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1 : 2013/12/01(日) 19:32:09.74 -
魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語- の続きを、妄想で書いたものです。
「始まりの物語」「永遠の物語」「叛逆の物語」その他関連作品のネタバレを含みます。
暇な方、よければお付き合いください。SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1385893929
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1385893929/
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2 : 2013/12/01(日) 19:32:40.73 -
手に入れたのは孤独。
それでも私は満足だった。
一度ならず二度なくした命を、こうして彼女のために使えるのだから。誰もが私を非難する、私のしたことは間違いだと。
たった一人それを受け入れてくれると思った彼女も、また答えは同じだった。
そのことに私は大きく揺らいだけれど、またどこかでそれを予想していたのか、理解することは容易かった。それでも私はこの想いを貫こう。
あの子を呪いに縛り付けた世界など、絶対に許さない。受け入れない。
それさえ叶うなら、私はもう、何も要らない。深い紫に沈んだ結晶を撫でると、脈動するように表面が波を打った。
怪しく光るそれは、変質した魂の容れ物は、私が神様に叛逆して、堕ちたことの証。
この想いで埋め尽くされた、とてもあたたかい闇に。
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3 : 2013/12/01(日) 19:33:20.57 -
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——————————————————
—————————眠りを必要としなくなったのはいつからだろうか。
魔法少女としての力を手に入れてから、だと思うけど、それでも暇を見つけて布団に入るようにはしていた。
そうしないと、恐怖で闇に呑みこまれてしまいそうだったから。今となっては、闇は私そのもの。
慈しみこそすれ、恐れる道理など無い。
日が沈んでからは、見滝原を見渡せるこの丘の上で、時間を潰すようになった。眠くもないので、別に不都合があるわけでもなし。
私の作りだした世界を眺めて、ただ時々目を閉じて開いて、を繰り返す。とはいえ、別に、暇と言う訳でもない。
魔獣が湧けば使い魔に指示を出すし、時には自ら潰しに行くこともある。
そして、こんなことも、たまにはある。
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4 : 2013/12/01(日) 19:33:47.51 -
「夜遊びかしら。美樹さやか」「……誰が好き好んで。こいつらを差し向けたの、あんたでしょ」
声のする方へ振り向けば、そこに居たのは一人のクラスメイト、元、円環の鞄持ち。
美樹さやかが、私の使い魔を足元に引き連れて立っていた。
表情に浮かんで見えるのは、戸惑いと、若干の怒りと、敵意。
私に向けられたそれを感じて、口元が笑いのかたちにねじ曲がる。「あら、困った子たち」
はぐらかすように答えて、手をゆっくりと招聘の形に二度動かす。
無邪気な声を上げて走り寄る使い魔たちを、あやすように撫でてあげた。
いくつかは弾けて闇に溶け、いくつかはまた楽しそうに私から散って行く。
その後姿に目線をやり、わざと美樹さやかを無視するような素振りを見せてやれば、分かりやすく彼女は苛立ちを隠さない。
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5 : 2013/12/01(日) 19:34:20.38 -
「あんた、一体何なのよ。こいつら一体何なのよ」「そんなに疑問に思うものかしら。私はとてもこの子たちを信頼しているけど」
「質問に答えてよ。あんた一体何なの」
ちょっと怒気を含んだ声で美樹さやかが繰り返す。
この問答も何回目だろう。
夜が訪れて、彼女が私の力に囚われるたび行われる問い掛け。決まって安い挑発を浴びせれば、彼女はいつもその答えに辿り着く。
まあ、きっとまたすぐに忘れてしまうのだけど。
だからいつものように、私はその言葉を口にした。「知ってるでしょう?」
「……そうだ、あんた、あんたは……あたしの、あたしたちの、敵で」
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6 : 2013/12/01(日) 19:34:54.24 -
悪魔。
嗤うように、彼女の言葉を引き継いだ。空間は歪み、私たちの戦いの場へと移る。
高層ビルの屋上あたりがいいかな。
うん、それがいい、そうしよう。美樹さやかを伴い、降り立った地に吹き荒れるビル風が、私の身体を吹き抜けて濁った力の奔流になって、世界を隔離する壁となっていく。
今日の結界はちょっとご機嫌斜めかもしれない。
前から少し時間が空いてしまったからだろうか?
