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1 : 2015/07/09(木) 17:12:55.81 -
『陽乃無双~雪ノ下陽乃誕生日記念』
著:黒猫
7月6日
八幡「陽乃さん?」
陽乃「…………」
比企谷君の呼びかけにこたえるべく緩やかに規則正しく背中を上下させ、
寝ているふりを継続させる。
カフェで休憩しだして、そろそろ3度目の呼びかけだった。
本日は、明日めでたくも誕生日を迎える私の為に雪乃ちゃんたちが
なにやら準備してくれているらしい。
ただ、雪乃ちゃん達は受験生でもあり、私は応援がてら家庭教師をしている。
とはいうものの、教える対象は比企谷君なんだけどね。
あと、ガハマちゃんはなんだかいまだに私の事を警戒しちゃって、あまり近づいてはこない。
まっ、いいけどさ。
よって必然的にガハマちゃんの家庭教師は雪乃ちゃんとなる。
普通に考えれば雪乃ちゃんも受験生なわけだけど、……問題ないか。
雪乃ちゃんだし。
それに、これで受験に失敗したら、それはそれで面白いかもしれないし。
なぁんてことは絶対に言わないけどね。これは比企谷君との約束だっけ。
どうも私は以前の比企谷君並に捻くれた言動を雪乃ちゃんにしてしまう。
こんなにも妹を愛している姉なんて世界中探したっていないのに、失礼な奴らめ。
そんな私を見かねて比企谷君が提案したのが雪乃ちゃんを可愛がり過ぎない事だった。
たしかに私の愛は深すぎるかもしれない。
比企谷君曰く、普通の人間なら押しつぶされる重さだとか。
ほんと私に対して遠慮がない奴だ。もうっ、愛い奴め。
こうなったら雪乃ちゃんの代りに比企谷君を可愛がってあげる(きゃぴっ)って言ったら、
あいつったら露骨に嫌な顔したっけ。
それがあまりにも可愛くて抱きしめてあげたら、顔を真っ赤にして抵抗できないでいたなぁ。
いつもは大人っぽい態度をとるくせに、こういう所だけは純情なんだから。
とまあ、今回も比企谷君は私の生贄に……いや、人身御供に、虜囚に? 違うか……、
人質、捕虜、囚われのお姫様? ……私のデート相手として勉強会を休講にする口実に
なっていた。
実際はサプライズの誕生日会でもなく、明日の準備をするのを邪魔されたくない為に
私を雪乃ちゃんのマンションから遠ざけたというのが真相ではある。
そういうわけで今現在、本屋で比企谷君用の参考書をいくつか見繕った後に、
私と比企谷君はカフェにて、私は居眠り、比企谷君は買ったばかりの参考書を眺めていた。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1436429565
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436429565/
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2 : 2015/07/09(木) 17:13:41.11 -
八幡「陽乃、さん?」
ぐずるように頭を軽くゆらすと、さらりと前髪がおでこを撫でる。
今回も前髪の隙間から薄目を開けて比企谷君を観察する。
じじじっと私を凝視する比企谷君は、いくら私の目を覗きこもうとしても
前髪が邪魔して見えやしないだろうにしつこく覗きこむ。
あんまり見つめられちゃうと、お姉ちゃんとしてでもちょっとばかしこそばゆい。
それに、見つめられているとわかると、私も目をそらせないじゃない。
あっ……、目があった。
けれど、私も比企谷君も視線をそらすどころか体も反応をみせはしなかった。
まあ、比企谷君はしばらくしてから前回同様困った顔をしてから
再び参考書に目を落としたけど。
陽乃「……んぅ?」
ここで諦めちゃうの?
