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1 : 2016/05/05(木) 22:51:36.94 -
前作:花陽「親愛なる隣人」凛「アメイジングかよちん!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459775793/SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1462456296
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462456296/
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3 : 2016/05/05(木) 22:58:22.26 -
西木野タワー占拠事件から数週間後 音ノ木坂学院
【μ's】
穂乃果「スクールヒーローチームのお名前募集BOXにやっと一枚入ってたけど……なにこれ、なんて読むの?」
海未「たぶん、マイクロズじゃないかと」
ことり「海未ちゃんそれじゃOSとか作ってそうな名前だよぉ~」ウフフ
花陽「あのー、たぶんミューズって読むんじゃないかと……」
海未「あっ……!」///
凛「あー海未ちゃん赤くなったにゃ—」
海未「も、もちろん知っていますとも! 神話に出てくる音の女神のことです」コホン
ことり「石鹸じゃないんだぁ」
穂乃果「音の女神……うん、音ノ木坂にちなんだいい名前。やっと部員候補が五人揃ったし、タイミングが良いよね」
穂乃果「——私たちは、スクールヒーローμ'sだ!」
-
4 : 2016/05/05(木) 23:25:27.64 -
音ノ木坂学院 生徒会室
絵里「認められないわ」
穂乃果「そんな! 言われたとおり五人集めてきたんですよ!」
絵里「五人集めてきて創ろうとしているのが、スクールヒーロー部だというのが認められないのよ」
希「穂乃果ちゃん、うちらの学校には、もうヒーロー研究部があるんや」
穂乃果「ええ!?」
絵里「類似した活動目的の部がある状況で、新しく別の部活動を始めることは許可できないわ」
希「つまり、そっちの部員と話をつけてきて欲しいってことやね。えりち」
絵里「……」プイ
希「まあそういうことなんや。ごめんね、穂乃果ちゃん」
-
6 : 2016/05/05(木) 23:37:38.54 -
音ノ木坂学院 屋上
穂乃果「——と、いうわけなんだよ!」プンプン
海未「確かに道理は通っています。生徒数の減少で予算に限りが出ていますし、部の数をいたずらに増やすわけにはいきませんね」
ことり「でもオトノキにヒーロー部がもうあったなんて。花陽ちゃんは知ってた?」
花陽「実は……昔有名になったスクールヒーローチームがこのオトノキにあったんです」
穂乃果「ええ!? どうしてそんな大事なこと黙ってたの!?」
花陽「そのヒーローは二年近く前に活動をやめてたから……きっとやめちゃったんだと思って」
海未「そのチームは、なんという名前だったのですか?」
花陽「チーム名は"トラブルバスターズ"。中心になって活躍していたのは……」
花陽「最初のスクールヒーロー——"キャプテン・ニコニー"です」
CAPTAIN NICONII EP.1 "The First School Hero."
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12 : 2016/05/11(水) 13:25:31.92 -
【音ノ木坂学院入学式の日 矢澤家・洗面所』
にこ「……」
すううううううう。
息を吸って。
にこ「ニコッ!」ニコッ
鏡の前で、笑顔の練習をする。
にこ「うん、今日もばっちりニコッ」
毎日の私の日課だった。だけど今日はいつもより、大切な日。
にこ「ママー、ここあ、こころ、虎太郎、行ってくる!」
にこママ「今日は入学式よね。制服、似合ってるわよ。うん、我が娘ながら可愛いわ、まるでアイドルみたい」
にこ「もーママったらぁー、褒めても何も出ないよー」テレテレ
にこママ「行く前にパパにも挨拶ね」
にこ「わかってる!」バタバタ
パパの遺影の前で手を合わせる。
にこ「パパ……『最初の技は笑顔』だよね。大丈夫、友だちもきっとできるから」
にこ「ちゃんと笑えるから」
にこ「行ってきます!」
私は矢澤にこ。ニコニーって覚えてラブニコッ!
今日から音ノ木坂学院の一年生。本音をいえば、もっとオシャレな学校に行きたかったけど、母子家庭で贅沢は言えないわよね。
でもにこは強いから、弱音なんて吐かない。友だち沢山作って、高校生活を謳歌するニコッ!
