-
1 : 2015/06/23(火) 01:02:31.14 -
前スレ
やはり俺では青春学園ドラマは成立しない – SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412099162/)◆あらすじ
八幡性格改変もの
原作の八幡の性格を『孤独を愛する捻くれ者』だとすれば、今作の八幡の性格は『孤高を求める破壊者』
他人に対し一切の感情、情欲を抱くことはなく、ただ『透明』になることだけを望む
表向き平塚先生から命じられた奉仕部活動に従いながら、裏では平塚先生と雪乃に『八幡がいることで奉仕部に不利益が生じる』という意識を抱かせ、八幡の人格改善を諦めさせることを目論んでいる
そのために結衣や葉山といった周囲の人間を躊躇いなく利用する。結果、結衣は雪乃との友情を見失い、葉山は人間関係に不信を抱くようになった
そして雪乃も————八幡によって自らの生き方を大きく揺さぶられていた◆注意事項
・亀進行
・キャラ崩壊
・この作品はアニメと「俺ガイル原作設定ピックアップ(pixiv)」を参考に書かれている
・>>1キャラは痛いSSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434988941
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434988941/
-
2 : 2015/06/23(火) 01:02:59.60 -
その後、連絡先の交換と『陽乃』呼びを強制されたりして、ようやくあの女から解放される。
最初『陽乃先輩』って言ったらもの凄い迫力で圧されたので、『陽乃さん』呼びで納得してくれた。『はるのん』はさすがに拒否した。
家に帰ってご飯や風呂といった生活習慣を済ませ、部屋に籠る。小町はリビングで両親を待ちながら受験勉強をしている。
ベットに寝転がってスマホを弄りながらストレスを解消する。——————だが十時過ぎにあの女からのLINEが届く。
『今度の日曜日 駅前朝八時に集合ね☆
もし逃げたりしたら、君の家に行くから★』
ハァ……………………。面倒臭くてうざくて鬱陶しくて体を掻き毟りたくなる。無意識にスマホを握る手に力が入る。
いつも小町にする以上に素っ気ない返信をする。
『はい』
ちなみにこれが小町相手だったら『りょーかい』とかになる。え? 大差無い?
『いやそれだけだと、家に来てもいいっていう意味にも取れるから』
『絶対に約束忘れないでね!!』
分かってるから確認してくんな。まったく、嫌いな相手とのやり取りはこんな些細なものでも苛ついてしまう。
暴力的な言葉を使う前にこのやり取りを終わらせてしまおう。
『おやすみなさい』
それだけ送って携帯の電源を切る。布団の中で、次会った時どんなことをされるのか、そしてどんな対応をしてやるか頭を巡らせた。
-
3 : 2015/06/23(火) 01:03:29.37 -
# # #
カフェで一人残った陽乃は、先に帰った八幡について感慨に耽っていた。
陽乃「ほぼ初対面の私をあそこまで毛嫌いするなんてね。————まあ、予想通りだけど」
陽乃は八幡の人格を理解している。
精神的な引きこもり。外界からの刺激に対し感情を遮断し、常に無感動であろうとする。それが比企谷八幡という人間だ。
さっきみたく彼の内情に踏み込もうとしても、彼はなんとしてでも拒絶してくると陽乃は分かっていた。
雪乃とは本についてよく雑談すると言うし、逃走先に本屋を選んでいる始末だ。本当に八幡は本やマンガが大好きなんだろう。それをとっかかりにすれば八幡は陽乃のことを拒絶し切れなかったはず。
しかし八幡のことを理解しているはずなのに、陽乃は八幡の心を捉えようとしなかった。その理由は——————
陽乃「なんだかかわいく思えてきちゃったな……。私を拒絶できると思っているところが」
一度目の人違いの振り、二度目の名前を忘れる行為。これらの八幡の無碍な対応が、むしろ陽乃の対抗心に火を点ける。
八幡は、陽乃の新しい玩具として完全に狙いを定められてしまった。
-
4 : 2015/06/23(火) 01:04:03.04 -
————生まれた時から今に至るまで、陽乃は無視されるということを一度として経験していない。
両親も周囲の人間も妹も、皆が陽乃に注目していた。彼女の美貌と才能とカリスマ性が人の視線に晒されないことはない。
だから陽乃にとって、八幡の冷ややかな態度は初めての経験だった。
好かれることがほとんどだった。嫌われることも少ないながらあった。けれど…………興味を抱こうとしない人間は比企谷八幡以外、誰一人としていなかった。
それほどの異端を、奇跡を、凡百と同じように自分の思い通りになるよう支配する? 奉仕部の目的である真人間化に協力する?
そんなもったいないことできるわけがない。
八幡の人格は改善しない。気が済むまで虐め尽くす。————陽乃は決心を固めた。
陽乃「まず何をしようかな……? 比企谷くんが一番嫌がりそうなことは————遊び好きなタイプの女の子で囲って逃げ場を無くすことかな。だけど邪魔が入るのは嫌だなあ……。最初だし二人っきりでデートしてあげよっか。彼を捕まえておくくらい、他人を使わなくても私一人で十分ね」
陽乃は僅かに残ったコーヒーを喉に流し込み、伝票を手に取って、自分と八幡の注文を清算する。その内心、陽乃は八幡を賞賛していた。
今回の食事、次回のデート、どちらも陽乃からの誘いだ。まさかあの雪ノ下陽乃がここまで他人に『奉仕』することになると、誰が予想できただろうか。
雪ノ下陽乃は比企谷八幡を特別だと思っている。もしかすれば、好意すら抱いているのかもしれない。
————————だけどもたった一つだけ、陽乃は八幡について誤解していた。
陽乃は誰よりも比企谷八幡の精神を理解している。恐らく、本人である八幡以上に。いくら八幡が嘘や秘密をしようと、それを見抜く自負が陽乃にはある。
だから陽乃は八幡を玩具扱いしている。何があろうと八幡を扱い切れる自身があるから。
陽乃は気付いていなかった。————玩具は扱い方を少し間違うだけで、凶器になってしまうことに。
-
5 : 2015/06/23(火) 01:04:37.80 -
そして約束の日曜日、陽乃は早くも後悔していた。
陽乃「………………ねぇ、その服何なの?」
八幡「………………えっと、ダサいっすか?」
陽乃「 死 ぬ ほ ど ダ サ い ! 」
思わず『仮面』が剥がれそうになるくらい怒った。いくらなんでもこれはない。色褪せたジーパンにヨレヨレの白いシャツ、そしてまさかの白のジャージ。シャツとジャージにプリントがあろうと、フォローになるはずがない。他にも柄の濃い靴下、履き潰したスニーカー、明らかに整髪剤の使われていない髪。
例えるなら…………部屋着のままコンビニに行くオタク。
これじゃあ精一杯着飾ってきた陽乃の方が恥ずかしい。
陽乃「とりあえずさあ、比企谷くん。お金持ってる?」
