-
1 : 2015/12/18(金) 21:53:43.65 -
幼馴染「ボクだって女の子らしい格好したら可愛いんだからな!!」
男「へぇ。それは初耳だなぁ」ペラッ
幼馴染「ほんとなんだよ?」
男「へぇー。いま漫画読んでるから話しかけないで」
幼馴染「なんだよー。そんな雑誌のグラドルよりずっとずっと」
男「そうですかぁ」ペラッ
幼馴染「あーーー馬鹿にしてるなー!」
男「だってお前が女の格好してるとこなんて見たこと無いし、想像もできない」ペラッ
幼馴染「今もおしゃれな可愛い格好してるよ?」
男「年頃の女が男の部屋にジャージで上がり込むなんて信じられない」ペラッ ペラッ
幼馴染「えへへ、このジャージね、しま○らで2980円だったんだ。結構かわいいでしょ?」
幼馴染「動きやすいし、よく風を通して涼しいし、サイコーだよ」
男「はぁ…」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1450443223
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450443223/
-
2 : 2015/12/18(金) 21:56:43.64 -
幼馴染「こっち見てよ。ほらほら~」男「…」チラッ
俺「…ふぁぁ」ペラッ
幼馴染「どう? ど?」
男「ジャージ、だな。普通の」
幼馴染「はぁ~ボクは気に入ってるのになー、女の子らしいオレンジ色のラインの入った奴にしたのに」
男「女の子らしいって何だよ。人の布団の上であぐらかく女がいるかよ」
幼馴染「はぁ~~、そんなのキミの価値観でしょー」ゴロン
男「人の布団の上に勝手に寝転ぶ女がいるかよ!」
幼馴染「だってキミがずっと雑誌読んでると暇なんだもーん」ゴロゴロ
男「あぁもう! 降りろ降りろ! それと俺の熊を抱くな!!」
幼馴染「抱きまクマだよ。抱くためにあるんだよ?」
-
3 : 2015/12/18(金) 21:58:28.38 -
幼馴染「クマゴローは優しいね…ボクのこと可愛いって言ってくれる」ギュッ幼馴染『ナツキちゃんはかわいいクマ。ジャージも似合ってるクマー』
幼馴染「わークマゴロー! うれしー」スリスリ
男「臭いをつけるな!!」
幼馴染「昔ボクがあげたんだからボクのものでもあるでしょ。ねー?」ギュー
幼馴染『そうだクマー』
幼馴染「ん…なんかキミの臭いする」
男「…ッ! 返せ! だいたいそのクマーって語尾は不自然だろ」バッ
幼馴染「……熊の鳴き声なんてしらないし」
男「暇ならクラスの女子とでも約束して遊んでたらいいだろ」
幼馴染「……」
男「なんで休日なのに朝っぱらからいちいち俺の家に来るんだよ」
幼馴染「だって昔からの習慣だし…?」
男「……」
幼馴染「暇なんだもん?」
男「聞くな。お前はいまだに一緒に遊ぶクラスメートもいないのか…クラス替えしてもう3ヶ月以上たつんだぞ。夏だぞ!」
幼馴染「ねぇ久しぶりにキャッチボールしよ♥」ムクリ
男(話逸らしたな)
-
4 : 2015/12/18(金) 22:01:04.58 -
・ ・ ・
【庭】
男「結局することになるのか。この炎天下で元気だな……あちー」
幼馴染「ふふん」クルクル
男「よし、まっすぐ投げ込んでこい」パンパン
幼馴染「いっくよー!」
このキャップの似合う少女の名前はナツキという。
俺の幼馴染で、我が家の斜向かいに住んでいて、昔からよく一緒に遊んでいる。ナツキは引き締まった表情で俺のキャッチャーミットを見据え、
腿が体につくくらい足を高くあげ上半身をひねり、力強く腕を振りぬいた。
しなやかで綺麗なスリークォーターのフォームから射出されたボールは空を滑り、ばちんと破裂したような音を鳴らしてミットに吸い込まれる。男「ナイスボー」
幼馴染「ふふん」
男「久しぶりでもしっかり腕ふれてんな」
幼馴染「元エースをなめないでよ」
男「コントロールやばいけど」
幼馴染「それは…しかたないよ!」
-
5 : 2015/12/18(金) 22:03:16.20 -
俺とこいつは小学生時代、地元のリトルリーグでバッテリーを組んでいた。
群を抜いて運動神経の良いこいつがいつでも4番バッターでエース。
で、俺はこいつ専属のキャッチャーだった。小学生のうちは女子のほうが発育が早いので、こいつの球は男子相手に十分通じたが、
中学ともなるとそうも簡単には行かず、負けん気が強いナツキは男子に追いつこうと無理をして肩を痛めた。
やがて受験勉強にも追われ、俺達はそのまま退団した。幼馴染「キミはさー学校の野球部入ると思ったのになー」
もう一球。
ビリビリとした心地よいしびれがミットから手のひらに伝わる。男「ナイスボー。まぁその話はもういいだろ」
辞めると決めたときたくさんの軋轢があった。
しかし、それももう過去の話。
はっきり言うと俺は大した捕手でもなかったので、こいつの球以外をちゃんと取れる気がしなかったし、取る気もなかった。
当時そう伝えてもナツキにはイマイチ納得はしてもらえなかったが、俺にとっては本当にそれだけの理由だった。男(きっとこいつの球が好きだったんだろうなぁ)
だから俺たちはチームを辞めても、たまのキャッチボールという形で、
2人のバッテリー関係をひっそりと続けていた。(といっても俺が一方的にうけるだけだが) -
6 : 2015/12/18(金) 22:05:35.91 -
男「けどさ、やっぱ球速が年々落ちてるなぁ。肩痛くないか」幼馴染「大丈夫! 落ちてるよね、やっぱりウェイトトレーニングしないとだめかなぁ」
男「せんでいい」
幼馴染「むふ、ボクがムキムキのマッチョになったらどうする?」
男「どうもしないけど少し距離を置く。100mくらい」
幼馴染「えーそれじゃ届かないよー」
腕がしなりボールが投げ込まれる。
バチン!