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13 : 2016/05/11(水) 13:26:09.66 -
初めて歩く通学路、オシャレに気を使ったからちょっと早足。そんな時だった——
「……ブツブツ」フラフラ
にこ「あの女の子……なんだかフラフラしてる」
どうしたんだろう。にこと同じ制服を着た長い黒髪の女の子——その胸のあたりが著しく自己主張している——が、虚ろな目で歩いていた。
貧血かな、声をかけようかな、と思ったけど、様子がおかしくて声をかけづらい雰囲気だった。
それに、信号の前だとちゃんと立ち止まってる。完全に意識がもうろうとしてるわけじゃなくて、何か考えてるようだった。
だけど——
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
にこ(青信号なのに——車が!?)
居眠り運転なのか、ブレーキが壊れたのかはわからない。
信号で止まる気配もなく、横断歩道に突っ込んでくる。そして黒髪の女の子は気づいていない。
にこ「——危ない!」ダッ
「えっ……!?」
ドンッ!
にこ(間に合——)
にこの両腕が彼女を突き飛ばした——その瞬間、にこの身体が空中に巻き上がった。
ぐしゃり、と全身の骨が砕けるのを感じた。不思議と痛みは感じなくて。
にこは思った。
入学式には、出られないかなって。
ぐしゃぐしゃに歪んだにこの身体んも周りにはたくさんの人が集まってきて、そこにはあの黒髪の女の子もいて。
「どうして……どうしてうちのことなんて、助けたん……」ポロポロ
にこの頬に涙の粒が落ちる音を聴いた。
-
14 : 2016/05/11(水) 13:26:42.35 -
「うちなんて、いなくなってもいいのに……かわりに傷つくことなんてなかったんや……」にこ(ああ、なにやってるんだろう、にこは)
にこ(この子を泣かせちゃった)
にこ(せっかくの可愛い顔が台無しにこ——なんて、もううめき声も出ないよ。肺が潰れちゃったんだ)
にこ(でも泣かないで、笑ってよ)
にこ(あんたが笑ってくれたら、にこはそれで……それだけで……)
白衣の男「ふむ——笑顔か」
黒髪の少女「あのっ、あなたは……?」
白衣の男「私は医者だ、君は彼女の知り合いかね?」
黒髪の少女「いいえ……見ず知らずのうちを、この子は……」
白衣の男「そう、か……そういうことができる人間、か」
黒髪の少女「お願いします、うちの血が使えるなら使ってください! うち、O型やから誰にだって輸血できます! それに内蔵だって使えるだけ使ってください!」ガシッ
白衣の男「……変わっているな。互いに無関心であることが普通な現代にあって、君たちは」
黒髪の少女「……」
白衣の男「いいだろう。本来ならばもう助からないが……手をつくしてみよう。手の開いている者達は手を貸してくれ、私の"研究所"が近い」
なぜだろう。身体はもうボロボロで、生命が尽きかけてるって自分でもわかるのに。
意識ははっきりとしている——ような気がした。
黒髪の女の子のことも、白衣の男の人のことも、はっきりとわかった。だけど身体が動かない。なにも伝えられない。
にこの身体は運ばれ、白い大きな建物に入っていった。病院じゃない、研究機関みたいだった。
そこの実験室のような場所ににこは横たえられた。
-
15 : 2016/05/11(水) 13:27:45.56 -
研究員「西木野博士——この"死体"は?」白衣の男の人は西木野博士と呼ばれていた。なんだか偉い人みたいだった。
西木野博士「"死体"ではない。まだ生きている。確実に致命傷だが奇跡的と言わざるをえない。しかしこのままでは死ぬだろうな。現代医療では生かす術はない」
研究員「では、何のために……」
西木野博士「可能性を感じた」
研究員「は……?」
西木野博士「"ラブカニウム"を用意しろ」
研究員「それは——まさか!」
西木野博士「そのまさかだ。移植手術を始めるぞ」
"ウェポン25計画"——始動だ。
麻酔が注入される。にこの意識が薄れていく。そして……"声"が聴こえた。
懐かしい声が。もう聴けないはずだった、大好きな人の声が。
「にこ——」
「——最初の技は笑顔だ!」
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16 : 2016/05/11(水) 13:28:14.00 -
【二週間後 西木野総合病院・個室】にこ「……」パチッ
知らない天井だ。
にこ「ここは……?」
黒髪の少女「よかった……目が覚めたんやね!」ガバッ
にこ「ちょ! いたっ、いたたたたた!! ぬゎによいきなり!」
黒髪の少女「ご、ごめんな! うち、つい嬉しくなって!」ビクッ
にこ「あんた、確か……"さっき"の」
黒髪の少女「……ごめんな、うちのせいで」
にこ「なに謝ってんのよ、いきなり」
黒髪の少女「事故はもう二週間も前のことなんや」
にこ「えっ……」
黒髪の少女「本当に、ごめんな……うちのせいでこんなことになって……」ジワリ
にこ「ちょっと、泣かないでよ! にこはこうして生きてるんだからもう気にしなくていいわよ!」
黒髪の少女「……でも……でも」
にこ「あんたねぇ、泣いてばっかだとせっかくの可愛い顔が台無しよ」
にこは女の子の涙を指でぬぐった。
黒髪の少女「っ……!」///
にこ「ほら笑うわよ。ニコッ!」ニコッ
黒髪の少女 キュウウウウン!