八幡「六千円くらいあr——」
陽乃「うん分かってた。お金出してあげるから君の服を買おう。拒否権ないから。あといきなり怒らせた罰として、今日は今後一切口答え禁止ね」
八幡「……了解」
大して悪びれもしない返事を返す八幡。当然だ、彼はわざと着飾っていないのだから。
当日に何をするか、陽乃の他に人が来るのか、そもそも八幡は予定の詳細を聞いていなかった。八幡はそこにつけこみ、デートかどうか未確定なことをいいことに地味めの服の選び方をした。
もちろんやろうと思えばそれなりの着飾り方をできたはずなのに、嫌いな相手との約束でわざわざ服を選んだり、小町に相談したりするのは八幡からすれば面倒でしかない。
八幡からすれば、陽乃を喜ばせることに得を見出せない。だから陽乃の容姿を褒めることもしなかった。
-
6 : 2015/06/23(火) 01:05:19.66 -
いきなり陽乃の出鼻はくじかれ、予定では人が多くいる女物の服屋に行くはずが、男物の服屋に行くことになってしまった。
陽乃「買ってあげる服は貸しだから、今度別の形で私に返してね」
八幡「はい」
陽乃「……………………」
棒の返事に陽乃はごく小さなため息を吐く。
八幡を虐めるに当たって少なからず抵抗されることは予想していたが、引きこもりの面倒を見ることがこれ程苦痛だと思ってもいなかった。
まあ陽乃の母親や社交界で会う重鎮の相手に比べたら、こちらの相手は幾分マシだ。それにここで逃げでもしたら、学校で毎日八幡の相手ができている雪乃に舐められてしまう。
陽乃は気を引き締めなおして、笑顔の『仮面』を顔に貼り付ける。
陽乃「比企谷くん。今日は一応デートってことになってるからさ、わざとムード壊すようなことしないでね」
八幡「デートだったんですか。なら前もって言っといてくださいよ。なら————」
陽乃「もしデートだって言ってたら、比企谷くんはなんとしても予定を作ってきてただろうね」
八幡「そんなことするわけないじゃないですか」
陽乃「だからさ。私に君の嘘は通用しないんだよ」
陽乃は体ごと顔を近づけ、八幡を圧迫する。そうすると八幡は小動物みたく怯えて目を逸らす。
ほら。とばかりに陽乃は気分を良くしてさらに顔を近づける。八幡は体を後ろにずり下げる。
他人を進んで拒絶する八幡と進んで干渉する陽乃とでは、相性は最悪。その上人心掌握術や人脈といった使える武器は陽乃の方が多い。八幡の嘘やノリの悪い態度も陽乃に通用しない。
これから時間を共有することでさらに陽乃は八幡について把握し、終いには些細な抵抗すらできなくなってしまうだろう。
どうあがいたところで八幡は陽乃の言いなりになるしかない。
# # #
-
7 : 2015/06/23(火) 01:05:57.82 - 今回はここまでです
-
9 : 2015/06/23(火) 02:22:20.30 -
ここの八幡の呼び名を探していたら、
「神八幡」
[副]《八幡神にかけて偽りない意から》絶対に。神かけて。誓って。という言葉を見つけたので、これからはここの八幡を「神八幡」と呼んであげてください
なんせここの神八幡は、絶対に自爆することがありませんから(周りに爆弾を投げ入れます)
-
10 : 2015/06/23(火) 02:23:13.78 -
今回はここまで。神八幡ひどいな!
でもようやく、神八幡のひどさが浮き上がってきた感じです
今更言いますけど、性格改変によって入学式の交通事故にも変化が起きています
どうしてサブレだけではなくガハマちゃんまで助けたことになってるかは、後々語られます神八幡がガハマちゃんのことを知らないのは、単純に「同じクラスになって時間が経っていないから」
そして何より「1年前に助けた相手なんて覚える価値すらないから」です……うん。ヤバイ
これから依頼を通して、ガハマちゃんの理想は滅多打ちされていきます
ぶっちゃけガハマちゃんは神八幡に惚れないでしょうけど、その方が被害が少ないのでよっぽど幸せです
-
11 : 2015/06/23(火) 02:23:50.54 -
神八幡は他人にも興味ありませんが、自分にも興味を持っていません
自分にしろ他人にしろ、誰がどうなっても構わないけれど、善悪の価値基準だけははっきりしています。
相手が間違っている時に限り文句は言います神八幡に一番近い性格をしているのが、西尾維新の「戯言遣い」だと思ってください
雪ノ下だろうがガハマちゃんだろうが平塚先生だろうが小町ちゃんだろうが戸塚だろうが、
これまでもこれからも、「好きが零で嫌いが零」です神八幡は誰かを好きになることがないので、ヒロインかどうかは「神八幡のことが好きかどうか」で決まります
異性として好きじゃなくても友人として好きになればいいので、ガハマちゃんがヒロインになる可能性はまだあります -
12 : 2015/06/23(火) 02:24:16.70 -
私も「神八幡」は痛いとは思っていますが、それ以上に思い当たる呼び名がないので
これからも使っていくつもりです別に無理強いまでしませんし、他の呼び名が思いつけばそっちに乗りかえて構いません
-
20 : 2015/06/23(火) 16:43:59.04 ID:Emx1mnPL0 -
まとめサイトで読んでからスレ探してやっと見つけた。
普通に内容面白いからがんばってください。 -
21 : 2015/06/23(火) 16:54:29.47 -
>>20
応援ありがとうございます!これからも頑張っていきます!
-
27 : 2015/06/26(金) 01:19:18.57 -
埋めネタ書いてきます
あと、別に>>1対して何を書こうが構わないんですが、周りが見て不快に思ったりあぼーんされるようなレスは今後止めてください
迷惑です
-
31 : 2015/06/26(金) 04:50:06.60 -
こんな↓風な展開なら期待できたのに、自意識過剰な作者の所為ですっかりネタになったな
八幡「真のぼっち」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1434860990/ -
38 : 2015/06/26(金) 23:44:20.60 -
前スレが埋まったので、埋めネタはここで投下します
ただ投下はいつになるか分かりません
-
49 : 2015/07/03(金) 00:33:58.24 -
デート(らしきもの)が始まって早々、俺の服を買い換えることになった。笑顔で取り繕っているがどう見ても陽乃さんは怒っている。やっぱり白シャツに白ジャージはやり過ぎたか……? しかし反省はするが後悔はしない。
俺の服選びは早急に終わる。少し大きめのメンズショップに入り、パッパッパッと選んで俺に着せて、店員に言って値札を取ってもらいそのまま清算。三十分もかからなかった。
店を出て少し歩く。元々多かった周囲の視線が体感二割り増ししている気がする。服変わっただけでカップルに見えるようになるんですかね?
