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1 : 2014/06/17(火) 01:25:03.54 -
「あいつ、売りやってるらしいな」「頼めばヤラしてくれたりして」
「金なきゃ無理なんじゃね?」
「顔も身体も最高なビッチか。へへっ、たまんねーな」
女「……」スタスタ
これは、私を気に入らない人達が流した噂。
私は人付き合いが苦手だ。うわべだけの関係なんて嫌だ。
器用だとか不器用だとか。
多分、そういうんじゃなくて、私はそういう風に出来てない。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402935903
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402935903/
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2 : 2014/06/17(火) 01:27:38.39 -
きっと疲れてしまう。少なくとも、このクラスの女子みたいには出来ない。
さっきまで一緒に笑ってたのに、離れれば平気で悪口を言う。
悪口を言い合って盛り上がってる人も、その人が居なくなれば別の人と別の居場所で悪口を言う。
何を考えてるのか、何が本当なのかが分からない。
だったらいい。一人でいい。無理に付き合うこともない。
私は私だし、周りは周り。それぞれが好きにしてるんだから。
そう思っていたら、これだ。
-
3 : 2014/06/17(火) 01:29:34.42 -
『見た目が良いからって調子に乗んな』とか、先輩には『生意気』だとか色々言われた。それからだ。
あんな根も葉もない噂が流れ始めたのは……
でも、みんなはその噂を信じた。
私を見る目は、あの男子達のような好奇の目。
女子は軽蔑の目で、私を見る。
私はそれが嫌で、あの目が怖くて、ここに逃げて来たんだと思う。
そこで、出逢った。
-
4 : 2014/06/17(火) 01:30:33.91 -
女「放課後に校舎裏の花壇に水やりする奴なんて、初めて見た」男「あ、えーっと……」
女「あんた、同じクラスにいる奴の名前も分からないの?」
男「分かるけど何で?」
女「何でって、なに?」
男「女さんが何でこんな所に来るのかな、と思って」
女「意外?」
男「え、まあ、うん」
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5 : 2014/06/17(火) 01:31:35.69 -
女「私の噂、知ってるんだ」男「知ってるけど、そんな風には見えないね。なんか、寂しそうだし」
女「……」
男「水やり終わったし、帰るよ」スタスタ
女「待って。あんたは辛くないの?寂しくないの?」
男「……」ピタッ
女「あんた、いつも一人だし。色々、言われてるし」
男「寂しくも辛くもないよ。ただ、退屈なだけ」
女「退屈?」
-
6 : 2014/06/17(火) 01:33:14.04 -
男「うん。キモい、根暗、ぼっちだとか、ただ『それだけ』」男「あんなのは、ただの言葉。誰かを見下したいだけなんだ」
男「きっと僕じゃなくてもいいんだ。誰かを見下して、安心したいんだよ」
女「……ねえ」
男「何?」
女「放課後、いつもここに来るの?」
男「うん。先生に頼まれたから」
女「そっか…」
男「もう帰るよ。女さん、さよなら」スタスタ
女「あっ…うん」
-
7 : 2014/06/17(火) 01:33:59.44 -
【女の自宅】女「ただの言葉、か」
男は、他の誰とも違って見えた。
同じクラスで、何度も見た顔なのに、何かが違って見えた。
話したことのない人に話し掛けられて困ってるような、そんな目。
それが当たり前の反応なんだろうけど、私には嬉しかった。
あんな風に会話したのは、あの噂が流れてから初めてだと思う。
みんなは私を知ってる。私が何をしているのかを知ってる。
-
8 : 2014/06/17(火) 01:34:39.80 -
見ず知らずの男に身体を売って、お金を貰う私を知っている。勿論、そんなことはしてない。
それは噂で作られた私。
だけど、みんなはそれを信じて、それが私だと思っている。
私のことなんて、何一つ知らないのに。
女「はぁ…」
-
9 : 2014/06/17(火) 01:35:48.80 -
若干目つき悪いし、性格もきつめに見られてるのも知ってる。でも、そんなに気は強くない。寧ろ打たれ弱い。
何人かに囲まれて滅茶苦茶言われた時は、怖くて何も言い返せなかった。
睨んでると思ったらしくて退散したから良かったけど、悔しかった。
悔しいのに、何も出来ない。それが情けなくて、もっと悔しくなる。
『ただ、それだけ。ただ、退屈なだけ』
-
10 : 2014/06/17(火) 01:36:20.11 -
女「男は、悔しくないのかな……」
-
11 : 2014/06/17(火) 01:36:55.61 -
翌日 放課後
女「あ、いた。っていうか、草むしりもやるんだ」
男「あの、何しに来たの?」
女「あ、えっと……手伝いに来た」
男「手伝いって、ゴム手袋もないのに?」
女「それは大丈夫。私、ミミズも虫も平気だし」ニコッ
男「……」
女「ん、どうかした?」
-
12 : 2014/06/17(火) 01:38:15.58 -
男「見た目と違うんだなと思って、ちょっと面白かった」女「え、微笑んですらないけど」
男「あははー、マジウケる。とか無理」
女「真顔でその台詞言う奴初めて見たよ。怖いわ」
男「素手で草むしりする女子も初めて見た。爪に土入ったり、嫌じゃないの?」
女「爪、伸ばしてないからね。ベキッって曲がる方が嫌だから」
男「……何で手伝いに来たの?」
女「邪魔だった?」
-
13 : 2014/06/17(火) 01:39:39.47 -
男「本当に手伝ってくれてるし、邪魔じゃないけど、何で急に」女「根も葉もない噂立てられて、色々言われて、だけど何も言えなくて」
男「……」
女「それが、凄く悔しい」
女「昨日、あんたと話して思ったんだ。あんたは、悔しくないのかなって」
男「……」
女「ごめん。いきなり押し掛けて来て迷惑だと思うし、嫌な質問だと思う」
