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1 : 2014/10/03(金) 22:09:27.07 -
※地の文あり
※アニメ、SID、漫画等設定ごちゃ混ぜSSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1412341757
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412341757/
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2 : 2014/10/03(金) 22:11:29.65 -
「よし、これで終わりっと」
ある夏の日の夕方、巫女装束の赤い裾を揺らしながら境内から集めたゴミを箒でちりとりに掃き入れてから、希は満足げに頷く。
「さて、と」
あとは集めたゴミを袋に入れて所定の収集場所に持って行けば一日の彼女の仕事はおしまいなのだが、その前に必ず本殿に寄っていくのが日課だった。
ぱん、ぱん。
二礼二拍手、そして手を合わせて頭の中で願い事を唱える。
まず思い浮かべるのは今は離れて住む家族の顔、どうか無病息災、平穏でありますように。
次に大切な友人達、みんなに幸せが訪れますように、不幸がありませんように。
志を同じくして集まった8人の仲間達、直近に迫った次のライブも成功しますよう、そしてみんなの夢が叶いますように…。
…そして、出来ることならこの楽しい時間がいつまでも————
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3 : 2014/10/03(金) 22:13:04.30 -
コツン。
希「あいたっ!」
頭に小さな衝撃が走る、上空からなにか小さくて堅い物が降ってきて頭に当たったという感覚、驚いて振り向くが境内に人影はない。
足下を見ると石畳についさっき位置エネルギーを運動エネルギーに変換してきましたと言わんばかりに転がる小石、どうやらこれが衝撃の正体らしい。
もう一度周囲を見渡すがやはり人の気配はない、が何もない空中から石が生まれるわけもない。
「よっぽど逃げ足の速い悪ガキでもおったんかな?」
それにしても神社で巫女さんに石をぶつけるなんで罰当たりなことする人もいたものだと思いながらなんとなくその小石を拾い上げようと体を曲げて手を伸ばす。
指先が小石に触れた瞬間、風もないのにざわりと辺りの木々が枝を揺らした。「…!」
何者かの気配を感じた気がして三度、周りを見渡すがやはり野良猫一匹見あたらない、今ここにいるのは間違いなく希、…それと強いて言えば本殿の中の神様だけのようだ。
「気のせい…やろか」
カタン。
「おっと」
腋に挟むように持っていた竹箒を落とした音でゴミ捨ての途中であったことを思い出す、暗くなる前に帰ろうと竹箒を拾い上げて社務所の方へと小走りで向かう。
いつの間にか先ほどの小石をしっかり手の内に握り込んでいたことに彼女は気づいていなかった。
———
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4 : 2014/10/03(金) 22:14:12.27 -
第一話『ハナヨまっしぐら』
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6 : 2014/10/03(金) 22:17:46.67 -
「きゃっ」
「いたっ!」
夏休みでもぬけの殻になった学校の屋上に響いた二つの悲鳴は、ダンス練習の最中にぶつかった花陽と真姫のものだった、真姫はよろめきながらもバランスを保ったが花陽は勢いよく尻餅をついた。
真姫「花陽!」
凛「かよちん!大丈夫?」
花陽「いたた…、だ、大丈夫だよ」
真姫「ごめん、私が早く動きすぎたから」
花陽「ち、違うよ、花陽が遅かったの」
腰をさすりながら立ち上がる花陽に凛が手を貸して支えるのを見ながら側にいたにこが嘆息する。
にこ「やっぱり体調悪いんじゃないの?だって…」
花陽「っ…」
今日の練習だけで花陽が倒れるのは実に三度目であった、今真姫とぶつかって転んだのが一度、その前に穂乃果とが一度に、自分一人で足をもつれさせて倒れたのが一度。
幸い目立った外傷はなさそうだがこうも短期間に連続してふらついていると体調不良を心配されるのも仕方がなかった。
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8 : 2014/10/03(金) 22:21:48.58 -
花陽「…大丈夫だから」
海未「無理はしないでくださいね、今日は暑いですから、熱中症の危険もありますし」
花陽「……」
ことり「かよちゃん?」
花陽「あ、大丈夫だよ!」
ことり「まだなにも言ってないけど…、あんまり思い詰めちゃダメだよ?」
花陽「う、うん」
μ'sの練習においてぶつかったり転んだりすることは特別珍しいことではない、ほとんど全員がダンスについては素人である故、振り付けもフォーメーションも手探りでトライ&エラーを繰り返しながら作り上げていくのが彼女たちのスタイルだった。
しかし問題は今がライブイベントの直前であるということだ、既に振り付けを吟味する段階は過ぎ、リハーサル形式で全体を通して合わせている状態だ、そういう状況で何度もミスをして練習を中断いれば否が応にも責任を感じるものである。
特に花陽はそういう傾向が強いことは周知でありメンバーも気を遣っているのだが、それを察した花陽が余計にプレッシャーを感じるという悪循環に陥っていた。
花陽「……」
ことり「……」
絵里「今日はここまでにしましょうか、本番前に疲れを溜めるのもよくないしね」
見かねた絵里の一声で今日の練習は花陽の表情が晴れることなく解散になった。
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9 : 2014/10/03(金) 22:25:50.02 -
——
花陽「はぁっ、はぁっ」
μ'sの練習が終わってからすこし経った頃、神田明神へと続く男坂に、階段を駆け上る花陽の姿があった。
花陽「はぁっ、ふぅ…」
頂上まで上った所で足を止めて、膝に手をついて荒い息を整える、髪が額に張り付くほどの汗がこの運動を始めてから長いことを示していた、疲れを溜めるのはよくないとして練習を早めに切り上げたが、それに真っ向から反していた。
——踊ってる途中、急に体が重くなって、足が動かなくなって、それで……、きっと花陽の体力が足りないせいだよね、休んでる暇なんかないんだ。
本番は目前、今更トレーニングしたところで付け焼き刃にもならないかもしれないが、何もしないわけにはいかなかった。
みんなの足を引っ張りたくないから——
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10 : 2014/10/03(金) 22:33:31.45 -
希「おや」
額の汗を拭い、先ほど上ってきた階段を今度は駆け下りようと向き直ったところで、あまり見つかりたくなかったμ'sメンバーのひとりと出会ってしまった。
希「かよちん、今日の練習はもう終わったん?」
花陽「あ、希ちゃん…」
希はバイトがあると言って今日の練習を早抜けしていたのだが、そのバイト先がまさにここ神田明神だということをすっかり忘れていた。
希「あ、もしかして秘密の特訓やった?」
花陽「あ…えっと」
悪戯っぽく微笑みかけてくる希だったが、突然図星をつかれて花陽は思わず言い淀む。
希「……今日の練習でなんかあったん?」
花陽「えっ」
希「だってそんな思い詰めたような顔しとったら、ね」
花陽「…」
希「力になれるか分からんけど、聞かせてくれん?こう言っちゃなんやけど後で他の子に訊けば分かることやし」
花陽「……うん」
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11 : 2014/10/03(金) 22:44:05.20 -
希「ふぅん」
男坂の階段に二人並んで腰掛けて話を聞いていた希が相づちをうつ。
花陽「花陽がどんくさいから、みんなの足を引っ張って」
希「そんなことないやん、海未ちゃんのキビシー特訓にもちゃんとついて来れてるし、かよちんが頑張って練習してることみんな知ってるで?」
花陽「でも…今日ちゃんと出来なかったのは事実だし」
希「うーん、もしかしたらそれはスランプってやつかな?」
花陽「スランプ…」
希「そうそう、スランプっていうのは大抵変な癖がついてたり余計な力が入ってたりするのが原因やから、一旦それから離れてリセットするのが常套手段やけど」
花陽「でも、もう本番まで時間ないし…」
希「そうやねぇ、でもちょっと気分転換してリフレッシュするぐらいできるんやない?例えば…焼き肉食べ放題とか」
花陽「そ、それは希ちゃんが行きたいだけじゃ…」
希「それとも、気分転換といったらやっぱりカラオケかな、かよちんの好きなアイドルソングを歌いまくろ、ウチも付き合うから、喉潰れるくらいにワーっと」
花陽「ぷっ、ライブ前なのに喉潰れちゃダメだよぉ」
希「ふふっ、かよちんはやっぱり笑ってる方がかわいいやん」
花陽「あっ…」
言われて気づく。
そういえば今日、笑った記憶全然無いや。
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12 : 2014/10/03(金) 22:51:20.76 -
花陽「……ありがとう」
希「ううん、ウチには話聞いて励ますぐらいのことしかできんから」
花陽「…希ちゃんはすごいなぁ、花陽なんて自分のことだけで精一杯なのに周りのことも気にしてくれて、とっても頼りがいがあるし」
希「そんなこと…」
花陽「μ'sのみんなはすごい人ばっかりだよね
凛ちゃんは運動神経抜群でしかもかわいいし
真姫ちゃんはすごく歌が上手で作曲の才能まであるし
ことりちゃんはとってもかわいい衣装を作ってくれるし
海未ちゃんは事実上のまとめ役で自ら規範になってレッスンや体調管理もしてくれるし
にこちゃんは誰よりも真摯にアイドルと向き合っていてかっこいいし
絵里ちゃんはモデルさんも顔負けのスタイルな上事務的な仕事も一手にこなしてくれるし
それに比べて花陽は……何の技術もないし地味だしトロいし寸胴だし、はぁ…」
希「あ、あれ、なんか思ってた反応と違う」
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13 : 2014/10/03(金) 22:53:19.29 -
花陽「それにやっぱり、穂乃果ちゃんは特にすごいよね…
最初廃校の告知を聞いた時、花陽ははじめからに諦めてた、廃校を食い止めようなんて考えもしなかった、花陽達が卒業するまでは存続してくれるならむしろありがたいなんて思ってた。
でも、穂乃果ちゃんは最初に一歩踏み出した、それって誰にでも出来ることじゃないよね、度胸っていうか勇気っていうか、花陽には一番足りてないものを穂乃果ちゃんは持ってるような気がする……羨ましいな——
次のライブも穂乃果ちゃんがセンターだし、花陽がセンターなんかになったら緊張して足動かなくなっちゃうから絶対無理だもん」
希「そんなことないよ、かよちんならきっと…」
希はこんなに卑屈な自分をそれでも慰めてくれる、だが考えずにはいられなかった、なんで私はこんなにどんくさいんだろう、なんでこんなに自信が持てないんだろう、なんでこんなに、弱いんだろう。
もしも穂乃果のようになれたら、もっと自信が持てるだろうか、もっと強くなれるだろうか。
花陽「穂乃果ちゃんみたいになれたら————」
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14 : 2014/10/03(金) 22:56:51.36 -
,。・:*:・゜'☆,。・:*:
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15 : 2014/10/03(金) 23:03:57.71 -
「……!!」
瞬間、世界の全てがほんの一瞬の間に変容した、そう感じた。
気がつくと彼女は見知らぬ部屋にいた。
『気がつくと』というと少々語弊があるかもしれない、睡眠や気絶などによって意識が断絶した感覚は一切無かった、つい今の今まで神田明神の階段に座って希と並んで会話していた記憶が、感覚が間違いなくある。
彼女は『常に気がついていた』にも関わらずこれだけの変化の過程を一切知覚することができなかった、あえて例えるなら『時間を消し飛ばされる』とこういう感覚なのかもしれない。
だが今の彼女にそんなことを考える余裕などなく、とにかく自分の状況を把握することで精一杯だった。
とにかく部屋をぐるりと見回す、四方は壁、頭上は電灯のぶら下がった天井、フローリングにカーペットを敷いた床、屋内であることは間違いないらしい、先ほどまで隣にいた希の姿はなく、少なくともこの部屋の中には彼女以外は誰もいないようだ。
窓際にベッド、その反対の壁際には本棚、カーペットの上に置かれた足の低いテーブル、生活感溢れる脱ぎ散らかされた形跡の服、さっきまで読んでいましたと言わんばかりに開いた状態で伏してある漫画本。
と、観察しているうちにどうやらこの部屋は『見知らぬ部屋』ではないらしい事に気づく、どこか見覚えのあるレイアウト、この部屋には以前足を踏み入れたことがあると記憶が告げる。
極めつけにカーテンレールにハンガーで掛けられている、大きく「ほ」とだけ書かれた独特のセンスのシャツ、こんな逸品を着こなす人物は一人しか知らない。
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16 : 2014/10/03(金) 23:09:32.91 -
「ここ、穂乃果ちゃ……!?」
再び違和感、自分の口を動かして紡いだはずの言葉がそのまま自分以外の人の声で耳に届いたのだ。
これも聞き覚えのある声、というか今まさに思い浮かべたこの部屋に最も居てしかるべき人物の声だった。
「これって…」
彼女の脳裏に一つの仮定が浮かぶ、それを証明するのは簡単だった。
立ち上がって腕、足、見える限りの自分の体の部位を眺めてみる、肌の色が普段とちょっと違う…気がする、あと足下の見通しが良いような気もする、が確信には至らない。
そこでもう一度部屋をじっくり見渡す、が目当ての物は見つからない、だが大抵の家庭にはおおよそ間違いなくそれがある場所がある、そして何度かこの家に来たことのある彼女はその場所がどこにあるかを知っていた。
勢いよく部屋のドアを開けて廊下を駆け抜け、もう一度ドアを開けて中へ駆け込む。
「う……」
洗面台の鏡の中で絶句しているのは、『彼女』…花陽の先輩であるはずの高坂穂乃果であった。
穂乃果「嘘ぉ————————!!!?」
雪穂「お姉ちゃんうるさい!」
