふん。決して驕るな。……そろそろだ」
「あいあいさー!」
上条(……始まるんだな。本当の意味で)
『カウントがゼロとなりました』
———ゲームスタート。
-
165 : 2014/08/30(土) 21:54:12.81 -
垣根「……」
垣根帝督は壁に背中を預け、ボーっと目の前の壁を眺めていた。
近くの長イスには浜面が横たわっている。物音一つなかった院内だったが、もぞもぞと衣服が擦れる音がした。
すぐに男の呻き声が聞こえてきた。
垣根は声の持ち主が誰だか既に判っている。垣根「起きたか」
浜面「いつッ……ここは?」
垣根「病院だ。リーダーを治療してもらうためにな」
浜面「あの男は、どうなったんだ?」
垣根「今も学園都市のどっかにいる。俺らが動くのを待ってるんだとよ」
浜面「そういうことか……一方通行は?」
垣根「ん」
くいっと顎で示した。
浜面はその方へ顔を向ける。
十メートル以上先の長イスに———白いのが二つ並んでいた。 -
173 : 2014/09/13(土) 20:58:57.81 -
上条「え、えーと……もう少し隠れて移動したりしないのでせうか?」
「普通ならそうだ」
あっさりと、隊長と呼ばれる男は認めた。
「俺なら間違いなく撃ってる。けど、心配は要らんし、そうも言ってられないんだ」
「何せ時間勝負ですからね」
上条「時間勝負?」
「ああ。さっさとこのフロアから抜け出す通路を探さないと不利になる」
いくら気が狂ってる連中だと言え、自らの敗北を望んで動くような事はしない。
確実にゴールするためには頭を使う必要がある。
初っ端に殺された大男みたいな本能的に行動をする単細胞は何も考えないだろう。
結果、呆気なく大男は殺された。
そう。このゲームは先を読まなくてはならない。
読んで尚、どの参加者よりも先手を打った者がゴールへ限りなく近付く。
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174 : 2014/09/13(土) 21:01:58.38 -
そして今の場合。誰もが守りに徹し、敵の様子を窺う事から始める。
のこのこと出て来た敵を撃つのがセオリーだ。上条「……」
「だから心配すんなって。現にまだ生きてる」
上条「まだって、おい!」
「簡単な話でス。殺さずに泳がせて、出口を見つけてもらおうって考え」
勝てれば何でもいい、のがこのゲームに参加する者の考えだ。
例えそれがどんなに狡い方法だろうと関係ない。裏を読んだもの勝ちだ。
つまり彼らは泳がせてくれるのを逆手に取り、誰よりも早くこのフロアから抜け出そう、との事らしい。上条「てことは、もう判ってるんだな」
「そーゆーことでス!」
着いたところは、上条がこのフロアで眠っていた場所であり、目覚めた場所。
参加者が全員集まった平地だった。
思わず上条は目が点になる。上条「ここに……? 『上』に繋がる階段らしきものはないのに、どうしてここなんだ?」
「確かに『上』を目指せと言っていたな。しかし“ゴールが『上』にある”と言っただけで、何も“上の階に繋がる階段がある”とは言ってねぇ」
上条「まさか」
「そのまさかだったりして♪」
既に位置は特定してある、と言わんばかりに何の迷いも見せずに歩いていく。
上条も戸惑いながら彼らの後ろを追う。
狙われてやしないか等と懸念するが、肝心の彼らがこんな調子じゃあどうしようもない。 -
175 : 2014/09/13(土) 21:05:00.10 -
「怪しいとは思っていた」
ある程度まで進み、しゃがみこんだ。
静かに語り始める。「仮面の男と『バケモノ』はどうやって消えた? きっと空間移動か次元移動か、能力者だったと踏んでいい。けど、もっと重要な見落としがあるんだ」
上条「見落とし……?」
「“どこ”に消えた?」
上条はハッとする。
そうだ。能力者だったとして、空間移動や次元移動を使うには座標を決めなければならない。
ここがどこか判らなくても、学園都市内のどこかなのは間違いないのだ。
『突如目の前から人が消える』なんて非科学的な現象はすべて能力の一言で解決できる。
あくまで論理的に。それ故に移動する座標は必要になる。つまりそれは、
「このフロアの広さは計り知れない。しかもそのほとんどが緑で覆われている。その中に隠し、そして見つけ出すのはさぞ困難を極めるだろうな」
「疑問が一つ。それって観戦側は楽しいかな?」
上条「つまらないから、それすらも“ゲーム”にした……」
