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1 : 2014/08/31(日) 22:38:03.33 -
モバマスSSです
地の文です
過去作との関連ありません
書き溜めあります。よろしくお願いします。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1409492273
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1409492273/
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2 : 2014/08/31(日) 22:47:58.32 -
新田美波 バスロマンス
http://i.imgur.com/Tc9PA8y.jpg
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3 : 2014/08/31(日) 22:49:17.28 -
結婚しよう
その言葉をもらったのは、今から半年前のことだった。
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『私たちの10年間の集大成、ぜひ見に来てください』
一筆の手紙とチケットが凛ちゃんから送られてきた。
トライアドプリムス、結成10周年記念ライブ
そのライブを見に、私は東京を訪れていた。
東京に来るのは、アイドルを引退してから初めてのことだった。ライブは大盛況のうちに終わった。
『こんなこと、滅多に言わないんだからな! みんな、大好きだっ!』
『私、みんなに伝えたいことがある。夢は叶うんだって。叶えても、輝き続けるんだってこと!』
『10年、あっという間だったね。でも、私たちはまだまだ走り続けるよ。みんな、これからもよろしくね!』
一人ひとりが言葉を放つたびに、会場が一つになって、大きく盛り上がる
本当に素敵なライブだった。
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4 : 2014/08/31(日) 22:52:28.64 -
翌朝、新幹線に乗り込み、広島に帰った私を迎えたのは、予想外の人だった。
「美波、おかえり」
「Pさん!? なんでここに?」
「今日、どうしても美波に会いたかったんだ」
「言ってくれれば、東京で時間を作ったのに」
「ここが良かったんだ」
強い目をして、Pさんは言った。
昨日、あんな大きなライブを指揮したばかりだというのに、この人は私より早い電車に乗って、私が帰ってくるのを待っていた。
彼はそういうことをできる人だ。自分の疲れとか、そういうことは考えなしに人のために動ける。
正直、せっかく東京に行ったのだから彼にはとても会いたかったし、二人きりの時間がほしかった。
でもきっと迷惑になっちゃうだろうな、と思いそれを避けた。彼は、私のその考えを読んで、それ以上の動きをしてくれた。
そんなところに惹かれた。時折、心配になってしまうこともあるけれど。
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5 : 2014/08/31(日) 22:58:53.64 -
私たちは何度か二人で行ったお好み焼き屋に足を運んだ。
初めてこの店に来た時、彼はこう言った。
『好きな女の子に、お好み焼きを上手に焼いて、食べされるのが夢だったんだ』
漫画の読みすぎですよ、と私が笑うと、こういう夢があってもいいだろ、と彼は恥ずかしそうに笑った。
その小さな夢と、恥ずかしそうな笑顔にすでにキュンと来ていた私だったけれど、
焼きあがったお好み焼きを食べて、よりいっそうキュンと来た『なんだか、あたたかい味です。おいしい』
正直に感想を述べると、彼は嬉しそうにほほ笑んで、この店がおいしいんだよ、と言った。
それはきっとそうなんだけど、それだけじゃないあたたかさを感じた。
好きな人をものにするには、胃袋をつかめ、なんていうけど、この時私はガッチリつかまれてしまったのだと思う。
こうやって交際を始める以前から、ずっと私は彼のことが好きだった。
そして、実際に付き合い始めると、もっともっと好きになった。この日、彼が作ってくれたお好み焼きもとてもおいしかった。
以前にもまして彼の腕前は上達していて、なるほど、夢は叶うし、叶っても輝き続けるんだな、なんて思ってしまった。
もっと大きな夢を叶えて、輝き続けてる加蓮ちゃんの言葉を借りるのはなんだか悪い気がしたけど、小さくても夢は夢なのだ。 -
6 : 2014/08/31(日) 23:02:08.93 -
昼食のあと、私たちは少し歩いて、お城の見える公園にやってきた。
ゆっくりと散歩しながら、私たちはいろんな会話をした。
昨日のライブのこと、菜々ちゃんが近々また生誕17周年記念ライブをやること、
千枝ちゃんが朝の連ドラの主演に選ばれたこと、そのお母さん役に留美さんが選ばれて、ちょっと複雑な顔をしていたこと。
こんな話を聞くと、みんなと一緒に過ごした日々が、ついこのあいだのことのように思い出される。 -
7 : 2014/08/31(日) 23:07:21.07 -
「美波が引退して、もう3年か」