もうちょっと遊んで欲しいなぁ……。
八幡「そろそろ起きてください」
さすが比企谷君。
陽乃「…………」
八幡「……ひゃいっ?」
比較的落ち着いた雰囲気の店内に、比企谷君の卑猥な?叫びが響き渡る。
街にあふれまくっている某チェーン店とは違く、
場所柄それなりに裕福な人たちが集まってくるこのカフェは
、一瞬くらいなら騒いでも目をつぶってはくれる。
近くにいる老夫婦も気にした様子はないし、店員も一度目をこちらに向けただけだ。
その代わりといってはなんだが、
比企谷君は店内全員分の好奇心を可愛らしい恨みに変換して私を睨みつけてきた。
八幡「セクハラはよしてくれませんかね?」
相変わらず寝たふりをしている私は、
パンプスを脱いで黒いストッキングのみになった足先を、
つつつっっと比企谷君の足元から膝のあたりまで昇り詰める。
比企谷君はピクリと肩を揺らし私をもう一度睨みつけると、諦めに満ちたため息をつき、
苦笑いを浮かべる。
八幡「いい加減おきてください」
陽乃「ん~……そっか、寝ちゃったかな」
八幡「そうですね」
陽乃「でも、私が選んであげた参考書読んでいたんでしょ?」
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3 : 2015/07/09(木) 17:14:16.09 -
八幡「ええ、まあそうです。だから暇ではなかったですよ」
陽乃「そ? で、使えそうな本だった?」
八幡「陽乃さんが選んでくれた参考書ですし、最初からはずれだとは思っていませんよ」
陽乃「そう? 買い被りすぎじゃあないかな?」
八幡「それはないです」
陽乃「そうかしら?」
八幡「家庭教師をしてもらってるのですから、その辺はわかります。
それに、俺の参考書を選ぶ為に何冊も読んで、
書き込みしながら研究してくれているとか」
陽乃「雪乃ちゃんだな?」
八幡「まあ、そうです」
悪い奴め。
仕返しとして、雪乃ちゃんへの罰を比企谷君に実行してあげよう。
早速私は、今度は両足で比企谷君の脚を挟み込む。
これなら逃げられないでしょ?
観念しなさい。
陽乃「きゃっ」
予想外の反撃に、私は生娘らしい声をあげてしまう。
八幡「大丈夫ですか?」
陽乃「もう、悪いと思っているんなら、その手、離してくれないかしら?」
八幡「陽乃さんがセクハラまがいの事をしてくるから脚を掴んだまでです」
陽乃「そうかしら? もしかして脚フェチだったとかしない?」
八幡「それはないですから安心してください」
陽乃「きゃっ……。いきなり脚を離さないで」
八幡「すみません」
と、嘘でもたて前でもなく、本当にすまなそうに比企谷君は離しかけた脚を掴み直す。
陽乃「いきなり手を離したら、バランス崩して椅子から落ちちゃうでしょ。
今でも両足掴まれて不安定なのに」
八幡「それは陽乃さんのせいでは?」
陽乃「比企谷君のせいよ」
八幡「はぁ……、それでいいです」
陽乃「白状したわね。今テーブルの下を覗いたら、短いスカートの中身、見ほうだいよ?」
八幡「はぁ…………、右足から離しますけど、それでいいですか?」
陽乃「つまんなぁい」
八幡「離しますよ?」
陽乃「はいはい」
八幡「左足も離します」
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4 : 2015/07/09(木) 17:17:31.78 -
陽乃「静ちゃんの婚期、討ち取ったりぃぃぃ!」
八幡「お見事。あんたこそ真の青春無双だな」 -
5 : 2015/07/09(木) 17:17:59.80 -
陽乃「はぁ~い」八幡「で、参考書の話ですけど……」
切り替え早いわね。
でも、ちょっと顔が赤くなってるから、それで許してあげよっかな。
うん、雪乃ちゃんのお姉さんだしね。
陽乃「うん、それで?」
八幡「雪ノ下から聞いたのですが、陽乃さん、
俺がわかりやすいようにと参考書に結構な量の書き込みをしているとか」
陽乃「ええ、そうよ。比企谷君が苦手そうなところを重点的に書いているわ。
一応比企谷君の家庭教師だし」
八幡「それは大変ありがたい事なのですが、書き込みがあるとはいえ、
俺が同じ参考書を買う必要があるんですか?