草や土じゃない、隠れていた冷たい鉄の取っ手を掴む。
体の重心を使って思いっきり引っ張り上げる。
パラパラ、と土が剥がれ落ちた。「一番簡単で、俺達にとってある意味、一番難しい場所にした」
現れたのは下へ続く階段。
-
176 : 2014/09/13(土) 21:08:26.22 -
認識の阻害もある。
全員がここに集まり、この平地を認識する。
当然、一見は何ともないただの広さのある平地だ。
なので、ここはゲームとは別で用意された空間なのだと認識する。
固定概念が生まれてもっと隠されていそうな所を探す。
落とし穴。これに気付いた者がまっさきに答えへと近付ける。———その時。周りの空気が明らかに変わった。
上条「……!」
ピタッと上条の体が硬直する。
原生林の木の影から視線を感じ始めた。
それも一つではなかった。
四方八方から殺意を含む視線が上条の体へヒシヒシと伝わってくる。
さっきまでそんな気配すらなかったはずなのに、階段を見つけるやいなや顕著に伝わってきた。動いたら、殺られる。
「気付いたか?」
潜めた声で尋ねてくる。
どうやら二人も同じらしい。
しかし焦りは見受けられない。
流石だった。経験や場数が違う。
-
177 : 2014/09/13(土) 21:12:54.59 -
「おとなしくしとけよ」
そう言うと、少女へアイコンタクトを送る。
……サムズアップで返すあたり、準備万端のようだ。
隊長と呼ばれる男の口が言葉を発さずに動く。合図だった。「……」
三。
「……」
二。
上条「……」
一、
「ゼロッ!!」
瞬間、三人を中心に円を描くように平地の地面が爆発を起こした。
空へ舞い上がる土煙は平地を飲み込む。そう、三人を狙っていた影に潜む参加者の視界を阻害する。
これでは正確に狙えないし、何より殺したかどうか確認ができない。「何をぼさっとしてんだ! 逃げられる前に撃てッ!!」
遠くの方で罵声が飛びかかってるのが良い証拠だった。
慌てているのが目に見える。「飛び込め!」
今度は仲間から指示が出る。
上条は促されるままに階段へ飛び込むように下りた。結果、転がり落ちるハメに。
上条「いっつつ……」
「あはは! 派手に転けましたね、大丈夫ですカ?」
そこまで長くない事が幸いだった。
怪我はなく、ちょっと打った程度で済む。
打った箇所をさすりながら立ち上がり、前を見据える。
ひたすら一本道の通路が続いていた。
蛍光灯はあるものの、ほとんどがその役割を果たしていなくて薄暗い状態である。
奥は見えない。どんな仕掛けがあって、どこまで続くのかが一切判らない。上条のコメカミに冷たい汗が流れた。
-
181 : 2014/09/13(土) 21:25:00.95 -
「これで……ッ!!」
今度は隊長と呼ばれる男が仕掛けた。
他二人より一歩分の遅れると、天井目掛けて跳躍する。
左手を伸ばし、天井に手をつき———爆ぜる。
小規模の爆発により天井に穴が空く。そこからなだれるように土や木、鉄などが落ちてきて通路を塞いでしまった。
どうやらこの上は原生林に繋がっているらしい。上条「はあ、はあ、どうですか……?」
「しっ」
制止がかかったので、休憩も兼ねておとなしくさせてもらうことに。
代わりに上条は彼の手に注目した。初めて見た、彼の能力。
修行中に聞いただけで見た事はなかった。
一応、発火能力に部類するらしい。
本人曰く「結果そうなっただけで根本的なものが違うから亜種に近い」とのこと。
小規模の爆発を起こす。破壊に特化した能力だ。しかし使えるのは両手から一メートル範囲内のみだけ。
小規模と言っても爆発は爆発。人間を爆散させる事は容易い。
その事からLevel3で止めて、上げるのをやめたと聞いている。無駄な血を流すようなマネはしたくないと語った。にしても、と上条は二人を交互に見る。
一瞬の内に起きた連撃。敵に合わせて繰り出せるその頭の回転の速さは尋常ではない。
流石とも言うべきか、こうして実際に目の当たりに見ると出る言葉も出ない。
たどたどしい自分とは違って、スキがなく手慣れていた。 -
182 : 2014/09/13(土) 21:29:37.23 -
「静かですねたいちょー。難を逃れましたカ」
「いや」
天井まで積もって山となった土や草。
静寂は一つの斬撃によって断ち切られる。
真っ二つに割れた山から出て来たのはびくりともしないバケモノの姿だった。取る行動は一つしかない。
逃げるだけだ。上条「くっそどこまで追いかけてくるんだよ!?」