大きな楠木の下にたどり着き、腰を下ろすと彼がポツりとつぶやいた。
「なんだか、あっという間だな」
彼の言葉に、私は首を横に振った。
「流れている時間が違うみたい。芸能界を離れたら、一日がとっても長いの」
私の言葉に、彼はそうかもしれない、と小さな声で答えた。「Pさんがこっちに来る日を、まだかな、まだかなって、あと何日かなって毎日数えてたの」
私の言葉に、彼は苦笑する
「毎日一緒にいるのが当たり前だったのが、嘘みたいだな」
「本当に……最初は、ううん、今だって寂しさには馴れないよ」
彼はそっと私の手を握った。
そして、優しいキスをする。いつだって彼は私の期待を裏切らない。絶妙なタイミングを知っている。
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8 : 2014/08/31(日) 23:10:15.06 -
唇が離れると、彼は立ち上がった。
そうか、そろそろ東京に戻らないといけない時間か……
彼の手を強く握ると、グッと引っ張り上げてくれた。「帰りの電車はさ、いつもなんだか白黒に見えるんだ。来るときはウソみたいに明るいのに」
私の顔を見ないで、彼はそう言った。
「Pさんを送った帰り道は、何度も振り返っちゃいます。いないってわかってるのに」Pさんは普段、こんな話はしない。私が余計に寂しくなるってわかっているから
できるだけ笑顔で
私はそうやって送り出してきたつもりだった。
でもこんな話をしたら、笑顔で送れないじゃない……「美波」
強い目をして彼は私をジッと見つめた。
ドキッとして、私は何も言えなくなってしまう。「結婚しよう」
時間が止まったような気がした
何か答えなきゃ、と口を開くけど、声が出てこない
「長い間、待たせてごめん」
私は必死に首を横に振る
じわっと目から涙が溢れそうになる。
泣いたらダメ、ダメだダメだでも、もうこらえきれなかった。
涙を隠すように、私はギュッとPさんに抱き付く。
それに応じるように彼は優しく、でも、強く私を抱きしめた。「あなたを好きでいてよかった。待っていて、よかった」
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9 : 2014/08/31(日) 23:12:46.15 -
あの日のことを、昨日のことのように思い出す。
今まで、いろんな衣装を着てきたけれど、本当のウエディングドレスはやっぱり特別だ。
「良く似合ってる。きれいだ」
いつの間にか控室にやってきていたPさんが私に声をかける。
「私を幸せにしてくれて、ありがとう」
私の言葉に、彼はにっこりとほほ笑んで、こちらこそ、と言った。
「あなたを幸せにします。ずっと、ずっと」
「こちらこそ。まず、今日を最高の一日しよう」
「はい」
終わり
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10 : 2014/08/31(日) 23:13:42.99 -
藤原肇 染まるよ
http://i.imgur.com/K0D0ImM.jpg
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11 : 2014/08/31(日) 23:16:32.83 -
田舎の夜は本当に暗い。でも、穏やかで、シンと心が静まって行くのを感じる。
Pさんと美波さんの結婚式を前に、私は実家に帰省していた。
二人の結婚式が広島で、東京から行くより、近かったからだ。……というのは方便かもしれない。
少し仕事から離れて、一人になって気持ちに整理をつけたかった。一人になって、ろくろを回せば落ち着くかな、と思った。
昔、親しんだ山に登って、釣りをすれば落ち着くかな、と思った。でも、そんなことはなかった。
大好きなPさんと、大好きな美波さんの結婚式。
私は二人のことが本当に大好きだ。心からお祝いしたいのに、なんでこんなに心は曇っているのだろう。
結婚式まで、あと二日しかない。 -
12 : 2014/08/31(日) 23:22:02.92 -
私と美波さんは、ほとんど同じ時期に事務所に入った。
地方から上京した私たちは、すぐに意気投合し、とても親しい間柄になった。
リズムや価値観とか、いろいろなものが私たちは一致していたんだと思う。先に売れ始めたのは美波さんだった。
歌が上手で、運動神経も抜群。人当たりの良い美波さんが売れないはずがなかった。
美波さんはあっという間にトップアイドルと呼ばれる存在になった。私が売れ始めたのは、私が美波さんが入社したときの年齢になったころだった。
大河ドラマに出演したことをきっかけに、幅広い世代から応援してもらえるようになった。
急に売れ始めて、あたふたした私を支えてくれたのも美波さんだった。
自分だってとても忙しいのに、自分の時間を割いて私を支えてくれた美波さん。『肇ちゃん、今度二人で息抜きにスイーツ食べに行かない? 私、いい店知ってるんだ』
寮の部屋が隣同士だった私たちは、互いの部屋を行き来し、何度もお泊り会をした。
『うーん、どうやったら雫ちゃんみたいに大きくなるのかなぁ』
私の部屋に来た時の美波さんは、油断しかしていなかった。
うふふ、と上品に笑う美波さん。でも、私の部屋ではあはは、と笑った。そして、私も最高に油断していた。