女「でも、どうしても聞きたくて」
男「どうして僕なの?」
女「それは…」
-
14 : 2014/06/17(火) 01:41:06.04 -
男「僕がからかわれたり、馬鹿にされたりしてるから?」女「っ…それは」
男「自分と同じだと思った?」
女「違っ…わないよね。ごめん」
男「……中学の頃、僕は義父に虐待されてた」
男「腕にタバコ押し付けられたり、殴られたり蹴られたり」
女「……えっ?」
男「我慢したよ。怖くて怖くて仕方が無かったから。何度も殺されると思った」
男「いつか終わると思った。誰かが、助けてくれると思った」
女「……」
-
15 : 2014/06/17(火) 01:42:21.59 -
男「でもね、誰も助けてくれなかったよ」
女「!!」
男「そんな日々が数ヶ月続いた。長かったよ。数年に感じるくらいに…」
男「ある日、あいつは妹にまで手を出そうとした。その時、初めて人を殴った」
男「そしたら、あいつは呆気なく倒れたよ。でも僕は殴るのを止めなかった」
男「仕返し出来て嬉しかったのかもしれないし、興奮してたのかもしれない」
男「妹が止めてくれなかったら、本当に殺していたかもしれない」
女「……」
男「それからすぐ、母親はまた離婚したよ」
-
16 : 2014/06/17(火) 01:43:32.74 -
男「挙げ句、僕等を親戚に預けてどこかに行った」男「引き取ってくれたのは、実父の両親だった。今は幸せだよ」
女「………」
男「どう?」
女「ど、どうって、いきなりそんな話し聞いたら
男「自分よりも不幸な人間の話しを聞いて、楽になった?」
女「ッ!!」
バチンッ…
-
17 : 2014/06/17(火) 01:49:36.02 -
女「……帰る」男「そっか、さよなら」
女「さよなら」スタスタ
男「分かってたけど、やっぱり痛いな」ポツリ
女「……」ピタッ
男「?」
女「男っ!!」クルッ
男「あ、はい。何?」
女「また明日。んじゃ」スタスタ
男「えっ?」
-
18 : 2014/06/17(火) 01:50:37.22 - ここまで。多分短い。
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19 : 2014/06/17(火) 02:10:27.96 ID:GvsNO1pAO - おつ
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20 : 2014/06/17(火) 12:12:08.12 -
【女の自宅】女「……最低だ」
きっと私は、男と自分を重ねてたんだ。
話したい理由。
それは、どこか似通っている部分があると感じたからだ。
もしかしたら、単なる好奇心から自分勝手に近付いたのかも。
ただ言えるのは、そんな理由で男に近付いた挙げ句、逃げたってこと。
『どう?自分より不幸な人間の話しを聞いて楽になった?』
女「きっついなぁ…」
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21 : 2014/06/17(火) 12:13:58.39 ID:RxR1ArUgO -
私は男の話しを聞いた時、『可哀想』だと思った。自分のことなんて全部忘れて、男が語った不幸に聞き入っていた。
頭の中には
『こんなに酷く悲しい話しがあるのか』『今はもう平気なんだろうか』『本当のお父さんは?』『妹さんは元気?』
こんな言葉ばかりが浮かんでた。
視線や陰口、纏わりつく噂。
男の語った不幸は、そんなものから私を解放してくれた。
本当に最低だ。
私は自分のことなんて忘れて、男を憐れんでいた。
-
23 : 2014/06/17(火) 12:20:42.11 -
女「謝ろう」許してくれなくても、なんて。また自分勝手なことを思ってる。
やっぱり、人って難しい。
自分のしたいこと。やりたいこと。
でもそれが、相手にとってはして欲しくないことがある。
謝ったって、私が男にしたことは変わらない。
だけど、私がやったことだから、私が謝らなきゃ駄目なんだ。
言葉を変えても、結局は、私がそうしたいだけ。
女「何やってんだろ、私……」
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25 : 2014/06/17(火) 12:36:20.42 ID:RxR1ArUgO -
嫌なら、辛いなら。『ただの言葉だよ』
私は、男みたいに、あんな風には到底考えられない。
ビッチだのヤリマンだの、金出すからやらせろだの……
お構いなしに好き勝手言ってくれるよ。思い出したら何だか腹が立ってきた。
一人でいい、なんて強がっておきながら。
結局は周りを気にして、視線を怖がってたら話しにならない。
今更『誰かに』嫌われたって、私には何もない。離れゆく友人も、恋人もいない。
何もしないまま終わりたくない。噂が消えるまで我慢するなんて、私には出来ない。
あんな風に言われるのは嫌だ。
もう知るか、そっちがそうなら、私だって好き勝手やってやる。
あんな悔しい思いをするのは、もう沢山だ。
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26 : 2014/06/17(火) 12:37:43.29 ID:RxR1ArUgO - ここまで。夜書く。
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28 : 2014/06/17(火) 13:04:00.95 ID:GtGd7/CY0 - 舞ってる
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29 : 2014/06/17(火) 14:45:54.34 -
翌日 放課後男「あんなこと言ったんだ。来るわけない」
シーン…
そう言えば、そうだった。
本当は、元々は『こう』だったんだ。
薄暗くて気味悪くて、人が寄りつきそうにない、僕にお似合いの場所。
たった二日間。
それもちょっと話しただけなのに、随分と賑やかに感じた。
たった一人増えただけで、あんなにも変わるものだったんだ。