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17 : 2016/05/11(水) 13:28:52.32 -
黒髪の少女「に、にこっ」テレテレにこ「……」クスッ
にこ「良かった」
黒髪の少女「うん、ほんま生きててくれて良かった」
にこ「それもあるけど……もしにこが死んじゃったら、きっとあんた。気に病んじゃっただろうから」
にこ「だから生きててよかった」
黒髪の少女「そ、そんなこと言われたら、うち……」ドキドキ
にこ「え?」
黒髪の少女「な、なんでもないんよ」
にこ「そう。そういえばにこが目を覚ました時にいるなんて出来過ぎよね。あんた、まさか毎日ここにいたの?」
黒髪の少女「うん、ほんまはずっと居たかったけどそうするわけにもいかんし、放課後だけしか……」
にこ「はぁ、真面目なのねぇ。でもありがと。目覚めた時誰もいなかったら、たぶん寂しかったから。あんたの顔がまた見られて良かったわ」
黒髪の少女「……すごいんやね。矢澤さんは。まるで正義のヒーローや」
にこ「正義のヒーロー?」
黒髪の少女「うち、自暴自棄になっとったんや。ずっと助けて欲しかったんや……だからありがとう。どれだけお礼を言っても、言い尽くせへん」
にこ「……こっちこそありがとう」
黒髪の少女「え」
にこ「にこをヒーローって言ってくれて。ずっと憧れてたから。ねえあんた、名前は?」
黒髪の少女「うちは、うちの名前は——東條希」
にこ「そう、じゃあ希って呼ぶわね。いいでしょ、生命の恩人ってやつだもの、そのくらいの特権があったって!」
希「ふふっ……おもろいなぁ、矢澤さんは」
にこ「だからあんたも、にこって呼んで。名前で。これでおあいこでしょ」
にこ「助けたとか、助けられたとか、もうこれからはチャラ」
希「……ええんかな。うち、こんなに優しくされて」
にこ「いいのよ、人の厚意は素直に受け取りなさい」
希「うん……よろしくね、にこっち」ニコッ
-
18 : 2016/05/11(水) 13:29:33.32 -
【さらに数日後 西木野総合病院・個室】
西木野博士「久し振りだね、矢澤くん」
にこ「西木野先生!」
西木野博士「術後はどうかな、全身の痛みはマシになったかね」
にこ「はい、もう全然。手もこうやって動きますし」
西木野博士「経過は良好なようだ。補強につかった"特殊金属"がうまく適合したようだな。そろそろ歩行訓練をはじめても良い頃合いだ。退院もそう遠くはないだろう」
にこ「あの……前から聞きたかったんですけど、"特殊金属"っていうのは……」
にこ「それに、ママ——じゃなくてお母さんが言ってました。西木野博士が手術代を全部肩代わりしてくれたって。自分で勝手にやったことだからって……」
西木野博士「君はその理由が知りたいのかね?」
にこ「……はい。どうしてそんなに優しくしてくれるんですか」
西木野博士「君は興味深いな。その質問は私が君に聞きたかったことそのものだ。君にこそ問いたい。なぜ見ず知らずの他人のために生命をかけられたのか」
にこ「……私は、ただ身体が勝手に……」
西木野博士「そこには打算も何もなかっただろう。だからこそ知りたいのだ。それが心からの行動だからだ。君の魂に刻まれた自己犠牲だからだ」
西木野博士「ふっ、そういう物言いをすると、私も宗教家の言うことを信じそうになるな。自己犠牲、か。そういうことができる人間もいるということだ」
にこ「あの、先生……?」
西木野博士「すまない、独り言だ。先ほどの質問についてだが、手術代は気にしないで良い。金なら余っている。使い道は妻子にいい暮らしをさせてやることくらいしかないからね」
西木野博士「それに君の体内で身体を補強している"特殊金属は"——そうだな、君自身には話しておこう」
西木野博士「それは"ラブカニウム"と呼ばれる、未発表の素材でね。矢澤くん、"隕石"のことは知っているかな」
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19 : 2016/05/11(水) 13:30:08.23 -
にこ「はい。私が生まれたころ、東京に隕石群が降り注いだって」西木野博士「"ラブカニウム"は一言でいえば、隕石から発見された地球外の元素から創りだされたものだ。素材として強固で、柔軟性も高く、形状記憶能力も持っている。めったに破損することはないが、破損しても自己再生する特性がある」
にこ「そ、そんな貴重そうなものが!?」
西木野博士「それは良い。君にとって重要なのは、申し訳ないが骨格を強化したことでデメリットが生じるということだ」