突然、陽乃さんが俺の右手を握った。
陽乃「頭は諦めるしかないか。——それじゃあ改めて、デートを始めよっか。比企谷くん」
右手を包むぬるい感触に鳥肌が立つ。彼女が見せる愉しそうな笑顔が、この行為がわざとやっていることを痛感させる。さらに妙な方向に腕が引っ張られ、体が自然と陽乃さんのすぐ近くに引き寄せられてしまう。もしかしてこれが合気道ってやつか?
陽乃さんに近づいたことで彼女の匂いが香ってくる。濃いコロンの香りが体を熱くする。そして体と共に頭も熱くなって、またストレスが溜まる。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚————意識が不快な刺激に浸食されていく。このまま味覚まで支配されてしまうのか。この女ならディープキスをしてきてもおかしくないとさえ思えてきた。
腕を引かれて連れてこられ、辿り着いたのは映画館。
陽乃「一応聞いておくけど、比企谷くんは見たい映画ある?」
八幡「………………じゃあ、コレ」
相手をどれだけ嫌っていても、訊かれれば応える。とはいえ自分が真に見たい映画は絶対教えない。恋愛やホラーといった恋愛イベントが発展しそうなものを除いて、こんな機会でもないと見ないような作品を選ぶ。
-
50 : 2015/07/03(金) 00:34:37.23 -
俺が選んだのは、家族や友人同士の日常をえがいている洋画。テーマはおそらく人生。微塵も興味が沸かない作品。俺が指した作品を見て陽乃さんは、むうと頬を膨らませる。うざい。
陽乃「ねぇ。わざと無難な作品を選んでるでしょ」
いやだって俺が本当に見たい映画はアニメ映画ですし…………。
それにデートで見るべきかどうかという以前に、嫌いな相手に自分が素晴らしいと思っているものを教えたくない。
陽乃「まぁ比企谷くんが見たがってそうな映画は予想できるから聞かなくていっか。それじゃあこれ見よう」
陽乃さんが選んだ映画は高校生たちの青春模様をえがいている邦画。テーマはおそらく艱難辛苦。どちらかと言えば嫌いな部類の作品。
購入窓口に並びチケットを買い、ポップコーンやドリンクは買わずにシアタールームに入る。その間ずっと手を繋がれたまま。
席に座っても手を解放してくれない。さすがに我慢の限界だった。もはやデリカシーなんて気にしていられない。
八幡「あの、トイレ行っとかなくていいんですか?」
陽乃「————トイレ、行きたい?」
なんで聞き返すんですかねえ!
陽乃「じゃあ行ってもいい代わりに、携帯預からせて」
八幡「いやいやいや。さすがにそれはないです」
陽乃「えー、比企谷くんの場合トイレに行くフリして逃げそうだもん」
八幡「ありえませんって」
せいぜい逃げるかどうか考えるだけです。
もちろん逃げることは叶わず。その後映画を見て、色々な店を回って、他愛もない会話をする。その間ずっと手は握りっぱなしで、俺の心が休まる時間は一時もなかった。
-
51 : 2015/07/03(金) 00:35:21.63 -
——————頭の中で音が鳴っている。パキリ、パキリ、と“何か”が割れるような。
前回と同じ、外界からの過度な干渉に感情が湧く。そして今回の憤りは前回より何倍も深く、激しい。
けれど相手が悪いから、怒りを表に出しても無意味だからと自分で自分を落ち着かせて。しかも落ち着いた端から干渉されてまたストレスが押し寄せる。
数分かけて冷静になって————、また激昂して…………、また冷静になって————彼女が隣にいて、彼女が自分に触れてきて、彼女が笑いかけてくる限り、延々とそれは繰り返される。
そして、激昂する度に————パキリ、パキリと“何か”が割れるのだ。
割れているのが何なのか自分でも分からない。
ただ一つだけ分かることは————————もう平穏無事に終わる結末は訪れない。
-
52 : 2015/07/03(金) 00:35:53.04 -
奉仕部の机に両腕と顔をつけて呻き声を上げる俺に雪ノ下が気を遣う。
八幡「……………………あ゛————」
雪乃「随分疲れているけれど、大丈夫なの? 目がゾンビみたいになっているけど」
八幡「大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない」
陽乃さんと出会って約二週間が経った。日々彼女からの嫌がらせを受けて我慢は臨界点を超え、荒んだ気分が表に出るようになっていた。
………………あの女死なねえかな?
雪乃「昨日も姉さんに何かされたの?」
八幡「急にダーツバーに連れてかれた。懇切丁寧に密着してきてフォームを教えられて、周りが酒飲んでテンション上げ上げで騒ぐからとんでもなくうざかった。あいつら全員死なねえかな…………?」
雪乃「辛いのは分かるけど、その心の声は隠しなさい」
あれからほぼ毎日俺は陽乃さんに連れ回され、しかもその全てが俺の嫌いな人と人との距離感の近い場所だった。
例えば二回目に行った服屋は人が多い上店員が陽乃さんと顔見知りで、陽乃さんとの関係をこれでもかと邪推してきた。スポーツジムに行った時はバスケやバレーといった人数の少なくチームプレーの多い(そして上下運動が激しい)スポーツをさせられた。遊園地に行ったこともあるが、乗ったアトラクションで肩や手が触れ合わないことがなかった。
漫画喫茶や水族館といった静かな場所には連れて行ってもらえない。カラオケは二人だけはなく大人数を呼んで行われ、『ボーイフレンド』と紹介される始末である。
もちろん帰りは遅くなるが、既に小町も陽乃さんによって篭絡済みだ。むしろ小町は、俺にまともな人付き合いをさせようとする陽乃さんの存在を喜んで受け入れている。
その実態は俺への不快感100%の虐待だというのに。
そして寝る前に電話で数十分、日によって二時間以上も中身のないお喋りをさせられる。もはや寝不足とストレスで学校生活や授業も身に入らず、眠れば悪夢を見るようになっていた。
-
53 : 2015/07/03(金) 00:36:27.33 -
八幡「どうすりゃいいと思う……?」
雪乃「それは私に聞いているのかしら」
八幡「一応」
雪乃「そう…………。でも私にも姉さんのことはどうしようもないわ。姉さんが諦めるまで現状を耐え続けるか、…………いっそのこと開き直って楽しんでみたらどう?」
八幡「Mになれってか」
どちらもありえないことだと雪ノ下は思っているだろう。俺もそう思う。
やろうと思えば陽乃さんは俺を楽しませることだってできる。しかし彼女が俺を玩具として見ている限りそうなることはない。俺の我慢がどれだけ続くのか確認するために、ずっと俺を苦しめ続けるはずだ。
なら雪ノ下の言う通り、Mに目覚めてしまうのもありといえばありなんだが…………。そうなる前に爆発することは自分が一番よく分かっている。それに物理的に手を出しても相手は女な上、合気道か護身術かでいなされるだろうから、大してダメージを与えられないばかりか弱みを増やすだけである。
当たり前のように考えを読み、先手を打ち、逃げ道まで塞ぐ。肉体的にも精神的にも社会的にも、相手の方が数段勝っている。
まさしく八方塞がりだった。
雪乃「比企谷くんの場合、それしか対応策が無くなったら目覚めそうだから恐いわね…………」
八幡「ぶっちゃけ、こうして受け身の態度を取ってる時点でMだしな」