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30 : 2014/06/17(火) 14:47:37.93 ID:RxR1ArUgO -
まるで、全く別の場所にいるような感じがする。たった二日。
しかも、ちゃんと話したのは一日。そのはずなのに、やけに残ってる。
草むしりを手伝うと言った時の笑顔が、懐かしい。
真っ直ぐに目を見て話す彼女が、昨日は此処に、隣りにいたのか。
『人と話す時は目を見て話しなさい。でないと、何も伝わらない』
お父さんに怒られた時、よく言われたな。目を見て、伝える。
僕は、彼女の目から逃げたのかもしれない。
-
31 : 2014/06/17(火) 14:50:39.23 -
逃げ出したいから、あんなことを言ってしまったのかもしれない。彼女の真っ直ぐな瞳が、僕には辛くて、怖かったんだ。
きっと、彼女は強い人なんだろう。
あんな風に噂されても屈せずに、学校に来るだけでも十分強い。
佇まい、あの瞳が、噂が噂でしかないと証明している。
大体、彼女にこんな場所は似合わない。あれで、良かったんだ。
もう帰ろう。もう少しだけ待とう。
何度も何度も、頭の中で繰り返される言葉。でも、もういい。
男「……帰ろう」
-
32 : 2014/06/17(火) 14:53:11.04 ID:RxR1ArUgO -
これでいい。明日からは、今まで通り。何も変わらない退屈な毎日。
家族のことだけを考えればいい。大切にすべきなのは、この場所じゃない。
妹が、お爺ちゃんとお婆ちゃんが待ってる。僕の居場所は、あの家だ。
明るい家族。
それだけで、僕は幸せだ。他には何もいらない。
こんな退屈な毎日も、あいつと過ごした数ヶ月に比べれば大したことはない。
『辛くないの?寂しくないの?』
そんなことはない。耐えるまでもない。
周りで起こる色々、意味を持たない言葉、それを眺める毎日。
僕は、そうあるべきだ。
-
33 : 2014/06/17(火) 14:55:16.44 -
女「ごめん。遅れた」
-
34 : 2014/06/17(火) 14:57:29.84 ID:RxR1ArUgO - また後で。今日中には終わる、はず。
-
35 : 2014/06/17(火) 16:35:31.51 -
男「えっ、あの、髪が凄いことになってるけど」女「あんたと話したら、何か吹っ切れちゃって」
男「僕?」
女「そう、あんた。あんたと話してから、色々考えた」
女「結果。やられっぱなしも、甘えるのも駄目と思ったんだ」ニコッ
男「……それで?」
女「話し合いじゃあ収まりが付かなくて、ちょっと長引いた」
男「よく見たら顔とか腕にひっかき傷あるけど、喧嘩したの?」
-
36 : 2014/06/17(火) 16:36:39.17 -
女「あんな風に言われて、私は我慢なんて出来ない」女「ただの言葉なんて風には思えない」
女「もう、何も出来ないまま悔しいのは、嫌だから」
男「その傷、相手は大人数だっだんだ」
女「えっ、うん」
女「五、六人かな。掛かってきたのは二、三人だけど」ウン
男「っ、全員で袋叩きにされたかもしれない」
女「え?」
-
37 : 2014/06/17(火) 16:37:58.29 -
男「ひっかき傷どころじゃない。大怪我したら、どうするつもりだったんだ!!」女「!?」ビクッ
男「保健室に行こう。ちゃんと消毒しな
女「男」
男「何?」
女「昨日は本当にごめんなさい」
男「!!」
女「実はね、自分のことを終わらせてから謝ろうと思ってたんだ」
-
38 : 2014/06/17(火) 16:43:23.67 -
女「ずっと、待っててくれたんだね」男「……待ってたよ」フイッ
女「……ありがと」
男「それより傷、痛まないの?」
女「あちこち痛いけど、何とか勝ったよ」ニコッ
男「はぁ、もういいよ。取り敢えず保健室に行こう」
女「あっ、ちょっと待って」
男「まだ何かあるの?」
-
39 : 2014/06/17(火) 16:52:44.96 -
女「違う違う。あ、あったあった」男「なにを、うわ…ちょっと止め
ジョキンジョキン…パラパラ…
女「よし、行こう」スタスタ
男「あの、大丈夫?変な薬でも
女「至って正常。私は素直に生きることにした」ウン
男「……」
女「どうしたの?行こう?」スタスタ
男「園芸用の鋏で髪切る女の人なんて初めて見た」
女「私も初めて切った」
男「だろうね」
女「でも、気分は良いかな」ニコッ
男「(僕は、こんな風にはなれない。こんな風に笑えない)」
男「(彼女は、僕なんかと一緒にいちゃ駄目だ)」
-
40 : 2014/06/17(火) 16:53:58.52 ID:RxR1ArUgO - また後で。
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41 : 2014/06/17(火) 18:28:09.47 -
【ーーー】男「何も欲しがっちゃ駄目だ。もう、十分に得た」
いつものように、あの時のように、何度も自分に言い聞かせても、ざわついたままだ。
これ以上は、望んじゃいけない。この平穏な生活こそが、僕の求めたもの。
なのに、頭から離れない。
あの笑顔が、声が、強い瞳が、焼き付いてる。
それを想う自分が、気持ち悪い。
彼女は、綺麗だ。
見た目も、きっと心も綺麗なんだろう。
だから、あんな風に堂々と歩ける。だから、あんな風に笑えるんだろう。
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42 : 2014/06/17(火) 18:30:07.24 -
こんな気持ちは、知りたくなかった。やっぱり、待つべきじゃなかったんだ。
すぐに帰っていれば、こんな思いをする必要もなかった。
男「僕は、もう何もいらない」
此処に来たばかりの頃、物音がするだけで、電話が鳴るだけで、僕は怯えていた。
妹は、泣いていた。
あの頃と同じように、小さな体を震わせて、泣いていたんだ。
困惑するお爺ちゃんとお婆ちゃんに理由を話すと、二人は優しく僕等を抱き締めてくれた。
それから、夜になると電話線を抜いてくれるようになった。
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44 : 2014/06/17(火) 18:36:35.26 ID:RxR1ArUgO -
