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1 : 2014/07/13(日) 00:46:14.64 -
・ポケモン初代
・地の文あり
・レッド×エリカ風味
・書きながらの投稿なので誤字脱字ごめんなさい
・長編予定SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405179974
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405179974/
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2 : 2014/07/13(日) 00:48:42.35 -
開けた草原の中に一定の間隔で点在する家屋。
マサラタウンで起こる出来事、噂は大小関わらず一時もすれば街全体に広がっていく。
そんな場所で唯一世界に発信出来る場所、ポケモン界の権威オーキド博士の研究所内で、新しい二人のトレーナーが初戦に望んでいた。
「泣き虫でしかもポケモンも満足に扱えないのな! レッド」
「……」
レッドとグリーン、この街に住む二人の少年の力関係はこの会話で押して知るところだ。
グリーンはヒトカゲと共ににやついた顔でポケモンバトル勝利の余韻に浸り、レッドは目から零れそうになる雫を必死でこらえ、手を震わせながら倒れ伏したフシギダネにモンスターボールのリターンレーザーを当てた。
(勝負とは残酷なものじゃな)
オーキド博士は孫の勝利を喜ぶわけでもなく、ため息を必死でこらえるような表情でレッドを見ていた。
悲しくはないが少々虚しくはある。レッドは昔から口下手で、年の近いグリーンには毎度合うたびいじめられており、そのたびグリーンの姉やオーキド博士がグリーンを叱りつけるものの、劣等者を痛めつける喜びを覚えてしまった子供、グリーンを御しきれていなかった。
レッドが精神的に強くなってくれればあるいは、またポケモントレーナーとして二人に共通の話題ができればと思っていたのだが……。
「よさんかグリーン!」
「うるせえじじい! 俺はもう姉ちゃんからタウンマップもらって旅に出るからな! ばいびー!」
そそくさと出て行くグリーンをオーキド博士はあっけにとられたまま見送ってしまった。顔を伏すレッドとオーキド博士の間で沈黙だけが残る。
「レッド……」 -
3 : 2014/07/13(日) 00:49:53.51 -
レッドのポケモンを回復させる。レッド自身も慰めなければならないだろう。
しかしいつもならレッドがぐずりだすところだが……。
「……っ!」
「レッド!」
レッドは涙を振り払い一目散に研究所から駆け抜ける。
「あら?」
「!?」
レッドはドアまで走った所で人にぶつかりそうになり、少し減速した。
マサラでは見ない女性だった。肩まで伸びる黒い髪、山吹色の和服からにじみ出る優雅な立ち振る舞いと気品。しかしレッドは彼女と目を合わせるのを避けて駆け出して行く。
「オーキド博士、あの子は?」
「おお、エリカさん。この前言っていたポケモンをあずける予定だった子の一人なんじゃが……。初戦に負けたショックで飛び出してしまってなあ」
「まあ……どんなバトルでしたの?」
「相手はわしの孫でグリーン、使ってたのはヒトカゲじゃ。今飛び出していったのがレッドで使ったのはフシギダネ。二匹とも今日が初めてだから、ひっかくと体当たりの応酬じゃったのう」
「なるほど。本当に初めてでしたのね」
「おお、しまった。旅立ちのついでにトキワタウンから荷物を持ってきて欲しかったんじゃが、二人共頼みそびれてしまったわい……」
「それなら私にお任せください。飛行ポケモンを持ちあわせていますので」
「おおすまんのう。ジムリーダーのおつかいなんてさせてしまって申し訳ない」
「いえいえ。オーキド博士のお役にたてるのなら、些細なことでも光栄なことです。それと一つ教えていただけたいのですけど」
「なんじゃ?」
エリカはふわりと微笑む。
「レッドくん、どこに行ったのか心当たりはございますか?」 -
4 : 2014/07/13(日) 00:50:35.48 -
彼は弱かった。
彼は負け続けていた。年の近いグリーンを相手に、喧嘩でも、かけっこでも、川泳ぎでも。
グリーンは口々にレッドを罵り、レッドは言い返せない歯がゆさと悔しさで逃げ出すしかない。
それでもレッドは新しい勝負からは逃げなかった。グリーンに勝てることを一つでも、その負けん気の強さだけは誇りだった。
そしてポケモン勝負。自分だけじゃないポケモンの強さを借りれば、あるいは。
しかし、結果はいつもの敗北だった。
「……」
草原に雨が降っていた。どこまで走ったのか、帽子と服が水分を吸って体に張り付いていたが、レッドからすれば大した問題じゃない。
「……」
少し疲れた。レッドは座り込み、雨に打たれる水たまりをなんの意味もなく見つめていた。
(なぜ、勝てないのだろう)
グリーンと自分は何が違うのだろう。グリーンはいつも自信満々だ。いつも自分は勝てるという確信があり、好戦的な笑顔を張り付かせて勝負に望んでいる。
しかしレッドはそうではない。きっと勝てる。今回は勝てる。そんな想いと裏腹に、また負けるんじゃないか、自分はグリーンには勝てっこないんじゃないか。
そんな感情が目の前を覆ってくる。いつもそうだ。
(一生、勝てないのかな) -
5 : 2014/07/13(日) 00:51:27.36 -
俯いた顔、雨が後頭部から目尻まで垂れてきて、地面に1つ2つと雫となって落ちていく。
「そんなところにいると、風邪を引いてしまいますよ」
その言葉とともに、レッドの頭上に傘があった。しかしレッドから落ちる雫が止まらない。
レッドは目元を一度拭ってから目線を横に移し、先ほどすれ違った和服の女性を視認してから、またすぐに地面へと顔の向きを戻した。
(ありゃ)
エリカは肩を落とした。噂に聞いていた少年は大分敗北が堪えているらしい。
彼を知るグリーンの姉曰く、
「レッド君、けっこう無口だからグリーンが調子にのっちゃうのよね……」
オーキド博士曰く、
「レッド自身は優しい子なんじゃがなあ……。グリーンが一度怪我をしたことがあったんじゃが、すぐに走って大人を呼びに来てくれたんじゃよ。しかしグリーンは"レッドに見捨てられた"って勘違いしてしまってのう。後でグリーンに訳も話したんじゃが、それ以来グリーンとレッドが勝負事をするようになってしまったんじゃよ」
そしてレッドは連戦連敗中。彼が逃げ出すと大抵この場所で塞ぎこむという。
エリカは別にレッドに一目惚れしたとか、泣き虫な男の子を叱咤激励したいとか、そこまでの思いがあってレッドを追ってきたわけじゃあない。
(新しいポケモントレーナーの門出に、少しだけ手助けしてもかまわないでしょう)
聞けば彼が使うポケモンは草ポケモンのフシギダネだという。エリカも草タイプを司るジムリーダーの一人。
「レッドさん」 -
6 : 2014/07/13(日) 00:56:18.38 -
「!」
レッドの体がぴくりと動いた。
「オーキド博士にお名前をお聞きしました。私はエリカ、ポケモントレーナーをしております」
レッドはなおも動かない。
「グリーンさんに、ポケモンバトルで勝ちたくはありませんか?」
エリカは返答を待つ。数秒の沈黙の後、レッドはゆっくりと口を開いた。
「無理だよ。どうせ勝てない」
「どうして?」
「いつもそうなんだ。こっちがどんだけ頑張っても、グリーンはいつも僕よりも上なんだ。どうせ頑張ったって、無理だよ」
「なるほど……」
中々手強い。さてどんなアプローチがいいだろうか。
「……レッドさんは、ポケモンの公式試合を見たことがありますか?」
レッドがエリカの方を見ずに応える。
「テレビで、ニドリーノとゲンガーが戦っているのは見た」
「最近の公式戦ですね。あれはいい試合でした」
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7 : 2014/07/13(日) 01:05:19.66 -
エリカが弾むように続ける。
「ポケモンバトルに必要な戦略、戦術、技術……それら必要な要素が全て噛み合った試合はとても心躍るものです」
レッドは無感動に、
「勝てなきゃ意味無いじゃん」
とにべもない。
「ええ。試合、特にプロの公式試合はなによりも結果が求められます。しかしプロの公式試合だろうと、ポケモンを初めて持ったトレーナー同士の試合であろうと、ポケモンバトルで最後に勝敗を分ける、不変の要素があります」
エリカは一度言葉を区切って、
「何だと思いますか?」
レッドに微笑みかけた。
レッドは不思議そうな顔をして、
「ポケモンの強さじゃないの?」
「いいえ違います」
ばっさりと切り捨てられた。
「わかんないよ、ポケモンの強さより必要なものなんて」
「……ポケモンバトルで勝つために一番大切な要素、それは」
雨が、勢いをなくしてきている。
「トレーナーとポケモンとの、絆です」 -
8 : 2014/07/13(日) 01:14:34.07 -
「……絆?」
「レッドさん、フシギダネを出してみてください」
レッドは手元のモンスターボールを地面に放った。
「ダネフシッ!」
地上に出たフシギダネは、雨の中嬉しそうに背中を揺らしている。
「なんで、喜んでるんだ?」
「レッドさん、オーキド博士からいただいたポケモン図鑑をフシギダネに向けてみてください」
「えっと……」
レッドはポケットから赤い電子図鑑を取り出し、フシギダネへ向けた。
フシギダネを感知した図鑑から電子音が響く。
『フシギダネ。たねポケモン。生まれてからしばらくの間は、背中の種から栄養をもらって大きく育つ』
「たねポケモン……そうか、雨で背中の種から栄養もらえて喜んでいるんだ」
「ええ。レッドさんこれを」
「これは……?」
レッドはエリカから茶色い種子のようなものを受け取る。
「ポケモンフードです。これをフシギダネに」
「あっ」 -
9 : 2014/07/13(日) 01:29:06.86 -
レッドがかがみフシギダネに差し出すと、フシギダネは一度匂いを嗅ぎ、はむはむと頬張った。
「ポケモンは剣や盾では決してありません。この地上に住む生物の一つ。好き嫌いがあり、感情があります」
食べ終わったフシギダネが、もっと欲しいとキラキラした目でレッドを見つめる。
「ポケモントレーナーとはひとつひとつのポケモンを知り、そして相手に知ってもらい、絆を育み共に強さを目指す……。レッドさんあなたは今、フシギダネの一部を知りました」
エリカがレッドにポケモンフードの箱ごと手渡す。
「しかしフシギダネの全てではありません。これからレッドさんはもっとフシギダネの事を知り、そしてフシギダネにあなた自身を知ってもらう必要があります」
「僕自身をフシギダネに知ってもらう?」
「ええ」
フシギダネがまだかまだかと、レッドの周りを回り始める。
「互いの事を知り、共に切磋琢磨して絶対に切れない絆のもとに、望む勝利の光がある……。それがポケモントレーナーです」
「……」
レッドは餌を食べるフシギダネを見つめる。初めてグリーンのヒトカゲと戦った時、自分はなにを考えていただろうか。
『グリーンに勝ちたい!』『このポケモンバトルでなら!』
『なんであっちの攻撃の方が強いんだ!』『あっちのポケモンにすればよかった!』
『どうせまた、勝てない』
「……」 -
10 : 2014/07/13(日) 01:39:47.68 -
「……僕も」
レッドは初めて、エリカの瞳を真正面から見つめた。
「僕も、なれるかな。そんなポケモントレーナーに」
「なれるかどうかは、この世界の誰にもわかりません。大事なのは」
エリカは抱擁力がこもった声で、
「"なりたい"という意思があるかどうか。レッドさん、ポケモントレーナーになりたいですか?」
レッドは目をつぶった。
『レッド、お前ポケモンバトルも弱いんだな!』
『レッド、少しはグリーンに言い返したらどうじゃ?』
『レッドくんごめんね。グリーンにはいつも言ってるんだけど……』
強くなれるだろうか。
もうあんな目で見られることはなくなるだろうか。
ポケモントレーナーになれば、グリーンに勝つことができるのだろうか。
……いや、勝つことができるかどうかじゃない。
自分は望んでいる。なににも変えがたい強さを。
勝利の光を。
「……ポケモントレーナーになりたい。なって、グリーンに勝ちたい」
「はい。それでは、レッドさんはまずなにを始めますか?」
「もっとフシギダネの事を知りたい。ポケモンのことも、ポケモンバトルの事も」
「ええ」
エリカが本当の意味で微笑む。
「その、エリカ、さん」
「はい?」
レッドがフシギダネを抱え上げる。
「よかったら、少し教えてくれませんか? ポケモンのこと、ちょっとでいいんで」
「もちろん。構いませんわ」
雨はもう止んでいた。
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11 : 2014/07/13(日) 01:52:37.71 -
トキワシティ。ここにはトキワジムの他、ポケモントレーナーの殿堂であるセキエイ高原に続いている。
その途上に目を合わせたポケモントレーナー二人の姿があった。
「ようレッド。この先はジムバッジが8個ないと進めないってよ! まったくケチンボだぜあの警備員」
レッドは答えない。グリーンは気にした様子もなく言葉を続ける。
「そういやレッド、あれからお前ポケモンは捕まえられたか? じいちゃんの言葉に従うのは癪だけど、俺は一応集めてる。もう4匹も捕まえたちゃったぜ。レッドは何匹だ?」
「……2匹」
「俺の半分かよ! そんな調子じゃポケモン図鑑の完成も俺が先にしちゃうかもな!」
はははっ! とグリーンは軽く笑う。そして腰のモンスターボールに手をかけた。
「知ってるかレッド、旅の途中でポケモントレーナーの視線が合ったら、やることは一つ」
「……」
レッドが身を低くしてモンスターボールを構える。さまになっているレッドの姿に以外だったのか、グリーンが口笛を吹いた。
「へへっ。今度は長くもてよ。レッド! いけっ! オニスズメ!」
「いけっ!ポッポ!」 -
12 : 2014/07/13(日) 02:15:43.85 -
鳥ポケモンのそれぞれの鳴き声が響く。
「オニスズメ! つつく!」
「ポッポ、すなかけだ!」
オニスズメの攻撃に耐え、ポッポは正確にオニスズメの目にすなをかけていく
「相手のHP(ヒットポイント)を減らさなきゃ勝てないんだぜ、レッド!」
グリーンが電子図鑑でポッポのHPを確認する。
「ポッポ、すなかけ!」
「はっ、つつくだ! オニスズメ! この前と一緒だなレッド!」
「……」
「なあレッド。お前とお前のポケモンのために言っとくぜ、ポケモントレーナーなんてやめちまえよ」
「!」
「ポケモントレーナーていうのはな、ポケモンを道具のように自在に扱って勝利を勝ち取るもんだ! どんなに強いポケモンを使おうが、命令してる奴がヘボだと勝てねえんだよ」
「……」
「お前て弱い上に口下手だろう? 使われてるポケモンがかわいそうだぜ! 俺なんかじいちゃんの孫だからポケモンのことだってお前よりわかってるし、バトルも強い! そうだ、俺が勝ったらポケモンよこせよ! お前の分も頑張ってやるよ。このグリーン様が、未来の世界チャンプのポケモントレーナー様がな!」
「…………」
ポッポにオニスズメの攻撃が続く。レッドは顔を伏せ、帽子のつばで目線を隠す。
「…………違う」
確かな、しっかりとした言葉だった。
「あん?」
「ポケモントレーナーは、そんなものじゃない!」 -
13 : 2014/07/13(日) 02:23:36.12 -
レッドは顔を上げ、グリーンを正面から見据えた。
「ポケモントレーナーとはポケモンとの絆を育み、勝利の光を目指すものだ。好き勝手に命令して、道具のような扱いをして勝てるようなものじゃあない!」
「なっ!?」
グリーンは知らない。こんな、こんな意思をもった煌きを放つ瞳のレッドなど、知らない。
「それを証明してやる! ポッポ! かぜおこし!」
攻撃に耐えていたポッポの眼が開き、一気にオニスズメから距離をとって羽ばたく。
「くっ! オニスズメつつくだ!」
しかしオニスズメの攻撃は外れた!