できればその参考書を頂いた方が予習も復習もしやすい、かと」
陽乃「それだけ?」
ほら、目をそらさない。
他に理由がありますって白状しているものよ。
八幡「ほら、俺って庶民の出ですし、参考書代もばかにならないんですよ。
それに同じ参考書が二冊もあっても無駄じゃないですか。
お布施をするんならラノベ作家にすべきです」
陽乃「お布施云々は別にして、比企谷君にお金がないっていうのは理解しているわ。
だって、このカフェに入るのも最初躊躇したものね」
八幡「普段なら入っていましたよ。
でも、参考書にかかるお金って馬鹿にならないじゃないですか。
だから今日は財布の中身が真冬だったんですよ」
陽乃「だからか。私が奢ってあげるって言ってあげたら、
ヒモの鏡みたいな顔をして店内に入っていったものね」
八幡「そんな顔していません」
陽乃「してたわよ」
八幡「養われる気はありますけど、寄生する気はありませんからっ」
陽乃「同じようなものじゃない……。じゃあ、私に養われてみる?」
八幡「陽乃さんに?」
陽乃「ええ、私。こう見えてもけっこうどころか極上物件だとは思うわよ」
八幡「それは否定しませんよ。…………でもほら、両親と同居ですよね?」
また目をそらしたか。
……まっ、いいわ。
陽乃「同居だけど、両親とはほとんど顔をあわせないわよ。
平日は二人とも夜中まで帰ってこないし、朝も早いわ。
それに休日もいろいろと出ている事が多いわね。
だから、基本的には誰もいないってところかしら」
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6 : 2015/07/09(木) 17:19:30.71 -
八幡「ということは、あの馬鹿でかい家にいつも陽乃さん一人ってことですか?」
陽乃「そういうことになるわね。
でも昼間はハウスキーパーが家事をしているし、完全に一人ってわけではないわよ?
…………なによ? 睨んじゃって」
八幡「身内は誰もいないでしょって事ですよ」
わかってるわよ。
優しすぎるんだから。
ほんと、雪乃ちゃんにはもったいなすぎるわね。
陽乃「家族なんてそんなものよ。比企谷君の家もそんな感じでしょ?」
八幡「両親はそうですけど、それでも休日は平日の睡眠時間を取り戻すべく寝ていますよ。
それに平日は小町もいますし」
陽乃「私をかわいそうだと思っているの?」
八幡「いえ、同情とか、そういう気持ではないですよ。
ただ、雪ノ下ともっとうまくやれていたんじゃないかって思えて。
もう少し早く和解できていたんじゃないかと」
陽乃「どうかしら?
時間が解決してくれるなんて甘っちょろい幻想は持ってはいないけど、
時間をかけなければ解決できいないこともあるわ」
八幡「……そうですね」
雪乃ちゃん思いで、こっちが妬けちゃうわ。
彼が私に特別な感情を抱いてはいないって、わかっている。
よくて雪乃ちゃんの姉ね。
私から見ても、彼が雪乃ちゃんに特別な感情を抱いている事がよくわかる。
それに、雪乃ちゃんのほうもまんざらでもないみたいだし。
ガハマちゃんも同じように彼の事を思ってはいるみたいだけど、
ここは雪乃ちゃんリードってところかな。
彼からは身贔屓だっていわれそうだけど。
まあね、私は彼が特別な感情を抱いている雪乃ちゃんの姉っていうポジションがなければ、
こうして今日みたいに彼を連れ回すことなんてできやしないって理解しているわ。
陽乃「さてと、参考書だっけ?」
八幡「はい」
陽乃「じゃあ、今度私の部屋にとりにきなさい」
八幡「陽乃さんの部屋にですか?」
陽乃「ええ、そうよ」
八幡「陽乃さんが持ってきてくれるものかと」
陽乃「参考書、欲しいのよね?」
八幡「……はい」
陽乃「お願いする立場なら、取りに来るのが当然よね?」
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7 : 2015/07/09(木) 17:20:35.91 -
八幡「…………はい、今度お伺いします」
陽乃「よろしい」
うん、その苦味がある笑顔、最高ね。
かわいくって、抱きしめたくなっちゃう。
赤いスポーツカーが千葉駅そばの駐車場から出て、幕張方面へと進んでいく。
大きな国道に入り、いつものように道路工事が行われていた。
これでもだいぶ工事が進んだようで、いくつか完成した部分も見受けられる。
しかし、こう何年も工事を続けられてしまうと、一生工事が続くとさえ思えてしまし、
あながち冗談ではないとさえ思えてくる。
道だって使えば舗装が痛むし、何年も使っていれば再工事が必要になる。
だから、当初の予定の工事が終わったとしても、今度は修繕の為の工事が必要になるわけよね。
まっ、私が心配する事ではないか。
赤いスポーツカーというとイタリアの某高級車を思い浮かべる人が多いけど
、私のはアメリカのそこそこお高いスポーツカーである。
これでも1000万を超えるから高級車にはかわりがないけど。
先日納車したばかりの車で、比企谷君をのせるのは今日が初めてでもある。
今までは家にある世界売上首位を争う国産高級セダンだったわけだけど、