幼馴染「おお、いまのいい! どう?」
男「良かった。次カーブ」
幼馴染「オッケー!」
幼いころからスポーツに親しんだせいか、ナツキは非常に元気に男っぽく育った。
運動神経はもちろん、言葉遣いや見た目もだ。髪の毛は煩わしくない程度のミドルで、顔や手足の肌はこんがり小麦色に焼けていて活発なイメージが強く、
顔だちもすっきりしていて性格も明るいので、昔から先輩後輩問わず女子相手にすごくモテていた。バレンタインなんて俺の10倍はもらっていた記憶がある。
学芸会では王子役に抜擢されたりもしていた。 -
7 : 2015/12/18(金) 22:07:25.88 -
そのせいかこいつは女の子として、女の子同士の付き合い方に戸惑っているようだ。
ここ最近の態度を見るに、新しいクラスでもやや浮いている…かもしれない。幼馴染「やっぱりさ、女子は細いほうがキミは好きなの?」
男「デブやマッチョよりは」
幼馴染「そっかそっか!」
男「でもお前は太いよな」
幼馴染「え゛!? そ、そうかな…? 太い…かな」
男「腰回りとかふとももが多少。スポーツ体型だな」
幼馴染「なぁんだ。そっちか」
幼馴染「そうなんだよねー。これでも辞めてからマシになったんだけどね」
幼馴染「スキニーだって履けるよ」フフン
男「あっそ。じゃあそれで来いよ、なんでジャージで外歩くんだ…」
幼馴染「あついもん」
男「だいぶ日が照ってきたな。そうだな、暑いから部屋戻ろうぜ」
幼馴染「アイスアイス♥」
男「無いです。こないだお前が全部くったろ」
幼馴染「え~、じゃあ買いに行こ!」
男「おう」
-
8 : 2015/12/18(金) 22:09:19.50 -
【スーパーマーケット】
幼馴染「ボクこのしろくまのアイスバーにしよっかな」
幼馴染「これおいしいよね」
男「おう。そうしろ」
幼馴染「はいっ」スッ
男「なんで俺に渡すんだ」
幼馴染「財布もってきてない…」
男「…あとで返せよ」
幼馴染「わーい。ありがと」
男「ついでに昼飯の材料も買うかー。お前何食うんだ」
幼馴染「なんでもいいー」
男「なんでもいいって……あらやだお母さんそういうの一番困るのよねぇ、どうしましょ」
男「じゃあ楽だしそうめ——」
幼馴染「やだ! そうめん飽きたよ」
幼馴染「ボクハンバーグがいいなー」
男「…あん? 昼から俺にハンバーグこねろってか」
幼馴染「晩!」
男「晩も食っていく気なのか!?」
-
9 : 2015/12/18(金) 22:11:17.21 -
幼馴染「いいじゃんどうせキミ暇じゃん」男「お前が暇なんだろー」
幼馴染「あっ考えました。お昼は冷蔵庫のありあわせでー、晩はハンバーグね」
男「お前は俺の家のなんなんだ…」
幼馴染「次女的な? 今日おねえちゃん帰ってくる?」
男「来ない」
男「…まぁ、なんだっていいけど、かわりに家の雑巾掛けと庭の草むしり手伝え」
幼馴染「オッケーオッケー任せてよ」
ナツキは笑顔でふりむいて、指で輪っかをつくった。
俺の家は古い上に無駄にひろい。部屋の数も多く、客人を数人とめても空きが出る。そして長期休みにもなると両親は家を離れるため、姉と2人きりで放任され、
掃除は行き届かず長い廊下はホコリだらけ、先ほどキャッチボールをした広い庭は青々とした雑草がのびっぱなしという有り様だ。
だからこうしてナツキには昔から交換条件として家事の一部を手伝ってもらっていた。 -
10 : 2015/12/18(金) 22:13:36.45 -
男(にしてもいつまで餌に釣られるんだろう。もう子供じゃないんだぞ)男(だいたいお前は家に帰ったら飯あるだろ!!)
幼馴染「ハンバーグ楽しみだなぁ~~」
幼馴染「ちっちゃいのいっぱいじゃなくて、おっきいのどーんと焼いて欲しい。お店みたいな」
男「なら鉄板で焼くかー…」
幼馴染「ブロッコリーも添えて~、ソースは2種類くらいほしいなー」
男「はいはい」
男(ニコニコ嬉しそうにして。こういうのアホ面っていうんだな…)
幼馴染「いっつもありがとう!」
男「……。あーじゃあアイスの分も出しといてやるからちゃんと手伝えよ」
幼馴染「ほんと!?大好き!」
男「80円ごときできしょくわるいな。卵とってきて特売のやつ」
幼馴染「OK。なんでも手伝う!」テケテケ
男「俺もナツキも昔からやってること全然かわんねーよな」
ため息がでるくらいにナツキは変わらない。
成長期で背はスラリと高くなったが、内面はどうも歳不相応に幼く感じる。男(学校だともうすこし落ち着いてるんだけどなぁ)
-
11 : 2015/12/18(金) 22:16:21.87 -
幼馴染「とってきた! 10個入り98円! お一人様1パック限定だから2人だと2パック買えるよ!?どうする!?」男「おう。知ってるから。2つともカゴ入れといて。昼は卵使うか」
幼馴染「……」スッ
男「その菓子は何だ」
幼馴染「えっ…えへへ。これはあとで別でお金払うから……買って!」
男「ガキか」
男「しかたないな…一つだけだぞ」
幼馴染「やった」
男(しかしこのゆるさがナツキの魅力なのかもしれない)
男(魅力…? いやいや…)ブンブン
幼馴染「どしたの?」
幼馴染「全部買ったし帰ろっか!」
・ ・ ・
その帰り道、イヤな奴に遭遇した。
友「おー! なんだぁこんな暑い日もベッタリかよぉ。買い出しの帰りか?」
男「あー…まぁな」
幼馴染「ハロー」
-
12 : 2015/12/18(金) 22:18:19.08 -
こいつは昔から何度か俺と同じクラスになり、知らないうちに仲の良くなった"イヤな奴"だ。
気さくで話しやすいが口も軽いから、出会うタイミングによってはすごくめんどくさい。
ナツキと連れ歩いてるときはなおさら…。友「ヒューヒュー、今度俺にも晩飯つくってー」
男「つくってやろうか」
友「お前のは確かにうまいけど男の手料理はノーサンキュー!」
男「作ってって言われた気がしたんだが」
友「男で料理が出来るのは立派な一芸だよなぁ」
幼馴染「ふふん。でしょ。ボクは何もつくれない能なしだよ!」
男「そんな恥ずかしいことを誇らしげに言うな」
友「にしても休みの日まで仲いいな。いつも2人でナニやってるんだ」