「なに!どうして!? もう一度だ!」
グリーンは気づかない。オニスズメの眼がポッポのすなかけによって、途中から空を切っていたことを。
レッドはオニスズメの命中率が十分に落ちてから、反撃にでたことを。
「トドメだ! かぜおこし!」
ポッポが一段と甲高く鳴き、羽ばたいて作り出した風のかたまりをオニスズメにぶつける。
オニスズメは力のない鳴き声を上げて、倒れ伏した。 -
14 : 2014/07/13(日) 02:25:11.80 -
「そんな……俺の、オニスズメが……」
グリーンが呆然とした表情でオニスズメをモンスターボールに戻す。
「こんな……こんなの認めねえ! 畜生!」
グリーンはバトルを中断して、走り去っていく。
「待てグリーン!……」
レッドは追うのをやめて、ポッポに近寄った。
「よくやったぞポッポ。頑張ったな」
「ポー♪」
ポッポにキズぐすりを使って背中を撫でると、ポッポが陽気にレッドへ擦り寄ってくる。
「皆、出ておいで」
レッドが残り二つのモンスターボールをほおる。フシギダネとコラッタが元気に飛び出した。
「お前たちの出番、今回はなかったな。でも油断せずに行こう」
フシギダネとコラッタ、そしてポッポがレッドの周りに集まる。
「さて道を変えて、まずはトキワの森か、今度はどんな森かな」
(あっ……そういえば、僕、グリーンに勝ったのか)
しかし、今は些細な事に思える。不思議だ。
「ダネフシ?」
もっと大事なことが、できたからだろう。
「……なんでもないよ。さて行こうか皆。まだまだ旅は始まったばかりだよ」
少年は本当の意味で歩み始める。
ポケモントレーナーになるために。
タマムシシティであの人に礼を言うために。
ポケモン達と共に勝利の光を目指す旅に。 -
15 : 2014/07/13(日) 02:26:04.01 - 今日はここまで。読んでくれた方ありがとうございます。
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21 : 2014/07/13(日) 21:33:55.60 -
ニビシティ。そこではニビ科学博物館で宇宙博覧会が行われており、多くの観光客や研究者が訪れている。
またニビシティにもトキワシティと同じくポケモンジムがあり、代々岩タイプを司るジムリーダーが訪れるポケモントレーナーの挑戦を受けていた。「……ふう」
ここはニビシティジムリーダーの事務室。
普段は多くの関係者が出入りし、隣接するバトルスペースには多くの掛け声やポケモン達の咆哮が響く場所だったが、今はガランとして静かで、一人の男のため息だけが漏れていた。
コン、コン。
「はい」
「入るわよ、タケシ」
「カスミか」
ニビシティジムリーダータケシはデスクで片付けていた書類を置き、同業者であるハナダシティジム所属のカスミを出迎えていた。
タケシは茶色いTシャツに緑のズボン、カスミは丈の短いTシャツとショートパンツのへそ出しルック。互いにかしこまった関係ではないことが見て取れる。
ハナダシティはニビシティと隣接しており、またカスミはタケシはと歳が近いこともあって、ポケモンの事を話すことは少なくなかった。
二人の間の空気は静かだった。
タケシは元来口数が多い方ではなかったが、今日は一段と寂しげな雰囲気を纏っており、カスミもそんなタケシを認めながらもさして興味なさげに人のいないジムを眺めていた。
カスミはただの広い空間になったジムの天井を見上げ、声を響かせる。
「本当にやめるのね。ジムリーダー」
「ああ、明日がニビジムの、いや、ジムリーダータケシの最後の営業になる」
「ふーん。代わりの人はすぐ来るの?」
「もうポケモン協会の方が新しいジムリーダーを選定しているそうだ。長くても一週間もすれば新しい人間が来るだろう」
「そう、一週間ね。その間旅のトレーナーは待ちぼうけってわけ」
カスミの語気は強くない。ただ事実を言っているだけだった。
「俺を止めに来たわけじゃなさそうだな」
「そりゃそうよ。止める理由がないもの」
「……そうだな」
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22 : 2014/07/13(日) 21:43:18.01 -
カスミが今は誰も居ないバトルスペース中央、モンスターボールを模した白線の中央に立つ。手を頭の後ろに組んで目をつぶった。
タケシはカスミの大分後ろに立って、明日で最後になるバトルスペースを眺めた。
「じゃあカスミはここに何しに来たんだ? バトルならまあ、今なら付き合うが」
タケシは苦笑しながら言った。カスミは水のエキスパート、対してタケシは岩。自分で言っといて勝ち目は薄い。
カスミは目を開ける。タケシを見ない。どこか中空を見ている。
「バトルは別にいいわ。あんたがどんな顔してるか、興味があっただけ」
「なんでやめるのかは聞かないのか?」
「別に興味ないわ。まあでも、あんたの顔が見れてよかったわ。少し判断材料になった」
「ジムを姉に任せて、最近ハナダに戻ってないって聞いたぞ」
「別に問題ないでしょ。ジムバッジ譲渡の権限は私達4姉妹なんだから、誰かいればいいわ」
「お前が4姉妹の中で一線を画す強さなのにか?」
カスミはタケシに返答せず、タケシの横を通りすぎて手をひらひらと振る。
「明日最後の挑戦者を待つつもりだ。暇だったら来てくれ」
タケシの言葉にカスミは何の反応もせずジムを去った。
「……さて、書類を片付けるか」
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23 : 2014/07/13(日) 22:22:05.09 -
タケシが庶務を終えた時にはもう日が落ちていた。街灯に沿った道のりに人通りは少ない。
「今だ、フシギダネ! ようし、いいぞ!」
「ん?」
道から少し外れた場所、家々から離れた場所で掛け声が聞こえた。
見たところ、10歳そこそこの子供。フシギダネというところからまだポケモンをもらったばかりのトレーナーだろう。
いいコンビネーションだな、とタケシは感じていた。フシギダネの行動と反応を見てから、ちゃんと次の命令を繰り出している。
「いい連携だな、少年」
「え?」
「すまない、邪魔をしてしまったかな」
タケシは気づいたら声をかけていた。ジムリーダーという仕事はジム所属のトレーナーの指導も多い。タケシはそれが嫌いではなかった。
「君は、ニビシティの子ではないのかな? あまり見ない顔だけど」
「うん、マサラタウンから来たんだ。ここではジムに挑むつもりで、今はその練習」
「レッド」
「そうか。俺はタケシ」
フシギダネがレッドの腕に飛び込み、レッドもフシギダネを抱きかかえて笑顔で撫でる。
-
24 : 2014/07/13(日) 22:23:03.63 -
「タケシさんもポケモン持ってるの?」「……ああ」
タケシは少し考えてから腰のモンスターボールを選び、自らの隣に放る。
「コンっ!」
現れたのは赤い毛にこじんまりとした6つの尻尾が特徴的なポケモン、ロコン。「わっ。はじめて見るっ!」
「ロコンというんだ。この辺では珍しいかもしれないな」
タケシはかがみ、ロコンの体を撫でる。ロコンは心底リラックスしたように、タケシに体を任せた。
「すごく懐いてるね」
「ありがとな。なあ少年、一つ聞いてもいいか?」
「ん、なに?」
「ジムに挑むということは、その先にあるポケモンの殿堂、セキエイ高原を目指すんだろう? どうしてそうしようって思ったんだ?」
「どうしてって……? ポケモントレーナーは皆目指すんじゃないの?」
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25 : 2014/07/13(日) 22:25:35.37 -
「ポケモンとの付き合い方は様々だよ。セキエイ高原を目指す人は多いだろうが、中にはポケモンをペットとする人、ポケモン研究者や、土木作業や治水工事、ポケモンのケアや健康を扱うポケモンブリーダーという職業もある」
タケシはロコンから手を離し、レッドに向かい合った。
「人それぞれのポケモンとの付き合い方がある中で、どうして君はポケモントレーナーになったんだい?」
タケシは努めて優しく言った。別に糾弾しているわけじゃない。このフシギダネと良い関係を築いている少年がどうしてバトルの道に行ったのか、純粋な興味だった。
「……勝ちたいから、かな」
「勝ちたいから?」
「うん。ポケモンバトルってさ、僕だけじゃなにもできないじゃない。でもポケモンだけがいても、なにもできない。ポケモンがいて、トレーナーがいて、二つの心が通じあって初めて、勝てる」
「……」
「一人だけじゃできないことでも、ポケモンと力を合わせれば。仲間と一緒に勝ちたいから、喜びを分かち合いたいから、バトルで勝ちたいから、かな」
少年の表情はキラキラしていた。タケシは憧憬にも似た感情でそれを眺める。
「ごめん、ちょっとうまく言えないかも」
「……いいさ。立派だな、君は」
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26 : 2014/07/13(日) 22:27:11.60 -
ニビシティジムで毎日連戦する日々。しかしタケシはある日、傷ついたポケモンを癒やすポケモンクリニックでのブリーダーたちの献身さを見て、迷いが生まれていた。
自分はポケモンに戦いを強制してしまっていないか。もっと他の、ポケモンを愛する者としての付き合い方があるのではないか……。
そんな迷いが生まれていた矢先、先日ヒトカゲを伴った挑戦者が来た。
一度目はタケシが退ける。愛称から見て当然の結果で、タケシはがまんやタイプ相性の事をレクチャーしようと思ったのだが……。
「……うっ」
その時、ヒトカゲを連れた少年から放たられた憤怒の視線。強烈な敵意。それに圧倒され、声をかけれずに彼を見送ってしまった。
時を置かずしてその少年は再来した。今度はリザードを伴って。
タケシは相手が持っているジムバッジの個数によって使うポケモンが決められている。
リザードの力はタイプ相性をものともせずに、タケシのイシツブテとイワークを撃破していった。
力技で押し通るのは悪いことじゃない。しかし、バトル相手に対しギラついた視線で攻撃してくるトレーナーとリザードの姿が、どうしても脳裏から離れなかった。
(俺がやっていることは、正しいことなんだろうか)
この迷いに対して、タケシは考える時間が欲しかった。気づけば空いた時間、1から始めるポケモンブリーダー教本なんてものを読んでいる。
(今の俺は、ジムリーダーをやるべきじゃない)
周囲の反対をよそに、タケシは一度自分の道を見直すことを決めた。
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27 : 2014/07/13(日) 22:28:47.80 -
「そういえばレッド君は、ポケモン博物館に行ってみたかい?」
「ううん」
「貴重なポケモンの化石や、ポケモンに関わる岩石を展示している。時間があれば行ってみるといい」
「うん、そうするよ」
「今日はもうほどほどにしときなさい。明日ジムに挑戦するなら、体調もポケモンも万全にしとかないと」
「わかった。ありがとうタケシさん!」
「ああ、おやすみ」
少年が駆けていくのをタケシは笑顔で見送る。
自分もさっさと今日は寝よう。明日は朝一番に元気なフシギダネ使いが来るだろう。
(……俺の、ラストマッチのためにも)
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28 : 2014/07/13(日) 22:33:24.93 -
今日はここまで。明日でニビ編終わりの予定です。
読んでくれた方ありがとうございます。改行してみたんですが、こっちの方が読みやすいですかね?
あと誤字脱字については投稿する前に読み直しはしてるんですが、
投稿してから読むと気づくのが結構ありますね……申し訳ない。
エリカさんにはたっぷり出番がある予定?なのでお楽しみに。 -
31 : 2014/07/13(日) 23:09:55.43 -
誤字脱字は後日まとめて訂正します。
>>23会話抜けがあったため訂正
タケシが庶務を終えた時にはもう日が落ちていた。街灯に沿った道のりに人通りは少ない。
「今だ、フシギダネ! ようし、いいぞ!」
「ん?」
道から少し外れた場所、家々から離れた場所で掛け声が聞こえた。
見たところ、10歳そこそこの子供。フシギダネというところからまだポケモンをもらったばかりのトレーナーだろう。
いいコンビネーションだな、とタケシは感じていた。フシギダネの行動と反応を見てから、ちゃんと次の命令を繰り出している。
「いい連携だな、少年」
「え?」
「すまない、邪魔をしてしまったかな」
タケシは気づいたら声をかけていた。ジムリーダーという仕事はジム所属のトレーナーの指導も多い。タケシはそれが嫌いではなかった。
「君は、ニビシティの子ではないのかな? あまり見ない顔だけど」
「うん、マサラタウンから来たんだ。ここではジムに挑むつもりで、今はその練習」
「名前は?」
「レッド」
「そうか。俺はタケシ」
フシギダネがレッドの腕に飛び込み、レッドもフシギダネを抱きかかえて笑顔で撫でる。
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36 : 2014/07/14(月) 22:32:26.60 ID:IwkOwqpW0 -
「さあ、レッド。まだまだこれからだぞ!」
「くっ! いけ! ポッポ! かぜおこし!」
イシツブテも連戦では長くもたなかったが、ポッポにある程度の打撃を与えることには成功していた。「よくやったイシツブテ。もどれ」
レッドはたまらず、タケシに叫ぶ。
「タケシさん! 俺今、すごいわくわくしてる! これがジムリーダーとの戦いなんだね!」
「ああ! 俺も久しぶりに熱くなってきたぜ!」
タケシのポケモンは本気の編成ではない。だがそれがどうした。今持ちうる全ての力を出しきり、勝利を得ることになんの疑いを持とうか。
「これが切り札だ! いけ! イワーク!」
舞い降りる巨体。種族値こそ見た目に反しているが、その巨影はマサラからやってきたレッドを圧倒する。
(でかい……だけど、俺と俺のポケモン達の熱い闘志が囁きかけてくる。トレーナーとポケモンとの絆があれば、勝利の光をたぐり寄せることができる!」
「いくぞ! フシギダネ!」
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37 : 2014/07/14(月) 22:34:07.47 ID:IwkOwqpW0 -
「草ポケモンか。だがその小さな体で、イワークの硬い体を打ち砕けるか?」
「超えれない壁などないと、俺は教わりました。俺とフシギダネの力を合わせれば、また一つ、見えなかった強さを身につけることがでる!」
「なら見せてみろ! イワーク! たいあたり!」
「フシギダネ! たいあたり!」
(最初は体当たりの応酬、このフシギダネの火力なら耐えることができる! よし)
「イワーク、がまん!」
イワークの動きが丸まってとまり、フシギダネのたいあたりに対し反撃しなくなる。
「これは……一体?……まて! フシギダネ!」
(気づいたか。だが遅い、とめるのがあと一瞬早ければな!)
既に数発フシギダネの体当たりがヒットしている。「イワークのがまん、知っていたのかレッド?」
「いえ、初めて聞く技です。だけど、イワークの挙動から予測はできる。フシギダネ! やどりぎのタネ!」
「なに!?」
フシギダネの背中のつぼみから種子が発射され、イワークの体を覆う!
「だが、イワークのがまんは開放される。イワーク! こうげきだ!」
「あとは削りきるまで! フシギダネたいあたりぃ!!」
イワークとフシギダネの額が激突し、あたり一面に砂埃が舞う。
「……」
「……」
-
38 : 2014/07/14(月) 22:35:38.00 ID:IwkOwqpW0 -
砂埃が晴れた時、立っていたのは巨影だった。フシギダネは倒れ伏している。
『……フシギダネ戦闘不能! ……え?』
イワークの巨体が傾き、ずしんと大きな音を立てて倒れた。その巨体からは地面を伝って、フシギダネへ養分を送るやどりぎが伸びていた。
それが一度脈打つと、フシギダネがゆっくりと立ち上がる。
『しっ失礼!……イワーク戦闘不能! 勝者! 挑戦者レッド!』
『うおああああああああああああああああ!!!』
「勝った…‥? 勝った……!! 勝ったぞ!!」
レッドがフシギダネに駆け寄って抱き上げる。
「やった……!!」
「おめでとう。レッドくん」
「タケシさん……」
イワークを戻したタケシが歩み寄る。
「こんな清々しいバトルは久しぶりだった。おめでとう。君にジムリーダーが認めた証、グレーバッジを進呈しよう」
「あ、ありがとうございます!」
レッドは副品としてがまんのわざマシンも受け取る。
「俺、こんなに楽しいバトル初めてでした。ジムリーダーのポケモントレーナーって、本当に憧れます」
「憧れ、か」
「だって、イシツブテもイワークとも息ピッタリだったじゃないですか。俺も、そんなトレーナーになれるように、頑張ります!」
「……ありがとう。君のフシギダネの扱い方も見事だった。誰かに教わったのかい?」
「教わったってほどではないんですけど……でも、今の戦い方見たら、優雅じゃないって言われそうです」
「優雅……?……!!」
草ポケモンを優雅なんて言う人は、タケシには一人しか思い浮かばない。
「言い師に巡りあったようだね。タマムシまで気が抜けないな」
「はい、それじゃあ」
「ああ、いい旅を」
-
39 : 2014/07/14(月) 22:36:31.36 -
少年はまた駆け出していく。
しかし去ろうとするタケシに対し、歓声と拍手がなりやまない。
それを見て、ハナダのおてんば娘は微笑んでジムを後にした。
ジムのトレーナーたちがタケシに駆け寄ってくる。
「タケシさん、俺、俺」
「皆、話したいことがある」
ポケモンバトルで、ポケモンとの絆を証明している者達がいる。自分もそのうちの一人になりたい。熱いバトルを通して。
「書類を片付けたのが無駄になってしまうが、どうか俺を、ジムリーダーとして鍛えさせてもらえないか。まだまだ、ジムリーダーとして学ばなきゃいけないことがありそうなんだ」
「……!!」「もちろんです!!」「やった!! タケシさん!!」
『タ・ケ・シ・!』『タ・ケ・シ!』『タ・ケ・シ!』
(ありがとう、レッド。君ならばきっと……!)
またひとり、ポケモントレーナーとして新たな扉を開く。
レッドの旅はまだまだ続いてく……。
-
44 : 2014/07/15(火) 22:41:42.84 ID:jtHkzUs+0 -
「おーし皆、集まってくれ」
オツキミ山のニビシティ側麓にある草むらの中、レッドはフシギダネ、コラッタ、ポッポ、バタフリーといった手持ちのポケモンたちをモンスターボールから外に出していた。
「俺達の新しい仲間だ。出てこい! コイキング!」
光とともに跳ねまわる魚影。地上におけるその姿は川から打ち上げられて身悶える魚の姿そのものでしかない。
「こいつはコイキング! 技は今は……攻撃技じゃない"はねる"しかないけど、俺達にとって貴重な水ポケモンの仲間だ。レベルアップして水の技を覚えれば、岩ポケモンの多いオツキミ山できっと活躍してくれる。皆サポートよろしくな!」
レッドの言葉にポケモンたちがそれぞれ鳴き声を上げて答える。皆レッドに大事に育てられて強くなってきたことをわかっており、新しい仲間のサポートにも理解を示してくれているようだった。
「さて、それじゃあオツキミ山の入り口を少し探索してみようか。ポケモンセンターにもよって、もう一度あの人にお礼を言っておこう」
ポケモンが500円で売っている。しかも草むらでは中々お目にかかれない水ポケモンということもあり、レッドはすぐに心惹かれコイキングを購入した。純粋な少年は売ってくれた男性に対して深く感謝している。
(あれ、なんだろ?)
ポケモンセンターから複数の警察であるジュンサーが複数人現れ、布を被せた男を連れて行っている。
「あいつ、ポケモン売買の許可証を持たずにポケモンを販売してたのよ」
「え」
-
48 : 2014/07/15(火) 23:44:36.72 ID:jtHkzUs+0 -
(絶対に勝てない相手……)
『やい、泣き虫レッド!』
「……あきらめない。例え一時的に逃げることや、落ち込むことはあっても、でも絶対勝ってやるって、頑張るかな」
レッドの顔は真剣そのものだった。
「今は、一緒に頑張ってくれる仲間もいるしね」
そして手に握るモンスターボールを見てほころんで笑顔になる。
カスミはレッドの答えに高翌揚していた。
「うん、そうよね。私やっぱりレッド君のこと、好き」
「え!?」
「ポケモントレーナーとして、ね。そういう風に頑張れる人が、私は好き」
「あ、ああ、そういうこと」
レッドはいつになくどぎまぎしていた。
「……」
「カスミさん?」
(……)
-
49 : 2014/07/15(火) 23:46:21.61 ID:jtHkzUs+0 -
ハナダジム、カスミ達4姉妹がジムリーダーになったばかりの頃。
「カスミ! いい加減にしなさい! もう勝負はついていたわ!」
泣きながらジムから走り去った挑戦者に見向きもせず、カスミは姉の声に苛立っていた。
「はあ? 相手のヒットポイントは残っていたわ。そこに全力で技を放って何が悪いの?」
「相手に降参する隙を与えなかったでしょう。最初の一撃で力の差は明らかだったわ。相手もあきらめてた」
(くだらない)
「それがなに? ポケモントレーナーだったら最後の瞬間まで勝利を目指すのは当たり前でしょ?」
「ポケモンは戦いの道具じゃない。私達と同じ生き物なのよ。ポケモンとの正しい付き合い方、自分達の力量を把握して正しい決断をするのもトレーナーの仕事。そういうトレーナーとして必要な事を教えるためにジムがあるのよ」
「冗談じゃないわ! ポケモンバトルを行うトレーナーなら常に勝利が一番大事。お姉ちゃん達がそんな甘い考え方だから、私に一度も勝てないのよ」
「カスミ!!」
「スターミーも言ってるわ。もっと強い敵を圧倒的に倒す。……ジムリーダーになればカンナさんに近づけると思ってたけど、とんだ勘違いだったみたいね」
「カスミ、待ちなさい! カスミ!」
-
55 : 2014/07/17(木) 00:16:33.78 -
「行けっ!ズバット!!」「イシツブテ!」
「行きなさい! ヒトデマン!」
「行け! コイキング!」
『えっ!?』
驚愕。この状況でレッドが繰り出したのはコイキング!
「ぶっはははあははっは!!! なんだそのポケモンは! やけくそか!?」
「兄貴ぃ! 楽勝じゃないっすかあ!」
「れッレッド! 今はレベル上げなんてしてる場合じゃないのよ!?」
「ふざけてなんかないさ」
レッドは大真面目だった。帽子から垣間見える鋭い眼光にレッドに対していたロケット団の笑い声が止まる。
「……ほう。なら存分に痛めつけてやる! ズバット! きゅうけつ!」
「レッド! もうっ!」
「やっちまえ兄貴!」
(すぐにこいつを倒してレッドの援護に向かわなきゃ!)
カスミからすればレッドが何を考えているかわからない。幸いイシツブテを出したこの相手は大したことなさそうだった。
-
73 : 2014/07/18(金) 23:33:32.14 ID:83B6E8Xo0 -
「そこだフシギソウ!」
「フシ!」
フシギソウが木々から落ちる葉っぱをつるのムチで正確に撃ち落としていく。
豪華客船サントアンヌ号が停泊する港町クチバシティ。レッドは3個目のバッチ、クチバシティジムへの挑戦のため郊外でポケモン達とトレーニングを進めていた。
「OKだフシギソウ。少し休憩にしよう」
「フシー」
レッドは地面から突き出た木の根に腰を下ろし、フシギソウにポケモンフードを投げた。フシギソウは元気に口で受け取る。
レッドの気分は期待で高翌揚していた。ニビのタケシ、ハナダのカスミ、二人共ポケモン達と強い絆で結ばれている素晴らしいポケモントレーナーであり、そのバトルは非常に心躍るものだった。
クチバシティジムリーダーとはどんなポケモントレーナーなのか、どんな熱いバトルができるのか。今から楽しみで仕方がない。
「わあ、すごい!」
「ポケモンだぁ!」
「ん?」
「フシ?」
レッドよりも背の低い男の子と女の子。二人はフシギソウの事を物珍しそうにキラキラとした目で見つめている。
-
83 : 2014/07/20(日) 01:48:25.49 -
「ミーのライチュウの10万ボルトは凄いパワーを持ってるネ! 足が止まれば、エレキトリカルカーニバルネ!」
「まずい! フシギソウ! はっぱかったー!」
「フッ……!?」
(ダメだ! しびれて動けない)
「今度は直撃ネ! ライチュウ! 10万ボルト!!」
「ラー……イィ!!」
「避けろ、フシギソウ!」
無情だ。レッドの悲鳴は意味が無い。
「フシィァァァ!!?」
フシギソウに10万ボルトが直撃する。草タイプは電気技に強いとは言え、強烈な一撃にフシギソウの悲鳴が響く。
「ああっ!」「フシギソウ!」
観客席の二人の子供の声が木霊した。それだけじゃない。
「一気にとどめね! ライチュウ! 10万ボルトワンモア!!」
「くっ……フシギソウ! つるのムチ!」
しかしつるはライチュウに伸びず、10万ボルトがまたもフシギソウに直撃する。
「フシィィィ!?」
(耐えてくれ! フシギソウ!……この声は!?)
