京太郎「俺が彼氏で」和「私が彼女」


1 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 22:17:00.67 ID:1qHAIoTzo

 このスレは京太郎の甘々な恋愛生活を描くスレです
 
※CAUTION

・壁殴り代行必須
・ちょっぴりエロネタ入るかもしれない
・基本チョロイン気味
・最初は和ヒロインですが、できたら別ヒロインも……

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1431782210


ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1431782210/


3 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 22:23:14.57 ID:1qHAIoTzo

 俺が彼女に惹かれたのは、一体いつがきっかけだっただろうか
 
 流れる桃色の髪に、大きく揺れる胸
 凛と澄ました顔で彼女は俺の前を通り過ぎて、悠々と歩いていった

 まるで、俺を路傍の石コロほどにも思っていないかのように
 彼女の歩みは俺とは異なる次元に位置していた

 まぁ、思えば俺が彼女に惚れたのなんて所詮は一目惚れで
 大層な御託を並べようと、偉そうなことを言おうと……結局はそこいらにいる有象無象と変わらないわけで

 可愛い顔や、常人離れしたスタイルに欲情した猿と同じ
 俺はきっと、和に相応しい人間では決してない

 そう思っていた

 ~~原村和の場合~~

和「あの、少しいいですか?」

 俺がいつもと同じ、麻雀部内の雑用を終えて帰宅しようとした時
 唐突に、同じ麻雀部員である原村和から声をかけられた

 いつもは足早に咲や優希と帰ってしまう為、こうして二人きりになれる機会は無いんだが
 今日は世にも珍しく、咲も優希も風邪で学校を休んでいる

 竹井先輩はもう引退しているし、染谷部長は家の用事で今日はいない

 つまり、今日はハナから和と二人きりの部活だったというわけだ

京太郎「お、おう?」

 俺は和の方から話しかけられるという、ほぼ数ヶ月ぶりのイベントに戸惑いつつ
 努めて平静を装って答える

 これは、彼女に密やかな想いを抱く俺にとって……千載一遇のチャンス、なのか?


5 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 22:32:17.07 ID:1qHAIoTzo

和「ご相談があるんですけれど、いいでしょうか?」

京太郎「相談?」

 何やら神妙な顔で和は頷く
 これでますます和の要件が分からなくなる

 大体、和が悩むようなことを俺にどうにか出来るようにも思えないし

和「どこから話せばいいのか分からくて、えーっと」

 整理が付いていないのか、頬に手を当てて考え込む和
 そのポーズがあまりにも可愛いので、俺はニヤケそうになる顔を抑えるのに必死だった

和「あの、もう全国大会は終わりましたよね」

京太郎「うん? あぁ、お前達の優勝でな」

 お前達、というフレーズに特別な意図を込めたつもりではなかったんだが
 それを聞いて和は途端に不機嫌そうな顔で唇を尖らせた

和「私達だけ、じゃないですよ」

京太郎「え?」

和「須賀君も、同じチームですから」

 花のような笑顔で、俺に微笑みかける和
 天使だ、と思った

京太郎「ありがとうな。それで、続きは?」

和「あ、そうでした。えっと、それで……私は長野に残ることが出来たんですが」

 そういえば、和は全国優勝しないと東京に引っ越すという約束をおじさんとしてたんだったな
 でも、優勝できてよかった

和「それで、少し余裕が出来たといいますか……私自身、最近麻雀詰めでしたので」

京太郎「?」

 どこか歯切れの悪い和の口ぶり
 らしくないが、一体何を悩んでいるんだろう?

和「優希からも言われて、私……もっと、女子高生らしいことをしようかと思うんです」

京太郎「女子高生らしいこと?」

 そう言われてパッと思い浮かんだのは
 ファミレスで長時間駄弁ったり、無意味に人数引き連れて買い物に行くこととか?
 
 でもそんなもの、別にわざわざ狙ってやるようなことでも無い気がするし
 そもそも、俺に相談するようなことじゃない

京太郎「あのさ、それって……」

和「それで、私決めまして。その……恋人を、作ろうかと思うんです」

京太郎「……」

和「……須賀君?」

京太郎「え?」


7 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 22:45:14.48 ID:1qHAIoTzo

 あまりの衝撃に意識を失いそうになるところだった
 和が恋人を作る?

京太郎「そ、それ本気なのか?」

和「はい。それで、須賀君に相談を」

京太郎「え!?」

 これって、もしかしなくても、もしかするよな?
 恋人を作りたいって、俺に相談してきたってことは……

京太郎「っ」

 ドクン、と心臓が鼓動を速める
 顔中が熱い

 こんな、夢みたいなことがありえていいのだろうか?

和「あの、もし、よければ……なんですけど」

京太郎「……お、おう」

 顔を赤らめ、恥ずかしそうに俺を見る和
 あぁ、この可愛い少女が……俺の、彼女になってくれるのか

 そう考えただけで、天にも登りそうな……

和「須賀君のクラスの、とある男子のことを教えて欲しいんです」

京太郎「…………え?」

 天にも登りそうな気持ちは、一瞬にして地獄へと突き落とされてしまった

京太郎「ど、どういう……?」

和「実は、私……こう見えて、よく告白されたりラブレターをもらったりするんですけど」

京太郎「うん、知ってる」

和「一応麻雀のこととかがあって、全てお断りしていたんです。でも、それが終わって……」

 あー、つまりこういうことか?

京太郎「これから恋人を作ろう、と思っていたところに俺のクラスの男子から告白を受けた、と?」

和「はい。誠実そうな人でしたし……須賀君なら同じ男性同士、どういう人か詳しいのではないかと」

 ははは、こんなことだろうとは思ったけど……マジでついてねぇなオレ
 というより……情けねぇ

和「どうでしょうか? あの、名前は……」

 もしここで俺が、そいつがいい奴だと言えば
 和はきっとそいつと付き合うんだろう

 そして、デートに行って、関係を深めて……
 手を握りあって
 キスをして
 いつかは、肉体関係になるんだろう

 その決定権を、今——俺が握っている
 だけど、それは赤の他人

 俺じゃない

和「という方なんですけど……須賀君?」

京太郎「は、はは……そう、だな」

 俺は、なんて惨めなんだろう
 他の誰よりも、異性として和の傍にいた筈なのに

 なのに、たまたまタイミングが良かっただけの奴に……和を取られてしまう

 そんなのって——アリかよ


8 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 22:56:01.43 ID:1qHAIoTzo

和「あの、様子が変ですよ?」

 自分自身への怒りで震える俺を見て、一歩後ずさる和
 そっか、そうだよな

 俺なんて所詮、和とは違う世界の住人なんだ
 だから、ここは俺が和を後押ししてやればいい

 和が幸せになれるように
 和とどこかの男が付き合えるように

 俺が、俺が……

京太郎「って、聞き分けのいいこと……出来っかよ」

和「え?」

京太郎「あのな、和」

 俺はツカツカと和に詰め寄り、壁際へと追い詰める
 
和「ちょ、須賀、くん?」

 和は俺の勢いに押されたのか、怯えるように後退していく
 そして、その背中が壁に付いた瞬間——

京太郎「お前は何か勘違いしてないか?」

 ドン、と俺の右腕が和を逃がさないように壁にかかる

和「っ」

京太郎「誰と付き合うかを決めるのは自分だろ、俺が決めていいのかよ」

和「そ、それは……須賀君、なら信用、出来ると思って」

京太郎「それに、お前はすげー残酷なことしてるんだぞ」

和「ざ、残酷……?」

 わけが分からないという顔で俺を見上げる和
 
 密着する体
 俺の胸に腹部に当たる和の大きな胸の感触

 漂う和の甘い香り
 もう、我慢なんて出来なかった

京太郎「こういうことだよ」

和「どういう……んぅっ!?」

 俺と和の唇が重なる
 俺の視界には、驚きで目を見開く和の瞳がいっぱいに広がっていた

京太郎「んっ……」

 何秒経ったんだろうか
 気が付けば、俺は和から離れて口元を拭っていた

 それは和も同じで、放心したように唇に手を当ててへたり込んでいる

和「あ……き、す……」

 ようやく事態が飲み込めてきたのだろう
 和の唇を撫でる動きが加速する

京太郎「……和、悪い。立てるか?」

 俺は和の前まで歩み寄り、その手を取ろうと手を伸ばす
 しかし、その手は無情にも払いのけられてしまった

和「っ! いやっ!」


9 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 23:00:19.04 ID:1qHAIoTzo

 俺をドンと突き放し、和は一目散に部室から飛び出していった
 一方、バランスを崩した俺は情けなくも雀卓によりかかって転倒を免れ
 その冷たい感触を、感じることしか出来なかった