雪乃「自分から変態発言するのは止めてもらえないかしら。思わず通報しそうになるから」
八幡「あー、すまん」
雪乃「私は、比企谷くんが姉さんのことを好きになって、一緒にいる時間を楽しめるようになったらという意味で言ったのよ」
陽乃さんを好きになる………………それも、可能といえば可能だ。けれど——————
-
54 : 2015/07/03(金) 00:36:59.06 -
八幡「雪ノ下、それは違う。逆なんだ。俺は陽乃さんが嫌いで、嫌いな相手と関わってるから悩んでるんじゃない。俺が苦しむと分かって深く関わってくるから陽乃さんのことを心底嫌っているだけなんだ。陽乃さんが俺に深く関わってこなくなりさえすれば、他の全てはどうだっていい」
今回たまたま俺を虐めているのが、陽乃さんというだけ。だから相手が誰になろうと——小町でも、雪ノ下でも、海老名でも、戸塚でも、葉山であっても——問題は解決しない。
虐めが無くなるか。相手が居なくなるか。そのどちらかを望んでいる。
だから俺は…………自分が陽乃さんに虐められている事実すらどうでもいいと思っている。
雪乃「……やっぱりあなたは狂ってるわ。あなたは、姉さんのことを少しも恨んでいないのね」
八幡「正確には——少し恨んだとしても容易に忘れることができる、だな」
雪乃「比企谷くん、実はそれほど悩んでいないんじゃないの?」
八幡「いや悩んでるから。これ以上ないくらい苦しんでるから」
ただいくら悩んだところで、俺に打つ手がないことに変わりはない。
俺一人で陽乃さんに勝つことは不可能。他人を利用しようにも、人心掌握術も彼女の方が上なので利用し返されるのがオチだ。
効果がないと分かっていて巻き込むのはさすがに気が引けるからな…………。
八幡「————————————ん?」
巡る思考の中に、小さなとっかかりを覚えた。小さかったそれは様々な要素を取り込んで、うねるように形を変えて………………気づけば、巨大な謀略へと変貌していた。
————俺は気づいてしまった。
————決して気づいてはいけなかったことに、気がついてしまった。
-
55 : 2015/07/03(金) 00:37:28.19 -
相性が悪いから、能力が秀でているから、格上の相手だから…………彼女が自分以上の化け物だと勘違いしていた。
彼女の心が自分より強靭なものだと、勝手に思い込んでいた。
八幡「…………………………ははっ」
雪乃「————?」
俺ですら、他人に後ろめたい気持ちになるんだ。陽乃さんも人間である以上、少しでもそういう気持ちを抱くはずなんだ。
その感情があると分かれば————やりようはいくらでもある。
……気づいてみれば単純なことだったな。でもまあ仕方がない。心を読んでくるような人間が相手じゃあ、うかつなことを考えられなくなって、自分で思考を狭めてしまう。
さあて………………これから嫌ってほど他人を利用してやろうじゃねえか。
八幡「なあ——、雪ノ下」
雪乃「ひっ……!?」
雪ノ下に話しかけると、雪ノ下は怯えるように体を後ろにずらす。
気づけば無意識に歓喜の笑みを浮かべていた。雪ノ下が引いたのは、俺の笑顔を気持ち悪いと思ったからか。
無表情が崩れてしまったが、どうせ陽乃さんに心を読まれる。この先のことを考えれば今雪ノ下に怯えられようと大して結果は変わらないはずだ。
————俺は“手始めに”雪ノ下の不安を煽ると決めた。
八幡「このまま鬱憤が溜まって、でも陽乃さんに何の仕返しもできないなら————周りの奴らに八つ当たりするしかないんだが、もちろんそんなことは駄目だよな……?」
-
56 : 2015/07/03(金) 00:38:35.27 -
次回、VS雪ノ下陽乃クライマックス
今回はここまで
-
102 : 2015/07/15(水) 00:51:06.02 -
# # #
陽乃「八幡くん何かいいことあった?」
とある土曜日。八幡と陽乃の二人はボウリング場に来ている。
陽乃は小町とも親しくなっているので、八幡のことも名前で呼ぶようになっている。
八幡「え?」
陽乃「八幡くん、この前よりずっと楽しそうにしてるよ」
突然雰囲気が変わった八幡を陽乃は訝しむ。数日前の八幡の気力はもはやゼロに等しくて、あと少し追い詰めれば完全に陽乃に屈服していたはずなのに。しかし今の八幡は最初に陽乃が会った時と同じ……いやその時以上に、陽乃のことを意識していなかった。
今まで八幡の手を握れば彼の心に波が立っていた。そのかすかな動揺を陽乃は如何なく感じ取れていた。
……今日の八幡は数秒もすれば穏やかになっている。
急激すぎる変化に陽乃は驚いていた。けれど陽乃の動揺も『仮面』の下ですぐに立ち消え、彼女の頭は冷静に原因を探っていた。
八幡「——別に、何も。強いていうなら楽しみにしてたラノベの新刊が出たことくらいです」
陽乃「タイトルは? どんな内容か教えてよ」
八幡「『犬と魔法のファンタジー』っていう、ファンタジー世界なのに就職難に苦しむ大学生の話です」
陽乃「あ、それ『人類は衰退しました』の作者のやつだよね」
陽乃は会話の様子から、八幡が嘘をついて何かを隠していることを察する。さすがに何を隠しているかまでは分からないが、せいぜい一つか二つ、それも八幡自身は暴かれてもいいと思っているような小さな秘密であると分かる。
……しかし陽乃はそこに違和感を抱く。というより——嫌な予感を。
陽乃(八幡くんがその秘密をどうでもいいと思っているのは今までと変わらない。……だけど、隠している理由が前と違う)
今までの秘密——八幡が奉仕部で行ってきた所業や奉仕部を辞めたがっていること——は八幡自身のために隠していたことだ。
けれど今回はまるで…………隠し事を解き明かしてもらいたくて秘密にしているように感じ取れた。
-
103 : 2015/07/15(水) 00:51:39.20 -
八幡「………………『魔王』」
陽乃「へ?」
八幡「いや、何でもありません」
そう言って八幡は球をレーンに投げる。球はレーンの端から投げられ、真ん中に曲がらず端のピンを勢いよく倒した。
八幡は特に悔しそうな顔をしない。それどころか更に目を細めて、瞳に剣呑な光を纏わせていた。
その目はまるで陽乃の隙を探り、隙あらば喰ってかかる算段を考えているように見えた。
まあ——性格的に八幡が直接手を出すと陽乃は考えられなかった。あるとすれば陽乃から逃げ出すくらいだ。
陽乃「残念だったね」
八幡「そうですね」
陽乃「ボウリングもそうだけど。ほら、ボウリング場ってシューズを履き替えないといけないでしょ。出ていくにも靴を履き替えないとダメだから、うかつに逃げられないじゃない」
八幡「はい?」
陽乃「今日の比企谷くんは、私のことを迷惑がってないよね。それはどうして?」
どれだけ触れても、いくら問い質しても、八幡はずっと上の空だ。陽乃を見ているようで見ていない。
かといって陽乃を無視しているわけでもない。八幡は陽乃の行動に動揺するのは変わらない。
分からないのは————どうして八幡がその動揺に対処できるようになっているのか。
八幡「…………開き直ってるだけですよ」
これについては真実を言っているようだった。
結局このデートで最後まで八幡が何を隠しているのか語らなかった。
まるで深淵を思わせる彼の異質な雰囲気が、陽乃の追及の手を弱めさせた。
-
104 : 2015/07/15(水) 00:52:13.67 -