にこ「それって……」ゴクリ
西木野博士「あくまでも外部から埋め込んだ強化骨格だから、代謝はしない。つまり君の身体の成長は止まってしまう。育ち盛りの年齢の君には酷だが……これ以上身長は伸びないし、体型も大きく変化しないと思って欲しい」
にこ「……」
西木野博士「これに関しては私の技術力不足だ。私を責めてもらってかまわない」
にこ「……ニコッ!」ニコッ
西木野博士「……笑顔、か」
にこ「私、西木野先生には感謝しかしてません。だからそんな顔しないでください」
にこ「パパが——じゃなくて、お父さんが言ってました。『最初の技は笑顔』!」ニコッ
西木野博士「ふっ……君は本当に、面白いな。そうだ、君に合わせたい人がいるんだ。明日からリハビリがてら会ってくれるかな。年齢も近いし、良い話し相手にはるはずだ」
にこ「いいですけど、誰なんですか?」
西木野博士「絶賛不登校中の、私の不肖の娘——西木野真姫、さ」
Chapter.1 END
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27 : 2016/05/16(月) 00:13:54.96 -
【現在 音ノ木坂学院・ヒーロー研究部部室前】
真姫「……」
扉に手を当てて、そっとうつむく。
何度もこのドアの前まできた。だけど扉を叩く音は鳴らない。
こうして待っていれば、いつか"あの人"が扉を開けて私に手を差し伸べてくれると、心の何処かで思っていた。
約束したから。
時が過ぎ去った今も、ずっと、待ち続けている。
凛「あー、真姫ちゃんだー。一緒に帰るにゃー」
花陽「ここって、もしかしてヒーロー研究部……?」
凛「真姫ちゃんここに用でもあった?」
真姫「……いいえ、別に。きっと留守みたいね」
扉の音は、今日も鳴らなかった。
花陽「今日も図書館でお勉強してたの?」
真姫「まあね、一応これでも医者を目指してるんだから」
凛「すごいにゃー、凛なら真姫ちゃんくらいの成績があったらもう勉強なんてしないよ」
真姫「当たり前デッショー。受験勉強じゃないわよ、もう学力は大卒レベルあるわよ」
凛「えー! じゃあなんでまだ勉強してるの—?」
真姫「医者は人の命を救う仕事よ、医者になってからもずっと学び続ける必要があるわ。医学部に入るとか、国家試験に合格するとか、そんなの通過点にすぎないわよ」
花陽「すごいんだね、真姫ちゃん。ちゃんと、夢があって」
真姫「パパと——同じものが見たいの」
真姫「花陽、凛、一つ聞きたいことがあるの。パパが残してくれた言葉よ。今もずっと、その言葉の意味を考え続けてる——」
「——人はなぜ落ちると思う?」
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28 : 2016/05/16(月) 00:25:01.08 -
Chapter.2 過去編
【過去 西木野家 真姫の部屋】
西木野博士「真姫——人はなぜ落ちる?」
真姫「そんなの、愚かだからに決まってるじゃない。人のほとんどは愚かよ。パパだって、そう思ってるんでしょ」
西木野博士「そうかもな」
真姫「どうせ——学校にいけって言うんでしょ。あんな俗物だちのところへ」
真姫「知能指数が30離れた相手とはまともに会話が成立しないそうよ——俗説だけど、実感はするわ。私のIQは160よ、パパ。東大生の平均は120。クラスに一人でも、私と話が通じる相手がいたらかなり運がいいってことになるわよ」
真姫「テレビのあの男が格好いいとか、今年はどんなファッションがトレンドだとか、くだらない話しかしないあの人達と仲良くしろっていうの?」
西木野博士「いいや、そんなくだらない説教をするつもりはない。真姫、君は特別だ。普通の子どもと同じ接し方をしても無意味だろう」
西木野博士「そもそも、君はすでに高校卒業レベルの学力がある。無理に学校へいく必要はない」
真姫「だったら……」
西木野博士「私はなにも、真姫に"普通になれ"という気はないさ。ただ、世界を見て欲しいんだ」
真姫「それって、パパが"戦争"へ行った時のことと関係してるの?」
西木野博士「……そうかも知れないな。しかし真姫、世界には我々天才にすら想像のつかないモノがある」
西木野博士「それは、部屋の中に閉じこもっていては見えないものだ」
西木野博士「そして真姫には、私の中の長年の疑問を解き明かして欲しいんだ」
真姫「それが……さっきの?」
西木野博士「そうだ、真姫」
「——人はなぜ落ちる?」
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29 : 2016/05/16(月) 00:50:59.91 -