京太郎「……」

 追いかけるべきだったのかもしれない
 でも、かける言葉が見つからなかった

京太郎「……ごめんな、和」

 最低のことをしてしまった
 自分の想い人を傷つけてしまったんだ

京太郎「俺ってばダセェ」

 きっと和は染谷部長や咲達にこのことを話すだろう
 そうなったら俺は、この部活にはいられない

 あぁ、全部終わっちまった

京太郎「……」

 俺は帰る気力も湧かず、ずっとその場で立ち尽くしていた
 もう、なにも考えたくなかった


10 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 23:09:22.14 ID:1qHAIoTzo

 私、原村和には沢山の友達がいます

 その中でも、同じ麻雀部の皆さんはとてもいい人ばかりで
 竹井先輩、染谷部長、咲さん、ゆーき、そして……須賀君

 唯一の男子部員ということで、最初は用心していました
 どこか私を見る目がいやらしい気がして、不快感しか覚えませんでした

 でも、咲さんやゆーきは彼に懐いている
 竹井先輩も、染谷部長も彼のことを気に入っている様子で

 私にはその気持ちがよく分かりませんでした
 彼は麻雀も弱くて、その割には練習にはあまり顔を出しません

 みんなが一丸となって頑張っているのに、彼だけは……
 
和「……ただいま戻りました」

 誰もいない家に帰宅し、私は荷物を置いて自室に戻ります
 普段ならまずお風呂を沸かすのですが、その気力さえもありません

 今は、なにも考えたくない

和「ふぅ……」

 制服を脱いで、シワにならないように畳み
 部屋着に着替えて、そのままベッドの上で寝転びました

 瞳を閉じれば、視界にはあの時の須賀君の顔が浮かんでしまう
 私は、瞳を開けたまま——布団を被りました


11 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 23:21:42.01 ID:1qHAIoTzo

 須賀京太郎君
 私が彼への認識を改めたのは、全国大会直後のことでした

 私達が優勝に舞い上がり、浮かれていた頃
 須賀君が体調を崩して一週間、学校を休むことになりました

 正直、その頃の私は須賀君をなんとも思っていませんでしたので
 特に気に留めることもありませんでした

 しかし、他の人は違いました
 全員がソワソワと心配し、自分のせいでないかと気にしているんです
 私は気になって、一人一人に訪ねました?

「一体、須賀君はこれまで何をしていたんですか?」

 部活で姿を見せない
 麻雀で強くなろうともしない彼の何がそんなにいいのかと

 そう考えていた私の認識は——
 皆さんの手で、覆されました

久「え? 和は知らなかったの?」

和「はい?」

まこ「まぁ、無理もないのぅ。和自体はお願いごとをしなそうじゃからな」

和「どういう、ことですか?」

久「須賀君はね。私達が全国大会までの間、麻雀に集中出来るように裏で頑張ってくれていたのよ」

和「裏で、ですか?」

まこ「ああ。わしが毎日部活に出られるように、店の手伝いに出てくれたりのぅ」

優希「それだけじゃないじぇ! この私が力を発揮出来るように、タコス作りの修行にも出ていたんだじょ!」

和「店の手伝い、タコス作り?」

久「その上、必要な備品を買い出して、お茶を淹れておいてくれたり……全国大会の控え室で用意してくれたたのも須賀君なのよ?」

まこ「しかも、行方不明になった咲を捜してくれたり」

咲「うっ」

久「自分も麻雀の練習をしたかったでしょうに、かわいそうなことしちゃったわ」

まこ「その分、来年は京太郎が全国行けるように指導してやるけぇ」

咲「はい! 絶対、京ちゃんも一緒に全国に!」

優希「しょうがないから私も協力するじぇ!」

和「……」

久「そういうことよ、和」

和「ぶ、部長……私、彼のことを、その」

久「いいのよ。これを言えば、和が気にするだろうから言わないでって、須賀君から口止めされてたし」

和「須賀君から!?」

久「ええ。和は今、自分のことでプレッシャーもあるだろうし、余計な気を遣わせたくないってね」

和「……そんな」

 雷に打たれたようなショックでした
 私が蔑み、内心で見下していた彼が——実は部の中で、一番の立役者だったなんて

 私は——なんて、最低なんでしょうか


13 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 23:29:43.50 ID:1qHAIoTzo

 そう、です
 彼はとても素晴らしい人

 だけど、私自身……先だっての負い目もあり
 彼に話しかけることは中々出来ませんでした

「のどちゃんは男心がわからないんだじぇ」

 なんて、ゆーきに言われるのも当然ですね
 だから私は……彼のことをもっと知りたくて
 彼と仲良く、なりたくて

 男性とお付き合いをすれば、須賀君とももっと普通に話せるようになると……思ったのに

和「……キス、されちゃいました」

 思い出しただけで、胸が熱くなります
 力強い、柔らかな感触に男性の——汗の混じったような匂い

 キスの味は、覚えていません
 あまりにも衝撃的過ぎて……思い出そうにも頭がポーッとしてしまうからです

和「須賀、君」

 なぜ彼は私にキスをしたんでしょうか?
 それに、私に言った「残酷なことをしてる」という言葉

 これが、もし……私の自惚れでないのなら

 彼は、須賀君は……私のことを

和「す、好き……なんでしょうか?」

 口にした瞬間、全身が燃え上がったように熱く火照り始めました
 いてもたってもいられなくて、バタバタと布団を殴り、蹴り

 ぎゅぅぅっと、エトペンを抱きしめます
 そんな、こと、有り得ていいんでしょうか?

 私は彼を馬鹿にしていたのに、いないモノとして扱っていたのに

 彼に好かれているだなんて

和「う、うぅぅっ……うぁぁぁ」

 今夜は眠れそうにありません
 明日、どんな顔をして須賀君に会えばいいんでしょう……?

 


16 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 23:40:13.06 ID:1qHAIoTzo

 和に無理やりキスをした翌日
 俺は仮病で学校を休もうとしたが、母親に無理やりたたき出されてしまった

 どんな顔で和に会えばいいのか分かんないのと
 もしかしたら部のみんなに白い目で見られるんじゃないかという恐怖

 足が重いのは無理もなかった

京太郎「なんであんなこちしちまったのか」

 和、走り去った時に泣いてなかったかな?
 もしそうだとしたら俺……もう立ち直れない気がする

京太郎「和……」

咲「和ちゃんがどうかしたの?」

京太郎「おぉぉぉぉわっ!?」

 突然の声に驚きながら振り返ると、そこには笑顔の咲が立っていた
 まずい、まだ心の準備が出来ていない

咲「おはよう。どこが具合でも悪いの?」

京太郎「あ、いや。そういうわけじゃ」

咲「そう。変な京ちゃん」

 咲がクスクスと笑って俺の横に並ぶ
 この感じ……まだ知らないのか?

京太郎「もう風邪はいいのか?」

咲「うん。ばっちりだよ」

京太郎「そうか、優希も治ってたらいいな」

咲「あ、そういえばちゅー」

京太郎「チュウ!?」

咲「え? 中学生の時の話なんだけど」

京太郎「あ、ああ。中学生な、うん」

 いかんな、凄くキス関連の言葉に敏感になってしまっている
 下手に反応しないように気を付けないと

咲「……京ちゃん?」

京太郎「あ、うん。聞いてる聞いてる」

咲「まだなにも言ってないよ」

京太郎「そうかそうか」

咲「もぉー!」

 いつもどおり、咲と漫才しながら学校へ向かう
 足取りは少しだが、軽くなっている
 
 あとは、和とどんな顔をして会うかなんだけど


18 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 23:50:17.61 ID:1qHAIoTzo

 それから、俺と咲は教室に無事着いた
 途中で和と遭遇するかもと身構えたが、そんなことは無かった

咲「今日の一限目は選択授業に変更だって」

京太郎「あ、そうか。んじゃ音楽室に移動しようかな」

咲「私は美術だから」

京太郎「おう。じゃあ後でな」

 教科書を持って移動教室の為に、席を立つ
 多くの人でごった返す教室を見渡すと……嫌なことを考えちまう

 この中に、和に告白をした男子がいる
 そして、きっと和はその男にOKするんだろう

京太郎「っ」

 ギリッと歯ぎしりする音が嫌に脳に響く
 苛立ちと切なさと、不甲斐なさが胸を渦巻いていた

 畜生、どうして俺は……

京太郎「……」

 胸を裂くような心情をこらえ、廊下に出る
 なにも考えないように、意識を別のことに集中させて歩き続けた

 だが、そんな俺の努力も虚しく

京太郎「あ」

 俺は見てしまった

京太郎「和と……うちの、クラスの」

 廊下の窓からは校舎裏の木陰が見える
 そこにいたのは、和と……うちのクラスの男子だった

 おそらく、告白の返事をしてるんだろう

京太郎「……」

 俺はその光景から目を離せなかった
 出歯亀のような真似をして、盗み見しつづけたんだ

和「!」

京太郎「あっ」

 一瞬、俺と和の視線がぶつかった
 和は驚いたような表情で、何かを言おうと口を開いてるようだったが

 当然、俺のいる場所まで声は届かない

京太郎「くそ、嫌なもん見ちまった」

 無理やりキスをされた奴に、今度は告白の返事をのぞき見されたんだ
 きっと和、怒るだろうなぁ

京太郎「早いとこ逃げよう」
 
 俺は足早にその場を後にした
 もう、和には一切視界を向けずに……


19 : ◆XTSALcJir2 2015/05/16(土) 23:55:38.12 ID:1qHAIoTzo

和「あっ、須賀君……」

 見られて、しまいました
 私が……告白の返事をするところを

和「すみません、それでは!」

 私は今しがた、交際を断った男性を置いて須賀君を追いかけました
 今のは誤解だと、すぐに彼に知って欲しかったから

 それはなぜでしょうか?