こうして私専用の車を手に入れたのにはわけがある。
わけといっても、私が初めて両親に我儘をいっただけだけど。
比企谷君は勘違いしているみたいだが、私は両親に忠実だ。
こればっかりは雪乃ちゃんのほうが我儘だといっても過言ではない。
案外好き勝手生きているし、あの母にもはむかったりしてもいる。
けど私は、一度もはむかったりしたことはなかった。
色々理由をつけて私好みに変更してもらう事はあるが、
その変更も母の意向にそったものを逸脱しない。
私はいつだって母の言いなりだった。
八幡「この車ってZ06ですよね?」
陽乃「意外ね。比企谷君って車は乗れれば何でもいいと思っていたわ。車好きなの?」
八幡「別に嫌いではないですよ。ただ買う事が出来ない車を見たって意味がないと
思っているだけです。
俺が将来買えるとしても、そこらじゅうを走りまくっている大衆車が精々ですよ」
陽乃「なるほど。でも、そんなリアリストの比企谷君は、
なんで買えもしないこの車の事を知っていたのかな?」
八幡「この前家で勉強見てもらった時、カタログ見ていましたよね?」
陽乃「なるほど、盲点だったわ」
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8 : 2015/07/09(木) 17:21:16.05 -
別に車を買ってもらえる事になって浮かれていたわけでもないんだけどな。
ただ比企谷君が問題解いている間ちょっと暇だったから、
鞄に入っていたカタログを見ていただけだし。
でも、比企谷君って人をよく観察しているわね。
ほんと、侮れないくらいに。
八幡「すみません」
陽乃「別に謝らなくてもいいわ。怒ってないし、隠してもいなかったわけだし」
八幡「でも、今日いきなりこの車で来た時には驚きましたよ。
俺の前に止まったし、最初平塚先生の車かと思いましたけど、
でも色も車種も違うから戸惑いましたよ」
陽乃「ようやく納車して、早く比企谷君に見せびらかしてやろうと思ってね」
八幡「庶民を虐めないでくださいよ」
陽乃「こうしてのせてあげているじゃない」
八幡「たしかに」
陽乃「でしょ? ……しずかちゃんの車もスポーツタイプだったわね」
八幡「お二人ともこういうの趣味なんですか?」
陽乃「しずかちゃんの理由のほぼ全てはそうかもしれないわね」
八幡「ほぼ全てって事は、他の理由もあるわけですよね?」
陽乃「よく聞いているわね」
八幡「ありがとうございます」
陽乃「誉めてはいないから。いや誉めているのかな?」
比企谷君と話をしていると楽しい。
充実しているってわかるし、私を恐れたり、尊敬したりしない。
雪乃ちゃんの姉として見てくれているだけど、それでも雪ノ下陽乃として見てくれていて、
私を否定しない。
いつもニュートラルに、そして警戒心を忘れずに、私をしっかりと見てくれている。
陽乃「まあいっか。で、ね。しずかちゃんのもう一つの理由っていうのが…………」
八幡「笑ってないで前見て運転してくださいよ」
陽乃「ごめんごめん。……ほんっとごめん。安全運転だよね」
でも、いつのもように渋滞しているし、車動いてはいないんだけど、
比企谷君をのせて事故になんてあわせたら雪乃ちゃんにいくら謝っても
許してもらえなくなるから油断大敵かな。
八幡「お願いしますよ」
陽乃「はいはい。……で、しずかちゃんの理由っていうのはね、男にもてたいから、なのよ」
八幡「はいっ?」
陽乃「いい顔しているわ。そういう顔を見たくて教えてあげたのよ。
ほんと、教えたかいがあったわ」
八幡「嫌な性格していますね」
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9 : 2015/07/09(木) 17:22:16.47 -
陽乃「うん、誉め言葉ことして受け取っておくわ」
八幡「それでいいですよ」
陽乃「こんな車乗っていても、もてやしないのにね。
でも趣味でもあるわけだし、それでも、ほんのちょっとだけ下心もあるってわけ。
あわよくばってかんじかしら?」
八幡「たしかにかっこいいとは思いましたよ」
陽乃「まあそんなかんじよね。でも、それど止まりよね。
……なんか趣味を通して男を車に連れ込もうと考えていたみたいよ」
八幡「その発想はありませんでした」
陽乃「だよね。今までも男に車の話をして食いつきはしてきたみたいだけど、
車に連れ込めたことはないみたいよ」
八幡「でしょうね」
陽乃「たいていはしずかちゃんが熱く車の事を語っちゃって、男がドン引きしちゃうみたいよ」
八幡「想像したくないけど想像できてしまいます」
陽乃「運よく車に連れ込めたとしても、さらに運が良くて意気投合できたとしても、
同じ趣味を持つ趣味友達っていうせんが精々かしらね。
趣味友達が恋人に発展しないわけではないとは思うけど、
しずかちゃんのことだから無理そうね」
八幡「ご愁傷様です」
陽乃「今度しずかちゃんに会ったら、
比企谷君がご愁傷様ですって言ってたって伝えておくね」
八幡「やめてくださいっ。俺を殺すつもりですか?