【数日後 西木野総合病院 リハビリテーションルーム】
にこ「そんなの、また立ち上がるために決まってるじゃない」
真姫「あなた、バカでしょ」
にこ「よく言われるわ。っていうかほんっと、口悪いわねえ。西木野先生の娘さんだから赦してやってるけど、普通だったらビンタよビンタ」
にこ「顔だけは可愛いのに、性格は全ッ然可愛くない」
真姫「……」カミノケクルクル
にこ「でもあんたも物好きよね。毎日にこのリハビリなんかにつきっきりで」
真姫「別に……暇だったし」
にこ「聴いたわよ、あんた、学校行ってないんでしょ」
真姫「前にも言ったけど、私は高校卒業レベルの学力があるから中学なんて行く必要ないのよ。あなたも、他の人みたいに説教するの?」
にこ「さあね……っとと」ガクッ
真姫「っ! 無理するんじゃないわよ!」
リハビリを初めて数日目。成果は上がらない。
全身が砕け、ほとんど肉体が死んだ状態から急激に回復した身体だ。
骨格を補強する特殊金属を埋め込んだ影響もあり、感覚と運動の不適合を起こしているようだった。
真姫の目にはそれが簡単にわかった。しかし異例の手術を経た矢澤にこの状態を、担当の理学療法士は十分に把握できていなかった。
だから——真姫が直々に歩行訓練を担当することになった。もちろん無免許なので、表向きは理学療法士を"補佐"するという形式であるが。
真姫「前の身体とは重量バランスが全然違うんだから、前の感覚は捨てなさいって何度も言ってるデショ」
にこ「そう言われてもすぐには慣れないわよ! もっと優しい言い方って無いわけ?」
真姫「無いわよ。優しく言って歩けるようになるなら優しく言ってるわ」
にこ「ほんっと可愛くない……可愛い顔して可愛くない……」
真姫「なによ、可愛いとか……」///
にこ「あれー真姫ちゃん照れちゃったー? そういう顔してたら可愛いにこー」ニコッ
真姫「ばっ、馬鹿にしてるの!?」
にこ「してませーん! 年下をかわいがってまーす!」
真姫「ウルサイウルサイウルサイ!」///
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30 : 2016/05/16(月) 01:04:12.14 -
【数日後 西木野総合病院 にこの個室】
希「ふんふんふ~ん♪」
希「にこっちー、お見舞いにきたよー……ってわああああああああああ!!!!」
真姫「ん」
にこ「希?」
希「あ、ああああ」ワナワナ
希「なにしてるん!? 女の子どうしてそんな……抱き合って!」
真姫「ちょ!」///
にこ「これはっ! 違うわよ、リハビリが終わったからベッドに寝かせてもらってたのよ!」
希「なぁんだ」フゥ
希「うちはてっきりにこっちが百合の道に目覚めたのかと」
真姫「勝手にそっちの道に巻き込まないで!」
真姫「お友達が来たみたいだから、私はもう行くわね」スタスタ
希「にこっち、あの子は?」
にこ「西木野真姫ちゃん。中学二年生よ。西木野先生の娘さん。リハビリを手伝ってくれてるの」
希「そうなんや。可愛い子やね、にこっちはああいうすらっとした子が好みなん?」
にこ「ぬぁんでよ!」
希「うんうん、じゃあうちにもワンチャンあるってことか」ウナヅキ
にこ「ったく、あんたの冗談は際どいわね。女子校ノリってヤツ?」
希「そうやね。中学の時は女子校にいたこともあったから」
にこ「いたこともあったって、いなかったこともあったってこと?」
希「鋭いね、にこっちは。そう……うちは転校を繰り返してたから」
にこ「あんたもけっこう大変な人生送ってんのね」
希「うち"も"って?」
にこ「あの真姫ちゃんもきっと、それなりに悩みを抱えてるのよ」
にこ「ねえ、希。なんとかあの子を笑わせられないかな」
にこ「感情が薄いわけじゃないと思う。だけど真姫ちゃんは、心の底から笑った顔を見せてくれない」
にこ「希は、どうすればいいと思う?」
希「……すごいなぁ、にこっちは。こんな時でも、ずっと他人を笑顔にしようとしてる。今は自分が大変な時やのに」
希「そんなにこっちやから、あの真姫ちゃんも、あんな風にリハビリに付き合ってくれるんじゃないかな」
希「だからうちは……特別なことなんてせんでいいと思うよ。にこっちが思うようにしてるだけで、きっと伝わるよ」
希「うちはいつも、応援してから……にこっちのこと」
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32 : 2016/05/16(月) 23:03:57.99 -
【さらに数日後】