 彼を傷つけたくないから?
 それもありますが、きっと……一番の理由は

和「私自身が、彼のことを」

 好きだからなんでしょう
 好きだから、彼に誤解をしてほしくない

 私が好きなのは、彼——須賀京太郎君なんですから

和「!」

 その時、ちょうど授業の五分前を告げる予鈴が鳴り響きました
 このまま須賀君を追いかければ、きっと私は授業に遅刻してしまうでしょう

 ですが、そんなことはどうでもいいんです

 私は、彼に謝らないといけないから
 彼の気持ちも知らずに、あんな残酷なことを言ってしまったんです

 その責任を、私は取ります

和「須賀君……」


20 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/17(日) 00:05:24.64 ID:zMk+TkbJ0
浮気者書いた人?

21 : ◆XTSALcJir2 2015/05/17(日) 00:06:42.61 ID:D+ZqcSxWo

 授業開始一分前
 俺は憂鬱な気持ちで、音楽室から空を眺めていた

 ざわざわと騒がしい中で、一際俺だけが浮いて見える感覚

 誰とも話す気になれなかった
 このまま消えてなくなりたかった

 なんて考えていると真面目な音楽教師が授業開始のベルよりも早くやってきて、出席を確認する
 一人、一人……出席簿の上から名前が呼ばれ始め

「須賀京太郎君」

 遂に俺の名前が呼ばれ、俺は気の抜けた返事をする

 出席も取ったことだし、このまま寝ちまおう
 授業が終わる頃に起きれば、この気持ちも幾分かスッキリするかもしれない

 そう思い、俺は机の上に項垂れるようにして瞳を閉じた
 嫌な光景がチラつく、それでも俺は……

「須賀君!」

 突如、俺の名前が呼ばれた
 なんで二回目の出席? と思ったが、これは先生の声じゃない

 この可愛い声、聞き覚えがある
 俺の大好きな、あの少女の——

和「須賀君!!!」

京太郎「え?」

 
 ざわっと、音楽室が騒々しくなる
 顔を上げると、音楽室の入口に和が立っていた

 全力で走ってきたのか、息も絶え絶えで、髪は汗に濡れて頬に張り付いている

京太郎「の、和?」

 俺は訳が分からず、混乱しっぱなしだった

 なんで授業中に和が乱入してきたのか
 そもそも、この俺になんの用があるのか

和「授業中失礼します。すぐに済みますので」

 先生が静止しようとする間もなく、和はツカツカと俺の席まで歩み寄ってくる
 学校の中じゃアイドル兼、ヒーロー扱いされている和が相手だからか、誰も止めようともしない

 成績も優秀だろうしな
 って、そういう問題じゃねぇ

京太郎「な、なんだよ、和」

和「……須賀君」

 音楽室中の視線が俺達に集まる中、和はまっすぐに俺を見つめている
 強い意志を秘めた瞳——一体、どうしたんだろうか


22 : ◆XTSALcJir2 2015/05/17(日) 00:16:22.92 ID:D+ZqcSxWo

和「まず、一つ」

京太郎「え?」

和「昨日は、すみませんでした!」

 すぅっと息を吸って、和が大きな声で叫ぶ
 ペコリと頭を下げた反動で、胸がたゆんと揺れるが……今はそれどころじゃない

和「そして、二つ目!」

京太郎「お、おい?」

和「あの人からの告白は断りました!!!」

京太郎「……そ、そう」

 ますます訳が分からなくなってきた
 なんでわざわざそれを、今、この場所で言う必要があるんだろうか?

 しかも、俺に対して……

和「最後に、三つ目です」

 キュッと唇を噛んで、和が俺の腕を掴む
 その余りの力強さに俺は反応する暇も無かった

和「私は、これまで……須賀君を誤解していました」

京太郎「誤解?」

和「怠け者で、ふしだらで、不誠実な人だと……」

京太郎「……そんな風に思ってたのか」

 かなりのショックを受け、目尻に涙が浮かびそうになる
 畜生、俺の頑張りって一体なんだったんだろう

和「で、ですが! それは過去の話です!」

京太郎「へ?」

和「今は、その……働き者で、ちょっぴりエッチですが、誠実な人だと知っています」

京太郎「……」

和「そして、こ、これが一番重要、なんですけれど……」

 和がくいっと俺の腕を引いて、ピンとつま先立ちで背を伸ばす
 俺の眼前に、瞳を閉じた和の可愛い顔がみるみると近づいて……そして

和「んぅっ……ちゅっ」

京太郎「んっ」

 二つの唇が一つになった
 それはまるで、昨日と同じように——

和「……ぷはっ」

京太郎「んぅ、っておい!?」

和「わ、私! 原村和は!」

 ドクンと、昨日から熱を失っていた心臓が加速する
 これが、俺のうぬぼれでないとしたら

 俺の夢でないとするのなら

 これは、きっと——

和「須賀君のことが、好きなんです!」

 俺の人生、最高の日に違いなかった


23 : ◆XTSALcJir2 2015/05/17(日) 00:21:09.22 ID:D+ZqcSxWo

>>20
 あの偉大な方と間違われるとは……光栄ですが、違います
 

 付き合うまでの経緯が終わったのでひとまず終了します
 需要あるかどうかも分かりませんが、次からは和と京太郎のバカップルライフです
 和が終わったら淡Verも検討していますが……どうでしょうね