ちゃんと手加減しなきゃいけないんだけど。閉ざされた世界の中に佇む魔法少女に声を掛ける。
この現象が何かなんて分かる訳もないだろう。
彼女に蘇っている記憶は、あの時に決別の証として宣言したこと、ただそれだけだ。
だから。
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7 : 2013/12/01(日) 19:35:24.19 -
「いらっしゃい、美樹さやか」
「目的も存在も何も分からなくていい。でも、確かに私はあなたの敵」
「ただ、倒せばいい——そうでしょう?」
彼女の性格上、面倒なことがないのは楽でいい。
目の前の魔法少女が剣を構えたことを確認して、私も両の手を闇にかざす。世界そのものと同化する私に、あなたが勝てる日は来るのかしら?
そう声に出さず呟いて、目の前に迫る敵意の塊に向かい力を解き放った。 -
8 : 2013/12/01(日) 19:35:56.18 -
「適当に運んでおいて頂戴。佐倉杏子には見つからないようにね」
使い魔に気絶した美樹さやかを担がせて、端的に指示を与え、また私は空を見上げる作業に戻った。
もうすぐ時は暁。
仄暗い霧を浮かべた空が、やがて金色の光を吐き出すだろう。さあ、長い一日が、また始まる。
永遠にも等しい時に浸ろう。
あの子の傍で、あの子の彼方で。
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9 : 2013/12/01(日) 19:37:21.20 -
そして、朝。
歩き慣れた通学路を行けば、通り過ぎていく人波の中に、見知った顔もいくつかある。私が勝手に覚えているだけで、あちらは私のことなど覚えているはずもないけど。
群衆のざわめきと靴の鳴らす足音の合唱に紛れて、そんな彼女たちの声が聞こえてきた。「こら、そんなに大きく口を開けて、はしたないわよ」
「なぎさは眠いのです……昨日の夜、マミお姉ちゃんがイタリア紀行番組なんて見つけるから悪いのです」
「う、確かにそれは私のせいだけど」
良く見知った顔の一つ、巴マミと話すもう一人は、改変の折に初めて知った存在。
私がまどかと一緒に引きずり下ろしてしまった、円環の理の一部。
幸か不幸か、因果なもので、こうして巴マミとよろしくやっている。
美樹さやかとも違い、これといって私に対してのアクションがないため、特に意に介することもなく放置している。
まあ、寂しがりのくせに強がりなあの人の隙間を埋めてくれるなら、むしろ苦労が減ってありがたい。
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10 : 2013/12/01(日) 19:37:52.80 -
用もない、適当に歩を緩めてやりすごそう。
使い魔たちが後ろから私の背中を蹴っているのを無視しつつ、顔をゆっくり下に落とす。
落とそうとして、視線を受けた。
首を返してみれば、その感覚は消えていて、彼女たちは言葉を互いに交わしているのみ。「……? どうしたの?」
「なんでもないのです」
「じゃあ行かなきゃ。あなた、今日は朝礼でしょ」
「めんどうなのです……遅刻しても」
「ダメに決まってるじゃない」
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11 : 2013/12/01(日) 19:38:44.57 -
視線の主と思われる少女は、私の返す視線を意に介さず駆けていく。
私たちよりも一回りどころか二回りも小さいその後姿が、何を考えているのかは分からない。
自分の足が止まっていることに気付いた上、後ろからこれでもかというほど聞き覚えのある声が聞こえてきたので、そこで思考は中断した。「さやかちゃん、眠そうだね」
「んー、なんかねえ。よくわかんないんだけど、最近睡眠不足気味で」
「授業中寝てばっかいるから夜寝れねーんじゃねーの?」
「あんたと一緒にすんな!」
賑やかな声に急き立てられるように、私は歩幅を広めて前に進む。
何よりも耳を捉えて離してくれない声に後ろ髪を引かれるけれど。
