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1 : 2014/03/17(月) 20:23:36 -
前スレ
ユミル「ベルトルさんに『一生のお願い』の権利をやる」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1381587917/このスレで完結します
ソース: http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/14562/1395055416/
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2 : 2014/03/17(月) 20:25:53 -
~宿屋の一室~
アニ「クリスタ!…今、アルミンを呼んで来る!!ちょ、ちょっと待ってな」
クリスタ「うん!アニ、お願い」
ライナー「ユミル…大丈夫か?一体何があった…その姿…」
ユミル「ははっ…男の前では言い難いなぁ…あんまりジロジロ見ないでくれるか…?」
ユミル「部屋まで運んでくれた事には、感謝している。ありがとう、ライナー」
ライナー「おっ…おう」///
ライナー「バスタオル、しっかりかぶっとけ…その、下着が少し見えているから…」
ユミル「あぁ…」
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3 : 2014/03/17(月) 20:28:11 -
ユミル「アルミンが診てくれるんだってな、助かるよ。終わったら、寝間着に着替える」ユミル「身体中ドロドロで埃っぽいが…怪我もしてるし、今日風呂に入るのは無理だな」
ユミル「お湯で身体を拭いて寝るか…」
クリスタ「ユミル…私が拭くね。手当の後で」ウルッ…
クリスタ「あっ!そうだ…ベルトルトは?ライナー、ベルトルト呼んできて」
ライナー「あぁ…そうだった…肝心な奴を忘れてた!今、呼んでく…
ユミル「呼ぶなっ!!」
ライナー「!?」
クリスタ「!?」ビクッユミル「あ……あぁ、悪ぃ…大声出して…」
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4 : 2014/03/17(月) 20:31:04 -
クリスタ「どうして…?」
クリスタ「ねぇ、教えて…今日、どうしてベルトルトは一人で帰ってきたの?」
クリスタ「何か、あった…?」ジッ…
ユミル「い…いいや、何もないよ」
ユミル「あいつとデート中にな、昨日知り合いになった貧民街に住む子供に会ったんだ」
ライナー「貧民街…」
ユミル「まぁ、ちょっとした理由でそのガキを家まで送ることになっちまって…」
ユミル「そんな訳で、ベルトルさんを先に帰らせた。ガキの件は私の用事だったからな」
ライナー「ふむ…」
クリスタ「でも、おかしいよ!貧民街みたいな危険な所、ユミル一人で行かせるなんて…」
ユミル「…吐いたんだ」
クリスタ「えっ?」
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5 : 2014/03/17(月) 20:33:29 -
ユミル「具合、悪かったんじゃないかな。ベルトルさん…」ライナー「それで真っ青な顔で帰ってきて寝込んじまったって訳か」
ユミル「今、寝込んでるのか?」
ライナー「あぁ」
ユミル「じゃぁ、朝までしっかり寝かせてやってくれないか?」
ユミル「あいつ、脱走してから一度もまともに寝てないんだ。…多分な」
ユミル「きっと、今までの疲れが出たんだろ」
ライナー「そうだな」
ユミル(寝て起きたら落ち着くだろうか?今、会うべきではない事は分かり切っている)
ユミル(起きたら…何を話す?……私は、どうすればいい?)ギュッ…
クリスタ「…」
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6 : 2014/03/17(月) 20:36:08 -
クリスタ「それでも、私は…ベルトルトをここに呼ぶべきだと思う」ユミル「クリスタ!!」
クリスタ「彼には、責任がある!…ユミルに対してっ」ギリッ
ガチャッ… ギギギッ…
アニ「アルミン連れてきたよ!」
アルミン「ごめん、ノックもしないで…」
ライナー「アルミン、お前今日は薬を買い込んできたって言ってたよな?」
ライナー「ユミルの怪我、その薬で何とかならないか?」
ライナー「左手の傷が酷いらしいんだ…最悪、これから医者を呼ぼうと思ってはいるが…」
アニ「医者を呼べば、私らの情報が外部に漏れる可能性がある…」
クリスタ「何、言ってるの?アニ…そんな事より今はユミルの怪我の手当てが先でしょ?」
ユミル「心配はいらない。医者なんか必要ねぇよ、こんなもん唾つけときゃ治る」
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7 : 2014/03/17(月) 20:41:01 -
クリスタ「そんな訳ないでしょ!!」クリスタ「私っ、とにかくベルトルトを呼んで来るから…!」タッ…
ユミル「だからやめてくれっ!クリスタ!!」ダンッ!
クリスタ「でも…
ユミル「でもじゃない!!…本当に嫌なんだ」
ユミル「…見ての通りだ。私は、貧民街で男に襲われた…服もその時、引きちぎられた…」
アニ「ユミル…あんた……」
ユミル「腹を殴られて、そのまま馬乗りに…でも、必死に抵抗してそいつから逃げた」
ライナー「…」グッ…
ユミル「その…だから…辱めは、受けていないんだ…身体は守れたんだが……あの…さ、」
アルミン「…」
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8 : 2014/03/17(月) 20:44:43 -
ユミル「ベルトルさんには、知られたくないんだ…男に襲われたこと…!」ギュゥゥ…ユミル「あいつ絶対気にするだろ?なんたって、私にベタ惚れだからな!」ダハハハ!
ユミル「そいつの人相や特徴を教えたら、殺しに行くかも知れないぞ。いや、本気で」
ユミル「…それに、自分が情けなくてな。付け込まれる隙があったって事に…」
クリスタ「違うよ…ユミルのせいじゃない…」
ユミル「だから、この話は内緒にしてくれないか?あいつには。…頼むよ」
クリスタ「ユミル、ごめんね…ぐすっ…怖かったよね……そばに居てあげられなくて…」
クリスタ「本当にごめんねっ…ごめんなさい…うぅ…ぁ゛ぁ…ひっぐ……」ギュゥッ…
ユミル「馬鹿…何泣いてんだ…クリスタ」ナデナデ…
ユミル「私はもう平気だ、大丈夫」ニコッ
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9 : 2014/03/17(月) 20:48:21 -
ライナー「ま、一理あるな」
ライナー「今朝の惚気っぷりを見ると、確かに今のあいつならお前を襲った男を殺しかねん」
ライナー「でもお前、怪我もしてるし…その、貞操は守れても…心がな…実害はあるだろ?」
ユミル「心も身体も平気だ。実害はない!」
ユミル(それにこの左手の怪我は、ベルトルさんが…。あの男のせいじゃない)
ユミル「仕返しなんか、しなくていい…」
ユミル「こんな事、一日でも早く忘れたい」
クリスタ「うん…うん……ユミル、分かるよ」
アルミン「ベルトルトとユミルって付き合ってたんだ…知らなかった…」
アルミン(彼はユミルが好きだったんだっけ?でも全く相手にされてなかったような)
アルミン(調査兵団に入ってからも、特別仲が良さそうには見えなかったけど…)
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10 : 2014/03/17(月) 20:51:57 -
アニ「私も、知ったのは昨日なんだけど」ユミル「告白されたのは4日前だぞ」
ライナー「じゃ、今が一番楽しい時期だな」
アニ「あんた、女と付き合ったことも無いのに、楽しい時期なんて分かるの?」
ライナー「う、うるさいぞ!アニ」
ユミル「…」
ユミル(昨日、この部屋であいつが私を抱いた時…)
ユミル(自分以外の男とこの行為をしたら、私の目の前で相手を殺す…と、言ってた)
ユミル(だが、今は…私がどうなったって、そいつを殺そうとだなんて思わないだろう)
ユミル(この先、お互いが紡いだ言葉の全てが、嘘になるのかも知れない…)
ユミル(胸が…押し潰されそうだ)ハァ…
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11 : 2014/03/17(月) 20:58:22 -
アルミン「ユミル、その左手を見せて」
ユミル「あぁ…」スッ
アルミン「血糊が布に張り付いてる…ごめん、痛いと思うけど我慢して」
パリッ…パリッ…
ユミル「っ……あぁ…いっ…」グッ
ユミル「ぐぅ…っ…だ、だいじょう…ぶ」
クリスタ ギュッ…
アルミン「こ、これは…」
アルミン「裂傷?鋭利な刃物で切られた傷じゃない…硬い物にぶつかって、裂けた?」
クリスタ「この布も包帯じゃない…ユミルのスカートだ……こんなに、血で汚れて…」
ユミル「…」
アルミン「これは、縫った方がいい…」
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12 : 2014/03/17(月) 21:01:46 -
ユミル「縫わなくても平気だ!すぐに治る」アルミン「ライナー、医者を呼ぼう!」
アルミン「縫っても傷は残る。でも縫った方が傷の断面が縫い縮められて治りも早い」
アルミン「縫わなければ、今後の生活に支障が出るかも知れない。後遺症が残るかも」
アルミン「僕は…縫った方が良いと思う。傷が深いから。と言うか、縫わないとダメだ!」
ライナー「そうか…じゃ、今から医者を…
ユミル「待て!」
ユミル「わかった…縫えばいいんだな?」
ユミル「クリスタ、私の荷物から裁縫箱を出してくれ」
クリスタ「裁縫箱って?ユミル、そんなの持ってなかったじゃない…」
ユミル「ベルトルさんがプレゼントしてくれたんだ」
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13 : 2014/03/17(月) 21:06:20 -
ユミル「そこから短い縫い針と、黒い糸を出してくれ。自分で縫合する」アルミン「!?」
アルミン「縫い針?ダメだよ!そんな太い針じゃ…ちゃんと医療用の細い針でなければ…」
アルミン「それにここには麻酔なんてのはない!自分で自分の手の傷を縫うだなんて…」
アルミン「とんでもない痛みだって想像できないのか?拷問と一緒だ…やめてくれ!!」
ユミル「でも、医者を呼ぶわけにはいかない」
ユミル「そうだろ?アニ」
アニ「…」
アニ「そうだ…」
アニ「ここまで来て、問題を起こす訳には…」
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14 : 2014/03/17(月) 21:10:39 -
アニ「この街の憲兵が、ユミルを襲った男を真剣に捜査するとは思えないけど、万が一だ」アニ「明後日にはこの街を出る…それまでは穏便に過ごしたい…医者は、ダメだ」
クリスタ「さっきから何言ってるの?アニ、あなた正気なの?」
クリスタ「相手の立場に立って考えてみて?あなたは自分が大怪我を負った場合…
アルミン「クリスタ、無駄だよ…」
クリスタ「えっ…」
アルミン「アニは怪我を恐れないんだ」
アニ「…」
ライナー「とんだ事になっちまったな…」
ライナー「6人全員が居る所で今後の計画を話す。今朝、お前にそう約束したが…」
ライナー「今夜はそれどころじゃないようだ。ベルトルも居ないしな…」
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15 : 2014/03/17(月) 21:15:04 -
アニ「私もアルミンと約束したんだ。宿に戻ったら、これからの計画を説明をするって」
アニ「ライナー、あんたがみんなに説明するのなら…私の出る幕はないね」
ライナー「あぁ、俺から話す。だが今日は無理だ…時間がないのは分かっているが…」
ライナー「ユミル、アルミン、それとクリスタ…説明は明日でもいいか?」
ライナー「今後の計画は、重要な話が含まれている。いや、今までも全部重要だったが…」
ライナー「その…俺たちの話もだ。俺、アニ、ベルトル…隠してきた秘密も、全部話す」
ライナー「だから、6人全員が揃っていないと、この先の話は出来ない」
アルミン「分かった…」
ユミル「私も了解した」
ユミル「…と言うか、今回は私のせいだな。すまない…クリスタも…」
クリスタ「ユミルは何も悪くない!!…あなたは被害者なのに…頭を下げないで…」
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16 : 2014/03/17(月) 21:18:42 -
ユミル「もう、いいか?」
ユミル「みんな部屋に戻ってくれ。後は自分でやる、クリスタ裁縫箱から針と糸を…
アルミン「ユミル!」
アルミン「はぁ…」
アルミン「ダメだ…どうしてもと言うなら、僕がやる」
ユミル「!?」
アルミン「はっきり言って素人だ。知識も、さっき簡単に医学書を読んだだけ」
アルミン「でも、痛みに耐えて自分で縫うより、綺麗に縫える自信はある」
アルミン「僕が縫えばユミルも痛みにだけ集中できるだろ?」
ユミル「嬉しくない集中の仕方だな…」ハァ…
ユミル「でも、ありがたい申し出だ…アルミン、お願いしてもいいか?」
クリスタ「ア…アルミン、本当に大丈夫なの?」
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17 : 2014/03/17(月) 21:25:07 -
アルミン「分からない…でも、僕らは何でも出来るようになっておかないといけないんだ」アルミン「もう誰にも頼ることは出来ない」
アルミン「僕ら6人で、全部やらないと…」
アニ「アルミン…」
ライナー「何か、必要な物はあるか?」
アルミン「まずは水を用意して」
アルミン「手のひらの傷口を洗うから…固まった血糊も溶かさないといけない」
クリスタ「わかった。私、持ってくる!」
アルミン「あと、熱湯も一緒に持ってきて欲しい」
アルミン「医療用の針と糸、今日買ってきたんだ。その熱湯で針を消毒する」
アルミン「ランプの火で炙ってもいいんだけど、針が傷みそうだから…」
アルミン「熱湯が冷めたらそのお湯でユミルの身体を拭いてあげて」
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18 : 2014/03/17(月) 21:29:45 -
クリスタ「う、うん!」アルミン「アニは綺麗なタオル数枚と、毛布を1枚用意して。ユミル、少し震えてる…」
アニ「わかった!用意する」
アルミン「僕は別館に預けてある荷物から、医療用の針と糸、包帯、消毒液を持ってくる」
アルミン「あと、痛み止めも…」
ライナー「俺は何をすればいい?」
アルミン「そうだな、ライナーは…
ユミル「ライナーは、ここに居てくれ」
ライナー「ん?」
ユミル「少し…聞きたい事があるんだ…」
アルミン「そう、じゃ…すぐ戻るよ」
アルミン「ライナーはここに居て、ユミルを励ましてあげてくれるかい?」
ライナー「あ、あぁ…分かった」
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19 : 2014/03/17(月) 21:32:35 -
ライナー「みんな、行ったな…」
ユミル「あぁ、私のために、すまない…」
ライナー「クリスタも言っていたが、お前のせいじゃない。災難だったな…」
ライナー「お前が無事で何よりだ。ベルトルも…
ユミル「ベルトルさんの事は今はどうでもいい。この件はあいつに内緒だって言ったろ?」
ユミル「それよりも、お前に聞きたい事がある」
ライナー「俺に何を聞きたい?」
ユミル「あいつらが戻って来る前にケリをつけたい。単刀直入に聞く」
ユミル「マルセルとは誰だ?」
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20 : 2014/03/17(月) 21:38:35 -
ライナー「…ベルトルから聞いたのか」
ユミル「お前らは5年前、壁外からやってきた。何らかの目的を持って」
ユミル「その時、一緒に来たお前らの仲間なのか?マルセルって奴は」
ライナー「お前、あいつからどこまで聞いている?」
ユミル「そんな事はどうでもいい!!腹の探り合いをしたいんじゃないっ!」
ユミル「話すつもりなんだろ?自分が巨人だってこと…。クリスタにも」
ユミル「今夜じゃなくても明後日にはバレてしまうんだろ?」
ユミル「お前らは正体を明かさなければならない。これは、避けては通れない!」
ライナー「大声を出すな。傷口が開く…」
ユミル「…まだ縫ってないから開いてるよ」
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21 : 2014/03/17(月) 21:44:59 -
ライナー「はぁ…」ユミル「マルセルは、巨人に食われて死んだ。…そうだな?」
ライナー「…」
ユミル「そいつはお前らの仲間で、共犯者だった…。もしくは共犯者になる予定だった」
ユミル「話してくれ…どんな風に食われたのかを…」
ライナー「あの時は必死でな…」
ライナー「詳しい事は、思い出せない。…いや、思い出したくないんだろうな…俺が」
ユミル「…」
ライナー「あいつは…マルセルは…俺の身代わりになって死んだ」
ライナー「英雄だよ。俺の中じゃ、一生追いつく事の出来ない永遠の存在になっちまった」
ライナー「俺が今、ここにいるのは…マルセルが命を懸けて俺を守ってくれたからだ」
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22 : 2014/03/17(月) 21:47:17 -
ユミル「そうか…」ユミル「そいつが…どんな巨人に食われたか、覚えているか?」
ユミル「思い出したくないのなら無理にとは…
ライナー「覚えている」
ユミル「…!!」
ユミル「ど、どんな巨人だった?一度しか見てないのなら…はっきり覚えているわけが…
ライナー「いや、はっきり覚えている。あの巨人だけは、忘れることが出来ない」
ライナー「俺も、ベルトルもな…」
ユミル「ベルトルさんも…」
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23 : 2014/03/17(月) 21:50:06 -
ライナー「体長は5~6m級ぐらいか?黒髪を振り乱して、動きは俊敏、歯は尖っていた」ライナー「爪は長く、特徴的なのは目で…白い部分はなくて、獣みたいな黒目だった…」
ユミル ゴクッ…
ライナー「一度見たら、忘れない…。あれは今まで見た中で、一番醜悪な巨人だった」
ユミル「一番…醜悪な、巨人…?」
ライナー「あぁ…」
ユミル「見間違えじゃ…ないんだな…?」
ユミル「ベルトルさんも見ていた。マルセルが食われるところ…」
ライナー「そうだ」
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24 : 2014/03/17(月) 21:56:51 -
ライナー「なぁ、こんな事を聞いてどうするんだ?」ライナー「ベルトルと何かあったのか?」
ユミル「ぷっ…」
ユミル「くくくっ……あはっ…あはは!!……馬鹿だなぁ…本当に」バンバン!
ライナー「おいっ、ユミル!」
【綺麗だから…他の男に見せたくないんだ、その顔】
ユミル「化粧なんて、するんじゃなかった」
【すごく綺麗だよ、ユミル】
ユミル「何を浮かれてたんだ、私は…」フフッ…
ユミル(化粧なんかして外見だけ取り繕っても、本質は隠せない…正体は、醜悪な巨人…)
ユミル(だから、第2の人生を得た時、私は『人間』として生きようと思った…)
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25 : 2014/03/17(月) 22:02:55 -
ユミル(もう、ベルトルさんの目には…)ユミル(私は醜悪な巨人としてしか、映らない…)
ライナー「み、水でも飲むか?下から持って来よう…」
ユミル「あぁ、頼む。喉が渇いた」
ユミル「朝飲んだレモン水がいいな…持って来てくれるか?悪ぃな」
ライナー「おう!任せろ」
ユミル「あぁ、最後にもう一つ」
ライナー「ん?」
ユミル「そのマルセルって奴とベルトルさんは、仲が良かったのか…?」
ライナー「良かったよ。兄弟みたいにな…」
ユミル「そうか、私にとってのクリスタみたいなものか?」
-
26 : 2014/03/17(月) 22:06:50 -
ライナー「それはどうだかな…でも、それに近い関係ではあったかもな」ユミル「…なるほど。ありがとう」
ユミル「悪かったな、辛いこと思い出させて」
ライナー「いや…もう5年も前の話だ。それに、俺達は泣き言を言える立場じゃないんだ」
ユミル「…」
ライナー「すぐ持ってくる」
ギギギッ…… パタン…
ユミル「はぁ…これで確定だ」
ユミル(ベルトルさんの言ってたことは本当で、私はマルセルを食った)
ユミル「出来ることなら、今すぐ消えてなくなりたいくらいだ…」
・
・ -
27 : 2014/03/17(月) 22:10:09 -
アルミン「ユミル…覚悟はいい?」ユミル「あぁ…平気だ。やってくれ」
クリスタ「ずっと…手を握ってるからねっ」ギュッ…
アルミン(器具は熱湯で消毒した。僕の手も消毒済み…麻酔はない…)
アルミン「細かく縫った方が治りが早いし、見た目にも良いけど…どうしても傷跡は残る」
アルミン「しかも時間がかかって痛いよ。どうする?細かく縫う?」
ユミル「へっ…女の手だぜ?傷が残らないように頑張ってくれよ?細かく縫ってくれ」
アルミン「わかった」
アルミン「目を瞑っていて。相当痛いよ…縫い終わったら痛み止めを渡すからね」
ユミル「ありがとう…」
アニ「ユミル、終わったら私も身体を拭くの手伝うよ…」
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28 : 2014/03/17(月) 22:13:34 -
アルミン「アニは毛布の上からしっかりユミルの身体を押さえて!」アニ「あぁ…大丈夫」
アルミン「始めるね」
ツッ……サクッ…ツィッ……
ユミル「あっ…ああああああっ……!!いっ……ぐぅ……」ビクン!
アルミン「動かないで!手元が狂う!!」
ユミル「はぁ…はぁ…っ……ああぁぁああ……痛ぇ…いっ…ああっ……」ギッ…
クリスタ「ユミル、頑張って!」ギュッ…
アルミン「まだまだ、先は長いよ」
ツイッ…クイッ…クイッ…
ユミル「う゛ぐぅっ…ぐ…ぐぐっ…っはぁ…あああああっ…」ギリギリギリ…
アニ「声が大きい!ユミルっ!!」ギュゥゥゥッ…
アニ「何事かと思って人が来るよ!!」
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29 : 2014/03/17(月) 22:16:35 -
ユミル「タオルっ、タオルを噛ませてくれ!!…はぁ…はぁ…っ」ジワッ…ライナー「ほら噛めっ!ユミル、頑張れ!!」
ライナー「アルミン、なるべく早く縫ってやってくれ…もう見てられん!」
アルミン「…」
アルミン「ライナー、悪いけどユミルを気絶させてくれないか…?」
アルミン「対人格闘でやったことあるよね?」
ユミル「!?」
アルミン「このままだと僕も縫いにくいし、彼女も痛くて苦しいだけだ」
アルミン「縫い終わったって、傷口は痛む」
アルミン「ユミルを少しでも楽にさせてあげたいんだ」
ユミル「ん~~~~っ…ん~~~っっ!!」ブンブン
クリスタ「ユミル!」
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30 : 2014/03/17(月) 22:19:17 -
ユミル ポロッ…「はぁ…はぁ…」ユミル「気絶だと?…断る!!」キッ
ユミル「簡単に言ってくれるな!首締めるアレだろ?ベルトルさんが得意なヤツ!」
ユミル「あんなの絶対嫌だ!痛くても構わない!このままやってくれ!!」ハァ…ハァ…
ユミル(冗談じゃない!)