「つべこべ言わず走れ!!」
上条「わかってますとも!!」
こうなればバケモノに何をしても無駄であろう。
本当にゲームに出てきそうな存在に近い。……その時。遠くの方で階段が辛うじて見えてきた。
更に天井に少しだけシャッターも見える。
だとしたら近くにスイッチが必ずあるはずだ。
いち早くその答えにたどり着いたのは、水流操作の能力者である少女だった。次の瞬間、彼女の走る速度が格段と上がり目にも留まらぬ速さで階段まで走り抜く。
目的は階段を上る事ではない。シャッターのスイッチを押すためだ。
-
183 : 2014/09/13(土) 21:31:33.70 -
カバーを乱暴に外して、壊す勢いで押した。
普段の天真爛漫な彼女からは考えられないほど、焦っている様子が判る。
同様に、上条自身も焦りは隠しきれない。「早くッ!!」
ががが、とシャッターがゆっくり通路を遮断する。
彼女の催促は二人に掛けられたものだ。閉まりきる前に、と。上条「……っあ!」
しかし。神はそれを許さない。
焦る彼に“不幸”をもたらす。本当に直前だった。
シャッターを目前にしたところで、こんなところで、彼のアレが発動してしまった。
つまずいたのだ。何にもない平面の通路で。
普通に走っていただけなら、つまずく事なんてありえない。
ただ表す事ができる一言がある。これは彼の日常にありふれていて、口癖の言葉でもあった。「不幸」だと。
-
184 : 2014/09/13(土) 21:37:11.63 -
「———」
爆発の能力を有する男が動く。
上条が床に倒れるほんの僅か一瞬のさなかに、彼は状況を把握する。シャッターは直に完全に閉まってしまう。なので減速すれば終わりだ。
だからと言ってシャッターを止めたら、今度はバケモノに追い付かれる。
彼女もそれを判っているから、止めるスイッチ押そうにも押せない。どうする? どうすればいい?
迷っているヒマはない。迷えば全員が巻き添えを喰らう。
そう。迷う事はなかった。最初から決めていた事をしよう。決断。
彼の頭の中で一つの答を導き出す。
上条「———え」
重力に従って落下するはずだった上条の体が浮いた。
いや、浮いた言うより、引っ張られた感覚だった。
当然の疑問が上条の脳に浮上する。誰に?
上条「がっ……い、一体なにが……」
彼は寸前のところで間に合った。
ヘッドスライディングのような形で滑り込み、シャッターを潜ったのだ。
そして、つまずいて倒れる直前で起きたあの感覚は何だったのか原因を探る。
見ていたであろう少女にすがった。「たい、ちょー……」
意図せず出た言葉に覇気は宿っていなかった。
少女は完全に閉まったシャッターを見つめたまま、視線を動かさない。
……違う。彼女はシャッターを見ているんじゃない。遮られてしまったシャッター奥の『通路』を見ていた。
-
185 : 2014/09/13(土) 21:38:28.43 -
「行け」
シャッターの奥から、くぐもった声が届いた。
間違える訳がない。この何百時間と過ごし、無知な自分を一から鍛えてくれた人物の声だから。隊長。そう呼ばれる男の名だ。
「このバケモノは俺が食い止める」
無理だ。そんな事、小学生でも判る。
あのバケモノに対抗する手段を自分達は持ち合わせていない。
考えなくても判る事を言う。その意図ですら、二人は容易に読めてしまう。「だから、さっさと行け」
そして上条当麻は悟った。
自分を引っ張ってくれたのは誰か。
途端に、体の奥底から激情が一気に喉まで駆け上がる。「安心しろ。後で追い付く」
上条「ふざけんなッ!!!!」
甘さを捨てた一戦以来の怒号だった。
特訓の末、見方や考え方が判ってきて幾らか理性的になったとはいえ、この激情を我慢できるはずがない。
彼の心はまったく整理がつかず、様々な感情が入り混じってぐちゃぐちゃだ。
その中でも“どうして?”との感情が群を抜いて渦巻いている。
あれほど自分に甘さを捨てろと言ったのに、何故そんな事をする。
それでは……ズルい。
-
186 : 2014/09/13(土) 21:43:05.43 -
上条「アンタを置いていける訳ねえだろ! なんでこんなことしたんだよ! これで……俺が納得できると思ったのかよッ!!」
俺はまだ、答えすら出していないのに。
俺は未熟で弱い。聞きたい事は山ほどあるし、認めてもらってすらない。
それに何でこんな俺を選んだ理由も教えてくれてない。これは、単なるワガママだ。