『……なんてかわいそう』『やっぱり野蛮ねバトルなんて』『会長に言われてきたが、これはよくない』
「ほら二人共、帰るわよ。ポケモンが苦しむところなんて見てどうするの」
「え……でも」
「ん………」
(レッド君……)
会長は何も言わず、戦況を見つめている。
-
91 : 2014/07/20(日) 02:00:56.30 -
クチバシティジムを出ると、レッドは旅支度を整えてクチバシティの端に来ていた。
「もう、行っちゃうの?」
見送りには少年と少女、そしてポケモンだいすきクラブの会長が来ている。
「ああ、まだまだ新しいポケモンと冒険が待っているんだ。またクチバシティに寄ることもあるだろうから、その時は……」
「違うよ」
「え」
「私達、こことは遠い場所の出身なの、明日、サントアンヌ号で帰っちゃう」
「そうだったのか……。じゃあこれならどうかな」
レッドが二人の手を握る。
「俺はここで、誰よりも強いポケモントレーナーになって有名になる。そしたら君たちもポケモントレーナーになって名を挙げるんだ。そうすればどこに行ったってお互いの事がわかるし、会うことができるだろう?」
「そっか」
「うん、そうだね」
「……っと。そいういえば二人の名前を聞いてなかったな。聞かせてくれないか?」
「ブラック!」
「私はホワイト」
「ブラック、ホワイト。俺は絶対に、二人を忘れないよ」
「「うん!!」」
-
99 : 2014/07/21(月) 00:44:40.71 ID:r4w0sd270 -
シオンタウン。そこはイワヤマトンネルの先にひっそりと軒を連ねる小さな町。
目を引くのはカントー地方全体を見ても一二を争うであろう高さを誇る、ポケモンタワー。
(タケシさんと特訓したり、カスミを自転車の後ろに乗せて遠乗りに行ったりで、妙に時間がかかってしまった)
イワヤマトンネルを悪戦苦闘の末に突破したレッドは、自転車を降りてこの小さな町が放つ異様な雰囲気に戸惑っていた。
(なんだか、寂しげなところだな……。とりあえず、今日はこの街で一泊しよう)
「おや、旅の方かい」
「!?」
静かな町で不意に穏やかな声で話しかけられたために、レッドは珍しく体をびくつかせた。
しかし見れば、話しかけてきたのはこれまた声と同じく穏やかそうな御老人。レッドは向き直り、
「はい、マサラタウンから来たレッドと言います」
「おや、マサラ……つい先日もマサラタウンからポケモントレーナーがこの町に訪れたよ」
「え」
マサラタウンのポケモントレーナー。レッドの頭に浮かぶのは一人しかいない。
「その様子だと、君のお知り合いかな」
「ええ多分。そのポケモントレーナーの名前って……?」
「すまんねえ。その子は名乗らずにさっさと町を出て行ってしまったんだ。お礼を言いたかったんじゃが……」
「その子って俺と同じぐらいの年頃で、茶髪でツンツンとした髪の子ではありませんでしたか?」
「おおそうじゃ。その子の名前を教えてくれんか?」
「……グリーンです。オーキド博士の孫の……」
レッドは努めて落ち着いていった。レッドの心には、まだグリーンへの複雑な感情が残っている。
-
101 : 2014/07/21(月) 00:48:39.60 ID:r4w0sd270 -
「話の続きじゃったな。レッド君は、ポケモンタワーには行ってみたかな?」
「いいえまだ。ポケモンタワーとは一体どういうところなんです?」
「ポケモンタワー、あれはポケモンたちのお墓じゃ。死んだポケモンたちを埋葬し、安らかな眠りにつく場所なのじゃ」
レッドが家の窓からポケモンタワーを眺める。
「そうなんですか……。それで、グリーンは」
「事の始まりは、あのポケモンタワーをロケット団が占拠したことから始まる」
「ロケット団……! でも、ポケモンのお墓を占拠って……?」
「狙いはわしじゃった。昔わしはポケモンの研究に携わっていてな。ロケット団はわしの知恵を必要としていたのじゃ。しかし愚かにもわしがそれに気づいたのは、占拠をやめるよう単身乗り込み、奴らに捕らえられた後じゃった……」
遊んでいたニドリーノとコダックが、部屋の隅に置かれていたぬいぐるみに近づく。いや、ぬいぐるみではなかった。
部屋に入ってからぴくりとも動かなかったため、レッドは勘違いをしていた。
茶色い小さな体に、頭に被ったポケモンの頭部の骨、そして手に持つホネこんぼう。
そのポケモンはニドリーノに小突かれて遊びに誘われていたが、悲しげに声を出すだけだった。
「カラァ……」
「あのポケモンは……?」
「ポケモンタワーには野生のポケモンが住み着いていてな。その内の一匹のカラカラじゃ」
カラカラはニドリーノに応えない。しばらくすると、また部屋の隅で背を向けて動かなくなった。
「……あのカラカラの親のガラガラは、ロケット団がシオンタワーを占拠した時に、奴らに殺さたんじゃ」
「!」
-
102 : 2014/07/21(月) 00:53:38.82 ID:r4w0sd270 -
「わしはそれを見ていることしかできず、挙句の果てに捕らわれて奴らに連れて行かれるのも時間の問題じゃった。しかしそこで助けてくれたのが、マサラタウンから来た少年、グリーン君じゃった」
「あのグリーンが……」
レッドはグリーンとはトキワシティで戦って以来会っていない。ポケモントレーナーとして旅は続けているだろうと思っていたが、まさかこんな人助けをしているとは……。
(……いやグリーンだって、目の前でこんな事が起きればロケット団を許せないだろう。けど、やっぱり驚いたな……)
「わしはロケット団が拠点を作っていたシオンタワーの最上階で捕らえられていた。グリーン君がやってきたのは、大勢いたロケット団が野生のポケモンを痛めつけていた時じゃ……」
数日前のシオンタワー最上階。そこでは多くのロケット団員が、縛り上げられたフジ老人をにやついた目で見下していた。
「まったく手間取らせやがって。あんまりにも来るのが遅いから、この辺のポケモンを暇つぶしに狩り尽くしちまったぜ」
回りにはシオンタワーに住んでいたであろう多くのポケモン達が倒れている。
「経験値をかせぐならここまで痛めつける必要はなかろう! 野生のポケモンといえども殺していいはずはあるまい!」
「俺たちロケット団は悪事を働いてなんぼ。人だろうがポケモンだろうが、ロケット団の行動一つ一つに全ては恐れおののくさ」
倒れ伏しているガラガラに、その子であろうカラカラが泣きついている。
「こんなふうにな!!」
ロケット団が手持ちのポケモンをけしかけ、泣きじゃくるカラカラに迫る。
「やめるんじゃ!!」
その攻撃はカラカラに届かなかった。ガラガラが最後の力を振り絞って立ち上がり、カラカラを庇ったのだ。
庇ったガラガラは壁にたたきつけられ、今度こそ完全に動かなくなった。
「なんてことを……!」
「はっは! よかったじゃないか死んだのが墓場で。埋葬にも時間を取らないぜ」
「そうだな。ここには墓石もたくさんあるし、新しく人が埋葬されたって構いやしないよな」
「!?」
聞きなれない少年の声、ロケット団員達は一斉に階段の入り口に振り返る。
-
108 : 2014/07/21(月) 01:05:59.50 ID:r4w0sd270 -
「カラァ……」
カラカラがその墓の前で止まる。目には涙があふれ、寂しげな鳴き声が響く。
(カラカラ……)
「レッド君、これを」
「あっ」
レッドはフジ老人から献花用の花を託される。
「……カラカラ、祈ろう。ガラガラの安らかな眠りを……」
レッドはカラカラと合わせた手の間に花を差し込み、共に墓へ供える。
レッドはゆっくりとカラカラの手を離すと、カラカラは上を向いて、叫んだ。
「……カラー! カラー! カラー! カラー! カラー!……」
母へ捧げる雄叫びが、いつまでもシオンタワーに木霊する。あの日、カラカラが母を失った時から続く悲しみを受け止めるための、最初の一歩だった。
レッドは程なく、旅立ちの時を迎えた。カラカラはもう、一人でちゃんと立っている。
「色々ありがとうございました。フジ老人」
「礼を言わなければならないのはこちらじゃよ。元気でな」
「はい、カラカラ、また会いに来るよ」
レッドは体勢を低くしてカラカラに視線を合わせ、頭骨をかぶる頭をなでた。
しかしカラカラはその撫でる手を無視し、レッドの服の裾を掴んで離さない。
「カラカラ?」
「……連れて行ってくだされ。カラカラはあなたについて行きたいようじゃ」
「えっ!? そうなのか、カラカラ……?」
「カラァ……」
その瞳が、レッドを真っ直ぐに見つめる。
「グリーン君が来た時にはわしから言っておこう。信頼できるトレーナーに託したとな」
「……わかりました。それじゃあフジ老人、お元気で」
「レッド君とカラカラも息災でな。カラカラに広い世界を見せてやってくれ」
「はい。行こうか、カラカラ」
「カラ……!」
カラカラの手を引いていく。今度は共に旅を歩む仲間として。
そしてレッドはカラカラへの優しさと、今もなお先を行くライバルを想い、前を向いて一歩一歩新たな冒険へと足を踏みしめていった。
-
113 : 2014/07/21(月) 23:37:09.62 ID:r4w0sd270 -
マサラタウン、レッド旅立ちの日。レッドは自室で荷物をまとめ、最後にパソコンの電源を落としていた。この部屋に帰ってくることは、当分ないだろう。
(行ってきます)
快く送り出してくれた母に感謝し、町の外へ繋がる草むらに向かう。
レッドが現時点で知る最高のポケモントレーナーは、その場所でレッドの見送りに来ていた。
緑と赤を基調とした袴姿の淑女。それでいて少女と言っても過言ではない艶のある黒髪のボブカットと可憐な唇と瞳。
「エリカさん、ありがとう。僕はフシギダネと一緒に……立派なポケモントレーナーを目指します」
「ええ。期待していますよ」
穏やかな微笑みと共に可愛らしく首をかしげる。レッドはドキンとした胸の高鳴りに戸惑いながら、紅くなった顔を隠すように帽子のつばでエリカの視線をさけた。
しかしそんなレッドをお構いなしに、エリカはレッドに数センチというところまで近づき、レッドの両肩を優しく掴んでほぐす。
「力を抜いて……。旅は長く、つらいこともあるかもしれません。それに奮起するのもよし、けれど人に頼ること、ポケモンに頼ることも忘れないで。あなたは決して、一人ではないのですから」
「……うん」
レッドは立派な敬語を言えたものではなかったが、エリカは気にしなかった。ポケモントレーナーとして高みを目指す同士、彼とは近い関係を望んでいる。
「セキエイ高原へ行く手順は大丈夫ですか?」
「うん。各地のジムバッチを8つ集めるんだよね。エリカさんも、セキエイ高原を?」
「……いいえ」
意外だった。彼女がレッドの指導の中で見せてくれた草ポケモンの扱い方は、初心者のレッドから見ても凄まじい練度であることが見て取れたからだ。
「各地にはポケモンと様々な付き合い方をしている方たちがいます。私もその一人……例えポケモン達と戦いに赴く身でも、目指すものはセキエイ高原とは限りません」
「……」
レッドには想像もつかない。一体彼女は、どうしてポケモンバトルをしているのだろう。
「私はタマムシシティにいます。レッドさん、あなたがその町に来るとき、私がどこであなたを待っているのか、わかってくれるのを期待していますよ」
彼女の声は優しさに満ち、それでいて人を発奮させる魅力と愛が込められている。レッドはその全てを飲み込んで心体に循環させ、前を向いた。
「……はい」
「それでは、行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
-
114 : 2014/07/21(月) 23:39:10.39 ID:r4w0sd270 -
街を見下ろせる丘でレッドは目をつむっていた。そして今、傍らのフシギソウと共にゆっくりと目を開く。
眼下にあるはタマムシシティ。そこはタマムシデパートやマンションが存在感を放つ、栄えある街。「……ついに来たな。フシギソウ」
「フシ!」
ポケモントレーナーの最初の扉を開く、その時に背を押してくれた人がこの街で待っている。
レッドの心には熱い感情が二つ渦を巻いて高揚している。新しいバトルへの期待。そして大切な人に自分の成長を見せたい。
戦力も心も整えた。あとはあの人に恥ずかしくないようなバトルをし、仲間たちと勝利を手にするだけ。
(あの人が待っている場所は、きっと……!)
タケシ、カスミ、マチス。彼らとの熱い戦いの経験がレッドに囁いている。レッドは叫び出したい気持ちを懸命におさえながら、フシギソウと共に彼女が待つ場所へと向かって走りだした。
タマムシシティジム。そこは草木に囲まれ、このジムがどのタイプを司るのか外観から物語っていた。
レッドとフシギソウはそれを前にしてごくりとつばを飲む。
「……」
レッドは扉のドアノブを掴む。逡巡する理由はない。この先であの人が……!
「あれ、挑戦者の方? エリカさんいないよー」
と、がっくりとバランスを崩しドアに頭をぶつけた。なんて軽い声色で確信を持つことになろうとは……。
「なにやってんの?」
レッドに話しかけたジム所属のミニスカートの少女はレッドの行動を訝しげに見つめる。
「……ええと。ジムは今日お休みですか?」
「ちょっとジム戦だけ臨時休業なのよ。エリカさん、今ロケットゲームコーナーにどうしても外せない用事があるみたいで。あっこれ言っちゃいけないんだっけ? まいいや」
「ロケットゲームコーナー……?」
レッドは不思議がった。ロケットゲームコーナーをレッドは知らないが、名前からしてどういうところかは想像できる。
エリカがゲームコーナーに……彼女の外観からすれば、ちょっとミスマッチに過ぎはしないか。
-
115 : 2014/07/21(月) 23:41:00.26 ID:r4w0sd270 -
(ロケット……まさかね)
「わかりました。それじゃあまた出直します」
「ごめんね~」
さて、出鼻をくじかれた形になったが仕方がない。レッドは一気に退屈そうになったフシギソウをモンスターボールに戻し、これからどうするか検討する。
(幸い時間を潰せるところは多そうだな。エリカさんが行ってるロケットゲームコーナーが気になる……)
どこから行くか。タマムシデパートの品揃えも気になるが、特別な用事があるわけじゃない。
(やっぱり気になるな、ロケットゲームコーナー。ここから行こう)
ジムから歩き程なく到着すると、レッドは見たことない喧騒空間に驚いた。ロケットゲームコーナーの内部に鳴り響くゲーム音とコインの音、そして人の歓声。
ゲームを一通り見てみたが、どうやらエリカはいないようだ。次いで壁に貼られた張り紙とポップを見る。
(コインでポケモンの交換も行ってるんだ……。ストライク、ポリゴン、聞いたことないポケモンだ)
そういえばこういったゲームはグリーンが得意だったなと、レッドは思い出してくすりと笑った。協力ゲームでは常にレッドをリードして助けてくれた……。
(あ、今俺……)
グリーンの事を思い出して明るい気持ちになれたことなど、かつてあっただろうか。レッドは手持ちのカラカラの入ったモンスターボールに手をやる。
(早く追いこさないとな。カラカラ見たらどんな顔するだろう)
先を行くライバルを思いながら、レッドはゲームコーナーの端にたどり着く。
(特にこれといって変なところはなかったな。エリカさんもいないし、少し遊んでくか……? あれ?)
-
116 : 2014/07/21(月) 23:43:03.45 ID:r4w0sd270 -
レッドが視界の端にとらえた、黒い制服。オツキミ山で見覚えがある。
(まさか!?)
レッドは駆け出す。黒い制服の男は遊ぶ人とゲームの間を慣れた様子でぬって進み、ゲームが立ち並んで死角になっている場所へと進んでいった。
(あそこはポスターが貼ってあるだけでなにもない!)
レッドはやつを追い詰めたと確信し、曲がり角を曲がってロケット団が入っていった死角を視認した。
「え……!?」
ロケット団員が消えた。そこには壁にそって貼られたゲームポスターしかない。
(馬鹿な!? 奴は一体どこへ……!?)
驚愕しているレッドをよそに、一枚のポスターの端がペラリと剥がれる。
「……?」
レッドは気になって、一部が剥がれたポスターに手をやった。
(裏に何かある……?)
少し力を入れて剥がす。するとそこにあったのは一つのスイッチ。
「……」
レッドは恐る恐る押して見る。ポチっと音がなったあと、スイッチがあった壁の一部が横にスライドしていく……。
現れたのは下へと続く階段。
(ロケットゲームコーナー。エリカさんの臨時休業。消えたロケット団員……)
レッドの脳裏に描かれる予想絵図。ポケモンとの絆を説いたあの人が、故郷に巣食う悪を許せるだろうか。
(……行こう)
この先で、今何かが起こっている。
-
121 : 2014/07/23(水) 21:55:52.06 ID:o5khsuYE0 -
階段を降りた暗闇の先。そこが悪がはびこるロケット団のアジトということは、フロアに点在する黒い団員達の姿ですぐにレッドは理解できた。しかしレッドは警戒よりも、戸惑いの方が大きかった。
(皆寝てる……? 手持ちのポケモンは出してるみたいだけど……どういうことだ?)
あるものは地ベタで、あるものは椅子に座って。ポケモンを出していても主人ポケモン共々深い眠りに落ちている。
(……)
いつどこでなにが出てくるかわからない。レッドはフシギソウを出して周辺を警戒したが、人の話し声や動く音は聞こえず、ただ寝息しか聞こえてこない。
(あそこのエレベーターで下に行けそうだな。お)
よく見れば先ほどレッドが追っていた男が道端で寝入っている。しかも倒れた拍子にだろうか、ポケットからエレベーターで使うであろうカードキーが覗いている。
(ラッキー)
「うわ!?」
レッドが取りに行こうとした瞬間、フシギソウがレッドの前をつるで制する。
「どうしたフシギソウ?……!」
これ以上進んではならないとフシギソウは暗に言っている。皆寝入っているこの状況、そして争った形跡はない。
フシギソウはレッドを見ながら鼻を鳴らす動作をしたあと、花粉を舞い散らせるかのように背の蕾を揺らす。その動作のおかげでレッドは気づいた。
「ねむりごなが漂っている……。行け、ピジョン。ふきとばし」
ピジョンが男の周りの空気をふきとばすと、フシギソウもつるを降ろした。レッドはピジョンとフシギソウの頭をなでカードキーを手に取る。
エレベーターに差し込むとすぐに動き出し、レッドは乗り込んで地下へ降りていく。
(フシギソウが気づいたことから、草ポケモンによるねむりごなだろう。やはり、エリカさんか?)
-
124 : 2014/07/23(水) 22:02:06.57 -
「イワーク、いやなおと」
「フシギソウ、つるのムチ!」
(このまま攻めきってやる!)
「いい攻めだ。思い切りがある。イワークは捨て石にするかな。いやなおと」
「捨て石だと……!?」
タケシならば絶対に言わないし思わない。
(こんな奴に負ける訳にはいかない!)
「フシギソウ、やどり」「戻れ、イワーク。行け、ガルーラ」
「なっ!?」
「れんぞくパンチ」
「フシっ!?」
流れるような攻撃だった。イワークの戻り際もガルーラを出すタイミングも、そして攻撃に移るタイミングも一切のムダがなく、フシギソウが乱打を浴びて一瞬で地に沈む。
奇しくもレッドが学び信奉してきた、ポケモンとトレーナーの連携が為せる技だった。
「くっ戻れ! 行け、ギャラドス!」
「それが切り札か? 少し期待しすぎたか」
「ぬかせえ! かみつく!!」
「ガルーラ、かみつく」
-
128 : 2014/07/23(水) 22:08:03.03 ID:o5khsuYE0 -
今、ラッタは何をしている? 焦る主人に戸惑っているのか? レッドと同じく戦意を無くしたのか?
(ラッタは待っている。俺の命令を。俺を待っているんだ。俺に信頼を寄せ、勝利を勝ち取るために、俺の命令を待っているんだ)
「ははっ」
レッドは下を向いて吹き出す。本当にかっこ悪いところを見せてしまった。
そしてレッドは顔を上げる。もう、恥ずかしい姿は見せてられない。あの人にも、自分を信じて待つ仲間にも。
そしてサカキのガルーラの動きを冷静に把握し、レッドはラッタに命令を下した。(奴の動きが鈍くなったな。万全を期させてもらおう)
「ガルーラ、回復だ」
「ガルっ」
ガルーラがサカキの近くに寄り回復を施される。この距離ならば攻めにきたラッタを充分に迎撃できる。
サカキからすれば、少年にさらなる絶望を与えるためのデモンストレーションも兼ねていた。
(さあ、どんな命令を下したか……ん?)