真姫(矢澤にこは日に日に回復していった。だけど今も自分一人では立ち上がれない状態だった)
真姫("普通"と比べるなら奇跡的な回復力と言ってよかった。だからこそ——歩けないのは不可解だった)
真姫(彼女の身体に、歩けない理由はほとんどない。器質的にはもう正常だ。感覚と運動の乖離も、この程度の期間があれば慣れてくるはずだった)
真姫(なのに……"何らかの意思"が邪魔しているみたいに、地面に、重力に魂を引っ張られるみたいに)
真姫(矢澤にこは地面に這いつくばった)
にこ「はぁ……はぁ……」ガクガク
真姫「足が痙攣してるわ。過緊張になってるのよ。今日はもう休みなさい」
にこ「にこの身体はもう健康なんでしょ、だったらこんなところで……立ち止まってるわけにはいかないのよ」
真姫「そんなに気負ってどうするの。心理的な緊張が身体の緊張にだって繋がるんだから、リラックスが大事だって言ってるの!」ガシッ
にこ「っ……! わかったにこ……」
真姫「パパが言ってたわ、そういう時は逆に考えるのよ」
にこ「逆に考える?」
真姫「別に歩けなくなっても構わないって考えるの。そう考えたら気が楽になるわ」
にこ「歩けなくなっても……」シュン
真姫「べっ、べつに本当に歩けなくなってもいいってわけじゃないわよ! どんなことにも言えるけど、絶対やらなきゃいけないって思うほどできなくなるものよ!」
にこ「……そっか。うん、真姫ちゃんの言うとおり、今日はもう休むにこ」ニコッ
真姫「明日はパパが検査してくれるって言ってたわ。歩けない原因が詳しくわかるかもね」
-
33 : 2016/05/16(月) 23:18:40.17 -
【さらに次の日 西木野研究所】
西木野博士「矢澤くん、君は魂の存在を信じるかね?」
にこ「魂? 私にはわかりません」
西木野博士「"ラブカニウム"には魂がある」
にこ「え!?」
西木野博士「どうやら分子のひとつひとつが君の意思と共鳴するようにできているらしい……一種の寄生生物、いや——共生体だ」
西木野博士「実を言えば、君の経過を観察するまでわからなかった。単純に金属素材として独立している時とは性質が変わったらしい。君に移植したことで、だ」
西木野博士「難しい話をしてすまない。つまり、君の魂と"ラブカニウム"の魂に乖離が生じていること。それが歩けない原因となっているようだ」
にこ「だったらどうすれば! どうすればいいんですか!」
西木野博士「……まだわからない。おそらく真実を知るのは隕石と共に飛来した"天より降りたる者"だけだ。しかし君こそが人が天へ至る可能性となる」
にこ「"天より降りたる者"? 可能性? それってどういう……」
その時だった。
黒服の男「話は聞かせてもらいましたよ、西木野博士」
特別研究室の扉が開き、黒服の、存在感の妙に薄い男が現れた。
黒服の男「まさかウェポン計画が成功していたとは。そのデータをよこしてもらいましょうか」
西木野博士「何者だ? どうやってここに入った?」
黒服の男「答えるわけ無いでしょう——いいえ、ここに入った理由は簡単ですよ」グイッ
真姫「んーっ!」モゴモゴ
にこ「真姫ちゃん!?」
西木野博士「なるほど、真姫のセキュリティカードを奪ったか」
黒服の男「随分余裕ですね、西木野博士。情報によればあなたは娘を溺愛していると聴きます。"ウェポン25"のデータと交換しませんか」
西木野博士「悪いが私は敵と交渉しない。戦地で培った知恵さ」
黒服の男「良いのですか? 娘の可愛らしい顔がどうなっても……」チャキ
男は真姫の頬にナイフをつきつける。
-
34 : 2016/05/17(火) 00:07:49.32 -
西木野博士「……いいだろう。このデータを渡そう」
西木野博士はメモリーカードを胸ポケットから出した。
西木野博士「……」チラリ
にこ「……!」コクン
黒服の男「わかりました。では交換といきましょう」
男は両腕を縛ったままの真姫を片腕でホールドしながら、手を差し出す。
黒服の男「渡してください。妙なことをすればその瞬間、あなたの娘は二度と嫁入りができなくなるでしょうね」
西木野博士(そんなものは再生医療でどうにでもなるが……生命だけはどうにもならない、か)
西木野博士はメモリーカードを男に手渡した。
この瞬間だ。
ヤツの両腕が塞がったこの瞬間だけは隙ができる。
西木野博士「——今だ」
にこ「たあああああああああああああああ!!!!!」ガッ
にこがおぼつかない足で数歩の距離を移動し、敵にタックルした。
にこの体格では、体内に移植した金属を加味してもぐらりと男の身体を揺らす程度の威力しか無い。しかし十分だ。
西木野博士「落ちろ!」バリバリバリ!