ユミル(気絶なんかさせられたら、治癒が始まっちまう…私の意思とは無関係に)
ユミル(ここで私が巨人だってバレるわけにはいかないんだ!これは…二人だけの秘密だ)
ユミル(それに、私はもっと痛みを感じなきゃならない。ベルトルさんの負った痛みを…)
ユミル(こんな事が償いにならないのは知っている。でもそうでもしなければ私は…)
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31 : 2014/03/17(月) 22:22:27 -
クリスタ「ユミル…」クリスタ「このまま続けて…アルミン」
クリスタ「どんな形であれ、誰かがユミルに暴力をふるうのは嫌…」
ライナー「不慣れな事をするのは危険だ」
ライナー「楽にさせるつもりが、逆に大怪我をさせる事になるかも知れん。俺は遠慮する」
アニ「私も、仲間を絞め落とすなんてまっぴら御免だね」
アルミン「…はぁ」
アルミン「わかった。さっきの発言は撤回するよ、このまま続行する」
アルミン「ユミル…頑張って!」
ユミル「あぁ!お前に全部、任せた…」
アルミン(僕は…ユミルも巨人じゃないかって、疑っていた)
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32 : 2014/03/17(月) 22:26:31 -
アルミン(本当はあの3人の協力者で、クリスタを連れてくる役割を担っていた…とかね)アルミン(無理やり連れて来られたにしては、ベルトルトとただならぬ関係に見えたんだ)
アルミン(でもそれは4日前、脱走する当日に彼らが恋人同士になっていただけの事で、)
アルミン(恐らく、ユミルは本当にこの計画を知らずに、ライナー達に連れて来られた)
アルミン(…クリスタは、この状況に目も開けていられない)
アルミン(肩を震わせながら、ユミルの手をしっかり握って、彼女を励まし続けている…)
アルミン(訓練兵の時の言動を見ても、クリスタが巨人である可能性は限りなく低い)
アルミン(ユミルも違う…もしユミルが巨人なら、こんな傷すぐに治してしまうだろう)
アルミン(こんなに痛い思いをしてまで、僕に縫わせる必要はない)
アルミン(そう言えば、以前ユミルは足を怪我して何日も訓練を休んでいた事があったな)
アルミン(あぁ、そうか…すっかり忘れていた。彼女の分の毒薬は、必要なかったんだ)
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33 : 2014/03/17(月) 22:30:33 -
アルミン「終わった」プツン…
ユミル 「…んっ!」 ポロッ
クリスタ「ユミルっ!…よく頑張ったね!」ダキッ……ギュゥゥゥ…
ユミル「クリスタ…痛てぇ…」ハァ…ハァ…
クリスタ「ご、ごめんっ…!」パッ
ユミル「アルミン、ありがと…お前凄いな…」
アルミン「いや、さっきまで読んでいた医学書に縫合の仕方が載っていたからさ…」
ユミル「じゃ、運が良かったんだな、私は。ちょうど薬も買ってきた所だって言うし…」
アルミン「あぁ、そうだ痛み止め!」
アルミン「3日分、取り敢えず渡しておく」
アルミン「あと、消毒液だ。毎日塗って傷口を清潔にしておくこと!」
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34 : 2014/03/17(月) 22:33:52 -
アルミン「包帯もね。クリスタ、ユミルに巻いてあげて。替えもここに置いておくから」ユミル「高い薬だってのに…悪いな」
アルミン「こんな時のために買ったんだ。まだあるから、心配しないで」
アルミン「今日は何も食べない方がいい。吐いてしまうかも知れないから」
アルミン「あと、痛み止めは水で飲むこと」
アルミン「そこにあるレモン水ではダメだよ!薬と柑橘類は相性が悪いんだ」
ユミル「分かったよ、アルミン先生」ハハッ
アルミン「アルミン先生…って、はぁ…」
アルミン「でも本当に、薬はまた買えるんだ」
アルミン「ジャンの馬が売れ残ってね。それを売ってまたお金を作ればいいだけだから」
ユミル「ジャンの馬…売れなかったのか…」
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35 : 2014/03/17(月) 22:37:25 -
ライナー「なるべくなら売りたくないけどな。昨日話した種の多様性の確保ってヤツでな」アニ「ねぇ…」
アニ「そろそろユミルを着替えさせてやりたいから、あんた達出て行ってくんない?」
クリスタ「そ、そうだね…何時までもこんな格好じゃ…ユミルごめんね、身体を拭こうね」
ユミル「ありがと、みんな…」
アルミン「じゃ、行くよ。薬は毎食後、忘れずに飲んでね!」
ライナー「ベルトルまだ寝てるかな…こんな大変な事が起きてるってのに、のんきな奴だ」
ユミル「…」
ユミル「アルミン…」
アルミン「ん…?なに?」
ユミル「すまなかった」
アルミン「…?」
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36 : 2014/03/17(月) 22:40:49 -
ユミル「お前に会ったら、怒鳴りつけてやろうと思ってたんだ」ユミル「こんな事になってるなんて、知らなかったから…」
アルミン「うん…」
ユミル「お前が消えてから…ミカサ、泣いていた。声は出さずに…表情も、変えずに…」
ユミル「毎日だ。私には分かった」
クリスタ「私も、知ってた」
アルミン「…」
ユミル「お前について、誤解をしていた」
ユミル「理想を掲げて調査兵団に入団したが、厳しい実戦訓練に付いて行けずに…」
ユミル「または壁外調査で死ぬのが怖くなり、巨人を恐れて脱走した」
ユミル「幼馴染のエレンとミカサを置き去りにして…」
ユミル「そう思っていた」
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37 : 2014/03/17(月) 22:47:04 -
アニ「…」ユミル「お前は、こいつらの思惑に巻き込まれて、自らの意思に反してこんな準備を…
アルミン「いいんだ」
ユミル「えっ…」
アルミン「これは、チャンスだったんだ」
アニ「!?」
ユミル「チャンス…?」
ライナー「行くぞ、アルミン…」グイッ…
アルミン「ミカサはっ?…エレンは、僕の事…何か言ってた?ユミルっ…!」ズッ
ユミル「エレンの事は分からない。会ってないんだ…。ミカサは…」
ユミル「ミカサは、『信じてる』って言ってた。アルミンは必ず戻って来ると…」
アニ「ユミルっ!!」
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38 : 2014/03/17(月) 22:49:54 -
ライナー「口を閉じろっ!ユミル!!」ライナー「もう、戻れないんだ…!誰一人としてな。いまさら何を言ったって…
アルミン「そう…。ありがとう、ユミル!」
アニ(一瞬にして表情が明るくなった…。アルミン、あんたやっぱり…)
アニ「ごめん…私も部屋に戻るよ。クリスタ、ユミルの面倒を見てやって」
クリスタ「うん」
クリスタ「みんな、おやすみ」
ユミル「ありがとう…。また、明日な」
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39 : 2014/03/17(月) 22:54:23 -
ユミル「何から何まで、悪いな。クリスタ」クリスタ「ううん!悪いだなんて思わないで!いつも世話を焼かれてるのは私の方」
クリスタ「今日くらいはユミルに恩返しさせてもらわないとね!」
ユミル「ははっ…じゃ、遠慮なく甘えさせてもらおう」
ユミル「あっ…」
クリスタ「ん?」
ユミル「いや…何でもない…」
ユミル(巨人化したから、消えたんだ…。ベルトルさんが私の胸につけた…所有の印…)
クリスタ「この服、捨ててもいいよね?」
ユミル「いや、待ってくれ。その服は…」
ユミル(ベルトルさんが、買ってくれた服)
ユミル「あとで雑巾にするから捨てないでくれ…」
-
40 : 2014/03/17(月) 22:57:50 -
クリスタ「ダメだよ…捨てる。だってこの服を見るたび思い出すでしょ?今日のこと」ユミル「…」
ユミル「そう…だな。悪い、処分してくれ」
クリスタ「うん…」
ユミル(ひとつひとつ…私の周りから、ベルトルさんが、消えてゆく…)
クリスタ「本当に、ベルトルトと何もなかったの?」
ユミル「えっ?」
クリスタ「私までは騙せないよ。ずっとあなたと一緒に居たんだから…顔を見れば分かる」
ユミル「…何も、無い」
ユミル(ごめん、クリスタ…。今回の件は、お前には説明できないんだ)
クリスタ「そう…」
-
41 : 2014/03/17(月) 23:00:41 -
クリスタ「僕はユミルを悲しませない、裏切らない、浮気もしない」ユミル「…は?」
クリスタ「ベルトルトが言った。私と約束をした」
ユミル「あ…あぁ、そうだったな」
ユミル「ベルトルさんから聞いたよ、その話は。私とも約束したんだ、それ」
クリスタ「もし約束を破ったら、あなたのうなじを狩るって脅しておいた」
ユミル「う…うなじ?」ドクン…
ユミル(クリスタはもう知っているのか?ベルトルさんが巨人だってこと…)
クリスタ「言葉のあやだよ。…うなじは巨人の弱点。人間で言えば…殺す…ってことかな」
ユミル「おいおい…冗談でも『殺す』だなんてやめてくれ、お前らしくない」
クリスタ「それだけ真剣に約束してもらったつもりだから、私」
クリスタ「ベルトルトは、ユミルを裏切ってないよね?」
ユミル「…」
-
42 : 2014/03/17(月) 23:06:57 -
ユミル「この話は、やめよう。クリスタ」ユミル「私は、平気だ」ニコッ
クリスタ「分かった…」
ユミル(ベルトルさんを裏切ったのは…私だ)
ユミル「あっ…!?」
クリスタ「ど、どうしたの?ユミル…。傷が、痛むの?」
ユミル「あぁ…いや、痛むことには痛むが…そうじゃないんだ……ごめん…早く寝よう」
ユミル「疲れてしまって…今日は何も考えられない」
クリスタ「そ、そうだね。アニが頼んでくれたお夕飯は、明日の朝に一緒に食べよう」
ユミル「いや、お前は食べてから寝ろ。私は要らない。アルミンも食うなって言ってたし」
クリスタ「私も食欲がないからいいの!じゃ、ランプ消すね…おやすみなさい」
カチリ… フッ……
ユミル「おやすみ、クリスタ」
-
43 : 2014/03/17(月) 23:09:53 -
ユミル(くだらないことを、思い付いてしまった…まさかな…そんな事って…)ユミル(でも、もしこの仮定が正しいとしたら……私もベルトルさんも…)
ユミル(いや、そんなはずはない!私は、ベルトルさんを…信じる事にしたんだ)
ユミル(だから、明日…あいつが落ち着いたら、話をして…マルセルの事もちゃんと…)
ユミル(すれ違いがあったのなら、話し合う。それが私たちのルールだったはずだ)
ユミル(それに、ベルトルさんの『一生のお願い』に返事をしなければ…)
ユミル(もう、それも無効なのかも知れない)
ユミル(あいつはもう、私がそばに居ることを…望んではいないのかも知れない)
-
44 : 2014/03/17(月) 23:15:00 -
ユミル「…っ…いってぇ……はぁ…」ジンジン…
ユミル(くそっ…!急に自己主張してきやがった…この傷…)
ユミル(ベルトルさんの痛み、受け止めると決めたのに…眠れないぐらい痛てぇ……)
クリスタ「ユミル…平気?」
ユミル「あぁ、少し痛むだけだ。さっき飲んだ痛み止めが効いてくればすぐ痛みも引く」
クリスタ「うん…」
クリスタ「あのね、そっちへ行ってもいい?」
ユミル「!?」
ユミル「いっ…いや!ダメだっ!」
ユミル(このベッドは、昨日…ベルトルさんと、『愛を確かめた』ベッドだ…)
ユミル(こんな『汚い』所にクリスタを寝かせるわけにはいかない!!)
-
45 : 2014/03/17(月) 23:18:25 -
ユミル「わ、私がそっちへ行こう…それでいいか?クリスタ」クリスタ「うん!…ありがと」
ユミル「よ、いしょ…っと」
ギシッ…ギシッ… フワン…
ユミル「あぁ、なんかクリスタの匂いがする」
クリスタ「…ふふっ…そう?髪の匂いかな。今日は私も身体を拭いただけなんだ」
ユミル(あのベッド、もうベルトルさんの匂いもしないんだな…シーツ、替えられていた)
ユミル(体臭が強いわけじゃないから、残り香なんて最初から無かったんだろうけど…)
ユミル(昨夜の出来事が、全部夢だったら良いのに…)
ユミル(ベルトルさんは今頃、後悔しているんじゃないか?…私を抱いた事を)
-
46 : 2014/03/17(月) 23:21:25 -
ユミル「醜悪な巨人か…」ユミル「マルセルは、私にとってのクリスタ…」
クリスタ「えっ?」
ユミル「あっ…いや、何でもない!!」
クリスタ「ユミル…」ギュゥゥゥ…
ユミル「ク、クリスタ?」
クリスタ「ユミルとはずっと同じ部屋だったのに、同じベッドで寝るのは初めてだね」
ユミル「あ、あぁ…うん。そうだな」
クリスタ「えへへ…見て?」
ユミル「ん?」
クリスタ「この暗闇じゃ、見えないか。あのね、今日ライナーが…指輪を買ってくれたの」
ユミル「うん、そっか…良かったな!」
-
47 : 2014/03/17(月) 23:23:49 -
クリスタ「良かった…のかな?」クリスタ「内側にライナーの名前が入ってるんだけど、嫌だったら削ってもいいって…」
ユミル「削るなよ?それ多分、結婚指輪になる予定だぞ」
クリスタ「!?」
クリスタ「嘘っ…だ、だって、今日、正式に友達になったばっかりなのに…気が早いよ!」
ユミル「友達で終わるかも知れないし、恋人になるかも知れないし…先の事はわからない」
ユミル「嫌だったらライナーの言う通り内側の名前を削ってつけていればいいだけだ」
ユミル「ただな、今買っておかないとダメなんだ。欲しくなってからじゃ、遅いから…」
ユミル「確かに気は早いが、許してやってくれ」
クリスタ「…」
-
48 : 2014/03/17(月) 23:27:39 -
ユミル「ライナーは、何て入れたんだろう?自分の指輪に…お前の名前」クリスタ「えっ…」
ユミル「『クリスタ・レンズ』は本名ではない」
クリスタ「ユミル…あなた、知ってたの?」
ユミル「ふふっ…お前の事は、何でも知ってるよ。本名は知らないけど」
クリスタ「知りたいのなら…ユミルにだけ教えてあげる…。私の本当の名前」
ユミル「それなんだが…」
ユミル「私はずっと、お前が本当の名前を名乗って、強く生きて行くことを望んでいた」
クリスタ「今は違うの?」
ユミル「違うと言うか…お前次第だな」
クリスタ「私、次第…?」
ユミル「今の名前と、本当の名前…お前はどっちを使い続けたい?」
-
49 : 2014/03/17(月) 23:32:23 -
ユミル「いや、どっちが好きだ?」クリスタ「そんな…急に言われても…」
ユミル「今日、お前は言ってたな」
ユミル「嫌な事は全部、壁内へ置いていけばいい…って」
ユミル「この世界には、何もない…ってな」
クリスタ「…」
ユミル「本名を名乗って暮らしていた時は、幸せだったか?」
クリスタ「…ううん」
クリスタ「私は…孤独だった…」
クリスタ「今の名前は、『クリスタ・レンズ』は、偽の名前だけれど…父がつけてくれたの」
クリスタ「一度しか、会ったことはないけれど…」
-
50 : 2014/03/17(月) 23:35:23 -
ユミル「その名前も、親が付けてくれたんだな…」クリスタ「うん…」コクン…
ユミル「『クリスタ・レンズ』の名前で知り合った仲間は、どうだった?」
ユミル「お前は、楽しかったか?」
クリスタ「楽しかった…。ユミルと知り合ったこともそうだし、みんな、優しかった…」
クリスタ「訓練は辛かったけど…私、ここに居て良いんだ…って思えたの」
クリスタ「きっとそれは、『幸せ』な生活だった」
ユミル「お前を、憲兵団に入れようとしたのは間違いだった」
ユミル「結果として、これはこれで良かったのかもな…」
クリスタ「やっぱりあなた、私を憲兵団に…」
クリスタ「私の実力が今期の10番に見合うはずがない…誰に聞いても10番以内は…
ユミル「もう、いいんだ…。ここまで逃げてきちまったんだ、もう何も関係ない」
-
51 : 2014/03/17(月) 23:38:57 -
ユミル「お前は、どっちを選ぶ?本当の名前と今の名前…どっちの人生を送りたい?」クリスタ「ユミル…」
クリスタ「…」
クリスタ「…い、今の名前」ボソッ
クリスタ「ユミルと出会った、今の名前がいい…」
クリスタ「私は、『クリスタ・レンズ』として生きる!」
ユミル「そっか!…よし、それでいい!!」
ユミル「幸せになれよ!クリスタ」ナデナデ…
クリスタ「ユミルもだよ?一緒に、幸せになるの!私たち」ギュッ…
クリスタ「脱走する時も言ったけど、私…ユミルと一緒ならどこへだって行けるから!」
ユミル「クリスタ…」
-
52 : 2014/03/17(月) 23:43:00 -
クリスタ「もし、ベルトルトが嫌になったら…私と一緒に逃げよう?どこへだって…」クリスタ「あなたと一緒なら、怖くないや」
ユミル「うっ…クリスタ……ばかっ…おまえっ……」グスッ…
クリスタ「ふふふっ…私の前でも、やっと泣けたね。ありがとう、ユミル」ギュゥゥゥ…
ユミル(私もお前と一緒に、逃げたい)
ユミル(私だって…お前がいればどこへだって行ける。何も怖くはない!)
ユミル(でもそれは、お前にとって最善なのか…?私と逃げることは正しいのか?)
ユミル(私の我儘で、クリスタから本来なら得られるはずの幸せを奪うのか?)
-
53 : 2014/03/17(月) 23:45:39 -
クリスタ「ユミル」ユミル「ん?」
クリスタ チュッ
ユミル「わっ…」///
ユミル「おっ…お前っ、今の危なかったぞ!ちょっとそれてほっぺだったが…」
クリスタ「う~ん…外したか」
クリスタ「もう一回」チュー
ユミル「ん…!」ムグッ…
ユミル「…ぷ……はっ……」
ユミル「お前なぁ…」
クリスタ「えへへっ、初めてのキスはユミルとだよ!」///
-
54 : 2014/03/17(月) 23:47:24 -
ユミル「女同士はノーカンだ!…すなわち、数に含めない。お前はまだキレイな唇だ!」クリスタ「もう!ユミルったら…」プクッ
ユミル「初めてのキスは好きな人が出来た時のために取っておけって、昨日も言ったろ!」
クリスタ「ユミル、大好きだよ…」
ユミル「えっ!」
クリスタ「おやすみなさい…」
ユミル(クリスタ…)
-
55 : 2014/03/17(月) 23:53:09 -
今日はここまで。読んでくれてありがとう次の更新は遅めです
あと↓貼り忘れました…すみません!
※クリスタの名前に関して第52話のネタバレがありますそれと、今年度中に完結する予定だったのですが、このペースだと無理です
約1ヶ月前に、
「だんだんツライ展開になるので読んでいて苦しくなる方は1か月後くらいに
来ていただけると、ある程度話が進んでいるかと思います…」とか書きましたが、全然話が進んでなくてほんっとうに申し訳ない
おやすみなさい
-
65 : 2014/03/24(月) 22:15:10 -
アニ「アルミン、そっちへ行きたい…」アルミン「だっ…ダメだ!アニ!!」
アニ「ふふっ…そうだよね」
アニ「困らせてごめん…」
アルミン「ラ、ランプ消すよ」ドキドキ…
アルミン「明日もやることがたくさんあるから…アニ、もう寝よう」
アニ「うん…」
カチリ… フッ……
アニ「怯えなくていいから…」
アニ「とって食いやしないよ、アルミン」
アニ「あんたがどうしても私と一緒に居るのが嫌なら、私を殺せばいい…」
-
66 : 2014/03/24(月) 22:22:08 -
アルミン「…こ、殺す?」ビクッアニ「あんたになら、殺されても構わない」
アニ「でも私は、自分の命の灯が消えるまで…あんたの命を守るから」
アニ「私を…愛して欲しいんだ…」
アルミン「アニ…」
アニ「好きだ…」
アニ「あんたが…狂おしいほどに」
アルミン(胸が苦しい…)ギュッ…
アニ「私が死んでから、ミカサの元に戻ろうだなんて思っても無駄だよ」
アニ「幽霊になっても、あんたを見てる…」
-
67 : 2014/03/24(月) 22:24:27 -
アニ「それで、あんたたちがくっ付かないように全力で邪魔してやるんだ」フフッ…
アルミン「アニ、君は何か勘違いをしている」
アルミン「僕はミカサの事を、幼馴染として気にかけてい…
ギシッ…ギシッ…
フワッ… モゾモゾ…
アルミン「ふぇっ!?」バッ
アルミン「ア、アニっ!こっちに来ちゃダメだって!!」///カァァ…
アニ「だから、何もしないってば…」ギュッ…
-
68 : 2014/03/24(月) 22:25:53 -
アニ「ねぇ、あんたの心臓の音を聴かせてよ。私たちは生きているんだって、教えて…」アルミン「君は一体、何を考えてるの!?」///
アニ「抱きしめて、アルミン…」
アニ「私はもう、あんたをミカサとエレンの元へは返せない…」ギュゥゥゥ…
-
70 : 2014/03/24(月) 22:33:18 -
クリスタ「ふふっ…ユミルが隣に居る…嬉しい!」ギュゥゥゥ…ユミル「…てっ!」ズキッ
クリスタ「あっ…ごめんっ!!まだ、傷が痛むよね…」パッ
ユミル「平気だ。当たり所さえ悪く無ければな。抱きついていいぞ?」
クリスタ「えへへっ…じゃ、もう一度…」ギュゥゥゥ…
ユミル ナデナデ…
グゥッキュルルルッ…
クリスタ「あっ…」
ユミル「ぷっ…腹鳴ってるぞ、クリスタ」
-
71 : 2014/03/24(月) 22:37:06 -
クリスタ「こ、これは…昨日お夕飯抜いたからだよっ」///カァァァ…ユミル「そうだったな。付き合わせて悪い」
クリスタ「ううん…いいの」
クリスタ「ねぇ!今日は二人だけで朝ご飯食べない?ここで、一緒に」
ユミル「いいな!それ」
クリスタ「でしょ?昨日部屋に持ってきてもらったクラブサンドと…飲み物は何がいい?」
ユミル「そうだな、紅茶か…牛乳だな」
クリスタ「じゃ、ミルクティにしよう!両方楽しめるから」
ユミル「あははっ!良いアイディアだ」
クリスタ「私、顔を洗って着替えたら、1階の食堂まで取りに行ってくるね!」
クリスタ「ユミルはここでじっとしてる事!」
ユミル「はいはい。わかった、わかった」
-
72 : 2014/03/24(月) 22:42:03 -
クリスタ「あれ?」
クリスタ「少し熱がある…」
ユミル「そうか?」ピトッ…
ユミル「う~ん…よく分からないな。大したことないよ…この傷のせいかな?」
クリスタ「傷が原因の熱って、もっと高熱が出るって本で読んだことがあるよ」
クリスタ「これは、今まで無理をしすぎた代償だと思う…疲労かな?」
ユミル「あぁ、そうかもな。心当たりがある」
クリスタ「今日はゆっくりしてようよ、二人で。どこにも行かないでのんびりしよう?」
ユミル「そうだな…」
クリスタ「アルミンから解熱剤も貰って来るね。あと水も持ってこなきゃ…」
-
74 : 2014/03/24(月) 22:50:41 -
ユミル「私の事なら気にしなくていい」ユミル「ちょっとお洒落して行ってきな。あいつはデートのつもりだぜ!!」ニヤニヤ
クリスタ「もう、ユミルっ!」///カァッ
クリスタ「断るに決まってるでしょ?ユミルはこんな状態だし、一人には出来ないよ!」
ユミル「本当にいいから、行ってこいって!」
ユミル「実は私もやることがあるんだ。一人にしてもらった方が嬉しい。集中できる」
ユミル「なぁ、私を一人にしてくれないか?クリスタ」
クリスタ「ユミル…」
クリスタ「行ってきても、いいの?」
ユミル「あぁ!楽しんで来いよ!」ニコニコ
-
75 : 2014/03/24(月) 22:55:01 -
クリスタ「ユミルが、そう言うのなら…」ブツブツ…
ユミル「さ、まずは腹ごしらえだ!ミルクティだけ頼むな!」
クリスタ「うん!持ってくるね」
・
・ユミル(カップを下げに行ったクリスタが部屋に戻ってきた。彼女は静かに怒っていた)
ユミル(原因は教えてくれない。「昨日の服は処分したよ」そう言って、私を抱きしめた)
ユミル(「やっぱり今日は出掛けないから」…と、言い出して渋るクリスタを宥めすかし、)
ユミル(やっと送り出したのが今さっき)
ユミル「はぁ…疲れた…」
ユミル(ライナー、クリスタをちゃんと楽しませてやれよ?で、本気で惚れさせろ)
ユミル(それがあいつのためになる…)
-
76 : 2014/03/24(月) 22:58:11 -
ユミル「結局、あいつ…宿の人に言って水差しを持って来させやがった…」
ユミル「いいって言ったのにな。気を使い過ぎだ…」
ユミル「まぁ、それも半分以上飲んじまったし…下まで行って水入れてもらって来るか」
ユミル「気分転換も兼ねて、な」ググッ… ノビーッ
ユミル(ベルトルさんに会ったら、気まずいな…でも逃げてばかりもいられない…)
~宿屋2階の廊下~
ユミル(たっぷりと水を入れてもらった)
ユミル(これなら昼夜、薬を飲む水には困らないだろう…解熱剤も飲まなきゃだしな…)
ユミル(少し、頭がボーーッとするが…熱のせいか?くそっ!風邪の引き始めなら最悪だ)
-
77 : 2014/03/24(月) 23:04:12 -
???「ユミル…?」ユミル「わっ!?」ビクッ!!
ガシャン!!
ビシャッ…コプコプコプ…
ユミル「ああっ!水が…」
ベルトルト「ご、ごめん!驚かせて…」
ベルトルト「今、宿の人を呼んで来て拭いてもらうから…水は僕が汲み直して…
ユミル「い、いや…いい。自分でやる」
ユミル「雑巾が欲しいな。結局、誰か人を呼ばないと…」ジリッ…
ベルトルト「な…なんで、後ろに下がってるの…?」
ユミル「お前が、怖がるかと思って…」
ベルトルト「…」
-
78 : 2014/03/24(月) 23:12:16 -
ベルトルト(目も合わせてくれない…)ベルトルト「あのね…
ユミル「えっと…ベルトルト「あ、あぁ…ユミルから言って…」
ユミル「いや、お前が先でいい…」
ベルトルト「そう?あのさ、昨日はその…」
ベルトルト「ごめん、なさい…君を置き去りにして一人で帰ってしまって」
ベルトルト「怒ってるでしょ?」
ユミル「…」
ユミル(怒ってるとか、そんな問題じゃない)
ユミル「怒ってない…」ジリッ…
ベルトルト(また、一歩下がった)
-
81 : 2014/03/24(月) 23:26:50 -
ベルトルト「また、一歩…僕から離れたね…」ベルトルト「ユミル…どうして僕から離れるの?」
ユミル「お前の身体が、震えているからだ」
ベルトルト「えっ!?」
ベルトルト「ほ、本当だ…」ブルブル…
ベルトルト「なんで?…腕が勝手に…おち、落ち着けって…」グッ…
ユミル「さっきから、右手を隠している」
ベルトルト「…」
ユミル「見せてくれないか?右手」
ベルトルト「ユミルも、左手を隠しているじゃない…」
ユミル「これは、いいんだ」
-
83 : 2014/03/24(月) 23:33:33 -
ユミル「今夜、時間を作って欲しい」
ユミル「そこでお前に返事をしたい」
ユミル「お前が聞きたがっていた、『一生のお願い』の返事だ…」
ユミル「お前の秘密も、そこで聞かせてもらう」
ユミル「22時に談話室の前で待っている。いいか?」
ベルトルト「うん…」
ユミル「じゃぁ、もう行く…」ジリッ… タッ…
ユミル「…っ!!」
ズルッ… バシャッ!