幼馴染「さっきまでキャッチボールしてたんだぁ」
友「…へぇ。まさにピッチャーとキャッチャーの夫婦関係ってやつね」
男「うるせぇ」
幼馴染「そうなんですよー奥さん、これからこの人の実家の草むしり手伝わされるんですの」
友「あらまぁ、女性に肉体仕事なんてやぁねぇ」
男「きしょくわるいな何なんだよ。ついでに言っておくけどキャッチャーが女房役だぞ」
-
13 : 2015/12/18(金) 22:21:11.64 -
友「ま、頑張れや。俺はこれからバイトだからまたな!」男「テスト明けで即バイトか。忙しくしてるんだな」
幼馴染「ほんとほんと、だれかさんとは違って偉いね」
男「自虐か?」
友「そりゃ夏だぜ、なにかと金は入り用だからな! 夏休みもいろんな短期バイトでスケジュールみっちりだぜ」グッ
男「よし今度おごってくれ。あっ、バイトがんばれよ応援してるぞ。お前はやれば出来るイイ男だ!」
友「本音が先にポロリしてるぞ」
幼馴染「夏休みかー。シーワールドいってみたいなー。オルカが可愛いんだぁー」
幼馴染「パンダみたいに目のとこだけ白くってさー」
友「……。おいっ」グイッ
男「なんだよ」
友「お前の旦那さんはずいぶんとのほほんとしてるが大丈夫か?」
男「大丈夫かって何が。あいつの頭がピーカンなのはいつものことだろ」
友「夏だぞ夏! 何かイベントないのか!? 女の子としてひとつふたつ階段をかけあがる時期でしょーが!」
男「あいつ女の子か? どの辺が」
幼馴染「ふたりで内緒話~? ボクも混ぜてよぉー」
友「……」
友「どこか連れてってあげなさいよ!」ボソボソ
男「なんでだよ俺が知るかよ。あと旦那でも妻でもない。ただの幼馴染だ!」
-
14 : 2015/12/18(金) 22:23:13.87 -
友「ハァ…ただの幼馴染ね…そうね、それが一番難しい所ね」男「…あ?」
幼馴染「ねーどうしたの。ボクにも聞かせてよ」
友「あぁそれがなこいつときたらナツキちゃんがいるってのに」
男「なぁお前忙しいんじゃねぇのかよ!! バイトの時間は大丈夫か」
友「おっと…まずいな…立ち話してる場合じゃなかった」
友「んじゃ行くわ。じゃあな、夏休み明けたらまた遊ぼうぜ!」
男「おう」
友「どこにも行く気がねぇ不精野郎なら、俺を置いて勝手に大人の階段のぼるなよ! ずっと部屋でグダグダしてるんだな」
男「おう任せろ」
友「まぁ俺も?バイト先の色っぽい先輩とあれやこれや一夏のアバンチュールがあるかもしれんけどな!?ハハハ」
友「短期バイトの一期一会の関係なんて燃えあがるぜ?」
男「はよいけ」シッシッ
幼馴染「ばいばい」
-
15 : 2015/12/18(金) 22:25:04.91 -
・ ・ ・
幼馴染「ねぇアバンチュールってなに?」
男「揉め事をおこしてクビになるってことだ」
幼馴染「悪そうだもんね。髪の毛染めちゃだめなのに」
男「ああ見えて意外と仕事や授業は真面目なやつだ。寝てばっかのお前よりな」ツン
幼馴染「へー」
男(…ひと夏の思い出なぁ)
男(つってもなぁ。なんでナツキと…)ジトー
男(そういうのは彼氏彼女の間柄でやるもんじゃないのか)
幼馴染「アイス開けよっと」ガサガサ
男「こらぁ、袋ひっぱんな」
幼馴染「とけちゃうよ~」
男「ドライアイスもらってるから」
幼馴染「そっか。じゃあ帰ったら縁側でだらだらしながら食べよう。そのあとお昼ご飯ね」
男「先に草むしりやってもらうからな」
幼馴染「えーー? ケチ!!」
男「先に飯食ったらお前寝るじゃん」
幼馴染「なんで分かるの!?」
男「いつもそうだろ……」
もうじき夏休みが始まる。
第一話<幼馴染>おわり
-
16 : 2015/12/18(金) 22:25:51.84 -
更新終わり 次回は来週中
全7話予定
※R-18 -
32 : 2015/12/19(土) 21:54:06.81 ID:bnDRPr/mO - なじみんについて詳しく
-
33 : 2015/12/19(土) 23:08:46.03 -
>>32
幼馴染(♂)「くす、僕が女の子なら君に1回くらいヤラせてあげたのにな…ww」
-
46 : 2015/12/30(水) 21:50:24.88 -
第ニ話<扇風機>
幼馴染「わぁーんやだぁいっぱいでたー!!」
男「……」
幼馴染「こんなの無理ぃ」ヘナッ
男「今年は早めに終わらせろよな」
女子A「ナツキちゃんまたね」
幼馴染「ばいばい。またねー」
女子B「遊びすぎて宿題わすれちゃダメだよ?」
幼馴染「うぅん…がんばる」
友「くぅ、こんなに宿題があっちゃバイトもままならねぇ」
幼馴染「ほんとだよー」
男「お前は何もしないだろ…」
幼馴染「えー? プールいったり、甲子園みたり、忙しいもん」
友「っと、ちゃんと夏休みのプランは立てたか」ボソボソ
男「え? 課題は最初の週にあらかた終わらせるつもりだけど…」
友「馬鹿野郎。ナツキちゃんをどっかつれだしてやるイベントだよイベント」
男「はぁ……なんで?」
-
47 : 2015/12/30(水) 21:52:43.73 -
友「なんでって…」友「だってお前が1番親しい仲だろ。他に誰がいるっていうんだ」
男「親しい…って言われてもな。関係あるか…?」チラ
幼馴染「? また内緒話してる…」
友「関係大ありだ! ったくいつか後悔してもしらねーぞ」
男「しないって。例年通り過ごすさ」
友「……」
幼馴染「帰ろうよー」
男「そうだな。よしユウジこの後カラオケ行こう」
友「行かん。悪いが俺は夕方からシフトだ」
男「あ、そ。じゃあまた連絡するわ」
友「おう」
幼馴染「!! じゃボクと2人カラオケ!?」
友「それがいいな。行ってらっしゃい」
男「やだね。寄り道はしないことにした」
幼馴染「なんでさっ! 行こうよ行こうよ~」ユサユサ
友「行けよ行けよ~~」ユサユサ
男「っていわれてもこいつ……——」
-
48 : 2015/12/30(水) 21:53:53.71 -
【カラオケ店-個室】
幼馴染「~~♪゛ ~♪゛ るーらら~♪♪゛」
男(——死ぬほど音痴じゃねぇか…)
男(ユウジの奴ッ、これを延々と聞かされる俺の身にもなれよ!)