それは押し[ピーーー]。ぐしゃりべちゃりと、私にまた赤い実がぶつけられる。
誰にも見えないその赤が視界を埋めて鬱陶しい。
耳に下がる結晶を撫でて心の平穏を保ちながら、ゆっくりゆっくり流れる風に逆らって歩いていく。
涼しかったはずの春の空気は、いつの間にか蒸し暑く変わっていた。
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12 : 2013/12/01(日) 19:40:01.14 -
「……出来ました」
「あら、ええ、よく出来てますね。ではお昼休みにして結構ですよ」
「きりーつ、れい、ありがとうございましたー」
やる気のなく、それでいてやたらと早口な美樹さやかの号令によって、昼前の授業が切り上げられる。
私はと言えば、ホワイトボードの前に立って自分の書き上げた解答をぼんやりと眺めていた。
およそ中学で習うべき範囲を遥かに逸脱したそれは、この世界に与えた歪みの証。間違いが無いことをもう一度確かめて、訪れた昼休みの喧噪の中に紛れながら、自席へと戻った。
ほんの少しだけ優越感を抱いてしまうのは、責められて然るべきだろうか。
机に突っ伏している佐倉杏子を見て、そんなことを思う。またトマトが飛んで来たけど、これはどの部分に反応してのものだろうか?
投げて来た使い魔を一瞥してみると、そちらには何人かのクラスメイトが居て、ちょうどこっちを見ていたものだから面倒くさい。
悲鳴のようなものを上げて、ぱたぱたと駆けていった。そんなに私の目つきは悪いのだろうか?
まあ、その方が不都合もなくていいのだけど。
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13 : 2013/12/01(日) 19:40:44.85 -
「ぁ、あの」
そんなだから、私に声を掛けてくる奇特な存在なんて、ほとんど皆無に等しい。
ごくごく稀に、ごくごく限られた何人かの物好きが、それを試みるくらい。
聞こえなかった振りをして、通り過ぎてしまうこともある。
ただ、この声の持ち主にだけは、それはできなかった。「ほむ……ら、ちゃん」
それが誰のものかなど、頭に介する必要はない。
いつ聞いても、その声は私の心を鷲掴みにして、思考を無理やりに止めさせるのだから。
心臓が大きく一度揺れる。
呼吸も止まって全身から汗が噴き出す。
見えないように背中で隠して、心臓のあるところを鷲掴みにした。
震えがおさまったことを確認し、表情を整えて、振り返る。
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14 : 2013/12/01(日) 19:41:20.49 -
「何かしら」
続く言葉を、いつかのように言いかけて、そこで切る。
ちゃんと、それを、言い切らなきゃ。
簡単なことじゃない。
でも、私には、それを言う資格なんて、ないから。「鹿目さん」
音を立てて続け様に潰れた赤い何かが、私の顔を染めていく。
こればかりは咎めようもないだろう。
そんな目線の先にいるまどかは、かわいらしいお弁当箱を抱えて、戸惑いながらも声を絞り出した。「あ、あの、えっとね?よかったら、お昼ご飯、一緒にできたらな……って」
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15 : 2013/12/01(日) 19:42:13.17 -
どもりながらも最後まで言葉を口にした彼女。
自信なさげに手元を小さくこねくり回しているのが、何とも言えず彼女らしい。
また、その後ろで美樹さやかが、何とも言い難い表情をしているのに気付いて、少しおかしくなってしまう。
思わず口元が綻んでしまい、自覚して目線を下に落としながら、唇を開く。「そうね、気持ちはありがたいのだけど」
大丈夫。
私の返すべき言葉は決まってる。
表情に揺らぎは無い。
声も震える事は無い。
息を一つ吸って、答えよう。「遠慮するわ。あなたとお友達の時間を、邪魔しては悪いから」
背を向けて、歩き去る。
振り向きざま、私の顔面へと綺麗にトマトが吸いこまれた。