ベルトルト「ユミルっ!?」
-
84 : 2014/03/24(月) 23:38:42 -
ユミル(自分でこぼした水に滑って、こけちまった…)ユミル「ててっ…!…いってぇ…」
ユミル(水が包帯を濡らし、傷口に滲みこむ…)
ユミル(情けねぇな…。ひどく惨めだ)
ベルトルト「ほら、僕の手を掴んで…」サッ
ベルトルト(…あっ!)スッ サッ…
ユミル(右手を引いて、左手を出した…)
ユミル「…」
ユミル「いや、自分で立てる。私は一人でも平気なんだ…何でも出来る」
ユミル「心配は不要だ」
ユミル「よ、っと…」スクッ
ユミル「ははっ…ベチャベチャだ。着替えて、包帯を替えないと…。忙しいな、今日は」
-
85 : 2014/03/24(月) 23:41:22 -
ベルトルト「…」ジッ…ベルトルト(一人でも平気…?僕の手を、掴んではくれなかった…)
ベルトルト「ユミル…本当にごめん…」
ベルトルト「僕は君を深く傷つけたみたいだ…許して欲しい、何でもする!!」
ベルトルト「君の気が済むまで、好きなだけ僕を殴ってくれ!」
ユミル「殴る…?」
ユミル「なぜお前を殴らなきゃならない?謝るべきはこっちなのに…」
ユミル「それに私は、殴るのも殴られるのも嫌いだ。殴る方も手が痛いだろ?」
ユミル「…お前は何も、悪くない」
ユミル「私を見て身体が震えるのは、私が怖いからだ。それは仕方がない」
-
86 : 2014/03/24(月) 23:45:01 -
ユミル(私だって、お前がクリスタを食ったとしたら、今まで通りに接するのは無理だ)ユミル「平常心ではいられない。どんなに恐怖を抑えつけても無駄だ、心は正直なんだ」
ユミル「私のそばに寄るな。顔も見るな。私が嫌なんだ、お前に見られるの」スッ…
ユミル(お前の目にはどんな醜い私が映っているんだ?もう、顔も上げられない…)
ベルトルト「待って!ユミルっ…」
ベルトルト「僕は君を怖いだなんて思ってない!!本当に思ってな…
ユミル「でも、指輪は外してしまった」
ベルトルト ビクッ!
ベルトルト「さっき手を出した時に…」
-
98 : 2014/03/30(日) 21:16:07 -
時は昨日の晩に戻る…
ベルトルト ハァ…ハァ…
ベルトルト「はぁ…」ゼェゼェ……
ベルトルト「ふぅ…ここまで来ればもう…」
ベルトルト(あの巨人は追って来ない…)
ベルトルト「えっ?」
ベルトルト(ぼ、僕は…何を言ってるんだ?)
ベルトルト「戻らなきゃ!」クルッ
ベルトルト「!?」ガクンッ…
ベルトルト(足が…動かない…)
-
99 : 2014/03/30(日) 21:20:42 -
ベルトルト「ユ、ユミルを置いてくるなんて……僕はどうかしてる…」ハァ…ハァ…
ベルトルト「信じられない…」
ベルトルト(夢中で、遠くまで…一人で逃げてきてしまった…彼女を置き去りにして…)
ベルトルト「落ち着け!大丈夫だ。これは夢の中じゃない…あの巨人は、怖く、無いんだ」
ベルトルト(ユミルは…マルセルを食った巨人…)
ベルトルト(5年前に巨人から人間に戻った…そう聞いた時、嫌な予感がした)
ベルトルト「どこかで、もしかしたらって、思ってたんだろ?」ハァ…ハァ…
ベルトルト「なんで…何で逃げ出してきたんだよ!!…最低だよ、僕は」グスッ
-
101 : 2014/03/30(日) 21:27:19 -
ベルトルト「ユミル~~~~っ!!」ベルトルト「さっきはごめん!一緒に帰ろう?…どこにいるんだ!?」
ベルトルト(もう、いないのか…?)
ベルトルト「そうだよな、だいぶ時間が経っている…もう、帰ってしまったんだ」
ベルトルト(この暗闇の中をたった一人で…)
ベルトルト「あっ!あの子はどこだ…?」キョロキョロ…
ベルトルト(いない……当たり前か…)
ベルトルト「貧民街まで、あの子を送って行ったのかも知れない…」
ベルトルト「…」
ベルトルト(遠くで「行くな」って聞こえた。「私を置いて行かないでくれ」…って)
ベルトルト グスッ…
-
105 : 2014/03/30(日) 21:44:55 -
ガチャッ… ギギギッ…
ライナー「おう!ベルトル。お帰り」ニヤッ
ベルトルト「…」
ライナー「今日も楽しんできたか?ユミルとのデートはどうだった?」
ベルトルト「…」
ライナー「ベルトル?」
ベルトルト「おい!お前、顔色が悪いぞ」
フラッ… パフンッ……
ベルトルト(瞼が重い…もう、限界だ…)
ベルトルト(頭も痛くて、割れそう。何も考えられない)
ベルトルト(ユミル……ごめん…)
-
106 : 2014/03/30(日) 21:49:51 -
ベルトルト(明日になったら気が済むまで僕を殴ってくれ……それで…)ベルトルト(「この馬鹿が!勝手に一人で帰りやがって!!」って、僕を叱ってよ…)
ベルトルト(僕はひたすらに謝って、君を抱きしめて、頭を撫でて、許しを請うから…)
ベルトルト「…」
ライナー「寝てる…のか?」
ライナー「はぁ、まったく!」
ライナー「ん…!?」
ライナー「な…何だコレ……手の甲が赤茶色に汚れて…ち、血か?誰か殴ったのか…?」
ライナー(自分の血なら治癒する時、蒸発してるよな…事情は明日にでも聞くか)ハァ…
ライナー「まぁいい。風邪引くなよ…毛布掛けてやるから」グッ… バサァァッ
-
109 : 2014/03/30(日) 22:02:29 -
ライナー「ベルトルっ!助けてくれっ!!」バッ…
ベルトルト「ひっ…!ご、ごめっ…ライナー!!」
ダッ…
ベルトルト(走って…走って…振り向かずにどこまでも走った…)
ベルトルト(進んでいるのか、戻っているのか…分からないくらいめちゃくちゃに…)
ベルトルト(ライナーはどうなった?…マルセルは?いや、彼はもうダメだ…)
ベルトルト(あっ…人影!?)
ベルトルト「だ、誰っ!?」ビクッ!
ベルトルト(こんな何もない場所に…どうして人がっ!?ここは巨人の領域だぞっ…)
黒髪の少女「えっ…?」
-
110 : 2014/03/30(日) 22:06:26 -
ベルトルト(おっ…女の子だ!)ベルトルト「ここにいたら危ない!!」ダッ…
ベルトルト「一緒に逃げようっ!巨人が来るんだ!!」ギュッ…
ベルトルト「そいつは僕の仲間を食べた!!」グイッ
黒髪の少女「な、何すんだよ!私はどこにも行きたくないんだっ!!」グンッ…
ベルトルト「いいからっ!ここにいたら君も死んじゃうんだ!!一緒に行こうっ」グイグイッ
ハァハァハァハァ……
ハァハァハァハァ……
ベルトルト「はぁはぁ…ここ…まで、くれば…もう、大丈夫、だと思う……」フゥ…
黒髪の少女「そ、そうなのか?お前に連れられて、だいぶ遠くの街まで来ちまったが…」
-
111 : 2014/03/30(日) 22:10:07 -
ベルトルト「ここがどこだか知ってるの?」黒髪の少女「あぁ、ここはウォール・シーナ西の突出区、ヤルケル区だ」
ベルトルト「ウォール・シーナ…」
ベルトルト「そ…そんな遠くまで……」
黒髪の少女「お前はどこから来たんだ?」
ベルトルト「あの…えっと…ずっと、遠くから来た…」
黒髪の少女「ウォール・ローゼの開拓地からじゃないのか?」
ベルトルト「そ、そう…そうなんだ!!」
黒髪の少女「そうか、やっぱな」クスッ
黒髪の少女「その服、開拓地で支給されてる服に似ていたから」
ベルトルト(僕の…服?あれ…僕、いつの間に着替えたんだ…?)
-
112 : 2014/03/30(日) 22:13:11 -
黒髪の少女「私はウォール・シーナの寂しい街に居たんだが…急にお前が手を掴んできて」黒髪の少女「こんな所まで連れて来られちまった…」
ベルトルト「ご、ごめん…。でも、危なかったんだ!君も巨人に食べられるかもって…」
黒髪の少女「お前、なんて名前だ?」
ベルトルト「ベ、ベルトルトだけど…」
黒髪の少女「いい名前だな。私は、ユミルってんだ。私の名前も良い名前だろ?」ニコッ
ベルトルト「う、うん…」
ベルトルト(ユミル?どっかで聞いたことがある名前だ…。僕はこの女の子を知っている)
ベルトルト(顔を見れば思い出すかも…あぁ、眩しいなぁ、逆光で顔がよく見えない)
-
114 : 2014/03/30(日) 22:26:45 -
ベルトルト「あっ!!」
ユミル「ん?」
ベルトルト「ライナーを…置いて来てしまった…巨人の居る所に…」
ベルトルト「僕は彼を見捨てて、一人で逃げてきてしまって…さっきの場所に戻らないと」
ベルトルト「戻ってライナーを助けなきゃ…そして彼に謝らないといけない…」
ベルトルト「ごめん!ユミル…」
ベルトルト「やっぱり僕は一人で行く。あっちはすごく危険だから…」タッ…
ユミル「待てよ!…どこへ行くんだ?」ギュゥゥ…
ユミル「こんな遠くまで連れてきたくせに、お前は一人で戻るのか?」
ベルトルト「ご、ごめん…本当に危険なんだ。それに僕らには大事な使命があって……」
-
117 : 2014/03/30(日) 22:38:19 -
パチッ
ベルトルト「ユミル!!」ガバッ…
ベルトルト「あ…あぁ…そうだ、夢だったんだ……」ハァーー
ベルトルト「夢だって、分かっていたはずなのに…」
ベルトルト(夢の中の、少女のユミルが…あまりにも悲しそうな顔をするから…)
ベルトルト(僕まで切なくなって、苦しくなって…もう永遠に会えないんじゃないかと…)
ベルトルト(はぁ……また、嫌な汗をかいている…)
-
121 : 2014/03/31(月) 19:24:10 -
ベルトルト「朝だ…」
ベルトルト「ここは、宿のベッド?」
ベルトルト「あれ…?僕、いつ帰って来たんだっけ?」
ベルトルト「確か昨日はユミルとドレスを買いに行って…あっ…」
ベルトルト「な、何だ?…手に、錆びた血?うわぁぁっ…気持ち悪い…」ゾワゾワ…
ベルトルト「は…早く洗わなきゃっ!」ヨロッ……
~浴室~
ジャバジャバジャバジャバ…
ベルトルト「はぁ…はぁ…」
ベルトルト「粉石けんで、よく擦って洗わないと…血が、血が落ちない…」ハァ…ハァ…
-
122 : 2014/03/31(月) 19:28:08 -
ベルトルト「は…」ベルトルト「ふぅ…お、落ちた…」ホッ
ベルトルト「どうして手に、こんなに血が…」
ベルトルト(ベッドには付いてなかったみたいだから、寝る時には乾いていたんだろう…)
ライナー「お前、一人で何やってんだ……騒がしいぞ…」ギギッ…
ベルトルト「あ、ラ…ライナー。ごめん…」
ライナー「やっと起きたな。よく眠れたか?」
ライナー「昨日、調子悪かったんだろ?吐いたって聞いたぞ。ユミルから」
ベルトルト「あ、あぁ…うん」
ベルトルト(ユミル…戻って来ている!)
ライナー「ゆっくり寝かせてやろうと思ってな、朝食の時間になっても起こさなかった」
-
123 : 2014/03/31(月) 19:30:48 -
ベルトルト「そ、そうなんだ…じゃぁもう朝食の時間は終わってるんだ…」ライナー「いや、食堂はまだ開いてるぞ。俺たちの食事は終わってるが」
ベルトルト「…そう」
ライナー「なぁ、昨日何があった?」
ライナー「お前まさか…喧嘩でもしてきたのか?手に血みたいなのがこびりついていたが」
ベルトルト「いや、よく…分からない。あんまり覚えてないんだ…今、手を洗ったけど…」
ライナー「…大丈夫か?本当に」ハァ…
ベルトルト「あああっ…あの、あのさ…」
ライナー「ん?どうした」
ベルトルト「…い、今更だと思うかも知れないけど、謝らせて欲しい」
ライナー「何をだ?」
-
126 : 2014/03/31(月) 19:44:40 -
ベルトルト「なっ…な、なんでそんなこと言ったんだ!!」ライナー「何でって…ユミルが聞きたがったからだな。だが、本当の事だろ?」
ライナー「忘れようがない、あの巨人だけは…」
ベルトルト「醜悪な巨人…」ギュッ…
ベルトルト(ユミル…君は今何を思っている?…君を抱きしめたい)
ライナー「そう言えば、ユミルもクリスタも朝食をとりに来なくてな」
ライナー「アニに聞いたら、昨夜届けてもらった夕飯を朝、部屋で食べる事にしたそうだ」
ライナー「あとユミル、少し熱が出たらしくて、今日は部屋でゆっくり休む予定だとさ」
ベルトルト「熱?…だ、大丈夫なの?」
ライナー「心配だったら後で様子を見に行ったらどうだ?お前に会えば治るかも知れん」
ライナー「俺の見立てだと、ユミルの方がお前に惚れてる感じなんだよなぁ…」ニヤニヤ
-
127 : 2014/03/31(月) 19:48:39 -
ベルトルト「…」ライナー「買い揃えなきゃならんものがまだまだあるから、俺はもうすぐ出掛けるが、」
ライナー「お前も体調が悪そうだし、今日は二人とも宿でおとなしくしてるんだな」
ライナー「食いたい物や欲しい物はあるか?ついでに買って来てやる」キラッ
ベルトルト「あっ…!ライナー…それ…」
ライナー「おっ!早速気付いたな…いいだろ?これ」ニマニマ
ライナー「俺も買ったんだ!」スッ
ライナー「クリスタとお揃いの指輪だ。お互いの名前もちゃんと入れてもらったぞ!」
ベルトルト「そっか…良かった。そっちも進展してたんだ…上手く行きそうだね」ホッ
ライナー「そうだな!まだ友達の段階だが…いずれはお前らみたいに仲良くなるぞ!」
-
128 : 2014/03/31(月) 19:52:40 -
ライナー「そういや…」ライナー「お前の方は、つけてないのか?」
ベルトルト「何が?」
ライナー「指輪」
ベルトルト「指輪?……えっ!」バッ!
ベルトルト「!!!?」
ベルトルト「は、外してないのに…!!」
ベルトルト「石鹸で手を洗ったから、抜けたのかもっ…」バッ
ジャバジャバジャバ…
ベルトルト「ど、どうして?落ちるわけないんだっ!ピッタリはまっていた…」
ベルトルト(何で気付かなかった!?)ダッ…
-
129 : 2014/03/31(月) 19:55:51 -
ライナー「おいっ!」ベルトルト「ない…ないっ……無い!!!」ガシャガシャ…
ベルトルト「ラ、ライナー…どうしよう!!」
ライナー「お、落ち着け…部屋の中をもう一度よく探してみろ!」
ライナー「ベッドの下とか、テーブルの上とか…あと、宿の廊下や階段なんかも…」
ベルトルト「う、うん…っ!!」
ライナー「それでも無かったら外まで範囲を広げて探さないと行けなくなるぞ…」
ライナー「昨日行った場所、全部覚えているか?」
ベルトルト「!?」サァーーーーッ
ライナー(血の気が引く音が、こっちまで聞こえてくるようだ…)ドキドキ…
-
132 : 2014/03/31(月) 20:08:21 -
ベルトルト「指輪が無ければ、ユミルには会えない。でも、彼女に早く謝らないと…」ベルトルト(もし、このまま指輪が出て来なかったら…)
ベルトルト(こっそり買い直す?…いや、それは出来ない)
ベルトルト(二人で選んだ事に意味があるんだ!買い直したら、ユミルを騙すことになる)
ベルトルト(第一、お金を使い過ぎて指輪を買い直せるほど残ってない…)
ベルトルト「ユミルに会って、正直に言おうか?」
ベルトルト「ユミルから逃げ出した事と、指輪紛失の合わせ技で…」
ベルトルト「『お前なんか大っ嫌いだ!』って泣きながら言われるかな…」ハァーーーー
ベルトルト「そしたら口もきいてくれなくなるかも…」
-
133 : 2014/03/31(月) 20:11:30 -
ベルトルト「ん…?あれは…」ベルトルト「クリスタ!」タタタッ
クリスタ「!?」
ベルトルト「ライナーならまだ部屋に居るよ。今日も一緒に出掛けるんだよね?」
ベルトルト「ねぇ…ユミル、熱があるんだって?具合はどう?何か持って行こうか?」
クリスタ「…」ジッ…
ベルトルト「…クリスタ?」
クリスタ「昨日、何をしてたの?あなた」
ベルトルト「えっ…」ドキッ…
-
134 : 2014/03/31(月) 20:15:54 -
クリスタ「何で一人で帰って来たの?」クリスタ「貧民街なんて治安が悪くて危険な場所に、何でユミルを一人で行かせたの?」
ベルトルト「ユミル、やっぱり貧民街に行ったんだ…」
クリスタ「嘘つき」
ベルトルト「う、嘘つき?…僕が?」
クリスタ「あなたは信用できない」
クリスタ「ユミルを悲しませたり、裏切ったりしないって…私と約束したのに!!」
ベルトルト(昨日の事、知ってるの?)
クリスタ「この服を見て!この血も!!」バッ!
ベルトルト「!?」ゴクッ…
ベルトルト「昨日、ユミルが着ていた服…?」
ベルトルト「どうしてこんなズタズタに…血も…いっぱい付いていて…」バッ!
-
135 : 2014/03/31(月) 20:19:05 -
ベルトルト「ユミルが切り裂いたの?僕の事すごく怒って…」ガタガタ…クリスタ「そんな訳ないでしょ!?」
クリスタ「こうなった理由は言えない。ユミルがあなたには言うなって言ったから…」
クリスタ「でも、これはみんなベルトルト、あなたのせい!!」
クリスタ「私、気が変わったから」ジロッ
ベルトルト「クリスタ…僕は何をしたんだ?ユミルに…」
クリスタ「あなたはユミルには相応しくない!」
クリスタ「ユミルの事、諦めてくれる?」
ベルトルト「…嫌だ」
ベルトルト「ユミルは今、どこに?」
クリスタ「部屋に居るけど、来ないで」
-
136 : 2014/03/31(月) 20:21:36 -
ベルトルト「そんなこと君に命令される筋合いはないよ!!」ギリックリスタ「ユミルを傷つけないで!…って言ってるの!!」ハァ…ハァ…
クリスタ「昨日はゆっくり眠れて良かったね!その頃彼女は大変な目に遭ってたのに…」
ベルトルト「昨日…僕は……」
クリスタ「部屋に戻る」
クリスタ「その服は、あなたが処分して。宿の人に渡せばいいから」
・
・ -
138 : 2014/03/31(月) 20:33:52 -
ベルトルト「あっ!…あの高台に昨日買ったユミルの下着、置きっぱなしだ!!」ベルトルト(早く取りに行かなきゃ…)
ベルトルト(もし誰かにユミルの下着を触られたりなんかしたら、全部捨てる事になる)
ベルトルト「のんびりなんか、していられない!指輪も探さないといけないし…」スクッ
ベルトルト(僕はユミルに証明しなきゃならない…)
ベルトルト(「君を愛してる」って…。それは言葉以外で証明しなければ)
ベルトルト「僕も、部屋に戻ろう」
~宿屋2階の廊下~
ガチャッ…
ギギギッ… パタン
ベルトルト(着替えも済んだ。これから指輪を探しに行く。高台のふもとか、貧民街か…)
-
140 : 2014/03/31(月) 20:40:33 -
ベルトルト(ちょっと、いや…ちょっとどころじゃなく緊張するけど…早い方がいい…)ベルトルト(あれっ…)
ベルトルト(後ろから水差しを持って歩いて来るのってユミル…だよね?手に包帯?)
ベルトルト「ユミル…?」
ユミル「わっ!?」ビクッ!!
ガシャン!!
ビシャッ…コプコプコプ…
ユミル「ああっ!水が…」
・
・ -
148 : 2014/04/08(火) 23:00:03 -
~宿屋の一室~
バタン! カチン…
ユミル(早足で部屋まで逃げ帰って来た)
ユミル「くそっ…馬鹿か!私は…」
ズズズッ… ペタン…
ユミル「何であんなこと言ったんだ…」ハァ…
ユミル(熱で頭の働きが鈍っていたってか?)
ユミル「はっ!そんなのは言い訳だ!」
ユミル(…ベルトルさんが逃げ出すのも当然だろ?仲間を目の前で食われてんだぞ!)
ユミル「それをあんな嫌味っぽく、『お前は行ってしまった』だなんて…」
ユミル「心まで……醜悪になっちまったのか…?私は」グスッ…
-
149 : 2014/04/08(火) 23:02:11 -
ユミル「お前は、何を期待してたんだよ…ユミル…」ギュッ…ユミル「ベルトルさんが許してくれるとでも思っていたのか?」
ユミル「そんな訳ねぇだろ…」
ユミル(身体が震えていた事、私が指摘するまで気付いていなかった)
ユミル(あいつの心と身体にはしっかりと刻み込まれている。仲間を食われた時の恐怖が)
ユミル「だから、指輪なんて欲しくなかったんだよ…」
ユミル「人の気持ちは変わりやすいんだ…。愛情だっていつかは冷める…」
ユミル「確かめるすべがない方が、楽に生きれるってもんだろ?」
-
152 : 2014/04/08(火) 23:15:59 -
ユミル「着替えよう…」
ユミル(水を吸った服がまとわりついて気持ち悪い。身体も冷えてきた…)ブルッ…
ユミル(傷口を濡らさなければ、風呂に入っても大丈夫だろう…。今すぐ身体を洗いたい)
ユミル「はぁ…今日は本当に忙しい。今日中にやっとかなきゃならない事が山積みだ」
ユミル(風呂に入って、少し寝て、体調を整えて、それでしっかり飯も食う!)
ユミル「よし!そうと決まればサクっとやるか。まず、風呂からだな…」ムクッ…
ユミル「!?」ズキンッ!