ガルーラの回復が終わったが、ラッタが攻撃にこない。
「ラッタ、きあいだめだ」
(ほう……こちらの回復をみこし、唯一のくもの糸を見つけたか。確かにラッタの火力を考えればそれしかない。自棄にならなかったのは評価しよう)
-
140 : 2014/07/24(木) 23:43:38.62 -
ロケットゲームコーナーはこの後通報したレッドによって、地下で睡眠をとっていたロケット団員のほとんどが御用となった。
しかし当然、その中にサカキの姿はなかった。
エリカが単身乗り込んだのは、突入を図る治安機構からロケット団員への密告者が出ても手遅れにするためだったらしい。ロケット団員が街で大手を振って稼ぐゲームコーナー、街の有力者に賄賂が及んでいることは想像に難くない。
そのための草ポケモン達によるねむりごなの罠によって、エリカの思惑は8割方成功したと言えた。ただ最後、サカキに敗れるまでは……。
エリカが受けたのはサカキが使ったニドクインからの毒針だったらしい。しかしエリカは草のエキスパート、草ポケモンは毒タイプとの複合タイプが多く、解毒は自家製漢方薬で済ませてジムに出向いた。
レッドとタマムシジムの所属トレーナーは、まさかエリカはポケモンの技を受けた身で即日ジムを再開するのかと勘違いしエリカに思い直させようとしていたが、それは杞憂に終わった。
「皆さんありがとう。ここには今日忘れ物を取りに来ただけですから、どうか安心してください。ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
エリカは深々とジムのトレーナー達に頭を下げる。
「謝らないでくださいエリカさん!」「エリカさんが無事でよかった……!」「街では既に悪を打ち倒したエリカさんって話題が持ちきりですよ!」
エリカの薫陶を受けてきたジムトレーナーの女性たち。皆一様にエリカの無事と功績に歓喜している。
「でもー、私達に心配かけるのはこれっきりにしてくださいね! 大事な私達のリーダーなんですから!」
レッドにエリカの行く先をもらしたミニスカートの少女がぴしゃりとエリカに言う。エリカも申し訳無さそうに今一度謝罪した。
そしてミニスカートの少女はレッドにウインクする。
(あの時言ったのは、わざとだったのか?)
レッドが驚いていると、エリカが用を済ませたのかレッドのそばまで来る。
「今日は本当にありがとうございました。あなたが来なければ、私はどうなっていたか……」
「いえそんな! ぼ……俺が勝てたのは、エリカさんのアドバイスがあったからだよ。"落ち着いて"って。それがなければ、俺は大切なものを失っていた……」
「レッドさん」
エリカはレッドにさらに近づき、レッドの手を取り両手で包む。
-
143 : 2014/07/24(木) 23:50:21.95 ID:eB1pESsT0 -
明くる日。
(ジム戦は休みか……)
「レッドさん、申し訳ありません……」
「そんな、むしろ当然だよ」
「そうですよー。ジムに来るのだって心配なのに」
ミニスカートの少女がエリカをジト目で見る。ジムのスタッフ達の判断で、タマムシジムのジム戦はエリカの大事を取り今日も休みとなった。
それでもなんとかエリカはスタッフに掛け合い、せめてトレーナーたちへの簡単な指導だけでもと譲らなかった。
結局スタッフたちが折れたため、エリカはジムに残りレッドもそれを見守っている。
「今のタイミングを忘れないで。もう一度技を使ってみましょう」
「はい!」
レッドよりも年下の少女が今エリカの指導を受けている。
「エリカさん! ちょっとお手本見せて」
「ええ、もちろん……」
エリカが少女に変わり、ポケモンの前に立つ。すると……。
(エリカさん……?)
レッドはすぐにエリカの異変に気づいた。エリカが声を出そうとした状態で呆然としたように固まっている。
「……は、はっぱカッター」
「わあ! エリカさん、ありがとう!」
少女は自身のポケモンに駆け寄ってあやす。エリカのそばに寄ったレッドの顔はひどく心配そうだった。
「エリカさん、あなたは……」
「大丈夫です」
エリカは振り向き、レッドへ微笑む。
「大丈夫」
そう言われてしまっては、レッドはエリカを見ているしかない。
「エリカさーん! モンスターボールの投げ方教えて!」
また別の少女が、エリカに羨望の眼差しを向けながらポケモンの捕獲方法を乞う。既に街中にエリカの功績が知れ渡っていたから、新しくジムに来る子供が大勢いた。
「ええ。まず相手を弱らせたあと、ボールを握って……」
エリカが少女からモンスターボールを受け取る。しかし、なんでもないはずの動作の中で、エリカはボールを落とした。
彼女の手が、震えている。
「ご、ごめんさい。相手を弱らせた後に、ボールをこう握って投げます。ボールを当てる位置も気をつけて」
「はい!」
(……)
レッドはその一部始終を見ていた。険しい顔になり、覚悟を決めた顔になる。エリカはジム戦の再開を明日にすることをジム関係者に告げ、レッドを伴い笑顔で帰路についた。
-
168 : 2014/07/27(日) 23:19:59.49 ID:xw084IU10 -
レッドは格闘道場を後にする。そのあと、罪悪感に満ちた顔をした空手王達の背後の物陰から、赤いRの文字が書かれた黒い制服を着た男があらわれる。
「はは、お前ら役者になれるぜ。よくやった」
「……これでいいんだろう。早く俺達のポケモンを解放してくれ!」
「ああ。全てが終わったら無事に解放してやるよ」
「なっ!? 約束が違う!!」
「おいおい、こっちは作戦の途中でこれは作戦の一部だ。約束が違うなんて場違いな事言わないでくれよ。……人質を取っているのを忘れるな」
「くっ……」
空手王の言っていることはほぼほぼ真実だった。彼らが敗北した後、人質によってロケット団の言いなりになっていることを除けば……。
(すまない……少年!……どうか無事で……)
しかしレッドはそんなこと知るよしもなく、シルフカンパニーの前まで来た。
遠慮の必要はない。レッドは初めて6体全てのポケモンを出現させ、突撃体勢をとる。
レッドを中心に囲むのはフシギソウ、バタフリー、ギャラドス、ピジョン、ラッタ、カラカラ。
「行くぞ皆。……ポケモントレーナーとポケモンの絆にかけて、ロケット団を倒す!」
レッドのポケモン達が一斉に雄叫びを駆け出す。それを見たシルフカンパニー入り口にいた多くのロケット団が驚愕する。
(エリカさんの想いを受け取った今の俺が、負ける訳にはいかない! この街とナツメさんを救い、サカキを倒す!)
レッド達のやる気と正義が全て筋書きであることは、彼らはまだ知らない。 -
174 : 2014/07/28(月) 23:24:35.69 ID:rKEPeYO40 -
シルフカンパニービル前は荒れに荒れていた。
「ラッタ、でんこうせっか! カラカラ、ホネブーメラン! バタフリー、サイケこうせん!」
「うわあ!? なんだこいつは!?」
「援軍だ! 人をこっちに回せ! 止まんねえぞ!」
水流とサイケこうせんが相手を押し流し、ホネブーメランが飛んでは相手の飛行ポケモンを撃ち落とし、つるが地面を砕き葉っぱが敵を切り裂いていく。
1階ロビーから出てきたロケット団員達が次々にポケモンを繰り出すが、レッドはお構いなしに攻撃を続ける。
「くそ! 俺のポケモンがぁ!」
「引け! 引けぇ!」
(よし、ポケモンが倒れたら引いてくれる……)
人に攻撃を向ける気がないレッドからすればありがたい。しかし、逆に言えば彼らにとっては戦いにおいて人にポケモン技を向けるのが当然ということでもある。
(サカキもエリカさんを……! いや、その怒りは後だ)
「ピジョン、ふきとばし!、ギャラドスたたきつける!」
二匹のポケモンが一気に敵をなぎ払う。ロケット団員達の気勢が削がれた。
「屋外じゃ不利だ! 一旦引くぞ!」
(む、仕方ない。中に入って戦うか)
「いくぞ、皆!」
レッドは小回りが効かないギャラドスを一旦引っ込めて1階ロビーに突入する。
-
182 : 2014/07/29(火) 22:49:26.51 ID:+HCMrRvb0 -
人質に取られたポケモンの救出、その道程には多くのロケット団員達がレッドとナツメを出迎えた。
「一気に行くわ、フーディン!」
「はい、ラッタ!」
四方から襲い来るロケット団員のポケモン達。しかしナツメのサイコキネシスで動きがピタリと止まると、階段への道に近いポケモンをレッドのラッタが速撃して道を開ける。
強行突破のための戦術はピタリとハマり、ナツメとレッドは数分もしない内に二階フロアを踏破し上階へと進む。
「戻ってフーディン。行ってバリヤード、バリアー! これで階段はしばらくシャットアウトできるわ」
「なるほど……。でもエレベーターは?」
登り切った所でナツメがバリヤードのバリアーで下からの階段口を塞ぐ。
「誰かがエレベーターを壊したみたいね。意図はわからないけど……とりあえず階段で先を急ぎましょう」
「ええ。幸いここはロケット団員が少ないみたいですし……」
「……そうね」
ナツメが訝しげな顔をする。(おかしいわね……。1階にいた人数を考えればまだまだ先にいるはず。なにかあったのかしら?)
1階と2階の戦いが嘘のように、3階は誰一人としてレッドとナツメの行く手を阻まなかった。
「この階は誰もいないみたいですね……。ナツメさん、ポケモンたちは何階に?」
「5階よ、油断しないで行きましょう。シルフカンパニーを占拠した時の人数を考えれば、まだまだ奴らが来るはずよ」
「わかりました。……格闘道場の人たちは大丈夫だろうか……」
「……」
レッドの呟きにナツメは答えず、足早に次への階段を登る。
そして4階。
「なっ……!?」
一足先に到着したナツメが4階フロアの光景を見て立ち尽くしている。レッドも後れて見て、驚愕した。
「ロケット団員のポケモンが……全滅!?」
ポケモンがそこかしこに倒れ、そのトレーナーであったロケット団員達はエレベーターに押し固められている。ロケット団員達は皆一様に怯えた表情、無理やり押し込められたのだろう、道理でエレベーターが動かないわけだった。
そんな中4階フロア中央に佇むは一匹のポケモン、そしてトレーナー。
赤き竜リザードン。そして。
「そっちは……ジムリーダーのナツメか。お、レッドじゃねえか!」
「……グリーン!?」
-
185 : 2014/07/29(火) 22:56:34.72 ID:+HCMrRvb0 -
「もう、敵はいないようね。行きましょう。すぐそこよ」
「はい!」
5階フロア、そこにはシルフカンパニーの重役室と会議室がある。
廊下も今までの場所とは違い小奇麗で、あまり人が出入りしたような形跡がない。
(こんなところにポケモンが……?)
「ここよ」
レッドの疑問をよそに、ナツメは社長室と書かれた部屋の前でとまる。
「……よし、それじゃあさっそく」
「レッド君」
「?」
「さっきはありがとう。後ろの敵から守ってくれて」
「…………ナツメさん?」
ナツメはレッドの方を向かず、扉を開けてレッドを誘う。レッドも入るしかない。
「そして」
レッドとナツメが部屋に入ると、ナツメは後ろでにドアの鍵を閉めた。
「ごめんなさい」
「え」
レッドが声を上げると、部屋の奥、社長席の椅子が回転し、座っている人物が露わになった。
鷹の眼光、紳士服の胸のRに強大な悪意を集約させた冷徹なる首領(ドン)、
「ナツメ殿、ご苦労だった。タマムシ以来だな少年。いや、マサラタウンのレッド」
「!?!?………サカ、キ………!!」
-
188 : 2014/07/29(火) 23:05:58.76 -
「当の本人もそれなりに考え、先んじてロケット団に入ることで中から暴力の抑止力になろうとしたのだろう。あくまで傷つく人間が少なくなるようにな。はは、殊勝なことだ」
「……ごめんなさい」
ナツメの謝罪は消え入るような声だった。
レッドの握られた拳は震えている。
「さて、ここまで来たらナツメが君をロケット団に入るよう説得しそうなものだが、それも無駄だと未来視で見えているようだな。ナツメの顔を見る限りは、結果ももうわかっているのかな。どうする少年? それでもバトルをしたいというのなら」
「ナツメさん、質問があります」
「え?」
レッドはサカキを黙殺した。虚をつかれたナツメがつい声を上げる。
「あなたの未来視は、百発百中なんですか?」
「……そうよ。生まれてきてから今まで、外れたことはないわ。レッド君は、負ける」
ナツメが顔を上げる。レッドを見つめるその表情は、レッドを心底心配している、優しい女性のものだった。
「お願い。いたずらに傷つく必要はないわ。私がサカキに口利きするから、どうかレッド君も……」
「ナツメさん。あなたは優しい人だ。フーディンとバリヤードを見ていればわかります。俺がこの旅で学んだことは、ポケモンと硬い絆を結んでいる人に悪い人はいないということ。そしてもう一つは」
レッドが帽子をかぶり直し、モンスターボールを手に取る。
「ポケモントレーナー、それはポケモンと人との絆で、不可能を可能にする人を言うこと。あなたが自分の中の未来視に屈したというのなら、俺が代わりに証明します。超えられない壁はないということを!」
「レッド! 駄目!」
「止めるなよナツメ殿。この少年には私も借りがあってね。どの道バトルは避けられん」
レッドとサカキ、対峙した二人モンスターボールを構えて睨み合う。
「エリカ嬢は息災かな? もうショックから立ち直っているといいが」
「あんたは人もポケモンも見くびりすぎだ。あんたの言うとおり、俺は人を疑うことを知らなかった。だが、あんたが知らない価値あることを俺は知っている」
「ほう? なんだね? 絆とでも言うつもりか?」
「言うつもりさ。わかっていながら見下して笑うのなら、俺が今一度気づかせてやる。俺と、俺の仲間と! このポケモンバトルで!」
「相変わらず口だけは一丁前だ。面白い! ロケット団リーダー、サカキ!」
「…………ポケモントレーナー、レッド!」
二人の声が重なった。
「「バトル開始!!」」
-
220 : 2014/08/01(金) 23:24:55.85 -
ちなみにナツメが部屋の隅にいた。
(…………むう)
「ごほんっ」
「「はっ!?」」
ナツメの咳払いで二人が顔を赤くしながら素早く離れる。
「そろそろ皆を呼んできてもいいかしら?」
「は、はい。よろしくナツメさん」
「ええ、私も後で来るから。またね。そうだレッド」
「はい?」
「レッドが気を失う前にしたあれ。私のファーストキスだから。んっ」
ナツメはウインクしながらレッドへ投げキッスして退室した。
レッドが呆然と見送る。エリカの顔が見えない。
「……事情を聞かせていただいても? レッドさん?」
「い、いや待って!? 一体何のことだか……!?」
「女性の唇を奪っておいて、知らぬふりをするのですか?」
「エ、エリカさん! 本当になんのことだかわからないんだ! 信じて!」
「つーん」
-
222 : 2014/08/01(金) 23:30:29.71 ID:LFnNHA500 -
「さて、皆さん出て行かれましたね。とりあえず今日は私達が最後です」
「そうね」
今部屋にいるのはエリカとナツメ。しかし甘ったるい雰囲気は一切ない。
真面目な顔をしたエリカが話を切り出す。
「レッドさん。怪我をしている所恐縮ですが、正直に言いますね。私は……あなたを病院で見た時、身も心も凍る想いでした。あの時別れてから、こんなにも早く、こんな形で再会することになるなんて……」
レッドもエリカの気持ちがわかる。故に、彼女を心配させてしまった申し訳ない気持ちと、自分の実力のなさが情けなかった。
「心配かけて、本当にごめんなさい……」
レッドも頭を下げて謝罪する。そんなレッドに、ナツメが助け舟を出す。
「エリカ、レッドがこんなことになったのは、私が……」
「そのことについては、特に怒りはありません。ただ一つ別に、私がナツメさんに怒っていることがあります」
「? それは……?」
ナツメには予想がつかない。
「ナツメさん。ポケモン協会に辞表を出しましたね」
「!」
レッドが目を見開いてナツメを見つめる。
「……当然よ。私は街のジムリーダーでありながら、誰よりも早くロケット団に膝を屈した。それだけでなく、レッドを、こんな目に合わせてしまった……!」
「そんな、ナツメさん!! 俺は!」
「レッドさん?」
エリカの笑顔でありながら語気のこもった声にレッドが押し黙る。
しかし、エリカはふっと表情を柔らかくして言葉を続けた。
「その辞表は私がポケモン協会に言って握りつぶしてもらいました。ナツメさんには追って数日の謹慎処分がくだるでしょう」
「エリカ!? 私はもうジムリーダーにふさわしくなんてっ」
「少し黙ってください。レッドさん、ナツメさんはレッドさんに対して罪の意識を感じています。レッドさんはどんな償いをしてほしいですか?」
「償いなんて……あ」
-
223 : 2014/08/01(金) 23:34:06.15 ID:LFnNHA500 -
(そういうことか……)
レッドはエリカの考えを理解した。
「それじゃあナツメさん、俺と今度ジム戦してください。全力でポケモンを操る元気な姿を見せるのが、俺にとっては最大の償いになります」
「……馬鹿。いえ、本当の馬鹿は、私ね……。わかったわ、レッド。ありがとう……」
今までで一番の綺麗なナツメの微笑みをレッドは見た気がした。レッドもつられて微笑む。
「……レッドさん、私からは最後に一言」
「は、はい!」
急にまたエリカの語気が強くなった。レッドは思わず背筋を伸ばす。
しかし、エリカは目を閉じてレッドの手を両手で包むように握り、自身の顔まで持ってきて鼻と唇を軽くレッドの手の甲につける。
「……どんなときでも、無事に帰ってきて。元気でいてください。あなたの体は、決して一人のものではないのです」
「……はい……!」
「……はい、終わり。レッドさん。それじゃあ私はタマムシジムに戻ります。いつまでも空けてはいられないですから」
「はい、また」
「ええ、また。……ナツメさん」
エリカは去り際、ナツメの耳元でつぶやく。
「譲る気は毛頭ありませんので」
「!?」
ナツメが驚いて振り返るが、エリカは気にした風もなく病室を去って行った。
「どうしたのナツメ」
「……いえ、なんでもないわ。レッド、私の謹慎が終わる頃には、体治っているといいわね」
「もちろん! ナツメさんとのバトル、楽しみですから!」
「ええ! 私も、とっても楽しみ……」
レッドとナツメが二人で笑いあう。ナツメは一つ、心に決めた事がある。
(楽しい未来は、予測できないからこそ、ね)
数週間後、レッドは退院と共に向かった先は……。
-
229 : 2014/08/02(土) 00:05:19.06 ID:nhZo4lz60 -
乙
投稿前に一言入れれば問題ないんじゃないかな -
230 : 2014/08/02(土) 00:10:42.10 ID:6jHgy/z40 - 乙! エリカがロケット団に集団レイプされる話が投下されても大丈夫だぜ
-
231 : 2014/08/02(土) 01:40:22.10 ID:md2yo8Vy0 -
このクオリティのラストバトルとか胸熱
オリジンなんてなかったんや! -
232 : 2014/08/02(土) 02:33:07.12 ID:XF6a9AqSo - 過去作や別スレはあるのかな?
-
233 : 2014/08/02(土) 03:52:15.01 ID:KHEWvxpo0 - ギリギリを攻めればいいじゃない
-
234 : 2014/08/02(土) 21:14:33.28 ID:nCvTd7fuO - 一気に読んだが面白かった
-
240 : 2014/08/03(日) 00:44:43.45 ID:cwKbWwke0 -
「逃げようとしても無駄だ。荷物は全てこちらが持っている上、ここは海上。下手な事はしないことだ!」
覆面の男の声に、パンクルックの男たちは怯えた声を出す。ポケモンの技を向けられた事もこたえているのかもしれない。
(この覆面の二人、相当な使い手だ。ジムリーダー達と比べても遜色ないかもしれない。だが……)
レッドが思い出すのは、先ほどのモルフォンとズバットに追い詰められて怯えるパンクルックの男たち。
確かに治安を乱す者達を自主的な活動で捕らえるのは、称賛される事だろう。しかしレッドの脳裏に浮かぶのは、シルフカンパニーで自らを襲ったゴルバットの凶刃。
(ポケモンの技を人に向ける……。いや、覆面の人たちはいたずらに人を傷つけるために戦っているわけじゃない。正式なバトルでない以上仕方のない事だ。エリカさんだってゲームコーナーではねむりごなを使っている。わかってはいる。わかってはいるのだが……)
レッドの心に残る謎のしこり。しかし、レッドがその謎を解く前に、船がまたしてもサイクリングロードの支柱に取り付く。
「行くぞ。少年もついてくるなら、飛べるポケモンをだすことだ」
「……」
サイクリングロードに出ると、覆面の男がベトベトンを出し、パンクルックの男たちをその背中に乗せて運んでいく。
覆面の少女はズバットと共に、レッドと覆面の男よりも先駆けしていき、しばらくすると戻ってきた。
「いたよ、ちちうえ。あそこの物陰に一人」
「うむ。行け、モルフォン! かぜおこし!」
(!! 相手が気づいてないところを!?)