56 : ◆XTSALcJir2 2015/05/17(日) 23:06:18.29 ID:ZoX1S6Q4o

 短いですが、ちまちまと更新
 この辺りから、グダグダとイチャイチャするだけになってきます

57 : ◆XTSALcJir2 2015/05/17(日) 23:16:46.25 ID:ZoX1S6Q4o

 和が音楽室で取った大胆な行動の結果
 俺と和の二人は職員室に呼び出されることになった

「恋愛大いに結構、しかし節度を持って交際するように」

 なんて、意外にも先生達の物分りは良かった
 というのも、和の両親を敵に回したくないからなんだろうけど……

和「失礼しました」

京太郎「失礼しました」

 そして今、俺と和の二人は職員室を後にした
 廊下で二人、横に並んでチラとお互いを見ると……なんだか、不思議と笑えてくる

京太郎「怒られちゃったな」

和「怒られちゃいましたね」

京太郎「和が人前であんなことするからだぞ」

和「須賀君が昨日あんなことするからです」

京太郎「でも、悪い気はしなかったろ?」

和「須賀君こそ、嫌でしたか?」

京太郎「……ぷっ、くくっ」

和「ふふっ」

 わざわざ言葉はいらなかった
 始まりはどうであれ、過程はともかく

 俺と和はお互いを好きなんだと分かったんだ

京太郎「授業、今から戻るには微妙だな」

和「はい。二限目まではまだありますし……」

京太郎「じゃあ、どっかで時間を潰すか」

和「アリですね」

 和の柔らかな手を取って、俺は足を進める
 きゅっと、和の指がキツくしまったのは……俺の気のせいなんかじゃない

和「須賀君の手、大きくて暖かい」

京太郎「ハンドやってたからな」

和「関係あるんですか?」

京太郎「さぁ?」

和「もう!」

 俺が彼氏で、和が彼女
 この日から、俺達は付き合い始めたんだ
    


58 : ◆XTSALcJir2 2015/05/17(日) 23:27:56.87 ID:ZoX1S6Q4o

 和と図書室で他愛の無い話をして、教室に戻ることにしたのは二限開始の数分前だった
 握った手を離すのは名残惜しかったが、機会はいくらでもある

 にこやかに俺に手を振る最愛の彼女を見送り、俺は教室の扉を開いた

京太郎「……あー、落ち着こうかみんな」

 そこに待ち受けていたのは、血の涙を流しながら凶器を構える野郎の群れ

 ですよねー

京太郎「みんなを裏切るつもりなんて無くて、その」

 なんて言っていいものか分からず、頭をかくしか出来ない
 学校のアイドルを独り占めしてしまったんだ
 
 今からこの野郎どもにボコボコにされても文句は言えない
 そう思っていたけど……

京太郎「え? あ、おい!」

 凶器を持った男たちは全員、ガックリと肩を落として教室を出て行く
 というか、一年から三年まで……こんなに沢山の生徒がよく入りきっていたな

京太郎「一体どうして……」

久「あら? 命拾いしたんだからもっと喜んだら?」

京太郎「竹井先輩!?」

 人混みが散り散りになり、その中央から姿を現したのは見知った顔だった

久「もう、聞いたわよ? 音楽室で見せつけてくれたんだって?」

京太郎「さすが、耳が早いですね……」
 
久「当然でしょ。でも驚いたわ、あの和がね……」

 手にしたボールペンをクルクルとイジりながら、竹井先輩が俺の全身を見つめる

京太郎「あの、もしかしてさっきの暴動を抑えてくれたのは」

久「ええ。一時は他校の生徒まで押し寄せかねない事態になったそうよ」

京太郎「さ、さすが和」

 もはや県……いや、国のアイドルとなりつつあるのかもしれない

久「骨が折れたわ。ほんっと、いろんな意味で」

京太郎「お疲れ様です。おかげで本当に助かりました」

久「いいのよ。私はただ、みんなに和の幸せを考えて欲しいって訴えかけただけだし」

京太郎「それだけで、よくみんなが落ち着きましたね」

久「あははっ、それがね。面白いのよ」

 コンコンと机にボールペンをぶつけて、竹井先輩が大きく笑う


59 : ◆XTSALcJir2 2015/05/17(日) 23:37:36.54 ID:ZoX1S6Q4o

久「実は和が授業に乱入した時から、数人の生徒が携帯で録画していたみたいでね」

京太郎「……え?」

久「今じゃそれが動画サイトに上げられてお祭り状態なんだって」

京太郎「え、えええええええええええええ!?」

 おいおいおい! そんなのまずいんじゃないのか!?
 俺と和のキスが全国、いや! 全世界に!?

久「あ、勿論動画を投稿した生徒は見つけて処分するわよ。でも、既に手遅れ気味なの」

京太郎「そりゃこのネット社会ですからね」

久「そう落ち込まないの。その動画の和の告白のお陰で……和のファンは身を引けたんだから」

京太郎「え?」

久「気付いてなかった? アナタに告白した時の和はきっと、今まで見たことが無いくらいに可愛かったわよ」

京太郎「……」

 気付いていた
 だけど、俺にとって和はいつだって最高に可愛い女の子なんだ

 笑っている時、落ち込んでいる時、怒っている時
 どんな顔だって和は……世界一の女だ

久「はいはい。のろけた顔は禁止」

京太郎「いでっ!?」

久「しばらくは刺されないように気を付けなさい。ま、ハンドで鍛えた須賀君なら大丈夫でしょうけど」

京太郎「そんな、いくら俺がハンドの王子様って呼ばれていたからって」

久「そんなオカルトありえないでしょ」

京太郎「まぁ、半分くらいは嘘ですけど」

久「半分、ね。あはは、それくらいかも」

 目尻に涙を浮かべ、お腹を抑えて竹井先輩は笑う

久「ほんと……二人が幸せそうでよかったわ……ほん、とに」

京太郎「竹井先輩?」

久「あらやだ。もう、涙っぽくなってダメね私……ふふ」

 竹井先輩の頬を伝う涙
 いくら鈍いと言われる俺でも、これが祝福の涙でないことくらいは分かった

 だけど、それを口にしてはいけない

京太郎「ありがとうございます、部長」

久「……幸せに、なりなさい」

 ピシャリと、扉は閉められる
 もう間もなく、帰ってきたクラスメイト達でこの教室は賑わうことだろう

 根掘り葉掘り質問攻めにあうことは間違いない
 せいぜい今のうちに、うまく流す方法でも考えておくことにしよう


60 : ◆XTSALcJir2 2015/05/17(日) 23:43:53.61 ID:ZoX1S6Q4o

 案の定、というか予定調和の結果
 俺はクラスメイトのほぼ全員から和とのことを質問される羽目になった

 いつからそういう関係になりつつあったのか、とか
 どこまで二人の関係は進んでいるのか、とか

 どれもこれも俺と和にとってはまだまだ未知のステージであり
 逆にまだこれがスタートなんだと認識させられるいいきっかけにもなった

京太郎「ふぅ……ようやく開放された」

 二限目から四限目まで
 休み時間はずっと拘束され、授業中は手紙が山のように回ってきた

 隣に座る咲は終始苦笑いでその様子を見ており
 時々、俯いては顔を伏せ……珍しく、授業中に居眠りをしていた

 いびきも、寝息も聞こえない
 すすり泣くような声は——聞こえないフリをした

京太郎「……咲?」

 四限目が終了し、昼休みになった
 俺はいつものように咲を昼飯に誘おうとしたが、咲は起きようとしない

京太郎「あぁ、寝てるのか。じゃあ、俺行くぞ」

咲「……」

 返事の無い咲に別れを告げ、俺は教室を出た
 心のどこかではこうなることは分かっていたんだ

 でも、ごめんな咲
 俺が好きなのは——やっぱり、和なんだ


61 : ◆XTSALcJir2 2015/05/17(日) 23:56:51.90 ID:ZoX1S6Q4o

 昼飯は食堂で何か頼もうかと思ったが、今日の俺はとにかく人気者らしく
 食堂に足を踏み入れた瞬間、一斉に視線が俺へと降り注いだ

 これじゃあ飯を食べるどころじゃない
 俺は購買でささくさとパンを購入すると、一目散にその場を逃げ出した

 どこかいい場所は無いものかと、しきりに考えたがいい案は浮かばない
 屋上も、中庭もダメだろう

 となると、俺の安息の地は一つしかない

京太郎「やっぱ部室、だよな」

 ここなら入れるのは麻雀部の部員だけだ
 俺は誰にも見られないように確認しながら、素早く部室の中に足を踏み入れた

京太郎「よし、バレずに……!」

和「きゃっ!?」

京太郎「っと、和?」

 扉を抜けた瞬間に胸に誰かが当たった
 よく見るとそれは和で、俺と同じように手にパンを握っている

京太郎「……えーっと?」

 抱きしめるような形で、俺は和を支えている状態だ
 ムニムニと和の大きな胸の感触が非常に気持ちいい

和「す、すみません。あの、私……」

 パッと俺の腕から離れる和
 とても名残惜しいが、致し方ない

京太郎「いや、大丈夫。それより、和も……?」

和「はい。実は、あの告白が、動画に撮られていたらしくて……」

 やっぱり俺と同じように居場所をなくしてここに逃げてきたようだ
 特に女の質問責めは激しそうだからな

京太郎「あれ? 優希はどうしたんだ?」

和「……ゆーきは、その、寝ています」

京太郎「あー……ごめん」

和「いえ、須賀君が謝ることはありませんよ。抜けがけしたのは私ですから」

 友の想い人を奪ったという罪悪感に苛まされているのか、和の顔は暗い
 
京太郎「それこそ和のせいじゃないさ。だって俺は、入部した時からずっと……和のこと、好きだったんだからさ」

和「え? ほ、本当ですか!?」

京太郎「ああ。世界一可愛い女の子だって、思った」

和「そ、そんなこと……ふふふっ、お世辞でも嬉しいです」

京太郎「お世辞じゃないんだけど、まぁいいか。とにかく、俺はだけを想い続けていたから」

 和が責任を感じる必要なんてない
 例え優希が先に告白してきても、俺はきっと断っていたと思うから

和「でも、私は須賀君のこといやらしい人だと思ってました」

京太郎「がーん」

和「だけど、今は違いますよ?」

 ふわっと、甘い香りが鼻腔をくすぐる
 見ると、和が両手で俺の頬を抑えていた

和「んー」

京太郎「!」

 瞳を閉じて、つま先立ちで唇を突き出してくる和
 なんだこれ? 可愛すぎて禿げ上がりそうなんですけど


62 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 00:03:18.14 ID:tC/t6hlPo

和「んー……」

京太郎「可愛い」

和「んー! んー!」

京太郎「すっごく可愛い」

和「もう、早くキスしてください!」

京太郎「はい」

 チュッと唇が重なる
 柔らかい和の唇の感触はこれで三度目だが、何百何千とキスしても飽きる気がしない

和「んぅ……ふふっ」

 キスに満足してくれたのか、和が俺の腰に手を回す
 俺は眼下に見える和の頭をよしよしと撫でて、その美しい長髪を堪能した

和「……私、こんなに幸せでいいんでしょうか?」

 ポツリと、俺の胸の中で和が呟いた

和「ゆーきや、咲さん……竹井先輩、もしかすると染谷部長も」

京太郎「和」

和「え? うむぅ……んちゅ」

 俺を見上げようとした和に、容赦なく俺は口づけを浴びせる
 
京太郎「さっきも言っただろ。俺は、和だけだ」

和「……須賀君、好きです」

 五回目のキスは和から
 ついばむように、六、七、八、九、十

 甘えん坊のひなのように、和は何度も何度も俺の唇に己の唇を重ねた


63 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 00:13:56.36 ID:tC/t6hlPo