夜。いつもはこの時間、陽乃は八幡に電話をかけている。しかし陽乃はその前に、彼の変化の原因を探ることにした。
金曜の電話では、デートの予定の確認をしただけで余り話をしなかった。これは陽乃の慢心としか言えない。それ以前に直近で八幡の様子を観察できたのは木曜の夜のダーツバー。ということは、八幡の変化は金曜のうちにあったということになる。
陽乃は前の時とは逆に、雪乃から事情を聞き出していくことにする。————今度は、いきなり問題の本質に突き当たった。
陽乃「もしもーし。雪乃ちゃーん」
雪乃「……………………」
陽乃「雪乃ちゃん? あれっ?」
雪乃「……………………何かしら、姉さん」
陽乃「————何があったの?」
陽乃は戦慄とともに知る。
急激な変化は雪乃にも訪れていたことを————
陽乃が軽視し見過ごしていた違和感は、取り返しのつかないズレに変じていたことを————
陽乃「……雪乃ちゃん? 黙ってないで、何か言ってよ」
雪乃「……………………悪いのは全部、姉さんのせいじゃない」
陽乃「比企谷くんに何を吹き込まれたの。答えて雪乃ちゃん」
雪乃はその声に陽乃への怒りを纏わせている。今まで積もり積もらせてきた恨みがこの瞬間に爆発しているようだった。
-
105 : 2015/07/15(水) 00:53:18.94 -
正直に——雪乃は昨日八幡と何をしたのかを話した。
八幡が雪乃にしたこと、それは陽乃へのトラウマの共有だった。雪乃の陽乃に対する苦いエピソードを聞き出し、また八幡も陽乃とのエピソードを話した。
雪乃がどれだけ嫌な思いをさせられてきたのか、しつこいほど八幡は問い質してきたらしい。
幼稚園の頃、小学生の頃、中学生の頃、高校生の頃、家では、外では、パーティー等のイベントでは、エトセトラエトセトラ……。それぞれのエピソードを手練手管の質問で、時に自分のエピソードを先に話し、謂れのない嘘のエピソードを使うことで雪乃が抱えていた負の感情を顕わにした。
負の感情を目覚めさせられた雪乃は、明確に陽乃に敵対する態度を取っていた。これらのことを明かす雪乃の口調はいつにも増して刺々しく、陽乃の心に突き刺さる。
八幡は陽乃の今までの行いに付け込むことで、雪乃を『雪ノ下陽乃の敵』に仕立て上げた。
陽乃「…………どうして比企谷くんはそんなことをしたのか、雪乃ちゃんに心当たりはない?」
雪乃「いいえ。何も」
嘘をついた——。あの雪ノ下雪乃が。
それとも“あれ”が雪ノ下雪乃に嘘をつかせたのか。
電話を切った陽乃は、自らの体に怖気を走らせた。体を抱き、その恐怖を紛らわそうとする。
陽乃「…………何これ。私が追い詰められてるの?」
比企谷八幡は自らの領域を侵されるのを極端に恐れているだけ。人と肌が触れ合うだけで怯えるのに。彼を他人を遠ざけるだけの人間だと思っていたのに。
能力も人生経験も劣る相手を脅威に感じている今の自分の姿を陽乃は不甲斐ないと恥じ、そして大切な妹を歪ませられたことに————とびきりの怒りを湧かせた。
陽乃は八幡に電話をかける。…………予想通り八幡は電話に出ない。次に陽乃は小町に電話をかけた。
陽乃「もしもし小町ちゃん。今から大事な話をしたいんだけど、近くに比企谷くん……ううん、八幡くん居る? いやいや居ない方がいいの! 実は————————」
-
106 : 2015/07/15(水) 00:57:03.04 -
日曜日の十時過ぎ、陽乃は八幡の家に訪れる。小町に話が通っているので八幡もリビングで待たされている。
小町「それじゃあ小町とお父さんとお母さんは夜遅くまで帰ってきませんので! 二人とも自由にやってください。何をしても構いませんから!」
陽乃「いってらっしゃい小町ちゃん」
小町「お兄ちゃん、陽乃さんを泣かせたら承知しないよ。あ、でも啼かせるのはありなのかな……?」
八幡「…………」
小町「お兄ちゃん、返事は!」
八幡「……へーい」
広いリビングに二人きり。八幡と陽乃はソファに横並びで座る。自然な手つきで陽乃は八幡の太ももに手を這わせる。
陽乃「二人だけになったね」
八幡「……何か話があるんですよね。小町がやけに楽しそうな顔して言ってましたよ」
陽乃「それにしても、客人が来てるのに八幡くんは何も出そうとしないよね」
八幡「あ。やっぱ出した方がいいですよね」
陽乃「いいよ。だって八幡くんには“与えるという発想がない”もんね。君には味方という概念がないから、雪乃ちゃんを私の敵に仕立て上げるしかできなかったんでしょ」
相手の本質を突くことは、陽乃にとって初撃の挑発で繰り出せてしまえる当たり前の行為だ。
いやむしろ…………陽乃はそれ以外の方法を知らなかった。その人の心を支配することが、陽乃の唯一のコミュニケーションだった。
-
107 : 2015/07/15(水) 00:57:31.20 -
陽乃「ねぇ…………私の恋人になってよ。八幡くん」
いつもと同じ『雪ノ下陽乃らしい仮面』を被って、微笑みながら陽乃は八幡に好意を告げる。
陽乃「八幡くんには嫌なことばっかりしてるけど、私結構八幡くんのことは気に入ってるんだよ。だって私がこれだけアピールして気を許さなかった男は君が初めてなんだもん」
この告白は陽乃にとって、雪乃を巻き込んでしまった自分への戒めだった。そして、ここまで自分を追い込んだ八幡への敬意でもあった。だから陽乃はより深く八幡を受け入れることにした。
とはいえ陽乃は八幡が恋人になったとしても性欲をぶつけてこない確信があるし、事実八幡も陽乃が恋人になることに少しの喜びを感じない。本当に陽乃と八幡が恋人同士になったとして、より苦しむことになるのは八幡の方。だから陽乃は恋人関係になるという策に打って出た。
もちろん小町に陽乃が告白すると話している。というか事実上の恋人関係とか言って話を盛ってあった。
————けれど、事ここに至っても陽乃には八幡から離れるという考えがなかった。
————それがこの一連の出来事の原因。全ての不幸の元。
相手に踏み込むことが雪ノ下陽乃の王道。だからどうしても、陽乃は逃げると選択を最後の最後まで選ぶことができなかった————————
-
108 : 2015/07/15(水) 00:58:11.80 -
八幡「はあ、それで……?」
陽乃「恋人になってくれたら、八幡くんの意思をある程度汲み取ってあげられるよ。八幡くんが嫌だと思うことをしないようにするし、私にして欲しいことがあったらそれにも応える」
八幡「…………?」
陽乃「八幡くんが私のことを好きじゃないことは、むしろ嫌ってることは痛い程知ってる。でも私は八幡くんのことが好き。だから、ね…………」
陽乃は八幡をソファに押し倒し、上から覆いかぶさる。
んっ……っと陽乃は甘い声音をこぼしながら、とろんとゆるんだ表情で八幡に顔を近づけていく。
陽乃「………………………………」
八幡「————————————」
二十センチ…………、十センチ……、そしてあと五センチで二人の唇が重なる。
八幡「————————————」
なのに八幡の顔は、心は、感情は揺らがない。
陽乃の本能が極大の警鐘を鳴らした。あと三センチというところで動きを止める。陽乃の顔が硝子の如く色の無い瞳に映っている。
いや————違う。この目は陽乃のことを見ていない。もっと“別のもの”を見ている————!