モルフォンが物陰でニヤついた笑みを浮かべているスキンヘッドの暴走族の男に迫る。すると男は気付いたのか、一気に恐怖の顔に歪んだ。
「ひいっ!?」
「……ピジョットお!」
「なに!?」
スキンヘッドの暴走族にモルフォンのかぜおこしが当たる直前、レッドがピジョットをしかけ、ピジョットのかぜおこしで相殺した。
-
241 : 2014/08/03(日) 00:46:05.86 ID:cwKbWwke0 -
「なっなんだ。お前ら!?」
スキンヘッドの男は訳が分からず混乱している。レッドは覆面の男たちと暴走族の間にピジョットと共に立つ。
覆面の男と少女のレッドを見る瞳が、一気に敵意に変わる。
「なんのつもりだ、小童」
レッドは表面上落ちつていたが、その胸中は迷っていた。
(今俺がやったことは、正しいことではないかもしれない。覆面の人たちは治安を守るため、正義のためにポケモンと一緒に戦っている。だけど……)
「……ポケモンが人を傷つけるところを、黙ってみている訳にはいかない」
レッドとピジョットの体が勝手に動いていた。本当の正義など、レッドにはわからないし考えたこともない。ただ、レッドが言っていることだけが全てだった。
「ほう……」
「お前なにを言っているんだ! そいつは暴走族だぞ!」
「まあ待て」
覆面の男が少女を制し、少女は不満げに押し黙る。レッドと覆面の男が無言で対峙する。すると、レッドの後ろにいた暴走族がモンスターボールを構えた。レッドも敏感にそれに気づいて振り返る。
「なんだか知らねえが、俺の前から消えな。俺はサイクリングロード暴走団の一人! 下手に歯向かえば痛い目を見るぜ!」
スキンヘッドの男はレッドに助けられた事を微塵も気に止めず、モンスターボールを放りオコリザルを出現させる。
レッドはふっと笑う。
「ポケモン勝負か? なら受けて立つ!」
「ああん? なんだこのガキ」
暴走族はレッドをよくわからない生き物を見るような目で見る。
「まあいい! オコリザル、奴を蹴散らせ! メガトンパンチ!」
「ピジョット! かぜおこし!」
レッドはタイプ相性をいかし、ピジョットを上空に羽ばたかせてメガトンパンチを避け、オコリザルの背中にかぜおこしをクリーンヒットさせる。
「くそ! メガトンキック!」
しかし負けじとオコリザルも飛び上がり、メガトンキックでピジョットに突撃する。
「ピジョット、つばさでうつ!」
ピジョットも肉弾戦に応じる。つばさでうつとメガトンキックの激突は、以外にもオコリザルに軍配が上がった。
「よっしゃあ! もう一度だ! オコリザル! メガトンキック!」
「負けるなピジョット! つばさでうつ!」
(この少年……)
覆面の男は静観していた。
-
245 : 2014/08/03(日) 01:08:08.35 -
今日はここまで。明日でセキチクシティ編終わりの予定です。
>>229
>>230
すいません。言ってみただけでこのスレでエロ話を投稿する気は元々ないです。
やるとしたらこのスレの最後に告知した後に別スレを立てる予定です。やるとしたらですが。>>231
オリジンは私結構好きですよ! タケシの話は大分参考にさせてもらいましたし……>>232
ポケモン作品に限るとこんな感じです。フウロ「君とアタシの理想郷」
エリカ「雨空の君へ」
グリーン「レッドがタマムシジムから進まない」普通にググってもらえば某所でまとめてるので見ていただけるかと。
>>233
その辺は一般作品の醍醐味ですね。
ナツメさんを少しキス魔にしちゃったけど、安直だったかな? まあいいや。>>234
ありがとうございます。長々と書いた分、新規に一気に読んでくれる方がいるのは嬉しいですね。 -
246 : 2014/08/03(日) 01:31:11.65 ID:EoKxGybD0 -
>>245
乙! 過去作全部読んでたことにびっくり -
247 : 2014/08/03(日) 04:36:28.81 ID:X5vC2PMuO - タマムシから進まないSSの大好きだわ
-
248 : 2014/08/03(日) 10:07:39.95 ID:mxCNwY7qo -
>>245
タマムシからの人か
あれは良かった -
250 : 2014/08/03(日) 23:00:06.46 ID:cwKbWwke0 -
「そうね……。セキチクシティジムリーダーはキョウ。専門は毒タイプで、ジムリーダーの中でも古参の方ね。私もバトルを見たことあるけど、毒ポケモン使いの中ではカントーいちでしょうね」
「どんな方なんですか?」
「どんな、ねえ……。忍者の末裔っていうのは聞いたことあるわ。毒に対抗するための薬の知識も豊富。サファリゾーンや周辺をボランティアでパトロールしてて、市民の人からも信頼されているそうよ」
「……」
『小童。お主の言う事、拙者は実現不可能のことだと思う。世界には光があれば影があり、悪がいるから正義がいる。各地のロケット団と戦った君ならば、ポケモンを使い理不尽な事をするどうしようもない連中がいるのはわかるはずだ』
(キョウさんのあの言葉は、やはり経験に裏打ちされたものだったのだろう。だけど……、俺が戦うのは悪を倒すため……いや、素晴らしいバトルがしたいからだ。マチスさんと戦った時のような、見ている人すらも熱くさせる、そんなバトルを……)
そしてレッドの脳裏にエリカの顔が浮かぶ。
(エリカさんも、故郷を守るために戦った。それは正しいことだ。だが、エリカさんが再び心に光を取り戻した時、キョウさんがやった事をするだろうか。ポケモンと共に、悪を打つ……)
言葉だけならヒロイック。しかし、レッドは自身の行動を思い出す。オツキミ山の時のロケット団員。サイクリングロードでのスキンヘッドの男。そしてシルフカンパニーでのサカキ……。
「レッド? どうしたのそんなに眉間にしわ寄せて……。なにか、悩み事?」
「ああ、いえ。えっと……」
「言ったでしょ。あなたの力になるって。相談ならいつでものるわよ」
「ナツメさん……」
レッドはナツメの顔を見て、今まで戦ってきた人たちの顔を思い出す。タケシ、カスミ、マチス、エリカ、ナツメ。そして……。
『勝負はおあずけだな! 待っているぞ!』
(皆……どこか晴れやかな顔をしていた)
しかし、ただひとつの心残り。
『こんな……こんなの認めねえ! 畜生!』
(グリーン……)
彼とはシルフカンパニーで出会った時、何倍もたくましくなっているように見えた。だが、レッドはグリーンの今の本質を、まだ知らない。
-
251 : 2014/08/03(日) 23:01:55.63 ID:cwKbWwke0 -
「大丈夫です。悩みは晴れました。ありがとうナツメさん」
「え!? あ、そっそう……。でもよかったわ。これからジムに挑むんでしょ? 私も同行してもいいかしら?」
「ええ。もちろんです」
セキチクジムはにすぐに到着した。中に入ると、キョウがジム中央のバトルスペースで目をつむり正座している。その後ろにはキョウの娘のアンズが控えていた。
「来たか……む、ナツメ殿も」
「えっと、ジムのギミックの監修に来たんだけど……。先にやった方がいいかしら? ごめんね。すぐに終わるから」
しかしキョウがレッドとナツメに手をかざす。
「否、その小童に小細工は不要。ナツメ殿、この戦いが終わるまで待っていただきたいが宜しいか」「いいわ。頑張ってねレッド」
「はい」
ナツメが観客席に移動する。レッドの顔は、覚悟を決めた戦士の顔。
(ほう……)
キョウがその顔を見て、笑った。
「下がれ、アンズ」
「うん」
キョウがバトルスペースに立つ。目を閉じて軽く顎を引き、直立するその姿はまさに時を待つ忍びそのもの。
レッドもまた、モンスターボールをその手にしながら目を閉じた。
嵐の前の静寂。突如訪れた張り詰めた空気に、ナツメとアンズも息を呑む。
「答えは変わらぬか、小童」
「一度ポケモンの手を取り、心を通わせたならば、確かな光が心に宿る。俺はそう学びました。ポケモントレーナーならば、ポケモントレーナーとしてぶつからないと分からない事がある。伝えられない事がある」
レッドは目を開き、モンスターボールをキョウにかざす。
「俺がポケモントレーナーの道を進み続けるのは、バトルを通して得られる確かな絆があるからだ。共に戦う仲間だけじゃない。戦ってきたライバル達にも、俺は心のつながりを感じている」
その言葉に、ナツメは驚く。
(レッド……!? まさか、あなた、サカキにも……)
「ファファファファ! まさかロケット団と戦いあんな目にあっておきながら、その道を進み続ける意味を確信したというのか!」
「ええ。キョウさん。あなたがサイクリングロードでやっていたことは、被害を迅速に食い止めるためには最善の手段でしょう。だけどやはり俺は、一人ひとりとポケモンバトルを通して、光ある道に気づく手助けがしたい」
レッドは微笑んだ。自分が進む道が今、また一つ扉を開けた。
「俺達は、ポケモントレーナーなのですから」
-
253 : 2014/08/03(日) 23:14:58.17 ID:cwKbWwke0 -
観客席のナツメも冷静に戦況を見つめる。
(どくどくは普通の毒よりも消耗が早い……。だけど下手にピジョットを変えれば、それこそ毒を用いた持久戦を得意とするキョウの術中。ピジョットの一撃なら後一回当たりさえすればモルフォンを仕留められる。当たればだけど……)
「モルフォン、影分身!」
「くっ! つばさでうつ!」
ピジョットの毒が回り始めるのと対照的に、モルフォンは冷静に吸血して体力を回復していく。
「ファファ! どうした小童! その程度では人の魂を震わすなど、夢のまた夢!」
「証明してみせるさ。俺とピジョットならば、どんな逆境だって跳ね返すことができる! ピジョット! かぜおこし!」
「無駄だ!」
ピジョットのかぜおこしはモルフォンの分身を一つ消すだけ。しかし、レッドは繰り返す。
「かぜおこし」
「ふん! やけになったか……いや、これは!?」
ピジョットはマッハ2で飛ぶ事ができる羽の持ち主、その翼が全力で風を起こせば、閉めきったポケモンジム内に強烈な気流が巻き起こる。
(あれは、シルフカンパニーで見せた……!)
ナツメも気づいた。レッドとピジョットは風の流れを利用できる。
「ぬ……モルフォン!」
モルフォンはピジョットがおこした乱気流にバランスを保つのがやっと。そのせいで、モルフォンとモルフォンの分身達の動きが鈍り始める。
(ピジョット! タイミングはお前に任せる。お前ならば、この乱気流の中で全てのモルフォンが一列になる瞬間を貫ける!)
ピジョットの眼が見開いたのを、レッドは見逃さなかった!
「ピジョット、突進だあっ!」
「ピジョォ!!」
ピジョットが羽ばたき、急旋回してモルフォン達に突撃する。自らが作り出し、ピジョットだけが入ることができる一瞬の風の道筋、そこには風に流されて身動きが取れないモルフォン達が直列していた。
一つ、二つ、三つとモルフォンの分身がピジョットの突撃で消え、最後に残ったモルフォンがピジョットのくちばしに弾き飛ばされる。
風の流れが止むと同時に、ピジョットは足で降り立ち、モルフォンは背中から落ちで動かなくなった。
『モルフォン、戦闘不能!』
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256 : 2014/08/03(日) 23:21:53.25 ID:cwKbWwke0 -
「あんなちちうえ、初めて見る……」
「いいんじゃない? こういう暑苦しいのも、ポケモンバトルでしょ」
「バナぁ!!」
「ベトォ!」
異種ガチンコファイトはお互いのずつきが炸裂し、両者倒れてゴングが鳴った。
そして、ふらつきながら立ち上がったのは……。
『ベトベトン戦闘不能! 勝者、挑戦者レッド!』
「見事小童。いや、マサラタウンのレッド!」
「こちらこそ。いい戦いができて、本当に嬉しかったです」
キョウとレッドが近づき、笑顔で握手する。しかしすぐにキョウは手を離し、レッドに背を向けて歩き出した。
「そら! ピンクバッジを受け取れ!」
「おっと」
キョウはレッドを見ずにピンクバッジを放り投げる。バッジはレッドの手元へ寸分の狂いなく収まった。
「ち、ちちうえ。どこへ……」
「ナツメ、戻ってポケモン協会へ伝えろ。本日を持って、キョウはジムリーダー代理として、娘アンズを指名する。キョウは今任期を持って退任し、後任にはアンズを推薦するとな!」
「ちょ、ちょっと。いきなりどこへ行くつもり!?」
ナツメも慌ててキョウに叫ぶ。しかしキョウは気にせず自分の言いたいことをぶちまける。
「アンズよ。迷うことあれば今日(こんにち)のバトルを思い出せ。お前の実力は父が認める!」
「は、はい!」
「レッドよ。年甲斐もなく拙者を熱くさせてくれたな。拙者にとってジムリーダーは終着ではないと、錯覚してしまったではないか!」
キョウは怒りながら笑っているようだった。
「ファファ! まずは手始めにサイクリングロードのトレーナーに片っ端から挑んでくるとするか。さらばだレッド! 高みでな!」
「……はい!」
アンズとナツメはキョウの突然の変貌ぶりにキョトンとしていたが、レッドはその背中を逞しく思っていた。
(今、サイクリングロードの"トレーナー"って……。……高みか)
また一つ、約束が増えた。しかし、嬉しさしかない。
「えっと、じゃあアンズ? その、ジムのギミックの監修いいかしら。バリヤードで見えない壁の点検するから、図面見せてもらっていいかしら?」
「え、あ、はい! こちらです! ええと、どこに置いてたっけちちうえ……」
どうやらアンズの初仕事は、やけに事務的なことから始まったようだ。
レッドはその様子を微笑んで見守りながら、ピンクバッジを胸元に取り付けた。
-
257 : 2014/08/03(日) 23:24:18.80 ID:cwKbWwke0 -
その後レッドはナツメに腕を引かれて共にサファリゾーンに入ったり、何故かポケモンの戦い方についてアンズに相談されたが、大した話ではない。
ナツメとアンズと別れ、レッドが次に向かうはふたご島、そしてその先のグレン島。
「えっと、ここからは海を超えるか。ギャラドスなら……ん?」
海岸でギャラドスを出そうとした矢先、海の向こうから波に乗ってサーフィンする少女が見えた。
「待っていたわよーレッド! 波乗りの極意! このカスミが教えてあげるわー!! いやっほー!!」
波から空に舞い上がりポーズを決める、スターミーをサーフボードにして乗っているカスミ。黒い水着が体のラインをくっきりと写し、太陽に照りつけられて鈍く光っている。
ほどなくレッドがいる海岸まで猛スピードで海上を滑ってくる。
「えへへー。また会ったわねレッド!」
「カスミ、なんでここに?」
「だから言ったでしょ! ポケモンで海を超える波乗りの極意、この私が教えてあげるわ。不満かしら」
「それは、ありがたいよ。でも、ジムは?」
「今は休暇中よ、さ、レッドも水着に着替えて着替えて♪」
「え、水着持ってないけど……」
「なんですって!? じゃあさっそく買いに行きましょ! セキチクシティなら売ってるでしょ!」
今度はカスミがレッドの腕を引っ張って行く。レッドは苦笑いしながらも、旅で出会う様々な人たちとの交流を、胸に刻んでいた。
所変わってタマムシシティ。エリカの自宅。カイリュー便からレッドからの手紙が届く。
それをエリカは自室で綺麗に封を空け、愛おしそうに微笑みながらその書面に目を走らせる。
(まあ、キョウさんがジムを空けたのはそんなことがあったのですね。レッドも怪我がなくてなにより……ん?)