和「ふわぁ……いつまでも、こうしていたいです」

京太郎「あのな、まだ付き合ったばかりだぞ」

 ブチ切れそうになる野生の本能を必死に押さえ付けて
 俺は和の頭をポンと叩いた

和「あ、すみません。私ったら……」

京太郎「これから毎日だって会えるんだ。まずはほら、飯だ飯」

 すっかり置き去りになったパンを手に取り、和に見せる
 和はクスッと笑ってから頷いて、俺と並んで椅子に座った

京太郎「急いでいたからな。妙なパンしか買えなかったんだよ」

和「何パンですか?」

京太郎「虫パンだって」

和「うっ」

京太郎「大丈夫、虫の型で焼いただけで虫が入ってるわけじゃないから」

和「そ、そうですよね。でも想像したら……うぅ」

 青ざめた顔で涙目の和がめっちゃ可愛い
 頭を撫でて、そっと抱き寄せる

和「あっ……はぅ、これ……落ち着きます」

京太郎「じゃあ、次は和のパンを見せてくれるか?」

和「はい、私のはこのエトパンです」

京太郎「ペンギンか!」

和「可愛くて買ったんですけど、いざ食べるとなると」

 確かに気が引けるよなぁ
 でも、パンである以上は食べなきゃならんわけで

京太郎「じゃあ俺が食べさせてやるよ」

和「え?」

京太郎「自分じゃ踏ん切り付かないんだろ? ほら」

 俺は和からエトパンを受け取り、封を破る

京太郎「はい、あーん」

和「そ、そんな。私は、子供じゃ!」

京太郎「あーん」

和「もう、怒りますよ?」

京太郎「あーん」

和「……あ、あーん……あむっ」

 かぷっと、小さな口がエトパンの頭部に食らいつく

京太郎「無残にも脳漿をえぐられたエトパンは苦しみ悶え、怨嗟の篭った声で和ぁ、和ぁぁぁっと」

和「もう! 須賀君の馬鹿!」

京太郎「あはははっ、ごめんごめん。なら今度は、俺に食べさせてくれよ」

和「……しょうがないですね」

 クスクスと笑う和
 どうやら、満更もなかったようだ

和「あーん」

京太郎「あーん……はむっ」

和「美味しいですか?」

京太郎「超うまい」


64 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 00:20:29.97 ID:tC/t6hlPo

 それからは交互にパンを口元に運び合い
 和は俺に、俺は和に

 今まで食べてきたパンの中で——今日を越えるパンは確実に存在しないだろう
 
和「ご馳走様でした」

京太郎「ご馳走様」

 パンを食べ終わり、一息を付く
 これからは午後の授業がある

 まだまだ気を抜くわけにはいかなかった

和「……もうすぐ時間なので」

京太郎「ああ。次は放課後に、部活だな」

 後始末を終えて、俺と和は並び立って廊下に出る
 階段を下りれば俺と和は別々の教室に行かなければならない

 それがたまらなく、寂しい

和「ほんの数秒でも、離れていたくありません」

京太郎「それは俺も同じだよ」

和「……須賀君、その」

京太郎「?」

和「私も、同じですから」

京太郎「同じ?」

 和の言った意味が分からず、聞き返す俺
 それに対して、和は顔を赤らめて、俺の手を強く握ってこう返す

和「私も、須賀君だけです。ずっとずっと……いつまでも」

京太郎「……ああ。ずっと一緒にいような」

 ぎゅうっと和を抱き寄せる
 柔らかいハグは……予鈴が鳴り響く、そのギリギリまで続いた


65 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 00:22:55.13 ID:tC/t6hlPo

 今日は人いないのかな、なんにせよここまでです
 昨日言ったほどイチャイチャしていないのは内緒の方向でお願いします
 

86 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 22:47:23.01 ID:E/9975lao

 ちまちま更新
 エロに入れる日は遠そうですね

87 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 22:54:27.23 ID:E/9975lao

 今や俺と和の関係は校内中の一ニュースになっているらしく
 授業中、休み時間と人気者に変わり果てた俺と和

 世界一の幸せ者になった事を思えば、ほんの些細なことではあるが
 早いとこみんな飽きてくれることを願うばかりだ

京太郎「授業は終わりか。咲、部活に行くか?」

 昼休みで心のケリを付けたのか、戻った時にはいつもの気丈な姿に戻っていた咲
 泣き腫らしたであろう頬の赤みは心痛いものではあったけど

咲「うん! 京ちゃんと和ちゃんのお祝いをしなきゃね!」

 なんて、屈託の無い笑みを見せられては何も言えない
 そもそも、俺に何かを言う資格なんて無いんだから

京太郎「お祝いなんていいよ。普通に麻雀打てればさ」

咲「でも京ちゃん、ずっと和ちゃんのこと好きだったでしょ?」

京太郎「まぁな。念願叶ったってところではあるけど」

咲「だったらお祝いだよ! 部長がケーキ買ってくるけぇ、だって」

京太郎「染谷部長もかよ」

 誰も彼も、そんなに俺の起こした奇跡を祝いたいのか
 いや、違う

 みんな本当に俺と和のことを祝ってくれてるんだ、きっと——心の奥底から

京太郎「分かった。お祝いでいいから、まずは部室に行くぞ」

咲「うんっ」


88 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 23:00:56.51 ID:E/9975lao

優希「遅いじぇ! 二人とも!」

 部室に入るなり、仁王立ちをする優希に出迎えられた
 こう言っちゃなんだが、咲の数倍は酷い泣き腫らした顔は心に深い爪痕を残しそうだ

咲「ゆ、優希ちゃん……」

優希「おぉー咲ちゃんも泣いてたのかー」

京太郎「こら。そういう言い方するんじゃねぇよ」

優希「別にいいんだじょ。私と咲ちゃんは失恋同盟を組むから」

咲「え、えええ!?」

京太郎「や・め・ろ」

優希「い・や・ん♪」

 クネクネと陽気に踊る優希
 全く、コイツも素直じゃないな

京太郎「それで、和と部長は?」

優希「一緒に買い物に行ってる。愛しの彼女に会えなくて寂しい?」

京太郎「だからそれやめろっての」

優希「あははっ、のどちゃんをゲットした世界一の幸せ者をからかうのは楽しいじぇー」

京太郎「こら待て!」

 ふざけて走り回る優希を追いかける
 いつもと同じように、これまでと変わらないやり取りで

 ただ、変わってしまったのはお互いの関係
 俺は和の彼氏で、優希はただの部活仲間

 二人の関係が、今以上に進展することは——もう有り得ない

咲「優希ちゃんは……強いなぁ」

 咲のつぶやきは、夕暮れの空に溶けるように
 ただ静かに——ポツリと落とされたのだった


90 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 23:12:25.40 ID:E/9975lao

まこ「これでええかのぅ?」

和「はい。とても美味しそうですね」

 放課後、私は染谷部長と一緒にケーキ屋さんに買い物に来ています
 というのも、部長やゆーき達が私と須賀君の交際を祝うパーティをしようと提案したからで

 一応、断りを入れたんですが……二人が余りにも頑なに言うので

まこ「甘いのは平気じゃったか?」

和「大好きですよ。最近では食べ過ぎちゃうくらいで」

まこ「ならこれで決まりじゃ。すいません、これをください」

 染谷先輩がケーキを注文して、店員さんと何やらお話をしています
 私は手持ち無沙汰で、することがないので椅子に腰掛けショーウィンドウのケーキを見つめていました

 ショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、チーズケーキ、タルト
 様々な種類のケーキは見ているだけでも、私の心を躍らせてくれますね

和「(そういえば、須賀君はどのケーキが好きなんでしょうか?)」

 思い返すと須賀君はこれまで、私や皆さんの好きな種類のケーキを的確に把握して買ってきてくれていました
 だけど、彼自身が自分の分まで買ってきたのを見たことがありません

 甘いものが苦手? それとも、遠慮して?