-
109 : 2015/07/15(水) 00:59:00.39 -
陽乃はまだ、肝心なことを——なぜここまで八幡が急変したのかを解明できていない。その秘密を解き明かさないまま付き合うべきじゃないと、陽乃は自分の考えを撤回した。
陽乃は八幡の顔全体を観察できるよう、少しだけ体を起こす。それでも十分互いの体は近いので、八幡は居心地が悪そうである。
陽乃「……ねぇ、どうして雪乃ちゃんにあんなことをしたの?」
八幡「『あんなこと』っていうのは?」
陽乃「雪乃ちゃんのトラウマを蒸し返したことだよ!」
八幡「いや、いつの話ですかそれ」
陽乃「一昨日の放課後、部室で雪乃ちゃんと私のことで話してたんじゃないの!?」
陽乃の問い掛けに対して、八幡はまるでどうでもいいことを訊かれたような、あっけらかんとした様子で答えた。
八幡「確かに、一昨日俺は雪ノ下と陽乃さんに対する愚痴を言い合ってましたけど。それがトラウマを掘り返したことになるんですか?」
陽乃「えっ?」
陽乃は理解できてしまう。————八幡は雪乃のトラウマを弄んだことを、心底どうでもいいと思っていると。
八幡は嘘をついていて、本当は雪乃のトラウマを蒸し返したことは自覚している。けれど同時に……“この程度の”ことは大したことじゃないとも思っている。
陽乃「なんで、そんなことをしたの?」
八幡「いや、なんでと言われましても……」
陽乃「私への当て付けで雪乃ちゃんの心を踏みにじったんじゃないの」
八幡「————ああ」
その後八幡はなんでそこで雪ノ下を傷つけたことになるんですか、と続けたが、その嘘は聞こえなかった。
その前の感嘆詞に込められた感情を陽乃は読み取った。
————————“今更”。“手遅れ”。
-
110 : 2015/07/15(水) 00:59:28.74 -
そして陽乃の頭の中にあった比企谷八幡の記憶が爆発のごとき化学反応を起こし、…………遂に陽乃は、最低の真相に辿り着いてしまった。
だから、私が触れても平気と感じるようになった。
だから、私と一緒にいる時、私のことを見ていなかった。
だから、秘密を暴かれるのを心待ちにしていた。
だから、雪乃ちゃんの心を傷つけたことに気づいて、『今更手遅れ』だなんて感想を抱いた。
…………既にもう傷つけていたから。『代わりの彼女』に全てをぶつけていたから——————!!陽乃「君は私からのストレスを全部雪乃ちゃんにぶつけていた。私から嫌がらせを受けた時、妄想の中で雪乃ちゃんを傷つけることで鬱憤を晴らしていた。…………そうなんでしょ?」
陽乃の顔にはもう『人に好かれる仮面』はついていない。実の妹が凌辱されていたことを知って、怒りと恐怖でないまぜになった感情を剥き出しにしている。
再び陽乃と八幡の目が合って、…………そして陽乃は悟った。
————この行為すら八幡にとって些細な抵抗に過ぎないということを。
八幡「はっ? なんで陽乃さんから受けたストレスを雪ノ下にぶつけなきゃいけないんですか? 意味分かりませんよ」
陽乃は八幡の嘘が絶対に見抜ける。八幡は陽乃が自分の嘘を百パーセント見抜けると理解している。故に嘘をついた。
己の体のすぐ下で怪物が…………いや、“化け物”が笑っていた。
最後に陽乃は“化け物”の目に宿る二つの思いを読み取る。
————『こんな妄想すら読み取ることができるのか』という呆れと。
————『この程度で雪ノ下陽乃は壊れてしまうのか』という失望を。
# # #
-
111 : 2015/07/15(水) 01:03:21.69 -
まだだ、まだ終わらんよ……
実を言うと陽乃の誕生日である7月7日までに止めを刺したくて、そのために埋めネタを後回しにしました
結局間に合ってないんですけどね
第六章はあと2回くらいで終わりです。第六章が終わったら埋めネタ書きます
今回はここまででした
-
118 : 2015/07/17(金) 01:39:13.82 - やっぱ『JUVENILE REMIX』ネタに気づく人いないですよね
-
124 : 2015/07/17(金) 17:16:45.27 - 自分で痛々しいミスすんなよぉ!(泣)
-
127 : 2015/07/17(金) 17:42:55.15 -
もう今更だから全部書くわ!
お前らを煽って「お前らに」解説させるのが狙いだったのに、ID変え忘れるという凡ミスした!
そんで私が何を書きたかったのかと言うと、『魔王 JUVENILE REMIX』でとあるキャラが人をレーンの上に寝かせてそいつにボウリング球をぶつけるというお仕置きがあった
八幡が『魔王』って呟いたのは、そのキャラと同じように雪乃にボウリング球をぶつけていたから。もちろん妄想の中の話だけど!次回から八幡視点だけどさすがに雪乃への行為を仔細に書くわけにいかないから、あくまで一例として、それも分かりにくい形で描写してたのに…………そんな諸々の思惑がたった一つの凡ミスで全部パアになったよちくしょおおおおおおおっ!!