夜になると、思い出す。きっと妹もそうだろう。今でも泣きながら布団に入って来る時がある。
忘れられないんだ。
あいつの怒鳴り声。
痛み、熱、狂った笑い声、見下す瞳、妹の涙。
目を閉じれば、あの時に戻ってしまいそうな気がする。
それから抜け出す方法。一時だけでも忘れられる方法を、僕は知ってる。
体に残った火傷の跡も、耳に残る笑い声も消す方法。
「ようやく見つけた。男ってのは、お前だな」
「……そうだけど、何の用?」
「病院にいるあいつの代わりに、俺がお前をやる」
「あいつって誰だか分からないけど、勝手だね」
「大体、みんな自分から仕掛けてくるのに」
「黙れ。ぶっ殺してやる」
それを消すのは、あいつが僕にしたことに他ならない。
それは『誰かを』傷付けること。早い話しが、暴力を振るうことだった。
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46 : 2014/06/17(火) 20:54:44.85 -
【女の自宅】女「 変だ 」
おかしい、何かが引っ掛かる。
こういうのが胸騒ぎってやつなのかな。部屋にいるのに、落ち着かない。
自分のことも一段落付いたはずなのに、何でだろ。
本当は話し合いで解決したかったし、やりたいこととは違ったけど、何とかなった。
顔とか腕とかピリピリするけど、心はすっきりしてる。
なのに、妙にそわそわする。
男、保健室に入ってから急に口数減ったし、顔も暗かったな。
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48 : 2014/06/17(火) 20:58:06.72 -
こう言っちゃ悪いけど、何かされても、何かする側じゃない。あくまで見た目だけを判断しての話しだけど、そう見える。
背はそこそこ高いけど体は細いし、顔は大人しそうだし、優しそうだし。
それに、今日校舎裏で私を見た時の男は、少し微笑んだような気がした。
でもその後すぐに、あの目。暗いのに、ぎらぎらして見えた。
女「それを知りたいと思うのは、何でだろ」
まあいいや。また明日の放課後に話せばいいんだ。
謝ったけど、まだお礼を言ってない。
保健室に入ってから妙な雰囲気だったし、言い辛かった。
-
49 : 2014/06/17(火) 20:59:00.10 -
昨日の夜、あの女子達と話そうと決めた。真正面から行こうと決めた。言いたいこと全部言って、後でどうにかなっても絶対に逃げないって決めた。
決めたのは私だけど、きっかけは男の言葉に違いない。
ぐさっと来たけど、あれがなかったら、私は動けなかっただろう。
だから、ありがとうって伝えたい。
女「早く、男に会いたいな」
あ、髪は一応整えておこう。このままじゃ流石にマズい。
その場の気分で何かをするのは、これきりにしよう。
お母さんにはちゃんと伝えたし、お父さんには上手く言ってくれるはずだ。
お母さん、泣いてたな。私も泣いたけど、心配かけちゃったな。
これからは気を付けよう。
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51 : 2014/06/17(火) 21:03:30.70 ID:RxR1ArUgO - やはり、今日中に終わるのは無理そう。ちまちま書いてく。
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53 : 2014/06/17(火) 22:11:47.43 -
五日後 校舎裏女「……男、学校休んで何してるんだろ。って言うか、何で私が水やりしてるんだろ」
あれから五日が経った。あの日の放課後から五日が経った。
男は、あれから学校を休んでる。
理由無く休むようには思えないし、風邪とかかもしれない。
教師は触れなかった。
男なんていないみたいに、時間が流れる。
本当に、教室にぽっかり穴が空いたような感じがした。
一番仲の良い友達が休んだ時の気持ちに似てる。
友達いないけど。
-
54 : 2014/06/17(火) 22:15:40.18 -
家庭の事情とかだったら悪いし、教師にも何だか聞き辛いんだよね。そしたら、あっと言う間に五日が経った。そのうち来るだろうと思ってた。
でも、男は来なかった。
女「心配させんな。私には怒鳴ったくせに」
男がいないと暇で退屈で、急に学校がつまらくなった。
つまらくなったってことは、楽しかったってことだ。
男と校舎裏で出逢ってからは、学校が楽しかった。
学校っていうより、この場所に来るのが楽しみだったのかもしれない。
暗くてじめっとしてるけど、ちょっと落ち着く。
そんな、不思議な場所。
男は私がここに来るずっと前から、ここにいたんだよね。
-
55 : 2014/06/17(火) 22:18:31.09 -
どんな気持ちだったんだろう。何を考えてこの場所に立っていたんだろう。
今は、どこにいるんだろう。
もしかして、違う居場所があるのかな。
男にとって居心地の良い場所が、どこかにあるのかな。
もしそうなら、ちょっと寂しい。
それから、こんなことを考える度に、決まって胸騒ぎがする。
背筋ぞわぞわして、鳥肌が立つ。
女「駄目だ、やっぱり気になる。担任に聞いてみよう。何か、嫌な感じがする」
私は職員室に走った。
迷っている所為か、やけに脚が重いけど、とにかく走った。
-
56 : 2014/06/17(火) 22:28:31.89 -
盛大に転けて、笑われて、また走る。そんな私を指差して、また笑う。
だけど、もう誰の視線も怖くない。笑いたきゃ好きなだけ笑え。
好きでもない友達と、好きなだけ笑えばいい。
女「はぁっ、はぁっ」
こんな風になれたのは、男と出逢って、ぐさっとされたからだ。
ありがとうって言いたい。
また、あの場所で話したい。
何かあったのなら力になりたい。私は、男に救われた。
救ったなんて思ってないだろうけど、私はそう思ってる。
-
57 : 2014/06/17(火) 22:36:03.19 -
あの時、保健室で別れてから話してない。今想えば、何かを決めたのかも。
何を決めたのかは分からない。でも、そんな気がしないでもない。
何を決めたって別にいいけどさ、せめて学校には来てよ。
女「はぁ、はぁっ…」