和「(私ったら、そんなことも知らないんですね)」

 須賀君はこれまで、私達の好みや趣味を調べて頑張ってくれていたのに
 私は彼の趣味も、好みも、誕生日さえも知りません

和「(彼女、失格です)」

 麻雀が出来たって、勉強が出来たって
 私は彼のことを何一つ知らない
 
 おそらく、咲さんの足元にさえ……

和「(で、でも! これから頑張ればいいんです!)」

 須賀君の彼女は私なんです!
 少しずつ、彼のことを教えてもらえば……

まこ「どうしたんじゃ和? 難しい顔をして」

和「ひゃっ!?」

まこ「おぉ、すまんのぅ。じゃが、見たところ京太郎のことじゃな?」

 ニヤリと、染谷部長が私の顔を覗き込みます
 うぅ、恥ずかしいところを見られてしまいました

まこ「心配はいらんけぇ。和と京太郎はお似合いじゃぞ」

和「染谷部長……」

まこ「ま、わしが決めることじゃないがのぅ。もちろん、周りもそうじゃ」

和「それは、えっと」

まこ「自分で胸を張れればええんじゃ。そうじゃろ?」

和「……はい!」

  本当に、私はとても素晴らしい人達に囲まれています


91 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 23:20:57.92 ID:E/9975lao

和「ただいま戻りました」

まこ「待たせたのぅ」

京太郎「お帰りなさい、二人とも」

 俺が優希との追いかけっこを終え、一息ついていたタイミングで和達は戻ってきた
 手にはケーキが入った紙袋を下げていて、その顔は明るい

和「! 須賀君!」

 パァッと花開いたように眩しい笑顔を見せる和
 だけどみんなの手前、露骨にスキンシップを取るのはこらえたようだ

和「(うぅ、須賀君に抱きしめてほしいです)」

京太郎「(みんながいなけりゃ、抱きしめていたかもしれない)」

 全身を駆け巡る衝動を抑え、俺はテーブルの上に紅茶の用意をする
 カップの数は六つ

 俺の予感じゃもうすぐ……

久「はいはーい! やってるー?」

 ジャーンジャーン
 引退した竹井先輩が姿を現した
 
まこ「部外者は帰って貰えるかのぅ?」

久「ま~こぉ~」

まこ「冗談じゃ。たくっ、情報が早い奴じゃな」

久「当たり前でしょ。ケーキ、ケーキ♪」

優希「切り分けるじぇー!」

咲「箱から出しますね」

京太郎「あぁ、頼む」

 スルスルと箱から出てきたのはフルーツが沢山乗ったケーキだった
 おぉ、すげぇ美味そう

和「須賀君はこれでよかったですか?」

京太郎「おう。俺、フルーツ好きだからさ」

和「フルーツが好きなんですね!?」

 俺の返事を聞くなり、高速でメモを取り始める和
 いや、可愛いんだけど必死過ぎやしないか?


92 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 23:29:06.34 ID:E/9975lao

 なんだかんだでケーキを切り分け、俺達は食べ始める
 てっきり、カップルの俺達にむちゃぶりが来るんじゃないかとヒヤヒヤしていたんだが
 何事も無く始まってホッと一安心だ

久「んー、美味しい。須賀君さまさまね」

優希「おぉ、これは……」

まこ「人気ナンバーワン商品らしいのぅ」

咲「納得の味ですね」

和「はい。本当に美味しいです」

久「……ふふ、ケーキの味だけじゃないかもね」

京太郎「え?」

 竹井先輩が何やら含みを込めた顔で言う

久「私達六人が揃うのも、久しぶりじゃない」

咲「あっ」

まこ「……たまにはいいこと言うのぅ」

久「ちょっとまこ! 部長になったからって、私を虐めないでよ!」

優希「こういうやりとりも懐かしいじょ」

京太郎「ああ。本当にな」

 この六人で、俺達は全国大会へ挑んだんだ
 そして——最高の結果を残すことができた

久「ほんと……私にとって、みんなは最高の宝物だわ」

 潤んだ瞳で竹井先輩が俺たちを見る
 祝勝会の時も同じように泣いていたってのに、全く

京太郎「もう大分経つんですから」

久「何よ、いいじゃない。それだけ嬉しいのよぉ」

まこ「やれやれじゃのぅ。これは和と京太郎のお祝い会なんじゃが」

咲「あははっ」

優希「全部ひっくるめちゃえば問題ないじょ!」


93 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 23:37:13.74 ID:E/9975lao

 こうして、竹井先輩が泣き出して
 それを俺達がからかって、昔話に花を咲かせて

 いつしかケーキは無くなり、紅茶は飲み干し
 気が付けばとっくに部活終了の時間になっていた

京太郎「よし、片付け終わりっと」

和「すみません、須賀君ばかりに」

京太郎「いいっていいって。用意は和と部長がやってくれたしな」

和「でも、須賀君を手伝いたかったので」

京太郎「……あんがとな」

 和が照れた顔ではにかむ
 あぁ、可愛い
 
 もう抱きしめてキスしていたいよ、ずっと

まこ「……お邪魔じゃのぅ」

久「お邪魔ね」

咲「お邪魔ですね」

優希「お邪魔だじょ」

京太郎「あのー、何やってんですか?」

 出口の影から揃って、こっちを覗き込んでいる四人
 というかいつの間に外に出ていたんだ

久「じゃあ私達はお先に帰るわ!」

まこ「これから二次会があるからのぅ」

京太郎「え? それなら……」

久「馬鹿ね。察しなさいよ」

 竹井先輩が訴えかけるように視線を下にずらす
 あぁ、そういうことか……

京太郎「分かりました。すみません、何から何まで」

久「あら、なんのこと?」

 とぼけた顔で竹井先輩は部長達を引き連れて扉を閉めた
 きっとこれから、失恋を慰める会を開くんだろう

和「……須賀君」

京太郎「あぁ。鈍い俺でも、なんとなく分かるよ」

 その慰める会は、二人の為のものなのか……
 多分だけど、それは四人全員の為の——

和「ですよね。でも、私は気にしません」

京太郎「和……?」

和「須賀君がずっと私を好きでいてくれたという言葉を信じていますから」

京太郎「……そうだな」

 和が気兼ねする必要なんて無い
 横から掠め取ったわけでも、ましてや奪ったわけでもない

 俺が和を追い続け、結ばれただけなんだから


94 : ◆XTSALcJir2 2015/05/18(月) 23:49:04.01 ID:E/9975lao

和「……二人きり、ですね」

 和がススッと、俺との距離を詰める
 そして、俺の服の袖をくいくいっと引っ張って……俺を潤んだ瞳で見上げてきた

和「キス、してください」

京太郎「あぁ、いいよ」

 十数度目のキスは、ケーキのせいか甘い味がした
 ちゅっちゅっとしたバードキスは、次第に頬へとずれ……次第に和の首筋へと移動する

和「んぅ、いや、やぁ」

 くすぐったいのか、身をよじらせて和が悶える
 だけど、腕はしっかり俺の腰に回して離そうとしない

京太郎「嫌だったか?」

和「ふふ、いえ。つい」

 ぺろっと舌を出して、和が笑う
 俺は和の背中に手を回して、やさしく抱きしめた

和「……幸せ過ぎて、夢みたいです」

京太郎「そうか? 俺はもう死にそう」

 この一日で地獄から天国へ昇天しちまったからな
 これが夢オチだったら、間違いなく首をくくるところだ

和「死んだら嫌です」

京太郎「あぁ、俺も死にたくない」

和「これから、もっともっと……ずっとずっと、須賀君と一緒に」

京太郎「分かってる。俺も、和と一緒に」

 昼休みからなんの進歩も無い会話を繰り返しながら
 俺と和はお互いの体温を感じ合った

 ドクンドクンと脈打つ心臓の音が、和の豊満な胸越しに伝わってくる

京太郎「(ていうか柔けぇ)」

和「……もぅ、スケベですね」

京太郎「あいててて」

 俺のだらしなく伸びた鼻に反応したのか
 和が俺の頬を摘む

和「でも、須賀君になら……いいですよ」

 むぐにゅぅんという、規格外の音を立てて和の胸が俺の腕を挟む
 なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!? これがおっぱいだっていうのかよ?! 

 神はなんてモノを生み出したんだ!?