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16 : 2013/12/01(日) 19:43:29.70 -
そのお昼休み、学校の屋上で、だらりと手を投げ出す美樹さやかに佐倉杏子、それを呆れ半分で見ている巴マミと、まどか。
そんな四人を私は、遥か高く聳え立つ鉄塔の上から覗き見ていた。『なあさやか、今日ノート取ってた?あたし途中から象形文字に見えてきて』
『いや、もうちょっと無理だわあれ。わけわかんないってば』
『美樹さん、二年生の内からあきらめちゃダメよ。三年生になったらもっと難しくなるものなんだから』
『あはは……わたしも、耳が痛いです』
みんなの声は耳元から聞こえてくる。
別に、そのために昇った訳じゃなくて、いつものようにここに来ただけだから。
ああもう、トマトうるさい。鉄塔に背をあずけて、座り込んだ。
しばらくそのままで、じっとしていた。
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17 : 2013/12/01(日) 19:44:07.94 -
四人の他愛ない会話が、ぶつりぶつりと聞こえてくる。
それを邪魔する風と、強烈な直射日光も、大した問題ではない。
世界の外にある太陽は、とてもゆっくりと動いている。時間の流れなどに、この瞬間を邪魔できようもない。
ゆっくりと手を空にかざして、天上に鎮座する熱の塊を握り込むように力を込めた。『そういやさ、まどか、さっき、ほむらの奴に何か言ってた?』
耳元から不意にこぼれた佐倉杏子の声で、私の動きは停止する。
寝てたのならそんなところまで耳聡く聞き止めなくてもいいだろうに。
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18 : 2013/12/01(日) 19:44:35.35 -
『あ、うん……お昼ごはん。一緒にって誘ってみたんだけど、断られちゃった』『あいつ、前からずっとそうだよ。あたしが誘ったこともあるけど、だめだったし』
『暁美さんのこと?』
『ああ。マミも知ってるんだっけ?』
『私と言うか、この学校中で知らない人はいないんじゃないかしら。有名人よ、あの子』
『そーですなあ。才色兼備で文武両道、どこか闇を背負ったような立ち居振る舞い……マンガのキャラかっつーの!』
まあ、あたしは苦手だけどね。
そんな一言が誰にも聞こえないほど小さく付け加えられたことを、私は喜ぶべきなのだろう。
一度切れた会話に安心して、全身に走った緊張感を緩めようとする。
その時に、まどかがまだ会話を引き継いだ。
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19 : 2013/12/01(日) 19:45:06.08 -
『うん、なんか……上手く言えないんだけど、なんていうか、ほむらちゃん、すごいんだけど』
『いつ見ても、どこか、寂しそうで』
『声、かけてあげなきゃ、いけないかなって……』
一言一句、紡がれるたびに、私の胸は掻き毟られる。
そんな優しさを、かけてもらうつもりはないのに。
視界が明滅して揺れるけど、それは私のものではなく、世界そのものが揺らいだことによるものだった。
必死に耳元の宝石を握りこんで、その衝動を抑え込む。
息も荒い私をよそに、あの子たちの会話は、まだ続いている。
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20 : 2013/12/01(日) 19:45:38.19 -
『鹿目さん、優しいのね』『わたしも転校してきて色々不安だったけど……最初に声かけてくれたの、ほむらちゃんだったんです』
『ふうん。まあ、あたしは面倒くさいから、どっちでもいいけどさ』
『ちょっと、何言ってるのかはよくわかんなくて、怯えたりもしたけど……悪い人じゃないかな、って』
『……しょうがないなあ。まどかのそういうお人よしな所、昔から、本当に昔から、変わってないもんね』
『そ、そうかな……』
ええ、本当に変わってない。
それが人を傷つけることもあるのに、どこか暴力的なまでにあなたは優しい。