テレビでお笑いをやっていれば、お腹の底から笑ったし、
感動のドキュメントを見れば、二人そろって号泣した。最高の二人だったと思う。絶対、最強の二人。
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13 : 2014/08/31(日) 23:24:45.66 -
Pさんとの関係も、とても良かった。
馴れない土地に来て、戸惑っている私を、Pさんは良く釣りに連れ出してくれた。
ちょっと車を走らせて、田舎に来れば、なんとなく見慣れた風景で心が落ち着いた。『頑張り屋さんなのが肇のいいところだけど、根詰めすぎないようにな』
彼はいつだって優しかった。
『都会の夜も、そう悪くないだろ?』
ちょっと怖かった都会の夜。
怖いなんて言ったことなかったのに、それを察して彼は夜景を見せてくれた。本当に素敵な人だ。
私は、Pさんのことが好きだった。 -
14 : 2014/08/31(日) 23:27:41.12 -
でも、1つだけやめてほしいことがあった。
『Pさん、タバコは体に悪いですよ』
『わかっちゃいるんだけどな』
『やめないと、早死にしちゃいますよ』
『俺は寂しがりやだからな、案外その方がいいかもしれない』
『まったく……もう』
私が何度言っても、彼はたばこをやめなかった。
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15 : 2014/08/31(日) 23:30:57.40 -
美波さんが引退しようと思う、と私に告げたのは、今から3年と少し前のことだった。
そのころには私も美波さんも仕事はちょっと落ち着いてきていた。『いいころ合いかなって思って』
『でも……』
『ごめんなさい……今のはやっぱり違うの。
私ね、好きな人がいるの。心の底から、愛おしくて。そんな思いを抱えながら、アイドルを続けるの、私には難しいかな』
相手が誰かなんて、聞かずともずっと前からわかっていた。
いつになく、申し訳なさそうに言った美波さんは、私の思いもずっと前からわかっていたんだと思う。どちらからでもなかった。
私たちは二人で抱きしめあって、一晩中泣いた。 -
16 : 2014/08/31(日) 23:33:45.44 -
翌朝、目をはらした私たちは、お互いの顔を見て笑った。
『これじゃレッスンいけないね。ね、サボっちゃお?』
私たちは二人で銭湯に行き、熱いお風呂に入って、腰に手を当ててコーヒー牛乳を飲んだ。
最高に油断していた。
何があっても、私たちはやっぱり最強の二人だった。
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17 : 2014/08/31(日) 23:36:35.72 -
美波さんが事務所を去って、少しして、Pさんはため息の数が増えた。
そして、屋上に上る回数も増えた。屋上に行くときは、決まってタバコを吸うときだ。
『肇? どうした?』
屋上についてきた私に、Pさんはちょっと戸惑っていた。
『Pさん、タバコは体に悪いですよ』
『と、言われてもなぁ……』
『あなたより寂しがり屋な人が、あなたを健気に待ってるんです。
その人を、寂しがらせないでください』
『肇……知ってたのか』
『これは、私が没収します』
『あっ……いや、わかった』
私より好きなタバコ
そして、それよりも遥かに好きな美波さん
私の恋は、ひっそりと終わりを告げた。 -
18 : 2014/08/31(日) 23:40:24.77 -
あれから3年が過ぎて、ようやく二人は結婚することになった。
本当は心から祝いたいでも、やっぱり心がもやもやする
Pさんを美波さんにとられてしまうから?
美波さんをPさんにとられてしまうから?私はとても嫌な子なのかもしれない。
Pさんから没収したタバコ。何年も前のものなのに、今日までずっと大切に持っていた。
家から拝借してきたライター
ケースから一本取り出してみて、口にくわえてみる。
なんだか、月明かりの下で、なんだかとても悪いことしているみたい。火をつけてみる
ケホッ ケホッ
むせた
やっぱり、こんなもの吸うものじゃない
じわっと涙が出てくる。
おかしいな、ちょっとむせただけなのに、涙が止まらない。
そっか……私は、本当は泣きたかったんだ。
ずっとずっと、寂しかったんだ。
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19 : 2014/08/31(日) 23:54:57.45 -
月夜が朝焼け色に変わっていく。
私の心のもやもやは、煙と一緒に消えてしまった。私しか知らない美波さん
私しか知らないPさんみんなが知らない二人を私は知っている。
そして、二人がお互いに知らないことを私は知っている。
この思い出は、誰のものにもならない。私だけの、特別な思い出。私はきっと、ほかの誰よりも二人のことが好きだ。
だからきっと、誰よりも素敵なお祝いができると思う。今はとにかく早く、二人に会いたい。
今日は熱いお風呂に入ろう。
早く布団に入ろう。そして、明日は最高の結婚式になるように、心より祝福しよう
終わり
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