たった一日二日話した相手に、何でそこまでしようとするのか。
知るか、私にも分からない。
もしかしたら、単純に、男を好きなのかもしれない。
単なる好奇心で、男を知りたいだけなのかもしれない。
そんなのどうでもいい。どうせ、どっちも似たようなものだ。
心配、暇、退屈、怖い、知りたい、知りたくない。
行こう、やっぱり止めよう、きっと迷惑だ、嫌われる。
走りながら色々な言葉が浮かんできたけれど、本当の答えは出てる。
私は、男に会いたい。
-
59 : 2014/06/17(火) 23:00:09.10 ID:CCt64tPDO -
待ってる
この文章すごい好き -
61 : 2014/06/18(水) 01:29:16.20 -
【男の自宅前】女「どうしよう。勢いに任せて来てしまった」
担任は、表情一つ変えずに男の住所を私に教えた。
目上の人間に言う台詞じゃないけど、正直気に食わなかった。
担任ならもう少し何かあるはずだ。心配じゃないのか。
あんな無気力な、まるで何も感じないような目。何だか気味が悪かった。
本当に生きてるのか疑いたくなるくらいだ。
大人になると、ああなっちゃうかな。
何か、嫌だな。
それはともかく、担任への怒りも手伝って、私は何も考えずに男の自宅へ来た。
-
62 : 2014/06/18(水) 01:30:36.88 -
その場の気分で何かするのは止めようと決めたばかりなのに。だけど、ここまで来たんだ。
今更逃げるわけには行かない。
会いたくて来た。心配だから来た。理由なんて、そんなものだ。
女「……行こう」
呼び鈴を鳴らす手が震える。
どうやら、緊張とかではなく、怖じ気付いてるみたいだ。
何とか呼び鈴を押すと、可愛らしい女の子が。どうやら男の妹さんみたいだ。
妹「お兄ちゃんの友達ですか?」
-
63 : 2014/06/18(水) 01:31:47.97 -
女「……」妹「えっと、あの」
女「あっ、ごめんね。私は同じクラスの女です」
女「友達なのか何なのかよく分からないけど、男が心配で会いに来ました」
妹「お兄ちゃんのこと、知ってるんですか?」
女「え?」
妹「あ、ごめんなさい。どうぞ、入って下さい」
女「う、うん。おじゃまします」
-
64 : 2014/06/18(水) 01:35:24.65 -
女「あの、男は大丈夫なの?」妹「……お兄ちゃんは、部屋で寝てます」
女「こんな時間に?随分早いね」
妹「女さんは、お兄ちゃんに聞いたんですか?」
女「義理のお父さんの話しなら聞いたよ。どうしたのかも、聞いた」
妹「そっか。お兄ちゃん、自分から話したんだ」ポツリ
女「ねえ、男は何をしてるの?もう、五日も学校休んでる」
妹「お兄ちゃんは、多分、病気なんです」
-
65 : 2014/06/18(水) 01:37:19.10 -
女「病気って、そんな風には見えないけどな」妹「風邪とか、そういうのじゃなくて、心が痛いやつです」
女「それは、あの…」
妹「あの人の所為で、お兄ちゃんは違う人になりました」
女「(あの人って、やっぱり義父のことだよね。それに、違う人って)」
妹「お兄ちゃんは毎日殴られたりして、私が殴ら…そうにな…た
女「無理しないで。それに、男はあなたを守ろうとしたんだよね?」
妹「大丈夫、です」
-
66 : 2014/06/18(水) 01:39:10.01 -
女「でも、顔色が妹「違うんです。お兄ちゃんは、その後も、あの人を」
女「……その、後?」
妹「夜になると、今度はお兄ちゃんが、あの人を殴るようになったんです」
女「!?」
妹「何度も謝らせて、何度も殴りました。自分がやられたように、何度も」
女「で、でも離婚したんじゃ。今は幸せだって、そう言ってたよ?」
妹「お兄ちゃんは、夜遅くになるとお家を抜け出すんです」
妹「来たばかりの頃は、殆ど毎日抜け出してました」
妹「それで、いつも痣だらけで帰って来るの……」
-
67 : 2014/06/18(水) 01:40:36.84 -
女「そ、それって、わざわざ喧嘩しに行ってるってこと?」妹「……」コクン
女「何で、そんな危ないことを」
妹「それをしないと、声が消えないって。そう言ってました」
女「声?」
妹「あの人の、声。お兄ちゃんを傷付ける、合図…」
女「(……酷い。体が震えてる。まだ怖いんだ。まだ、終わってないんだ)」
女「嫌な話しさせちゃって、ごめん。私、何も知らなかった」
-
68 : 2014/06/18(水) 01:45:11.92 -
妹「あっ、あの」ズイッ女「うわっ、な、何かな?」
妹「えっと、女さんはお兄ちゃんが好きなの?お兄ちゃんが大事なの?」
女「うん、好きだよ。だから、男のことを知りたいんだと思う」
妹「……なんか、お父さんみたい」ポケー
女「えっ?」
妹「あっ、ごめんなさい」
女「お父さんは、その…」
妹「事故で、いなくなっちゃいました」
女「……そっか」
-
69 : 2014/06/18(水) 01:48:33.73 -
妹「すっごく強くて優しいお父さんなんだ」妹「お兄ちゃんも私も、お父さん大好き」ニコッ
女「(凄く嬉しそう。今でも好きなんだろなぁ)」
妹「お姉ちゃん、あのね?」
女「お姉ちゃん?あ、私か。なに?」
妹「お兄ちゃんがお姉ちゃんに話したのは、お父さんに似てるからだと思うんだ」ニコッ
女「私、女なんだけど。喜んでいいのかな、それ」
妹「男の人みたいってことじゃないよ?雰囲気とか、うーん。色々、色々似てるの」
-
70 : 2014/06/18(水) 02:07:11.28 -
女「良かった。ほっとしたよ」妹「へへっ、お姉ちゃんが来てくれて本当に良かった」
女「(何だか分からないけど、警戒解いてくれたみたい。随分とご機嫌だなぁ)」
女「(どう見てもまだ小学生。こっちの方が本当なんだろうけど、しっかりした子だ)」
妹「ねえねえ」クイクイ
女「どうしたの?」
妹「お兄ちゃんに、会いたい?」
女「そりゃあもう。その為に来たんだから」
-
71 : 2014/06/18(水) 02:13:08.92 -
妹「じゃあ、一緒に行こう?」ギュッ女「うん、行こう」ギュッ
妹「お兄ちゃん、ずっと『夜』だったんだ……」
妹「最近、また抜け出し始めたの」
女「(なるほど、だから学校に来れなかったのか。五日間も、ずっと……)」
妹「お爺ちゃんお婆ちゃんも、心配してる」