ユミル「いっ…て…!」グラッ…
ドンッ…
ズズズッ……
-
153 : 2014/04/08(火) 23:20:19 -
ユミル(何だこれ…頭が痛ぇ…)
ユミル(ふ、風呂は後でいい…まずは…横になって少し眠ろう…)ヌギッ…
クイッ… バサッ
ユミル「はぁ…はぁ…」グイッ… ポスッ
ユミル(もう裸でいい…布団の中は暖かいはずだ…)フラフラ…
ヨロッ… ギシッ…ギシッ…
フワァ……
モゾモゾ…
ユミル(少しだけ…休ませてくれ…)ハァハァ…
ユミル(これからまた走り続けなきゃならないんだ…何かに追われながら…遠くへ…)
-
154 : 2014/04/08(火) 23:23:18 -
ユミル(寝て起きたら、昨日の朝に戻っていて…ベルトルさんが隣でうなされている…)
ユミル(私は急いで駆け寄るんだ。あいつを叩き起こして、抱きしめて、頭を撫でる…)
ユミル(4人でゆっくりと朝食をとった後、ベルトルさんの用事に無理やり付いて行き…)
ユミル(どこでもいい、目に付いたパン屋に寄って厚みのある長いパンを2つ買う)
ユミル(その足で貧民街のあの子の家に寄り、その長いパンを彼女に渡すんだ)
ユミル(「今日は家で大人しくして、母親のそばから離れるなよ!」そう言いながら…)
ユミル(どんなに願っても、祈っても、後悔しても…時間は……戻ることはないのに…)
ユミル(つい、こんな事を考えてしまうんだ……)
ユミル(私の『罪』は消えやしないのに)
-
156 : 2014/04/08(火) 23:30:59 -
???「…ユ…ルっ!…ユミ…!!」
ユミル(ん…?誰だよ?……眠いってのに…)
ア?ミン「ユミル!?…大丈夫?」ユサユサ
ユミル「あ…あぁ、お前…アルミンか…」モゾモゾ…
ユミル「ア、アルミン!?」パチッ
ユミル「何でお前がここにっ…鍵はっ!?」ガバッ
アルミン「わっ!!…ユ、ユミル、な…何で裸なの?」///バッ
ユミル「あ……」
・
・ -
157 : 2014/04/08(火) 23:34:26 -
ユミル「悪い…熱で動けなくなって…」ユミル「様子を見に来てくれて、ありがと」
ユミル「それでな、さっき見た、のは…わ、忘れてくれないか…?」///カァァァ…
アルミン「う、うん…大丈夫。ごめん…」///
アルミン「でも、本当に一瞬だからっ!」
アルミン「チラっとしか見てないから…も、もう僕は忘れた!!」///カァァァ…
アルミン「クリスタが宿の人に『友人が体調を崩して部屋で寝ている』って伝えてたんだ」
アルミン「シーツ交換に来た使用人さんが何度ドアを叩いても返事がない…って青い顔で」
アルミン「僕に室内を確かめ欲しいと…でもユミル、君が無事で良かった!」
-
158 : 2014/04/08(火) 23:37:22 -
ユミル「なるほどね…。そうだな、客が室内で死んでたら宿の人も困るもんなぁ…」
アルミン「室内に客が居ると勝手に合鍵を使えないし、事前の情報もあってこんな事に…」
アルミン「あいにく、宿には僕しか残って無くて…あの、僕も今帰って来たところで…」
アルミン「その…アニとかクリスタだったら適任だったんだろうけど…」
ユミル「わかった、わかった!もういいよ」
ユミル「迷惑かけたな…。しかも、見たくもないもん、見せちまって…」ハァ…
アルミン「…」
アルミン「あのさ…昨日はその…」
アルミン「左手の裂傷ばかりに気を取られていたけど、身体中に小さな擦り傷がたくさ…
ユミル「忘れろ」
アルミン「…ごめん」
-
159 : 2014/04/08(火) 23:40:48 -
アルミン「今、荷物から傷薬と替えの包帯を持って来る。あと追加の解熱剤も…」ギシッ…
ユミル「…すまない」
ユミル「あ!ついでに、宿の人に『浴槽にお湯を張ってくれ』って伝えてもらえるか?」
アルミン「お風呂、入るの?」
ユミル「あぁ…左手を濡らさなければ平気だ。昨日も入ってないし、身体も温めたいしな」
アルミン「分かった。受付に言っておく」
ユミル「…それとさ、傷薬と包帯と痛み止めの薬、多めに持って来てもらってもいいか?」
ユミル「そうだな…とりあえず2週間分ほど欲しい。余裕があればもっと」
アルミン「2週間分もどうするの?」
ユミル「他人に薬を管理されるのって嫌なんだよ。弱みを握られているようでさ」
-
160 : 2014/04/08(火) 23:42:45 -
ユミル「薬って今の私にとって、無くてはならない物だろ?人任せにするのは怖いんだ」ユミル「こう言っちゃなんだが、もしこの先お前にもしもの事があった場合、」
ユミル「私はどこに自分の薬があるのか分からないし、まず面倒くせぇだろ?毎回頼むの」
アルミン「まぁ、そうだね…。じゃ、2週間分持って来るよ。あ、解熱剤は?」
ユミル「…そう言えば、頭痛消えてるな。熱、下がったみたいだ…寝たのが良かったのか」
アルミン「どれどれ…」ピタッ…
ユミル「手、冷たくて気持ちがいいな」
アルミン「ユミル…!急に変なこと言い出さないで!!」///パッ…
アルミン「熱はないみたいだね。解熱剤はもういいか…」
-
162 : 2014/04/08(火) 23:48:53 -
アルミン「そう言えばさ、ユミルとこんなに話したの初めてだね」ユミル「そうだな…」
アルミン「あのさ…ユミル…
ユミル「悪ぃ…こっからの話は多分長くなる。その前に薬を持って来てくれ」
ユミル「あと、風呂のお湯張りの件、よろしく!食事もついでに持って来てくれ!」ニィッ
ユミル「それと、お前さえ良かったら、昼飯は私と一緒に食べないか?…ここで」
アルミン「…うん、いいよ!」
アルミン「実はね、僕もユミルとゆっくり話したかったんだ」
アルミン「でも…本当に君は人使いが荒いね。…ベルトルトに同情するよ…はぁ…」
ユミル「病人を働かせるなよ?アルミン先生」ニヤニヤ
アルミン「うん。じゃ、君は病人らしく大人しくしてなよ。…あと、」
アルミン「少し時間がかかるかも知れないから…その…ユミル、服を着替えておいて」
-
164 : 2014/04/08(火) 23:55:12 -
トントン…
アルミン「ユミル、開けるよ」
ガチャ… ギギギッ……
アルミン「遅くなった。傷薬と包帯と、痛み止め…ちゃんと2週間分持ってきたよ」
ユミル「あぁ、ありがと!その辺に置いといてくれ」キュッ…キュッ…キュッ…
アルミン「食事も持ってきたけど……えっ…!?…か、かわいい……」
ユミル「は?」
アルミン「あっ…いや、何でもない!!」///ブンブン…
ユミル「あぁ…この服の事か…。へへっ、可愛いだろ?」ニヤニヤ
-
165 : 2014/04/08(火) 23:58:14 -
ユミル「このワンピースさ、ベルトルさんが買ってくれたんだ」アルミン「そっか…良く似合ってるよ!」
ユミル「お世辞、言えるんだな…お前も。堅物だと思っていたけど」
アルミン「別にお世辞を言ったつもりはないけど…」
ユミル「せっかく買ってもらったのに、一度も袖を通さないなんて勿体なくてな…」
ユミル「もう少し髪が長かったら良い所のお嬢様に……見えないな!さすがに無理がある」
アルミン「一度と言わずに何度でも着たらどうだい?本当によく似合ってるから」
アルミン「ベルトルトにも後で見せるんでしょ?それ」ニコニコ
ユミル「あ、あぁ…そうだな。気が、向いたらな…」
-
166 : 2014/04/09(水) 00:01:04 -
アルミン「なんかさ、君って訓練兵の時や、調査兵団で一緒だった時とは別人みたいだ」
アルミン「あの…何て言うか、キレイなんだ、ユミル。ベルトルトのおかげかな…?」
ユミル「…」
アルミン「いや!その…べ、別に口説いてるとか、そう言うわけじゃないから!!」アセッ
ユミル「そうか…キレイ、か…」
ユミル「ありがとう、素直に嬉しいよ」ニコッ
アルミン(あれ…?照れたり怒ったりしない)
ユミル「お前が不在の間に、軽く部屋掃除してもらった。シーツも替えてもらってな…」
ユミル「あと、風呂のお湯も忘れずにちゃんと頼んでくれてありがとな」
ユミル「今日は人手が足りなくて、お湯を沸かすのに少し時間がかかるって連絡が来てる」
アルミン「うん…」
-
167 : 2014/04/09(水) 00:07:06 -
アルミン「ねぇ…さっきから何してるの?」ユミル「見て分からねぇか?指輪を磨いてる」キュッ… キュッ…
アルミン「それ、かなり本格的な専用具だね。この街で買ったの?」
ユミル「そう、昨日な。私とクリスタとライナー、3人で買い物に行って、その時にな」
ユミル「割と値が張ってさ…気を良くした店主がこれを入れる専用箱をおまけしてくれた」
ユミル「これも一度も使わないなんて…その…やっぱり勿体なくてさ」
アルミン「…?」
ユミル「よし!終わった」サッ
パタン カチッ
ユミル「どうだ?ピカピカだろ?」キラッ
アルミン「昨日もしてたね、その指輪。気に入ってるの?」
ユミル「あぁ…」
ユミル「気に入ってた」
-
168 : 2014/04/09(水) 00:11:06 -
アルミン「ん…?」アルミン「えっと、そっちは…?」
ユミル「これか?」
アルミン「うん」
ユミル「これはさっき終わったところだ。簡単だったからあっという間だった」
アルミン「へぇ…上手なもんだね」
アルミン(ユミル、手先器用なんだな。まるでミカサみたいだ…)
アルミン(ミカサ…?あ、そうだ…僕はミカサの事をユミルに…)
ユミル「ちっとは私にも女らしさを感じたか?アルミン」アハハ…
アルミン「僕も服が破れたらユミルにお願いしようかな?」
ユミル「お前の分はアニがやってくれるだろ?」
-
169 : 2014/04/09(水) 00:14:16 -
ユミル「でもアニよりお前の方が上手そうに見えるけどな!私の手が縫えるんだから」ニヤッアルミン「アニ…か」
ユミル「あ…こっちは触らないでくれよ?」
ユミル「今、手を付け始めたばかりなんだ」
ユミル「飯食って風呂入ったら本格的にやるからさ!今日中に仕上げなきゃならないんだ」
アルミン「へぇ…」
ユミル「長話してたらスープ冷めたな」
ユミル「待たせて悪かった。さぁ、今から昼食にしようか」
アルミン「ユミルあのさ…
ユミル「分かってるよ。お前が日中にこの宿に戻ってきた理由」
アルミン「!?」
-
180 : 2014/04/09(水) 00:55:59 -
ユミル(危険を承知で己の正体を明かし、3年間の訓練で勝ち取った憲兵の地位も捨て、)ユミル(こんな馬鹿げた計画を立て、本気で実行し、そのために惚れた男までも脅迫する)
ユミル(並みの神経ならここまでは出来ない。少なくとも私には無理だ…。全てはお前と…)
アルミン「…」
アルミン「ユミルに謝りたい」
ユミル「ん?」
アルミン「恐らく追われていない事、みんなに言えなかった。だから医者を呼べなかった」
アルミン「本当はこの情報を公開して医者を呼ぶべきだったんだ!君のためを思うなら…」
ユミル「今更言っても遅ぇよ!お前、上手だったぞ!将来は仕立て屋になれそうだ」ニコッ
アルミン「ユミル…」
ユミル「もういいじゃねぇか…なぁ」
-
181 : 2014/04/09(水) 00:58:59 -
ユミル「お前はその情報をあいつらに言えなかった。いや、言う訳にはいかなかった」ユミル「置手紙を残したことを、知られたくなかったんだろ?あの3人には」
アルミン「うん…」コクッ
ユミル「なぁ、私にも一つ謝らせてくれ」
アルミン「…なに?」
ユミル「だいぶ前の話だ。そうだな、1年以上前だな…まだ訓練兵だった時の話でさ」
ユミル「対人格闘の訓練中にお前の悪口を言ったことがあってな…お前だけじゃなくて…」
ユミル「まぁ…その、エレンやミカサなんかも一緒くたにな。悪気はなかったんだが…」
ユミル「その悪口を、耳聡く聞きつけたミカサがさ、アルミンに謝れってうるさくてな」
アルミン「そんな事があったんだ…」
ユミル「結局、こっちも意地になっちまってお前に謝れなかった。謝るもんかって!」
ユミル「あの時は悪かったな。すまん」
-
182 : 2014/04/09(水) 01:02:10 -
アルミン「いいよ!気にしてない。悪口の内容を僕は知らないしミカサからも聞いてない」ユミル「そうなのか…?」
アルミン「うん」
アルミン「でも…その話を聞いて、胸が少し温かくなった…」
ユミル「えっ…?」
アルミン「ミカサ、僕のために本気で怒ってくれたんでしょ?ユミルに」
ユミル「あぁ、あの殺気立った目…殺されるかと思った……」ブルッ
アルミン「知らなかった。以前にそんな事があったなんて…」
アルミン「教えてくれてありがとう。ユミル」
ユミル「知りたいか?悪口の内容」
アルミン「覚えてるの?1年以上前の話なのに?」
ユミル「覚えてるよ」
-
183 : 2014/04/09(水) 01:05:07 -
アルミン「聞かなくてもいいよ…自分のダメな所をあげられて落ち込むかも知れないし」ユミル「ふぅ~ん…じゃ、いいか」
アルミン「でも自分に自信が付いたら、いつか聞かせてもらうよ!」
アルミン「ユミルの悪口なんて、笑い飛ばせるくらいに僕が強くなったらね!」
ユミル「そうか、分かった!」ニッ
ユミル(だったら永遠に話す機会は来ない…)
ユミル(私の都合でな)
ユミル「あぁ、あと確認したい事がある」
アルミン「ん…?どんな事?」
ユミル「昨日、お前らが中央に向かってから、あいつらに今後の予定を聞いた時にな…」
ユミル「心に引っかかった事があって…」
アルミン「うん」
-
186 : 2014/04/09(水) 01:13:04 -
トントン…
宿屋の使用人「大変遅くなりました!今からお湯を張らせていただきたいのですが…」
ユミル「あぁっ!えっと…よろしく頼む!鍵はかけてないから勝手に入って来てくれ」
宿屋の使用人「はい、失礼します…」
ガチャッ… ギギギッ
ガラガラガラ……
タプン… タプン…
アルミン「…それじゃユミル、僕は行くね」ガタッ…
ユミル「あぁ、色々とありがとう、アルミン。お前と話せて良かった」
アルミン「僕もユミルと話せて良かったよ」
ユミル「…あっ!!」
ユミル(唐突に思い出した…これは今聞いておくべきだ!)
-
194 : 2014/04/09(水) 18:23:30 -
ライナー「自分の服選びにクリスタを貸してくれって……持って行かれた…」シュン…ユミル「ダハハハハ!女の服選びは長ぇぞ!お前も知ってるだろ?」
ライナー「あぁ、それはもう経験済みだ」ハァ…
ユミル「それで意気消沈して宿に戻って来たって訳か。自分の買い物は済んだのか?」
ライナー「まぁな。ほとんど終わったよ」
ライナー「あとは今夜荷物を整理して、明日の出発を待つのみだ」
ユミル「そっか、まぁそこに座れよ」
ライナー「じゃ、遠慮なく」ガタン
ライナー「ん?お前2食も食ったのか?」
ユミル「いいだろ?熱が引いたら食欲出ちまったもんで、ガッツリ頼んでここで食ってた」
ライナー「体調が戻ったのは良かったが…お、女のかけらも感じないな…お前……」
ユミル「うるせぇな!何か用事があって来たんだろ?さっさと言え!!」
-
195 : 2014/04/09(水) 18:26:54 -
ライナー「あ、あぁ…今日の部屋割りなんだが…」
ライナー「アルミンの希望でな、アルミンはベルトルと、アニはお前と……あと、その…」
ライナー「俺は、ク…クリスタと同じ部屋にだな…」
ユミル「いいぞ」
ライナー「は?」
ライナー「いっ…いいのか!?」
ユミル「あぁ、構わない。ま、クリスタは絶対嫌がるだろうが…説得してもやってもいい」
ライナー「お、お前…」
ユミル「念を押すが、まだ手は出すなよ?」
ユミル「もし指一本でも触れてみろ!てめぇは楽な死に方は出来ないと思え」ギロッ…
ライナー「出す訳ないだろ…無理やりなんてな、そんな馬鹿はしない。必死で我慢するさ」
-
196 : 2014/04/09(水) 18:29:12 -
ユミル「当たり前だ。死ぬ気で我慢しろ!しかし、いばらの道を自分で選びやがって…」ライナー「眠れるか心配だ…」ハァ…
ユミル「そもそも何でこの部屋割りなんだ。昨日と同じでいいじゃねぇか…」
ライナー「アルミンがな、アニと一緒はどうしても駄目だってな」
ライナー「昨夜、突然ベッドに入って来たと…間違いは起らなかったと言ってはいたが、」
ライナー「随分思いつめてるから、自分とアニが一緒に寝るのは良くないって言ってな」
ユミル「そうか、あのアニがね…」
ユミル(昨日のミカサの話で動揺させちまったか?アニは知ってる。アルミンの気持ちを)
ライナー「かと言って、俺とお前が同じ部屋…って訳にもいかないし…」
ユミル「…」
-
198 : 2014/04/09(水) 18:34:11 -
ライナー「ユミル…お前、本当にいいのか?」
ユミル「何がだ?」
ライナー「クリスタの相手が俺で…」
ユミル「私がダメだっつたらお前はクリスタを諦めんのか?」
ライナー「いや、もう手遅れだ。俺は諦められん…クリスタを、愛している…」
ユミル「じゃ、聞くだけ無駄じゃねぇか…」ハァ…
ライナー「そうだな…悪い。変な事を言ったな」
ユミル「…」
ユミル「お前に話しておくことがある」
ライナー「何だ?」
ユミル「昨日の話の続きだ」
-
200 : 2014/04/09(水) 18:40:59 -
ライナー「確かに…そう、言ってたな」ユミル「クリスタも、本当は気付いてるんだ。6人でどこへ向かおうとしているのか…」
ユミル「お前らの正体が巨人だって事までは、気付いてないとは思うが…」
ユミル「あいつは覚悟を決めている。私と一緒なら多分付いて来るだろう。どこへだって」
ライナー「…」
ユミル「私は、クリスタに永く生きてもらいたいんだ…」ググッ…
ユミル「それは私の勝手な願いで、自分の我儘を押し付けている…ってのは分かってる」
ユミル「あいつ自身は、死にたがりでな…。それを望んでいない事も知ってはいるが」
ユミル「この青い空の下、どんな場所でも…クリスタが生きているという事実だけで」
ユミル「私も、生きていけると思うんだよ」
-
202 : 2014/04/09(水) 18:46:19 -
ユミル「自分自身が望まぬ血のせいで…」ユミル「そして利用価値が無くなれば、殺されるだろう…。いや、その前に問答無用で…」
ライナー「お前そこまで考えて…」
ユミル「どこへ逃げてもダメなんだ!!私の力は非力過ぎて…あいつを守ってやれない!」
ユミル「あいつの命を!あいつの幸せを!あいつの生活を!私は何一つ守れない!!」グスッ
ユミル「だから、お前に託す…クリスタを…」
ユミル「クリスタを…壁外へ逃がしてやってくれ!誰もあいつを追えない場所まで…」
ユミル「精一杯、クリスタを愛して…尽くして…守ってやると誓ってくれ。この場で」
-
204 : 2014/04/09(水) 18:51:54 -
ユミル「はぁ……安心した…!」ニコッライナー「ふぅ…やっと笑ったな。緊張したぜ…急に真面目な話を振って来るもんだから」
ユミル「当たり前だろ?こっちは真剣なんだ」
ユミル「ライナー、実はさ…お前を本心から信じられると確信したのは昨夜の件からでな」
ライナー「ん?」
ユミル「お前さ、憲兵に見付かる危険を冒してまで私のために医者を呼ぼうとしただろ?」
ライナー「あぁ…あれか」
ユミル「アニは反対していた。ベルトルさんが起きていたら、多分あいつも反対した…」
ユミル(あいつは私が傷を治せることを知っているからな…)
ユミル「でもお前だけは違った」
ユミル「医者からの通報で、憲兵に脱走兵だとバレる可能性があったにもかかわらず…」
ユミル「私の怪我の治療を優先しようとした」
-
206 : 2014/04/09(水) 18:56:44 -
ユミル「だから、もうお前に全部任せた!」フフッライナー「ユミル…本気か?……お前、まさか本当に…」
ユミル「だが、調子に乗るなよ?あいつの了承を得ないまま手を出そうとしやがったら…」
ユミル「てめぇの大事なソレを裁縫用の裁ち鋏でちょん切るからな!脅しじゃねぇぞ!!」
ライナー「わっ…分かってるって!」ブルブル…
ユミル「よし!良い返事だ。頼み事を引き受けてくれたお礼にこれをやるよ」スッ…
ライナー「これ、昨日お前に買ってやったヤツじゃないか…どうして……」
ユミル「もう、要らないんだ。さっき一度使って満足しちまった。ほら、綺麗だろ」キラッ
ライナー「だが、これは昨日、必要な物だからってお前が選んで…喜んでただろ…?」
ユミル「だから、もう必要ないんだよ。それ」
-
208 : 2014/04/09(水) 19:02:06 -
ユミル「だから今夜は私ら抜きで…4人で話しをしてくれ。悪いな…最後まで我儘言って」ライナー(「最後まで」…だと!?)
ユミル「さぁ、出てってくれ!こっちは忙しいんだ。これを間に合わせなければならない」
ライナー「…これ?」
ユミル「あぁ、得意なんだ。なかなか良い出来だろ?」
ライナー「へぇ…人は見かけによらないな。お前にこんな女らしい趣味があったとは…」
ユミル「お前さぁ…いくらなんでもその発言は私に失礼だぞ!」イラッ
ライナー「失礼だと思ったらもっと格好にも気を使え。その服、まるで可愛げがない…」
ライナー「そこのベッドの上に放り出してあるワンピースでも着れば女らしく見え…
ユミル「あーーーっ!!!…もういいだろ?どうでも…。私のことは放っとけよ!」
ユミル「何でお前にそこまで言われなきゃ…いつもの格好が動きやすくていいんだよ!!」
-
209 : 2014/04/09(水) 19:04:40 -
ライナー「今日のクリスタの服はそりゃもう可愛かったぞ!お前もあんな感じのを着て…ユミル「ありゃぁな、私が着せたんだよ!!お前が喜ぶと思ってな。この馬鹿が…」チッ
ライナー「!?」
ユミル「あぁ、もう面倒くせぇ!お前、出てけ!!」
ユミル「話はこれで終わりだ!」ガタッ
ユミル「ほら、出てけよっ!」グイグイ…
ライナー「おいっ!ユミルっ…押すなっ…」
ユミル「出て行かなきゃ、大声出すぞ…」ボソッ
ライナー「…くそっ」
ユミル「ライナー、クリスタの事…本当に頼んだからな。お前を、信じてやるから…」
ユミル「だからあいつを幸せにしろ!」
ユミル「あいつから片時も離れるなよ?あいつの命はてめぇの命だと思え!!」
-
210 : 2014/04/09(水) 19:07:47 -
ユミル「分かったなっ!!」ドカッ!ライナー「ユミルっ!」ヨロッ…
バン!! ガチャン…
ユミル「…」ハァ…
ユミル「これで、これでいいんだ…」
ユミル「これが正解なんだ…これは正しいんだ…!クリスタ…全てはお前のためだ!!」グスッ
ユミル「うっ…う゛ぐっ…あ゛ぁぁ……」
ユミル「あ゛あ゛あ゛あっ……ひっ……ぐっ…は……あぁ…」
ユミル「クリスタっ……お前は、幸せに…」ギュゥゥ…
-
211 : 2014/04/09(水) 19:11:31 -
・
・ユミル(滞在中に増えた荷物をアニの部屋に運び入れて、最後の準備に取り掛かった…)
ユミル(ほんの少しだけ心残りがあるそれをひと撫でして、私は部屋を後にした…)
ユミル(アニには『すぐに戻るから鍵は閉めないでくれ』と頼んでおいた)
ユミル(そして今朝約束した通り、22時きっかりにあいつは談話室の前にやって来た…)
ユミル(指輪は、はめていない。…もうその右手を隠すつもりはないようだ)
ベルトルト「ユミル…」ハァ…ハァ…
ユミル「さぁ、行こうか!」ニコッ
ユミル「場所はここじゃないんだ…談話室は人が多いからな。ここじゃ話せないだろ?」
ベルトルト「……ごめん」
-
226 : 2014/04/16(水) 22:27:08 -
ベルトルト「はぁ……」
ベルトルト「やっぱり…」
ベルトルト(誰かに持ち去られている…)
ベルトルト「こうなってるんじゃないかなって、思ったよ…」
ベルトルト「未使用だし、売ろうと思えば売れる。ただサイズがあるから…」
ベルトルト「女性が見付けたとして自分のサイズと合わなければ持って行かないかもって」
ベルトルト「だけど…女性用下着って一応、男の方にも需要があるしね…」ハァ…
ベルトルト「買い直そう…」
-
228 : 2014/04/16(水) 22:30:42 -
~雑草が生い茂る 高台のふもと~
ベルトルト(憲兵を絞め落とした後に通った道もくまなく探した…どこにも無かった)
ベルトルト「怪しいのはここら辺…」
ベルトルト「ユミルの巨人を見た後の記憶が曖昧で…ここにあるのか確証もないけど…」
ベルトルト「どうしても見付けなきゃならないんだ…もう彼女を失望させるのは…」
ベルトルト(刈られていない雑草が膝下まで伸びて生い茂っている…)
ベルトルト「もし、ここだったら…僕は指輪を見付けられるのか?範囲が広すぎる…」
ベルトルト「でもやるしかない!!」ギリッ…
・
・ -
230 : 2014/04/16(水) 22:39:50 -
~街外れ 貧民街周辺~
ベルトルト(もし、落としたのがこの場所だったら、もう指輪は出てこない)ハァ…ハァ…
ベルトルト(念のため、この辺の質屋も探してみよう…)キョロキョロ…
ベルトルト「あっ…この路地…!」
ベルトルト「ユミルと薬局へ行く時に通った道じゃないか…」ハァーー…
ベルトルト「ユミル…僕らは確かここで…」
ベルトルト「…」
ベルトルト「ねぇ…」
ベルトルト「二人でまた指輪をぶつけよう?幸せの音…僕は、もう一度聞きたいんだ…」
ベルトルト バチン!