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17 : 2014/10/03(金) 23:12:47.05 -
——
「はっ」
希「あのな?あんまり人と比べて自分を低く評価せんと、かよちんにはかよちんの良いところが——」
「え、あれ?」
穂乃果は困惑していた、つい今まで自分の部屋で漫画を読んでくつろいでいて、喉が渇いたのでお茶でも取りに行こうと漫画本を机の上に伏せて立ち上がろうとした矢先だったはずだ、が次の瞬間には外にいて、なにやら語っている希の隣に座っていた、何を言ってるか分からないだろうが彼女も何をされたか分からなかった。
希「——どうしたんかよちん、変な顔してるけど」
「の、希ちゃん?私……」
さっきまで部屋に居たはず、ここはどこ、ここで何してるの、いくらでも湧いてくる疑問を希にぶつけようかと思ったが、彼女の言葉の中にそれよりも気になる部分があった。
希の居る方と逆側を振り向いてみても、そのあだ名で呼ばれるべき人物は見あたらない。
「今私のことなんて呼んだ?」
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18 : 2014/10/03(金) 23:15:54.01 -
希「は?急にどうしたの」
「いいから、私の名前を言ってみて」
希「……ジャギ?」
「そうじゃなくて!真面目に!」
希「…?小泉花陽、ちゃんやろ?」
花陽「………マジ?」
事態を確かめるべくまず自分の顔を触ってみる、ぷにぷに、さすがに触っただけで顔の造りまではわからない、ほっぺたが柔らかい、そこから首、肩と降りていって胸に辿り着く。
花陽「むむっ!」
違和感、本来の自分の身体との相違点を感じて、揉む、己の乳を鷲掴む。
花陽「こ、この重量感、まさしく私にはないもの…!」
希「か、かよちん?大丈夫?」
頭は、という言葉はギリギリ飲み込んだが突然の奇行に目を丸くする希、それを尻目に鼻息を荒くしながら自分の胸を揉む『花陽』。
花陽「の、希ちゃん、鏡持ってない?」
希「え?あ、あるけど……はい」
花陽「ありがと……おぉぉぉ!」
希が貸してくれた手鏡に映っているのはたしかに、胸元をはだけさせた小泉花陽だった。
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20 : 2014/10/03(金) 23:24:59.13 -
希「かよちんホントどうしたん」
花陽「私穂乃果!……かよちゃんになっちゃった!」
希「……よしかよちん、病院に行こう」
花陽「いやいやいやいや本当なんだって!さっきまで部屋にいたのに急に…あ、もしかして夢?」
希「一応現実やと思うけど…」
『花陽』のあまりの豹変ぶりに自信が無くなる希、むしろ夢だったらいいのに。
花陽「うーん、どうやって証明すればいいんだろう」
希「穂乃果ちゃんが知っててかよちんが知らない情報を言えばええんちゃう」
花陽「なるほど!えぇっと……実は海未ちゃんって小学校三年生までおねしょしてたんだよ」
希「いや知らんけど」
花陽「海未ちゃんに電話して証明してもらう」
希「え、やめた方がいいと思うけど」
花陽「えっと、携帯どこだろ…っていうかなんで練習着のままなのかな、練習終わったの結構前だけど」
希「かよちんの荷物ならそっちに置いてあるみたいやけど」
花陽「あ、ほんとだ、……ごめんかよちゃん、開けさせてもらいます!」
鞄を開けるとすぐのところにあったため携帯は簡単に見つかった、手間取りながら電話帳の「海未ちゃん」の項を見つけ出しコールする。
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21 : 2014/10/03(金) 23:28:43.34 -
海未『もしもし、どうしました花陽』
花陽「ねえ、海未ちゃんって小学校三年生までおねしょしてたよね!」
海未『……は?』
花陽「ほら、ことりちゃんと三人で海未ちゃんの家に泊まっ——」
海未『わああああああああああああああ!!』
花陽「うわっ」
海未『誰から聞いたんですか!?いや、穂乃果ですね、穂乃果しかあり得ません!花陽、その話は誰にもしないでください!』
花陽「いやあの」
海未『いいですか!?絶対ですよ!あぁ、早く穂乃果に口止めしなくては』
ブッ、ツーツー。
花陽「……」
希「……」
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22 : 2014/10/03(金) 23:32:53.70 -
希「……うん、分かった本当みたいやね」
花陽「…ありがとう」
携帯をしまいながら一息つく『花陽』を見つめながら、希は顎に手を当てて考える。
希「でもなんでそんな急に」
穂乃果「さあ?」
希「じゃあそうなると、今穂乃果ちゃんの体はどうなってんのやろうなぁ」
花陽「確かに、気絶してるのかな?」
希「体だけ腐ってたりして?」
花陽「うえっ、それはヤバいね早く戻らないと…」
希「それともう一つ、かよちんの『中身』はどこ行ったんやろうね」
花陽「……それって」
「はぁっ…はぁっ…、希ちゃーーん!」
希「あ、あれ…」
叫び声が聞こえた二人が座っている階段の下に、特徴的な短いサイドテールを揺らしながら息を切らしている人物がいた。
花陽「私!?」
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23 : 2014/10/03(金) 23:35:09.93 -
希「つまり、かよちんの中身が穂乃果ちゃんで」
花陽「うん」
希「穂乃果ちゃんの中身がかよちんと」
穂乃果「はい」
希「……なんか逆に胡散臭くなったな」
花陽「さっき信じるって言ったじゃん!」
穂乃果「本当だよぉ」
希「なんかもうモノマネにしか見えなくなってきたわ」
花陽「なんでわざわざそんなことする必要があるのさ!」
希「…まあさっき証明して貰ったから信じるけど」
穂乃果「証明?」
花陽「こ、こっちの話」
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24 : 2014/10/03(金) 23:36:02.96 -
希「で、どうする?」
穂乃果「どう、って」
希「いや、ずっとそのままってわけにもいかんやろ?」
花陽「つまり、どうやって元に戻るかってこと?」
希「まあそういうことやけど、…もしかして戻りたくない、とか?」
花陽「だってわくわくしない?こんなこと滅多にないよ!」
希「滅多にっていうか普通ないと思うけど」
花陽「て言っても確かにずっとこのままじゃ不便だしいつかは戻らないとダメだよね」
穂乃果「不便だからなんだ…」
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25 : 2014/10/03(金) 23:40:29.06 -
希「こういうのは入れ替わったときの状況を再現すると戻るっていうのが定番やけど、入れ替わったときって」
花陽「部屋で漫画読んでた」
穂乃果「ここで希ちゃんと話してたよね」
希「再現したところでどうにもならなそうやね」
花陽「ていうかそもそも原因はなんなの?何か心当たりないの?」
穂乃果「う、うん……特には」
希「……とりあえず二人で階段から転がり落ちてみる?丁度神社やし」
花陽「なんで!?」
穂乃果「嫌だよ!」
希「とまあ冗談は置いといて、戻り方が分からん以上一時の間はこの姿のままで生活することになるけど、どうする?」
花陽「どうする、って?」
希「二人が普段通りに振る舞ったら周りが混乱してしまうやろ?」
穂乃果「ていっても、このことを説明しても…」
希「まあそう簡単に信じては貰えんやろうね、ウチは目の前で見てたから一応信じるけど、そんなこと急に言われても普通イタズラかなにかとしか思われんよ」
穂乃果「一応なんだ…」
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26 : 2014/10/03(金) 23:46:27.14 -
希「相手にされないならまだしも、下手すると頭おかしくなったと思われて精神病院行きって可能性も」
花陽「ええぇ!?それはやだよ」
穂乃果「私も…」
花陽「じゃあ秘密にした方がいいのかな」
希「そうやね、μ's的にもあんまり騒ぎにしない方が良いと思うし、……もしかしたら黒服の男達に連れて行かれて実験台にされるかも」
穂乃果「そ、それはさすがに……」
花陽「日本にもいるんだそういうの……」
穂乃果「いや冗談だからね?」
希「それじゃあ、家族やμ'sの子達にも変に思われんようになりきって過ごすってことで、いいかなかよちん?」
穂乃果「えっ?あ、うん」
花陽「それはそれでちょっと楽しそうだね」
穂乃果「そうかなぁ…」
希「ポジティブというか脳天気というか……まぁ、幸い夏休みで時間はあるしゆっくり考えてもいいんやないかな」
花陽「もし学校があったら大変だったね」
穂乃果「私二年生の授業受けることになっちゃうもんね」
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27 : 2014/10/03(金) 23:48:33.02 -
希「…ともかく今日はもう遅いから、一旦帰ってまた明日それぞれ頭の中整理して話し合った方がいいかもしれんね、明日も練習あるし……って、練習!」
花陽「な、何!?」
希「ライブ!このままだと振り付けも歌のパートも入れ替わってしまうやん!」
花陽「え…あ、そっか」
穂乃果「端から見ると花陽が穂乃果ちゃんのパートを、穂乃果ちゃんが花陽のパートを踊ってるように見えるってことか…」
花陽「じゃあポジション交換すれば」
希「もう新曲は穂乃果ちゃんがセンターって発表してしまってるしこの土壇場で変えるのはちょっと」
花陽「それじゃあ…」
希「お互いの振り付けを交換して覚えなおすしかないね」
花陽「覚えなおすって、本番まであと五日しかないよ!?今日を除くと練習できる日は四日、で、イチから…?」
希「ゆっくり考えてる時間なんか無かったね…」
花陽「さすがにそれだけじゃ無理だよぉ」
穂乃果「でも…こうなっちゃった以上やるしかない、よね」
希「かよちん…」
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28 : 2014/10/03(金) 23:49:46.02 -
穂乃果「ライブ中止にするわけにもいかないし、出来る限りのことはやった方がいいんじゃないかな…」
花陽「うん…うんっ!そうだよね、何もせずに諦めるなんてダメだよね!ごめんかよちゃん!」
穂乃果「ふぇ?」
花陽「それじゃあ明日から練習の後はここに集まって特別練習だ!よぉしファイトだよ!」
穂乃果「う、うん」
希「さて、決まったところで、とりあえず今日はいい加減暗くなるから帰ろうか」
花陽「そうだね、お腹も減ってきたし……ってあれ、穂乃果もう晩ご飯食べたのに」
穂乃果「私がまだだから、体はお腹減ってるんだよ」
花陽「なるほど、気分的には満腹なのに、変な感じ」
穂乃果「あれ、ってことは私今日は晩ご飯無し?うぅ…お腹減ってはないけど損した気分」
花陽「な、なんかごめん」
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29 : 2014/10/03(金) 23:51:01.52 -
花陽「…っと、そういえば私、かよちゃんの家知らないよ」
穂乃果「そっか、送っていくよ、私は穂乃果ちゃんの家分かるから」
花陽「ごめんね、かよちゃん帰るの遅くなっちゃうね…」
穂乃果「しかたないよこんな状況だもん」
花陽「あ、もしかしたら穂乃果の部屋散らかってるかもしれないけど、気にせずくつろいでいいから」
穂乃果「う、うん、私の部屋もある物勝手に使っていいけど…あんまり家捜しとかしないでね?」
花陽「……聞きましたか希さん、これなにかありますよ」
希「ベッドの下、ベッドの下やで穂乃果ちゃん」
穂乃果「何もないから!ただ服とか見られるのが恥ずかしいだけで…」
希「よし、クローゼットの奥やで穂乃果ちゃん」
花陽「了解!」
穂乃果「ちょっとぉ!」
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30 : 2014/10/03(金) 23:52:24.56 -
花陽「じゃあねー!」
希「気をつけて帰るんよ~、明日も早いから寝坊せんようにな~」
希「……ふぅ」
ぶんぶんと元気に手を振りながら神田神社を後にする花陽と、やんわりと急かす穂乃果という妙な光景を苦笑いしつつ見送ってから、希は溜め息をつきつつ石段に座り直す。
希「入れ替わり、ねぇ」
希はオカルトや超常現象といった類のことには、普通の女子高生よりも多くの興味を抱いているが、だからといって目の前で突然、人格が入れ替わりました!なんて言われてもおいそれと信じるわけではない、むしろ知識がある分その目は厳しいぐらいだ。
少なくともクリスマスの夜に世界中の家に煙突から忍び込んでくる髭男の存在を信じている誰かよりは常識人だと自負している。
人格入れ替わり、それを本人達以外に認識させるのは難しい、事前に綿密に打ち合わせをしておけばあとは演技力次第でいくらでもそれっぽく見せられる、そう考えてしまうと入れ替わりの証拠を提示するのは途端に難しくなる。
離れた場所にいる二人が、なんのモーションも無く唐突に人格が入れ替わった、そんな荒唐無稽な話、いくら友人達であっても普通なら希は信じなかった。
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31 : 2014/10/03(金) 23:54:23.82 -
『穂乃果ちゃんみたいになれたら』
花陽の微かな呟き、その瞬間花陽の体を薄く青い光が包み込むのが見えた。
花陽本人は気づいていなかったようなのではじめは気のせいかと思った、だがその現実離れした光景を裏付けるかのようにその直後から花陽の様子が急変した。
あまりにも出来すぎている、出来すぎているからこそ彼女たちの話に耳を貸せた。
ここが神社だから、神様が花陽の願いを叶えたとでも言うのだろうか?いや、彼女の呟きは願い、願望と言えるほど昇華されたものではなく、ただ卑屈になって思いつきをそのまま口に出しただけのようなものだ、それをこのようなひねくれた形で叶えるとは、もしこれが神の所業なら随分と意地の悪い神様もいたものだ。
ともあれ、花陽のその『願い』が今回の一件の引き金ならば自ずと解決方法への糸口も見えてくる、しかし少々気になることもあった。
『ていうかそもそも原因はなんなの、なにか心当たりないの?』
『う、うん……特には』
そんなはずはない、自分が呟いたことが直後にその通り起こったのだ、心当たりだらけのはずだ、花陽がそれを言わなかったのはなぜ?自分が原因かもしれないということを言って責められたくなかった?