妹「それで、お婆ちゃんが具合悪くなっちゃったんだ……」
女「(だから居なかったのか。男、そんなに酷いのか)」
妹「でもね?お兄ちゃんだって本当は心配かけたくないんだよ?」
妹「きっと痛くて泣いてる」
女「(……私に何が出来るのかは分からない。でも、会えば分かるはずだ)」
女「(私が会いたくて来たんだ。今度は何があっても、逃げない)」
-
72 : 2014/06/18(水) 02:14:50.29 ID:MdClivtcO - 遅くなってごめん。多分、多分そろそろ終わる。寝る。
-
74 : 2014/06/18(水) 13:57:51.18 ID:5nXLbPBOO -
妹さんと手を握って、階段の前に立った時、突然足が動かなくなった。膝が震える。
あの目を見たら、私は竦んでしまうだろう。
怖い、やっぱり駄目だ。行きたくない。
私がどうにか出来るような問題じゃない。
家族の問題。兄妹の痛み。私が入り込んじゃいけない場所。
これ以上、首を突っ込むのは止した方がいい。
例え好意があっても、何かをしたくても、男の心に踏み込んでいいのだろうか。
ほんの少しの間に、これだけの言葉が、全身に広がった。
-
76 : 2014/06/18(水) 14:03:08.13 ID:5nXLbPBOO -
妹さんには、最近までは落ち着いていたと聞いた。なのに何故再び夜に走ったのか、暴力に身を委ねるのかが、分からない。
学校に来なくなって、五日。
あの日から、男は夜を居場所にした。消えない声を、掻き消す為に。
五日前に何かがあったのかな。そう言えば、怒鳴ったのもあの日だ。
あのぎらついた目を見たのも、あの日。私が、何かをしてしまったのかな。
触れてはならない場所に、触れてしまったのだろうか。
じっとして動かないままで階段の上を見つめる私を、妹さんは心配してた。
とっても不安そうな顔で、私に何か言ってる。
-
78 : 2014/06/18(水) 14:07:28.04 ID:5nXLbPBOO -
私は妹さんに頼んで、線香を上げさせてもらうことしにした。後押し、きっかけ。
上手く行くようにと、お願いしたかったのかも。
妹さんは、ちょっと困ったような、不思議そうな顔で私を見たけれど、喜んでくれた。
二人一緒に、線香を上げた。
遺影以外にも、写真が何枚かある。
豪快で晴れ晴れとした笑顔。二人をぎゅっと抱きしめて、笑ってる。
どの写真でも笑顔だ。男も妹さんも、笑ってる。
-
80 : 2014/06/18(水) 14:13:19.11 ID:5nXLbPBOO -
線香の香りは苦手だけど、今だけは、この香りが何だか落ち着く。もう一度手を合わせて目を閉じると、風が吹いた。
応援してくれてるのかな、とか。
勝手にそんな風に思いながら。しばらく目を閉じた。
不思議だ。
さっきまでは怖くてたまらなかったのに、今は怖くない。
心の中で何度もお礼を言って、私は再び階段の前に立った。
妹さんと手を握って、一段一段、ゆっくりと進む。
-
82 : 2014/06/18(水) 14:31:56.73 ID:5nXLbPBOO -
ちゃんと妹さんにお礼言わないとな。こんな小さい子に勇気を貰った。沢山、助けてもらった。
さあ、行こう。腹は括った。
このドアの向こうに、男がいる。
寝てるか起きてるか分からないけど、上手く話せるかも分からないけど……
もしかしたら、二度と会えないかもしれない。それで、呆気なく終わっちゃうんだ。
突き放されて、終わるだけかもしれない。きっとそうだ。傷付くだけだ。
うん、有り得ない話しじゃない。そんなの、簡単に想像出来る。
そうだね。『もしかしたら』そうなるかもね。
確かにそうなる『かもしれない』よ。だけどさ、それでもいいと思ってる。
やれるだけ、やってみる。
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84 : 2014/06/18(水) 14:43:16.27 ID:5nXLbPBOO - ちょっとくどいな。展開進むの遅くてすまん。
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86 : 2014/06/18(水) 16:22:50.82 ID:ViyjMsVK0 - これはいいSSを見つけた
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88 : 2014/06/18(水) 18:34:32.13 ID:4vrIvcY0O -
これは夢だ。こんな事が起きるわけがない。
こんな場所に、彼女がいるわけがない。
僕は君を忘れたかったのに、何故夢にまで現れるんだ。
さっさと消えてくれ。
その瞳で、僕を見ないでくれ。
もう何もいらない、何も欲しくなんかない、どうせ叶わない。
優しい家族がいる。
ご飯だって毎日食べられる。僕はそれだけで満足なんだ。
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90 : 2014/06/18(水) 18:41:37.26 ID:4vrIvcY0O -
側にいる人間が霞んでしまうくらいの、強い光みたいなものを放ってる。髪型を真似しても何を真似しても、誰も君のようにはなれない。
だからこそ気に入らない。君の存在が許せないんだろう。
どうやっても届かないんだ。だから妬む。
例え君が、どんなに気さくな人間でも、君の隣には誰も立てはしない。
同性なら尚更だ。必ず比較されるだろうから。
それに、あそこにいる人間は、誰もが自分を見て欲しいと思ってる。
みんな『特別』になりたいと思っている。誰もがそうさ。
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92 : 2014/06/18(水) 18:45:47.80 ID:4vrIvcY0O -
君は、僕なんかといるべきじゃない。僕は、君とは歩けない。
だから、もう消えてくれ。僕の中から、出て行ってくれ。
君と歩きたいなんて、君と一緒にいたいなんて……
そんな馬鹿げた願いが形を為す前に、僕の前から消えてくれ。
もうじき夜だ。
夜が来たら、行かないと。
君の声も君の笑顔も、あいつの声と同じように、消してやる。