-
231 : 2014/04/16(水) 22:45:17 -
ベルトルト「………よしっ!」グッ…ベルトルト「諦めるな!絶対、見付けるんだ!!」ヒリヒリ…
ダッ…
ベルトルト(今夜の話し合いまでに、指輪を見付ける!失くしていた事を謝って…)
ベルトルト(それで、「君を愛してる」って言うんだ。君の手を握り、頭を撫でながら…)
ベルトルト(君が隣に居ないのなら、君に触れられないのなら、君の声が聞けないのなら)
ベルトルト(君の匂いを嗅げないのなら、君が、僕を、愛してくれないのなら…)
ベルトルト「もう、この世界に価値は無いんだ…」
ベルトルト(僕自身にも、何の価値も見出せない…)
ベルトルト「そうなったら、生まれてきたことを呪って、全てを破壊し尽くすだけだ…」
・
・ -
234 : 2014/04/16(水) 22:54:57 -
仕立て屋店主「ふむ…昨日、採寸した時はされてましたね、覚えていますよ」ベルトルト「本当に!?」
仕立て屋店主「えぇ。上着を脱ぐ時、袖に一度、指輪が引っ掛かったを覚えていますか?」
ベルトルト「あっ…そ、そうだ!それ…覚えてる!!」
ベルトルト「じゃ、ここを出る時までは、僕の指に指輪ははまってたんだ…」
ベルトルト(失くしたのはこの店を出てから宿に戻るまでの間…)
ベルトルト「ありがとう!…おかげでだいぶ捜索範囲が絞れそうだよ!」
ベルトルト「もう一度…高台から探す!」ダッ…
見習い針子「あ!お客さん」
ベルトルト「ん…?」
-
235 : 2014/04/16(水) 22:58:46 -
見習い針子「昨日の夜、どうでした?」ベルトルト「昨日の…夜…?」
見習い針子「やだなぁ!プロポーズの返事ですよぉ!花嫁さんが言ってたんです」
ベルトルト「ユミルが、何て…?」
見習い針子「『今日宿に戻ったら、良い返事をしてやろうかと思っている』…って!」
ベルトルト「ユミルが…そう、言ってたの?」
見習い針子「はい!ちょっと恥ずかしそうに目を伏せて。花嫁さんもう、可愛くって!」
ベルトルト「良い返事、か…」
見習い針子「あら?昨日は返事を聞けなかったんですか?じゃ、今夜あたり楽しみですね」
ベルトルト「…ユミル」グスッ…
見習い針子「あらあら、泣くのは本人から良い返事をもらってからですよ!」
-
236 : 2014/04/16(水) 23:02:00 -
見習い針子「ついでに、花嫁さんの衣装も見て行きませんか?まだ仮縫いの段階ですが…」見習い針子「徹夜しても明日の指定時間までに間に合わせますよっ!ほらっ」グイグイ…
ベルトルト「えっ…ちょっ……と!」
ベルトルト「!?」
ベルトルト「こ、これ!!僕が注文したドレスとだいぶ違うよっ!!」
ベルトルト「腰のラインを出すようにって言ったのに…それに裾も想像より長めだ…」
ベルトルト「胸元のレースは上品でいいけど…あぁ!こんなに胸を強調したら僕が困る…」
見習い針子「ですがこれ、全部花嫁さんの希望ですよ?」
ベルトルト「えっ!…ユミルの?」
見習い針子「はい。最初、希望は無いって言ってたんですがね…。一生に一度でしょ?」
見習い針子「話を聞いてみたら次から次へと……ま、実際着るのは花嫁さんですし、」
見習い針子「衣装なんて自己満足なんですから、本人が嫌なものは着せたくないんです!」
-
237 : 2014/04/16(水) 23:08:35 -
見習い針子「ちなみに、旦那さんの希望通り腰回りを絞れる紐も付けておきますからね!」ベルトルト「…」ジッ…
見習い針子「…なーんか、不満そうですね」
見習い針子「旦那さんはスレンダーライン、奥様はアンピールラインが希望だったって…」
見習い針子「たったそれだけの話じゃないですか!作り直しなんて言わせませ…
ベルトルト「いや…不満なんかじゃなくて、僕はただ…その、嬉しくて……」ジワッ…
見習い針子「は?」
ベルトルト「ユミルはすぐ、『いらない』とか『どうでもいい』って言うから…」
ベルトルト「結婚式に着たいドレスを、自分で考えて選んでくれたのが嬉しくて…ぐすっ」
見習い針子「泣き虫なんですね…奥様もドレス選び、本当は嬉しい…って言ってましたよ」
-
238 : 2014/04/16(水) 23:11:32 -
ベルトルト「あのユミルが?本当に言ってたの!?だって昨日もこの店で僕を叱って…」ベルトルト「うっ…ひっぐ…ユミルが……あ゛あ゛あ゛ぁっ……」ボロボロ…
見習い針子「わっ…マ、マスター!タオル持って来てください!お願いします!!」
見習い針子「お客さん泣かないでくださいよっ!あぁっ!座りこまないでっ…邪魔です!」
ベルトルト(もし昨日、何事もなく時間が過ぎていたら…君は『良い返事』を僕に…)
ベルトルト(ねぇ…今夜はどんな返事をするつもりなの?…ユミル)
ベルトルト(もし時間を巻き戻せるなら、僕はきっと、あの時、あの場所で…)
-
240 : 2014/04/16(水) 23:22:03 -
ベルトルト(僕らは長い時間を一緒に過ごし、お互いの愛情を確固としたものにする…)ベルトルト(例えこの先、僕らの頭上にどんなに残酷な事実が降り注いできたとしても)
ベルトルト(きっと二人なら…乗り越えて、受け止めて、許し合っていけたはずなのに…)
見習い針子「お客さん…結婚指輪、失くしちゃったんですね…」
ベルトルト「うん…」ギュゥゥ…
見習い針子「大丈夫ですよ!…きっと出てきますって!!それで、許してもらいましょ」
ベルトルト「…」
見習い針子「だって花嫁さん、採寸してる時すっごく幸せそうでしたもん!……ね?」
ベルトルト「う、うん…。ありがと…」
仕立て屋店主「タオル持って来ましたよ、お客さ……ん?何でお前まで泣いてるんだい?」
-
241 : 2014/04/16(水) 23:26:43 -
見習い針子「だって…だって…旦那さん、必死なんですもん!!ふぇぇ…可哀想で…」ベルトルト「だ、大丈夫!ちょっと元気出て来たから!!ドレスも見せてもらったし…」ゴシゴシ…
ベルトルト「タオルありがとう。僕は行く!」スクッ
ベルトルト「明日、必ず二人で取りに来るからね!彼女のドレス…と、僕の衣装」
見習い針子「はい!!絶対奥さんと一緒にご来店くださいねっ。待ってますよ!」
仕立て屋店主「こっちも徹夜で仕上げますよ、花婿さんの衣装」
仕立て屋店主「見付かるといいですね、指輪」
・
・ -
243 : 2014/04/16(水) 23:34:46 -
ベルトルト「早いね、クリスタも戻ってきたの?」ポスン…
ライナー「いや、俺一人だけだ。クリスタは…デートの途中でアニに取られた……」ハァ
ライナー「ん?」
ライナー「その荷物は何だ?」
ベルトルト「いや、ちょっとね…。ユミルに買ってあげるって約束してた物」
ベルトルト「僕からじゃ、もう受け取ってもらえないかも知れないけどね…」
ライナー「ふ~ん…」
ライナー「あぁ、俺は今からユミルの部屋に荷物を移すからな。ここにはアルミンが来る」
ベルトルト「今日の部屋割り?」
ライナー「そうだ…アルミンの希望でな…」
ライナー「俺は今夜、クリスタと同じ部屋だ」
-
245 : 2014/04/16(水) 23:39:55 -
ライナー「おい!お前な…これでも食え!さっき外で買ってきたパンだ」グイッベルトルト「あ、あぁ…いつもすまない…ライナー」ガサッ…
ライナー「今すぐ食べろ!今食べなきゃいつ食べる?どうせまたすぐ宿を出るんだろ?」
ベルトルト「う…うん。分かった…今、食べるよ…」チギッ… カプッ
ベルトルト モグモグ…
ライナー「水もちゃんと飲めよ、つっかえるからな」
コトン… トプトプトプ… スッ…
ベルトルト「ありがとう。そう言えば喉乾いてた…」 ソッ… …グイッ
ベルトルト ゴクッ……ゴク…ゴクゴク…ゴクゴクゴク
ベルトルト「んっ!ぷっ…はっ…はっ……はぁっー……の、飲んだよ」ゲホッ
ライナー「指輪を探してあちこち走り回ってたんだろ?」
ライナー「水分もちゃんと取らなきゃ、また倒れるぞ…。昨日寝込んだみたいにな」
-
247 : 2014/04/16(水) 23:45:21 -
ライナー「はぁーーっ…やっぱりそうだったのか…」ベルトルト「朝、廊下でユミルに会って…。すぐに指輪をしてない事に気付かれた…」
ライナー(あぁ、だからこの「指輪の手入れ用品」を俺に)
ベルトルト「今夜ユミルと話すんだ、談話室で。その時に謝る…指輪を失くしたこと…」
ベルトルト「見付かっても、謝るつもり…」
ライナー「それがいい。相当、怒ってるぞ、あれは…」
ベルトルト「うん…」シュン…
ライナー「あとな、お前は知っておかなきゃならない」
ベルトルト「何を…?」
ライナー「ユミルから口止めされていたんだが…お前は知るべきだ」
ベルトルト(口止め…?)
ライナー「精神的にも肉体的にもあいつは今、傷ついている。…お前、ユミルを支えてやれ」
-
252 : 2014/04/17(木) 00:06:15 -
ベルトルト「我に返って、自分のしたことの取り返しのつかなさに、恐怖を感じている」ベルトルト「ユミルは…もう僕を信じてはくれない。僕は…僕は…これから…
ライナー「だから落ち着け!!ベルトル!」
ベルトルト「…!!」ビクッ!
ライナー「お前が今すべきことは、ここでうだうだと泣き言を言う事か!?」
ライナー「早く指輪を探しに行け!…見付からなければ、それも正直にあいつに言え!」
ライナー「あのな、誰だってミスはする」
ライナー「人間なんだ、俺達は…。そんな事、ユミルだって分かってるんだよっ!!」
ライナー「ユミルがお前に失望したなら、もう一度信頼を勝ち取る努力をしろよ!!」
ライナー「ユミルがお前を嫌いになったからと言って、お前はユミルを嫌いになれるのか?」
ベルトルト「嫌いになんか、なれるわけないだろ!!僕は彼女を愛している!」ギリッ
-
253 : 2014/04/17(木) 00:11:07 -
ライナー「だったら、ここで無意味な時間を過ごすな!!頭で考えるのは後だ!動けっ!」ライナー「喧嘩の原因は知らないが、今夜はユミルと本気で話し合え!全部を曝け出せ!」
ライナー「それでもダメなら、そこでもう一度、どうするか考えればいいじゃねぇか…」
ベルトルト「ラ、ライナー…君って……すごいよ!!…ぐすっ…」
ライナー「ほれ!ランタン…」ズイッ
ベルトルト「う、うん!!とにかく動くよ!…絶対、指輪…見付けるから!!」
ライナー「日が暮れる前に、見付かるように祈ってるぞ!」
ベルトルト「うん!ライナーも頑張って!!」
ライナー「おう!分かった。お前も気を付けてな」
…バタン!
ライナー「はぁ…世話が焼けるな、二人とも」
ライナー「ベルトルもアニも…」
ライナー「俺にとっちゃ、かわいい弟と妹みたいなもんだ。上手く行って欲しいんだが…」
-
255 : 2014/04/17(木) 00:19:21 -
ベルトルト「ユミル…」ハァ…ハァ…
ベルトルト(間に合った?…良かった)
ユミル「さぁ、行こうか!」ニコッ
ベルトルト(笑顔…?でも、いつもの得意げな笑顔じゃない…冷たい…作り笑いだ)
ベルトルト(朝と同じように、僕と目を合わせてはくれない…)ギュッ…
ユミル「場所はここじゃないんだ…談話室は人が多いからな。ここじゃ話せないだろ?」
ベルトルト「……ごめん」
ベルトルト(本当にごめん…ユミル。指輪は見付からなかった…。後で正直に伝えるよ)
ユミル「いいから…」
ユミル「私が案内する。お前は私の前を歩いてくれ…」
ユミル「距離を空けて付いて行くからな…私が後ろにいても、お前が怖くないように…」
ベルトルト「…」
-
261 : 2014/04/18(金) 19:10:14 -
行きつく先は同じでも、過程も、動機も、手段も、そこでの生活も絶対違う
少し考えれば分かるはずなのに。未熟でごめんなさい。私は思慮が足りな過ぎたもしあなたが自分の思う>>1であるなら、「東か西でスローライフ」と言う台詞を
かなり昔に使っていたはずだから、パクリとかそう言う意味では全くなかったです
むしろ自分がそう思われる方だと思っています
そして>>1違いで別人だったらくそ恥ずかしい!詮索はしませんが懐が深い>>1で良かった。あなたに迷惑を掛けたことが気掛かりで、今日一日は
どんな風に過ごしたか全く覚えてない
馴れ合いって叱られるかも知れないけど、変態同士らしいので自分も頑張る -
302 : 2014/05/15(木) 18:22:12 -
伏線を一気に回収する予定だったので単発1本分ぐらいになった
何度も読み返したけど、何か回収し忘れている気がして今も不安だビルドゥングスロマンは「成長物語」で、シリキウトゥンドゥは
ディズニーのキャラクターなんだね…よし、新しい言葉を覚えたぞ!待ってるって書いてくださった方、ありがとう
ゆっくり休ませてもらいました今から投下します
-
303 : 2014/05/15(木) 18:23:50 -
ユミル「そのまま上がって、一番奥の窓際まで進んでくれ」ベルトルト(あの位置からだと死角になる…後から来るユミルには僕の姿は見えない)
ギシッ…ギシッ…ギッ…
ベルトルト(このまま階段を上り切ったら、入り口でユミルを待ち構えて抱きしめる)
ユミル「おーい、窓際まで行ったか?」
ベルトルト「う、うん…窓際まで来たよ」ギシッ
ユミル「…そうか。じゃ、カーテンを開いてくれ。空の様子はどうだ?星は見えるか?」
ベルトルト「えっ…」
ベルトルト(どうだったっけ…?指輪を探して下ばかり見てたから空の様子なんか…)
ベルトルト(でも何か答えなきゃ…)
ユミル「どうした?」
-
305 : 2014/05/15(木) 18:28:31 -
ベルトルト(ユミルは僕とテーブルを挟んで対話するつもりだ)ベルトルト(僕がすぐに君との距離を詰めないように警戒してこんな配置に…)
ユミル「早くしろ。誰かに見付かれば話し合いはそこで終わりだ」
ベルトルト「わ…わかった」
ベルトルト(今は君に従うしかない)
ユミル「カーテンを開けてくれ。レールが擦れる音が聞こえたら私もそっちへ行く」
ベルトルト「うん…」
……シャッ…
ベルトルト「あっ…!」
ベルトルト「はははっ…嘘つき…。綺麗な三日月じゃないか…ユミル」クルッ
ユミル「あぁ…。綺麗な三日月だろ?」ギッ…
-
306 : 2014/05/15(木) 18:30:50 -
ユミル「こっちには来るな。このテーブルにランタンを置いておく」カタン…
…ブワッ
ユミル「もし、お前が一歩でも私に近づいたなら…このランタンを手で払って床に落とす」
ベルトルト「ユミル、冗談でしょ?そんな事をしたらこの宿は…下手したら大惨事になる」
ユミル「そうだな、ここには燃えやすい物がたくさんある。だから…来ないでくれ…」
ユミル「油は限界まで入れてきた。安全装置は壊してある…。落とせば一気に燃え広がる」
ユミル「私に近づくな!頼むからこのランタンを落とさせないでくれ。脅しじゃない!」
ベルトルト「君には出来ない…。下にはクリスタも居るのに、火事を起こすような…
ユミル「御託はいい。そろそろ本題に入ろう」
ベルトルト「ユミル…」
-
308 : 2014/05/15(木) 18:36:31 -
ベルトルト「僕が指輪をはめていないから、君は僕を疑っている」ベルトルト「もう自分は愛されてはいないのだと…そう思い込んでいるんじゃないのか?」
ユミル「外した事を責めるつもりはない…。お前は知らなかったんだ。私の正体を」
ユミル(こいつは指輪を外したってのに…私はまだ、この指輪を外せない…)ギュッ
ベルトルト「待って!ユミル、違うんだ!」
ユミル「もういいんだっ…。指輪の事は!」
ベルトルト「ユミルっ!!」タッ…
ユミル「来るなっ!!」
ベルトルト ビクンッ!
ユミル「今説明したばかりだろっ!忘れたのか!?こいつを落とすぞ!」スッ
ユミル「一歩、下がれ……早く!!」
-
309 : 2014/05/15(木) 18:38:39 -
ベルトルト ジリッ…ユミル「よし、それでいい…」フゥ…
ユミル「2度は警告しないからな。次にやったら本当に落とす」
ベルトルト「…」
ユミル「お前は火消しに追われ、話し合いもそこで終わりだ」
ユミル「ベルトルさんが巨人なら…火に巻かれた程度じゃ死なねぇだろ?」ボソッ…
ベルトルト「本気なのか…?ユミル」
ユミル「あぁ、こっちは本気で話をしている」
ユミル「また…震えてるな……」
ベルトルト「震えてない…」ギュゥゥゥ…
ユミル「手短に済まそう。お前に悪い」
-
314 : 2014/05/15(木) 18:51:09 -
ユミル「大人しくしてればすぐ終わるとそいつが言った!」ユミル「だから行為の最中は怖くてずっと目を瞑って、あっちが満足するのを待った…」
ユミル「男の顔も特徴も何も覚えてないんだ」
ユミル「相手も特定できないのに、お前はどうやって私の目の前でそいつを殺すんだよ!」
ベルトルト「やめてくれ…ユミル…」
ユミル「もういいだろ?私の事は…。お互い無駄な時間だったな…忘れてくれないか?」
ユミル「私たちは…もうダメだ……」
ベルトルト「もし、それが本当なら…」
ベルトルト「この街ごと、全て巨人に食わせる。男も女も子供も老人も関係なく」グッ
ユミル「…お前にそれが出来るのか?」
ベルトルト「僕なら出来る…!」ギリギリギリ…
-
315 : 2014/05/15(木) 18:53:36 -
ユミル「夢でうなされるほど罪に苦しんで、怯えて、後悔していると思っていたのに…」
ユミル「お前はまた罪を重ねるのか?…その手は人を殺せるのか?」
ベルトルト「絶対に許さない…悪魔の末裔が…」
ユミル「幼稚だな…」
ベルトルト「君の話が本当だったら…僕は本気でそうしただろうね…」
ユミル「…は?」
ベルトルト「幼稚なのは君の方だ。くだらない嘘をつけば僕が君を諦めるって思ってる!」
ユミル「嘘じゃない!!」バンッ!
ベルトルト「嘘だよ。だって君はまだ僕の事が好きだ…君の指輪がそれを証明している」
ユミル「…」サッ
-
317 : 2014/05/15(木) 18:58:59 -
ベルトルト「それが君の本音か…」
ベルトルト「それでいいんだ、気取ったままじゃ本音で話し合う事なんて出来やしない!」
ユミル「うるさいっ!!」グスッ
ベルトルト「聞いて!ユミルっ…。僕は君にちゃんと説明したいんだ!!」
ベルトルト「指輪は外してない。…その……な、失くしたんだ…」
ユミル「失くした、だと?」
ベルトルト「うん…」
ベルトルト「昨日、仕立て屋を出る時まではあった。その後に落としてしまったみたいだ」
ベルトルト「今朝、ライナーに指摘されて初めて指輪を失くしたことに気付いた…」
ユミル「この期に及んでそんな嘘…
ベルトルト「嘘じゃないんだ!!」
-
318 : 2014/05/15(木) 19:00:48 -
ベルトルト「本当…なんだよ…」ベルトルト「お願いだ…僕を信じて!ユミル、君を嫌いになって外した訳じゃないんだ!!」
ユミル「…信じない」
ベルトルト「…僕を…信じない?」
ユミル「そんな都合よく指輪が落ちるかよ!お前買う時、キツイって言ってたじゃねぇか」
ユミル「どうやったって落としそうもないくらい…って!風呂の時も外さなかった!!」
ユミル「それを落としただと!?ふざけんなっ…」ハァ…ハァ…
ベルトルト「僕だって今日は一日中探した!高台も貧民街も君と一緒に行った店も…」
ベルトルト「全部、探したんだ…。それでも見付からなくて…ユミル、本当にごめん…」
ユミル(貧民街…?何で貧民街に…)
-
322 : 2014/05/15(木) 19:11:46 -
ユミル「だから私はいらないって言ったんだ…。指輪なんか持たない方が良かった!!」ユミル「…こんなものっ!」グッ…ググッ スポッ
ユミル グイッ!
ベルトルト(ぶつけられる!!)バッ…ギュッ
ベルトルト「…」
ベルトルト(あれ…?)ソォッ…
ユミル(腕を、振り抜けない…)ググッ…
ユミル(これを投げつけて返すことが、出来ない…)
ユミル「何でだよ…なんでっ!…」スッ
ユミル(だってこの指輪は、私が貰ったもんだ…。返せって言われても返さないって…)
-
323 : 2014/05/15(木) 19:14:45 -
ユミル「う゛っ…ううっ……お前なんか、大嫌いだ…ぐすっ……」ボロボロ…ベルトルト「ユミル…ごめんね…」ギシッ…
ユミル「来るなって言っただろ!!」
ベルトルト「……っ!」ビクッ!
ベルトルト「わ、分かった。もう寄らないから…ランタンから手を離して。火傷するよ…」
ベルトルト(火傷…ユミルは怪我を治せる…)
ベルトルト「ユミル…一つ聞きたい」
ユミル「なんだ…」ゴシゴシ…
ベルトルト「どうして左手の傷を治さなかったの?君は治すことが出来るのに…」
ベルトルト「醜く裂けたまま、その手のひらの傷を残すつもり?僕を責め続けるために」
-
325 : 2014/05/15(木) 19:18:55 -
ユミル「…お前は」ベルトルト「うん」
ユミル「何かあればすぐに「治癒しないの?」と私に言っていたな。覚えているか?」
ベルトルト「言ったかも知れない。でも僕らにはその力があるから、変な質問じゃない」
ユミル「はぁ……あのな、」
ユミル「普通は傷なんか治せないんだよ」
ベルトルト「でも僕らは巨人で…
ユミル「そこだ」
ベルトルト「そこ?」
ユミル「私は人間で、お前は巨人だ」
ベルトルト「ユミル…何を言ってるの?」
ユミル「私たちは生き方が違うって事だ。だからお前とは一緒にいられない…」
-
332 : 2014/05/15(木) 19:38:55 -
ベルトルト「もしそれが本当の理由なら、君はあそこで巨人になるべきじゃなかった」
ベルトルト「ダズの命がどうでもいいのなら…君は身体を張り過ぎたんじゃないのか?」
ベルトルト「吹雪いてはいたけど僕らに君の巨人の姿を目撃される可能性は高かった」
ユミル「あぁ、お前の言う通りだ。よく考えると我ながら馬鹿をやったもんだと思ってる」
ベルトルト「君があの時助けたから、ダズは今も生きている。君はクズじゃない…」
ユミル「そうじゃねぇんだ…」ジッ…
ユミル「私の手は小さくてな。全部は掴めない…。だから命だって選んじまう…」ギュッ
ユミル「子供を助けたのは、私が助けたかったからだ。あのガキに昔の自分を重ねた…」
ユミル「母親の顔も知ってる。見て見ぬ振りなんてのは出来なかった…。だがな、」
ユミル「もしガキと知り合っていなければ、情が湧かなければ…私は見捨てる事が出来た」
-
343 : 2014/05/15(木) 20:11:10 -
ベルトルト「君の想像した通りだ」
ベルトルト「僕はこの壁内の人類にとって『超大型巨人』と呼ばれる存在だよ」
ベルトルト「ライナーは『鎧の巨人』って呼ばれている」
ユミル(やっぱりそうか…)
ベルトルト「アニについては、まだその存在を人類側には知られていない…」
ベルトルト「これが聞きたかったんだろ?」
ベルトルト「満足したかい?」ニコッ
ユミル「あぁ…満足した」
ユミル「…ありがとう」
-
346 : 2014/05/15(木) 20:19:32 -
ベルトルト「ユ…ユミ……ユミルっ!!」ベルトルト「な、なんでっ…?何でそんな事を僕に…」
ユミル(お前が苦しんでいたからだ。お前はきっとこの先も苦しみ続けるんだろう…)
ユミル(でも、誰か…例え一人でも許してもらえた記憶があれば、お前は生きて行ける)
ユミル(大丈夫だ、ベルトルさん。多分お前を許してやれるのは壁内じゃ私ぐらいだ)
ユミル(この狭い壁内に何の思い入れも利害も無い私だから、この言葉は説得力を持つ)
ユミル「お前らにはお前らの正義があった。…私はそれを知っている。これが理由だ」
ユミル「だから、許してやる」
ベルトルト「そんな簡単に…言うな…、僕を、許さないで…ひっぐ……」ズルズル…
ユミル(本当は誰より許してもらいたかったくせに…楽になりたかったんだよな…)
-
349 : 2014/05/15(木) 20:26:23 -
ベルトルト「悪い運命なら変えられるんだ…」ユミル「人の命を奪うには、自らも奪われる覚悟がいる」
ベルトルト「さっき僕が言った言葉…」
ユミル「これと同じで、幸せになりたいと願う時には、不幸にもなる覚悟が必要だった」
ベルトルト「違う…ただのおまじないだよ」
ユミル「真剣に祈れば呪詛にもなる。で、失敗の代償がこれだ…もう歯車は噛み合わない」
ユミル「お前と一緒にはいられない…」ニコッ
ベルトルト「ねぇ…どうしてこの状況で笑えるんだよ…ユミル」
-
352 : 2014/05/15(木) 20:36:11 -
ベルトルト「違う違う違う!!…マルセルは関係ない!!僕は…ユミル、君の事が…ユミル「お互い勘違いだったんだ。それでいいじゃねぇか…次は私を楽にさせてくれ」
ベルトルト「ユミル…嫌だ…」
ユミル(最後に、もう一度…)
ユミル「あの時の笑顔が見たい」
ベルトルト「こんな話をしてるのに、笑える訳ないよ…」グスッ
ユミル「あの日、私を見付けて嬉しそうに駆け寄ってきた…あの顔をもう一度見たいんだ」
ユミル「それで、笑いながらこう言ってくれ『今までのは全部、嘘だよ』って…」
ユミル「なぁ、頼むよ…ベルトルさん…」
ベルトルト「嘘なんかじゃない…」
-
353 : 2014/05/15(木) 20:38:24 -
ユミル「泣くな…ほら、顔をあげろ」ベルトルト「ひっく……嫌だ……そんなの…」
ユミル(マルセルの記憶の話は偽りだ)
ユミル(でもマルセルのせいにしちまえば、お前は表面だけでも納得してくれると思う)
ユミル(この関係は間違いであったのだと…)
ユミル(きっとあの瞬間にお前に恋したことは間違いない。この感情は私のものだ)
ユミル(私だけが知っていればいい。お前を本当に愛していたことを…。だからこそ…)
ユミル(マルセルを食ったことが許せないんだ…!怖いんだよ、お前の隣には居たくない)
ユミル「ベルトルさんはかわいいなぁ…」
ベルトルト「…はっ?」ガバッ
ユミル「泣き顔もこれで見納めだ…」
-
354 : 2014/05/15(木) 20:41:18 -
ベルトルト「ユミルっ!!」ダッユミル「こっちに来るなって言っただろっ!!止まれ!!!」
ユミル「さよならだ…もう、返事は伝えた」
ベルトルト「ダメだ、そんな理由じゃ納得できない…。僕は君を諦めない!」
ユミル「我儘な男だなぁ…相変わらず」
ベルトルト「僕が我儘なのは君が一番よく知ってるはずだよ!」
ユミル「明日、ここを出てクロルバ区に着いたら…区で一番大きくて高級な娼館に入れ」
ベルトルト「!?」
ユミル「そこで若くて美人で従順な女を見繕え。娼婦ってのはさ、大抵は孤児上がりだ」
ユミル「身寄りが無ければ、奇特な女が壁外まで付いて来てくれるかもしれねぇな…」
ベルトルト「…」ギリッ…
-
356 : 2014/05/15(木) 20:47:31 -
ベルトルト「ダメだ。逃がさない…」ベルトルト「怖いんだろ?ユミル!!」
ベルトルト「僕が指輪を付けてなかったから君は僕に嫌われたと思って…」
ベルトルト「話し合う余地もなく、君は答えを用意して!でも、僕は君を嫌わない!!」
ベルトルト「…君の過去がどうであろうが、どんな巨人だろうが…何があってもだ!!」
ベルトルト「昨晩の君に対する僕の態度は酷いものだった…。とても償いきれない…」
ベルトルト「僕は未熟で、弱い…。でも、それでもその弱さを克服したいと思ってる!」
ベルトルト「目的地に…マリア西の突出区に着いたら、もう巨人の力は使わない…」
ユミル「…」
ベルトルト「僕も人として生きる。考え方も改める…君に認めてもらえるように」
ベルトルト「だから、さよならなんて言わせない!!」ダッ
ベルトルト(テーブルくらいすぐに乗り越えられる、僕にとって障害でも何もない!!)