だから、私は————
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22 : 2013/12/01(日) 19:46:29.57 -
「こんな所で、何をしているのです?」
膝を抱え、思考に溺れていた私の頭は、不意に掛けられた一言で現実に呼び戻される。
それは中継された声ではなく、自分の真後ろから響いたもの。
聞き覚えは、あった。「どうやって登ったのかは分からないけど、もし怖くて降りられないのなら、なぎさが助けてあげるのですよ」
「……そう、有難い申し出だけど、その必要はないわ」
百江なぎさ。
彼女こそどうやって登ったのかと聞いてみたいが、それを問う前に、中指の紋章に気付いた。
よく考えてみると、美樹さやかも魔法少女としてこの世界に落としてしまったのなら、それは道理だろう。彼女に、円環の記憶があるということはないだろう。
ほとんど接点がないだけに、どう扱っていいかも分からないのが、不気味ではあるが。
ひとまず後ろは振り向かずに、手に力をもう一度込めて、世界の揺らぎをおとなしくさせた。
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23 : 2013/12/01(日) 19:47:19.29 -
「お勤め御苦労様。目に見える範囲に魔獣はいないから、お昼休みが終わる前に戻りなさい」
わざわざ関わりを持つ必要なんてないだろう。
言って、私は彼女の視界から消える。
鉄塔の上から、地面に向かって、さかさまに落ちて行く。
驚いた風な気配を感じたけれど、私の言葉の意味が分かるなら、無理に追って来ると言うこともないだろう。落ちて行く世界はもう安定していた。
これからのことを思うと、楽観出来たものではないけれど、どうしたものか。
風を切りながら、身体をひねって見滝原中の屋上へと目をやる。
彼女たちはまだ談笑に興じている。「…………!?」
はずの、一人。
偶然か必然か、彼女だけが、不意に首をこちらに向けた。
これだけの距離があって、尚も私のことを確認できる視力は、褒めてあげるべきか。その邂逅は一瞬。
座ったまま顔を引き攣らせる彼女と、逆しまに落ちて行きながら笑う私。
つくづく、因果なものだと、思う。
声を上げて全員に気付かせることもなく、固まっていてくれて、ありがとう。
そんな気持ちを素直に、笑いに込めた。さて、何食わぬ顔で午後の授業に出てやろう。
彼女はどんな顔をして私に接するのだろう。
暗い楽しみが出来たことを自覚しながら、私は地面に向かって加速する。
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24 : 2013/12/01(日) 19:49:00.62 -
結局、その日、それ以上の接触は無かった。
美樹さやかが、屋上で見たことを追求してくることも、無かった。
身構えてはいたものの、ありがたくはあったかもしれない。
時は間もなく夕暮れ。
魔獣が活発に動き始める、欲望の渦巻く街の夜明け。いつもの丘の上で、私は街を遍く眺める。
魔獣たちが生まれては消え、生まれては潰されを繰り返しているのは、私の使い魔と、彼女たちによるもの。
この街に居る魔法少女は、四人。
美樹さやかと佐倉杏子、巴マミと百江なぎさ。
今、彼女たちは、風見野との街境あたりに湧いた魔獣と交戦しているようだ。「そろそろ仕事よ。さっさと行って来なさい」
彼女たちは相応に消耗しているし、グリーフキューブもそれなりに消費するだろう。
声をかけた相手に、傷だらけの風貌を無理やり整えさせて、戒めから解放した。
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25 : 2013/12/01(日) 19:49:35.47 -
「僕たちの仕事だ。言われずとも行くさ」
「あら、口答えなんて生意気ね」
人差し指を縦に下ろすと、そいつは真っ二つに斬り割かれる。
せっかく直してあげたのに、バカな子ね。
あなたの言う所によると、もったいない、そうなんでしょう?まだ何かを言いたそうにしているそいつの口を、無理やりに閉じさせて、送り出した。