少女はもちろん、上条も薄々気付いている。
もう手遅れだということ。この男が決めたなら、決して曲げない。
それが嫌だから、つまずきさえしなければ、こんな事にはならなかったのに。「……決めちゃったんでス?」
「ああ。決めた」
「どうしても?」
「曲げない」
「そっ、カ。わかった。私達、行きまス」
二言三言会話を交わすと、彼女は笑みを浮かべた。
どんな時だって彼の味方であり続け、支えてきた少女は彼の決心に異を唱えなかった。
いつか来るだろうと感じていた瞬間。それが今なのだと思い、笑みは寂しいものに変わる。
でも、迷いはない。彼女は上条の手を握りしめる。
「行きましょう」
上条「……ッ」
「進むために、行くんでス」
上条「……」
奥歯を強く噛む。
隊長と呼ばれる男が何故そうしたのか、判らない訳がない。
自分が逆の立場だったら、きっと同じ事をしたはずだ。
そして同じセリフを言うだろう。
一度決めたからにはよっぽどの事がない限り曲げないし、気を遣わせたくない。それはみんなを傷つけたくない、護りたいという意志から生まれた感情だ。
だがどうだ? 己の不幸が招いた結果、一人が犠牲になる。
感情論では物語は始まらない。この意志も無駄だ。
何が原因だ? そんなの判りきっている。己の力不足しかない。
俺は、強くなってなんかいない。無言で階段へ振り向くと、少女と一緒に階段を上っていく。
-
189 : 2014/09/13(土) 21:57:33.92 -
———————————————
自然と歩くスピードで階段を上っていた。
通路と同じ直線の階段だった。二人の間に会話はない。
沈黙だけが流れる。上条の方は明らかに思い悩んでいる。
グルグルと思考が巡るが、どうやっても紐が解かれないのだろう。
当然だ。簡単に解決できる問題でもない。「何でたいちょーが君を選んだか知ってますカ?」
上条「……いや、聞いてません」
唐突な質問に一瞬戸惑うも、素直に答える。
言われてみれば、言われてもないし聞いてもなかった。
そもそも彼は聞いたところで教えてくれるかすら怪しい。「目」
ピッと少女は自らの瞳を指差して言った。
ならうように上条も自分の瞳を指差し、首を傾げた。「そう、目。何の曇りも陰りなく、どこまでも真っ直ぐな目」
上条「……」
「そんな綺麗な目を汚したくないって。他のヤツらに渡ったら、どこまでも濁り暗くなっていく。そしてどこまでも上り詰めるだろうってさ」
上条「過大評価だよ。俺はそんな人間になれない」
彼女は横に首を振った。
「君は判らなくてもいいんでス。だから、たいちょーが取った行動も納得しますしネ」
上条「それ、次は私が身を挺して守るって言ってるのと同じですよ?」
「あら、バレちゃいました? じゃあ頑張らないとネ、たいちょーの為にも」
励ましてくれたのだ。
辛いのは彼女も同じなのに、どうしてそんな事を言えるのだろう。
どうして、強くあれるのだろう。
例え強がってるだけでも、それは上条にとって手が届かない強さだ。上条「そう、ですね。行きましょう」
今は、前に進むしかない。
がむしゃらでも。
ひたすら前へ突き進もう。 -
190 : 2014/09/13(土) 22:01:48.61 -
上条「ここは……?」
やたらと広い部屋に出た。
広い割に何も置いてなくて一面真っ白な部屋だった。
どこかの研究所の実験に使われそうなほど。奥に上の階に繋がる階段が見える。
おそらくこの広い部屋が所謂『次の試練』と言うものに違いない。
そしてこういう無駄に広い部屋は往々にして、敵が出現したりと簡単には行かせてくれない。上条「あれって……」
「……うん」
少女は同じ考えだったらしく、察してくれた。
遠目から見ても判る巨体。中央に座する“者”。「バケモノに続いて“アレ”もですカ……」
表情を曇らす。“アレ”が何なのかは知らないが、どうやら都合が良くないのは伝わった。
知ってるような口振りだったので、一体どういう物体なのか尋ねる。少女は記憶を巡らしながら、ポツポツと語り始めた。
「系統はバケモノと一緒でス。資料で見ただけで本物は初めてですけど」
上条「資料?」
「はい。“元人間”だった資料を」
ゾクッと背筋が凍る。
その言葉に恐怖を感じた。
得体の知れない領域に思わず息を呑む。
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192 : 2014/09/13(土) 22:09:14.07 -