幼馴染「きーーいーーてーーるーー??」キーン
男「だーやめろ!」
幼馴染「~~♪゛」
男(本人楽しそうだからいいけど…もうちょっとどうにかならねーのかな)
幼馴染「あ゛ー楽しかった」
男「お前の場合歌うっていうより、でかい声だしてるだけだよな」
幼馴染「聞き惚れたでしょ」
男「……音程付きの採点機能にしていいか」
幼馴染「それはダメ! だってここの採点機能壊れてるし!」アセアセ
男(壊れてるのはお前のほうだぞ)
-
49 : 2015/12/30(水) 21:54:48.21 -
男「あのさ、ちゃんと腹式呼吸できてるっぽいのになんでそんなに音程とれないんだよ」
幼馴染「ふく式? あ、お腹ね」ペロン
男「ッ! そんなものしまえ!」ベシン
幼馴染「いひゃう! 痛いよぉ」
男「びっくりした…なんなんだ」
幼馴染「びっくりしたのはボクのほうだよ。だってお腹って言ったから」
男「腹を出せなんて言ってない!」
男(全身焦げてる癖に腹はあんなに生白いんだな…当然か…学校でしかまだプール入ってないもんな)
男(って、見てない見てない。あれはただのナツキの腹…ナツキの腹…)ブンブン
幼馴染「次キミの番! そんなに言うなら手本見せてよ」
男「よぉし。聞いてろ」
幼馴染「わー」パチパチ
ナツキは一言で言うとアバウトな奴だ。
音程からボールのコントロールまで、そして当然それは私生活にも至る。 -
50 : 2015/12/30(水) 21:56:24.51 -
・ ・ ・
幼馴染「ただいまー」ガラガラ
男「お邪魔しますだろ。俺んちだぞ」
幼馴染「喉乾いたなー。昨日買ったコーラまだあるっけ」
男「あるから、さきに手洗ってうがいな」
幼馴染「わかってるよ。お母さんみたいなこと言わないでよ」
幼馴染「あーあっついー」
男「今日はキャッチボールしないからな」
幼馴染「ボクだってこんな暑い中やりたくないし…夕方涼しくなってからにしよ」
男「だからそれまで宿題だな。今週中に終わらせようぜ」
幼馴染「……」ヘナッ
男「3時間もカラオケで遊んだんだからいいだろ?」
幼馴染「そんな生き方たのしい?」
男「俺がお前に聞きたいね」
-
51 : 2015/12/30(水) 21:58:35.79 -
【リビング】
pi pi…
男「ん?」
幼馴染「どしたの。クーラー早く」
男「押してるんだけど」
pi pi…
男「音はなるのに…開かない…」
幼馴染「え~~なにやってんの」
男「俺のせいかよ」
我が家は家の柱一本から家具に至るまでとにかくなんでも古い。
家のあちこちに昭和の遺物が伺える。親は近年家に滞在することがめっきり少なくなったので、最新の家具や家電とは無縁だ。
たまに帰宅しては、俺や姉の最新家電の熱心なプレゼンに耳を傾けることはなく、
『動けばいいでしょ』等とぬかし買い換える気配を微塵も見せない。男(動かねーじゃねぇか!)
そしてこのエアコンも俺が生まれる前から我が家で働き続けた功労者らしく、
そろそろガタがきて引退してもおかしくない頃合いとなってしまったようだ。 -
52 : 2015/12/30(水) 22:00:11.95 -
男「ダメだ壊れたつかない。ポンコツめ」pi pi幼馴染「南無~」
男「戦力外通告だな」
幼馴染「そんな~。せめて引退試合してあげてよぉ」
幼馴染「じゃなくて! ほんとに壊れちゃったの!? ボク暑いんだけど!」
男「修理するにしても、買い換えるにしても金がかかる…どうすっかな」
幼馴染「買い替え希望します! 今度はズゴゴゴってうるさくない奴で!」
男「しばらくは扇風機だすから我慢しろ」
幼馴染「……」
男「なんだその顔は、嫌なら帰れ。お前の家のエアコンは正常なんだからいいだろ」
幼馴染「ボク畳の部屋じゃないと落ち着かない身体になっちゃった」
男「あいてる部屋の一枚くらいなら持って帰っていいぞ」
幼馴染「う゛うう」
男「とりあえず扇風機とってくる」
-
53 : 2015/12/30(水) 22:01:48.64 -
・ ・ ・
男「うわーなんでよりによって、丁寧に分解してしまってあるんだよ」
男「組み立てるのめんどくせぇなぁ」カチャカチャ
幼馴染「お姉ちゃんかな?」
男「いや犯人俺だと思う」
幼馴染「え!」
男「埃かぶるの嫌だなとおもって…ほら羽を掃除してしまってあるから綺麗だろ? へへ、さすがだな俺。清々しい気分で使えそうだ」
幼馴染「わかったから早く組み立ててよ」
男「うるさいな。お前暑いから寄ってくるなよ」
幼馴染「早く♥ 早く♥」
男「よし。スイッチ」
幼馴染「オン!」カチ
男「おお」
幼馴染「わーい!」ドンッ
男「あ、コラ」
幼馴染「あぁ~~~♥」
幼馴染「あ゛ぁ~~~~♥」
男「どけっ」
幼馴染「あ゛ぁあぁあぁあぁ~~~~~♥」
男「……それしたくなるのはわかるけど」
-
54 : 2015/12/30(水) 22:04:54.81 -
幼馴染「すずし~~~っ!」男「わかったからせめて首振りにしろ。どけ!」ガシッ
幼馴染「やだぁ。客人を先にもてなせぇ」
男「お前は帰っていくらでも涼めるだろ! っていうかお前んち行っていい?」
幼馴染「鍵もってない。ママ今日遅い」
男「だとおもった…ハァ」
というのも、ナツキは中学の頃に自宅の鍵を紛失した前科があり、盗難被害を心配した親は扉の鍵を新しく付け替えたそうだ。
それ以降ナツキはいい年して鍵をもたせてもらうのに許可がいる。
あまりに情けない話だが、こいつを見ているとおばさんの気持ちも少しわかってしまう。男(かといって俺んちに居座るの前提になっているのはどうなんだ?)