-
357 : 2014/05/15(木) 20:52:35 -
ユミル「来るなっ!!!」ザッベルトルト「えっ……」
ベルトルト(ランタンが…ゆっくり…下に…) スーーッ
ベルトルト(本当に落とした!!!)
カツン… ガシャーーン!
ボウッッ…!
ベルトルト「ユミルっ!!」
ユミル ダンダンダンダンッ…
ベルトルト「待って!逃げないでっ!!」
ベルトルト(火は!?)バッ…
ボボボボボッ…フゥッ… -
358 : 2014/05/15(木) 20:54:04 -
ベルトルト「あれ…火が…消えた……?」ベルトルト(な、何で?どうなってるんだ!?か、カーテン!!もっと灯りを…!)
シャッ……
ベルトルト「何だよ…これ…」ジッ…
ベルトルト「油なんて、全然入ってない…。もう、嘘をつくのもいい加減に…」グスッ
ベルトルト「ユミル…」
ベルトルト「…こんな所に隠すようにしてバケツを置いてたんだ、たっぷり水を入れて」
ベルトルト「延焼した時の事も考えて、予め水で湿らせた毛布まで用意して…」ギュッ
ポタ… ポタン…
ベルトルト(最初から火事を起こす気なんて無かった…僕を牽制するための仕掛け…)
ベルトルト「…っと!ユミルっ…!!」バッ
-
360 : 2014/05/15(木) 20:58:31 -
~宿屋2階の廊下~
ガチャッ
ユミル「!?」
ガチャガチャガチャ…!!!
ユミル「アニっ!!」
ドンドンドンドン!!
ユミル(鍵掛けやがった、あいつ…)
アニ「ユミル?…あぁ、ごめん…忘れてた。今、開けるよ」
ユミル「早くしろよっ!鍵は掛けるなって言っといただろっ!!」ドンドン!
アニ「うるさいね、ちょっと忘れてただけだろ?すぐ開けてやるからそこで…
ユミル「!!」
-
361 : 2014/05/15(木) 21:01:33 -
ユミル(ベルトルさんが追いついてきた!)ベルトルト「ユミル!待ってよ!!まだ話は終わってないんだっ…部屋に逃げないで!」
ダッダッダッダッ…
アルミン「こんな遅くに、何の騒ぎ…?」 ギッ ガチャッ…
カチン! ギギギッ
アニ「ユミル、遅かっ…
ユミル(開いたっ!!) バッ スルッ…
アニ「ユミル?」
バン!!ガチャン! ズズズッ…
ユミル「はぁ…はぁ……はぁ……ふーーっ…」
アニ「あんた…何やってんの?」
-
362 : 2014/05/15(木) 21:03:39 -
バンバンバン!!!ベルトルト「ユミル!お願いだ…ここを開けて…まだ僕は納得してない!!」
ユミル「うっせーな…鍵、閉めやがって…くそっ…!!アニ、お前のせいだ!」
ユミル(危なかった…)ドキン…ドキン…
ベルトルト「どんな無茶なお願いでも、自分の出来る範囲でなら叶えてくれるんだろう?」
ベルトルト「君は僕の願いを叶える事が出来るのに…どうしてダメなんだっ……」
ユミル「黙れっ!他の客に迷惑だ!!」
ユミル「もう部屋に戻ってくれよ……。お前とは、終わったんだよ…」
ベルトルト「そんな一方的な別れ方ないだろ!?」
アルミン「ユミルと喧嘩してるの?ベルトルト、これ以上騒ぐと宿の人を呼ばれる…」
アルミン「今日の所は部屋に戻ろう」チラッ
ベルトルト「アルミン…ごめん。でもこれは僕とユミルの問題だから!今は引けない…」
-
363 : 2014/05/15(木) 21:05:23 -
バンバンバン!!! ガチャガチャ…ベルトルト「ユミル!もう一度言う…ここを開けるんだ。まだ時間はある、話し合おう!」
アニ「だってさ…どうする?ユミル」
ユミル「アニ、絶対開けんなよ…」
ユミル「…会いたく、ないんだ」
アニ「……はぁ…」
アニ「ベルトル、うるさいよ…明日にしな。ユミルは会いたくないってさ」
ベルトルト「アニ…!じゃあ君にお願いする…ここを開けてくれ。ユミルと話したい」
クリスタ「しつこい男は嫌われるよ、ベルトルト」ジッ…
ベルトルト「クリスタ…」
-
364 : 2014/05/15(木) 21:06:16 -
ライナー「何事かと思って出て来たら、騒いでたのはお前か…ベルトル…」ハァベルトルト「ライナーも…」
ベルトルト「そっか、そっちは上手く説得できたんだ…僕と違って。…良かったね」
アルミン「今、急いで下に降りて行った人…宿の人を呼びに行ったみたいだね…」
アルミン「これ以上騒ぎを大きくしても仕方ないよ。宿を追い出される前に撤退しよう…」
ベルトルト「…」
-
367 : 2014/05/15(木) 21:14:44 -
ユミル(約束なんかしない)ベルトルト「明日、ヤルケル区を出る。君も一緒にね…。ドレスも二人で取りに行く」
ユミル(信じれば裏切られる)
ベルトルト「『さよなら』…じゃないよ。『おやすみ』だ…ユミル。じゃ…また、明日」
ユミル(早くどっかへ行ってくれ…)
ユミル「あぁっ…もうっ!…あいつ最悪だ…」グスッ…
アニ「はぁ…あんたが羨ましい…」
ユミル「何がだよ…」
-
368 : 2014/05/15(木) 21:16:05 -
アニ「ほら涙を拭きな…。涙と鼻水で酷い顔だ…」スッ…ユミル(消えたいんだ、私は…。お前の記憶と視界から…)グリグリ…
アルミン「ベルトルト…」
クリスタ(ユミル…ベルトルトと別れる事にしたんだ…。私はユミルに付いて行く…)
ライナー「みんな、部屋に戻るぞ…」
ライナー(相当怒ってるな。ユミル…)
ライナー(ベルトルの奴…指輪を失くした事、ユミルに許してもらえなかったのか…)
-
379 : 2014/05/29(木) 20:27:14 -
~宿屋の一室~
アニ「ユミル…あんた、これからどうすんの?」
ユミル「…どうだっていいだろ?」
アニ「ベルトルから逃げるつもり?」
ユミル「…」
ユミル「これ、返す。汚れたままで悪いけど…。助かったよ、ありがと」クタッ…
アニ「…ハンカチ、ぐちゃぐちゃだね」
アニ「あんたの心の中と一緒だ」
ユミル「ぐちゃぐちゃで悪かったな!…想像以上にきつかったんだ、今夜の話し合いは」
-
384 : 2014/05/29(木) 20:48:48 -
ユミル「だが巨人と戦わなきゃならない兵士の道を選んだのは誰でもない、自分なんだよ」ユミル「巨人の命を刈るためには、自分も覚悟を決めなきゃならない。巨人だって元は…」
アニ「人間…だからね。それもベルトルから聞いたの?」
ユミル「あぁ、そうだ…」
ユミル(ベルトルさんがこの場にいたらまた「僕は言ってない!」って言いそうだな)
ユミル「シガンシナ区だけじゃない…。トロスト区を襲撃した事も含めて…」
ユミル「私はもう全部、あいつを許してやりたくなっちまった…」
ユミル「私が許したからって何が変わる訳でもない。ましてや罪が消えることもない…」
ユミル「そしてあいつの『罪』を許したことで、私自身も心情的にお前らと共犯になった」
-
390 : 2014/05/29(木) 21:13:26 -
アニ「……嘘はついてない。それどころか、私らが消えた方が壁内は安全なんだ!!」アニ(気付いてる?ユミル…。ベルトルの不安定さに。この計画が潰れたらどうなるか…)
アニ「結局のところ、私らが逃げようが逃げまいが、これからの壁内に何の保証もない!」
ユミル「本気で言ってるのか?アニ…。お前の言い分を…信じるしかないのか?」
ユミル「もしお前が嘘つきなら、ライナーも嘘つきか?雲行きが怪しくなってきた…」
アニ「ライナーは嘘がつけない…。真面目で正直で律儀な男だよ。私が保証する」
アニ「だからこそ、だね。そのせいであいつは……いや、あんたに言う必要は無いか…」
ユミル「意味ありげな言い方しやがって…!しかし、嘘つきに保証されてもね…」ハァ…
アニ「なんで5人編成にしたか?…だったね」
ユミル「アルミンが逃げてもいいように、だろ?」
アニ「それは違うって言ったはずだけど。ちゃんと人の話を聞きな…」
-
394 : 2014/05/29(木) 21:23:49 -
ユミル「今日中に荷物を片付けたい…」
アニ「お好きにどうぞ」
ユミル「ベルトルさんから貰った物は、全部置いて行く」
ユミル「持って行くのは最初に持ち出した荷物と自分で買った物だけ…。すぐに終わる」
ユミル「服は3日分、あと日用品が少し…。私の荷物なんざ…たったこれだけだ」フーッ
アニ「…」
ユミル「調査兵団の兵舎を出る時、ベルトルさんに言われてクリスタの荷物も詰めたんだ」
ユミル「何が必要か分からなくて、自分のトランクにもあいつの荷物をかなり詰めてきた」
ユミル「その分はもうクリスタに渡してある」
ユミル「だからこのトランクはスッカスカだ。振ればカラカラと音が鳴るぞ!」アハハ…
-
395 : 2014/05/29(木) 21:27:50 -
ユミル「おっと悪ぃ、話の途中だったな…」
ユミル「よし!準備は終わった。薬も入れたし…話を続けてくれ」パチン…パチン…
アニ「ユミル、少し横になりな…。私もそうする」ギシッ…
ユミル「うん?……そうだな」
ユミル「さっきまでずっと気を張ってたから疲れちまった…。そうさせてもらう」
フワッ…… ギシッ… パフン
ユミル(柔らかい寝床も今夜が最後か…。寝間着を取り出すのも、着替えるのも億劫だ)
アニ「あんたが逃げたこと、ベルトルとクリスタにバレないようにごまかしてやろうか?」
ユミル「なっ…!?」ガバッ
ユミル「何を企んでやがる?気持ち悪ぃな…」
-
398 : 2014/05/29(木) 21:37:52 -
ユミル「正直さ、今のベルトルさんならどこへ逃げても追っかけて来そうで怖ぇんだ…」
ユミル「でもお前に借りは作らない!てめぇが時間を稼ぐのは私に対する贖罪だ!!」
ユミル「お前が妙な計画を立てたから私とクリスタは脱走兵になっちまった!この馬鹿が」
ユミル「だから…貸し借りは無しだ。これでチャラにしてやる」
アニ「あんた、随分偉そうだね…。でも、少し元気が出て来たみたいだ!」フフッ
アニ「さっきも言ったけど、途中で気が変わったらベルトルの元に戻って来な」
ユミル「もういいんだよ。ベルトルさんとは終わったんだ…。何度も考えた、結論は同じ」
ユミル「夜明け前にこの宿を出る。この先どうするかはまだ決めてない…」
ユミル「ずっと一人だったんだ…。この先も一人で生きて行ける」
ユミル「だって、私は強ぇからな!」ニコッ
アニ(また、泣きそうな顔してるじゃないか…。ユミル…)
-
400 : 2014/05/29(木) 21:48:28 -
ユミル「…」
ユミル「何で、私を逃がしてくれるんだ?理由を聞かせろ…。正直に言え…」
アニ「あんたが、逃げたがってたからだよ…」
アニ「行けば戻れない…。行きたくないあんたを無理やり連れて行くわけにはいかない」
ユミル「アルミンはいいのか?」
アニ「アルミンは逃がせない。でもアルミンが、死んでも行きたくないって言うのなら…
ユミル「お前らって、馬鹿だよなぁ…」ハァ…
アニ「…否定はしないけど、あんただけには言われたくないね」
ユミル「ベルトルさんもライナーも…アニ、お前も。巻き込んで連れ去った相手に対して」
ユミル「ちゃんと逃げ道を残してやってる。あんな陰惨なことをでかしたってのに…」
-
401 : 2014/05/29(木) 21:51:10 -
ユミル「まだお前らは人間性を残している」アニ「当たり前だろ。まだ、人間なんだよ」
ユミル「ベルトルさんもそうだな。あいつも人間だ。すぐ泣く、笑う、落ち込む…」クスッ
ユミル「一緒に居ると飽きない。巨人なら罪の意識は感じない。ベルトルさんは人間だ」
アニ「さっきから何?人間、人間って…」
ユミル「お前には関係のない話だ」
アニ「ランプ…消すよ。出て行く時は静かに行って。起こしたら承知しないよ」
アニ「寝て起きたら私の気が変わってるかも知れないからね…あんたを逃がせなくなる」
ユミル「分かった。静かに出て行く…」
ユミル「おやすみ、アニ…」
-
419 : 2014/06/15(日) 21:24:57 -
ユミル「アニは……よし、まだ寝てる…」ホッ…ユミル(起こさないように、そっと部屋を出よう…)
ユミル「あいつ、本当に来るのか?」
ユミル(部屋のドアは静かなままだ…)
ユミル「約束は、してない…」
ユミル(これで本当に最後なのか?もう永遠に会えないんだ…。私はそれでいいのか?)
ユミル「…」
ユミル ブンブン…
ユミル(今更何を考えてる…?決心は揺るがないはずだ…。準備はとうに終えている!)
-
420 : 2014/06/15(日) 21:25:45 -
ユミル「これが、未練ってヤツか…」ユミル(…情けねぇ。ここまで来てもなお、吹っ切れてはいないみたいだ…)ハァー
ユミル「もう1分待ってみようか…?」
ユミル(待ってどうする?あいつと何を話す?話したってどうしようもないだろ…)
ユミル(抱きしめられたら?キスされたら?…私はその腕の中から逃げきれるのか?)
ユミル(いや、それよりもまた私を見て震えられでもしたら…そっちの可能性の方が高い)
ユミル(お互い辛い思いをもう一度味わう事になる…。あいつの気持ちは分かっている…)
ユミル(きっとお前の「一生のお願い」は嘘じゃないんだろう…。でも、これでいいんだ)
ユミル(私がお前を許しても、お前の記憶は私を許さない…。離れるのは互いのためだ)
-
421 : 2014/06/15(日) 21:26:23 -
ユミル「……1分経ったな」
ユミル(ノックの音は…しない)
ユミル(自分で言った事、忘れちまったのか?)
ユミル「あと、30秒だけ…」
ユミル「…ぷっ………」ククッ…
ユミル(何を期待してここに留まっている?あいつがドアを叩いたら私は…)
ユミル(引き留めて欲しいのか?会わずに行くって、アニにもそう宣言しただろ?)
ユミル「あいつ、また怖い夢でも見てるのかな…だとしたら私のせいだな。…きっと」
-
422 : 2014/06/15(日) 21:27:12 -
ユミル「怖い夢を見る時は、目覚めが悪いって言ってたもんな…。ごめん、ベルトルさん」ユミル(もうお前を嘘つきだなんて言わない。…信じるのはやめたんだ。約束もしてない)
ユミル「よし!行くか…。じゃぁな、アニ」
ユミル「忘れ物、無いよな…」
ユミル「あ!…そうだった。これを返しておかないとな…」ゴソゴソ…
ユミル(ベルトルさん…これもお前に返すよ。今、やっと手放すことが出来た…)
ギッ…… パタン…
アニ(……ユミル…) …パチッ
-
423 : 2014/06/15(日) 21:28:15 -
~宿屋2階・客室前の廊下~
ユミル(昨日、屋根裏部屋であいつと距離を取るための準備をしていた時に拾った釘…)
ユミル(同じような細い釘一本で貴族の別荘の錠前を何度も破った。まだ手が覚えている)
ユミル「本気でやれば3分だ。誰も見てない…。私はこのドアを開ける事が出来る…」
ユミル「クリスタ…もう一度、お前に会いたい。いや、一緒に連れて行きたい…」 ソッ
ツツッ…… ガチッ… グリッ
ユミル(まだ迷ってる。土壇場になって事前に決めた事と真逆の事をしようとしている…)
ユミル(私はどうしたいんだ?クリスタの事はライナーに任せるって決めただろ?)
ユミル「何やってんだ…馬鹿か…?なんで鍵、開けようとしてんだよ…思い止まれ…」 ググッ…
-
424 : 2014/06/15(日) 21:29:29 -
ユミル(アニと取引はしてない!!クリスタを連れて行ったって誰にも文句は言わせない)ユミル(「ジャンの馬をくれてやってもいい」だと?…大体、お前の馬じゃねぇだろ!?)
ユミル「クリスタは置いて行くって決めたんだ!…迷う事なんか…」
ユミル(私らは無理やり連れて来られたんだ!そうだろ!?クリスタは私が居ないと…)
【やだよ…行かないでよっ!……ずっと…私のそばにいてよ…】
ユミル「クリスタ……あ゛ぁっ…嫌だ…。やっぱりお前を置いては行けない!!!」
ユミル(どうする?本当にあいつを連れてくのか?急げ、時間が無い!早く決めないと…)
【幸せになれよ!クリスタ】【ユミルもだよ?一緒に、幸せになるの!私たち】
-
426 : 2014/06/15(日) 21:31:37 -
スッ… ピンッ… コロコロコロ…
ユミル「だから…」
ユミル(お前は生きろ…。この行き詰った世界から切り離された場所で…ライナーと共に)
ユミル(それがお前にとっての幸せなのか確証はない。だが、不幸にはならないはずだ…)
ユミル「クリスタ、ごめんな。離ればなれになっても…心はずっと繋がってるから…」
ユミル「愛してるよ…。さよなら…クリスタ……」 フイッ…
チラッ …ギュッ
ユミル「………っ…ぐぅ……」ギリッ…
クルッ…
タッタッタッタッ……
-
427 : 2014/06/15(日) 21:32:27 -
~宿の厩舎~
ユミル(空が白々明けてきた。そろそろ人が動き出す頃だ…早くこの宿を出ないと…)
ユミル(アニがどうやって時間を稼ぐのかは知らないが、当てにしない方が無難だ…)
ユミル「…シーーーッ。静かにしてくれよ?」
ユミル「よう!3日ぶりだな。お前また売れ残ったんだってな…ふふっ」ナデナデ…
ユミル「今から一緒に帰るぞ。カラネス区の調査兵団屯所にだ。ジャンに会わせてやる!」
ユミル「昨日も一昨日もアルミンにあちこち連れ回されて疲れただろ?」クシャッ…
ユミル「もうひと踏ん張りだからな…。お前は良い馬だ…落ち込むな!自信を持てよ」
ユミル「明後日の壁外調査には間に合わないが…ジャンが生きていたら必ず会わせてやる」
ユミル「おっ…おい!顔を舐めるな。嬉しいのは分かるが…あぁもう!顔がベトベトだ…」
-
428 : 2014/06/15(日) 21:33:16 -
ユミル「そろそろ行くか…!今、腹帯と鞍をつけてやるからな…」
馬の世話係「おや、馬泥棒ですかな?」
ユミル「!?」ビクッ!
ユミル「わ、私は馬泥棒じゃない!この馬はヤルケル区に入る時に私が乗ってきた馬だ!」
馬の世話係「そうでしたか…。貴女様はこの宿のお客様でしたか」
ユミル「仲間と午後にこの宿を立つ予定が、私一人だけ今出発する事になったんだ…」
ユミル「こいつは私が乗って行く…。仲間の了解も取り付けてある、心配はいらない」
馬の世話係「そのようなお話は聞いておりませんが…」
ユミル「じゃ今から確認して来てくれ!本館2階に泊まっているアニ・レオンハートに!」
-
431 : 2014/06/15(日) 21:36:13 -
馬の世話係「面倒を掛けるが、今後もよく見張っていて欲しいとの事でした」ユミル「ライナーの奴…」チッ
馬の世話係「そのお客様に伝え聞いたお仲間の方の容姿が貴女様によく似ていたもので」
馬の世話係「…ですので、この馬は貴女様にはお渡しできません。よろしいですかな?」
ユミル「ちっともよろしくねぇが……くっそ!信用ねぇんだな」ハァ
ユミル(ライナーの野郎!2日前からこうなる事を見越してたってのか?…いや、違うな)
ユミル(大方、私の帰りが遅かったから馬を使って逃げたと思って厩舎に来たんだろ!?)
ユミル(…で、馬が残っていた事に安心して、ついでに持ち出されないように頼んでおいた)
ユミル「あぁっ!余計な事しやがって…あいつ!!チッ…やってくれたなっ!」ギリッ
-
434 : 2014/06/15(日) 21:38:47 -
~ヤルケル区 大通りの繁華街~
ユミル「ジャンの馬を当てにしていたからな、さて…どうやってこの区を出るか…」ハァ…
ユミル「今から出発する商隊に運よく乗っけてもらえる保証はない。まず金が無いしな…」
ユミル「例え根底が善意であったとしても、タダで乗せてくれる訳が無い…相手は商人だ」
ユミル「無一文の女を乗せる利点はどこにある?何が対価になるのか、馬鹿でも分かる…」
ユミル(やっぱ、意地を張らずにアニに金を借りとくべきだったか?)
ユミル(だがいわれの無い金を貰うってのもな…。元は盗んだ馬を売って作った金だ)
ユミル「今更、不手際を嘆いても無駄か。戻ることは出来ねぇんだ。頭を使わないと…」
ユミル(あいつらがこの区を発つのは今日の17時…。クロルバ区行きの船に乗る…)
-
436 : 2014/06/15(日) 21:40:50 -
ユミル(私も見捨てて行ってくれ…。お前は知ってんだ。今まで何度も確認したんだろ?)ユミル(この計画には最低でも5人必要だって事を。お前が抜けたらどうなると思う?)