希「それとも……」
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32 : 2014/10/03(金) 23:57:00.09 -
短いけど今日はここまでです
関係ないけどこのあと0時からTOKOMX、BS11でアニメ「夏色キセキ」の再放送があるみたいですね
関係ないけど -
37 : 2014/10/04(土) 23:54:51.95 -
——
穂乃果「すぅ……よし」
『花陽』を家に送り届けた『穂乃果』は、老舗和菓子店穂むらの前で深呼吸して気合いを入れた、他人の家に我が物顔で押し入っていくというのは花陽にとっては少々ハードルの高い事だった。
先ほど送った穂乃果は花陽の家に何の躊躇もなく入っていったようだったが。
何度も家に入った後のことをシミュレートしてようやく決心を固める、入り口の引き戸に手をかけたその瞬間、扉は向こう側から開かれた。
雪穂「うわっ、お姉ちゃんなにやってんの、今探しに行くところだったんだよ?携帯も置いていってるし」
穂乃果「うぇ!?あ…うん、ご、ごめん、ね?ちょっと…運動しに?」
雪穂「はぁ、元気だねぇ、そういえばずっと携帯鳴ってたよ、誰か知らないけど早く連絡した方がいいんじゃない?」
穂乃果「あ、うん…おじゃ…ただいまぁ…」
高坂母「あ、穂乃果どこ行ってたの!さっさとお風呂入りなさいよ?」
穂乃果「う、うん」
曖昧に返事する娘をよそに店の方にぱたぱたと駆けていく母、妹もいつの間にか部屋に引っ込んだらしい、一人取り残された花陽がこっそりついた溜め息は安堵によるものか憂鬱によるものか。
なんとなく足音を殺しながら穂乃果の部屋に入ると、机の上に放置してある穂乃果の携帯が着信ありを示すランプを点滅させていた。
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38 : 2014/10/04(土) 23:56:21.09 -
穂乃果「ひぇっ…」
着信 35件
海未ちゃん
海未ちゃん
海未ちゃん
海未ちゃん
・
・
・
・正確には分からないが、入れ替わってこの部屋を出てから今戻ってくるまで、せいぜい一時間半程度だったはず、なのにこの着信量は、この体の主は一体何をしでかしたというのか…。
と考えているうちに
~♪♪
再び鳴り出す無機質な音色
穂乃果「た、たすけてぇ——」
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39 : 2014/10/05(日) 00:03:10.16 -
——
花陽「わぁ!寝坊した!」
翌日、小泉家で花陽の体で目覚めた穂乃果は枕元の時計を見て叫んだ、朝練の集合時間まであと30分、すぐに向かえば間に合いはするが朝食を摂っている時間はなかった。
小泉母「珍しいねぇ、いつもご飯が炊ける頃には起きてくるのに」
花陽「ごめんご飯食べてる暇ない!このパン貰っていい?」
小泉母「え?…いいけど」
花陽「ありがと!いっへきはーふ!」
テーブルにあったコッペパン(ピーナッツバター入り)をくわえてダイニングを飛び出す、と、玄関の段差に座って凛が待っていた、花陽によると通学路の途中なので毎朝迎えに来ているらしい。
凛「あ、おはよー!今日は遅かっ……」
元気よく手を振り上げながら挨拶した格好のまま、固まる凛。
花陽「おふぁよーりんひゃん……どしたの?」
もごもごとパンをくわえたまま喋る口元を凝視して、プルプル震えていたかと思うと、今度は驚異的スピードで接近し、おでこに手を差し込んできた。
凛「か、か、かよちん大丈夫!?熱は…なさそうだけど、頭とか打った?何か変な物食べてない?」
花陽「あ、あの、凛ちゃん」
凛「朝はお米を食べないと一日が始まらないと言っていつも遅刻ギリギリ、時には遅刻してまでご飯を食べるかよちんが…パンを…!」
-
40 : 2014/10/05(日) 00:06:45.93 -
花陽「あっ…」
迂闊だった、花陽が重度の米キチ、もとい米好きなのは周知の事実、決してパンが嫌いなわけではないだろうが、目の前にご飯と並べられてパンの方を選ぶ道理は無い、花陽をよく知っている者であれば違和感は禁じ得ないだろう。
花陽「えっと……こ、これ、米粉パンなんだ!」
苦しい、あまりに苦しい言い訳だった、が。
凛「……………そっかーびっくりしちゃった!」
花陽「あ、あはは」
凛「っと、早く行こ!真姫ちゃん待ってるよ」
花陽「う、うん」
穂乃果は、口の中に広がる小麦粉の味を噛みしめながら凛の背中を追って家を出た。
-
41 : 2014/10/05(日) 00:13:37.54 -
——
穂乃果「お、おはよう」
海未「あ、おはようございます」
通学路の途中に海未が立っているのが見えたので声を掛ける、どうやらここが待ち合わせ場所らしい。
普段の朝練は神田神社集合での体力トレーニングだが本番前の今は学校に集合して午前は歌、午後はダンスの練習となっていた、その為夏休みだが二人とも制服で登校である。
海未「今日は早かったですね、いつもこれぐらい早く起きてくれればいいんですが」
穂乃果「う、うん」
海未「…あ、昨日の話、絶対誰にもしないでくださいね!ことりにもダメですよきっと忘れてるでしょうし、ていうかよく覚えてましたね穂乃果も」
穂乃果「え、うん」
昨晩の電話、どうやらなにか秘密の口止めの為だったようだが花陽には結局何の話だったのか分からなかったので話しようがない。
海未「ていうか私も忘れてたのによくもまあ思い出させてくれましたね」
穂乃果「ご、ごめん…」
海未「あ、いえ、そこまで怒ってるわけでは……他の人に広めなければいいので」
穂乃果「うん…」
-
42 : 2014/10/05(日) 00:18:59.90 -
海未「…」
穂乃果「…」
海未「…穂乃果?」
穂乃果「え?」
海未「なんか元気無くないですか?もしかして体調悪んじゃ」
穂乃果「そ、そんなことないよ!元気いっぱいだよ!!」
ボロを出さないようにあまり喋らないようにと思っていたがそれはそれで怪しまれる点になるらしい。
アドリブって一番苦手なやつだよ…。
海未「ならいいんですけど、体調悪かったらすぐに言ってくださいね、穂乃果はなんていうか…遠足の前日に眠れなくて当日体調崩すみたいなタイプですから」
穂乃果「それは…気をつけます」
-
43 : 2014/10/05(日) 00:25:17.37 -
ことり「穂乃果ちゃーん、海未ちゃーん」
海未「あ、ことり、おはようございます」
穂乃果「おはよう」
ことり「おはよ~、穂乃果ちゃん今日は寝坊しなかったみたいだねぇ、髪がちゃんとセットされてる」
穂乃果「あ、うん…」
こんなに言われるなんて穂乃果ちゃん普段どれだけ寝坊してるんだろう…、私の身体で寝坊してないよね…。
-
44 : 2014/10/05(日) 00:31:00.29 -
——
花陽「…っくしゅん!」
凛「お、誰か噂してるにゃー」
花陽「そうかな?」
凛「きっとかよちんのファンの人だよ~」
花陽「だといいねぇ」
凛「くしゃみ一回は褒められてるんだってよ」
真姫「非科学的な話してるわね」
凛「わ、真姫ちゃんおはよう」
花陽「おはよう真姫ちゃん!待っててくれたの?」
真姫「えっ、花陽が一緒に登校しようって言ったんじゃない…」
花陽「あれ、そうだっけ」
真姫「そうよ」
-
45 : 2014/10/05(日) 00:31:57.20 -
凛「かよちんも意外と抜けてるにゃー」
花陽「凛ちゃんには言われたくないよぉ」
凛「え、酷い」
真姫「……花陽は思ったより元気そうね」
花陽「うん、元気だよ?」
真姫「そ、よかった…ところで今日は眼鏡なのね、コンタクトは学校で付けるの?」
凛「あ、ホントだ」
真姫「今気づいたの?」
凛「かよちんは眼鏡かけててもかけてなくてもかわいいからね~」
真姫「いや、意味分かんない」
花陽「わ、忘れてた!!」
-
46 : 2014/10/05(日) 00:33:24.46 -
凛「家に忘れて来ちゃったの?」
花陽「あ、そ、そうみたい、朝ちょっと急いでて」
真姫「まあ本番じゃないんだし運動の邪魔にならないならいいんだけど」
花陽「多分、大丈夫だと思う」
真姫「そう、それにしても眼鏡のせいかしら、今日の花陽はいつもと雰囲気違って感じるわね」
花陽「そ、そうかなぁ?」
真姫「うん、花陽っていつ頃から眼鏡かけてたの?」
花陽「えっ?えっとぉ…小学校の頃から、かなぁ」
真姫「曖昧ね」
花陽「昔だから…」
真姫「それだと凛は眼鏡の花陽の方が見慣れてるのかしらね」
凛「うーんそうだねぇ、でも凛はどっちのかよちんも好きだよ?」
真姫「ブレないわね」
花陽「あはは…」
-
47 : 2014/10/05(日) 00:44:33.19 -
——
海未「おはようございます」
ことり「おはよ~」
穂乃果「お、おはよう」
にこ「ん、おはよ」
部室の先客は一人、部長のにこだけであった、どうやって回線を引いたのかなぜかネットに繋がっているPCを弄っているようだ。
モニタを横から覗き込んでみると、カラフルな衣装に身を包んだ女性四人が踊っている動画が流れていた、音はにこの頭にあるヘッドフォンに出力されているらしく聞こえないが、どうやらアイドル歌手のPVらしい。
-
48 : 2014/10/05(日) 00:46:22.57 -
穂乃果「あ!これ、フォーシーの新曲!」
にこ「あら?知ってんの?」
海未「フォーシー…聞いたことありますね」
ことり「あ~何年か前に流行ったアイドルだよね、フォーシーズン」
海未「フォーシーズン!私でも知ってます、一時期毎日のようにテレビから流れてましたよね」
ことり「最近は見ないけど、まだ活動してたんだね」
にこ「そ…」
穂乃果「失礼な!確かにテレビでの露出は減ったけどちゃんと新曲リリースしてるしラジオの冠番組だってずっとやってるし、この間もアルバム発売に合わせて全国ツアーを……、あ」
しまった、後悔したがもう遅い、三人とも目を丸くして『穂乃果』を見つめている、花陽は己の性を呪った。
にこ「詳しいのね穂乃果、ファンだったの?」
穂乃果「へ!?う、うん、そう、かも?」
-
49 : 2014/10/05(日) 00:55:35.71 -
海未「知りませんでしたね、穂乃果がアイドルにそこまで興味があったなんて、スクールアイドルを始めてからですか?」
ことり「まるでかよちゃんみたいだったねさっき」
穂乃果「あ、あははは……」
みたいどころか本人である。
にこ「穂乃果は誰推しなの?」
まずい、花陽の経験が警鐘を鳴らす、オタクという生き物は同類を見つけた時に最も生き生きするのだ、花陽自身もそうだから分かる、にこの目はその時の目だった。
いや、それだけなら問題ない、まだ誤魔化しようはいくらでもある、だが最大の問題は花陽も同類という点である。
つまりは自分の好きな物について訊かれたりなんかしたら語らずにはいられないのだった。
穂乃果「ミハルちゃん!」
にこ「あ~、ぽいわねぇ」
海未「どの娘ですっけ?」
海未も興味を示したらしく花陽とにこを挟むようにして反対側からパソコンの画面を覗き込んできた。
にこ「このオレンジの衣装の二つ結びの娘」
海未「へぇ…」
海未はなぜかチラチラと『穂乃果』の顔とパソコンの画面を見比べながら曖昧な返事をする。
穂乃果「?」
-
50 : 2014/10/05(日) 01:04:58.24 -
ことり「にこちゃんは誰が好きなの?」
今度はいつの間にかにこの後ろに回って頭上から画面を覗いていたことりが問う。
にこ「チナツね!」
穂乃果「わ~、ぽいね」
ことり「この背高い娘だよね」
にこ「そうそう、スタイル良くてファッションセンスもあるからズルいわよね~」
海未「私は…このポニーテールの娘が気になりますね」
穂乃果「アキラちゃん」
ことり「このウェーブ髪の娘は…なんだっけ」
にこ「フユミね」
海未とことりが意外な食いつきを見せてくる、いや、これでも花の女子高生、自分もスクールアイドルをやっている手前、名前を聞いたことのあるアイドルに興味を持つのも当然か。
にこ「たしか部室にライブBD置いてた気が……あ、これだ」
にこの収集したアイドルグッズが所狭しと詰め込まれている部室の壁一面を埋めているラックの中から、ひとつのディスクケースを取り出す。
-
51 : 2014/10/05(日) 01:11:27.57 -
穂乃果「あ!2012年のツアーラスト公演のBD!これのアンコールで、階段でミハルが転びそうになった時」
にこ「そう!とっさに受け止めたチナツを見て即座に反対側のアキラとフユミも同じポーズを取ったのよね!」
穂乃果「まるで最初からそういう演出だったみたいにね!」
にこ「仲間のミスもカバーして見せ場に繋げる、あれこそチームプレーよね~、それにしてもあそこに気づくなんて穂乃果もなかなかやるわね」
穂乃果「えへへ…」
希「ずいぶん楽しそうやね?」
唐突な背後からの声に四人が一斉に振り向くと、いつ部室に入ってきたのか、すぐ後ろに希が立っていた。
ことり「わ!希ちゃん、いつの間に」
にこ「あんた、本当に神出鬼没っていうか…、挨拶ぐらいしなさいよね」
希「なんか楽しそうに話しとったから、邪魔せんようにと思ってな?」
海未「だからって気配を消さないでください忍びの者ですか」
-
52 : 2014/10/05(日) 01:15:46.90 -
希「まあまあ、それよりだいぶ懐かしい話してたみたいやけど」
穂乃果「希ちゃんもフォーシー知ってるの?」
希「ウチらの世代やったら名前は誰でも知ってるんやない?今の状況はウチもよく知らんけど」
にこ「アイドルの世は諸行無常、ってことね」
希「にこっちそんな難しい言葉を知ってたんやね」
にこ「私のことなんだと思ってんのよ」
海未「いえ、にこは良いことを言いました、だからこそ常に精進、技を磨き続け——」
凛「おっはよー!」
海未が熱っぽく語り出してにこと希が揃って「しまった」という表情をしていたところに、人気のない校舎に響く元気な挨拶で凛が部室に現れる、それに続いて真姫と『花陽』も顔を出す。
真姫「おはよ」
花陽「おはよ~」
希「助かっ…いや、良いところに」
にこ「そ、そうそう、アイドルの話してたのよ花陽~、フォーシー知ってるでしょ?」
花陽「え?あ、う、うん…?」
にこ「…?反応薄いわね、いつもはアイドルって単語だけで鬼のように食いついてくるのに」
花陽「えっ!?あっ、も、もちろん知ってるよ!」
-
53 : 2014/10/05(日) 01:19:44.14 -
穂乃果「…あ、あとは絵里ちゃんだけだね!絵里ちゃんが遅いなんて珍しいね」
絵里「はぁ…おはよ…」
ことり「わ、噂をすれば」
希「でもなんか、元気ないね」
絵里「はぁ、日本の夏ってなんでこんなに暑いのよぉ」
海未「朝からそんなで大丈夫なんですか?午後はもっと暑くなりますよ」
絵里「ダメかもぉ、もうおうち帰りたい…」
花陽「…ほっ」
絵里の登場のおかげで話が逸れてくれたことに、穂乃果はこっそり安堵の溜め息をついた。
-
57 : 2014/10/06(月) 22:46:51.46 -
結果から言うと、その日の練習は散々な物だった。
お互いの振り付けは何度も見ているはずだが、やはりそれ専門に練習してきたわけではないので記憶だけでどうにかなるはずもなく…。
海未「たるんでます!」
穂乃果「ひゃい!」
床に正座した『穂乃果』を見下ろして腕組みする海未の形相は、とてもアイドルとして見せられるものではない。
海未「本番まで時間ないんですよ!?あんなパフォーマンスではお客さんにお見せできません!」
絵里「仕方ないわよねぇ、こんなに暑い中じゃ動きも悪くなるわよ」
海未「絵里は甘いです!穂乃果にはこれぐらい言わないと」
ことり「子供の教育方針で揉める夫婦みたいだね」
海未「だ、誰が夫婦ですか!」
-
58 : 2014/10/06(月) 22:50:58.29 -
海未「だ、だいたい、今日の穂乃果は動きが悪いというよりまるで振り付けをすっぽり忘れてしまったみたいなたどたどしさでした、まさかとは思いますが…」
穂乃果「うっ」
絵里「いや、さすがにこれだけ練習してきたことを急に忘れるなんてあり得ないわよ」
海未「ですが穂乃果の頭ですから、全くあり得ないとも言い切れないのでは…」
花陽「酷い!」
にこ「意識が足りないのよ意識が」
真姫「にこちゃんもかなり危なっかしかったと思うけど」
にこ「……に、にこ流のアレンジよ」
凛「今日はなんか全体的に合ってなかった気がするにゃ」
希「そうやねぇ」