俺が責任とって平塚先生と結婚しないといけないんですか?」
陽乃「そこまでは思ってはいないけど……」
八幡「すみません。取り乱しました」
陽乃「いや……、いいのよ」
この子ったら、しずかちゃんのことをどう見ているのかしら?
案外比企谷君としずかちゃんって趣味があうのかもしれないわね。
そうなると、趣味友達からの恋人……。
あながち間違いではないのかな?
でも、そうなるとなぁ~。
私がしずかちゃんの事を考えている間、助手席の比企谷君も静かであった。
本気で嫌がっているのかしら?
というよりも、しずかちゃん。
生徒にも手を出そうとしているの?
たしかにしずかちゃんと仲がいい生徒っていうと比企谷君が一番最初に思い浮かぶし、
実際しずかちゃんと話をしていると話題に上がるのは比企谷君よね。
……となると、しずかちゃん、本気?
八幡「あの……」
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10 : 2015/07/09(木) 17:22:58.27 -
陽乃「なにかな?」
八幡「陽乃さんも、平塚先生みたいにこういうタイプの車が趣味だったりするんですか?」
あら? お優しいこと。
それとも、私ったらちょっと顔をしかめでもしていたかな?
ん~、しずかちゃんったらちょっとばかし結婚の話だけは本気すぎるのよね。最近笑い話にさえできないし。
まっ、いっか。
しずかちゃんが本当に比企谷君がお気に入りならば、
あとは比企谷君に任せちゃえばいい事だしね。
陽乃「ん、私? ぜんっぜん車には興味はないわ。
別にスポーツタイプの車に乗りたかったわけでもないし、
げんに今まで乗っていたのは家にあったセダンよ」
八幡「そうだったんですか?」
陽乃「あっ、そうか。私が運転しているところ見るの初めてだっけ?」
八幡「ええ、まあ。いつもは運転手付きの車に乗って来ていましたから」
陽乃「たしかに出かけるときはのせていってもらうわね。
でも、たまには気分転換したいじゃない?
そういうときは家にある車を勝手にのさせてもらっているわ。
それに、母がとりあえず買っただけの車を放置しておくのももったいないしね」
八幡「どういう意味ですか?」
陽乃「えっと、24時間運転手がうちに待機してもらえるわけでもないでしょ?
だからもし急用があった時には父が自分で運転して出かけられるようにと用意したのよ。
でも実際そういう急用なんてないから、事実上私の車って事になっていたわね」
八幡「まあ、準備をしておく事は間違ってはいませんよ」
陽乃「そうかしら? 乗りもしないのに、ただ高いだけの車をよ?