その後、涼をとるためふたりで扇風機の前にならんで買い置きのアイスを食べた。
男(せめてもう一台買わなければ…)
幼馴染「はむっ♪ 夏の贅沢!」
幼馴染「クーラーでキンキンの部屋じゃ味気ないよね!」
男「はいはいよかったね」
食べながらふとユウジの言葉を思い出した。
あいつはどうも夏休みはイベントがあって当たり前だと思っているようだ。
しかしナツキは普段から何をやっていても日々を満喫しているようにみえる。男(わざわざこいつのためになにかしてやる必要があるのか? そもそもなんで俺が…)
-
55 : 2015/12/30(水) 22:07:21.61 -
男(なんの義理もないよな。むしろ俺がなにかしてほしい。普段迷惑かけられてんだから)ジトー幼馴染「…? おいしかった!」
男「全部食ったか。いい加減にはじめるぞ」
幼馴染「…はー。もう1本——……はい、わかってるよぉ。怖い顔しないでよ」
男「余裕をもって早めに終わらせとけばあとが楽だろ。後半たっぷり遊べる」
幼馴染「なにして遊ぶの?」
男「なにしてって…知るかよ! 知るか!」
幼馴染「ボクと遊ぶためじゃないの?」
男「んなわけねーだろ。お前は…その、クラスの友達とでも」
幼馴染「……む、休みに遊ぶほど仲いい子いない。知ってるくせにひどいなぁ」
男「と、とにかく俺は夏休み終盤にお前に手伝わされるのが嫌なんだよ!」
幼馴染「なんだかんだ言って毎年手伝ってくれるんだよね♪」
男「うっさい! 今日は数学からな」
幼馴染「え~~。この暑さの中で数学!? はぁ~」
男「俺の写すなよ?」サッ
幼馴染「わかってるよ!! キミの答え信用したらとんでもない目にあうんだから!」
男「やったことあんだなこいつ!」グリグリ
幼馴染「あだだだっ、やめっ、あぁぁぁ! いだいっ」
男「向かい側に座れ」
幼馴染「でも扇風機が~」
男「お前のほう向けてていいから」
幼馴染「やった!」
-
56 : 2015/12/30(水) 22:09:44.54 -
・ ・ ・
幼馴染「……zzz」スピー
男「結局これだよ」
男「おい。ナツキ」
男「顔に畳の型つくぞ」
幼馴染「……ん、ぐぅ…zzz」
男「おーい。って全然進んでねぇし…6問しか解いてねぇ」
幼馴染「んゆ…zzz」ゴロン
男「!」
普段ナツキがスカートでうちに居座ることはあまりない。
こいつは制服姿があまり好きじゃないらしく、おばさんが家にいる日はいつも帰宅してジャージ姿やスポーティな服装に着替えてやって来るからだ。
普段着でスカートやワンピースの類はおそらくもっていない。見たことがない。
そんなナツキの少しめずらしいスカートが扇風機の微風に煽られて、はためいていた。揺れる布の中からは小麦色の健康的な足がすらりと伸びている。
寝返りでブラウスも多少乱れてめくれ、真っ白なまぶしいお腹も見えた。男「……」
男「ナツ…キ」
幼馴染「…zzz」
-
57 : 2015/12/30(水) 22:13:00.20 -
子供のように幼くて安らかな寝顔と不釣り合いなほどに、ナツキの体はいつの間にか大人になった。
無防備に露出した柔らかそうな太ももやお腹、ブラウスのささやかな膨らみ、少し汗ばんだ首筋に思わず心臓の鼓動が速くなる。男「起きろよ…宿題…」
幼馴染「…zzz」
男「…よだれ垂れてるぞ」
幼馴染「…zzz」ゴロン
普段なら足で尻を蹴ったり、頭をこづいたりと雑な扱いで起こすことが出来ただろう。
だけど今日の俺は少しおかしい。
ユウジに再三ああ言われてから、なぜだかずっとナツキのことを考えている。数学の宿題も実は他人のことを言えるほどすすんでいなかった。
この夏はどこにいってなにをしようか、そんなことばかりが頭のなかをめぐっていた。男「ごろごろしてるとそのうちパンツみえるぞ」
幼馴染「…zzz」
男「恥ずかしくないのか?」
ナツキのパンツなんてどうでもいい。裸ですら興味はなかった。
もしかしたら姉のや母のと同じく、そんなもの見てしまったという嫌悪感のほうが強いかもしれない。男(って、ずっと思っていたのに…)
どうやら違うらしい。
いまのナツキは女の子にしか見えない。 -
58 : 2015/12/30(水) 22:15:14.12 -
幼馴染「…zzz」スカートをめくって中を見てみたい。
そんな男子なら当たり前の衝動に突き動かされたが、不思議とナツキの側に近寄ることができなかった。ナツキに直接触れてイケナイ行為を働くことがはばかられた。
なので俺は恐る恐る扇風機の風を1段階強くした。固いひねりをカチリと回す。
扇風機は命令通り、先ほどよりも強い風をナツキの下腹部に向かって送る。男「やべっ」
ついやってしまったと後悔した。
しかしそれとは裏腹にナツキのスカートと脚から目をそらすことができない。男(あれ…?)
結果は期待はずれだった。
布のはためく様を数十秒観察してみたものの、スカートが完全にめくれあがることはなかった。
クラスの他の女子のようにミニスカにしているわけでもないナツキの長めのスカートは、見事鉄壁の守備を見せた。男(なんかほっとしたような、悔しいような…)
そして俺が罪悪感と敗北感に包まれるなか、何もしらないナツキは寝心地悪そうな怪訝な顔で再び寝返りをうつのだった。
-
59 : 2015/12/30(水) 22:18:28.14 -
男「それにしても起きねーな。おい」男「ケツ蹴るぞ」
幼馴染「…うぅ…ん…zzz」
幼馴染「えへへ……zzz」ゴロン
男「お前って無防備だな。もしここにいるのが俺じゃなかったら…」
男「俺じゃなかったら……?」
何を言おうとしたのだろうか。
俺じゃなかったら襲われている?
一体どこのだれがナツキのような男女を襲うというんだ。趣味が悪すぎる。男(こんな…可愛くないやつ…)
男(可愛くない…よな…?)