ことり「一人がズレちゃうとそれが全体に波及しちゃうんだよね、特に」
センターだと。そう続けようとして、はっとしてことりは口をつぐんだが、花陽はそれを察してしまうタイプだった。
穂乃果「ごめん…」
ことり「あ、違うの、責めてるわけじゃなくて」
穂乃果「うん…」
花陽「…」
海未「とりあえず今日は解散ですけど、明日から気合い入れ直して来てくださいね、何度も言いますがもう本番まで時間ないんですから」
「「はーい」」
-
59 : 2014/10/06(月) 22:59:19.86 -
——
穂乃果「穂乃果ちゃん…ごめんね」
花陽「えっ?なにが?」
練習が終わった後、穂乃果、花陽そして希の三人は神田明神に集まっていた、時間的には夕方というべきだろうが夏ゆえにまだ陽は高い。
穂乃果「穂乃果ちゃんは悪くないのに花陽のせいで怒られちゃって…」
花陽「えぇ、そんなの気にしてないよ!練習してないんだから仕方ないよ」
穂乃果「でももしこのまま本番で私がミスしたら、それが穂乃果ちゃんの評価に……」
花陽「それは私も一緒だもん、ね、練習頑張ろう?二人でさ」
穂乃果「一緒じゃないよ、センターは一番見られるんだよ、お客さんからも、メンバーからも、今日全体的に動きが悪かったのだって私のせいで…」
花陽「それは…そうかもしれないけど、これから練習すればきっと大丈夫だよ」
穂乃果「…やっぱり穂乃果ちゃんはすごいよ、私はそんなに強くなれないよ……それなのに花陽なんかがセンターを奪って……やっぱり私には無理だよ…」
消え入りそうな声で呟きながら、抱えた膝に顔を埋める。
-
60 : 2014/10/06(月) 23:14:09.55 -
花陽「……かよちゃんはもしかして、自分がみんなの足を引っ張ってる、なんて思ってるの?」
穂乃果「…っ」
びくりと肩が震える、図星だった、それを見て穂乃果は小さく嘆息する。
花陽「逆に考えたらどうかな、ひとりがみんなの足を引っ張るんじゃない、なにかアクシデントやミスがあってもそれをカバーする為にみんながいるの」
花陽「だって失敗しない人なんかいないんだから、もし失敗した時に一人だったらもうそれは失敗のまま終わりだけど、仲間がいて助け合うことが出来たら、ただ失敗するよりはずっと良いと思わない?」
穂乃果「あっ…」
花陽の脳裏にある映像が浮かぶ。
とあるアイドルのステージ、階段で躓いて転びそうになったメンバーを隣にいた仲間が支える、すると舞台の反対側にいた二人も同じように手を取り合うポーズをとった。
-
61 : 2014/10/06(月) 23:26:04.23 -
花陽「一人じゃ絶対に足りないから、お互いに必要な部分を補い合って、助け合うために私たちって九人いるんじゃないかなって思うんだ」
花陽「きっとかよちゃんも誰かの助けになったことがあるはずだよ、もしかしたら、自分で気づかないうちにも」
暖かい微笑を湛える穂乃果に、後ろ向きのまま凍り付いていた心がゆっくり溶かされていくような感触を覚えた。
花陽「だからもっと頼っていいんだよ、もしかよちゃんがダンスが大変だって言うなら私がとことん練習に付き合う!それは足を引っ張ってるんじゃなくて、仲間として、かよちゃんがμ'sにとって必要だから助け合うの」
花陽「現に今、穂乃果もかよちゃんが必要なの、だから力を貸して?」
——ドクン
心臓が跳ねる、真っ直ぐに見つめてくる瞳から目が離せなくなる、私ってこんなに綺麗な瞳をしてたっけ。
-
62 : 2014/10/06(月) 23:27:03.75 -
穂乃果「う、うん…」
花陽「ありがとうかよちゃん!」
なんで自分にドキドキしてるんだろう…。
花陽「さ、そうと決まったら急がなきゃ、時間は待ってはくれないぞ~!」
大輪の向日葵のような笑顔で無邪気に笑う『花陽』に驚いて、そんな自分に内心苦笑する。
……私って、こんな顔できるんだ。
穂乃果「うん」
-
63 : 2014/10/06(月) 23:31:11.21 -
希「いやぁ青春やねぇ」
夕暮れの神田明神、二人で練習する花陽と穂乃果を傍目に見つつ俯く希、その目線の先には彼女の鞄の上に並べられた数枚のカード。
タロットカード、占いで有名なカードだ、特に22枚の大アルカナはその名前ぐらいは知っている者も多いだろうが、それを使った希の占いは当たるという評判だった。
希「ふむ」
規則的に並べられたカードの中の真ん中にある一枚を表にする、描かれているのは杖とランプを持ったローブ姿の老人、Hermit、隠者のカードである。
希「隠者の逆位置…これであっさり解決、とはいかんみたいやね、現にまだ入れ替わりは解けてないみたいやし」
二人が練習している方に視線を送る、花陽の私物らしい小ぶりのかわいらしいCDラジカセから流れる音楽に合わせて、今は花陽が『花陽』に振り付けを教えているらしい。
穂乃果「そこ逆、右回りだよ」
花陽「あぁん、ややこしい」
穂乃果「で、隣の人との間隔に気をつけながら前後入れ替わって…」
花陽「はいはいはい!」
希「……あとは本人次第、ってことなんやろうか」
二人から今度は神田明神の本殿へと視線を移して呟く。
-
64 : 2014/10/06(月) 23:31:58.00 -
花陽「おっ…と、危ない」
穂乃果「大丈夫?」
花陽「うん平気」
練習はどうやら難航しているようである、なまじ一度覚えてしまっているためいきなり違う振り付けを覚えなおすのは余計に大変かもしれない。
希「それとも、本当に神様の気まぐれ…?」
-
65 : 2014/10/06(月) 23:34:31.13 -
穂乃果「そういえば…眼鏡、邪魔じゃない?」
花陽「うーん、やっぱりちょっと揺れるのが気になるかな」
穂乃果「だよねぇ、コンタクトの付け方分かる?」
花陽「分かんない、ていうか怖くて無理…」
穂乃果「私も最初は怖かったけどすぐ慣れたから大丈夫だよ、付け方教えてあげようか?」
花陽「でも…」
穂乃果「でも、このまま眼鏡で本番に出るわけにもいかないし…」
花陽「そ、そうだね……ちゃんと教えてね?」
よほどコンタクトを入れるのが怖いのか軽く涙目になりながら上目遣いで『穂乃果』を見上げてくる。
穂乃果「う、うん」
-
66 : 2014/10/06(月) 23:40:37.94 -
花陽「それにしてもかよちゃんって本当に目悪いんだね、昨日お風呂入る時に外したら何にも見えなくてびっくりしちゃった」
穂乃果「両目とも視力0,2ぐらいだからねぇ」
花陽「うひゃ~、シャンプーとリンスが分からなくてすごく苦戦したよ~」
穂乃果「あ、それはボトルの横にデコボコがあるのがシャンプーだから触って区別するんだよ」
花陽「へぇ~知らなかった……それにしても」
穂乃果「?」
花陽「お風呂の時に思ったけどやっぱり大きいよね、生で見ると余計に」
穂乃果「あ、あんまり見ないでよ恥ずかしいよぉ」
花陽「食べてるものの差かなぁ?ご飯をいっぱい食べれば私も…」
重さを感じるように下から持ち上げるようにして己の胸を揉む『花陽』。
穂乃果「ちょ、自分で胸を触ってる自分の姿なんか見たくないよやめてよ…」
-
67 : 2014/10/06(月) 23:46:50.78 -
希「随分余裕あるみたいや、ね!」
いつの間にか背後に回っていた希が後ろから『穂乃果』の胸を鷲掴む、伝統芸能わしわしである。
穂乃果「や、やめ…ひゃぅ…!」
花陽「自分がセクハラされてるのを客観的に見るのって結構キツいものあるね」
穂乃果「冷静に感想を述べてないで助け…やぁっ…ん…!」
希「ちゃんと練習せんと明日また海未ちゃんに怒られるよ~?」
穂乃果「分かったから手を止めてぇ!」
-
68 : 2014/10/06(月) 23:54:59.62 -
——
翌日、学校のトイレにて。
花陽「うぅぅぅ…………やっぱ無理ぃ!」
穂乃果「大丈夫だよ、花陽でもできたんだから、ね?」
花陽「でもぉ…」
人差し指にコンタクトレンズを乗せたままぷるぷる震えながら目尻に涙を溜めてこちらを振り返ってくる。
花陽「目に物を入れるなんて……できるわけないよぉ!」
穂乃果ちゃんの意外な弱点…なんだけど外見が花陽なせいで違和感がないのが悲しい。
花陽「それにもしも失敗してかよちゃんの目を傷つけたりなんかしたら私…」
穂乃果「だ、大丈夫だよよっぽどのことがない限りそんな酷いことにはならない……と思うから」
花陽「もしこれでかよちゃんの目が見えなくなったら……穂乃果が一生かよちゃんの目になって生きていくよ、そしたら許してくれる?」
穂乃果「そ、そこまで深刻に考えなくても…」
-
69 : 2014/10/06(月) 23:56:16.51 -
花陽「やっぱり許してくれないよね…うぅ…」
穂乃果「ゆ、許す許しますから!」
花陽「…ありがとう、やってみる」
穂乃果「うん……あ、逆の手で上瞼を押さえて、レンズ持ってる手の中指で下瞼を押さえて、目線を逸らさずに」
花陽「…………っ!」
穂乃果「あ」
花陽「……あれ、いけた?」
穂乃果「目を上下左右に動かしてみて違和感がなければ大丈夫」
花陽「うん、なんともないよ」
穂乃果「じゃあ左目も」
花陽「うん……、ほい!」
穂乃果「あとは軽く目を閉じてたら安定すると思うから」
花陽「おっけー」
穂乃果「コンタクト付けたまま目が乾燥するとよくないから時々目薬指してね、今はいらなそうだけど、あ、これコンタクト付けたままでも使っていい目薬だから」
花陽「うん…もう開けていいかな?」
穂乃果「あ、うん、いいよ」
花陽「ふぅ~、意外と簡単だったね!」
穂乃果「そ、そう…」
-
70 : 2014/10/07(火) 00:00:16.63 -
花陽「おぉ、いつものかよちゃんだ」
鏡に映る自分の顔を見ながら感心して頷く。
花陽「ってまあ中身はいつものじゃないんだけどね」
穂乃果「そう…だね」
花陽「あ……」
ふと、ふたりの間に沈黙が流れる。
気楽に振る舞っていても元に戻る手立てがないという先の見えない不安は常につきまとっている、今はまだちょっとしたなりきりの範疇だがこの状態が長く続けば必然的に今のようなお互いの外見への”最適化”が行われていく、自分でない人が自分になり代わっていく、自分が自分でなくなっていく感覚。
恐怖を覚えないわけにはいかなかった。
穂乃果「……そろそろ戻ら」
花陽「さっき、私『かよちゃんの目が見えなくなったら私が目の代わりになる』って言ったけどさ、それって元に戻れたらの話だよね、もしずっと戻れなかったら…」
穂乃果「穂乃果ちゃん…」
花陽「…なんでもない!そんな後ろ向きなのは私らしくない!よね、さ、早く戻らないとみんな心配しちゃうよ」
穂乃果「うん…」
『穂乃果』は考えを振り払うように小さくかぶりを振って『花陽』を追ってトイレを後にした。
-
71 : 2014/10/07(火) 00:07:13.22 -
「——っは」
後奏が終わり、余韻の残っている間無意識に止めていた息を吐く誰かの声を合図に、全員がポーズを解いていく。
翌日、入れ替わった日から数えて三日目、今日も学校の屋上で練習が行われていた、練習ができる日は今日を合わせてあと三日である。
絵里「…ふぅ、今日はここまでにしましょうか、お疲れ様」
「「おつかれー」」
海未「昨日よりは大分マシ…と言ったところでしょうか、あ、ありがとうございます」
ことりから渡されたタオルを受け取りながら海未が呟く。
穂乃果「ほっ」
海未「と言ってもまだ完璧じゃありませんからね!」
穂乃果「は、はい!」
ことり「まあまあ、はい、穂乃果ちゃんも」
穂乃果「あ、ありがとう」
海未「……穂乃果、今日は随分おとなしいですね」
穂乃果「うぇ!?」
ことり「そうだね~、正確には昨日からかな?」
言動にはかなり気をつけていたつもりだが、やはり元の性格が違いすぎたか、10年来の幼なじみともなれば違和感を覚えるところがあるのだろう。
-
72 : 2014/10/07(火) 00:08:19.04 -
穂乃果「そ、そんなことないよ…?」
海未「本当ですか?」
穂乃果「う、うん」
海未「……その手をモジモジするのやめて下さい、子供っぽいですよ」
穂乃果「あっ」
海未「穂乃果がおとなしいなんてなにかよっぽどやましいことが…あ、もしかしてあの電話の件となにか関係があるんじゃ」
ことり「ん~?何の話?」
海未「はっ!なんでもないですよなんでも」
ことり「ふぅん?」
笑顔のことりに見つめられてダラダラ汗を流しながら目を反らす海未、この幼なじみ三人組の間ではどうやら妙な力関係が成り立っているらしい。
-
73 : 2014/10/07(火) 00:09:04.06 -
ことり「…まぁいいけど」
海未「……ほっ」
ことり「それより、もしかして夏バテかな?バランス良く食べないとダメだよ~?」
海未「そ、そうです、いつもパンばっかり食べてるから——」
穂乃果「あははは…」
ここぞとばかりに話を逸らして説教を始める海未に思わず乾いた笑いを漏らす花陽だった。
-
74 : 2014/10/07(火) 00:12:22.66 -
凛「…」
花陽「凛ちゃん?」
凛「えっ?どうしたのかよちん」
真姫「どうしたのじゃないわよ、帰りどこか寄っていこうって言ってきたのは凛の方でしょ」
凛「ありゃそうだっけ、二人はどっか行きたいところある?」
真姫「私は別に」
花陽「私も…」
凛「じゃあ凛イチオシのラーメン屋に」
真姫「この時間にラーメンなんか食べたら晩ご飯入らなくなるでしょ、それならパス」
凛「えぇ~、自分では案出さないくせにケチつけるのぉ?」
真姫「凛のくせに正論っぽいことを…」
-
75 : 2014/10/07(火) 00:13:17.00 -
絵里「寄り道の相談?なら私たちと一緒にかき氷食べに行かない?」
花陽「かき氷?」
凛「いいね!」
絵里「そうよ」
真姫「まあ、かき氷ぐらいなら」
凛「かよちんも行くよね?」
花陽「あー、え…っとぉ」
希「そんなに遠くないし時間はかからんと思うよ」
花陽「…うん、行こうかな」
にこ「穂乃果達も三人とも来るって」
絵里「じゃあ全員ってことね!」
凛「楽しみにゃぁ」
海未「楽しみにするのはいいですが、ちゃんとストレッチしてくださいね」
「「はーい」」
-
76 : 2014/10/07(火) 00:14:25.79 -
——
凛「ねえかよちん見て見て、べっ」
食べかけのブルーハワイを片手に自分の舌を見せてくる。
花陽「ふふっ、真っ青」
凛「えへへ、かよちんのも見して~」
花陽「べ」
凛「…いちごだから分かんないね」
花陽「だよね~」
真姫「私もいちごにすればよかったわ…」
凛「あははっ!真姫ちゃん舌緑になってるー」
真姫「し、しょうがないでしょ!」
-
77 : 2014/10/07(火) 00:15:19.27 -
花陽「ぷっ」
真姫「花陽までっ!」
花陽「だってなんかかわいくって…あはははっ」
真姫「そんなわけないでしょ」
花陽「ごめんごめ…ぷふふっ…」
真姫「もうっ!」
凛「あ、真姫ちゃんどこ行くの?」
真姫「…お手洗いよ」
凛「いってらっしゃーい」
真姫「……花陽ってあんなに笑う子だったっけ」
-
78 : 2014/10/07(火) 00:15:55.90 -
絵里「知ってる?ブルーハワイって名前の由来、元々は——」
希「あぁ、たしか映画のタイトルなんよね、でそれがカクテルの名前になって、色が似てるかき氷もそう呼ぶようになったって言われてるみたいね」
にこ「へぇ、詳しいわね」
ことり「希ちゃんかしこい」
絵里「ちょっとぉ!台詞とらないでよ!」
希「知ってる?って訊いてきたやん…」
-
79 : 2014/10/07(火) 00:18:53.14 -
海未「穂乃果は…マンゴー味ですか?珍しいですね、いつもいちごばっかり頼むのに」
穂乃果「え?あっ…た、たまには違うのも食べたくなったんだよ!」
忘れてた、穂乃果ちゃんっていちごが好きなんだっけ、でもかき氷のいちご味って本物のいちごとは全然…いやそういう問題じゃないか。
海未「そうですか」
穂乃果「海未ちゃんはコーラ?なんか意外」
海未「かき氷のコーラ味なら炭酸は入ってませんからね、コーラの味を楽しめる数少ない機会なので」
穂乃果「かき氷のコーラで本来のコーラの味をどのくらい味わえるかは…まあいいとして、宇治金時とか頼むのかなって思ってたけど」
海未「まあ確かに宇治金時も好きですが……穂乃果が好きじゃないじゃないですか…」
穂乃果ちゃん宇治金時好きじゃないんだ、確かにちょっと渋い好みの分かれる味ではあるけど、甘い練乳とのギャップが楽しめておいしいのに。
…でもなんで海未ちゃんが穂乃果ちゃんの好みに合わせてオーダーしてるんだろう?