ナツメとカスミに関する記述でエリカの目がとまる。
(………ナツメさん、一緒にサファリゾーン行く意味ないですよね。それに、ジムを休んでまでカスミは……しかも水着って……)
「ふふ、ふふふ。ふふふふふふ」
クサイハナが主の微笑みに、生まれて初めて恐怖した。
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258 : 2014/08/03(日) 23:32:22.19 -
今日はここまで。明日からグレン島編です。
>>232
もう一作品忘れてましたのでこちらもどうぞ。カトレア「ジムリーダー風情がトウヤに近づかないでくれる?」
>>246
>>247
>>248
実験的に会話練習で書いた話だったんですけど、意外と評判よくてびっくりしました。ありがとうございます。 -
263 : 2014/08/05(火) 00:17:55.93 ID:A2if7Xi90 -
カツラはグレン島にポケモン研究所ができる前から、この島に住んでいた。それは当時とても珍しく彼を変人扱いするものもいたが、カツラの生来の明るさとポケモントレーナーとしての造詣の深さが、この島にやってきた研究員たちとカツラの関係を深くした。
その中でも特に気が合ったのが、親友フジ。フジはグレン島にやってきた研究員の中でも特に優れた科学者で、彼が特に得意としていたの遺伝子工学の分野。ポケモンの出生、進化の秘密を題目とした研究においては随一の科学者だった。
フジの活気あふれる研究意欲に、カツラも協力した。純粋な欲求だった。ポケモンのことをもっと知りたい。ポケモンはなぜ生まれたのか、どこから来たのか、そしてどこへ行くのか。彼らにとって生活のパートナーを理解するための、あくまでポジティブな感情に満ちた探求だった。
そしてカツラとフジの二人は、南アメリカのギアナへポケモン研究の遠征に赴いた際に、世紀の発見に成功する。
普通のポケモンとは明らかに違う、はっきりとした形の手足と尻尾、そして流線型のフォルム。薄い桃色の光沢ある肌。羽を持たずに滑るように空を自在に飛ぶポケモン。
紆余曲折の末そのポケモンの捕獲に成功した二人は、研究所でその生体を調べ、このポケモンが非情に特異な遺伝子の特徴を持つポケモンだということを解明した。
まるで全てのポケモンのコピー、まるで祖先。発見されていたあらゆるポケモンの遺伝子配列データを持つこのポケモンを、フジは自然界では到底ありえない個体として突然変異体(ミュータント)、ミュウと名づけた。
カツラを含めたあらゆるグレン島の研究者がこのポケモンに熱中した。あらゆる技を覚え、しかも高水準でこなすことができる。火を吐き氷を作り植物を生み出すポケモンなど、夢を見ているようだった。
時が経つとある日、ミュウは子供を生んでいた。元々妊娠していたのかどころか、オスかメスかもわからなかった研究員達にとっては、意図せず大量の黄金を掘り当てた炭鉱夫よりも幸福だったに違いない。
ミュウの子。名付けられた名はミュウツー。
しかし、過ぎた幸運は諸刃であることを、彼らは身を持って思い知ることになる。
ある日ミュウの子の処遇を聞いたカツラは、フジに激昂した。
「あの子の遺伝子を操作する!? 正気かフジ!!」
「正気さカツラ。あのミュウの子だぞ。我々が今まで培ってきた遺伝子研究を活かす時が来たのだ! 俺たち皆の力を合わせれば、誰も見たことがない最高のポケモンを作り出すことができる!」
「馬鹿を言うな! ミュウツーは命あるポケモンだぞ!? その遺伝子を身勝手にわれらが操作するなど……!」
「カツラ。俺達は誓ったはずだ。ポケモンの全ての謎を解き明かす。この機会を逃してどうする!? ポケモンの出産、次代への継承! 遺伝子の変遷! その全ての謎の答えの扉がミュウツーだ! カツラとてわかっているはずだ。ミュウは二度、三度として捕まえられるようなポケモンではない。我ら研究者がこの機を逃してどうする!? それとも、今更生命への冒涜だとでも抜かすきか? お前だってポケモンに使う薬の臨床実験がいかにして行われているか、知らないはずがあるまい! それと違うとでも言う気か……!」
「……それは……!」
「とまるなカツラ。俺達はどこまでも進むんだ。ポケモンの謎を解き明かすために……!」
カツラは己に沸き起こった道徳観念を胸の奥にしまい込み、無視した。
(……フジの、言うとおりかもしれない。我らの研究は、全てのポケモン研究者たちにとっての悲願だ。もしミュウの秘密が解き明かせれば、ポケモン研究は10年、いや100年進むと言っても過言ではない)
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264 : 2014/08/05(火) 00:19:51.95 ID:A2if7Xi90 -
ミュウツーは日に日に成長していった。
「すごい……! ミュウツーのサイコキネシスはフーディンの10倍の数値を記録しています!」
「ミュウ程多くの技は覚えられないけど、自己再生能力も耐久性も他のポケモンと段違いだ。ミュウツーに勝てるポケモン等存在しない!」
フジを含めた研究者たちが口々に己らの功績を褒め称え合う。ミュウツーのあるゆるポテンシャルをテストし、実験が終わればすぐに冬眠状態に入るミュウツー。
カツラは、専用の貯水槽の中で眠るミュウツーの姿を見る。親のミュウとはかけ離れていた。
(……これでいいのだ。ポケモンの持つ可能性。その解明は確実に成果が出始めている。ポケモンの謎を解き明かす事ができれば、お前も自由になるだろう。それまで、付き合ってくれ)
しかし、ミュウツーの成長はある日を境に下り坂に入った。あらゆる能力の数値が下降していき、ミュウツーの姿も日に日にやせ細っていく。
しかし逆に、貯水槽にいるミュウツーへの実験は熾烈を極めた。
「なんだこの数値は、もっと投薬を増やせ!」
「やめろフジ! これ以上投薬すればミュウツーが死んでしまうぞ! あんなに苦しんでいるのにわからないのか!!」
「何を言っているカツラ! 計器の数値はまだ充分に余裕がある! かまわん! 投薬を増やせ!!」
そうフジが言った時、貯水槽がバラバラに砕け散った。ミュウツーが雄叫びを上げながらあらゆるエスパー能力を発現させさせ、壁をずたずたに引き裂いていく。
「!? 鎮静剤を!! 早く!」
鎮静剤を打たれたミュウツーは、すぐに眠りについた。
それからミュウツーの力は飛躍的に上がった。しかし、制御が効かない。あらゆる実験器具と拘束具が破壊され、研究員にも負傷者が出る始末。
フジとカツラは研究者ではなく、いつの間にか暴れる囚人を押さえつける看守になっていた。
「……どうすれば、どうすればいい! あんなポケモン制御できるわけがない! あれが世に出てしまえば、大変なことになる! 我らは……怪物を創りだしてしまった……」
「フジ……」
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265 : 2014/08/05(火) 00:21:18.52 ID:A2if7Xi90 -
そしてその日は、程なく訪れた。
「ミュウツーのサイコキネシス! 止まりません!」
「鎮静剤の投与を増やせ!! ありったけの鎮静剤を……!!」
「もうやってます!! ああ!」
何重にも付けられたミュウツーの拘束具にひびが広がっていく。極めつけは、研究者の壁に風穴を開けて侵入してきたミュウだった。
ミュウがサイコキネシスで、ミュウツーの拘束具を破壊していく。
「ミュウがなんでここに!! 別棟で隔離していたはずだ!!」
カツラは、ようやく悟った。
「……子供を、救いに来たのだろう。俺達はここまでだフジ。全員研究所から避難しろ! サイコキネシスに巻き込まれるぞ! ウインディ!」
カツラがウインディを出して、近くにいた研究者達を乗せていく。
「やめろカツラ! 俺達は、俺達は……!!」
「見ろ、フジ。私達は、間違っていたのだ……」
嵐吹き荒れる中、ミュウとミュウツーが互いへ手を伸ばしていた。ミュウツーの瞳には、雫が溢れいてる。
「駆けろ! ウインディ!」
カツラ達が研究所から脱出したのと、同時に、研究所から天へ光の筋がのび、瓦礫と化した研究所と共に天へのぼっていく。
光の中では、ミュウとミュウツーが笑顔で手を合わせている。
その光景を、フジとカツラは様々な感情とともに見上げていた。
フジは地面へと跪き、くぐもった声で涙を地面に落とす。
「カツラ……俺は……俺は…………!」
「フジ……」
ミュウとミュウツーの研究は頓挫した。一部の研究員はグレン島でなおもポケモン研究を続けたが、カツラはポケモントレーナーとしての道を歩み、フジは何処かへと姿を消した。
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295 : 2014/08/09(土) 23:53:08.80 -
サイクリングロード。その一角で、バイクに跨がったパンクルックの男達が、皆愕然として頭を垂れていた。
「嘘だろ……俺達サイクリングロード暴走団が全滅……!?、たった一人のトレーナーに……!」
相対していたのは、元セキチクジムリーダー、忍者の末裔キョウ。時代錯誤の忍者ルック。
「ファファファファ! お主らポケモンバトルの筋は悪くない。成る程、戦ってみなければ分からない事も確かにある」
「くそっ……。嫌味はよせ! 俺達にもう戦う力はない。ジュンサーに突き出すなり好きにしやがれ!」
「ファファ。もちろんお主らが犯した罪についてはジュンサー達に任せるとする。だがその先の道については、一つ助言をしておこう」
「助言だと……?」
スキンヘッドの男がキョウに問う。
「ポケモンとの絆、貴様らが最初にポケモンと出会った時のことを思い出せ。またポケモンを持った時既に悪の道に染まっていたというのなら、今一度ポケモンと向き合い生き方を問うがいい。各地のジムリーダー達はどんなトレーナーが相手でも戸を開けている!」
「ポケモンとの、絆……」
「ファファファファ! それでも納得できないというのなら、このキョウがいつでも相手をしよう! 拙者は忍びはするが逃げも隠れもしない! ポケモントレーナーのキョウだ!」
そう言ってキョウは橋から飛び降り、ゴルバットに肩を掴まれて飛んでいった。
残されたサイクリングロード暴走団のメンバーが口々に隣の仲間に相談する。
「おい、どうするよ」「俺はいやだぜ、ジュンサーに今更捕まるなんて!」「だけど、このままじゃあまたキョウに……」
「俺は行くぜ」
スキンヘッドの男が一人バイクのエンジンを入れる。別の仲間が焦った声で話しかける
「おい! おまえ本気か!?」
スキンヘッドの男は振り返らずに言った。
「ああ。俺は二度も負けちまった。俺と俺のオコリザルはこんなタマじゃねえ。強くなるために、今まで腐っていた俺を、まずはマイナスからゼロに戻すためにな」
『俺はマサラタウンのレッド。ポケモントレーナーです ポケモン勝負なら、いつでも受け付けます。……いい戦いでした』
『このキョウがいつでも相手をしよう! 拙者は忍びはするが逃げも隠れもしない! ポケモントレーナーのキョウだ!』
「ポケモントレーナー……そう胸を張って、名乗れるようになるためによ」
スキンヘッドの男はその言葉を最後に、サイクリングロードを南へ疾走していった。サイクリングロード暴走団のメンバーも、様々な表情をしながらまた一人、また一人とバイクのエンジンを入れてその場を後にする。
しばらくして、サイクリングロードにガラの悪い男はちょくちょくいるものの、ワイヤーを使った事故はめっきりなくなった。
さらに時がたったのち、償いを終えた男たちがこぞってセキチクジムに挑戦し、アンズが突如として訪れた強面の集団に四苦八苦するのだが、大した話ではない。ポケモントレーナーとして、よくある日常だった。
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312 : 2014/08/18(月) 23:17:35.72 -
レッドがエリカを見上げて微笑む。
「一緒に隣に座らない? エリカさん」
するとエリカは苦笑して、
「せっかくですけど、服が汚れてしまいます」
やんわりと断った。レッドも「しまった」と言いながら苦笑する。しかし、薄目を空けたフシギバナが助け舟を出す。
フシギバナの背中の茂みから無数の葉っぱが放出され、レッドの横に降り積もっていく。ほどなくちょうど二人分座れる広さの葉っぱのベンチが出来上がる。
レッドが立ち上がってそのベンチをぽんぽんと叩いて具合を確かめ、今度は無言で笑みを浮かべながらエリカを手招きする。
「ふふ。では……」
エリカもつられて微笑んで了承した。傘をたたみ、レッドの手を取って二人並び座る。手を繋いだままレッドはエリカに顔を向けた。
互いの瞳の色がはっきりとわかる。レッドは言葉を紡ぎ出す。
「ちょうどエリカさんに会いたかったんだ。来てくれて本当に嬉しい」
「ええ。私も……。なぜ来たかは、聞いてくれないんですか?」
「ええと、オーキド博士になにか? でも、俺に会いに来てくれたなら、すごく嬉しいな」
二人の距離が、少しずつ縮まる。
「あなたに会いに、ここまで来ちゃいました。手紙の状況から、そろそろかなって」
レッドの頬がわかりやすく紅潮する。エリカはそんなレッドの反応を楽しんでるようだった。
しばらく雑談した。ポケモンのこと、手紙に書けなかった旅の細やかな事。タマムシシティとジム、エリカの近況。
しばらくして言葉が止まった。レッドが、なにか言いたそうだった。エリカも敏感にそれを感じて、レッドが言葉を紡ぎだすのを待つ。
「……今まで色んな事があって、俺自身強くなれたかどうかは、正直分からない。でもあの時、この場所から、ちゃんと自分が進みたい道を進めてる。皆が助けてくれたから」
「……」
エリカは黙って聞いてくれている。レッド自身、言葉の整理がついていない。だけど、エリカに伝えたい想いがあるのは確かだった。
(うまく、言えるだろうか)
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335 : 2014/08/23(土) 13:11:10.35 ID:e8JXTbi30 -
(グリーンと戦った場所)かつてレッドとポッポが初めてグリーンに勝利したトキワシティの外れ。レッドがカントー地方を一回りして来ても、快晴のこの景観は少しも変わってはいない。
マサラもそうだった。レッドは自分がエリカと出会った日から劇的に変わる事ができたと己を誇りに思っていたが、ふと変わっていない故郷の景色を見ると、また違った疑念が心の奥底から沸き上がってくる。
(そういえば、俺の中で変わっていないものってあるのかな)
仲間と助け合い、一つの事に一生懸命になることは素晴らしいことだ。しかし、レッドはそのことを知ったのはポケモンを手にしてからだ。なぜ自分はポケモンを手にする前から、グリーンに勝ちたいと頑張ったのだろう。
強さとはなにか。今レッドが問われたら、一緒に旅をしてきたポケモン達と様々な熱い戦いを繰り広げたトレーナー達が頭に浮かぶ。じゃあ、フシギダネとエリカに出会う前のレッドだったら?
『よう! 泣き虫レッド!』
レッドはふと振り返った。遠くにトキワシティ、そしてトキワジムが見える。
(俺はこの旅でずっと、皆に助けられてきた。俺一人じゃ絶対に、ここまで辿りつけなかっただろう)
レッドはトキワジムへ向かう。トキワジムに電気は点いておらず、人の気配もなさそう。しかし構わずに向かう。
(グリーンもそうなのだろうか。そしてこの先に待つあの人は……)
レッドがトキワジムの扉を開ける。ジムでは恒例の挑戦者を迎える受付の元気な声は聞こえてこない。
ジム内は天窓が多く、日が差し込んで以外に明るい。
その陽射を見上げるように、一人の男がバトルスペースに佇んでいた。
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340 : 2014/08/23(土) 15:14:24.12 ID:e8JXTbi30 -
(なぜ俺は戦っている)「ニドクイン! にどげり!」
「ラッタ! いかりのまえば!」
サカキには今、二人の自分がいる。戦いに集中する戦士のサカキ、そしてこの戦いの意味を見出せない悪のサカキ。
レッドを邪魔と感じるならばわざわざこんな一対一の戦いなど意味は無い。レッドを消す方法等、ロケット団の力を持ってすればいくらでもある。
(この血が滾るから、そんな感じか?)
レッドのラッタを仕留めたニドクインを見ながらサカキは自嘲した。
「行け、バタフリー!」
(いや、そんな単純なことではないな)
サカキはレッドを見る。レッドは決してサカキを恐れてなどいない。勝利を信じ、闘気のこもった瞳でポケモンへ指示を飛ばしている。
サカキは思い出す。こんな風にサカキに立ち向かってきたトレーナーはいただろうか。サカキが戦ってきた相手といえば、サカキを悪と断じ、ただポケモンと共に正義の鉄槌をくらわそうとしてきた者ばかりだった。
その全てを地に伏せてきた。じゃあレッドは? 今まで戦ってきた者達と同じじゃない。レッドはただ、サカキに勝ちたいのだ。なぜレッドはサカキに勝ちたい?
「ニドクイン、かみなり」
「なっ!?」
レッドが驚愕で目を見開く。ニドクインはバタフリーを見るやすぐに雷雲を呼び、バタフリーを光の柱で飲み込んで撃墜した。
「……戻れバタフリー。さすがだサカキ。あんたはポケモンとの呼吸も、ポケモンの強さも、あんた自身の戦術も、俺のが身が震えるほどの物を持っている」
そう言いながら、レッドは次のモンスターボールを手に取る。その瞳は燃えている。
「だが、決して俺は諦めたりはしない。あなたが巨悪の首領だからじゃない。俺のポケモン達と俺自身のために、俺はあんたに勝ちたい」
「ポケモンリーグに行くためか?」
レッドは首をふる。
「強くありたい。戦い続けてくれる皆と同じように。そのためにどこまでも進み続ける。それだけだ! 行け! ガラガラ!」
(そうか)
レッドはサカキに憧れている。一人で、何者をも寄せ付けない強さを持ったサカキを。
サカキはレッドに憧れている。他者に助けられ、弱い自分を認め強くあろうとするレッドを。
(私に燻っていた感情はそれか——)
ニドクインがサカキの指示を待っている。サカキは命令ではなく、ニドクインに語りかける。
「ふっ、文句ひとつ言わないなお前たちは。だが、俺の強さへの信頼と受け取ろう」
ニドクインがサカキへ少しだけ振り返り、にやりと笑った。
『どこまでもついていきます。ボス』
「はは、ははははは! 行くぞレッド。我が配下とともに、全力で叩き潰す!」
「望むところだ! ガラガラ、ホネこんぼう!」
「ニドクイン! とっしん!」
-
351 : 2014/08/24(日) 21:15:23.00 ID:YJF15S+90 -
(一瞬で決める)
サカキのニドキングは技のデパート。じめんタイプを無効化できるひこうタイプへの対策は、ニドクインと同じく万全。
「ピジョット、みがわり!」
「かみなり! なに!?」
自分のHPを削り分身を作り出すことで、相手の攻撃を一度だけ耐えることが出来る技、みがわり。
ニドキングが呼んだかみなりはピジョットの分身によって防がれる。
「まさか見抜かれるとはな!」
「ここでピジョットが何もできずに討たれたら、バタフリーに会わす顔がない! さあピジョット、決めるぞ! みがわり!」
「かみなり! くっ!」
今度のかみなりは高速で移動するピジョットを捕らえられなかった。元々高威力と引き換えに命中に不安がある技、加えてピジョットの飛行はポケモンの中でも随一の素早さ。
ニドキングに肉迫するピジョットは分身により一度攻撃を耐えることができる。完全に優位に立った。
(みがわりが消えたらかみなりで終わりだ。ここは一撃できめる!)
「ピジョット、ゴッドバード!」
ピジョットが空中で静止し、羽を広げたその体が光輝き始める。
「かみなり!」
動きの止まったピジョットへかみなりが命中する。しかし、焦げ落ちたのはピジョットのみがわりのみ。
「ニドキング!! つのドリル!」
もうかみなりでは間に合わないと悟ったサカキ、ニドキングの角を高速回転させてピジョットを迎え撃つ。
「行けえええええ!!!」
輝きを纏ったピジョットが羽ばたき、宙空に光の帯を引きながらニドキングへ突貫する。
ピジョットの光輝く体がニドキングのつのドリルに激突するが、勢いは止まらずニドキングの踏ん張る足を物ともせずに押し出し、高速のままジムの壁に突っ込んだ。
壁に大きなヒビが入る。その中心にはニドキングが力なくうなだれており、輝きを終えたピジョットが羽を広げて雄叫びを上げた。
-
363 : 2014/08/27(水) 00:17:57.16 ID:DuvLgYc80 -
——初めてのポケモンリーグ、緊張してる?
「そりゃあもう。7万人を収容する大スタジアムで行われるなんて、初めて聞いた時は冗談かと思った。過去のリーグもテレビで見てきたけど、いつもバトルに夢中で……。トレーナーの方やスタジアムがどんな雰囲気かなんて、想像もできない。だけど、いざバトルになれば大丈夫だと思います。ポケモンの皆がいるから。
初めてニビジムに挑戦しにいったときも、緊張して夜遅くまでトレーニングしてたんです。いざジムに入ったら観客の方がたくさんいて、凄いところに来てしまったと緊張しきりでした。でも、バトルが始まったら関係なかった。いつも以上の力を出せたし、逆にポケモンに引っ張ってもらった。それ以降は、他のジムでの戦いでも大丈夫でした」
——ポケモンが一緒にいると緊張がほぐれる?
「間違いないですね」
——ポケモンリーグを意識し始めたのはいつだった?
「……いつだろう。思い返してみれば、これといったきっかけはなかったかもしれません。最初はとにかく勝ちたい相手がいて、次はジムを順々に巡っていこうと思っていたのは間違いないけど、リーグを意識したのは……クチバジムあたりかな」
彼の旅はマサラタウンからスタートしている。彼が訪れたときトキワジムは休業中だったため、クチバジムはバッジ3つ目のジムになった。
——クチバジムは特別な戦いだった?
「ジム戦はいつでも特別ですね。だけど、うん、確かにあれは特別だった。ジムの観客席に町で知り合った年下の子達がいたんですけど、彼らにバトルが楽しいってことを知ってもらいたくて。バトルが終わった後に、その子たちと約束したんです、俺はカントーで一番になって有名になるから、君たちもポケモントレーナーになって名を挙げて、そしてその時また会おうって」
——チャンピオンを目指すのはその子たちとの約束のため?
「ええ。でも他にも理由は……そうだな……。……勝てそうもない相手でも、ポケモンたちと力を合わせればなんとか勝つことができた。それが本当に嬉しかったし、素晴らしい相手とのバトルは楽しくて仕方がない。だから自然とここに来たんだと思います」
——戦いのスタイルについて聞きます。君の登録メンバー編成にはどんな意図が?