あいつが僕にしたみたいに、分からせてやる。
どんなに謝っても終わらないって、どんなに願っても叶わないって、思い知らせてやる。
こんな馬鹿な願いを持った僕に、思い知らせてやるんだ。
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94 : 2014/06/18(水) 18:54:34.07 ID:4vrIvcY0O -
「……あの場所で、待ってるから」突然、彼女がゆっくりと体を傾けた。
僕の体は思うように動かない。
彼女が、僕の馬鹿げた願いが、僕を見つめたまま、少しずつ近付いて来る。
僕は何とか目を逸らそうとしたけれど、彼女の瞳がそうさせない。
一瞬。ほんの一瞬だけ重なって、彼女は離れた。
僕は呆然として、何が起きたのか分からないまま、彼女を見る。
すると彼女は涙を流しながら笑って、優しく手を握った。
僕はその手を払うことも、握り返すことも出来ない。
何故だか分からないけど、強張っていた体から、力が抜けていく。
もう夜が来るのに、あいつの声は聞こえない。
彼女は長い間、僕のベッドに腰掛けて、僕の手を握っていた。
こんな夢を見ているうちに、僕はその夢の中で眠りについた。
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95 : 2014/06/18(水) 18:58:10.64 ID:4vrIvcY0O - また後で。あと少しだと思う。多分。
-
97 : 2014/06/18(水) 21:01:53.90 ID:jgsCloEmO -
【女の自宅】先に電話してて良かった。
結構遠いから、帰るのが随分遅くなっちゃったよ。
事情を話したら、お母さんも分かってくれた。勿論、全部話したわけじゃない。
それにしても、色んなことが起きた一日だったな。
帰る時、妹さんに私の番号教えた。何かあった時の為だ。
妹さんは携帯電話持ってないから、自宅の番号を教えてくれた。
何だか、凄く疲れた。
こんなに沢山走ったのは、中学校のマラソン大会以来だ。
-
99 : 2014/06/18(水) 21:06:44.90 ID:2J/VteIbO -
本当に察しが良い子だと思う。そこら辺は、とても小学生だとは思えない。
それから二人になって、男と話した。
ちゃんと話したって言えるのかは、分からないけど。
男って、私のことをあんな風に思ってたんだ。かなり意外だ。
私は、男が言うような綺麗な人間じゃない。私だって嫉妬とかするし。
あれは、男が作った私だ。
私も男のこと知らないけど、男だって私のこと知らない。
取り敢えず、男の中の私は置いとこう。
-
101 : 2014/06/18(水) 21:16:56.05 ID:2J/VteIbO -
そんな日々が、数ヶ月続いた。それが二人の体験したこと。今でも忘れられない痛み、体に刻まれた傷跡、消したい記憶。
それを消す為に夜を歩いて、殴り合って、傷付いて……
ずっとあんなことを続けてたら冗談じゃなく、死んでしまう。
あの傷がもう少し深かったら?
それを考えるだけで、気が遠のく。
死ぬなんて嫌だ。もう止めて欲しい。
もう、あんな姿は見たくない。
それは妹さんも、お爺さんもお婆さんも、同じはずだ。
ちなみに、さっき電話が来た。
取り敢えず今日は大丈夫そうだと、妹さんは言っていた。
-
103 : 2014/06/18(水) 21:33:04.36 -
後、出過ぎた怒られるかと思ったら、何度もお礼を言われた。お煎餅とか貰ったり、男とはどんな関係だとか聞かれたり。
妹さんも一緒に、四人で色んなお話しをした。
ちょっとくすぐったかったけど、とても楽しい時間だった。
女「……学校、来てくれるかな」
そう、問題はそこだ。
私の声が届いていたのか分からない。会話も成立してるか怪しかった。
聞こえてはいただろうけど、どうだろう。やっぱり不安だな。
最後の方は、私もボロボロ泣いちゃってたし。
何せよ、今の私に出来るのは待つことだけだ。言うべきことは、言えた。
だけど私には、まだ伝えてないことがある。
お礼と、私の気持ち。
伝える前に行動に移しちゃったけど、ちゃんと伝えたい。
あの場所で、男に伝えたい。
-
105 : 2014/06/18(水) 21:37:52.79 ID:2J/VteIbO - 出過ぎた真似して怒られる、だった。誤字脱字すまん。
-
107 : 2014/06/18(水) 23:01:30.47 ID:XCO35WIY0 - 続き楽しみ
-
109 : 2014/06/19(木) 00:24:45.97 ID:FCY7BrJhO -
彼女は、確かに此処にいた。このベッドに腰掛けて、僕の手を握っていたんだ。
まだ手が熱い。唇にも熱が残ってる。
僕の為、僕に会う為。
それを聞いた時、喜びよりも戸惑いの方が勝っていた。
戸惑いと言うより、怖れているのかもしれない。
もう何も欲しがらない、そう決めていた。あの時から今まで、ずっと。
それを破った時、何かが起こりそうな気がして、怖いんだ。
そのはずなのに、僕の心はこんなにも落ち着いていて、安らいでいる。
夜の震えは収まり、あいつの声は、聞こえなくなった。
-
111 : 2014/06/19(木) 00:27:44.60 ID:FCY7BrJhO -
答えは出ているのに、動けない。分かってるさ、本当は会いたい。
僕は、彼女が好きなんだ。
知っている。もう、知ってしまった。
あの笑顔、優しさ、温もり……
僕に向けられた何もかもが、僕の中に溢れている。
でも、こんな僕が彼女と歩くことは許されるのだろうか。
僕は人を傷付けて自分を満たすような、あいつと何も変わらない、醜い人間だ。
そんな屑みたいな奴が、何かを得ようとするなんて、許されるはずがない。
-
113 : 2014/06/19(木) 00:30:59.15 ID:FCY7BrJhO -
『あの場所で、待ってるから』
-
114 : 2014/06/19(木) 00:33:25.31 ID:FCY7BrJhO -
「でも、僕は…」『真っ直ぐに、人の目を見て話せる人間になれ』
『ははっ、大丈夫だ。間違わない奴なんて、失敗しない奴なんていないんだ』
もう、放課後。
本当に、僕を待っているんだろうか。
今も彼女は、あの場所にいるんだろうか。