-
80 : 2014/10/07(火) 00:23:25.94 -
海未「…」
穂乃果「…」
海未「あ、あの…」
穂乃果「なに?」
海未「…なんでもないです」
ことり「じゃあことりが海未ちゃんの一口貰おっかな」
海未「ことり!?いつの間に!」
ことり「さっきからずっといたよ?」
海未「いや絵里達の方に行ってたじゃないですか」
ことり「うーん、この体に悪そうな甘さ、癖になるよね~」
海未「勝手に取らないでください」
-
81 : 2014/10/07(火) 00:25:01.98 -
ことり「はい、お返しにことりのレモン、一口あげる」
先がスプーン状になった独特のあのストローで黄色いシロップのかかった氷を一掬い、海未の口元に持って行く。
ことり「あーん」
海未「あ、あー…ん」
少し照れながらも、迷い無くことりの差し出すストローに食いつく。
照れ屋の海未ちゃんがこの衆人環視であっさり『あーん』をやってのけるなんて、ちょっと意外…。
ことり「おいしいでしょー?」
海未「…すっぱいです」
ことり「そりゃあね」
言いながら、こっそり『穂乃果』に向かってウインクしてくる、何か伝えたいのかもしれないがさっぱり分からない、本来の穂乃果ちゃんなら理解できるんだろうか。
穂乃果「…海未ちゃんとことりちゃん仲良しだねぇ」
ことり「今日の穂乃果ちゃんやっぱり…」
海未「はい…」
穂乃果「えっ?」
-
82 : 2014/10/07(火) 00:27:01.38 -
にこ「やっぱりちゃんとしたお店のはおいしいわね、夏祭りの屋台のやつって氷が粗くてあんまりおいしくないのよね~そのくせ高いし」
花陽「お祭り価格ってやつだね、それが分かってても雰囲気に乗せられて買ってしまうんだよね~」
ことり「いいね~夏祭り、みんなで浴衣着て行きたいね」
花陽「海未ちゃんなんかすごく似合うよね、浴衣っていうか和服」
海未「嫌味ですか?」
花陽「なんで!?」
凛「去年はかよちんと食べ物系屋台全制覇したんだよ!ね?」
にこ「ふふっ、さすが凛と花陽は色気よりも食い気ね」
穂乃果「そ、そんなことないよぉ!」
海未「なんで穂乃果が反応してるんですか」
凛「そうだよ、かよちんは色気もばっちりだもん」
にこ「いや、そういう意味じゃないんだけど」
ことり「でも確かに…」
にこ「ぐぬ」
海未「あの、この話題から離れません?」
-
83 : 2014/10/07(火) 00:28:27.11 -
花陽「浴衣と言えば、帯の後ろに団扇挿すの、あれなんでだろうね」
にこ「手に持つのが邪魔だからじゃないの?」
海未「それもあるでしょうが、コーディネートの一環でしてるのが主だって聞いたことあります」
ことり「本当は着崩れしやすくなっちゃうからあんまりよくないんだけど、でも風情がでるよね」
穂乃果「そうだねぇ、浴衣の柄に合いそうな色の団扇探したりしちゃうよね」
花陽「わかるわかる!…でもさ、あれやると背中痛くならない?」
穂乃果「あははっ、背筋伸びちゃうもんね」
花陽「そうそう、それが辛くていつも途中でやめちゃうの、でも他の娘がやってるのをみるとまたやりたくなって挿して、でまた痛くなって抜いてって繰り返してたら」
穂乃果「帯ゆるゆるになっちゃうよ」
花陽「そうなんだよ~、やっぱりあるあるなんだねぇ」
にこ「いやないけど」
海未「ていうか花陽今日は随分テンション高いですね」
花陽「うぇ!?そ、そんなことないよ?」
ことり「穂乃果ちゃんとかよちゃん、話弾んでたね~」
穂乃果「えっ、ふ、普通だよぉ?」
凛「…」
-
87 : 2014/10/10(金) 00:14:58.96 -
——
花陽「ごめーん、おまたせ」
一旦解散した後各々の自宅に戻って練習着に着替えてから神田明神に『花陽』が到着すると、練習着姿の『穂乃果』と制服姿の希が並んで待っていた。
穂乃果「私の家の方が遠いから仕方ないよ」
花陽「ていうか希ちゃんまで」
希「せっかく事情を知ってるんやから手伝いぐらいさせてよ、っていってもたいしたことできないけど」
花陽「ありがとう希ちゃん」
希「ええって、それより今日は寄り道したから時間ないしはよ始めた方が良くない?」
穂乃果「そうだね」
花陽「よぅし!頑張ろう!」
-
88 : 2014/10/10(金) 00:17:30.81 -
花陽「1,2,3,4!」
『花陽』のかけ声に合わせてステップを踏む、今回の新曲はアップテンポでいつもついていくのがやっとだった、のだが。
花陽「5,6,7,8!」
今はついていけてる、どころか周囲を気にする余裕すらある。
なんだか、身体が軽い、指先にまで力が行き渡るような感覚、運動神経の差なのかな…?
花陽「うん!かなりできてきたんじゃない?」
穂乃果「本当?よかったぁ」
花陽「うん、練習始めて二日にしては上出来だよ」
穂乃果「同じような部分もあるから完全にイチからってわけじゃないし、それに穂乃果ちゃんの体だとなんだか動きやすい気がする」
花陽「そう?私はあんまり差は感じないけどなぁ、体格もそんなに変わらないし、胸以外」
穂乃果「こ、こだわるね、実際そこまで違わないと思うけど」
花陽「いやいや、この体になって明確な違いを発見したんだよ……かよちゃんの胸は、動くと揺れる」
穂乃果「ちょっ」
希「ほう…」
-
89 : 2014/10/10(金) 00:18:57.83 -
花陽「穂乃果の体になってるからかよちゃんには分かると思うけど、穂乃果のは揺れないもん」
希「かよちん辺りから揺れるボーダーラインなんやろうか」
花陽「しかも一年生でこれだよ?まだ成長中だってこの前凛ちゃん言ってたし」
穂乃果「待ってなんで凛ちゃんが知ってるの」
花陽「将来的には絵里ちゃんや希ちゃんレベルになる可能性もあるって事だよね、末恐ろしい…」
希「ほう、ちなみにウチは一年生の時は今のかよちんよりちょっと大きかったかな~?」
花陽「そっかー、じゃあ希ちゃんレベルは厳しいかな」
希「でもここからの育て方次第では————」
花陽「ひぃ!さ、さぁー練習しなきゃ練習!」
穂乃果「そうだねー!時間ないからねー!」
希「ちっ」
-
90 : 2014/10/10(金) 00:20:27.63 -
——
穂乃果「はぁ…疲れた…」
自宅(この体の、だが)への帰り道の途中、花陽は思わず呟く。
本来の練習の後再び神田明神で穂乃果と落ち合って暗くなるまでみっちり特別練習、体力的に大変なことは間違いないが、それよりも常に他人になりきり続けなければならない心的疲労の方が花陽にとっては堪えていた。
花陽は嘘をつくのが苦手なのだ。
穂乃果「た、ただいまぁ」
まだ慣れない他人の家での帰宅の挨拶をぎこちなくこなしつつ高坂家の扉を開けると。
高坂母「あ、穂乃果丁度良い所に、悪いけどこれ運ぶの手伝って!」
穂乃果「えっ」
玄関にずらりと並べられた俵、他人ならともかく花陽がその中身を見紛うはずがない、米である、一般家庭で使用する量ではない、和菓子屋であることを考えれば餅米だろう。
花陽の目測ではひとつの俵で30キロ、それが1,2,3……いっぱい。
-
91 : 2014/10/10(金) 00:21:31.23 -
穂乃果「こ、これ」
高坂母「ほら、そっち側持って」
穂乃果「あ、はい」
あ、さすがに一人で持たせるわけじゃないのか…と安心するのもつかの間、言われるがままに厨房と玄関の往復作業に従事すること、約一時間。
穂乃果「はぁぁ…、もうダメ…」
高坂母「ふぅ、助かったわ~、はいこれお駄賃」
穂乃果「え?」
高坂母「あらいらないの?いつもは飛び跳ねて喜ぶのに」
穂乃果「あっ、や、やったー!あ、あははは……」
高坂母「?」
-
92 : 2014/10/10(金) 00:23:07.49 -
穂乃果「はぁ~、やっぱり違和感無くなりきるなんて無理だよねぇ…」
ベッドに倒れ込みながらため息をつく、家でも部屋に居る間ぐらいしか心が休まらないのは負担の一端だろう。
穂乃果「…やっぱりこのままじゃダメだよね」
がちゃり
雪穂「お姉ちゃん漫画貸してー」
穂乃果「ひゃい!?」
雪穂「どしたの変な声出して…、あ、巻数順に並んでる、整理したんだ珍しい」
穂乃果「え?あ、うんそうなの~」
雪穂「えーっとこれだ、じゃあまた後で借りに来るから」
穂乃果「は、はぁ~い…」
この部屋でも心休まる時間はなさそうだ。
-
94 : 2014/10/10(金) 00:30:55.75 -
にこ「今の、良かったんじゃない?」
海未「そうですね、まあ本番はもう明後日なんですからやっと出来上がったって感じですけど」
希「海未ちゃん厳しいなぁ」
絵里「特に穂乃果、動きがダイナミックでとても良かったと思うわ」
穂乃果「ほ、本当?」
花陽「やったね!」
穂乃果「うん!」
ことり「うふふ、二人ってそんなに仲良しだったんだね」
穂乃果「あっ」
気づくと『花陽』と手を握り合って見つめ合っていた、ここ二日の個人練習で随分距離感が近くなっていたらしい。
花陽「そ、そうだよ~」
穂乃果「あははは…」
凛「…」
-
95 : 2014/10/10(金) 00:31:54.44 -
海未「ダベってないでちゃんとストレッチしてくださいね、本番前に怪我なんて洒落になりませんから」
穂乃果「は、はーい」
凛「…ねぇ穂乃果ちゃん、一緒にストレッチしよ?」
穂乃果「え?うん、いいけど」
凛「こっちこっち」
手を引っ張られてみんなの居るところから少し離れたところに連れて行かれる。
穂乃果「凛ちゃん?」
凛「…穂乃果ちゃん、今日はあのシャツじゃないんだね、昨日も違う奴だったっけ」
穂乃果「あの…って」
凛「『ほ』ってでっかく描いてあるやつ」
穂乃果「あぁ…あれは…」
あんな斬新なデザインの服恥ずかしくてとても着られない…とは言えない。
-
96 : 2014/10/10(金) 00:35:12.67 -
穂乃果「ちょっと汚しちゃって、洗濯中なの」
凛「ふぅん…」
自分から訊いておきながら興味なさげに相づちが帰ってくる、目線が『穂乃果』の指先に注がれているのに気づいた。
穂乃果「?」
凛「…練習終わったら、帰らないで部室に残って」
急に間を詰めてきたかと思うと、耳元で囁かれる。
穂乃果「えっ?」
凛「さ、早くやろ、ストレッチ」
穂乃果「…」
見慣れたはずの凛の表情からは何も読み取ることは出来なかった。
-
101 : 2014/10/12(日) 22:05:20.00 -
——
凛「ごめんね急に呼び出して」
穂乃果「えっと…」
日が傾いて少し薄暗くなった部室で机を挟んで二人向かい合う。
凛「ちょっと相談があって」
穂乃果「相談…?私に?」
凛「うん、だってかよちんのことだからかよちんには相談できないでしょ」
穂乃果「えっ、そ、そうだね」
凛「…最近かよちんの様子おかしいと思わない」
いきなり核心であった。
穂乃果「そ、そう……かな?」
凛「なんか、明るすぎるっていうか、積極的すぎるっていうか」
普段の自分はそんなに暗くて消極的だと思われているということだろうか、いや穂乃果と比べればそれ以上に積極的な人などそうそういないだろうし、そもそも自分のことを明るい人間だと思っていたわけでもないが、それでもちょっとショックである。