「強いて言うなら、一番信頼できる。お互いの呼吸と考えがわかっているし、いつも一緒にトレーニングしてきたメンバーを選びました。一応タイプ相性も考えてきたけど、皆付き合いが長い仲間達ですね。リーグが終わった後も、多分変わらない。
ひこうタイプが多めなのは偶然ですけど、問題だとは思っていませんね。岩や電気があいてならガラガラで受けられるし、氷タイプは水との複合が多いからフシギバナでも五分に戦えるし、ギャラドスもそう。手持ちにないタイプについても、そこはポケモンたちの技である程度はカバーするようにしてます」
——実は君の過去の公式戦ビデオを集めた時、タマムシジムとトキワジムだけは手に入らなかった。書面の記録は残っているが、どんな戦いだったのか教えて欲しい。
「特段、変なことはなかったですよ。他のジム戦と同様、すさまじいギリギリの戦いでした。タマムシジムについては、俺のフシギソウとエリカさんのクサイハナとの一騎打ち。草タイプの扱い方についてはエリカさんの方が一枚も二枚も上手で、
クサイハナは粉技ややどりぎ、メガドレインでで優位に立ち、フシギソウは力押しするしかなかった。でも最後はソーラービームでなんとか……フシギソウ自身が頑張ってくれたことが大きいと思います。
トキワジムについては、すいません。俺自身心のなかで整理がついてなくて。これについてはリーグが終わったら、話したいと思います」
——旅の中で、多くのポケモンとトレーナーに出会った。一番君を変えてくれたのは誰かな。
「タマムシジムでジムリーダーをしているエリカさんです。マサラタウンで初めてであった時にトレーナーとしての心得、フシギダネとの付き合い方を教わりました。
彼女の凄いところは、ポケモンの持つポテンシャルを引き出すだけでなく、時に引き、時に激しく攻めるスイッチの切り替え方が抜群にうまい。あの日出会えたことは、本当に幸運でした」
——ありがとう。では最後に、リーグへの意気込みを聞かせてくれるかい。
「ありままの自分と仲間達で、立ち向かいたいと思います。楽しんで、そして勝ってきます」
笑顔で去る少年の纏う雰囲気に、悲壮感や作られた感情というものは一切感じられない。
自然体で正直な彼が、共に旅をしてきたポケモン達とどのような関係にあるか、わざわざここで書く必要もないだろう。
8つの胸のバッジが導いた扉の先で、彼はどんな戦いを見せてくれるのだろうか。
一つ言えることがある。彼はきっと、大舞台でほほ笑みを浮かべ、高らかに宣誓するだろう。
「マサラタウンのポケモントレーナー、レッド!」
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375 : 2014/08/30(土) 14:03:12.64 ID:Y1rPXhWF0 -
通路から見えるバトルスペースの光、聞こえてくる歓声。
レッドは一歩一歩踏みしめながら、その輝く入り口に足を踏み入れた。
『御覧ください! 本日最後のリーグ挑戦者にして最年少トレーナー! その名もマサラタウンのレッド!!』
『わあああああああああああああ!!!!』
轟く歓声。煽るアナウンス。一面の紙吹雪と観客席からのフラッシュが彩るリーグスタジアム。
天井と観客席の間の超大型スクリーンには、画面を二分割してレッドと対戦するトレーナーの姿が映し出せれている。
『そして初戦の相手はもちろんこの人、四天王が誇る凍てつく氷の女王! カンナ!』
レッドに相対する四天王のカンナ。女性的な魅力を存分に溢れさせていながらスラリとしているスタイル、襟を立てたノースリーブの黒地の服と紫色のタイトスカート。
オレンジ色の長髪をポニーテールにまとめ、知的さを感じる黒ぶちメガネをかけている姿はまさに大人の女性。
『それでは今一度、ポケモンリーグのルールをおさらいしておきましょう! ポケモンリーグは四天王と現チャンピオンとの5連戦! その全てに勝利することで、晴れて新たなるリーグチャンピオンが決定いたします! しかし今日のカンナは絶好調! ここまで全ての挑戦者をノックアウト! 本日最後の挑戦者もその憂き目にあってしまうのでしょうか!?』
「ポケモンリーグへようこそ! 私は四天王の一人カンナ。今日の挑戦者は私の氷のポケモン達によって皆氷漬け……。あなたも同じ目にあってもらうわ!」
カンナは見た目に似合わず中々勝ち気な女性のようだ。実績と実力も見合っているから、挑戦者にとっては大きなプレッシャーになるだろう。
しかしレッドは瞳をそらさず、真っ直ぐに宣言した。
「俺とポケモン達の熱い魂は、どんな状況であろうと決して諦めたりはしない。力を合わせ、この戦い全力で勝利をつかむ!」
カンナはレッドの言葉にキョトンとした後、「……あははッ! じゃ覚悟はいいかしら! 四天王の一人、氷のカンナ!」
一笑してモンスターボールを構えた。レッドも応じる。
「マサラタウンのポケモントレーナー、レッド!」
『バトル開始ィ!!』
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378 : 2014/08/30(土) 14:05:47.41 ID:Y1rPXhWF0 -
男はバトルスペースに立つと、マイク音声不要の大声を発した。「俺の名はシバ! 人とポケモン、友愛を持ってここまでたどり着いたポケモントレーナーレッドよ! 俺と俺のポケモン達は生半可な力では突破できない不動の肉体、そして強烈な力を持ち合わせてる! 見事打ち破ってみせよ!」
「言われずとも。例えどんな障害、高き壁であろうとも、俺達の歩みは決して止まりはしない!」
レッドがポケモン達を回復させると、アナウンスがバトルスタートをコールする。
「ウー! ハーッ! 四天王の一人、闘のシバ!」
『バトル開始!』
「行け! イワーク!」
「行け! ガラガラ!」
ガラガラのホネこんぼうは抜群だった。イワークの固い体を打ち砕くと、次いで現れたエビワラーも正面から射ち合って相打ちに持ち込む。
「見事……だがまだ終わらん! 行け、サワムラー!」
「行くぞ! バタフリー!」
「フリィイイ!」
バタフリーの気合は一入だった。ここで活躍しなければ、レッドに選ばれ続けておきながら今まで足を引っ張ってしまった——少なくともバタフリーはそう思っていた——自分が許せない。
「バタフリー、サイコキネシス!!」
「ぬう!?」
シバの呻きは仕方がなかった。バタフリーの鬼気迫ったサイコキネシスはサワムラーを一撃で沈め、岩技で倒そうとして繰り出したもう一体のイワークも為すすべなくサイコキネシスの前に沈む。
「まだだ、カイリキー!!」
シバの最後のポケモン、カイリキー。しかしレッドとバタフリーは確信を持って技を放つ。
「今のお前なら、誰にも負けはしない。バタフリー、サイコキネシス!!」
バタフリーに飛びかかろうとしていたカイリキーをサイコキネシスで地に落とす。カイリキーはそのとき頭を強く打って目を回し、ついに立ち上がれなかった。
『バトル終了!! またしても勝者は挑戦者、レッドォ!!』
シバはレッドへ叫ぶ。。
「どうしたことだ! ……俺が負けるとは! どうやってお前はその力を身につけた!」
「特別なことはないもしていません。俺はバタフリーの力を最後まで信頼していたから、それだけですよ」
「信頼……負けちまったら俺の出番は終わりだ!くそッ!次にいってくれ!」
シバは背中を向けて吐き捨てるように言う。しかし最後にカメラが捕らえたシバの表情は、笑っていた。久方ぶりに感じた悔しさが意外に嬉しかったようだ。
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383 : 2014/08/31(日) 01:54:55.84 ID:iy+ifKHv0 -
シバが去ると、今度は四天王用の選手入場口から黒い霧が立ち込めてくる。
黒い霧はそのままバトルフィールドまで広がり、レッドの視界を奪う。静かな笑い声が聞こえてくると同時に霧は渦を巻いて拡散し、その中心に杖をついた老婆が現れた。
「ククク……。あたしは四天王のキクコ。あんたがオーキドのジジイが託した二人目のトレーナーかい。なんだか垢抜けないねえ」
「それはどうも。オーキド博士とお知り合いなんですか?」
「オーキド? はっ! 昔は強くていい男だったんだがね! 今じゃただの研究者に成り下がった。まあ、後進にはいいものを残したようだがね」
キクコがモンスターボールを手に取りニヤリと笑う。
「ポケモンは戦わせてこその存在さね。あんただってそう思うからこそ、ここに来たんだろう? 退屈しない戦いにしようじゃないか」
「戦わせてこその存在……それは、違うと思います」
「ほう?」
レッドは手にとったモンスターボールを見る。脳裏に浮かぶはポケモンだいすきクラブでの笑顔あふれる空間、シオンタウンでポケモンを保護しているフジ老人。
「確かにポケモンバトルはポケモンと心を通わせることのできる競技。だけど、例えバトルをせずともポケモンと強い絆を結んでいる人を俺は知っています」
「けっ。あんたもオーキドみたいな事を言う。ならあたしが改めて教えてあげるよ。ポケモンバトルの真髄をね! 四天王の一人、霊のキクコ!」
『バトル開始!!』
「行きな……ゲンガー!」
「行け! ガラガラ!」
激戦に湧くスタジアム。その映像を控室外の談話スペースで見ている人物がいる。
四天王最後の一人にして筆頭、ドラゴン使いのワタル。
精悍な顔つきで実に楽しそうにレッドの奮戦を見守っている。
「いいトレーナーだな。キクコにも勝つかもしれない。君は見なくていいのかい? 知り合いなんだろう?」
ワタルはと談話スペースのソファーで寝そべっている人物へと声をかける。
今日はカンナが挑戦者を駆逐していたために、その人物は先程から待ちくたびれて雑誌をアイマスクに眠りこけている。
「あんたが負けたら起きるよ」
それだけ言ってまた寝息を立てはじめた。ワタルは苦笑してため息をつき、テレビへと視線を戻す。
(強すぎるのも問題だな。今のチャンピオンに肩を並べる事ができるトレーナー、そんな人物がいるならばここに挑戦に来る前に名を馳せているだろう。かつての大地のサカキのように……)
ワタルが抱いていた諦観は、今スタジアムへで躍動するレッドを見て、期待へと変わりつつある。
(だが、マサラタウンのレッド。オーキド博士が託したもう一人のポケモントレーナー。彼ならばあるいは……)
ライバルのいない競技ほどつまらないものはない。そんな感情を抱いてしまった現チャンピオンを脅かす存在が、今の挑戦者かもしれない。
『なんて攻撃だあ! またもガラガラのホネこんぼうがアーボックに炸裂う! これで3枚抜きぃ!』
(まあ、負けてやる気はないがね)
そろそろポケモン達のウォームアップを始めなければならない。ワタルもまたテレビから目を離し、トレーニングスペースへと向かう。その顔は既に戦意に満ち満ちている。
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388 : 2014/08/31(日) 20:42:55.68 ID:iy+ifKHv0 -
ワタルとレッドの名乗り、そしてワタルのギャラドスとレッドのフシギバナの激突。
スタジアム全体のボルテージが上がり続ける中で、待合スペースのソファーで眠りこけていた人物の顔に被っていた雑誌がずれて地面に落ちた。
グリーンの眼は開いている。しかし近くのテレビから流れてくる映像を見ているわけでもく、また実況に耳を傾けているわけでもなかった。
グリーンは努力を知らない。というのも、努力に内包されている苦しみを知らないというべきか。
オーキド博士の孫という血筋、なにより兼ねてから物事をそつなくこなす事ができる自分の才能に自信を持っていたし、同郷のレッドと比較すればその思いはますます強くなっていった。
しかしその確信はポケモンとの出会いで脆くも崩れさる。トキワタウンでのレッドとの二戦目、ニビジムでのタケシとの初対決。二度の敗北でプライドが崩れ去り、現実を受け止めるにはある程度の時間を要した。グリーンもまたレッドと同年代の子供にすぎない。
グリーンの中で本当の才能があるとすれば、敗北の責任を他者に押し付けないというただ一点に尽きるだろう。レッドに敗北したオニスズメ、タケシに敗北したヒトカゲ、いずれの時もグリーンは自分自身の不甲斐なさに憤怒し、そして奮起した。そんなグリーンにポケモン達が信頼を寄せるのも時間がかからない。
ただ時にグリーンの向上心が苛烈過ぎて他人にとっては恐怖の対象になることもあったが、グリーンはその機微を感じ取れないし、また興味もない。
あるのはただ、勝ち続けたいという思いだけ。その果てがリーグチャンピオンという地位だったし、グリーン自身戴冠の時は一定の満足感も得られた。
しかし、満足感は一時だった。遥かなる頂きには自分と自分のポケモン達しかいない。リーグチャンピオンという枠組みの中で、グリーンの隣にはライバルの存在がすっぽり抜けている。
かつてはレッドがいたその場所が——。
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389 : 2014/08/31(日) 20:48:50.98 ID:iy+ifKHv0 -
「ギャラドス、はかいこうせん!」
「フシギバナ、ソーラービームゥ!」
ギャラドスの口腔、そしてフシギバナの花弁から発射される特大の光線。両者に向かって伸びる光線は中間で激突し、光溜まりをを作ってフィールドを揺さぶる。
「はっぱカッター!!」
ソーラービームを放つ花弁を囲む大葉、その大葉から無数のはっぱカッターがギャラドスの顔へと向かい、ギャラドスの目元に命中する。
たまらずギャラドスは悲鳴を上げ、はかいこうせんの放出が止む。その瞬間ギャラドスはソーラービームに吹き飛ばされ、受け身も取れずにフィールドに倒れ伏した。
『ギャラドス、戦闘不能!』
「行け、ハクリュー!」
「戻れ、フシギバナ。行けギャラドス!」
(ドラゴンタイプに小手先の技は通用しない。ならば、圧倒的な力で勝るのみ!)
レッドの対ドラゴンタイプ作戦は至ってシンプルだった。
「ギャラドス、れいとうビーム!」
「ぬう!? ギャラドスにれいとうビームだと!?」
ハクリューの体が氷で覆われ、ついに凍りづけになって動けなくなる。本来ワタルは氷タイプあいてにはギャラドスで対抗している。レッドの手持ちを見て力押しできると判断したのが甘かった。
続くワタルのハクリュー、プテラもギャラドスのれいとうビームで凍りづけにされてしまう。
(カンナ、シバ、キクコをほとんど一方的に屠った相手、俺も及ばないか……)
「だが、ただでは終わらん! 行け、カイリュー!」
降り立ったカイリュー、ひこうタイプとドラゴンタイプを合わせ持つため、れいとうビームを喰らえばひとたまりもない。
だが四天王筆頭としての挟持、ただで終わる訳にはいかない。カイリューは幼少よりワタルに付き従った相棒。
「ギャラドス、れいとうビーム!」
「カイリュー!」
カイリューが歯を食いしばり、ギャラドスのれいとうビームに真っ向から耐える。羽や腕が氷付き、顔もだんだんと青ざめていくが、決して膝は屈さない。
『おおっと!! カイリュー耐えたあ! 4倍の威力と化したれいとうビームを耐えるとは、なんて頑強さだあ!』
「カイリュー! はかいこうせん!!」
「グオオオオ!!」
カイリューの口から発したはかいこうせんがギャラドスを飲み込む。獅子奮迅の活躍を見せたギャラドスも、れいとうビームを耐える程の気概を見せたカイリューのはかいこうせんを耐えるには至らなかった。
「よくやったギャラドス、行けラッタ! でんこうせっか!」
ミリ単位で残ったカイリューのHPを、ラッタが素早く刈り取った。
「……見事だ!」
『勝者、挑戦者レッドオオオ!! チャンピオン挑戦権獲得ううううう!!!』
その歓声と共に、グリーンは待合スペースのソファーから立ち上がった。
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404 : 2014/09/18(木) 00:25:17.26 -
誤字修正
>>2
レッドとグリーン、この街に住む二人の少年の力関係はこの会話で押して知るところだ。
→レッドとグリーン、この街に住む二人の少年の力関係はこの会話で推して知るところだ。>>3
「おお、しまった。旅立ちのついでにトキワタウンから荷物を持ってきて欲しかったんじゃが、二人共頼みそびれてしまったわい……」
→「おお、しまった。旅立ちのついでにトキワタウンから荷物を持ってきて欲しかったんじゃが、二人に頼みそびれてしまったわい……」「おおすまんのう。ジムリーダーのおつかいなんてさせてしまって申し訳ない」
→「おおすまんのう。ジムリーダーにおつかいなんてさせてしまって申し訳ない」>>10
エリカは抱擁力がこもった声で、
→エリカは抱擁力がこもった声で言う。>>11
トキワシティ。ここにはトキワジムの他、ポケモントレーナーの殿堂であるセキエイ高原に続いている。
→ トキワシティ。ここにはトキワジムの他、ポケモントレーナーの殿堂であるセキエイ高原に続く道がある。「そういやレッド、あれからお前ポケモンは捕まえられたか? じいちゃんの言葉に従うのは癪だけど、俺は一応集めてる。もう4匹も捕まえたちゃったぜ。レッドは何匹だ?」
→「そういやレッド、あれからお前ポケモンは捕まえられたか? じいちゃんの言葉に従うのは癪だけど、俺は一応集めてる。もう4匹も捕まえちゃったぜ。レッドは何匹だ?」>>13
グリーンは気づかない。オニスズメの眼がポッポのすなかけによって、途中から空を切っていたことを。
→ グリーンは気づかない。オニスズメの攻撃がポッポのすなかけによって、途中から空を切っていたことを。>>14
「さて道を変えて、まずはトキワの森か、今度はどんな森かな」
→「さて道を変えて、まずはトキワの森か、今度はどんなところかな」>>21
ハナダシティはニビシティと隣接しており、またカスミはタケシはと歳が近いこともあって、ポケモンの事を話すことは少なくなかった。
→ ハナダシティはニビシティと隣接しており、またカスミとタケシは歳が近いこともあって、ポケモンの事を話すことは少なくなかった。>>23
「うん、マサラタウンから来たんだ。ここではジムに挑むつもりで、今はその練習」
「レッド」
→「うん、マサラタウンから来たんだ。ここではジムに挑むつもりで、今はその練習」
「名前は?」
「レッド」フシギダネがレッドの腕に飛び込み、レッドもフシギダネを抱きかかえて笑顔で撫でる。
→フシギダネがレッドの腕に飛び込み、レッドもフシギダネを抱きかかえながら笑顔で撫でる。>>26
一度目はタケシが退ける。愛称から見て当然の結果で、タケシはがまんやタイプ相性の事をレクチャーしようと思ったのだが……。
→一度目はタケシが退ける。相性から見て当然の結果で、タケシはがまんやタイプ相性の事をレクチャーしようと思ったのだが……。>>36
(でかい……だけど、俺と俺のポケモン達の熱い闘志が囁きかけてくる。トレーナーとポケモンとの絆があれば、勝利の光をたぐり寄せることができる!」
→(でかい……だけど、俺と俺のポケモン達の熱い闘志が囁きかけてくる。トレーナーとポケモンとの絆があれば、勝利の光をたぐり寄せることができる!)>>37
「超えれない壁などないと、俺は教わりました。俺とフシギダネの力を合わせれば、また一つ、見えなかった強さを身につけることがでる!」
→「超えれない壁などないと、俺は教わりました。俺とフシギダネの力を合わせれば、また一つ、見えなかった強さを身につけることができる!」>>38
「言い師に巡りあったようだね。タマムシまで気が抜けないな」
→「いい師に巡りあったようだね。タマムシまで気が抜けないな」>>44
ポケモンセンターから複数の警察であるジュンサーが複数人現れ、布を被せた男を連れて行っている。
→ ポケモンセンターから警察であるジュンサーが複数人現れ、布を被せた男を連れて行っている。>>49
「冗談じゃないわ! ポケモンバトルを行うトレーナーなら常に勝利が一番大事。お姉ちゃん達がそんな甘い考え方だから、私に一度も勝てないのよ」
→「冗談じゃないわ! ポケモンバトルを行うトレーナーなら常に勝利が一番大事。ボタン姉達がそんな甘い考え方だから、私に一度も勝てないのよ」
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406 : 2014/09/19(金) 00:03:35.26 -
>>99
シオンタウン。そこはイワヤマトンネルの先にひっそりと軒を連ねる小さな町。
→シオンタウン。そこはイワヤマトンネルを抜けた先にひっそりと軒を連ねる小さな町。
レッドは努めて落ち着いていった。レッドの心には、まだグリーンへの複雑な感情が残っている。
→レッドは努めて落ち着いて言った。レッドの心には、まだグリーンへの複雑な感情が残っている。>>101
「ポケモンタワー、あれはポケモンたちのお墓じゃ。死んだポケモンたちを埋葬し、安らかな眠りにつく場所なのじゃ」
→「ポケモンタワー、あれはポケモンたちのお墓じゃ。死んだポケモンたちを埋葬し、安らかな眠りにつかせる場所なのじゃ」>>102
レッドはグリーンとはトキワシティで戦って以来会っていない。ポケモントレーナーとして旅は続けているだろうと思っていたが、まさかこんな人助けをしているとは……。
→グリーンとはトキワシティで戦って以来会っていない。ポケモントレーナーとして旅は続けているだろうと思っていたが、まさかこんな人助けをしているとは……。>>108
レッドはゆっくりとカラカラの手を離すと、カラカラは上を向いて、叫んだ。
→ ゆっくりとカラカラの手を離すと、カラカラは上を向いて、叫んだ。>>113
「各地にはポケモンと様々な付き合い方をしている方たちがいます。私もその一人……例えポケモン達と戦いに赴く身でも、目指すものはセキエイ高原とは限りません」
→「各地にはポケモンと様々な付き合い方をしている方たちがいます。私もその一人……例えポケモン達と戦いに赴く身でも、目指すものがセキエイ高原とは限りません」>>114
エリカがゲームコーナーに……彼女の外観からすれば、ちょっとミスマッチに過ぎはしないか。
→ エリカがゲームコーナーに……彼女の外見からすれば、ちょっとミスマッチに過ぎはしないか。>>115
(幸い時間を潰せるところは多そうだな。エリカさんが行ってるロケットゲームコーナーが気になる……)
→(幸い時間を潰せるところは多そうだな。エリカさんが行ってるロケットゲームコーナーも気になる……)>>116
レッドは駆け出す。黒い制服の男は遊ぶ人とゲームの間を慣れた様子でぬって進み、ゲームが立ち並んで死角になっている場所へと進んでいった。
→ レッドは駆け出す。黒い制服の男は遊ぶ人とゲームの間を慣れた様子でぬって行き、ゲームが立ち並んで死角になっている場所へと進んでいった。レッドはやつを追い詰めたと確信し、曲がり角を曲がってロケット団が入っていった死角を視認した。
→ レッドはやつを追い詰めたと確信し、曲がり角を曲がってロケット団が入っていった死角を見た。レッドは恐る恐る押して見る。ポチっと音がなったあと、スイッチがあった壁の一部が横にスライドしていく……。
→ レッドは恐る恐る押してみる。ポチっと音がなったあと、スイッチがあった壁の一部が横にスライドしていく……。>>121
階段を降りた暗闇の先。そこが悪がはびこるロケット団のアジトということは、フロアに点在する黒い団員達の姿ですぐにレッドは理解できた。
→ 階段を降りた暗闇の先。そこが悪がはびこるロケット団のアジトということは、フロアに点在する黒い団員達の姿ですぐに理解できた。>>128
サカキからすれば、少年にさらなる絶望を与えるためのデモンストレーションも兼ねていた。
→ サカキからすれば、少年にさらなる絶望を与えるための示威行為も兼ねていた。>>143
「ご、ごめんさい。相手を弱らせた後に、ボールをこう握って投げます。ボールを当てる位置も気をつけて」
→「ご、ごめんなさい。相手を弱らせた後に、ボールをこう握って投げます。ボールを当てる位置も気をつけて」>>48
カスミはレッドの答えに高翌揚していた。
→カスミはレッドの答えに高揚していた。>>73
レッドの気分は期待で高翌揚していた。ニビのタケシ、ハナダのカスミ、二人共ポケモン達と強い絆で結ばれている素晴らしいポケモントレーナーであり、そのバトルは非常に心躍るものだった。
→ レッドの気分は期待で高揚していた。ニビのタケシ、ハナダのカスミ、二人共ポケモン達と強い絆で結ばれている素晴らしいポケモントレーナーであり、そのバトルは非常に心躍るものだった。 -
407 : 2014/09/21(日) 16:52:18.68 -
>>168
レッドのポケモン達が一斉に雄叫びを駆け出す。それを見たシルフカンパニー入り口にいた多くのロケット団が驚愕する。
→ レッドのポケモン達が一斉に雄叫びを上げ駆け出す。それを見たシルフカンパニー入り口にいた多くのロケット団が驚愕する。>>174
水流とサイケこうせんが相手を押し流し、ホネブーメランが飛んでは相手の飛行ポケモンを撃ち落とし、つるが地面を砕き葉っぱが敵を切り裂いていく。
→ 水流とサイケこうせんが相手を押し流し、ホネブーメランが飛んでは相手のポケモンを撃ち落とし、つるが地面を砕き葉っぱが敵を切り裂いていく。>>182
四方から襲い来るロケット団員のポケモン達。しかしナツメのサイコキネシスで動きがピタリと止まると、階段への道に近いポケモンをレッドのラッタが速撃して道を開ける。
→ 四方から襲い来るロケット団員のポケモン達。しかしフーディンのサイコキネシスで動きがピタリと止まると、階段への道に近いポケモンをレッドのラッタが速撃して道を開ける。>>185
レッドとナツメが部屋に入ると、ナツメは後ろでにドアの鍵を閉めた。
→ レッドとナツメが部屋に入ると、ナツメは後ろ手にドアの鍵を閉めた。
鷹の眼光、紳士服の胸のRに強大な悪意を集約させた冷徹なる首領(ドン)、
→ 鷹の眼光、紳士服の胸のRに強大な悪意を集約させた冷徹なる首領(ドン)。>>222
レッドもエリカの気持ちがわかる。故に、彼女を心配させてしまった申し訳ない気持ちと、自分の実力のなさが情けなかった。
→ レッドもエリカの気持ちがわかる。故に、彼女を心配させてしまって申し訳ない気持ちがあり、また自分の実力のなさが情けなかった。>>223
今までで一番の綺麗なナツメの微笑みをレッドは見た気がした。レッドもつられて微笑む。
→ 今までで一番綺麗なナツメの微笑みをレッドは見た気がした。レッドもつられて微笑む。
数週間後、レッドは退院と共に向かった先は……。
→ 数週間後、レッドが退院と共に向かった先は……。
>>240
モルフォンが物陰でニヤついた笑みを浮かべているスキンヘッドの暴走族の男に迫る。すると男は気付いたのか、一気に恐怖の顔に歪んだ。
→ 物陰でニヤついた笑みを浮かべているスキンヘッドの暴走族の男にモルフォンが迫る。すると男は気付いたのか、一気に恐怖の顔に歪んだ。
スキンヘッドの暴走族にモルフォンのかぜおこしが当たる直前、レッドがピジョットをしかけ、ピジョットのかぜおこしで相殺した。
→ スキンヘッドの男にモルフォンのかぜおこしが当たる直前、レッドがピジョットをしかけ、ピジョットのかぜおこしで相殺した。
>>241
レッドとピジョットの体が勝手に動いていた。本当の正義など、レッドにはわからないし考えたこともない。ただ、レッドが言っていることだけが全てだった。
→ レッドとピジョットの体が勝手に動いていた。絶対の正義などレッドにはわからない。ただ、レッドが言っていることだけが全てだった。
>>250
「そうね……。セキチクシティジムリーダーはキョウ。専門は毒タイプで、ジムリーダーの中でも古参の方ね。私もバトルを見たことあるけど、毒ポケモン使いの中ではカントーいちでしょうね」
→「そうね……。セキチクシティジムリーダーはキョウ。専門は毒タイプで、ジムリーダーの中でも古参の方ね。私もバトルを見たことあるけど、毒ポケモン使いの中ではカントー地方一でしょうね」
>>251
セキチクジムはにすぐに到着した。中に入ると、キョウがジム中央のバトルスペースで目をつむり正座している。その後ろにはキョウの娘のアンズが控えていた。
→ セキチクジムにはすぐに到着した。中に入ると、キョウがジム中央のバトルスペースで目をつむり正座している。その後ろにはキョウの娘のアンズが控えていた。レッドは目を開き、モンスターボールをキョウにかざす。
→ レッドは目を開き、モンスターボールをキョウに向ける。
>>253
ピジョットの毒が回り始めるのと対照的に、モルフォンは冷静に吸血して体力を回復していく。
→ ピジョットに毒が回り始めるのと対照的に、モルフォンは冷静に吸血して体力を回復していく。
>>256
異種ガチンコファイトはお互いのずつきが炸裂し、ゴングが鳴った。
→ 異種ガチンコファイトはお互いのずつきが炸裂し、終了のゴングが鳴った。
>>257
それをエリカは自室で綺麗に封を空け、愛おしそう微笑みながらその書面に目を走らせる。
→ それをエリカは自室で綺麗に封を空け、愛おしそうに微笑みながらその書面に目を走らせる。(まあ、キョウさんがジムを空けたのはそんなことがあったのですね。レッドも怪我がなくてなにより……ん?)