私とあなたの上下関係など、もう痛いほどに理解しているでしょうに。
あなたの意志も何も、私の前どころか、この世界では無力なのだから。「さて、私も行きましょう」
そいつの影が消えたことを確認して、私も立ち上がる。
黒い翼と悪魔の装丁を身に纏い、たった一人で向かう場所。
魔法少女たちは使い魔たちが誘導してくれているだろうから、それを邪魔する者はどこにもいない。
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26 : 2013/12/01(日) 19:50:44.28 -
降り立った場所、あの子が暮らす家の屋根の上で、私は周りを一瞥する。
半分ほど落ちた陽が、木々や家の影を長く伸ばして、世界を黄金色と黒の二色に染め上げていた。その中に混じる、白色の異物。
世界の歪みを正すための存在。
二度の改変を受けた世界が遣わした、人々の負の感情を吸って具現するモノ。
魔獣。標的は、まどか。
世界を変えてしまい、本来なら概念として昇華したはずが、私の手によって落とされたため、今はただの人間である彼女。
魔獣からすれば、これほど分かりやすい標的もないのだろう。
そして。「私は悪魔。世界の理を乱し、蹂躙するモノ」
「あなたたちを理の存在だとするなら、私が敵対するのは当たり前よね」
「いらっしゃい。残らずこの手で滅ぼしてあげる」
この瞬間だけは、私が私であると、心の底から実感できる。
ああ、なんて楽しいのだろう。
信念のままに、破壊を振り撒くのは————翼を広げて、想いの向かうままに力を爆発させる。
黒い奔流は逆巻きながら、あの子の暮らす場所だけを無風にして、魔獣を飲み込み噛み砕いていく。
中に居るあの子は何も気付かない。
どうか、そのままで。
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27 : 2013/12/01(日) 19:51:30.33 -
ひとしきり暴れ終えると、日は完全に暮れてしまっていた。
風は無く、音も無く寝静まった見滝原の街を駆けて、帰るべき場所へと帰っていく。
楽しい時間は終わり。
また明日と、小さく言い残して。手元に残った大量のグリーフブロックを遊ばせて、結局使い魔に放り渡す。
今の私には必要のないもの。
彼女たちに適当な形で渡してやればいいだろう。
そんなことを思っているうちに、いつしか一山作れるほど貯まってしまっていたが。
意識を自分自身に戻すと、ふと言葉がこぼれた。「……寒いとは、一応感じるのね」
夏の盛りも過ぎて、夜の帳が下りた頃。
眠気も食欲も無くなってしまった私でも、まだ気温の変化くらいは分かるらしい。
きっとそれも、無くそうと思えば、無くしてしまえるのだろうけど。そんな、いつになく空が綺麗な夜。
半分に欠けた月を遮るものは何もなく、仄かな光が街に、そしてあの丘に降り注いでいた。
遠目に見てもそれと分かる人影が一つ。
どうやら今日のフルコースは、まだ終わりではないらしい。
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28 : 2013/12/01(日) 19:52:05.83 -
「遅かったじゃん」「待っていてくれたのかしら。奇妙なこともあるものね」
青い騎士の足元には、バツの悪そうにした使い魔が隠れている。
構わず手を振って迎えてやった。
ひとしきり撫でて満足させてやったところで、美樹さやかが口を開く。「ここに来ないと、どうしても思い出せないんだよね」
「あんたが悪魔だってこと。学校じゃ、何とも言えない不信と不安があるだけで、あんたも何をするでもなし」
「ねえ、あんたさ、何で悪魔なんて名乗ってんの?」
「あたしたち魔法少女が戦う存在は、魔獣。で、悪魔なんて聞いたこともない」
「それとも何か、関係でもあるわけ?」
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29 : 2013/12/01(日) 19:52:34.62 -