-
102 : 2014/10/12(日) 22:08:50.06 -
穂乃果「い、良いことじゃないかな?」
凛「急すぎるんだよね、だから穂乃果ちゃんなにか知らないかなって」
穂乃果「ちょっと分かんない、かなぁ」
凛「ホントに?」
穂乃果「うっ」
凛のくりくりした目で見つめてくる。その無垢な瞳と見つめ合うは苦手だった、自分の弱い心を見透かされるような気がして。
いつも、失敗することを恐れて予防線を張って、妥協して、諦めたふりをして、自分を誤魔化してばかりの私を見通されるような気がして。
そして事実花陽が凛に隠し事ができた試しが一度もなかった。
凛「なんで目逸らすの」
穂乃果「だ、だってそんなに見つめてくるから」
穂乃果「だいたいなんで私なの?凛ちゃんに分からないことが私に分かるはずが…」
-
103 : 2014/10/12(日) 22:11:34.60 -
凛「最近かよちんと穂乃果ちゃん急に仲良くなったよね?」
穂乃果「そ、そんなことないよ、普通だよ」
凛「普通じゃないよ、なにか知ってるんでしょ?教えてよ」
穂乃果「し、知らないよぉ」
凛「……嘘」
穂乃果「…えっ?」
凛「その、指もじもじする癖、かよちんが隠し事してるときにいつもやるんだ」
穂乃果「あっ」
慌てて手を解く、が、余計に怪しさを増しただけだった。
凛「かよちん、なんでしょ?」
穂乃果「……」
凛「何があったの?凛に教えて?」
確固たる証拠は無い、まだしらばっくれることはできた。
穂乃果「……うん」
だが花陽は凛に隠し事を出来たことが一度もないのだった。
-
104 : 2014/10/12(日) 22:14:09.79 -
——
花陽「いやー、意外と早くバレちゃったね」
穂乃果「ご、ごめんなさい…」
花陽「いや、責めてるわけじゃないんだけど…、凛ちゃんはなんで分かったの?」
凛「まず…一昨日の朝かな?朝食にパンくわえて出てきた時におかしいって思ったけど」
希「そりゃバレるわ」
穂乃果「それはバレるよ」
花陽「え~」
静かな神田明神に『花陽』の声が木霊する、練習に使わせてもらっていてなんだがいつ来ても全然参拝客が居ないが大丈夫なんだろうか。
-
105 : 2014/10/12(日) 22:16:55.43 -
凛「それよりもさ、気になることがあるんだけど」
花陽「なに?」
凛「なんでこのこと秘密にしてるの?」
穂乃果「…!」
花陽「え?そりゃぁ…みんながいつ気づくか試すために」
希「穂乃果ちゃんさすがやね」
花陽「あれ、違ったっけ?」
希「あ~いや…うん」
花陽「あー、話したところで信じて貰うのは難しいし、大事にするのも良くないから黙ってようってことになったんだっけ」
凛「……確かに凛も未だに完全には信じ切れない気持ちもあるから、もしそんなこと言われてもすぐに信じるのは無理だったかもしれないけど……それでも言って欲しかったよ、身近な人がこんな大変なことになってるのに知らないままのうのうと過ごしてたって思うと…怖いよ」
花陽「大変なことって言っても別に…」
凛「もしかよちんか穂乃果ちゃんが急に遠くに引っ越すことになったらどうするの?それでもずっとかよちんのフリしたまま生きていくの?」
花陽「それは…」
穂乃果「待って!穂乃果ちゃんは悪くないから、悪いのは花陽だから…そういう風に言わないで」
穂乃果「え?」
希「かよちん…」
凛「どういう意味?」
-
106 : 2014/10/12(日) 22:25:03.63 -
凛「つまり、かよちんが『穂乃果ちゃんみたいになりたい』って言ったから入れ替わったってこと?」
花陽と希は入れ替わりが起こる直前の様子を詳細に説明した。
花陽「私も初耳なんだけど」
穂乃果「うん…ごめん…」
凛「本当にそれ…それだけが原因なの?」
希「確固たる証拠は無いけど、入れ替わる瞬間を目の前で見てたウチの印象では間違いないと思う」
凛「そう…」
花陽「でも、なんとなく言ったことが意図せず現実になっただけで、かよちゃん自身が入れ替わりを起こそうと思ってなにかやったわけじゃないんだよね?じゃあかよちゃんが悪いわけじゃないんじゃない?」
穂乃果「それは…」
希「かよちん…無理に話さんでも」
穂乃果「ううん、ありがとう希ちゃん、でもちゃんと話すよ」
花陽「どういうこと…?」
穂乃果「花陽が悪いって言ったのは……この入れ替わりが元に戻らない原因が花陽にあるから、なの」
-
107 : 2014/10/12(日) 22:26:55.58 -
花陽「え?いまいち話が見えないけど…元に戻る方法が分かってるみたいに聞こえるけど?」
穂乃果「うん、入れ替わった原因が私の願いなら、戻る方法は多分……私の願いが成就すること、それしかないと思う」
花陽「?」
穂乃果にはいまいちピンとこないようで呆けたような顔で首をかしげるが、すかさず凛が食いついてくる。
凛「それってつまり、かよちんの願いはただ穂乃果ちゃんの姿になりたいってことだけじゃない、ってことだよね」
穂乃果「……入れ替わったあの日、鏡で自分の姿を見て思ったの——」
この姿なら、私もセンターになれる?
いつも、ステージの真ん中で誰よりも輝いている穂乃果ちゃんみたいに、次のライブでは私が…?
穂乃果「多分その時点で、穂乃果ちゃんの体で次のライブでセンターをやりたい、そういう願いとして聞き届けられたんだと思う」
-
108 : 2014/10/12(日) 22:32:14.20 -
花陽「ふぅん」
穂乃果「ふぅんって」
花陽「てことはこのまま次のライブをやれば願いが叶って元に戻れるってわけだよね」
穂乃果「た、多分」
花陽「元々そのつもりでこうやって練習してきたわけだし、じゃあやることは変わらないじゃん、この機会を逃したら次いつライブやるか決まってないし」
穂乃果「それはそうだけど」
花陽「ていうかセンターやりたいんだったら言ってくれればよかったのに、回りくどいことしなくてもかよちゃんがやりたいって言ったらきっとみんなも——」
穂乃果「そ、そうじゃなくて……怒らないの?」
花陽「え?なんで?怒るところだった?」
穂乃果「だって私、自分のしたいことの為に穂乃果ちゃんの体を奪って、あまつさえそれで喜んでたんだよ?自分勝手でみんなに迷惑かけて、穂乃果ちゃんの今までの頑張りを無駄にするようなことをしてって頼んでるんだよ?」
花陽「いいんじゃない?迷惑かけても、…言ったでしょ、私たちは助け合うために九人いるんだって」
穂乃果「でも…」
花陽「穂乃果なんかいつもわがまま言ってお母さんとか海未ちゃんに怒られてるしそれに比べたらかよちゃんなんか謙虚も謙虚、だからたまのわがままぐらい快く聞いちゃうよ、あ、だから神様がご褒美に願いを叶えてくれたのかな」
穂乃果「そ、それはどうかな…」
花陽「ま、ともかく今まで通りってことでいいんだよね」
穂乃果「本当にいいの?」
花陽「うん、かよちゃんのこと信用してるからね」
穂乃果「う、うん」
-
109 : 2014/10/12(日) 22:34:13.88 -
凛「ねえかよちん、ひとつ約束して欲しいことがあるの」
穂乃果「えっ、な、何?」
凛「もう本番も直前だし急にこんなこと話しても余計にややこしくなるだけだと思うから、今すぐこのことみんなに話そう、なんて言わないけど、ライブが終わった後に、みんなにちゃんと説明するってそれだけ約束して?」
穂乃果「…うん、分かった」
凛「じゃあ、凛も勝手に喋ったりしないって約束するよ」
穂乃果「……ごめんね」
凛「…」
-
110 : 2014/10/12(日) 22:36:48.15 -
凛「ねえかよちん、ひとつ約束して欲しいことがあるの」
穂乃果「えっ、な、何?」
凛「もう本番も直前だし急にこんなこと話しても余計にややこしくなるだけだと思うから、今すぐこのことみんなに話そう、なんて言わないけど、ライブが終わった後に、みんなにちゃんと説明するってそれだけ約束して?」
穂乃果「…うん、分かった」
凛「じゃあ、凛も勝手に喋ったりしないって約束するよ」
穂乃果「……ごめんね」
凛「…」
-
111 : 2014/10/12(日) 22:39:33.85 -
希「…さて、今日はもう練習してる時間はなさそうやね、暗くなる前に帰ろっか」
花陽「あ、ほんとだお腹減るわけだ」
穂乃果「ごめんなさい…話が長くて…」
花陽「ううん、必要な話だったし、それに絵里ちゃんに褒められてたし一日ぐらいサボっても大丈夫だよ~」
穂乃果「そうかなぁ…」
凛「ねぇ、帰るってかよちんは穂乃果ちゃんの家に帰るんだよね」
穂乃果「そうだよ、この姿でうちに帰るわけにいかないから」
凛「じゃあ凛の家に来ない?うちなら勝手も分かるし穂乃果ちゃんの家に一人で居るよりくつろげるでしょ」
穂乃果「え、いいの?」
凛「うちの家族もμ'sのことは知ってるから『穂乃果ちゃん』なら大丈夫だよ」
-
112 : 2014/10/12(日) 22:48:16.94 -
穂乃果「じゃあ穂乃果ちゃんのおうちの人に訊いてみるね」
花陽「お母さんにメールしたら良いって、しょっちゅう海未ちゃんとかことりちゃん家に泊まりに行ってるからそういうところはユルいんだ」
穂乃果「はやっ!?いつの間に携帯を…」
凛「よし!そうと決まったら早く帰ろう!」
穂乃果「えっ、ていうか今日から泊まるの?ちょ、ちょっと待って着替えとか…!」
花陽「いいな~お泊まり」
半ば引きずられるようにして凛に連れて行かれる『穂乃果』を見送りながら羨ましそうに口を尖らせる『花陽』を見かねて、希が提案する
希「…うち一人暮らしやから来てもいいけど」
花陽「ホント!?」
希「ちゃんとかよちんのご両親に許可とったらね」
花陽「あ、もしもしお母さん?うん、あのね今日友達のうちに泊まりたいだけど、うん、いや凛ちゃんじゃなくて希ちゃん、うん、そうμ'sの、うん、うん、大丈夫、分かった~、はーい、はい、じゃあね~」
希「行動速いなぁ、ていうかもう今から来る気なんやね」
花陽「いいって!」
希「はいはい分かりました」
花陽「やった~、おっとまりおっとまり~」
希「…とりあえずウチらも帰ろうか」
花陽「うん!」
-
113 : 2014/10/12(日) 23:01:59.53 -
——
穂乃果「お風呂いただきました~」
凛「あ、アイスいるー?」
穂乃果「いいの?」
凛「うん、ちょっと取ってくるね」
穂乃果「うん」
ぱたぱたと部屋から遠ざかって行く足音を見送ってから床に腰を下ろして一息つく。
穂乃果「…凛ちゃんの部屋、変わらないなぁ」
この部屋で過ごした時間はもうどれぐらいになるだろうか、余計な物が少なくてともすれば男の子っぽいって言われるような。
でも例えば丸いお花型の電灯カバーとかパソコンのモニターに掛かってる埃避けのレースの布みたいなところで女の子らしさが垣間見えるのがとても凛らしい部屋、もしかしたら自分の部屋の次に落ち着く場所かもしれない。
私、焦りすぎてたのかな…?