ユミル「はぁ……土地勘も無いし、絶対見付からない場所なんて、心当たりがねぇなぁ…」
ユミル「追いかけてくる前提で逃げる方法を考えてはいるが、一晩寝て起きたらさ…」
ユミル「あっちはもう気持ちの整理がついて、吹っ切れてたりしてな!」ハハッ
ユミル「…」
ユミル「だから明け方、部屋を訪ねて来なかった。想いを残さないように会わなかった…」
ユミル「…いいさ、私は私の思い描く通りに生きる。寂しくもあるが今は自由の身だ!」
-
437 : 2014/06/15(日) 21:42:04 -
ユミル(全く金を持ってないってのは難点だが…。今更「返してくれ」とも言えねぇし…)
ユミル(今私が持ってる物で金になりそうなのって身体ぐらいか?…絶対に売らないが)
ユミル(じゃ、また生きるために盗みやスリをするのか?あんな生活に戻るのは御免だ…)
ユミル「はぁ……」
ユミル(一刻も早くこの区を出る。こんな所でグダグダしてたら飢えと渇きで行き倒れる)
ユミル「あれは…」
ユミル「一昨日クリスタが買って来てくれた飲み物屋の屋台だ…。今日も盛況だな!」
ユミル「こないだ座ったベンチもそのまま…。ここでライナーに指輪を買えって言ったんだ」
ユミル(たった2日前の出来事なのに、遠い昔の思い出のようだ。あの時は楽しかったな)
-
440 : 2014/06/15(日) 21:45:19 -
ユミル(アルミンがいるって事は、ベルトルさんもここにいるのか?)キョロキョロ…ユミル「よし、いない…みたいだ」ホッ…
ユミル「こんな人混みでも、頭一つ抜きん出てるから探しやすい。…あいつ便利だな」
ユミル(アニが上手く時間を稼いでくれてるのか?…少しだけ、残念に思う自分がいる)
ユミル「遠くからでも、最後にもう一度あいつに会いたいって…何で思っちまうんだろ…」
ユミル「途中で気が変わったらベルトルの元に戻って来な…か」
ユミル「喉…渇いたな。空きっ腹だが痛み止め飲んでおくか…。気にすると痛みだすんだ」
・
・ -
441 : 2014/06/15(日) 21:46:17 -
ユミル「さて、突出区の良い所は水がタダって事だな。川が流れてるってのはいいよな」
ユミル「井戸水も不味くない。洗濯用の用水路も水が豊富だし、噴水もある…」
ユミル「でも水じゃ腹はふくれないから、早くどっかへ移動しないと…。内か外か…」
ユミル(取り敢えず王都でも目指すか…。人も多いし、そこなら仕事があるだろ…)
ユミル「…そうだ、乗合馬車だ!」
ユミル(シーナ中央行きの馬車を見かけたな…。あれに何とか乗せてもらえないか?)
ユミル「…って、ダメだろうな…何たって金が無い。鋼貨1枚だって持ってない…」
ユミル「終わったことを悔やんでも遅い…が、だけどな、やっぱアレなぁ……」ハァ
ユミル「素直にベルトルさんの言う事を聞いちまったせいで…あの髪留めさえあれば…」
-
444 : 2014/06/15(日) 21:49:21 -
ユミル「事前申請って事は金も前払いか?」あか抜けない少女「移動の際の費用は、雇い主になるご主人様が出してくださるの」
あか抜けない少女「私達はこのヤルケル区で集められたただの街娘」
あか抜けない少女「お屋敷で働くために集められたの。本当は中央に住む権利はないけど」
あか抜けない少女「今年も貴族様方が従女…つまりメイドを集めてらしてね、特別にね…」
ユミル「そ、そうか…。この娘達はみんな中央に住む貴族達に仕えるのか…」
ユミル(あいつの母親も同じ様に集められたのかな…。上手いこと貴族に見初められて、)
ユミル(そのままお手付きになって子供でも産めば、彼女達の人生は大きく変わる…)
ユミル(ここに集められた女達も、自らを安売りする危険を伴いながら勝負に出ている…)
ユミル「…何とかこの馬車に乗れねぇかな」ボソッ
あか抜けない少女「えっ…?」
-
447 : 2014/06/15(日) 21:52:33 -
あか抜けない少女「その逆…。大事に育ててもらったから絶対許してくれないと思って…」ユミル(まぁ、もしクリスタが同じ事をしようとしたらあいつが泣くまで説教する自信がある…)
あか抜けない少女「…お姉さんも、チャンスを掴みたいんでしょ?王都で一攫千金?」フフッ
ユミル「…いや、そんな大それた夢はねえよ。とりあえず今は逃げたいだけだ…ある男から」
あか抜けない少女「借金取り?」
ユミル「くくっ…だったらいいがな!しつこい元恋人からだよ!あははっ…」
あか抜けない少女「ふふっ…やるじゃない!」アハハッ
あか抜けない少女「お姉さん、一つ忠告してあげる。その服じゃダメだよ…正装しないと」
-
448 : 2014/06/15(日) 21:53:37 -
ユミル「ん?」あか抜けない少女「この王都行きの馬車に乗るための心構え!従者を騙さなきゃ…」
ユミル「えっ!?」
あか抜けない少女「見たとこお姉さんってシーナの市民権を持ってない不法移民でしょ?」
ユミル「…」
あか抜けない少女「少しお化粧した方がいいわ…。顔なんか洗ってないみたいだし…」
ユミル「おまっ…し、失礼な奴だな!今朝、馬に舐められたんだよっ…」ゴシゴシ
あか抜けない少女「ほら、仕草もガサツだし…袖で顔拭いちゃダメだって!年上なのに…」
あか抜けない少女「全然女らしくないのね。本当に恋人がいたの?私ですらいないのに…」
ユミル「うっせぇな!……もう、いねぇよ。…悪かったな……ったく何でこんな事…
あか抜けない少女「お姉さん、大丈夫だよ!だって目鼻立ちが綺麗だもの…心配いらない」
-
450 : 2014/06/15(日) 21:55:38 -
あか抜けない少女「私…先に行って…待ってる」スクッ… タッ
ユミル「おっ…おい!!」タタッ…
貴族の従者「お嬢さん方、時間だよっ!さぁ乗った乗った!遅れてくる娘は置いてくよ!」
ユミル「お前、待ってるって…どこで待ってるんだよ!?私は約束なんかしないからな!」
あか抜けない少女「じゃぁね、お姉さん。待ってるのは…希望溢れる楽しい未来だよ!」フリフリ…
貴族の従者「おい!お前…邪魔だ。どっか行けブスが!お前には縁のない世界なんだよ!」ドンッ
ユミル「…痛っ…!!…なんだと!?」
-
451 : 2014/06/15(日) 21:56:51 -
貴族の従者「貧民街の住人か駆け出しの娼婦か知らないが、汚い格好でうろつきやがって」チッ
貴族の従者「大体お前みたいなのが居るからシーナの治安が良くならないんだ」ブツブツ…
ユミル(貧乏人から詐取して、でっぷり肥えたクソ野郎が…相手をするのも面倒くせぇ…)ギリッ
バタン…
貴族の従者「よし!18名全員乗ったな」
貴族の従者「お前達、お嬢様方を安全に王都までお連れしろよ?この娘達は丁重に扱え!」
ユミル(胸糞悪ぃ…。車馬賃は貴族達が出すんだろ?実情は人身売買みたいなもんだ…)
ユミル(従女…つまりメイドとは名ばかりで安い金で好みの若い女を囲うための仕組みだ)
ユミル(残念だったな、世話焼きさん…。私はシーナに住んでたんだ…だから知ってる)
-
453 : 2014/06/15(日) 21:59:27 -
~ヤルケル区 中心街~
高級仕立て屋
ユミル「少し、中を覗いて見ても…構わないよな?」
ユミル(ベール、グローブ、チョーカー…それと例の特注のドレス…何事も無ければ…)
ユミル(今日みんな引き取りに来る予定だった…。全部、無駄になっちまったけど…)
ユミル ハァ…「やっぱり、一人じゃ入れない…行くか…」
見習い針子「あっ!お客さぁ~ん!!」ニコニコ
ユミル「ひゃっ!?」ビクンッ!
見習い針子「ぷぷぷっ…何ですかその声!……可愛いですね。えへへっ」
-
457 : 2014/06/15(日) 22:03:28 -
ユミル「ここで採寸した後であいつはそれを知った…私自身もその事実を知らなくてさ…」
ユミル「話し合ったけど互いの歯車は歪んで軋んだままでね…結局、別れる事になった」
ユミル「あんた達には悪いと思ってる…。だが、世の中にはどうにもならない事がある」
ユミル「首を突っ込まないでくれ。あんたにもさよなら…だな。もしあいつが来たら…」
ユミル「私がここに寄った事は伝えないで欲しい…じゃぁな…」 クルッ
見習い針子「待って!!花嫁さん!」
ユミル(花嫁さん…)ピタッ
見習い針子「逃げるんですかっ!?…償いもせずに。彼の前から消えるつもりですか?」
ユミル「……黙れ!!いいだろ?逃げたって!!お前には関係ないんだっ!?」バッ…
-
459 : 2014/06/15(日) 22:05:15 -
見習い針子「ここで泣いたんですよ…私とマスターの前で。それを知っても貴女が好きで!」見習い針子「貴女と、結婚したいって、思って……っぐ……ここで泣いて!…ひっぐ……」
見習い針子「マ、マスター!!た…だお゛るもってぎでぐだしゃい…」ズビッ…
ユミル(ベルトルさん…)ギュゥッ…
見習い針子「もう、出てってください…」
見習い針子「…二人で一緒に衣装を取りに来るまで、この店には入らないで!」グイグイ
ユミル「おっ…おいっ!!」
見習い針子「貴女はっ!もう少し考えるべきです…。逃げずに償う勇気を持って欲しい」
-
460 : 2014/06/15(日) 22:06:16 -
見習い針子「…勝手な事、言ってすいません。一昨日見た、幸せな二人に戻って欲しくて…」マスター「…ほらタオルだよ。…ってお前また泣いているのか」ハァ…
マスター「花嫁さんお待ちしていました!こらっ、何ですぐ私を呼ばないんだ!衣装は…
見習い針子「違います!旦那さんと一緒じゃないんです。花嫁さんは暇潰しで寄っただけ」
マスター「えっ!?」
マスター「そ、そうなんですか…?お客様」
ユミル「…」
ユミル「ごめん、行くわ…」
ユミル「お前も泣くな、職人さん…。私も戻れるなら、戻りたいんだ…一昨日の今頃に」 タッ
-
461 : 2014/06/15(日) 22:07:22 -
ダッダッダッダッ…
ユミル(この道も覚えてる…。長いスカートが足に巻き付いて歩き辛くて…)
ユミル(あいつに急かされて早足で通り抜けた。高台へと続いている緩やかな上り坂を)
ハァ…ハァ…
ユミル(ドレス、結局見せてもらえなかった)
ユミル(見たら欲しくなるだろうな…あの職人、腕が良さそうだし。これで良かったんだ)
ユミル(成り上がり狙いの女に混じって、純白のドレスで馬車に乗るだなんて悪い冗談だ)
ユミル「…おっ……っと!」ハァ…ハァ…
ユミル「着いた…。一昨日より随分と日が高い。当たり前か、今はまだ昼だもんな」
-
462 : 2014/06/15(日) 22:08:20 -
ユミル(あの時は夕方だった。二人で手を繋いで夕日が沈むのを見ていた…この場所で)ユミル「あっ…!!……はぁーーーっ…そういや私の下着、あいつどうしたんだろ?」
ユミル「私を探しながらここに戻って来て、下着を回収したりはしてないよな…さすがに」
ユミル「落ちてない、な。誰かに持ち去られて売られたか、拾われて自分の物にされたか」
ユミル「……持って行ったのがおっさんだったら気持ち悪いな」ゾワゾワ…
ユミル「一度も身に着けてないから未練もない…。しかし、本当に白ばっかりだったな…」
【ユミルは…やっぱり白だなぁ】
【はぁ?】
-
463 : 2014/06/15(日) 22:09:25 -
【前から思ってた。君に似合う色】
【ふぅん…それで白ばっかり買ったのか】
ユミル「…なんで、また思い出すんだよ…。もう戻れやしないんだ!…全てを知る前には」
~雑草が生い茂る 高台のふもと~
ユミル「…ここだな」
ユミル「ここで、ベルトルさんは…」
ユミル(そう言えば最後に触れたのは、手を払われた時だ。「怖い」、「僕に触るな!」)
ユミル(そう言われたな…それが、あいつに触れた最後の思い出。何とも寂しいもんだ)
-
468 : 2014/06/15(日) 22:14:56 -
ユミル「あ…あぁ…。これかよ…」ハァ
ユミル「お前、お母さんなんだな」
ユミル(あの木にカラスの巣がある…。ヒナもいる。…こいつはヒナを守ろうと…)
カァァァーーッ カァーーーーッ
バタバタバタッ
ユミル「やめろっ!何もしねぇって!!…ちょっと探し物をしてるだけだよ」
ユミル「お前の子供を取り上げる気なんか更々ねぇんだっ!少しの間、我慢してくれ」
キラッ…
ユミル(んっ!?)
ユミル「カラスの巣に何かあるな…。あれ、鋼貨か?」
-
469 : 2014/06/15(日) 22:15:57 -
ユミル(そういやカラスって光る物を集める習性があったよな…)ユミル「しめた!鋼貨1枚でもありがたい。お前が持ってても意味ないだろ?貰うぞ!」
ユミル(盗みはしないって言ったけど人間からじゃないからさ、別にいいよな…?)
ユミル「すぐ済むからな」 ヨ、ット…
グン…グン…グン…
ユミル(木登りなんて久しぶりだな、訓練兵の時もたまにやったが、子供の頃みたいだ)
ユミル「…あぁ…っ!いって……」ズキン…
ユミル(左手が痛む…。痛み止めが効いていて、楽になってはいるが掴む動作はキツい)
ユミル「よし!取れた!!」 ズズズズズッ…
ケリッ ストン…
-
470 : 2014/06/15(日) 22:16:31 -
グァァーーーーッ!
バタバタバタバタ…
ユミル「もう終わったよ!こっち来るなって!!…てててっ!」ブンッ
ユミル(っ…たく!子を守る母親ってのはすげぇな。私が…人間が怖くないのか!?)
ユミル「あの母親も、ああやってガキを守ってきたんだな。身体を売って、金を作って…」
ユミル「あの時の事、後悔なんてしていない。…ガキの命が助かったんだ、それで充分だ」
ユミル「鋼貨1枚手に入れ……えっ…?」
ユミル「はぁっ…!?なんだこりゃ…。そんな、…何でだ?何でコレがあんな場所に……」
-
471 : 2014/06/15(日) 22:17:38 -
ユミル「……は、ははっ…あははははっ!」
ユミル「そりゃ見付からない訳だよ!!お前、下ばっか見て探してたんだろ?」
ユミル「光り物、好きだもんな、あいつら。カラスにしてやられたな!ベルトルさん」フフッ
ユミル「血で薄汚れている…」フーッ
ユミル「あぁ…そうか。これで謎が解けた」
ユミル「いくら力があっても、腕を振り回したくらいで手のひらが裂けたりするのかって」
ユミル「おかしいとは思ってた…。お前が手に引っ掛かって肉を裂いたんだ…」
ユミル「それにしてもお前凄いな。こんなに丸くて小さくて、大人しそうな見た目なのに」
ユミル「生意気に私の手を引き裂くなんてな!一丁前に…」
ユミル「なぁ、お前…本当は指輪じゃなくて超硬質ブレードになりたかったんだろ?」
-
472 : 2014/06/15(日) 22:18:24 -
ユミル「巨人殺しってのはお前らの本能か?もっと大きくて鋭かったら私を殺せたのに…」ユミル「いや、待てよ?…思い込みで物を言ったが…本当にこの指輪、ベルトルさんのか?」
ユミル(偶然似たような指輪が血塗れで転がっていたのかも知れないしな…)
ユミル「ベルトルさんの指輪なら、確か内側に私の名前が…
ユミル「!!!?」
ユミル「…」
ユミル「…はっ?……ば、馬…鹿だろ?お前……」ツッ…
ユミル「ひっぐ…な…何考えて……」ツツーーッ…
ユミル「何だよ…これ…」ポタッ
-
473 : 2014/06/15(日) 22:19:20 -
ユミル「私は、こんなの許可してねぇぞ…」ボタボタ…
ユミル「あ゛ぁあ゛ぁぁっ……もうっ!!」
ユミル「お前なんかっ!お前なんか!!大っ嫌いだっ!!!!…っ…ひっ…ぐ…」
ユミル「何でこんな事するんだよ!何でこんな…私は『うん』って言ってないだろっ!!」
ユミル「『ユミル・フーバー』だと!?…何で勝手に私の名前にお前の姓を足してんだよ…」
ユミル「くっそ…あの馬鹿…!!…ふぐっ……ぃっ……あ゛ぁっ…」ギュゥゥゥゥ…
ユミル(私は名だけでいいって…そう言っただろ?お前にもそう言ったよな…?)
ユミル(どうして今になって…) ゴシゴシゴシ…
-
475 : 2014/06/15(日) 22:21:16 -
ユミル「本気、だったんだな…。お前の気持ちに嘘は無かった……」
ユミル「ハンカチは諦める…。それどころじゃなくなっちまった。心が荒れて痛いんだ…」
~ヤルケル区 大通りの繁華街~
ユミル(結局またここに戻ってきた)
ユミル(大通りを歩けば目立つ…何を考えてる?ベルトルさんに見つけて欲しいのか?)
ユミル(…馬鹿な女だな。わざと見付かって、「行くな!」って引き留めて欲しいんだろ?)
ユミル「そんな訳あるかよ…。私にだってプライドがある、戻れる訳ねぇんだよ…」
ユミル(迷ってるならアニの言った通り戻ったらどうだ?ベルトルさんは責めないぜ)
-
482 : 2014/06/15(日) 22:28:59 -
売り子の姐さん「だってあんたの彼氏が、あんたのために選んでくれた大事な口紅だろ?」ユミル「…もう彼氏でも何でもないんだ」
グゥゥゥゥッ…
売り子の姐さん「…はっ……腹が鳴ってるよ!」ククッ…
売り子の姐さん「お昼はまだかい?上がっていきな。私もこれから遅めの昼食なんだ」
売り子の姐さん「大したものは無いけどね、あんたも食べていきなよ。話も聞きたいし」
ユミル「い…いいのか?」
売り子の姐さん「勿論さ!一人で食べるより二人の方が楽しいじゃないか、さぁこっちだ」
・
・ -
483 : 2014/06/15(日) 22:30:06 -
ユミル「ご馳走様!美味しかったよ」
売り子の姐さん「そうかい?夜も食べるつもりで多めに作っておいて良かったよ」
ユミル「そうだったのか…悪い事したな」
売り子の姐さん「いや、久々に兄さん以外の人と昼食を楽しんだわ。ありがと」
ユミル「いやいや…礼を言うのはこっちだ!ご馳走になった挙句、タダで化粧まで…
売り子の姐さん「さっきドレスが欲しいと言ってただろ?ここから好きな物を選びな…」シャッ
ユミル「…えっ!?」
売り子の姐さん「私の自慢のドレス、一着やるよ!あんたの事、本当に気に入ってるんだ」
売り子の姐さん「彼氏と別れる羽目になった話も聞かせてもらったしね…」
-
486 : 2014/06/15(日) 22:32:44 -
ユミル「全部あいつの趣味だからなっ、勘違いしないでくれ!!私は変態じゃない…」ハァハァ…
売り子の姐さん「…」
売り子の姐さん「なるほど…」
売り子の姐さん「さっき言ってた一昨日、高台で喧嘩して元彼氏が先に帰っちゃった時、」
売り子の姐さん「この下着もそのまま忘れて行っちゃったって訳ね…」
ユミル「あぁ…」
売り子の姐さん「2枚ほど使用済みだけど、返そうか…?」
ユミル「いや…いい。姐さんにやるよ。あいつから貰った物は全部置いてくつもりなんだ」
ユミル「ちょうど良かった。姐さんに借りを作ったままこの街を離れるのは気が引けて…」
ユミル「これを化粧の礼にさせてくれ」
-
487 : 2014/06/15(日) 22:34:04 -
売り子の姐さん「化粧だけ?この下着は高級品なんだ!化粧もドレスもあんたの物さ!」
売り子の姐さん「更におまけで、髪と爪も綺麗に整えてやるよ!…どうだい?」
売り子の姐さん「これで貸し借りは無しだ!…全部忘れてあんたは新しい人生を歩みな」
ユミル「じゃ…そうさせてもらう。ありがとう…姐さん」
売り子の姐さん「下着のサイズが同じなら、服も問題ないね!これなんか20年前のだけど」
売り子の姐さん「流行は繰り返すんだ!ちょうど今の流行りだね。あんたにはこれをやる」
ユミル「…20年前?」
ユミル「姐さん…あんた20年前から体型変わってないのか?てか年齢はいくつなんだ?」
売り子の姐さん「野暮なこと聞くんじゃないよ!女同士でも年齢は明かせないね」
売り子の姐さん「ま、あんたより年上ってのは確実だけどね!」アハハハ…
ユミル「…」
-
491 : 2014/06/15(日) 22:38:45 -
ユミル「…中身は醜悪な巨人だよ、姐さん」ボソッ
売り子の姐さん「…ん?」
ユミル「あと30分か…」
売り子の姐さん「あ!ちょっと待ってな」パタパタ…
ユミル「何やってるんだ?」
売り子の姐さん「時計を30分遅らせてるんだ」
ユミル「何のために?」
売り子の姐さん「そりゃあんたの華麗なる脱走劇を確実なものにするためにだよ…」
-
493 : 2014/06/15(日) 22:40:46 -
緑の瞳の少女「分かってます!お代はここに置いておくね。馬車がもうすぐ出ちゃうから」売り子の姐さん「まぁ待ちなよ、まだ時間はあるだろ?ここで暇を潰していきな!」
緑の瞳の少女「…そう?」チラッ
緑の瞳の少女「ホントだ…!じゃぁもう少しゆっくりして行こうかな?これいい匂い…」
売り子の姐さん「気に入ったのがあったら言いな!2割ほどまけてやってもいいよ」
売り子の姐さん「ただし、1個だけね。よ~く考えて自分で選んで決めるんだ」
ユミル(よく考えて自分で選んで決める…)
緑の瞳の少女「えぇ~…1個だけかぁ…どれも素敵だなぁ…。う~ん…どうしよう……」
売り子の姐さん「さぁ、こっちも仕上げだ。あんたの口紅と紅筆を出しな!付けてやるよ」
ユミル「えっ…いや、これは…」
-
499 : 2014/06/15(日) 22:46:45 -
ユミル「…」
ユミル(ふぅ…バレてないな…。また鏡を見る暇が無かったが、何とかなったみたいだ)
ユミル「名前は『ペトラ』だ。よろしく頼…いえ、よろしくお願いします」 スッ
貴族の従者「ペトラちゃんだねぇ…こちらこそよろしくねぇ……」ハァ…ハァ…
ユミル(気持ち悪ぃ…)
貴族の従者「さぁ、乗った!これが今日最後の便だ!暗くなる前に宿場まで一気に進むよ」
貴族の従者「ペトラちゃんは特別に今夜の宿は私の隣の部屋にしてあげるよ…ふひひひっ」
ユミル ゾクゾクッ…
ユミル(鳥肌が…。宿に着いたら早いけど逃げ出すか…シーナに入ればどうとでもなる)
-
516 : 2014/07/17(木) 21:49:15 -
ライナー「あいつらの指輪は結婚指輪だ。ベルトルはそのつもりでユミルに指輪を贈った」
ライナー(それを失くしたせいでユミルと仲違いした。ま、他にも理由があるようだが…)
ライナー「少し気が早いが、『夫婦喧嘩は犬も食わない』って言葉がある…」
クリスタ「待ってよ!…ユミルは誰とも結婚なんかしてない!!」キッ…!
ライナー「あぁ、分かってる。だがこれは俺達が口を出す問題じゃない。少し待とう…」
クリスタ「…」
ライナー「ユミルは消えない。俺はそう思う」
クリスタ「私はユミルと一緒じゃないと行けない…どこにも。それだけは忘れないで…」
ライナー「……覚えておく」
-
518 : 2014/07/17(木) 21:53:21 -
ライナー「俺も覚えてるぞ。だが、お前に買った化粧品はユミルに使わせるためじゃな…クリスタ「分かってる。でも私、ユミルのお化粧をした姿をどうしても見たかったから…」
クリスタ「私が約束を守れたら、私の化粧品を使ってユミルの顔に化粧をしたい!…って」
ライナー「無理やり約束させてたな…あの時のユミルの反応は見物だった!」ブフッ
クリスタ「あの時は、ユミルとアニとライナーの3人で私を囲むとは思わなかったな…」
ライナー「…すまん、部屋割りの事だな。色々と考えた結果、この組み合わせになった」
クリスタ「いいよ、もう…。私も『うん』って言っちゃったから……ただ、ちょっとね…」
クリスタ「大人の男の人の隣で寝るのって初めてだから…どんな風なのか想像出来なくて」
クリスタ「今も少し怖い…。ライナーが怖いんじゃないよ…初めての経験に戸惑ってるだけ」
ライナー「お、俺は…大人と言えば大人だが、年齢はお前と2つしか変わらないぞ?」
クリスタ「そうだね、なら私も大人なのかな?」
-
519 : 2014/07/17(木) 21:55:15 -
ライナー「15歳は子供じゃないか?」
クリスタ「でも早い人はもう子供を産んで母親になってるよ?私にその覚悟は無いけど…」
ライナー「こ、子供だと!?」///カァッ…
ライナー「いやいや、それは早いだろう!!」
クリスタ「うん…早いね。だから…その……えっと、そういう事はしないでね。ライナー」
ライナー「大丈夫だ、念を押さなくても!俺は急いでないんだ。お前が嫌がる事はしない」
クリスタ「ゆっくり、心が繋がってから…?」
ライナー「あ、あぁ…多分」ドキドキ…
ライナー(いや…まだそれを考えるに至らないと言うか…。クリスタの方が気が早いぞ…)
-
520 : 2014/07/17(木) 21:56:13 -
ライナー「も、もう寝るか、クリスタ!」
クリスタ「うん。ランプは私が消すね」
ライナー「頼む…」ギッ
クリスタ「あのね、ライナーが隣のベッドに来てくれたら、灯りを消す…」
ライナー「なっ…!?」ムクッ!