-
149 : 2015/07/18(土) 20:25:30.78 -
375 : ◆TU4rb6vEM2 [saga]:2015/01/07(水) 18:10:22.90 ID:lMir0DZD0
はい、ここまで今更な話ですけど、この八幡のモデルは作者です。
118 : ◆TU4rb6vEM2 [sage]:2015/07/17(金) 01:39:13.82 ID:7QB4mqhJ0
やっぱ『JUVENILE REMIX』ネタに気づく人いないですよね120 名前:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[sage] 投稿日:2015/07/17(金) 09:12:53.90 ID:XKallG4UO
読み直してやっと気付いたわ123 名前:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします[sage] 投稿日:2015/07/17(金) 17:15:12.68 ID:7QB4mqhJ0 [2/3]
文句言ってるけどお前らはこのネタ理解できてるのか?124 名前: ◆TU4rb6vEM2[sage] 投稿日:2015/07/17(金) 17:16:45.27 ID:7QB4mqhJ0 [3/3]
自分で痛々しいミスすんなよぉ!(泣)127 名前: ◆TU4rb6vEM2[sage] 投稿日:2015/07/17(金) 17:42:55.15 ID:pFNIpl4LO
もう今更だから全部書くわ!お前らを煽って「お前らに」解説させるのが狙いだったのに、ID変え忘れるという凡ミスした!
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
この八幡のモデルは作者です。
-
160 : 2015/07/22(水) 09:20:45.53 -
/\___/ヽ
/'''''' '''''':::::::\
. |(●), 、(●)、.:| +
| ,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::| お前らを煽って「お前らに」解説させるのが狙いだったのに
. | `-=ニ=- ' .:::::::| +
\ `ニニ´ .:::::/ +
,,…..イ.ヽヽ、ニ__ ーーノ゛-、.
: | '; \_____ ノ.| ヽ i
| \/゛(__)\,| i |
> ヽ. ハ | || -
162 : 2015/07/23(木) 00:12:01.12 -
続きはちゃんと書いてます
ただ手間取ってるので、あと一週間くらい待ってください
-
183 : 2015/08/01(土) 01:17:48.70 -
俺の狙いは単純で————陽乃さんが俺に関わってこなくなりさえすれば、それ以外は心底どうでもよかった。
だから陽乃さんに苦手意識を植え付けるために、共通の知り合いを巻き込むことにした。現時点で雪ノ下しか巻き込めていないのは、時間が足りなかった以外の理由はない。
手始めに雪ノ下のトラウマを掘り起こした。互いに溜まったものを吐き出して、意外に盛り上がったのを覚えている。これで雪ノ下が陽乃さんに敵対してくれればいいんだが、そんなことは期待していない。
他にも葉山や平塚先生や小町に何かを仕込もうとしていたが、それらはあくまでカモフラージュだ。
本命は————妄想の中で行われる雪ノ下への凌辱。
相手が陽乃さんであるからこそ看破されるのは計算の内。最悪看破されなくて——妄想に流されるまま雪ノ下に加虐的な態度を取るようになるとしても——陽乃さんから与えられる鬱憤を晴らせるわけだし、それで雪ノ下との人間関係が壊れても構いはしない。元々壊れていいものだと思ってたし。
この妄想の看破に時間をかければかける程、その間陽乃さんが俺を不快にすればする程、その分陽乃さんが雪ノ下を傷つけていたということになる。——これはそういう“爆弾”だったのだ。
まあ二日目にして早々見抜かれてしまい、与えられたダメージは少ないなあ……なんて思っていた。それなのに————
陽乃「……君の心は、人の形をしてない。君は正真正銘…………ただの、化け物だよ」
陽乃さんはソファの端に座り俺から距離を取っている。恐れから髪をくしゃくしゃにかき乱し、声を震わせ、顔を青褪めさせていた。
思いもしない程呆気なく、雪ノ下陽乃は笑顔を——自身のアイデンティティを崩壊させた。
————そのことに対して俺は、『身勝手だ』と思った。
-
184 : 2015/08/01(土) 01:18:44.22 -
あくまで陽乃さんに望んでいたのは怯えること、恐怖することだけ。アイデンティティの崩壊まで望んでいなかった。
俺は最初から最後まで陽乃さんに抵抗していただけで、陽乃さんに危害を加えたことは一度もない。……不快な気分にさせたことがないとは言えないけど。
結果的に俺が手を出したのは、雪ノ下雪乃ただ一人。それも妄想の中でだ。本来なら俺は『陽乃さんには何もしていない』と言い切ることができた。…………けれど陽乃さんをここまで追い詰める結果となって、まるで俺が“加害者”みたくなってしまったのだ。
——まあ、俺が“加害者”になろうと、陽乃さんが笑顔を失おうと、やっぱりそんなことはどうでもよかった。結局俺の望んでいた通り、陽乃さんは俺に関わろうとしなくなるんだから。
それに陽乃さんのこの乱れた様相だって演技かもしれないし、今気を緩めて陽乃さんを思いやっている場合じゃない。
八幡「化け物、ですか。そんなこと言われたのは初めてですね」
陽乃「だろうね。普通の人はそこまできっぱり言わないだろうし、何より君と長付き合いできるわけないもんね」
八幡「そうですね。というか関係を断ち切ってるのはほとんど俺の方からだったりします」
陽乃「…………ねぇ、八幡くんは雪乃ちゃんのことをどう思ってるの?」
八幡「前にも答えましたよね、その質問」
陽乃「そうかな? 半分嘘を語っていた感じだったけど」
だが半分は本心を語っていた。中身空っぽ人間からすれば半分でも本心を語るのは結構なことなのだ。
その時は確か、読書仲間として好意的に見ていると答えたはず。
陽乃「聞き方を変えようか。——八幡くんは、雪乃ちゃんのことをどうとも思ってないんだよね?」
八幡「ええ。そうですよ」
反射で答えた自分にとても驚いてしまった。……そういう聞き方なら正直に答えちゃうのかよ。
-
185 : 2015/08/01(土) 01:19:17.23 -
陽乃「じゃあ雪乃ちゃんを好意的に見てるっていうのは嘘なの?」
八幡「いや、それもあながち嘘じゃないような…………」
何か違う。雪ノ下を好きじゃないのは事実なんだが、雪ノ下を好ましいと思っているのもまた事実。俺の中でそれらは相反することなく成り立っている。
恋とか愛とかそんなんじゃなく、ただの友情みたいなものを雪ノ下に対して抱いている。けれど俺はその思いをどうしても雪ノ下本人に向けられない。
頭を巡らせて原因を探る。————ひとしきり考えると、答えはすぐに見つかった。