今日、凛ちゃんにバレたことで少し考えた。
今の自分から変わりたいってそればっかり思ってたけど、本当に急に変わってしまったら、ある日突然私が穂乃果ちゃんみたいなったら、それをみんなは、凛ちゃんは受け入れてくれるのかな、それは本当に”私”だって言えるのかな。
凛ちゃんの部屋がいきなりパステルカラーのかわいいチャームやらぬいぐるみやらで埋め尽くされていたら私はどう思うだろう。
…それはそれでアリ?でもこうやってのんびりくつろぐことは出来ないだろうなぁ。
変わらない方がいい事もあるのかな。
穂乃果「どうするのが良かったのかな…」
大きな姿見に映った自分に問いかけても返ってくるのは沈黙だけだ。
-
114 : 2014/10/12(日) 23:08:08.16 -
凛「おまたせー!」
穂乃果「わっ!」
凛「え?何?」
穂乃果「ご、ごめん、ちょっと考え事してたら急にドアが開いたからびっくりしちゃって」
凛「…考え事って、入れ替わりのこと?」
穂乃果「えっと……」
凛ちゃんは私のことになると本当に鋭い。
穂乃果「凛ちゃんは、こんな状態で私がセンターをやって、いいと思う?」
凛「…かよちんは止めて欲しいの?」
穂乃果「それは……」
凛「それでもセンターがやりたいから穂乃果ちゃんにああやってお願いしたんでしょ?」
穂乃果「…うん」
凛「だったら止めないよ、それがかよちんのやりたいことなら」
凛「かよちんのやりたいことが凛のやりたいことだから、応援するよ」
-
115 : 2014/10/12(日) 23:12:01.01 -
穂乃果「凛ちゃん……ごめんね」
凛「なんで謝るの?今日のかよちん謝りすぎにゃー」
穂乃果「そうだね……えへへ、私頑張ってみるよ」
凛「うん!」
凛「ほら、それよりアイス!なんか知らないけどダッツがあったから持ってきたにゃー」
穂乃果「なんか知らないけどって、それ家族の誰かのやつなんじゃ」
凛「いいのいいの、ストロベリーとグリーンティーあるけどどっちがいい?」
穂乃果「うーーーーーん、ストロベリーで」
凛「あ、取られたー」
穂乃果「え、交換しよっか?私はどっちでもいいけど」
凛「ううんいいよ、その代わり後で一口ちょうだい?」
穂乃果「うん」
-
116 : 2014/10/12(日) 23:16:59.21 -
——
花陽「はぁ~」
希「よー食べたねぇ、結構量あったと思うけど」
花陽「いやぁ最近なんかお腹空きやすくなったっていうか胃の容量が増えた?気がするんだよねぇ」
希「それ入れ替わったからじゃ」
花陽「あっ…」
希「…」
花陽「……べ、別にかよちゃんが太ってるとかそういうつもりで言ったわけじゃないからね!?」
希「いやウチ何も言ってないけど」
花陽「……今のことかよちゃんには言わないでね」
希「言わないから、それよりお風呂湧いてるからはよ入って来な」
花陽「え~、もうちょっと休憩させてよぉ」
希「牛になるよ?」
花陽「…牛にだったらなってもいいかな」
希「…どこ見てんの」
花陽「えへへへ」
希「はぁ…まさかかよちんの家でもそんな風にだらだらしてたんやないやろうね」
花陽「それは大丈夫!家ではちゃんとかよちゃんっぽく振る舞っておいたから」
希「そう自信満々だと逆に信用ならんのはなんでやろうね」
-
117 : 2014/10/12(日) 23:22:14.92 -
花陽「そういや知ってた?かよちゃんの家っておばあちゃん達と同棲してるんだよ、家に行って初めて知ったよ」
希「同居ね、同棲って…」
花陽「それと、お兄さんもいるんだよね、あんまり話はしてないけど、穂乃果兄弟いないからちょっと憧れる~」
希「姉妹すらいないウチからすると贅沢な話やけど」
花陽「それからかよちゃんの部屋って私アイドルのポスターとかグッズがいっぱい飾ってあるのかと思ってたんだけど、意外と普通だった」
希「にこっちの部屋はそんな感じやね」
花陽「あと——」
希「なんだかんだ結構楽しんでたみたいやね」
花陽「うんっと、それもあるんだけど……私、かよちゃんのこと全然知らなかったんだなぁって、この体になって初めて知ったことばっかりで、こんな私が仲間だ!なんて言っても説得力無かったよね…」
希「そんなことないと思うけど」
花陽「だから、みんなのこともっと知りたいな、かよちゃんだけじゃなくてみんなのこと」
希「穂乃果ちゃん…」
-
118 : 2014/10/12(日) 23:24:12.91 -
希「でも、そういうのって長く付き合って少しずつ知っていくってこともあるやろうし、焦る必要はないんやないかな」
花陽「たしかにそうかもしれないけど…、まあせっかくだしみんなともっと話してみようかなって思っただけだから」
希「そっか」
花陽「さて、それじゃお先にお風呂頂いてこようかな、あ、それとも一緒に入る?」
希「一人暮らしの家のお風呂は二人も入れるほど広くないよ、先に入ってきて」
花陽「はぁい」
希「……穂乃果ちゃんって」
花陽「あ!上がったらいっぱいお話しようね!」
希「はいはい、早く入っといで~」
花陽「はーい!」
希「…考えてるのか考えてないのかよー分からんなぁ」
-
119 : 2014/10/12(日) 23:34:29.02 -
——
海未「お疲れ様です、分かってるとは思いますが明日は本番です、今日は早く帰って早く寝てくださいね、明日は10時に現地集合、11時からリハーサルで午後2時から本番ですから、遅れないように、それじゃ、解散!」
「「お疲れ様ー」」
穂乃果「ふぅ…」
海未「穂乃果に言ったんですよ」
穂乃果「えっ?」
海未「最近帰りが遅いらしいじゃないですか」
穂乃果「な、なんでそれを…」
海未「幼なじみの情報網を舐めないでください、どうせ一人で勝手にトレーニングとか練習とかしてるんでしょう?まったく何の為にメニューを考えているんだか」
穂乃果「うぅ…ごめんなさい」
海未「はぁ、ほどほどにしてくださいね、それで体調を崩したら元も子もないんですから」
穂乃果「はい…」
ことり「何日か前に穂乃果ちゃんが急に振り付けを忘れちゃったみたいに動きが悪くなった時、海未ちゃんってばすっごく心配してどこか悪いんじゃないかってわざわざ穂乃果ちゃんのお家まで訊きに行ってたんだよ」
海未「なんで知ってるんですかことり!」
ことり「幼なじみの情報網を舐めちゃダメだよ~?」
海未「ぐぬ…」
-
120 : 2014/10/12(日) 23:41:24.30 -
ことり「でもさすが穂乃果ちゃんだよね~、今日は完璧だったもん、ね、海未ちゃん」
海未「…まあ、穂乃果はやると言ったらやる人ですから」
穂乃果「あ…」
信頼されてるんだなぁ、穂乃果ちゃん。
穂乃果「…ごめんね」
海未「別に怒ってないですから謝らないでください、一度走り出した穂乃果を止めるのはどうやっても無理だってことぐらい承知してます」
ことり「そうだね~」
穂乃果「…褒められてるんだよね?」
ことり「それとかよちゃんも、最近スランプ気味だったみたいだけどばっちり完成させてきてたね」
海未「花陽は頑張り屋ですから大丈夫だと思ってましたよ、私は」
穂乃果「…」
海未「それに花陽はアイドルが”やりたい”と思ってμ'sに入ったんです、こう言っちゃ何ですがそもそも私たちは廃校阻止という目的を果たす手段としてμ'sを発足しましたが、花陽はスクールアイドル自体が目的なんですからことスクールアイドルのことに関して手を抜くはずありません」
穂乃果「…!」
-
121 : 2014/10/12(日) 23:44:41.06 -
ことり「へぇ、ずいぶん買ってるんだね、かよちゃんのこと」
海未「まぁ、偉そうに言いましたけど殆ど私の勝手な想像ですけどね」
海未「でも、ことりも衣装のことになると細かいことにこだわっていつまでも悩んでたりするでしょう?」
ことり「言われてみると…好きなことだからどうしても手を抜けなくなっちゃうんだ」
海未「それまでも適当にやってたというわけではありませんが、ああいう真剣にアイドルの事を考えている人が側にいてくれると身が引き締まります」
ことり「あの時、『アイドルへの想いは誰にも負けません!』って言ってたもんね」
穂乃果「あ、あれは…!」
あれはただアイドルが好きってだけで、そんな熱い意気込みじゃ…。
海未「はい?」
いや、違わない、アイドルが好きで、小さい頃からずっとアイドルになるのが夢で、何年も抱えてきた想いがやっと今叶っているのに、私は……。
ことり「穂乃果ちゃん…?」
穂乃果「私は…!」
-
122 : 2014/10/12(日) 23:46:40.62 -
凛「ほーのかちゃん!」
穂乃果「ひゃぁ!?…凛ちゃん?急に後ろから抱きついてこないでっていつも言ってるでしょ」
凛「えへへごめんごめん、それより早く帰ろう、それともどっか寄ってく?」
海未「凛!今日は早く帰ってくださいって言ったのを聞いてなかったんですか」
凛「そんなに遅くまで遊び歩いたりしないから大丈夫だよ~、穂乃果ちゃん早く行こっ」
穂乃果「ちょ、ちょっと引っ張らないでぇ」
凛「それと、海未ちゃん今よりも身が引き締まったらマズいと思うにゃー」
海未「は?…どういう意味ですか」
凛「じゃあね~」
海未「あ、ちょっと!」
ことり「……ことりはスレンダーな海未ちゃんも好きだよ?」
海未「なんの話ですか」
-
123 : 2014/10/12(日) 23:52:21.15 -
凛「さーて、どこ寄っていく?ファミレス?クレープ屋さん?あ、最近新しくラーメン屋さんができたんだよね~そこでもいいよ」
穂乃果「本気で寄り道する気だったんだ」
凛「今日は神社での練習もないんでしょ?じゃあちょっとぐらいいいじゃん」
穂乃果「うん…でも、私ちょっと行きたいところが」
凛「え、どこ?凛も行くよ」
穂乃果「えっ、いいよ、別に面白い場所じゃないし一人で大丈夫だよ」
凛「どうせ帰るのは凛の家なんだから一緒に行くよ、どこ?アイドルグッズのショップとか?」
穂乃果「いやでも…」
凛「かよちん、いまさら隠し事は無しだよ」
穂乃果「わ、分かった……」
-
124 : 2014/10/12(日) 23:54:20.11 -
——
凛「って、なんで神田明神なの!!?」
穂乃果「だから来ても面白くないって言ったじゃん」
凛「でも今日は練習する約束してないんでしょ?」
穂乃果「うん」
凛「じゃあなんでこんな所に」
穂乃果「…なんとなく、来なきゃいけないような気がして」
凛「なにそれ」
呆れたように溜め息をつきながらも凛は『穂乃果』の後を追って階段を上る。
神田明神の石段、ここ数日毎日訪れていた場所だが今日はこれまでと違って特に目的があって来ているわけではない、早く帰るようにという海未の指示を受けて今日は個人練習も無しにしたのだ。
のだが。
-
125 : 2014/10/13(月) 00:01:52.19 -
凛「あ」
穂乃果「あ」
希「あれっ、かよちんに凛ちゃん」
花陽「なんでこんな所に?」
凛「かよちんがなんか来たいって言って、穂乃果ちゃん達は?」
花陽「明日のライブの成功祈願のお参りだよ」
穂乃果「お参り…」
希「普段から使わせて貰ってるからお礼も兼ねてな、二人も良かったら一緒にして行こ?」
穂乃果「うん、そうだね」
凛「あ、凛五円玉持ってないや…かよちん持ってる?」
希「あぁ、お賽銭はええよ、ウチがいつも掃除してるからその分でチャラにしてもらおう」
花陽「えっ、そういうのアリなの」
希「大丈夫大丈夫、ウチはいつもそれでやってるから」
凛「神様相手にすごい神経の図太さだにゃ」
希「いやぁそれほどでも」
穂乃果「多分褒められてないよ!」
-
126 : 2014/10/13(月) 00:06:14.36 -
希「いい?二礼二拍手一礼やで、拍手の後がお願いするタイミングね」
凛「はーい」
花陽「あ、鈴鳴らすの穂乃果がやっていい?」
希「別にいいけど」
花陽「やった!」
凛「ぷっ、穂乃果ちゃん子供だにゃー」
穂乃果「凛ちゃんもうちょっと歯に衣着せよう?」
花陽「じゃあいくよ——」
がらん、がらん。
大きな鈴の鳴らす音はともすればやかましいと思うほど猥雑さを含みながら、それでもなおこの空間を静謐さで満たしていく力があるように感じる。
ぱん、ぱん。
静まりかえった境内に四人分の柏手が響く。
——明日のライブが成功…大成功しますように!
——二人がちゃんと元に戻れますように。
——明日、失敗しませんように…。
——明日もみんなが楽しく過ごせますように。
,。・:*:・゜'☆,。・:*:
-
130 : 2014/10/15(水) 02:11:27.55 -
「…のか……穂乃果!」
穂乃果「…は、はい!、わ、私!?」
海未「他に誰がいるんですか…、大丈夫ですか?さっきから黙り込んで」
穂乃果「あ、えっと…」
薄暗い空間にμ'sのステージ衣装の9人、他にも数人の人影が見える。
凛「見て見て、お客さんいっぱい!」
花陽「リハの時はあんなに広い客席埋まるのかなって思ったけど、これは…」
ことり「プレッシャー感じちゃうね…」
客席を映したモニタを見ている面々は身を硬くする。
真姫「あの真ん中の娘、歌上手いわね」
にこ「音楽科の生徒らしいわ」
真姫「なるほどね」
にこ「もしかしたら真姫ちゃんより上手いかもぉ」
真姫「…少なくともにこちゃんよりは上手いわね」
にこ「な、なにをぉ!」
希「にこっち、舞台袖では静かに」
絵里「本番前なんだからあんまりはしゃいじゃダメよにこ」
にこ「…」
こちらはまだ余裕がありそうだが、少々浮き足立った雰囲気が感じられる。
-
132 : 2014/10/15(水) 02:13:21.92 -
穂乃果「…もう、本番なんだね」
海未「そうですね、でも大丈夫ですよ、練習は十分積んできましたしリハーサルでも特に失敗はありませんでしたし」
リハーサル…マズいなぁ、よく覚えてないや、というか今日集合した辺りからあんまり記憶ないよ、こんなんでセンターなんか務まるのかな…うぅ、やっぱり私には…。
海未「穂乃果…?緊張してるんですか?そういえば今日はずっと口数が少ないですが」
穂乃果「え?そ、そんなことないよ、大丈夫!」
そりゃもちろん緊張してるよ!初めてのセンターだし今までやったライブよりも断然規模は大きいし、しかも穂乃果ちゃんの代わりにって思うとプレッシャーはこれまでの比じゃないよ!
…なんて言うわけにもいかないよねぇ。
海未「別に今更隠さなくても、顔色悪いですよ?」
穂乃果「こ、こんな暗いのに顔色なんか分からないでしょ」
海未「私には分かります」
穂乃果「うっ…」
うわぁ…幼なじみってみんなこんななのかな…?
-
133 : 2014/10/15(水) 02:15:32.54 -
海未「穂乃果は昔から本番に弱いというか、大事な時に限って調子を崩したり自信喪失したりすることがよくありますからね」
そうなんだ…意外っていうか、知らなかった、穂乃果ちゃんでもそういうことあるんだ、今までも私が気づいてなかっただけでそうだったのかな。
まあ私の場合は喪失する自信が元々ないんだけど、なんて…。
海未「でも、穂乃果!」
穂乃果「は、はい!?」
海未「安心してください、あなたが落ち込んで立ち止まってしまったら、背中を押してあげます、あなたが暴走して転んでしまったら、立ち上がるために手を貸してあげます、そのために私…私たちがいるんですから」
穂乃果「…!」
——助け合うために私たちって9人いるんじゃないかな
海未「だから、自信がなくても、仲間のことは信じていてください、…それが出来るメンバーが揃っていると私は思いますよ」
みんなに迷惑をかけたくない、足を引っ張りたくないと思うあまり、追いつきたいと思っていたみんなのことを壁を作って遠ざけていたのは私自身だった…?
穂乃果「…私もそう思う」
海未「それなら、ほら、顔を上げてください、うつむいてるアイドルがどこにいるんですか!」
穂乃果「…」
まさか海未ちゃんからアイドルのことで教えられるなんて、私もまだまだだなぁ。
穂乃果「うん!」
-
134 : 2014/10/15(水) 02:17:49.83 -
スタッフ「前の組が捌けてアナウンスが流れたら、次入ってくださーい」
穂乃果「あっ」
海未「いよいよですね…、アレ、やらないんですか?」
穂乃果「アレ…?ああ、アレか」
穂乃果「みんな!」
呼ぶと、全員察したのか自然と円になって『穂乃果』の一言を待つように視線が集まる。
なにか言った方がいいのかな…、穂乃果ちゃんらしいこと?