白衣の袖から突如飛び出した電極がタックルで怯んだ、黒服の男の首筋に電撃を流した。
護身用のスタンガンだ。危険な研究をする立場だ、無策でいるわけがない。
黒服の男「ガアアアアアアアアアア!」ブンッ
西木野博士「ぐう!!!」ドゴッ
男が苦し紛れに振り回した腕がヒットし、西木野博士が吹っ飛んだ。
西木野博士(この力は……ライバーか!?)
黒服の男「フフフ……予定通りですよ、抵抗が予想できないと思いましたか?」
黒服の男「失礼しますよ、博士」スウウ
にこ「消えた!?」
にこ「しかも真姫ちゃんごと……どういうことよ!」
男にタックルしたまま倒れていたにこが狼狽する。
-
35 : 2016/05/17(火) 00:38:33.56 -
西木野博士「落ち着き給え、矢澤くん」
にこ「でも!」
西木野博士「あのメモリーカードには発信機が仕込んである。位置は追跡可能だ」
西木野博士のスマートフォンの画面には地図とメモリーカードの位置情報が表示されていた。
西木野博士「あの男はライバーだ……特殊能力は姿を消すこと。衣服や触れた物体にも能力が及ぶのだろう、だから真姫も消えた。おそらくその能力を利用して以前から私を探っていたのだろう」
にこ「そんな危険なやつなら、今すぐ追わないと!」
西木野博士「私はこのザマだ……今の一撃で動けん。君はそもそも歩けない。我々だけで何になる。今は助けを求めるしかない……」
西木野博士「あのメモリーは偽物だ。今後それに気づいたとしても、本物を手に入れるために真姫は交渉材料として生かされるだろう」
西木野博士「あとは私に任せなさい、アテならある」
西木野博士(不本意だが、"UTX"に協力を要請するしか)
にこ「そんなの……遅すぎるわ!」バシッ
西木野博士のスマートフォンを、にこが奪いとっていた。
西木野博士「矢澤君、君は……!」
博士が驚愕したのは、にこの突発的な行動ではない。
彼女が立ち上がっていたことに、だった。
にこ「はぁ……はぁ……」
にこ「反応を追います。私が……真姫ちゃんを取り戻します!」ダッ
にこは今まで歩けなかった人間とは思えない瞬発力で走りだし、特別研究室を出て行った。
西木野博士「足が動いた、だと……」
西木野博士「"ラブカニウム"が、彼女の魂に共鳴したのか……ククク、面白い」
西木野博士「私の感じた可能性——それを証明してみろ、矢澤にこ」
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36 : 2016/05/17(火) 00:39:06.26 -
にこ「はぁ……はぁ」ダダダダダダにこ(身体が軽い、まるで羽みたいに風を切る感覚)
にこの身体は今、事故の前よりも遥かに素早く反応し、動いていた。
にこ(まるでにこの身体がにこの意思をそのまま反映してるみたいに……全然タイムラグがない!)
にこ「これなら……!」
発信機の反応を見る。すでに黒服の男は階段を降り、一回駐車場にまで出ていた。
駐車場の一角——研究所の陰になり目につきにくい部分で足が止まった。
にこ(ここに逃走用の車を隠したってこと!)
にこ(にこはまだ三階にいる。だったら——!)
加速。加速。加速。加速。加速。
もっと速く、もっと!
階を変えずに突っ走る。地図上なら直線距離で100mも無いのだ。
真姫を車に載せ、エンジンを始動し、発進するまでの数秒間で追いつけばいい。
高低差——それを克服すれば!