維持費もかかるし、買った時の費用だって馬鹿にならないわよ?」
八幡「まあ、そうですけど」
陽乃「なにかしら? 何か不満があるっている顔をしているわよ?」
八幡「気のせいです」
陽乃「だったら、私のこの車はなんだって言いたいのかしら?」
八幡「人の心を勝手に読まないでください」
陽乃「読みやすい方が悪いのよ」
八幡「そですか……」
あっ、拗ねちゃって。
ちょっと傷ついたっていう顔しているわね。
そういう顔をしてくれるから可愛がってしまうのよね。
雪乃ちゃんなんて私の顔さえまっすぐ見てくれなかったのに。
表面ばっかり見ちゃって、ほんと…………。
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11 : 2015/07/09(木) 17:23:58.16 -
八幡「それで、どうしてこの車を買ったんですか?」
陽乃「打たれ強いわね」
八幡「誰かさんのせいで鍛えられていますから」
陽乃「その人に感謝しておきなさい」
八幡「…………」
陽乃「今、すっごく嫌そうな顔しなかった?」
八幡「い、いえ。雪乃下によく腐っている目をしているって言われてもいますし、
普通とは少々表情の表現方法がちがうといいますか、なんですか。個性ですっ」
陽乃「…………そういうことにしてあげるわ」
八幡「ありがとうございます」
陽乃「さてと、この車を買った理由だっけ?」
八幡「ええ。なんでこんなに派手な車を買ったか気になったので。
……しかも車には興味ないんですよね?」
陽乃「うん、車には興味ないわ。移動手段だし、
それなりに乗り心地が良ければ問題ないわね。
でも、この車も乗り始めたらそれなりには愛着はあるわよ」
八幡「でもそれって、この車を手に入れてからの理由であって、
買う前の理由ではない、ですよね?」
陽乃「母への反抗かな……。こんなに派手な車。どう見ても母が嫌いそうでしょ?」
八幡「でしょうね」
陽乃「比企谷君だったら、どんな車にする? ……あぁ、母が嫌いそうな車限定で。
あと、実際母が買う許可をくれる車でお願いね」
八幡「何度か会っただけですから、想像からの判断でもいいのでしたら」
陽乃「もちろんっ」
八幡「でしたら、ブリウズですかね?」
陽乃「無難な車ね。別に母が嫌がるとは思えないのだけど? まあ、平凡な車ではあるか」
八幡「平凡だからこそ選んだんですよ。なんたって見た目パッとしないザ・大衆車ですよ」
陽乃「なるほど。母のプライドが許さない、か」
八幡「ええ、まあ。そんな感じです」
陽乃「だったら、母が買う許可をしてくれないのではないかしら?
一応この車を買う時も最初は却下されたわ。色々ごねて、ようやく買えたのよ。
とりあえず価格面だけは満足してくれたから買えたけどね」
八幡「いくらしたんですか?」
陽乃「聞きたい?」
八幡「いや、やめておきます」
陽乃「そう言うと思ったわ。では、ブリウズを母が許可する理由を聞こうかな」
八幡「たぶんブリウズは許可されないでしょうね」
陽乃「じゃあ、だめじゃない。私の設問聞いていたのかしら?」
意外ね。
……比企谷君が設問の条件を忘れるだなんて。
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12 : 2015/07/09(木) 17:24:49.82 -
ちょっと買い被りすぎだったのかしら?八幡「聞いていましたよ。……って、睨まないでください。
というよりも、運転中ですので前を見ていてください」
陽乃「わかったわよ」
やっぱり比企谷君か。
こうでなきゃいけないわ。
だからこそ可愛いがっちゃうのよね。
八幡「最初に無理な提案をして、
あとに要求をのみやすい提案をするっていう常とう手段ですよ」
陽乃「なるほど。で、本命の車は?」
八幡「ブリウズのワンランク下のアグアにします」
陽乃「それだったら、ますます駄目なんじゃないかしら?」
八幡「いえ、アグアは一回り小さいですし、
ちょこっと街中を運転するには使いやすいと思うんですよ。
駐車場とかもいれやすいですよ。
それに、陽乃さん達は普段は運転手付きの車をのっていますよね。
だからこそ運転しやすい車にすべきです」
陽乃「なるほど。でも、それだけじゃ決め手に欠けるわね」
八幡「だったら、運転が下手だってことも伝えますよ。
普段運転していませんから、それほど運転がうまいとはいえないでしょうし」
陽乃「まあ、そうね……」
それって私の運転に不安があるってことかしら?
今も助手席にのってはくれているけど、ほんとうは乗りたくない、とか?
八幡「陽乃さんの運転技術は疑っていませんよ。
ほら……、今も快適にのさせてもらっていますし」
よく見ているわね。また私ったら、しかめっ面だったのかしら?