陽乃「答えが出たの?」
八幡「…………」
笑顔が崩れていても心を読むのは健在なんですね。とりあえず心を読まれたストレスを雪ノ下にぶつける。
答えを隠すか迷ったが、どうせ相手には嘘をついているかどうか分かる。それに答えを話すことで雪ノ下を傷つける結果に繋がるかもしれない。俺は出た答えをそのまま明かすことにした。
八幡「俺が好ましく感じてのは…………雪ノ下の“行動”だけだったんです。だから、どこまでいっても俺は雪ノ下本人のことを好きにならない。…………いや、なれない。もし別の人間が雪ノ下と同じ行動を取ったなら、俺はその人も好意的に感じる。だから————もし雪ノ下が陽乃さんと同じような態度を取れば、俺は躊躇なく関係を断ち切るでしょう」
陽乃「…………なるほどね。君の基準は他人の行動ってわけだ」
八幡「そういうことになりますね」
俺の答えを聞いた陽乃さんは顔を伏せて黙り込む。そして思い切ったような顔つきをして——きっと彼女にとって一番大事であろう——雪ノ下の今後について問い掛けてきた。
陽乃「じゃあ、これからも君は雪乃ちゃんに酷いことをし続けるんだね」
八幡「いやしませんけど」
陽乃「ううん、君は絶対にするよ。それが必要となったら、躊躇なく実行するんでしょ。——————じゃあどうしたら君は雪乃ちゃんを傷つけないって約束できるのかな?」
-
186 : 2015/08/01(土) 01:19:43.90 -
八幡「……質問の意味が分からないんですが」
陽乃「……本気で聞き返しているところが君の化け物たる証明だね。そうか、君の基準は他人の行動————この場合、君が雪乃ちゃんを傷つけるかどうかは私の行動次第だってわけね」
八幡「……………………」
もはや嘘をつくのも面倒だったので沈黙で肯定した。自分の行動の基準を全て人任せにしているから、少しの気負いも罪悪感も感じなくて済む。むしろ、頭の中では『雪ノ下を傷つけているのは陽乃さん』といったような片付け方をとっていた。
これから俺がどんなことをするか、そして雪ノ下がどんな目に遭うかも、全て陽乃さん次第。——そんな図式に落とし込むことができたから、俺は陽乃さんのことが平気になったのかもしれない。
そして————推理ドラマでとどめを刺された犯人のように、陽乃さんは沈痛な顔をして、今まで俺に関わってきた動機を明かす。
陽乃「————八幡くんに目を付けた一番最初のきっかけはね、君が雪乃ちゃんにとって有害か無害か区別するためだったんだよ」
八幡「そうだったんですか」
陽乃「でも八幡くんの話を聞いて、実際に会って……私を意識しないでいる君が珍しく、面白く思えた。だから君を振り向かせてみたかった。…………笑っちゃうよね。そのせいで雪乃ちゃんを巻き込んで傷つけることになってるんだもん。私————雪乃ちゃんのお姉ちゃん失格だよ」
八幡「そうですか」
それで、陽乃さんは俺に慰めて欲しいのか? それとも最後まで俺を振り向かせようとあがいているのか? どちらにせよ俺が陽乃さんに心を許すことはないけどな。
どんな事情を聞いたとしても俺はそれに感情移入することができない。どこまでも無感動でいる俺を陽乃さんは哀れむように見ている。————そして陽乃さんは最後の質問をした。
陽乃「もし……、雪乃ちゃんと私が八幡くんの敵に回ったら、例えばどんな対策を取るの?」
-
187 : 2015/08/01(土) 01:20:12.58 -
陽乃さんの訊き方からして、この質問は仮定の話。今から俺がとってつけて考え付いた対策を聞いて、どれだけ雪ノ下に危険があるのか確かめようとしてるんだと思う。
八幡「あなたたち姉妹を敵に回してたら、どんな対策も意味ないと思いますけど」
陽乃「例えばの話だって。でも、せめて一つは答えてね」
けれど何かしら答えを出さないといけないらしい。煙に巻くことはできなかった。
とはいっても雪ノ下姉妹相手じゃ平塚先生も相手にならないだろうし、小町や葉山はもっと無理だ。となると使えるのは————————実力未知数の奴しかいないな。
八幡「じゃあ————陽乃さんたちの両親と俺んとこの両親で話し合いをしなくちゃいけないくらいに問題を発展させる、とかどうですか?」
まあ、相手が県会議員じゃ俺の両親は気が引けて言い返してくれるとは思えないけどな。俺が陽乃さんの両親に何か言ったとしても子供の言い分が聞き届けられるとは思わないし、こんな策で大した結果を生まれると思えない。
————けれどそんな中途半端な策を聞いた陽乃さんの体はどんどん震えを大きくしていった。
陽乃「君は、雪乃ちゃんと一緒に、いちゃいけない…………。君はお母さん以上に、雪乃ちゃんに、悪影響を、与えてる…………」
雪ノ下陽乃は比企谷八幡に懇願する。
陽乃「もう二度と、雪乃ちゃんには関わらないで…………っ!!」
-
188 : 2015/08/01(土) 01:20:51.16 -
八幡「なら、陽乃さんから言っといてくださいよ。俺はもう会わないようにしますので」
お願いに軽く応じれば、虚を突かれた陽乃さんは表情を無くした。そしてソファを立ち上がって、おぼつかない足取りで俺に近づいてくる。
そのまま目にも止まらぬ鋭い平手が俺の顔に振り下ろされる。
陽乃「あああああああぁぁぁぁああああああああああっっ!!!! ああああっ!!! うぁあああああああああああああああっっ!!!!! ああああああああああああああああああああああああぁぁっ!!!!」
狂ったように、何度も、何度も、顔に平手がぶつけられる。襟を引っ張って同じ側の頬を、しつこく、何度も、張り倒す。
心の底から痛い。しかも当たる度に頭が揺れるから意識が朦朧とする。それでもなお痛みは一切弱まらない。
叩かれながら考えるのは、早く陽乃さんの気が晴れることと、家族が帰って来た時赤く腫れた顔をどんな風に誤魔化すか。
とどめに反対側の頬を二回叩かれて、痛みで起き上がれない俺に陽乃さんはこう言い捨てていった。
陽乃「もう二度と雪乃ちゃんに近づくな!!」
-
189 : 2015/08/01(土) 01:21:18.45 -
夏が終わって二学期。総武高校二年J組に雪ノ下雪乃の姿はなかった。
奉仕部という部活も存在していない。部員が居なくなって廃部になったらしい。
-
190 : 2015/08/01(土) 01:22:01.88 -
第六章 「それでも雪ノ下陽乃との出会いは必然だった」 終
-
192 : 2015/08/01(土) 01:29:20.93 -
あとは後日談みたいな話だけだったので、そういうのは第七章にでも書くことにして、第六章は切りのいいところで終わらせることにしました
いつも通り本編以上に作者がトチ狂ってましたけど、これからも続きは投下していくつもりですので、完結までお付き合いお願いします
最後これでいいのか。これで陽乃さんキレてるけど理由としておかしくないのか。どうしても説明過多になってしまうな。色々不安はありますが、二次創作ですんで大目に見てください
自演行為によって純心な読者を失望させてしまい、本当に申し訳ございませんでした
最近のコメント