和「……や、やっぱりまだ恥ずかしいです」

京太郎「無理しなくていいよ。俺達のペースでいこう」

 俺に気を遣ってくれたであろう和の気持ちは嬉しいが
 まだ付き合ったばかりだしな

京太郎「俺はこうして和を抱きしめているだけで、幸せだよ」

和「……嬉しい」

 ちゅっと、和が再びキスを始める
 ていうか、意外に和はキスがお好きなようだ

和「もう一度、いいですか?」

京太郎「いくらでも……んっ」

 俺と和の甘いキスは、まだまだ終わりそうになかった 


95 : ◆XTSALcJir2 2015/05/19(火) 00:00:23.53 ID:LeIMQj9Xo

 和とのキスが三十分も続き、いよいよ帰らなければということで
 俺と和は部室を後にした

 というか三十分もキスをしていたのに、ただの一度もフレンチキスにならなかったのは
 まだまだ俺も和も、緊張に凝り固まっているからなのだろう

和「寒いですね」

 コートを羽織った和が、ぶるっと震える
 確かにもうすぐ冬になるからな
 
京太郎「俺のマフラー使うか?」

 俺は自分の首に巻いていたマフラーをそっと和に巻いてやる
 和は驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔で

和「ふぁっ、須賀君の匂いがします」

 なんて可愛いことを言いやがる

和「あ、でも須賀君が寒くないですか?」

京太郎「俺は平気だよ。和があたたくなればそれでいい」

和「そういうわけにも……あっ、そうです」

京太郎「?」

和「もし、よければ……私が、マフラーを」

京太郎「え? いいのか?」

和「はい。是非、作らせてください!」

 彼女からの手編みのマフラーだって!?
 そんなものを貰った日には死んだっていいぞ!

和「だから、それまでは……」

京太郎「あぁ、我慢するよ。とは言っても、本当にまだまだ寒くないんだけど」

 冬の本番になったらちと厳しいが
 これくらいの寒さはへっちゃらだ

和「急ぎます!」

京太郎「無理はしないでくれよ?」

 和のおでこにキスをすると、和はぎゅぅぅぅと俺に抱きついてくる
 あぁもぉぉぉぉかわぇぇぇぇぇ!

和「さぁ、帰りましょう」

京太郎「おう」

 俺が右手、和が左手
 お互いの手袋を片方ずつ外し、手をつなぐ

和「……やっぱり大きいです」

京太郎「ハンドやってたからな」

和「だから、関係あるんですか?」

京太郎「多分、無い」

和「もぉ……」

 俺が彼氏で、和が彼女
 その最初の一日は——こんな感じ

 はてさて、これからはどんな生活が待っているのやら……
 


97 : ◆XTSALcJir2 2015/05/19(火) 00:03:39.30 ID:LeIMQj9Xo

 おわり

 淡々と一人で甘いレスを投下してると気が狂いそうになるという新発見
 個人的には反応あった方が嬉しいんですがね……安価でもいれてみようかしら


138 : ◆XTSALcJir2 2015/05/19(火) 23:37:17.95 ID:kx1FrEqMo

 今日も短いけど更新
 のどっちとイチャイチャデートをしたいという全男性の願望

141 : ◆XTSALcJir2 2015/05/19(火) 23:45:28.53 ID:kx1FrEqMo

 和と俺が付き合い初めた翌日
 俺が朝起きて、真っ先に安堵したのは昨日のことが夢でなかったということだ

 携帯を見るとメールが一通
 和からだ

京太郎「おはようございます♪ か」

 和らしい簡素なメール
 だが、この♪一つ付けるのに和がどれだけ悩んだのかを考えると
 ほんの少し、笑みがこぼれそうになる

京太郎「普段はもっとそっけないもんな」

 やはり和は可愛い
 そして、俺は世界一の幸せ者なのだと分かる

京太郎「……俺も、頑張らないとな」

 和に相応しい彼氏にならなくちゃいけない
 じゃないと、和が悪くいわれちまうかもしれねぇし

京太郎「うっし、今日も頑張るぞ」

 俺は和にメールを返信すると、素早く起きて制服に着替える
 髪型もセットして、身だしなみにも気を遣う

 元はそんなによくないが、少しはマシになるだろう

京太郎「母さーん! 飯ー!」

 今日も一日、頑張るぞ


142 : ◆XTSALcJir2 2015/05/19(火) 23:54:12.09 ID:kx1FrEqMo

 通学路
 いつもならこの時間、この辺りの場所で咲と遭遇するんだが

京太郎「……いないな」

 時間をずれたのか、咲の姿は見当たらない
 まぁ、示し合わせているわけじゃないからズレてもおかしくはない

京太郎「でも、事情は大体なぁ」

 俺は深く考えないようにして道を踏みしめる
 ジャリッという石の音がやけに頭に残って離れない

 くそぉ……

和「あっ、須賀君!」

京太郎「え? 和?」

 視界を上げると、大きく手を振る和の姿が見えた
 あれ、こっちの方向じゃない筈だけど

京太郎「おはよう和。どうしたんだ?」

和「えと、少しでも一緒にいたくて……それで、あの……」

 もじもじ、もじもじと和が指を弄り、上目遣いで言う

和「来ちゃい、ました」

京太郎「和、こっち来て」

和「え? んむぅっ?! んぅ……んちゅ」

京太郎「ぷはっ。あぁもう可愛いなぁ」

和「い、いきなりはやめてください! びっくりしました」

京太郎「悪い。でも和が可愛すぎるからいけないんだよ、うん」

和「そんなこと言われても……」

 顔を赤くして和が俯く
 あー、もうーやばーい

 こんなに可愛い生命体見たことないんですけど!