私の定位置で立ちぼうける彼女の表情は見えない。
質問を受けた私は思わず思考に耽る。
そういえば、その関連性なんて、考えたこともなかったけど。「面白い質問をするのね」
「そうね、私は————」
囁きながら、言葉を巡らせる。
つい先ほどまで蹴散らしていた理の存在。
世界の歪みを与えた根源を消し去るため、世界が生みだしたワクチンとでも言うべきか。
歪みを与えたのはまどか。
彼女にそんな行動をけしかけたのは、概念たらしめたのは、そう、他の誰でも無い。
世界を渡り、因果の糸を幾重にも巻き付けて、意志を与え、力を与え、手段を与えたのは、たった一人。
答えは自然と湧いた。
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30 : 2013/12/01(日) 19:53:05.75 -
「生みの親」
途端、爆発するような勢いで、力が噴き上がる。
ああ、それはきっと必然だった。
私が、悪魔を名乗ったことは、偶然ではなかった。何もかもの元凶として、世界の在り様をぐちゃぐちゃに乱した挙句、結果に納得がいかないとテーブルをひっくりかえす。
まるで駄々をこねる子供のよう。
自嘲は留まる事を知らず、それに呼応するように闇は私の周りを取り囲んで光を侵食していく。「……そう、よくわかったよ」
そう呟き、剣を構える美樹さやかが視界の端に映った。
それでいい、私に余計な慈悲なんてかける必要は無い。
あなたたちが私を共通の敵と認識してくれるなら、それ以上のことは無い。さあ、ダンスを踊りましょう。
相手があの子じゃないのは残念だけれど、あなただって、十分に素敵よ。
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31 : 2013/12/01(日) 19:53:50.92 -
「まあ、これくらいでいいわ」
結界を解き、力尽きて倒れ伏す魔法少女に目をやる。
きっといつものように気絶しているのだろう。
そのまま放っておいてもいいのだけど、あの子の悲しむであろう様子を思い浮かべて歩み寄る。
せっかくの遊び相手を、簡単になくしてしまうのも味気ないし。ソウルジェムは力の消費でやや濁っている。傷は欠片もない。
使い魔を呼び、さっき預けた黒い結晶を受け取って、穢れを取ってやろうとした所で、
腕を掴まれた。一瞬の困惑も顔には出さず、笑う様にその反抗を受け止める。
随分と今日は手ごたえがないと思っていたが、どうやらこの瞬間のために、回復に力を注いでいたらしい。
それくらいはしてくれないと、楽しめないか。「何で、助けるのよ」
「何であたしを殺さないの。あんたが魔獣の親玉なら、あたしはあんたの敵なんでしょ」
「言ってることとやってることがむちゃくちゃじゃん。あんた、本ッ当に、何なのよ」
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32 : 2013/12/01(日) 19:54:26.94 -
絞り出された言葉に感じられるのは、戸惑いと怒り。
握られた腕に力が込められるのを感じ、それをあえて振り解かずに顔を見下ろす。視線に、不思議と敵意は感じられない。
いや、それを押し殺そうとしているような感じ。
理解できないものを理解しようとすることに意味はあるのか。
私のしてきたことなど、誰に分かるはずもないと言うのに。「知りたい?」
意地悪な問い掛けに、彼女は沈黙と睨み付ける視線で返した。
今すぐにでもその命を手折られてもおかしくないのに、随分と気丈なことだ。
でも、いつだって、あなたはそうだったわね。「人間の好奇心って、残酷なものよね」
「知らなくていいことも、知ろうとせずにはいられない。いつだってその先には後悔しかないのに」
「記憶って厄介よ。一度思い出してしまえば、囚われて、動けなくなる」
「今の満ち足りたあなたに、それを背負う覚悟はある?」
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33 : 2013/12/01(日) 19:55:26.70 -
繰り返す問い掛けにも、合わせる視線は揺るがない。