幼馴染「…zzz」スゥスゥ
男(昔から…他の女子や後輩にはかっこいいとかって言われてるし…)
男(だからこいつには女としての魅力はないんだ…)
なのに俺の手は自然とナツキの脚に伸びていった。
心臓の鼓動が早い。妙なスリルと高揚を感じる。
そして指先が布切れの端に触れようとした瞬間。カラン
男「!」
グラスの中の大きな氷の山が崩れ、甲高くて小気味の良い音を立てた。
理性がぐいっと引っ張り戻されて、俺は頭を振って、ナツキの肩を勢い良く揺すった。 -
60 : 2015/12/30(水) 22:20:10.50 -
男「おい起きろ! 晩飯の時間だぞ」幼馴染「ふぁ…ぁぁ…なに? あれ…もう夜?」
幼馴染「お腹へったかも…ふぁぁぁ」
幼馴染「あれ、扇風機つよくした?」
男「あ、あぁ! お前暑そうだったから…」
幼馴染「ちょっとだけ涼しくなってきたね。あ、キャッチボール!」
男「暗くなってきたからしない。ノート片付けてそろそろ帰れ」
幼馴染「晩ご飯の時間って言ったのに…」
男「家で食えって意味だ」
幼馴染「ここボクの家! みたいなもんでしょ!」ゴロン
男「こらっ、ナツキぃ! ったく…じゃあ電話してくる。おばさん帰ってるんだよな?」
幼馴染「たぶんね~」
男「あと寝転ぶなら来客用の布団敷け!」
幼馴染「はぁい」
幼馴染「じゃあ晩ご飯できたらおこして~」
男「また寝るのか…俺がお前を起こすのにどれだけ苦労したと思ってんだ…」
幼馴染「え?」
俺「なんでもない!!」
ナツキと過ごす暑い夏ははじまったばかりだ。
第ニ話<扇風機>おわり
-
61 : 2015/12/30(水) 22:21:29.67 -
更新おわり 予定より遅れちゃってスマソ
次回は正月休みの間にします
よいお年を -
70 : 2016/01/07(木) 22:19:33.07 -
第三話<プール>
幼馴染「暑いよぉ~~~!!」バタッ
男「うるせーな…扇風機向けてるだろ」
幼馴染「アイス」
男「無い」
幼馴染「……うー」
今日も酷暑だ。
朝からひっきりなしに蝉が大合唱をつづけ、カンカン照りで庭の土が茹だったように熱気を上げる。
氷をたっぷりいれた麦茶はとっくにぬるく薄くなり、ナツキはぐったりと畳の上に倒れこんだ。
到底我が家のオンボロ扇風機一台で乗りきれる暑さではなかった。男「だからキャッチボールなんてしなきゃ良かったんだ。馬鹿じゃねぇのかお前馬鹿だろ」
幼馴染「…う゛ー。キミ暑くないの?」
男「暑いけど。しかたないだろエアコン壊れてんだから」
男「文句いってないで宿題しろ」
幼馴染「ちぇ~、こんな暑くっちゃまったく集中できないよ」
男「縁側は結構風入ってくるからマシだろ」
幼馴染「んー。なんか足りない気がしない?」
男「なんかって?」
-
71 : 2016/01/07(木) 22:21:19.97 -
幼馴染「ねぇ去年はここに風鈴つけてなかった?」男「あー風鈴か。言われてみれば。どこしまったかな」
縁側と来れば風鈴が夏の風物詩だ。
あとはスイカでもあればいいのだがあいにく買い置きはない。幼馴染「出して出して!」
・ ・ ・
チリン♪
幼馴染「これこれ♪ いい音ーもっと風よ吹けー」
男「満足したなら机にもどれ」
幼馴染「さてと! ちょっとすずしくなったし一眠り…」
男「ナツキ」ジトー
あまりにだらしない姿だった。
とても年頃の女の子だとは思えない。
汗ばんだシャツと短パン姿で畳の上をいつまでもゴロゴロとするナツキに俺は頭を抱えた。
夏休みがはじまって数日。宿題しかやることがないくせに、一行に進んでいない。 -
72 : 2016/01/07(木) 22:23:23.43 -
幼馴染「……ボクがなにしようと勝手じゃんか~…」男「……ハァ」パタン
幼馴染「おぉお! 遊ぶ!? ゲームする?」
男「…」ガシッ
幼馴染「んぅ? 何? いだだひっぱらないで」
男「さよなら」
ポイッ
幼馴染「ひっ!」
男「帰れ」
ガラガラ ピシャン
幼馴染「!? あ゛ーー暑いよぉ! 入れてよぉ!!」バンバン
男「そのまま帰るか庭で反省してろ。ひとんちで毎日ぐうたらしやがって…休憩所じゃねぇぞ」
幼馴染「せめて帽子を…日射病になっちゃうよぉ!」
男「……ッ」
ガラガラ
男「そりゃそうだよな。悪かった」
幼馴染「あづーー…ばかぁ、せっかく汗ひいてきてたのにぃ」
気温は37度を回っていた。
昔はこんな暑い中でも白球と熱心に戯れたわけだが、いまとなっては考えられない。
ナツキと10分キャッチボールをしただけで耐えられなくなってしまった。 -
73 : 2016/01/07(木) 22:25:33.29 -
幼馴染「ねぇ暑いよぉ…ボクの脳みそとろけちゃうよぉ」男「お前はとっくにとろけてるだろ」
幼馴染「あ! そうだ! いいこと考えた」
男「なに…」
幼馴染「プール行こ!? そこの」
男「第二プールか…………やだね」
幼馴染「なんでぇ! すぐそこじゃん」
男「一人で行けよ」
幼馴染「やだよつまんないじゃん! ねぇなんでプール行かないのおかしいよ」
男「…おかしくねぇし。だって、め、めんどくさいし…どうせ混んでるし」
家から7~8分ほど歩いた場所に市営の小さなプールがある。
たった100円で入れるので暑い日は近所の子供でごった返し、まともに泳ぐことはできない。
最後にナツキ行ったのはずっと前だ。幼馴染「別に泳がなくっていいからさぁ。入るだけでも…」
男「なおさら一人で行けよ」
-
74 : 2016/01/07(木) 22:27:15.22 -
幼馴染「……」幼馴染「……」ジー
ナツキは大粒の汗をこめかみから垂れ流しながらふくれっつらで俺を見た。
正直に言うと俺だって暑いし、プールや海に浸かって涼みたい。
しかしナツキと2人で行くということに若干どころかかなりの抵抗があった。男(いい年した男と女でプールなんて、アレだろ)
幼馴染「…なんか言ってよ」
幼馴染「プールいくよね? ボク家から水着取ってくるけど」
男「……」
男(近所の子供と会ってめんどくさいことになりそうだし)
俺とナツキは地元のリトルリーグで多少活躍していたこともあり、近所では顔が広い方だ。
小さい頃は「あらあら2人は仲良しねぇ」で済んでも、いまとなっては他人の目にどう映るだろうか。
自分達の間柄は所詮ただの幼馴染同士なのだが、世間の人にはやはりそういう目で見られてしまうだろう。男(大・迷・惑だ)
幼馴染「ねー?」
-
75 : 2016/01/07(木) 22:29:14.71 -
男「一人で行けって」
幼馴染「そんなの恥ずかしいじゃん!」
男「なっ、なんで?」
男(どう考えても一緒に行くほうが恥ずかしいだろ…)
幼馴染「だってボク学校の水着しかもってないもん」
男「はあ、それが?」
幼馴染「ひとりでスク水着て市民プールなんてかっこ悪いじゃん」
幼馴染「でもキミも一緒なら、多分平気かなって。男子のも結構ださいし、ぷぷ」