「多分、移動速度は遅いと思われまス。あれだけ太い腕となると重量も相当なはず」
小さな声で彼女は話す。
冷静な分析をする様はさながらここに居ない彼を彷彿させた。「腕に注意すれば何とかなるかと」
上条「倒さなきゃならない、って訳じゃないんだよな。階段まで行けばそれでいいと思うし」
「その通り。けど、長期戦は好ましくないでス。何故なら私達のスタミナが切れたりしたら……」
上条「……あの腕で一撃必殺、か。ってことは必然的にスピード勝負なわけですね」
「私が能力を使って先陣を切りますから、引き付けてる間に階段へ」
上条「……無理はしないでくださいよ」
「だいじょーぶ! 私のスピードはたいちょーのお墨付きですから」
パチンとウインクを決めてみせる。
そのお気楽な表情も、次の瞬間には終わっていた。
彼女は直後に水を操って走る。
水の助力を受け、怪物を中心に時計回りに高速で迂回する。怪物はそれを見逃さない。
ギョロリと赤い目が蠢いた。 -
197 : 2014/09/13(土) 22:24:53.56 -
上条「ッ! やめ———ッ!?」
悟った彼の制止の言葉は遅い。
既に彼女の手の平から水が噴射され、上条の身体は水によって上へ通ずる階段のところへ飛ばされていた。
当然受け身なんて取れるはずもなく何回か転がった後、彼はバッとすぐさま見上げる。
……あって欲しくない光景が上条の視界を埋め尽くす。
何の防御も取らずに、拳を全身で受け止める彼女の姿があった。怪物が拳を完全に振り抜く。
尋常ではない勢いで一直線に突き落とされた。
それでも止まる気配のない彼女の身体は、上条の方へ向かってくる。上条「……ッ!!」
彼は真正面から受け止めた。
構えて抱き止めたにもかかわらず、衝撃に耐えきれず彼の身体ごと吹き飛んで階段へ突っ込んでいく。
予想済みだったのだろう。頭だけはぶつけないように守っていた。
一段目の踏み面に直撃する。背中を強打し、上条は一瞬だけ呻き声をあげた。上条「ぐ、ぅ……だ、大丈夫ですか……?」
激しい痛みを押し殺して彼女の安否を確認するべく顔を見た。
辛うじて生きていた。しかし気を失ったらしい。ぐったりと上条に体を預けるだけだ。頭を抱える腕に濡れた触感に違和感を覚えた。
最初は水かと思ったが、違う。手触りが水じゃなかった。
手の平を見る。赤い、真っ赤に染まっていた。
事態を一気に把握する。上条「くそ! 待ってろよ!」
怪物はまだ動いていない。
拳を振り切った反動で鈍くなったか、更に言うならあれだけの巨大な腕を振るうのだ。疲労もあっていいはず。
とにかく逃げるなら今しかなかった。
本当ならこの場で迅速に緊急処置を施したいところだが、あまりにも危険だ。
ここはひとまず、安全な場所に移動してからの方が賢明である。
上条は抱きかかえると階段へ駆け出した。
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198 : 2014/09/13(土) 22:29:11.10 -
———————————————
階段を上る音が反響する。
その音はゆっくりで、歩いている方が早いぐらいだった。
リズムに合わせて体が一瞬だけ震動している。朦朧とする意識の中で彼女は、今自分は背負われているんだと判った。
誰に、までは頭が働かない。それよりもとても頭が痛くて、体が怠くて動かない。
でも、全身から伝わる温もりは心地好かった。「ここ……は……?」
微かに出た声。きっと頼りない声をしているだろう。
それほど力ない声だった。上条「今、上ってる、ところです、よっ」
震動の度に区切り、疑問に答える声が近くから聞こえた。
誰かが判ってところで、曖昧だった記憶を取り戻してきた。「あの時……」
上条「手当はしたけど、あまり喋らない方が、いい。致命傷には、変わりないんですから」
どうやら何とかあの部屋から逃げ出せたようだ。
わざわざ治療を施してまで。
でも、自分の体の事は自分がよく判っている。「……ねぇ」
上条「……」
「ねぇ、ねぇったら」
上条「……どうかしました?」
「少し……座らせてほしいな」
上条「ダメです」
「揺れがしんどいからさ」
上条「……」
「お願い」
止まった。
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200 : 2014/09/13(土) 22:31:49.60 -
逆を向くと膝を曲げて腰を下ろす。
なるべく負担をかけないようにも心掛けてくれていた。