→(まあ、キョウさんがジムを空けたのはそんなことがあったのですね。レッドさんも怪我がなくてなにより……ん?) -
408 : 2014/09/21(日) 17:17:49.70 -
>>263
その中でも特に気が合ったのが、親友フジ。フジはグレン島にやってきた研究員の中でも特に優れた科学者で、彼が特に得意としていたの遺伝子工学の分野。ポケモンの出生、進化の秘密を題目とした研究においては随一の科学者だった。
→ その中でも特に気が合ったのが、親友フジ。フジはグレン島にやってきた研究員の中でも特に優れた科学者で、得意分野は遺伝子工学。ポケモンの出生、進化の秘密を題目とした研究においては随一の科学者だった。「カツラ。俺達は誓ったはずだ。ポケモンの全ての謎を解き明かす。この機会を逃してどうする!? ポケモンの出産、次代への継承! 遺伝子の変遷! その全ての謎の答えの扉がミュウツーだ! カツラとてわかっているはずだ。ミュウは二度、三度として捕まえられるようなポケモンではない。我ら研究者がこの機を逃してどうする!? それとも、今更生命への冒涜だとでも抜かすきか? お前だってポケモンに使う薬の臨床実験がいかにして行われているか、知らないはずがあるまい! それと違うとでも言う気か……!」
→「カツラ。俺達は誓ったはずだ。ポケモンの全ての謎を解き明かす。この機会を逃してどうする!? ポケモンの出産、次代への継承! 遺伝子の変遷! その全ての謎の答えの扉がミュウツーだ! カツラとてわかっているはずだ。ミュウは二度、三度として捕まえられるようなポケモンではない。我ら研究者がこの機を逃してどうする!? それとも、今更生命への冒涜だとでも抜かすきか? お前だってポケモンに使う薬の臨床試験がいかにして行われているか、知らないはずがあるまい! それと違うとでも言う気か……!」
>>264
そうフジが言った時、貯水槽がバラバラに砕け散った。ミュウツーが雄叫びを上げながらあらゆるエスパー能力を発現させさせ、壁をずたずたに引き裂いていく。
→ そうフジが言った時、貯水槽がバラバラに砕け散った。ミュウツーが雄叫びを上げながらあらゆるエスパー能力を発現させ、壁をずたずたに引き裂いていく。
>>265
何重にも付けられたミュウツーの拘束具にひびが広がっていく。極めつけは、研究者の壁に風穴を開けて侵入してきたミュウだった。
→ 何重にも付けられたミュウツーの拘束具にひびが広がっていく。極めつけは、研究所の壁に風穴を開けて侵入してきたミュウだった。
>>312
やんわりと断った。レッドも「しまった」と言いながら苦笑する。しかし、薄目を空けたフシギバナを助け舟を出す。
→ やんわりと断った。レッドも「しまった」と言いながら苦笑する。しかし、薄目が空けたフシギバナを助け舟を出す。
>>335
仲間と助け合い、一つの事に一生懸命になることは素晴らしいことだ。しかし、レッドはそのことを知ったのはポケモンを手にしてからだ。なぜ自分はポケモンを手にする前から、グリーンに勝ちたいと頑張ったのだろう。
→ 仲間と助け合い、一つの事に一生懸命になることは素晴らしいことだ。しかし、レッドがそのことを知ったのはポケモンを手にしてからだ。なぜ自分はポケモンを手にする前から、グリーンに勝ちたいと頑張ったのだろう。
>>340
「……戻れバタフリー。さすがだサカキ。あんたはポケモンとの呼吸も、ポケモンの強さも、あんた自身の戦術も、俺のが身が震えるほどの物を持っている」
→「……戻れバタフリー。さすがだサカキ。あんたはポケモンとの呼吸も、ポケモンの強さも、あんた自身の戦術も、俺の身が震えるほどの物を持っている」
>>351
自分のHPを削り分身を作り出すことで、相手の攻撃を一度だけ耐えることができる技、みがわり。
→ 自分のHPを削り分身を作り出すことで、相手の攻撃を防ぐことができる技、みがわり。
>>363
一つ言えることがある。彼はきっと、大舞台でほほ笑みを浮かべ、高らかに宣誓するだろう。
→ 一つ言えることがある。彼はきっと、大舞台でほほ笑みを浮かべ、高らかに宣言するだろう。
>>375
天井と観客席の間の超大型スクリーンには、画面を二分割してレッドと対戦するトレーナーの姿が映し出せれている。
→ 天井と観客席の間の超大型スクリーンには、画面を二分割してレッドと対戦するトレーナーの姿が映し出されている。
>>378
シバはレッドへ叫ぶ。。
→ シバはレッドへ叫ぶ。
「特別なことはないもしていません。俺はバタフリーの力を最後まで信頼していたから、それだけですよ」
→「特別なことはなにもしていません。俺はバタフリーの力を最後まで信頼していたから、それだけですよ」
>>383
ワタルはと談話スペースのソファーで寝そべっている人物へと声をかける。
→ ワタルは談話スペースのソファーで寝そべっている人物へと声をかける。
ワタルが抱いていた諦観は、今スタジアムへで躍動するレッドを見て、期待へと変わりつつある。
→ ワタルが抱いていた諦観は、今スタジアムで躍動するレッドを見て、期待へと変わりつつある。
>>388
グリーンの眼は開いている。しかし近くのテレビから流れてくる映像を見ているわけでもく、また実況に耳を傾けているわけでもなかった。
→ グリーンの眼は開いている。しかし近くのテレビから流れてくる映像を見ているわけでもなく、また実況に耳を傾けているわけでもなかった。
>>389
ギャラドスの口腔、フシギバナの花弁から発射される特大の光線。両者に向かって伸びる光線は中間で激突し、光溜まりをを作ってフィールドを揺さぶる。
→ ワタルのギャラドスの口腔、そしてレッドのフシギバナの花弁から発射される特大の光線。両者に向かって伸びる光線は中間で激突し、光溜まりを作ってフィールドを揺さぶる。 -
412 : 2014/09/21(日) 18:12:46.29 -
両者KOのため2体目は同時に出現させなければならない。レッドもグリーンも相手の手持ちの情報がないため、ここからは未知の戦闘になる。
レッドが選んだのはギャラドス。理由はある。ギャラドスは水と飛行の複合タイプ、弱点となる岩タイプと電気タイプの攻撃は、ガラガラの後だしによって回避できる。
対してグリーンが繰り出したのは緑色の外骨格に両手を刃と化した密林の暗殺虫、ストライク。
(ここだ!)
レッドの脳に駆け巡る閃光。絶好の奇襲チャンスだった。
「ギャラドス! 10万ボルト!」
「なに!?」
ギャラドスから発した電光がストライクに直撃する。
観客席で「あれはミーがプレゼントしたわざマシンネ!!」とマチスが隣のポケモンだいすきクラブ会長の首に太い腕を回して叫んでいる。
「ストライク、とっしん!」
しかしグリーンが一瞬で冷静さを取り戻し、かろうじて生き残ったストライクへ命令する。ストライクは羽をはためかせてギャラドスへ突進するとギャラドスの顔面を蹴り飛ばし、その反動でグリーンの元へ舞い戻ってグリーンのモンスターボールから発せられたリターンレーザーを浴びる。この技はバトル後にポケモン協会によってとんぼがえりと命名された。
「サンダース!」
ストライクと入れ替わりで現れたのはサンダース。グリーンの命令の前にサンダースの素早い電撃がギャラドスを掠めたが、なんとかレッドはギャラドスにリターンレーザーを当てた。
(サンダースが狙う交代後出始めの先制攻撃、ガラガラならば!)
レッドの狙いはあたり、サンダースが放った電光が出始めのガラガラに直撃する。しかしガラガラは全く意に介さずホネこんぼうをサンダースへ投合した。
「ミサイルばり!」
グリーンはガラガラの姿を見てあの時のカラカラだと一瞬で見抜き少し微笑んだが、すぐに厳しい顔へ戻す。
サンダースの毛が逆立って波打ちと、空気を切る鋭い音を立てながらホネブーメランへと飛んで行く。ホネブーメランは空中で華道剣山のようになって勢いをなくし、サンダースに届く前に墜落した。
「じしん!」
ガラガラが両手を地面に突き刺して大地を脈動させる。揺れた地面がサンダースを真下から叩き上げ、サンダースの体が宙に舞った。
(あさいっ)
レッドは即座に悟り、ガラガラに追加攻撃させる。
「ホネこんぼう!」
「にどげり!」
ガラガラが地面に落ちているホネこんぼうを拾い上げて空中のサンダースへ振り下ろす。しかしサンダースは身を捩ってかわすと後ろ足でにどげりし、ガラガラをのけぞらせた。
「ホネブーメラン!」
のけぞったまま腕力だけで投合されたホネブーメランは着地中のサンダースに直撃し、今度こそサンダースを沈ませた。しかしガラガラもにどげりが急所にあたってしまったのか膝をつく。
「ラプラス!」
5対4。次いでグリーンが繰り出したラプラス。水技を予想したレッドがガラガラを戻す。
予想はあたり、ラプラスが相手の出始めを狙ったハイドロポンプはフシギバナの花弁を濡らすだけに終わった。
「へえ。いい見極めだなレッド! れいとうビーム!」
「!? はっぱカッター!」
はっぱカッターとれいとうビームが激突すると、すぐにはっぱカッターが凍りついて粉砕されていく。しかしれいとうビームが届いた場所にフシギバナはいない。
フシギバナはすぐにフィールドを旋回するように走ってラプラスへ距離を詰める。図体は大きくなったが決して進化前と比べて鈍重になったわけではなく、むしろ強化された筋力によってその速度は上がっている。
-
421 : 2014/09/21(日) 19:10:07.12 -
(サカキ、俺が皆と一緒に見つけた答えを、今度会ったら伝えるよ)
1−0のスコアが表示される。グリーンが震える手でモンスターボールを掴み、倒れて動かないリザードンにリターンレーザーを当てる。
『新っチャンピオン!! レッドォォォォオ!!!!』
アナウンサーの絶叫とともに、スタジアム上部から黄金の紙吹雪が一斉に放出され、色とりどりの花火が断続的に空を彩る。
レッドはゆっくりと歩いてフィールドのフシギバナに向かう。
フシギバナがレッドへ顔を向ける。レッドのくしゃくしゃの顔に釣られるように、フシギバナの目に涙が浮かんだ。
マサラタウンで出会った二人。フシギダネはフシギバナに進化し、レッドもまた外見も内面も大きく成長した。
だが変わらないことがある。
二人の心を繋ぐ光はいつだって切れはしない。今までも、そしてこれからも。
「勝った……勝ったぞ……! フシギバナ……お前と俺と……皆で! やった……! やってやった……! 俺たち皆で……やってやったぞ……!!! 勝ったぞ!! 勝ったぞ!! うああああ!!!!」
レッドがフシギバナと額を合わせ、喜びに泣き叫んだ。グリーンが見ている、観客が見ている、世界中継するカメラが見ているが、関係なしに泣き叫んだ。
そしてそれを否定するものも、冷やかすものもいやしない。
「おい、レッド!」
「あ……」
グリーンの呼びかけにレッドが気づく。グリーンは大型スクリーン下のスペース、円形に設けられた王座を指さしている。
「さっさとステージの中央に行ってこい。あそこが殿堂入りを登録する場所だ」
それだけ言うと、グリーンはレッドが入場してきた挑戦者用の入場口へ向かう。グリーンはレッドとすれ違いざま、「ガラガラ泣かすなよ。あと次は負けねえから」とだけ言い残した。レッドとグリーン、二人にとってそれだけで充分だった。
レッドはフシギバナを戻す。そして「レッド」とコールし続けるスタジアムの中、玉座へと続く階段を登る。
登り切った先のステージには、穏やかな笑みを浮かべたオーキド博士が待っていた。
「グリーンの初防衛戦があると聞いて飛んでくれば、もう勝負がついておったわい。だが来てよかったぞ。新たなチャンピオンの誕生を見ることができるとは。おめでとうレッド」
-
423 : 2014/09/21(日) 19:21:57.68 -
レッドの密着取材を終えたエニシダは、ポケモンジャーナルへ寄稿するとカントー地方から姿を消したという。彼に近いものはどこか遠くでデカイ事をやりたくなったと聞いているようで、彼の身を案じているものはいないようだった。
ジムリーダー達は相変わらず多忙な日々を送っている。ポケモンリーグ後、セキチクシティジムリーダーが正式にアンズになり、またトキワジムリーダーは空位となり後任が決まるまでキクコが代行することになった。
レッドはリーグチャンピオン戴冠後、すぐにチャンピオンの座を返上した。これ自体は大したニュースにはならなかった。リーグチャンピオンは代々、グリーンのように防衛戦を行うためセキエイ高原に残るものと、即返上するものと半々の割合らしい。また新シーズンでは現四天王を含めた多くのトレーナー達がしのぎを削ることになるだろう。
『以上、新チャンピオン、レッド選手の素顔でした。次のニュースです……』
マサラタウンの自室。レッドは何の気なしにテレビをBGMにし、カーペットの上に座りながらリュック内の荷物を確認していた。モンスターボール6つも腰に付けており、今から準備することは特になくなっている。
「レッドさん」
そう甘い声を出しながらエリカがレッドへ後ろから抱きつき、レッドの首へ腕を回しながら頬をつけ合う。レッドも微笑みながらエリカの腕に手を添え、顔を気持ちエリカへかたむける。
エリカの表情はうっとりとしていながらどこか切ない。薄く目を開きながらレッドの頬に唇をつける。
エリカとレッドは二人きりになるとよく互いの体温を感じ合っていたが、今日は格別エリカが甘える度合いが強い。
「すぐ戻ってくるよ」
「嘘。レッドさんのすぐはどれくらいですか?」
エリカのすねた声にレッドが困ったように笑う。レッドの旅支度、彼はこれからチャンピオンだけが探検を許されるハナダの洞窟と、セキエイ高原より西にあるシロガネ山を踏破するための準備をしていた。
またレッドはその踏破が終わったあと、さらに広い世界をめぐることをエリカに告げている。
(わかっていたけれど)
レッドがそういう選択をすることを、エリカは予測していた。しかし期待はしていなかった。これからはカントー地方で二人で一緒に。期待していたのはそんな夢想。
「離れたくないです」
エリカがレッドの耳元でささやく。しかし言葉と裏腹に、エリカの心の中で踏ん切りはついていた。レッドを待つ、いつまでも。エリカの囁きはちょっとした意地悪に近い。
好いた女にそんなことを言われたら当然レッドの心が波立つ。レッドはふと思いつく。
「ハナダの洞窟とシロガネ山の踏破が終わったら、一緒に世界をめぐりたい。エリカさんと一緒に」
エリカの瞳を正面から見つめ、穏やかに言う。エリカは反射的に「はい」と答えて少し狼狽したが、すぐに視界一面がレッドで埋め尽くされて甘い味を感じ、目を瞑って堪能した。
レッドは草原の中回想を終え目を開ける。天気は快晴、少し風が強い。
シロガネ山の山頂が遥か先に見えるこの場所で、レッドは隣のフシギバナに手をついて一つ息をつく。
「さて、準備はいいか皆?」
レッドの後ろにはピジョットとラッタの姿。今レッドはポケモン界に徐々に浸透しつつあるトリプルバトルの練習も兼ねてシロガネ山に挑もうとしている。
エリカからの手紙にはいくつもの時代の変遷がレッドへ伝えられている。カスミとの協力の下発表されたポケモンの性格による得意分野の発見や、オス・メスの判別、別地方からのダブル・トリプルバトルの普及、ポケモンのたまごの発見など。既にレッドの最年少優勝記録の偉業なんて風化しつつある。
しかしレッドは自身の優勝記録なんて少しも気にしてなかったし、むしろ変わりゆく世界が魅力的に見えて仕方がない。
エリカからの最新の手紙に同封されていた写真。レッドが発見した未知の鉱石によって進化したクサイハナ——キレイハナというらしい——の姿が写っている。
頂点など過去の話。レッドとポケモン達は際限のない未知の世界へ進むのが楽しみで仕方がない。
「行くぞ! 皆!」
次代に向かい雄叫びを上げ駆け出す3匹、ラッタ、ピジョット、フシギバナ。
レッドは誰よりもいち早く、新たな光へ疾風のように駈け出している。
END
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