陽乃「とってつけたようにフォローされても」
八幡「すみません」
陽乃「まあ、いいわ。
罰として、私の運転がうまくなるまで助手席にのってもらうわよ」
八幡「だったらもう乗らなくてもいいですね。十分うまいですから」
陽乃「あっ、私が満足するレベルってことでお願いね」
八幡「それって達成するんですか?」
陽乃「どうかしらね?」
八幡「はぁ……、もういいです。
先ほどの理由の続きですけど、車って高いじゃないですか。
だから値段が安ければぶつけても諦めがつくかなと。
もちろん他の人に迷惑をかけないという条件が前提ですが」
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13 : 2015/07/09(木) 17:26:24.68 -
陽乃「その辺の条件は別にいいわよ。
高級車であっても人にぶつけていいわけではないし」
八幡「はい。
……それと、高級車をぶつけると、
車のへこみいじょうに精選的にへこみそうじゃないですか。
庶民的感覚で悪いですけど」
陽乃「面白いわね」
八幡「そうですか?」
陽乃「だって、父と同じ事を言っているわよ」
八幡「はい?」
陽乃「だから、父の車ってアグアなのよ。
めったに乗らないのに、プライベート用にって買ったの。
その時の理由が今比企谷君が言った理由そのものなの」
八幡「でもさっき緊急用の車があるって?」
陽乃「それは仕事用よ。
いくらなんでも父ぐらいの立場の人間が、
しかも急用のときにアグアってわけにはいかないでしょう?」
八幡「たしかに……」
陽乃「だから、父がプライベートで乗るときはアグアなの。
……これはもしかしたら比企谷君は笑っちゃうかもしれないけど、
母は文句も言わずにニコニコしながら
その車の助手席に乗っているわ」
八幡「えっ……」
やっぱり絶句している。
予想通りだけど、その顔が見たかったのよね。
陽乃「まっ、母も女って事だったのよ」
八幡「そうですか」
陽乃「比企谷君が免許を取ったら、
練習がてらこの車を使わせてあげるわね。
色々な車に乗ったほうがいい勉強になるでしょうし」
八幡「いやいやいやいや、無理ですって。
心臓に悪すぎですよ、こんな高級車」
陽乃「そう? 別にぶつけてもいいわよ」
八幡「辞退させていただきます」
陽乃「本当にぶつけても文句言わないわよ?」
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14 : 2015/07/09(木) 17:27:29.37 -
八幡「ぶつけるぶつけないじゃないんですよ。
免許取りたての練習だったらなおさらです。
父親に免許をとっても半年は大切な人をのせて運転するなって
言われているんですよ。
免許取りたてのペーペーが一番事故る可能性が高いっていうのに、
それなのに大切な人を助手席に乗せるなんて無責任ですよ。
だから俺は陽乃さんを半年はのせません」
あっ…………。
八幡「俺、なんか変な事いいましたか?」
陽乃「ううん、別に何も言っていないわ」
八幡「そうですか?」
私はもう何も言わずにまっすぐ前だけを見て運転を続ける。
しばらくは比企谷君をいじるのは無理ね。
……だってね。だって、大切な人って。
そっか、大切なのか。
大切に思ってくれていたんだ。
『陽乃無双~雪ノ下陽乃誕生日記念』 後編に続く
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15 : 2015/07/09(木) 17:32:36.51 -
『陽乃無双~雪ノ下陽乃誕生日記念』前編 あとがき
更新日時を確認すると誕生日当日ではないんですよね。
しかも前編・後編にわかれてしまって、ほんと申し訳ありません。
次週で完結しますので、それでご勘弁ください。
今週(7/9)と来週(7/16)の
『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない』
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401353149/
は休載いたします。
その代わりとして、2週にわたって
雪ノ下陽乃誕生日記念『陽乃無双』を掲載し、
その後本編を再開させます。
事前告知もなく当日発表で大変申し訳ありませんでした。
来週も、木曜日、いつもの時間帯にアップできると思いますので
また読んでくださると大変嬉しく思います。
更新予定
7月16日 陽乃無双~雪ノ下陽乃誕生日記念 後編
7月23日 やはり雪ノ下雪乃にはかなわない 再開
黒猫 with かずさ派
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