それが知りたいのなら、行けばいい。
今からでも間に合うのかな。
こんな僕でも、まだ間に合うのかな。
考える暇があるなら動け。
ぐだぐだ考えるな。やりたいことを、やればいいんだ。
「……行こう。あの場所で、彼女が待ってる」
-
116 : 2014/06/19(木) 01:17:28.46 ID:FCY7BrJhO -
「あの、僕もありがとう。君に会えて嬉しい」「う、うん。何だか、少し変わったね」
「これでも、精一杯」
「ははっ、そうなんだ。あのね……」
「うん」
「私は、あなたが好きだよ」
「でも僕は、人を傷付けて
「それは知ってる」
「でも今は関係ない」
「誰が悪いとか何が間違いだとか、私には言えないよ」
-
118 : 2014/06/19(木) 01:21:32.84 ID:FCY7BrJhO -
「何で、そんなことが言えるの?」「分かんない。目、逸らさないからかな?」
「そんな理由で
「男は強いよ。自分が思ってるより、ずっと強い」
「……っ、女さん!!」
「な、なにっ?」
「僕は…いや、違うな」
「?」
-
120 : 2014/06/19(木) 01:24:38.55 ID:FCY7BrJhO -
終わり
-
122 : 2014/06/19(木) 01:36:07.54 ID:FCY7BrJhO -
見てくれてありがとう。
最後、手抜きに見えるかもしれないけど、手抜きじゃないよ。
考えた結果、これがいいかなと思った。気に入らなかったら、すまん。
-
124 : 2014/06/19(木) 01:55:13.77 -
前に書いたやつ。
男「童貞です」
古の力と四人の戦士よければ暇な時にでも。
-
126 : 2014/06/19(木) 02:19:34.24 ID:6vy8Tan50 - 気に入った
-
128 : 2014/06/19(木) 05:52:39.54 ID:Ae1NYcNWo -
一気に読んだ
とても面白かったです -
130 : 2014/06/19(木) 22:32:42.33 -
感想ありがとう。あと、イケメン「童貞です」だった。
まとめのコメント欄って怖いと思った。 -
131 : 2014/06/20(金) 11:11:05.21 -
突然ですが宣伝です!
>>1謝罪するまで続けます!
文句があればこのスレまで!加蓮「サイレントヒルで待っているから。」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401372101/>>1gt;>2>>3gt;>4>>5gt;>6>>7gt;>8>>9gt;>10>>11gt;>12>>13gt;>14>>15gt;>16>>17gt;>18>>19gt;>20>>21gt;>22>>23gt;>24>>25
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132 : 2014/06/20(金) 11:12:03.30 -
突然ですが宣伝です!
>>1謝罪するまで続けます!
文句があればこのスレまで!加蓮「サイレントヒルで待っているから。」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401372101/>>1gt;>2>>3gt;>4>>5gt;>6>>7gt;>8>>9gt;>10>>11gt;>12>>13gt;>14>>15gt;>16>>17gt;>18>>19gt;>20>>21gt;>22>>23gt;>24>>25
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134 : 2014/06/25(水) 16:57:51.13 -
ーー「そうだ、オレの名は…」未完
吸血鬼「俺はお前の血を飲みたくない」
青年「ああ、認めるよ……」
青年「俺の帰る場所」
少年「それが、僕の名前……」
少女『優しい世界』未完
鬼姫「早く来ないかしら」
勇者「共に歩み、共に生きる」
イケメン「童貞です」
男「男には色々あんだよ」今まで書いたやつの一覧。多分これで全部。
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136 : 2014/06/25(水) 20:52:20.33 ID:LqPqQtC3O -
そんな彼は、誰もが一度は思い描く、夢や妄想を具現化したような存在だった。しかし、彼は死んだ。
誰に知られることもなく、誰に送られることもなく、世界から消えた。
善悪関係なく、絶大な力への責任なども一切なく、ただただ、生きたいように生きた。
思いのままの人生を送り、生涯を終えたのだ。
彼の死を世界が知ったのは、数年が経ってからのこと。
皆は言った。
彼を殺せる者などいるはずがない、彼の命を奪える者などいるはずがない。
彼を奪える者など、この世界に存在するはずがない。
もし、もしそんな存在がいると言うのなら……
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138 : 2014/06/25(水) 21:01:22.48 ID:LqPqQtC3O -
次はこんなのが書きたいと妄想してる。
地の文とかト書きとか未だに良く分からんが、書きたいように書こうと思いました。ssだし。
感想とか色々ありがとうございました。
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140 : 2014/06/25(水) 21:17:18.98 -
ーー「そうだ、オレの名は…」未完
吸血鬼「俺はお前の血を飲みたくない」
青年「ああ、認めるよ……」
青年「俺の帰る場所」
少年「それが、僕の名前……」
少女『優しい世界』未完鬼姫「早く来ないかしら」
勇者「共に歩み、共に生きる」
古の力と四人の戦士
古の力と四人の戦士 話伽/01未完
イケメン「童貞です」
男「男には色々あんだよ」 -
142 : 2014/06/26(木) 16:06:50.26 ID:cbG5iJk9O - 次は完結させてくれ、待ってるから
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