男「俺海パン持ってるし」
幼馴染「えっ! それはダメ! 着用禁止! あ、全裸でって意味じゃないよ!」
男「お前さ、水着もってないの? 持ってなかったっけ…」
幼馴染「うん! 去年のサイズきつくて入んなくなっちゃった!」
男「……」
男「ちょっとでかくなったもんな」
幼馴染「えへへー。背3cmくらい伸びてねー」
男「あ、あぁそっちな!」
幼馴染「?」
それにしても、ナツキの思考回路がわからない。
俺と一緒にあちこち出歩くことをどうとも思わないのだろうか。いまだユウジの言葉が棘のように俺の心に引っかかっていた。
俺がナツキをどこか連れて行く義務はないし、お門違いもいいところだ。 -
76 : 2016/01/07(木) 22:31:16.88 -
幼馴染「で、どうする!? 行っちゃう!?」男「行かない」
幼馴染「……はぁ~~」
ナツキは目の前で露骨に肩を落として、わざとらしく大きなため息をついた。
刺さった棘がずきりと痛み、小さな罪悪感が芽生える。男「ぐ……」
幼馴染「そうだよね…絶対混んでるし、あそこのプール狭いもんね…」
男「そんなに行きたいのか…」
幼馴染「だってあ゛ついよ゛~~~クーラーほしーーはやく修理~~」
男「だだこねるなよ。あ……そういえば」
男「ちょっと待ってろ」
幼馴染「うーーー? もういいよ…ボクはここでカラカラに干からびて死にます…」グデン
プールと聞いてふと幼い頃の記憶が蘇った。
近所のプールは意外と水深があり、幼児や小学校低学年のうちは確か入れなかったはずだ。
そんなとき俺たちはどうしてたか。男「たしか水泳関連はこの部屋に」
俺は物置と化した埃っぽい部屋にやってきた。
すっかり立て付けの悪くなった押入れの戸を開き、中をひっかきまわして目的のものを探す。男「あった!」
手にとったのは直径1m足らずの幼児用のビニールプールだった。
-
77 : 2016/01/07(木) 22:32:54.19 -
早速足踏みポンプをつないで膨らましはじめる。男「ぐ…結構でかいよなこれ…」
浮き輪に比べるとだいぶ大きいので意外と重労働だ。
だんだんと汗が滴り落ちてくる。
風の入らないこの部屋は予想以上に熱気がこもって暑かった。男「向こうでやるか? いやいや…」
ちゃんと膨らました状態でナツキに見せてびっくりさせようと思った。
なぜだかあいつの喜ぶ顔がみたい。落胆させてしまった責任もある。男「ほんとにこんなんで喜ぶかどうかはわからないけどな…」
シュコシュコ シュコシュコ
男「出来た」
ふくらましたビニールプールの底にはかわいらしいシャチの絵がプリントしてあった。
ナツキがやけにオルカが好きなのはこれが原因なのかもしれないとその時になって気付いた。男「ナツキ! お前にいいもん持ってきたぞ」
幼馴染「……」
すっかりふてくされたナツキは、またしても際どい格好で寝転がっていた。
シャツがめくれてへその上までみえてしまっている。男「おい見ろ! お前のためにもってきたんだぞ」
幼馴染「んぅ…?」
-
78 : 2016/01/07(木) 22:34:59.72 -
幼馴染「なぁに…」男「お前のお気に入り。いい加減起きろ」
軽く尻をけとばす。
ナツキは不機嫌丸出しで身体を起こした。幼馴染「…?」
幼馴染「わっ! それなつかしー♥」
男「だろ?」
幼馴染「……ってそんなちっちゃいのもう入れるわけないじゃん。ボクたち何歳だと思ってるの」
男「いやいやこれはだな」
男「…とりあえずさきに水張るか」
縁側の沓脱ぎ石の上にプールを置き、庭の水道から引っ張ってきたホースで水を注いだ。
幼馴染「おーーそうするんだ」
男「足だけでもひやせば涼しくなるかとおもってな」
幼馴染「さっそく入っていい?」
男「もうちょい水溜まってから」
幼馴染「じゃあ麦茶おかわりいれてこよーっと!」
男「あとなんか食いもん探してきて」
幼馴染「うん!」
-
79 : 2016/01/07(木) 22:35:33.89 -
・ ・ ・
幼馴染「あひ~~、冷たいっ」
男「どう」
幼馴染「いい感じ! きもち~~」
男「良かったな」
幼馴染「このオルカプールほんと久しぶりだねぇ…捨ててなかったんだぁ」
男「親が物捨てるの下手なんだよ。ウチ広くて置き場所いくらでもあるからな」
幼馴染「なんかイヤミっぽいね」
男「うるせぇ。とっておいたことに感謝しろ」
幼馴染「えへへ、ありがと!」ニカッ
男「…お、おう」
幼馴染「そういえば、昔はパラソル立てて日除けにしてなかった?」
男「よく覚えてるな。パラソルは…どこにあるかわからねぇや悪い」
幼馴染「いいよ。ん~~麦茶おいし♥」
男「ひとんちでえらく贅沢してるなお前」
幼馴染「…ねぇねぇ」チョイチョイ
男「何」
幼馴染「キミは入らないの? きもちいいよ」
-
80 : 2016/01/07(木) 22:37:41.73 -
男「は?」聞き間違えかとおもったが、ナツキは隣に座って入れと言ったようだ。
隣といってもビニールプールの幅はとても狭いので、2人が足をつけようと思ったらかなり密着して座らなければならない。幼馴染「おいでよー」チャプチャプ
幼馴染「きもちいいよー」
ナツキが足をばたつかせるたびにプールの水面が跳ね、濡れた足がやけに艶めかしく映った。
男「おいでよってお前…」
幼馴染「? 来ないの? なんで?」
男(むしろ変に意識してるのは俺の方か?)
男「…じゃあ、ちょっとだけ」
俺はなぜだか遠慮がちにナツキの隣に腰掛け、恐る恐る足をプールにつけた。
透き通ったひんやりとした水が体温をさげていく。男「おおー。おおおお!」
幼馴染「くふふ。ね? ビニールプールって意外とつかえるね」
幼馴染「これ捨てちゃだめだよ。ボク毎日つかうから」
男「水道代が馬鹿にならないから却下」
幼馴染「あ、そっか…」
男「まぁ…2、3日に一度くらいならいいけど」
幼馴染「だよね! うんうんこれはいいものだよ」
-
81 : 2016/01/07(木) 22:39:38.38 -
・ ・ ・
チリン♪
幼馴染「あー夏だねぇ。あーー暑いのに涼し♪」
男(簡単な奴。これで機嫌治ったかな…)
幼馴染「~♪ ~~♪」
ナツキは上機嫌にど下手な鼻歌を歌いながら、足を小さくばたつかせていた。
時々足先が水中で触れる。
その度に俺の心臓はやけにうるさく高鳴った。男(なんだろうな…別にいかがわしいことしてるわけじゃないのに…)
男(ナツキの足…ナツキのくせにめちゃくちゃ綺麗だからかな…)
気がつけば視線がナツキの小麦色の足に釘付けになっている。
ふとももはどう見てもスポーツ体型でむっちりしてるのに、足全体を眺めると細くスラっとして見えるなんとも不思議なバランスだ。
筋肉質なはずがとても柔らかそうでもある。
整った綺麗な爪がきらきらと水中で光って、神秘的にさえ見えた。男(…なんかずるいな。女体ってみんなこうなのか?)