羨ましいほどの強さだった。
一度顔を逸らして、空へと向ける。
そこには半分に欠けた月。
真っ二つに割られた世界。
私にそれを拒否する理由はない。
立ち塞がるなら、叩き潰すだけ。
折れてしまうなら、それだけのこと。「じゃあ、返してあげる」
「あなたがあなたであったことの証明を」
「運が良ければ、思い出せるかもしれないわね」
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34 : 2013/12/01(日) 19:56:05.63 -
見上げた視線を下ろして合わせて、距離をそのまま詰めていく。
接触してしまいそうなほどに。
最初は意味の分からない体でいた彼女も、ようやく気付いたらしい。
困惑やら何やらが混ぜこぜになった表情で抵抗しようとするけど、私の使い魔たちがきっちりと押さえ込んでいる以上、無駄骨に終わるだけだ。
がっしりと頭の後ろに手を入れて、そんな儚い足掻きを断ち切らせて、唇を動かす。「残念ね。こちらでも良ければ喜んでそうしたのだけど」
吐息がかかるどころか、相手の口腔へと入っていくほどにまで接近してやっと、名残惜しく頭の位置をずらす。
向かった先は首筋。
真っ白な肌に向かってキスを落とした。
そのまま、強く吸って疵を残す。
唇を離せば、そこには綺麗な黒百合が咲いていた。これ見よがしに口の周りを舌で舐めながら、私の作ったそれと、彼女の顔を交互に眺める。
それはさしずめ、悪魔の口付けとでも呼ぶべきか。
まだ何をされたのか理解できていない彼女は、目をぱちくりと動かすだけ。
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35 : 2013/12/01(日) 19:57:07.84 -
「何……あんた、一体、何を」
ようやく口をついたらしい言葉も、現状の不理解を表すのみ。
身体で理解させた方がいいのかもしれない。
目を瞑っていればよかったのにと、内心で息を吐きながら、人差し指を唾液で濡らし。「これは、あなたの絶望」
「この世界を怨み、呪い、憎んだ証」
「ほら、こんな風に」
そして、黒く綺麗に咲いた傷へと挿し入れる。
途端に身体がびくんと跳ねて、彼女の口はこの世のものとは思えない悲鳴をこぼし始めた。
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36 : 2013/12/01(日) 19:57:46.41 -
「っ、あ」
そんな彼女を見て、私は何を感じたのか。零れた声は何なのか。
すぐに指は引き抜いたけれど、なぜかその先端は震えている。
返す手をまた伸ばそうとして、止めて、戻した。
一方、使い魔たちが何人か吹き飛ばされるほどの力で暴れていたのもどこへやら、彼女はただ肩で荒く息をしているのみ。
一気に濁ったソウルジェムへ紫色の石をあてがいながら、聞こえているかも分からない言葉をかける。
振り払うように頭を揺らしてから。
声は幸いにも、いつもと同じだった。「かつてあなた達魔法少女が、希望の果てに辿り着いた存在がこれ」
「そのさらに果て、想いの行き着く先に居るのが、あの子と、私」
「来れるものなら、来てみなさい」
返事はなかった。
とはいえ、無理もないだろう。
黙って濁りを取り終えると、運ぶように指示を下した。貯めておいたグリーフキューブが、とりあえず無駄になることはなさそうだ。
草葉の陰に転がしておいたインキュベーターに向かって使用済みのそれを放り投げながら、そんなことを思う。
どう繕っても、口元が歪んでしまうのは、隠し切れないようだけど。
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37 : 2013/12/01(日) 19:59:51.25 -
時間がありませんで、いったんここまでです。
>>11残念なことになってますが、「押し殺す」です、ごめんなさい。
一週間以内には完結させますので、よろしくお願いします。
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