京太郎「って、こんな道の真ん中ですることじゃないよな」

和「そうですよ。あの、人目がありますから」

 和の言うとおりだ
 こんなところを見られちゃ気まずい場合もある

京太郎「ごめん。でも、我慢出来なくて」

和「ふふ、実を言うと私も……キスして欲しかったんです」

京太郎「じゃあ、もう一回?」

和「……二回で」

京太郎「んっ」

和「んぅ、ちゅ……ふぁ、もう一回……」

京太郎「ダメだって。人がくるかもしれないだろ」

和「……うぅー」

京太郎「拗ねてもダメだって。つーか、和がこんなに甘えん坊だったなんてな」

 唇を突き出して訴えかけてくる和の頭を撫でてやる
 すると和は、満面の笑みで目を細めた

和「須賀君が、悪いんですよ」

京太郎「俺の?」


143 : ◆XTSALcJir2 2015/05/19(火) 23:58:43.99 ID:kx1FrEqMo

和「須賀君といると、なんだか……おかしな気持ちになって」

京太郎「それは嬉しいな」

和「はい。もう、ずっとずっと傍にいてほしいくらいに」

京太郎「俺も離れたくないよ。ずっと抱きしめていたい」

和「じゃあ抱きしめてください」

京太郎「ダメ」

和「どうしてもですか?」

京太郎「人目があるからな」

和「……むー」

京太郎「頬を膨らませてもダメ」

 しっかし、初対面の頃を思うと和も大分変わったなぁ
 最初は俺のこと、虫か何かと同レベルで扱ってる感じだったし

京太郎「ほら、遅刻しないように急ぐぞ」

和「あ、はい。待ってください須賀君!」

 手を取り合って、俺と和は歩き始める
 この幸せは永遠に続くことだろう

 だって、和はこんなにも可愛いんだから
 


146 : ◆XTSALcJir2 2015/05/20(水) 00:07:58.63 ID:c9CluXQpo

 全校生徒の生暖かい視線の渦を抜けながら、俺と和はなんとか校舎内に入ることができた
 やはり一日では噂は消えてくれないらしい

京太郎「じゃあ、昼休みに」

和「はいっ」

 クラスが違う和と別れ、俺は自分の教室に入る
 すると、いつもより早く到着していたらしい咲と視線が合った

咲「おはよっ、京ちゃん!」

京太郎「おはよう咲。早いな」

咲「うん。たまには悪くないかなって」

京太郎「俺には無理だなー早起き」

咲「あははっ。ねぼすけさんだもんね」

 そういや前はよく咲が起こしに来てくれていたんだっけ
 断るようになったのは……そうだ

 俺が、和に惚れた頃からか

咲「どう? 和ちゃんとはうまくいってる?」

京太郎「ああ。和は世界一だからな」

咲「うわーバカップルだー」

京太郎「向こうもそうかは分からねぇけど」

咲「昨日ちょっと聞いたらね」

京太郎「うん」

咲「世界一カッコイイって言ってたよ」

京太郎「いやいやいや」

 それは有り得ないって
 こんな金髪ヤローどこにでもいそうだろ

咲「そうかな? 私はあながち間違ってないと思うよ?」

京太郎「……」

咲「京ちゃんは、世界一の彼氏さんだもん」

京太郎「あの、な。咲……その」

 なんて返していいか分からず、困惑する俺を見て咲が笑う

咲「ふふっ、世界一同士お似合いじゃないかな?」

京太郎「からかうなよ」

咲「ううん、嫉妬してる」

京太郎「え?」

咲「だから……私が嫉妬するのがバカバカしくなるくらいに」

京太郎「咲……」

咲「幸せになってね、京ちゃん」

 その日から、俺は咲が泣く姿を見ていない
 何かあればすぐに俺に泣きついて、しがみつき、震えていたあの咲が……

 今ではこんなにも強い瞳で——俺を見ている

京太郎「ああ。絶対になってやるさ」

 もう、何も心配はいらない 


147 : ◆XTSALcJir2 2015/05/20(水) 00:16:08.83 ID:c9CluXQpo

 昼休みは部室で一緒に食べよう

 それが和と朝に交わした約束だった

和「はい、あーん」

京太郎「あーんっ……うん、美味しいよ」

和「で、では次は私に」

京太郎「はい。あーん」

和「あーん……んぅ、ふふっ」

 パンを口に運ぶと、手足をパタパタさせて喜ぶ和
 もうね、可愛すぎるんだよこの子

京太郎「どうしたらそんなに可愛くなれるんだよ」

和「え? そんなに可愛いですか?」

 きょとんとした顔で、和が俺を見る
 俺はその仕草が余りにもツボに嵌ったので、無理やりキスをした

和「もぉ、急には、やぁ……んぅ、んふ、ちゅ、んちゅ」

 訂正
 無理やりではなく、ノリノリだった

京太郎「それにしても和っていい匂いがするな」

和「いや、そんな場所嗅がないでください……」

 和の首元に鼻を寄せると、和が照れて俺の胸元を押す
 しかし、その力は弱々しく……本気で嫌がっていないことは明白だ

京太郎「ぺろっ」

和「ひゃぁぁっ!?」

 いじらしくなって首元を舐めると、和の体がビビクンと跳ねる
 やはりこの辺りは弱点らしい

和「な、ななななぁっ……」

 口をパクパクさせて、顔を蒸気させる和
 とりあえず落ちかせる為にキスをしておこう

和「むぅー! むぅー!」

京太郎「おや、収まらないご様子」

 普段なら乗ってくる和だが、首筋を舐められたのが尾を引いているのか中々落ちてくれない

和「騙されませんよ!」

京太郎「別にそういうつもりじゃないけど」

和「い、いいいま、く、首を舐めましたよね?」


149 : ◆XTSALcJir2 2015/05/20(水) 00:22:56.54 ID:c9CluXQpo

京太郎「そりゃ舐めたとも」

和「な、舐めっ……」

京太郎「だって、我慢出来なくて」

 和の首元の匂いを嗅いだら、舐めたくなるのは当然
 え? 普通そうじゃない? だよな、普通だよ

和「我慢、出来なかったんですか?」

京太郎「うん。和の魔力のせいで」

和「そ、そんなオカルトありえません!」

京太郎「そうかなぁ」

和「そうです!」

 ちょっぴりプンプン気味で和が両手を組む
 よし、それならこっちにも考えがあるぞ

京太郎「じゃあ、試してみるか?」

和「え?」

京太郎「ほら。俺の首元」

 俺は制服のボタンを外して、首元を露出する
 これでも元運動部だからな、筋肉には多少の自信はあるぜ

和「こ、これが……須賀君の」

京太郎「嗅いでみていいよ。そしたらほら、舐めたくなるから」

 全くのデタラメだった
 ただ、和を困らせてみたくて提案したおふざけだったが

 意外にも、和の反応は……

和「か、嗅いで……舐める?」

 ゴクッと、生唾を飲み込む音が聞こえた
 あれ? これってまさか?

京太郎「いや、これはただの冗談……」

和「わ、分かりました。試して、みます」

 何やら決意を秘めた顔で和が俺の首に手を回す
 ポニョンと、お腹に和の胸が当たるが……それよりも、和が息荒く顔を寄せてきた方が衝撃だった

京太郎「む、無理はしない方がいいんじゃないか?」

和「問題ありませんから」

 これもう完全にやる気じゃないのか和?
 いやね、俺はいいんだけども


151 : ◆XTSALcJir2 2015/05/20(水) 00:37:40.12 ID:c9CluXQpo

和「……くんくん」

京太郎「くんくんって、そんなベタな」
 
 とは言っても所詮は俺は男だし
 漫画みたいに女の子がとろぉん、なんてことがあるわけ

和「ふわぁ……とろぉん」

京太郎「ええっ……?」

 何これ、和が麻雀打ってる時みたいになってんですけどぉ!?
 え? 俺の首元にそんな魔力あったのかよ!

和「これ、すごく……んぁ」

 スリスリと、和が鼻を俺の首に擦りつけてくる
 気持ちもいいが、それ以上にくすぐったい

京太郎「っ、あひゃひゃ……和、それ、くすぐったい」

和「ん……ぺろぺろ」

京太郎「おびゃぁっ!?」

和「んちゅ……ちゅぅずぅるるるっ」

京太郎「っつぁぁぁぁ!?」
 
 舐められるどころかなんか吸われてるんだけど!?
 って、マジでこれくすぐったいし、気持ちいぃぃ!?

京太郎「ちょ、すとっ、マジストップ! これやばい!」

和「ふぁっ」

 俺の首筋に思い切り吸い付いていたからか、俺が和を引き離すと
 銀の雫が和の口元からデロリと垂れる

京太郎「……っ」

 その惚けた顔、口元から垂れる和の涎が妙にエロく……俺を興奮させた

京太郎「和」

和「ふぇ……? んむぅ!?」

 俺はいてもたってもいられず、和の唇を奪った
 そして、和の垂らした唾液を舐めとるように……舌を和の口内へと推し進める

和「んむぅ……ちゅ、じゅるっ」

 生暖かく、柔らかな和の舌と俺の舌が触れ合う
 和の甘い吐息がダイレクトに俺の鼻腔を駆け上り、俺の脳内をふやかしていく

京太郎「んぅ……じゅっ」

 和の口から溢れた唾液を吸い取りながら、俺は和の舌と絡む
 和も最初は驚いていた様子だったが、すぐに力を抜いて俺の動きに身をゆだねてくれている

 しばらくは、ピチャピチャとしたいやらしい水音だけは室内に響き

和「ぷはぁっ……んぁ、あむぅ」

 俺と和はお互いを強く抱きしめ合いながら、舌を絡ませ続けた


152 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/05/20(水) 00:41:39.00 ID:3wTwn9kfo
「くんくん」、「ペロペロ」をしゃべらすのはともかく、「とろぉん」はやめてくれwww
笑ってしまうw

153 : ◆XTSALcJir2 2015/05/20(水) 00:45:31.82 ID:c9CluXQpo

京太郎「あー……」

和「……」

 和と俺のフレンチキスデビューから、数十分後
 余りの気持ちよさに我を忘れ、理性を忘れ、俺達は盛大に午後の授業に出遅れてしまった

京太郎「昼休み終わっちまったな」

和「……はい」

京太郎「これは、危険だな」

和「はい。クセになったら、もう戻れない気がします」

京太郎「……しばらく、封印しようか」

和「え?」

京太郎「え?」

和「……少しくらいなら」

京太郎「しっかりしろ和! これは麻薬と同じなんだ!」

和「はっ」

京太郎「もし咲からのメールが無ければ、俺……多分、放課後まで続けていたかもしれない」

和「わ、私もゆーきからのメールが無ければ」

 なんて恐ろしいんだディープキスめ
 人生を狂わす禁断の魔力を秘めてやがる

和「……分かりました。でも、いつか絶対、その」

京太郎「ああ。少しずつ、少しずつ刺激になれていこう」

 まだ付き合って二日なんだ
 焦ることはない
 
 じっくり、ゆっくりと進展すればいいんだ

和「そういえば、六限目まで……まだ数十分ありますね」

京太郎「ああ、そうだな」

和「数十分も……ありますね」

京太郎「ああ、めちゃくちゃ時間があるな」

和「……」

京太郎「……」

和「ちゅー」

京太郎「ちゅー」

 訂正
 やっぱディープキスはやめらんねぇ


154 : ◆XTSALcJir2 2015/05/20(水) 00:52:25.56 ID:c9CluXQpo

 怒涛のキス天国を終え、授業に戻り
 先生からの説教を受けて、そのまま授業を終えて

 放課後に部室に着いて早々、和がこんなことを切り出してきた

和「そういえば、明日はお休みですね」

京太郎「ん? あぁ、そうだな」

 学生にとってはありがたい土日休みだ
 でも、俺からすると和と会えなくなるという最悪の……

和「あの、もし須賀君がよければなんですが」

京太郎「?」

和「……つ、付き合って最初の休日ですし」

京太郎「! あぁ、そうか!」

 今まで恋人がいなかったから分からなかったが
 彼女がいるなら休日の過ごし方がまるっと変わるんだ!

京太郎「……デート、するか?」

和「……は、はいっ! 是非!」

 とまぁ、こういう経緯で俺と和は初デートをすることになった
 つってもデートなんてしたことがないし
 どうリードすりゃいいかも検討がつかない

 あぁ、俺の初デートはどうなっちまうんだろうか


155 : ◆XTSALcJir2 2015/05/20(水) 00:53:55.13 ID:c9CluXQpo

 おわり
 全然イチャイチャしてないからタイトル詐欺になりそうで怖かったりー

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