でも、入れ替わってみて思ったけど私穂乃果ちゃんのこと全然知らないんだ、だから穂乃果ちゃんらしい台詞なんてとっさに思いつかないよ。
それじゃあ…。
穂乃果「みんな……思いっきり、楽しもう!」
それがきっと、私の本音だから。
「「うん!」」
-
136 : 2014/10/15(水) 02:21:19.45 -
ワアアアァァァァァァァァァァ——
ステージに上るとつんざくような歓声に出迎えられる、改めて今まで学校内で行っていたライブとは規模が違うのだと思い知る、思わず尻込みしそうになるが。
…大丈夫、みんながいるから。
ごくり、喉に空気の塊が詰まったような感覚を唾と一緒に飲み下して、一歩前に進み出る。
穂乃果「皆さんこんにちは!私たちは東京都千代田区にある音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sです!」
穂乃果「音ノ木坂学院は今、生徒数の減少から廃校の危機に瀕しています、私たちは少しでも音ノ木坂の知名度を上げて、廃校を阻止するためにスクールアイドルを始めました」
穂乃果「だから、音楽や芸能の専門の学校というわけではないし、そういう進路を目指している娘ばかりが集まったってわけでもありません、ダンスも歌も、本当に初歩的な所すら完璧じゃない、アイドルの初心者なんです、でも…」
穂乃果「アイドルへの想いは誰にも負けないつもりです!」
穂乃果「…みんなで作った新曲です、聴いてください」
穂乃果「『No brand girls』!」
-
138 : 2014/10/15(水) 02:33:01.54 -
穂乃果「はぁ…はぁ…」
音楽が鳴り終わると、自分の息切れする声と心臓のばくばく言う音が聞こえてくる、続いて割れんばかりの歓声に包まれる。
多分今までの中で一番のパフォーマンスだった、みんなの表情と体に満ちた充実感がそう告げていた。
絵里「穂乃果!すごかったわよ!」
穂乃果「うわぁ!?絵里ちゃん!?」
絵里が横から凄い勢いで抱きついてくる、それだけではない。
海未「穂乃果、やりましたね」
ことり「すごいよ穂乃果ちゃん!」
「ほのかちゃーん!かっこいいよー!」
客席からも聞こえる、そんなに私すごかったのかな?
みんなからこんなに褒められるなんていままでなかったからちょっと照れくさいけど、嬉しいな…。
嬉しい、はずなんだけど。
-
139 : 2014/10/15(水) 02:36:24.32 -
穂乃果「みんな…わ、私…」
お客さんからも、海未ちゃん達からも、私は穂乃果ちゃんに見えてるわけで、そんなの最初から分かっていたはずなのに、むしろ私自身が望んだことなのに、どうして…。
穂乃果「うっ…くっ…」
涙が出そうなの…?
絵里「穂乃果…?どうしたの?」
ことり「穂乃果ちゃん?大丈夫?」
私が好きなことなのに、どうして私が私として舞台に上がっていないんだろう。
私の夢なのに、他人の姿になってどうして叶えられるというんだろう。
悔しい。
自分の夢を信じきれなかった自分が、悔しいよ——
海未「穂乃果?」
穂乃果「や……」
やめて…、これ以上名前を呼ばれたら、私…!
-
140 : 2014/10/15(水) 02:37:13.85 -
凛「かよちん!!」
穂乃果「えっ…?」
凛「凛は、かよちんのままのかよちんが一番好き!だから…だから戻ってきて————っ!!」
「…っ!」
,。・:*:・゜'☆,。・:*:
-
141 : 2014/10/15(水) 02:38:39.06 -
急に、今まで体を圧迫してきていた感触、絵里が抱きついてきていた感覚がなくなる、そもそもそんな事実はなかったかのように微かな余韻すらも残っていない。
「…これって」
凛「かよちん!」
「ひゃぁ!?凛ちゃん…って、私…」
自分の声がさっきまでとは違っているのに気づいた、正確には戻っているのに。
凛「かよちん!かよちんなんでしょ!?」
花陽「うん、戻った…みたい」
凛「よかった、ほんとよかった…」
花陽「凛ちゃん…」
抱きしめられているせいで凛の顔は直接見えないが、耳元で聞こえる声は涙声。
-
142 : 2014/10/15(水) 02:39:45.24 -
凛「ごめん、応援するって言ったのに、邪魔しちゃった」
花陽「そんなの…、謝るのは私の方だよ、心配かけちゃったよね、ごめんね」
凛「ほんとだよ…!ほんとに、かよちんのバカ…!」
花陽「うん、ほんとに」
凛「…おかえり、かよちん」
花陽「ただいま、凛ちゃん」
凛「えへへ」
花陽「ふふっ」
希「…お二人さん、良い雰囲気なところ悪いんやけど、まだここステージの上やで」
花陽「え?」
凛「あっ」
ステージ上で同性に大胆告白したスクールアイドルとして、μ'sの名は一部で有名になったとか。
-
143 : 2014/10/15(水) 02:41:03.48 -
———
海未「…何言ってるんですか?」
穂乃果「だから、一週間ぐらい前から私とかよちゃんの中身が入れ替わってたんだって!」
海未「そういえば昨日と一昨日凛の家に泊まっていたらしいですね、なるほどそういう遊びだったんですね」
穂乃果「遊びじゃなくて!本当なの!」
海未「…じゃあ、あなたは花陽なんですか?」
穂乃果「ううん、さっきのライブの後っていうか途中?で元に戻ったって言ったじゃん」
海未「はぁ…」
返事とも溜め息ともつかない声を出す海未、他のμ'sの面々も困惑顔である。
真姫「花陽、本当なの?」
花陽「うん本当…あの、凛ちゃんそろそろ離れて?」
凛「やだ」
海未「花陽が言うなら本当なんでしょうか…」
穂乃果「この信用度の差」
-
144 : 2014/10/15(水) 02:42:17.36 -
にこ「そんな非現実的なことあるわけないでしょ」
ことり「でもここ最近穂乃果ちゃんの様子変だな~とは思ってたよね」
穂乃果「え、気づいてたの?」
海未「まあ…でも穂乃果の様子がおかしいのなんていつものことですからねぇ」
穂乃果「海未ちゃんは私のことをなんだと思っているの」
真姫「凛は知ってたのよね、ライブでの奇行から察するに」
凛「うん、凛が気づいたのは一昨日ぐらいだけど希ちゃんはその前から知ってたんだよね」
真姫「そうなの?」
希「まあ、入れ替わる瞬間に居合わせたからな」
真姫「ふぅん」
穂乃果「…なんか真姫ちゃんは好感触だね」
希「サンタさん信じてるぐらいやし」
凛「意外とメルヘンチックな頭してるにゃ」
花陽「凛ちゃんそれ本人に言っちゃダメだからね?」
-
145 : 2014/10/15(水) 02:43:11.12 -
海未「…何こそこそ話してるんですか、別に私だって信じてないわけじゃないですよ」
穂乃果「そうなの?」
海未「ええ、じゃないと凛の奇行に説明がつきませんし」
凛「あんまり奇行奇行言わないでよ…」
海未「でも元に戻ったってことはもう解決したってことですよね、だったら今更色々言うこともないんじゃないですか」
花陽「…」
希「…」
穂乃果「…面倒くさいから適当に流そうと思ってない?」
海未「……そんなことはありませんよ」
穂乃果「何今の間」
-
146 : 2014/10/15(水) 02:46:02.49 -
ことり「でも、入れ替わりっていうか、他の人に乗り移れたら面白そうだよね」
花陽「え、そうかな…」
穂乃果「誰か入れ替わりたい人がいるの?」
ことり「それは…海未ちゃんとか」
海未「私ですか!?」
にこ「普通芸能人とかじゃないのそういうのって」
ことり「それもいいけど、海未ちゃんの体を思い通りにできたら絶対着てくれないようなきわどい服とかコスプレをして写真撮れるし」
海未「ひぃ…!」
にこ「それわざわざ入れ替わってまでやることなの」
ことり「確かに…,、海未ちゃん今日うちに来ない?」
海未「行きませんよ!というか今後ことりの家には一人で行かないようにします」
ことり「えぇ~」
-
147 : 2014/10/15(水) 02:51:01.35 -
希「にこっちはやっぱりアイドルの人になってみたい?」
にこ「ん~、思わなくはないけど…やっぱにこ自身がアイドルにならなきゃ夢が叶ったとはいえないでしょ」
希「へぇ」
花陽「…」
にこ「真姫ちゃんは他の人になりたいなんて思ったことなさそうね」
真姫「…そんなことないケド」
にこ「そうなの?意外~、誰にとっても隣の芝は青いってことかしら」
真姫「…ふん」
ことり「ところで絵里ちゃんは?」
希「えりちなら怖い話だと思ったみていで隅っこの方で耳塞いでしゃがんでるよ」
絵里「………」
ことり「ホラーだけじゃなくてオカルトも苦手なんだ…」
-
148 : 2014/10/15(水) 02:52:19.13 -
——
ここ数日毎日訪れていた神田神社の境内、だが一人で来るのは久しぶりだった。
花陽「ふぅ…」
希「…あれ、かよちん」
花陽「あ、希ちゃん、今日はバイト?」
石段を上りきると早速巫女服姿の希と鉢合わせた。
希「うん、ここ何日かは休ませて貰ってたからその分働かんとな、かよちんは?」
花陽「うーんと、ちょっとお礼をしに」
希「お礼?」
花陽「…色々大変だったけど、もともとは私の願いを叶えてもらったわけだし」
希「そっか…ウチも付き合うよ」
花陽「お仕事はいいの?」
希「大丈夫大丈夫」
-
149 : 2014/10/15(水) 02:54:31.53 -
ぱん、ぱん。
お礼参りの作法は分からないけどとりあえず柏手を鳴らして…お賽銭も持参である、五円だけど。
花陽「…」
希「…」
花陽「……それにしても、みんなに信じてもらえたかどうかは結局あやふやになっちゃったね」
希「まあ無理に信じてもらう必要もないんやない、海未ちゃんの言うとおりもう済んだことやし、凛ちゃんも気にしてなかったみたいやしね」
花陽「……希ちゃんは、入れ替わりを引き起こしたのはやっぱりここの神様だと思う?それとも別の何か?」
希「どうやろ、確かここの神様は、縁結び、商売繁盛、勝負事の御利益だったと思うけど…その中だと縁結び、と考えられなくもない、かな?まあ少なくとも人智を越えた力が働いたのは間違いないと思うけど」
花陽「そっかぁ、もしも的外れなお礼参りだったらちょっと恥ずかしいね」
薄く頬を染めてはにかむ花陽を見て、希は小さくため息をつく。
希「…いい顔するようになったやん、5日前にここで会った時は夢も希望も無いって顔してたけど」
-
150 : 2014/10/15(水) 02:55:36.10 -
花陽「え、そんなに…?まあ、ちょっと吹っ切れたっていうか、目が覚めたっていうのはあるかもしれないけど」
希「それは楽しみやね」
花陽「楽しみ…?あ、希ちゃん付き合ってくれてありがとうね」
希「これぐらい別にええよ」
花陽「今日だけじゃなくて、振り付けの入れ替え練習のときもずっと居てくれたでしょ、とっても助かってたんだ、私たちだけだったらすごく心細かっただろうから」
希「そんな、ウチ結局何もできなくて、なんて謝ろうかって思ってたぐらいなのに」
花陽「希ちゃんがそう思ってなくても人の助けになってることがある、ってことだね」
希「…そっか」
花陽「じゃあ私はもう帰るね、邪魔しちゃってごめんね、バイト頑張ってね~」
希「うん、じゃあね」
希「…」
希「こりゃ今度はウチが追いかける側かな、ふふっ」
-
151 : 2014/10/15(水) 02:57:34.38 -
——
その夜、小泉家。
花陽「自分の家のお風呂に入るのもひさしぶりだなぁ…あっ」
目の端に捉えたのは脱衣所に置いてある体重計、女の子にとってはどれほど憎くても手放すことはできない存在である。
花陽「最近いっぱい運動したし、ちょっと減ってたりしないかな~」
淡い期待を抱きつつ服を全部脱いで体重計に乗っかる、最近いっぱい運動したのは穂乃果の体でであるということには気づいていない。
花陽「………!!?」
-
152 : 2014/10/15(水) 03:02:14.92 -
——
花陽「穂乃果ちゃん!!どういうこと!?」
穂乃果「えっ、なに?どうしたのそんなに慌てて」
花陽「慌てもするよ!だって、た、体重が…!」
希「えっ!?」
凛「かよちんの体重が!?」
穂乃果「フエチャッタノォ!?」
花陽「ライブ前だからって頑張ってダイエットしててそれなりに結果も出てたのに…」
穂乃果「ちなみにどれくらい増えたの?」
花陽「…[ピーーー]グラムぐらい」
凛「うわ、生まれて一ヶ月ぐらいの仔猫の体重ぐらいあるよそれ」
花陽「物に換算するのやめて!」
-
153 : 2014/10/15(水) 03:03:27.38 -
希「せっかく減ってたのに穂乃果ちゃんに体を渡していた間にそれだけ増えたってこと…?いったいどんな食生活してたん」
穂乃果「い、いやぁ、かよちゃん家のご飯おいしくってつい…」
花陽「それにしたって限度があるよぉ!おかげで元通りどころかプラスだよ」
穂乃果「ご、ごめん」
希「それにしてもかよちん、ダイエットなんかしてたん」
花陽「うん、だってライブの衣装お腹出ちゃうデザインだったから痩せなきゃーって思って」
希「で、食べる量減らしてたん?」
花陽「うん、辛かったけどライブの為だから頑張ったよ」
希「もしかして、スランプの原因それやない?」
花陽「え?」
希「急に食べる量減らしたからエネルギーが足りなくなって体が動かなくなったんと違う?」
花陽「それは…」
あれ?運動神経とか体力が無いからちゃんとできないんだって思ってたけど、もしかして原因それ?
今回の事件の原因の、さらにその原因はただの私の空回り…?
-
154 : 2014/10/15(水) 03:06:29.89 -
花陽「う、うわぁ…」
希「はぁ…これに懲りて今後は無理なダイエットはせんことやね」
花陽「は、はい…」
凛「かよちんはダイエットなんかしなくても全然かわいいのにー」
穂乃果「そうだよ~」
花陽「でも体重増えたままってわけにもいかないから、ちょっと運動量増やすね」
希「じゃあ穂乃果ちゃんはかよちんの体重が戻るまでは運動に付き合ってあげること」
穂乃果「えぇー!?」
凛「自業自得にゃ」
花陽「それじゃあ早速…」
ぐぅぅぅぅぅぅぅ……。
希「…」
穂乃果「…」
凛「…」
花陽「……ご飯食べに行きませんか?」
希・穂「えぇぇぇ……」
凛「やっぱりかよちんはかよちんだったにゃ」
第一話『ハナヨまっしぐら』 おわり
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