そんな足をぼんやりと見つめていると、涼しいはずなのにじわじわと体温があがっていく。
ナツキとわずかに触れている腕や肩にも熱を帯びていった。男「…ッ」
幼馴染「どーしたのーー?」
男「いっ、いやなんでも…」
-
82 : 2016/01/07(木) 22:41:34.13 -
幼馴染「あーオルカの絵見てたんでしょ。かわいいよね。実物がみたいなぁ」
男「体揺するな。あ、あたってるんだよさっきからちょこちょこ」
幼馴染「あっ、ごめんごめん」
幼馴染「そうだキュウリたべる? 台所で塩もみしてきふぁ」ポリポリ
男「それ晩飯のそうめんにつかうつもりだったんだけど」
幼馴染「んぅ。つかっちゃだめな奴は先に言ってよ!」
男「じゃあ一本くれ」
幼馴染「はい! 召し上がれ!」ニカッ
男(いつもとかわらないのに調子がおかしい)
男(ナツキの笑顔を見てると浮ついた変な気分になる)
男(俺もしかして……いやいやそんな馬鹿な)
心の底からありえもしない感情が湧き出そうになって、俺は必死に頭をふって否定した。
ナツキは幼馴染だ。そういう目でみる対象ではない。
目の前の女体に、つい雄の本能がくすぐられているだけだと思い込むことにした。その後は視線をどこへやっていいかわからず、ぼーっとキュウリをかじりながら庭の陽炎を眺めていた。
-
83 : 2016/01/07(木) 22:43:24.21 -
幼馴染「ねぇ、海行きたい。オルカも見たい」
男「浜辺にいるか」
幼馴染「イルカじゃなくてオルカだよオルカ。この足元の子」
男「……。オルカ見たけりゃシーワールドかな。近場の海にいたらこえーよ。遊泳禁止だろ」
幼馴染「そうそうシーワールドだよ! 観に行きたいよね」
男「俺は海で遊ぶほうがいい。クラスの暇してる連中誘ってさ」
幼馴染「それもいいね。だから両方!」
男「他になにかやりたいことあるか…予定は早い内にたてとかないとな」
幼馴染「んーっと…花火大会とか?」
男「あー。毎年お盆前くらいにあったな確か」
幼馴染「行きたいー。行こ行こ!」
男「確かここからでもちょびっとだけ見えるぞ。あっちの方角」
幼馴染「えー、近くで見たいよ。お祭りで屋台もやってるんだしさー」
男「じゃあお前ひとりで———…はいはい、気が向いたらな」
幼馴染「えへへ」
男「これだから友達いないやつは…」
幼馴染「い、いるよ! そこまで仲良くないだけで…」
男「じゃあ彼氏でもつくって一緒に行け」
幼馴染「え、カレシ?」
男「……お、おう」
-
84 : 2016/01/07(木) 22:46:09.50 -
男(ナツキに彼氏か……)なにげなく飛び出てしまった自分の言葉に、ずきりと心臓に違和感を覚えた。
まるでユウジの刺していった棘が太くなったかのような痛みだ。幼馴染「で、できるかな…? カレシかぁ…ボクに彼氏…??」
ナツキはすこし照れたような困惑した顔で俺を見つめて、さっと視線を逸らした。
こいつのこんな表情を見るのははじめてだった。反応からしてどうやら色恋沙汰に完全無関心というわけではなさそうだ。
ナツキですら歳相応に異性のことを考えたりもするのだろうか。
しかし男と腕を組んだり抱き合ったりしているイメージはどうしても思い浮かべることができなかった。男「……。一生無理だろお前みたいなおとこおんな」
幼馴染「な゛っ! ぼ、ボクだって」
男「前に聞いたって。女の子らしい格好したら可愛いんだろ、自称」
幼馴染「そうだよ!」ムスッ
男「見たことねぇけどなぁ…」
幼馴染「だ、だって…いまは持ってないもん。こないだ買ったジャージはアッキー的にはだめだったんでしょ?」
男「ぁ、アッキー言うな…。っていうかあれどうみてもそこらのおばちゃんのセンスだったろ」
幼馴染「う……うう、くそぅ」
-
85 : 2016/01/07(木) 22:49:02.12 -
幼馴染「じゃあさ…今度水着買いに行こ」男「えっ」
幼馴染「海いくなら要るでしょ。さすがに学校の水着じゃ、近所のプールまでしか行けないよ」
幼馴染「ボクのチョイスがださいっていうなら、アッキーのセンス見せてよ」
男「そ…うだな。買いにいくか」
幼馴染「うん! えへへ、絶対ボクよりセンスないよ」
そしてこの夏ナツキとたくさん出かける約束をした。
買物、海、シーワールド、野球観戦、お祭り。他にもいくつか。いつも何もせずに気づけば終わっている夏にくらべて、今年は随分とイベント尽くしだ。
自分はさきほどまで出かけることに全く乗り気じゃなかったはずなのに。男(違う。こいつが危なっかしくて放っておけないだけだ)
男(ちゃんと見張ってないと…なにしでかすかわからないから…)
男(勝手にどっかいったりするし…)
俺は自分の中でそう結論づける。胸の痛みはいまは治まっていた。
ぬるくなりはじめた水がバタ足とともにぱしゃぱしゃと跳ねる。
人の苦労をしってかしらずか、ナツキはこの夏の予定を復唱して無邪気に喜んでいた。男(ナツキとかぁ)
-
86 : 2016/01/07(木) 22:51:28.68 -
今年は少しは楽しくなるのだろうか。
何が起きるか想像がつかず、少し不安だ。
浅すぎるプールの底をのぞくと、真っ黒なオルカの絵がゆらゆらと泳いで笑っているように見えた。男(でも、こうなったのもお前のおかげかもな)
男(がんばろ…まずは宿題片付けることからだけどな…)
幼馴染「ねぇアッキー。晩ごはんなに」
男「あのさ、その呼び名復活しないでいいから。むず痒いんだよ」
幼馴染「このプール入ってたら思い出したんだよ。昔はずっとそう呼んでたなぁって」
幼馴染「ね! いいよね!」ニコッ
男「……。まぁ…いいけど、人前では絶対呼ぶなよな」
幼馴染「で、晩ごはんなに?」
男「お前にキュウリ食われたから考え中…そうめんの具にするつもりだったんだけど」
幼馴染「ボクねぎだけでもそうめん食べるよ~~!」
野球をはじめてから数年、俺たちの距離はずっと16mだった。それが少年野球のマウンドからホームへの距離。
幼馴染であり、投手と捕手。所詮その程度の関係でしかない。
こうして2人で一緒に懐かしいプールに足をつけていれば、幼かった頃の距離感を少し取り戻せる気がした。第三話<プール>おわり
最近のコメント