彼が何故拒んだのか、判らないでもない。
逆の立場なら私もそうしてるから。「ありがとうでス」
きっと気付いている。
だから降ろしたくないと主張したんだ。「私の話を……聞いてくれますカ?」
上条「……」
「聞いてくれないの?」
上条「……っ、あの人といい、あんたといい、ズルい。どうせ俺の意見なんて無視するんだろ?」
「……ごめんネ? 胸触らせてあげるから許して?」
上条「怒るぞ」
「ふふっ、つれないなー」
儚げに微笑みを浮かべる彼女は今にも消えてしまいそうだった。
その笑みが、より一層に上条を苦しめる。
彼女の話はもう判っていた。目を覚ます前から、ずっと。上条「だから、降ろしたくなかったのに……っ」
そう。これは単なるワガママだ。こうなって欲しくないと駄々をこねる餓鬼に過ぎない。
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201 : 2014/09/13(土) 22:37:36.05 -
「あの、ね。先に行ってほしいんだ。何でかは君ならもう判ってるでしょ?」
上条「……」
「……私、君に嘘をつきたくない。でも、本当の事も言いたくない。だって君が後悔して、立ち止まったら意味がないですから」
上条「……っ」
「それに、そんな姿を見せたくないじゃないですカ。『私達』はいつだって、君の頼れる先輩で居たいもの」
上条「だったら! そんなこと、言わないでくださいよ! 俺は二人がいたから、ここまで頑張ってこれたのに……っ!」
「大丈夫でス」
彼女はそう言うと、両腕を広げる。
広げる事でもう精一杯な様子だった。
痛ましい。この一言に尽きた。上条「……抱きしめれば、いいんですか?」
「うん。お願い」
そっと身を寄せて、優しく抱きしめてあげた。
彼女の方も、ゆっくりと広げていた両腕を上条の背中へ回す。
その腕にぎゅっと力が込められるのが判る。「……君は独りじゃないでス。寂しいと感じる時はあるかもしれないけど、思い出して。私の『心』は君の『心』にずっと居ますから」
上条の頬に流れる一滴の雫。
限界はとうに越えていた。
それでも耐えていたのだ。しかし———今はもう我慢なんて出来なかった。
「私に構わず行って下さい。その代わり絶対にゴールして。約束、ですからネ?」
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207 : 2014/09/14(日) 02:14:00.19 -
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211 : 2014/09/14(日) 02:16:46.27 -
僕は拓也。おーぷんのかつて一世を風靡したおーぷんの人気者。。5月から7月に掛けて一気に知名度が増した。友達が居ない発達障害の僕でも小学5年生を名乗ることで天才になる事が出来た。小5、そしてお前ら批判、論破ネタで一気に食いつかせた。僕がスレを立てれば普段過疎ってるおーぷんでも盛り上がる、僕は人気者だ僕は天才だ。スレタイに僕は拓也。を付ければ軽く200いや300は越える。僕のスレが過疎れば煽りスレを立て人を集め過疎れば煽りスレを立てるの繰り返しだ。これで僕の毎日は充実してた——はずだった——
—8月—
拓也だけど。 (153)
拓也だけど。 (121)
拓也だけど。お前らは無能 (198)
拓也だけど。 (132)拓也 少しレスが少なくなってきてるな。糞無能が。
——9月——
拓也だけど。(98)
拓也だけど。(103)
くそっレスしろ無能共が。
拓也だけど。お前らは無能(120)
すくねぇな
拓也だけど。(82)
拓也 チッ何だこいつら無能すぎるレスしろ糞が拓也だけど。天皇を○す(531)
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通報した拓也 はいはい。糞つまんねぇな、おーぷんの通報したは嘘だからなwレス来たしまだ忘れて無いんだな。やっぱ予告は伸びが違うな
拓也だけど。今から○○駅に毒をまく(1000)
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1000:名無し@おーぷん
通報したコンコン 拓也「はーい」 「警察ですけど」
END
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