にこ「にっこにっこ——」
にこ「にいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!」
バリイイイイイイイイイイイイイイン!!!!
全力疾走した勢いのまま、三階の窓を突き破った。
窓の外に、その下に広がる駐車場から、すでに車が発進しようとしていた。
しかしもう遅い、
にこ「捕まえた!」
ドゴォッ!!!
にこが着地したのはまさに黒服の男が用意した逃走用の自動車だったのだ。にこはその真上に降り立った。
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37 : 2016/05/17(火) 00:39:33.28 -
ボンネットが大きくへこむ。それがクッションとなったのか、にこは三階から飛び降りて全くの無傷だ。だが、まだ終わっていない。
黒服の男が車内から拳銃を向けていた。
にこ「——!」
にこは拳をつきだした。
反射的な防御行動だった。それは、"普通"ならば無茶な行動だっただろう。
しかし、にこの拳は車の強化ガラスを突き破って車内に侵入したのだ。
黒服の男「何——!?」
拳銃を捕まれて窓の外に放り投げられ、武器を失った男は、にこを振り落とそうとアクセルを踏み込んだ。
にこ「わわっ!」
にこはバランスを崩し車の後部まで追いやられる。
加速しながらジグザグに走行する車の上で、振り落とされないようしがみつくのがやっとだ。
黒服の男「落ちろ! 落ちろ!」ギュイイイイイイイ
にこ(真姫ちゃんは……後部座席にいない!)
にこ「どいうことは——トランク!」
にこは先程の自分の怪力を思い出した。今ならトランクを突き破れるかもしれない。
でもどうやって。バランスが悪く手を使えば車の上から振り落とされてしまう。
にこ「こうなったら……頭を使うしか無いわね」
にこ「文字通り!!!」
にこは頭を使った。
文字通り——それは頭突きだった。
ガオオオン!!!!
車のトランクが大きくへこみ、ひしゃげた。そこに指を引っ掛け、力づくで引き裂いてゆく。
裂け目から、手足を縛られたまま眠る真姫が見えた。
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38 : 2016/05/17(火) 00:41:45.95 -
にこ「真姫ちゃん!」真姫を引きずりだしたにこは、真姫を抱きしめたまま車から飛び降りた。
ガスッ、ガスッ!
アスファルトの地面を数回バウンド。やがて慣性のまま草むらに突っ込んだ。
にこ「いたた……真姫ちゃん、大丈夫?」
真姫の傷を確認する。にこが身体で覆ったおかげか、真姫は無傷だった。
にこのほうはといえば、無傷とはいかなかった。擦り傷があちこちにでき、出血している。
しかし骨格や内臓にまでダメージは及んでいない。あれほどの無茶をしたのに、だ。
にこ「これが……"ラブカニウム"の力……?」
それだけじゃない。向上した全身の反応、怪力。なにもかもが変わっていた。
にこ「にこの身体、どうなっちゃったの?」
黒服の男「やってくれたな……ウェポン25」ハァハァ
にこ「あんた、まだ……!」
黒服の男「このメモリーカードが本物とは限らない。本来の目的は人質を取ることだった……しかし今、目の前にウェポン25の成功体がある……回収させてもらいますよ」
にこ「あんた……恥ずかしいと思わないの!?」
黒服の男「何のことですか」
にこ「か弱い女子中学生を利用して、人が努力した研究成果を横取りしようとして! そんなの、誰も笑顔になれないじゃない!」
黒服の男「はぁ、あなたは理解していない。この研究の重大さを」
黒服の男「それに、笑顔になる人間ならいますよ。私の依頼人も、私も、今回の件が成功すれば得をします」
黒服の男「誰だって、他人を不幸にして笑っているんですよ。みんなの夢は同時にはかなわないんです」
にこ「にこはそんなの認めない……夢はみんなで叶えるもんよ。誰かの笑顔を奪って得た笑顔なんて、本物じゃないわ」
黒服の男「おしゃべりはもう終わりにしましょう、私は訓練された"ライバー"です。あなたは強化されたとはいえ、所詮素人。レベルが違う」
にこ「そんな道理、どうだっていい! 私はね、あんたみたいなのがいっちばん赦せないのよ!」
にこ「そんな奴がいて、笑ってることを見過ごせる世界も赦せない! 見て見ぬふりする奴らも赦せない! だから——」
にこ「——私があんたを倒す!!」
こうして矢澤にこの最初の戦いが始まった。
Chapter.2 END
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