クリスタ「ふふっ…そのソファー、硬いから身体を悪くするよ。寝ても疲れが取れないし」
クリスタ「この宿のベッドはバネが強くて寝心地が良いから…ライナーもベッドで寝て…」
ライナー「だがしかし……クリスタ、お前…」
クリスタ「信じてる。あなたは私が嫌がる事はしないって…」
-
521 : 2014/07/17(木) 21:57:37 -
ライナー「そ、そうか…」ゴクッ
ギシッ…ギシッ…
フワッ… モゾモゾ…
クリスタ「うん、良く出来ました!じゃ、ランプを消すね…」ニコッ
カチッ…… フッ…
ライナー「なぁ、クリスタ…」ギシッ
クリスタ「なに?ライナー…」
ライナー「俺はユミルにはなれない…。同性の友人のようにお前に接する事は出来ない」
-
523 : 2014/07/17(木) 21:59:59 -
ライナー「急がない!だが伝えておく。嘘や偽りはない。…クリスタ、お前を愛している」クリスタ「…」
クリスタ「あ、ありがとう…」ウルッ…
クリスタ(もう知ってたよ…あなたの気持ち。この「結婚指輪」を受け取った時から…)
クリスタ「寝よう…ライナー」
ライナー「おう!また明日な、クリスタ」
クリスタ(真っ直ぐな彼の言葉が、私の心臓を貫いている。顔を見られなくて良かった…)
クリスタ(ユミル、助けて!どうしてこんなに胸が苦しいの?…痛くて涙が溢れそうだよ)
-
524 : 2014/07/17(木) 22:01:28 -
~別の部屋の一室~
ベルトルト「ぐすっ……ユミル…」ゴシゴシ… ギュッ……
アルミン「あ、あのさ…ベルトルト。ちょっと気持ちを楽にしてお風呂に入って来たら?」
アルミン「僕、今夜はこの部屋の浴槽にお湯を張ってもらったんだ。まだ温かいよ?」
ベルトルト「気持ちはありがたいけど、ユミルが心配だからこのまま部屋の外で寝てくる」
アルミン「…えっと、夜が明けるまで廊下で待つつもり?」
ベルトルト「うん…。それか、ユミルが部屋から出て来るまで待つつもり…」
ベルトルト「ユミルと話し合えるチャンスは、もう明日しかないから…。機会を逃せない」
アルミン「今頃アニと話してるんじゃないかな?女の子同士だし愚痴も言いたいでしょ」
-
525 : 2014/07/17(木) 22:03:15 -
ベルトルト「ユミルだってアニに言えない事はあるよ…。彼女の秘密は僕しか知らない…」アルミン「ユミルの秘密…か」
アルミン(結局、今夜は教えてもらえなかった。今後の計画も彼らが隠してきた秘密も…)
アルミン(今日中に知っておきたい。そして僕の推測通りなら…今から準備をしておく…)
アルミン(ユミルとベルトルトの間に何があったのか知らないけど、僕には関係無い)
アルミン(私情は挟まない。僕のこれからの行動に、壁内全ての人の命がかかってるんだ)
アルミン(落ち着け…冷静に、心を殺せ。誰にも悟られないように、見抜かれないように)
アルミン「ベルトルト、とりあえずお風呂に入らない?言い難いけど…その、臭いがね…」
ベルトルト「えっ!?」ビクッ
ベルトルト「…あの…アルミン…僕…そんなに、臭う…?」クンクン…
-
526 : 2014/07/17(木) 22:05:14 -
アルミン「汗の臭いがちょっと…。お風呂を使えるのは今だけだよ。明日は忙しいし」
アルミン「服も着替えなよ。…悪い事は言わない、今日は一日中走り回ってたんでしょ?」
ベルトルト「うん…。ずっと動き回ってた」
ベルトルト「大事な指輪を落としたんだ。色んな所を探して回って…結局見付からなくて…」
アルミン「そっか…大変だったね。指輪って昼にユミルが磨いてた指輪と何か関係がある?」
ベルトルト「…ユミル、昼に指輪を磨いてたの?錆びないように…」
アルミン「そうだよ。割と本格的な道具でさ!…この街で手入れ用品を買ったんだって」
アルミン「一度も使わないなんて勿体ないって…キレイに磨き終えた指輪も見せてくれた」
ベルトルト「…ユミル……う゛ぐぅ…」グスッ…
アルミン「『その指輪、気に入ってるの?』って聞いたら『気に入ってた』って彼女がさ…」
-
527 : 2014/07/17(木) 22:06:09 -
ベルトルト「…か、過去形!?」
アルミン「言い間違えたのかな?」
ベルトルト「…」ギュッ…
アルミン「ユミルの事が気になるなら、君がお風呂に入ってる間、僕が彼女を見てるよ」
ベルトルト「!?」
アルミン「部屋を見張ってればいいんだよね?ユミルが勝手に宿を出て行かないように」
ベルトルト「う、うん…そう!…いいの?」
アルミン「いいよ!もしユミルがこっそり出て行こうとしたらアニと二人で止めるから…」
-
534 : 2014/07/17(木) 22:18:13 -
パタン…
ベルトルト「上がったよ、アルミン」
アルミン「!?」ビクッ
アルミン「は、早かったね…」サッ
ベルトルト「何でここに居るの…?廊下でユミルの部屋を見張っててくれるはずじゃ…
アルミン「部屋から小さく話し声が聞こえてね。ずっとアニと話し込んでるみたいで…」
アルミン「ちょっと部屋に戻ってた。あの様子なら今夜中に居なくなるって事は無いよ…」
アルミン「第一、アニが許さないんじゃないかな?ユミルが僕らから逃げ出す事を…」
-
536 : 2014/07/17(木) 22:20:21 -
ベルトルト「彼女は情けない僕の事なんて嫌いになったかも知れないけど…僕は好き…」
アルミン「待って…泣かすつもりはないんだ!!」
ベルトルト「うん…うん……分かってる!」グスッ… ゴシゴシ…
アルミン「これ、食べてね。さっき酒場の給仕さんが持って来てくれたよ」
ベルトルト「クラブサンド?」
アルミン「そう!宿の名物なんだ。中央に馬を売りに行った時、アニが用意してくれてね」
アルミン「すごく美味しかったから、ベルトルトにも食べてもらおうと思って…」
ベルトルト「ふふっ…そっか!美味しかったんだ…。アニって気が利くでしょ?」ニコッ
-
537 : 2014/07/17(木) 22:21:56 -
アルミン「やっと笑った…。アニは気も利くし、本当は優しくて、可愛い女の子なんだ」
ベルトルト「僕は知ってたよ。昔から…」カプッ… モグモグ…
アルミン(ライナーはアニの事を妹のように思っていると言っていた…)
アルミン(ベルトルトもアニを昔から知っていた。君達はこの関係を隠してきたんだ…)
ベルトルト「これを食べるのは2回目なんだ」
アルミン「そうなの?」
ベルトルト「ユミルも気に入ってた。美味しかったって…」ゴクン…
アルミン「あ、ユミルってさ…レモン水、好き?昨夜、部屋で飲んでたんだけど…」
ベルトルト「また頼んだの?じゃ、好きなんだね。昨日の朝食の時にも注文してたよ」
-
539 : 2014/07/17(木) 22:24:27 -
ベルトルト「ありがとう…今日のアルミンは、まるでライナーみたいだ」ガタッ
アルミン「んっ…?」
ベルトルト「今日の昼、ライナーがパンと水をくれてね。今の君と同じことをしてくれた」
ベルトルト「心配かけてごめん…。明日、ユミルとちゃんと話し合って仲直りするから…」
グッ… ゴクッ…ゴクゴクッ…
ベルトルト「ぷ…はぁ……っ…」フゥーーッ…
アルミン(飲んだ!)
ベルトルト「あ…れ…?目が回る…」クラッ
-
540 : 2014/07/17(木) 22:25:25 -
アルミン「疲れたんだね、ベルトルト」
ベルトルト「立ってられない、なん…で?」フラフラ…
アルミン「少し休んだ方がいいよ」
アルミン「ほら、ベッドはこっちだよ!」グイッ
ベルトルト「だ…め……ぼくは…ユミルの…とこ…ろ…へ……
パフン…
アルミン「おやすみ、朝までね」
ベルトルト「…」
-
541 : 2014/07/17(木) 22:27:25 -
ベルトルト「………」グゥ…
アルミン「あの薬局で買った眠り薬、こんなに強かったんだ…量が多すぎたかな?」
アルミン「…さて、楽しくも無い実験を始めようか」
アルミン「エレンの時はすぐに治癒が始まっていた気がする。でも君達は、多分違うんだ」
アルミン「君達はあまり怪我をしなかったけど、たまに擦り傷を作る時があったよね…」
アルミン「すぐ治癒が始まったらみんなが怪しむ。きっと治さない選択も出来るんだ」
アルミン「巨人の能力に練度があるとして…君はどれだけの間、修復を我慢できるの?」
アルミン「意識を失うほど深く寝入ってしまったら治癒能力はどうなる?…ベルトルト」
-
542 : 2014/07/17(木) 22:28:17 -
アルミン「ライナー、君のせいだ。今夜、隠してきた秘密を教えてくれるって言ってたのに」
アルミン「もう時間が無いんだ。僕は確かめておかなきゃならない!君達の正体を…」
アルミン「ちょっと痛いけど、我慢してよ」 スッ… ピトッ プツッ…
ベルトルト「…」
アルミン(痛みに反応しない…。相当深く寝入ってる…)
ベルトルト ツツーッ…
アルミン「!!?」
アルミン(ベルトルト…君はやっぱり……)
ベルトルト シュゥゥゥゥゥ…
-
545 : 2014/07/17(木) 22:31:25 -
アニ「おまけに財布を落としたせいで金も無い。ユミルはどこへも行けやしないんだ…」アニ「ここに戻って来るしかないのさ…」
クリスタ「私…もう一度、ユミルを探してくる…」
アニ「勝手にしな。だけど遠くへ行くんじゃないよ」
アニ「ユミルが戻って来た時、今度はあんたを探しに行かなきゃならなくなるからね」
クリスタ「分かった…」クルッ
ベルトルト(ユミルが…戻って来てない?……6時間も…散歩に出たまま…)
ベルトルト「……って!今、何時!?アルミン!!」ガバッ!
ベルトルト「アルミン…?」キョロキョロ…
-
546 : 2014/07/17(木) 22:32:17 -
ベルトルト「一体、どこへ……あっ…」ズキッ…!
ベルトルト「いっ…たぁ……。少し頭が痛い…お酒を飲んだ後みたいだ。身体もだるい…」
ベルトルト ブンブン…
ベルトルト「それよりユミルだ!!」ギシッ…
アニ「ようやく起きたのかい?」
ベルトルト「う…うん。今の時間は?」
アニ「昼過ぎ」
-
548 : 2014/07/17(木) 22:34:07 -
アニ「14時までにこの宿に戻ってくればいいけど…ダメなら船着き場で17時まで待つ…」
ベルトルト「そんな悠長な事言ってる場合じゃないだろ!ユミルが戻って来なかったら…
アニ「戻って来なかったら、ベルトル…あんたのせいだよ。私が責められるいわれは無い!」
ベルトルト「うっ……」グッ
アニ「荷物は全部残ってるって言っただろ?…その内帰って来るさ、散歩に飽きたらね」
アニ「ユミルを信じてここで大人しく待っていてやりなよ…ベルトル」
アニ「戻って来る方だって勇気がいる。慌てず騒がず、戻って来たら抱きしめてやりな…」
ベルトルト「アニ、君はユミルの事…何も分かってない……」
-
551 : 2014/07/17(木) 22:37:06 -
クリスタ「お仲間の黒髪の女性が、明け方にお預かりしている馬を持ち出そうとしていた」クリスタ「ライナー様の許可が無ければ馬をお渡しできないと言ったら、彼女は…」
クリスタ「『仲間の了解は得ている!アニに確認してくれ!』…そう言ってたって!!」
アニ「…」
クリスタ「どういう事…?説明して、アニ」
アニ「もう、充分だろ?」ハァ…
クリスタ「…えっ?」
アニ「ユミル…私は時間を稼いだ。ベルトルは寝てただけだけど…。そろそろ戻ってきな」
アニ「一人になって、色々と考えただろ?」
-
552 : 2014/07/17(木) 22:37:45 -
ベルトルト「アニ…。ユミルを逃がしたの?」
ベルトルト「どうして僕らの馬をユミルに渡そうとしたんだよ…それじゃまるで…
アニ「ユミルを信じたんだ。もし戻って来なかったとしたら、全部あんたの責任だから!」
ベルトルト「全部、僕の責任…?」
アニ「ユミルはね、ここで待ってたんだ!あんたが明け方にこの部屋を訪ねて来るのを…」
ベルトルト「……ごめん、本当に」ギュッ
アニ「そりゃ理由があるだろうさ!!疲れていたとか、つい寝過ごしてしまった…とか」
アニ(あるいは、薬を盛られた…とかね)
アニ「でもそんな事、ユミルには関係ない!この部屋で少しあんたを待ち、出て行った」
-
553 : 2014/07/17(木) 22:39:00 -
ベルトルト「僕が時間通りに部屋を訪ねて来なかったから…また、ユミルを傷つけた…」アニ「ユミルを逃がしたのは私かい?それともあんたかい?……どう思う?クリスタ…」
クリスタ「ベルトルトの事なんてどうでもいいよ!!私もユミルと一緒に行く!」
アニ「クリスタ…現実を見な。あんたはユミルに置いて行かれたんだ。諦めるんだね」
クリスタ「嘘っ!そんなの信じない!!ユミルが私を置いて行くはずない!!」ググッ
アニ「じゃ、そのうち戻って来るだろ…。昼食でも食べながら待ってなよ。…二人とも」
ベルトルト「クリスタ…ユミルは馬を持ち出せなかった。そうだったよね?」
クリスタ「あなたとは話したくない…」プィッ
ベルトルト「クリスタ!今はそんな事を言ってる場合じゃないんだ!!ユミルが…
-
557 : 2014/07/17(木) 22:44:36 -
アニ「あいつは今、馬車にも乗れやしない。金も貸してやるって言ったのに、断られてね」
ベルトルト「アニ!!」
アニ「ちょっと!急に大声出さないで…。耳が痛い」
アニ「ここまでお膳立てすれば逆に気が引けて、考え直して戻って来ると思ったんだよ」
クリスタ「でも、戻って来ないじゃない!!」グスッ…
アニ「あぁ、どうにか金を工面して乗合馬車に乗ったのかも。誰かの財布を拾ったとか…」
ベルトルト「…!?」
ベルトルト「くそっ……ここでじっと待ってるなんて出来ない!!今から探しに…
アニ「ちょっと待ちな。ユミルの荷物を片付けるの手伝ってくれない?幌馬車に積んでおく」
-
559 : 2014/07/17(木) 22:47:00 -
アニ(ベルトルから貰った物は、全部置いて行く。持って行く物は自分の荷物だけ…)アニ(確かにそう言ってたね、ユミル…)
ベルトルト「あっ……これ…」スッ… パラッ…
クリスタ「…男性用のズボン?」
ベルトルト「…」
ベルトルト「…ぐすっ……何で…?」
ベルトルト「僕は急いでないって、落ち着いたら隣で縫って欲しいって、そう言ったのに」
クリスタ「この裁縫箱も置いて行ったんだ…。ベルトルトが贈ってくれたって言ってた…」
アニ「これ、最後まで編めなかったんだね。荷物を整理してる時に撫でてるのを見た」
-
560 : 2014/07/17(木) 22:48:02 -
ベルトルト「……えっ!?」バッベルトルト「僕の…マフラーだ……」
クリスタ「マフラーは完成してるのに、手袋は片方だけ…」
ベルトルト「何でだよ!!?これも急がないって…」
ベルトルト「これじゃ本当に…永遠の別れみたいじゃないか!!」グスッ…
クリスタ「上手だね…ユミルが作ったの?こんな特技があるなんて今まで知らなかった…」
アニ「確かに上手だけど、赤と青の毛糸だけだと見た目がいまいちだね…そのマフラー」
アニ「白もあるんだからそれも使えばもっと見栄えがしたんじゃないか?手袋も…」
ベルトルト「わざと使わなかったんだ」
アニ「はぁ?」
-
561 : 2014/07/17(木) 22:48:54 -
ベルトルト「僕が『白』はユミルの色だって言ったから、『自分の色』は使わなかった…」
ベルトルト「自分を連想させないように。…なのかな?無駄な努力だけど」
ベルトルト「ユミルは、悔いを残さないように心残りを仕上げて置いてった…」
ベルトルト「僕のズボンを繕って、マフラーと手袋を編んで、それを僕に残して去った」
ベルトルト「そっか…高台で『左手を出せ』って言ったのは手袋を作るためだったのか…」
ベルトルト「あの時は僕と別れるためじゃなくて…内緒で作って僕を驚かせようと…」
ベルトルト「ユミル……ひっぐ……」ポロポロ…
アニ「…」
クリスタ「ズボンのポケットに何か入ってるよ……これ、ユミルの指輪?」コロン…
-
562 : 2014/07/17(木) 22:50:08 -
ベルトルト「…ゆ、指輪!?……ちょっとクリスタ!それ貸して!!」バッ キラッベルトルト「…」ジィッ…
アニ「あんたに返すって意味だろうね」
ベルトルト「う゛ぅっ……僕は、返せなんて言ってないのに…」ギュゥゥゥゥ…
クリスタ「もう要らないんでしょ…。ユミルに、あなたは……」
ベルトルト「…っ!!」
ベルトルト「うるさいなっ!!彼女は、『返せって言われても絶対返さない』って!」キッ
ベルトルト「あの時は、本当に幸せそうに…嬉しそうに言ったんだよ!!僕に…!」
ベルトルト「…どうして?何で一人で行っちゃったんだ…。僕のそばに居たくないから?」
-
563 : 2014/07/17(木) 22:52:01 -
ベルトルト「僕が逃げ出したから?信用できないから?マルセルの事はもういいって…アニ「マルセル?」
ライナー「おい!お前ら…アルミンを見なかったか?それとそろそろ出発の準備をするぞ」
ライナー「ベルトル、アニ、手筈通り立体機動装置を付けておけ。何があるか分からん」
ライナー「ちょうど天気も曇りだ。その上から雨具を羽織っても別に不自然じゃないだろ」
ライナー「ユミルはまだ戻らないのか?のん気な奴だな…ま、そのうち戻るだろ!」
ライナー「手荷物以外は全部幌馬車に乗せておくんだ。クリスタは外套を着ておけよ?」
ライナー「アニがシーナで買って来ておいたんだ。これから外を移動するからな」ニカッ
ライナー「どうかしたか?まるで葬式みたいな雰囲気だが…」
アニ「あんた、タイミング悪すぎ。空気読みな…」
ライナー「…ん?」
-
566 : 2014/07/17(木) 22:55:49 -
・
・~表通りの商業街~
ベルトルト(まずは人が多い繁華街で目撃情報を集めるべきなんだろうけど…)
ベルトルト(僕から隠れたいユミルがそんな目立つ所に居るとは思えない…)ハァ…ハァ…
ベルトルト「馬…借りてくれば良かったかな…。走るよりは効率的だ」ガチャガチャガチャ…
ベルトルト(立体機動装置も重いし…雨具もかさ張って走りづらい)ガチャガチャ…
ベルトルト(だけど派手に馬を走らせたりしたら、ユミルが先に僕を見付けて逃げられる)
ベルトルト「まったく…君って、手が掛かるお姫様だ。…どうして僕らはこうなんだ!」
ベルトルト「僕はいつも君を追い掛けてばかりで…さすがに僕も今度ばかりは呆れるよ」
-
567 : 2014/07/17(木) 22:57:00 -
ベルトルト(でも、やっと振り向いてくれたのに…想いが通じたのに…僕は君を…)
ベルトルト「手放すなんて、絶対に出来ない!!」
ベルトルト「………いない」 ハァーーーッ…
ベルトルト(闇雲に探してもダメだ…ユミルが行きそうな場所を考えないと…)
ベルトルト「一昨日、この辺の食堂で食べた料理が美味しかったって言ってた…」
ベルトルト「僕も、一緒に行きたかったな…」
ベルトルト「…次のクロルバ区でユミルと一緒に行けばいい!今は前を向いて探すだけだ」
ベルトルト(この街に僕らの知り合いはいない…。そう思ってたけど、そうじゃない)
-
570 : 2014/07/17(木) 22:59:54 -
ベルトルト(一応、隣の化粧品店にも寄ってみようか?)ベルトルト「はぁ…こっちも入りづらい…。もしユミルを探している理由を聞かれたら…」
ベルトルト「いや、今は藁にも縋る思いだ!!」グッ
ギギッ…
~宝飾店隣、化粧品店~
ベルトルト「…あの…すいません……」
ベルトルト(留守…じゃないよね?お店の入り口に鍵は掛かってなかった…)
ベルトルト「あ、あの!」
売り子の姐さん「…あんた…こないだの、ユミルの彼氏?」ヒョイッ
ベルトルト「!?」ビクッ
-
574 : 2014/07/17(木) 23:05:14 -
売り子の姐さん「必死なんだね、王子様は」
ベルトルト「…お、王子様?」
売り子の姐さん「ガラスの靴を落とした娘を国中から探し出した王子様がいたんだよ」
売り子の姐さん「童話の話」
ベルトルト「ごめん、お姐さん。その話には付き合っていられない。僕には時間が無い…」
売り子の姐さん「それで指輪を持って探し歩いてる訳だ、この王子様は…」クククッ
売り子の姐さん「ねぇ、あんた…。別れたい女を引き留める魔法の言葉なんてないんだ」
売り子の姐さん「どうしても彼女が見付からなかったら16時になる前にここにおいで」
売り子の姐さん「私の友人に、素直で可愛い黒髪のベッピンがいるんだ!紹介してやるよ」
ベルトルト「…」ムッ
-
575 : 2014/07/17(木) 23:06:02 -
ベルトルト「…もう、行く」
売り子の姐さん「気が向いたら戻ってきな!」アハハ!
ガチャガチャガチャガチャガチャ…
ベルトルト(ここにユミルは居なかった。それにしても酷い!いい人だと思ってたのに…)
ベルトルト「別の女の子を紹介してやるとか…何なんだ、あの人…」ムカムカ…
ベルトルト(こんな所で無駄に時間を食ってしまった…)
ベルトルト(貧民街へ行こう…。あそこは隠れる場所が沢山あるから見付かるかどうか…)
-
577 : 2014/07/17(木) 23:08:14 -
ユミル「あぁ…さっき姐さんに話した通りだ」
売り子の姐さん「そうかい…。じゃ、やっぱり私はあんたの味方だ!」ニコッ
売り子の姐さん「でも偶然あんたの彼氏があんたを見付けても、私は何も知らないからね」
ユミル「…ん?」
ユミル「まぁ、いいか…」
ユミル「ご馳走様!美味しかったよ」
売り子の姐さん「そうかい?夜も食べるつもりで多めに作っておいて良かったよ」
・
・ -
589 : 2014/08/07(木) 21:46:45 -
ベルトルト(貧民街のあの子の家にも寄ってみたけどユミルは来てなかった…)
ベルトルト(あの子は家に居なくて、少し顔色の良くなった母親が僕を出迎えてくれた)
ベルトルト(僕はあの子を見捨てようとした…。この母親の泣く姿を想像すらせずに…)
ベルトルト(何度もあの時のお礼を言われた。ユミルが高台からあの子を救った時の事も)
ベルトルト(あの様子だと本当にユミルはここに来てないんだ。彼女に会いたがっていた)
ベルトルト「はぁ……」
ベルトルト(僕はあの母子に何もしてない。それどころか保身に走り、見て見ぬ振りを…)
ベルトルト「何だよ、情けなさすぎる…。こんなんじゃユミルに嫌われるのも当然だ…」
ベルトルト「いや、落ち込むのは後だ!まだ探してない所があるじゃないか!!」スクッ
ベルトルト(そっちも行き辛いけど、あの子の家のドアを叩く勇気があったんだから…)
ベルトルト「迷ってなんかいられない!ユミルを見付けるんだ」ダッ
-
590 : 2014/08/07(木) 21:47:52 -
~ヤルケル区 中心街~
高級仕立て屋
ベルトルト「そんな…」
ベルトルト「じゃ…彼女はここに来たの?その……ドレスを受け取りに…」
見習い針子「受け取りに来たかは分かりません…でも確かにこちらにお見えになりました」
見習い針子「私が…追い出しちゃいましたが…」シュン…
ベルトルト「ウェディングドレスの事、ユミルも気にしてくれてたんだ」ボソッ
見習い針子「わ、私…あの!花嫁さんに酷い事を言ってしまって!彼女は…花嫁さんは…
ベルトルト「ねぇ、何時!?ユミルがここに寄ったのは!」ガシッ
見習い針子「え…えっと…あれは確か、お昼の少し前でしたね。今から4時間ほど前…」
-
595 : 2014/08/07(木) 21:53:24 -
ベルトルト(お姐さんの店から飛び出してきた女の子…あれ…ユミル!?)ベルトルト(服装も髪型も違う…ちらりと見えた横顔も別人みたいだ。でも彼女は…)
ベルトルト「あぁ、ユミルだ…。あれは僕のユミルだ!!」パァァァッ…
ベルトルト(彼女はユミルに間違いないっ!また化粧をしてるけど、僕には分かる!!)
ベルトルト「あっ……雨具が足に巻き付いて…」ヨロッ…
ベルトルト(ユミルが行っちゃう!脇目も振らずに走って、僕から離れていく!!)
ベルトルト「くそっ!こんなの邪魔だっ!!」バッ
ベルトルト(雨具を脱ぎ捨てたら少し走りやすくなった!ユミルに追いつけるか!?)
ダダダダダッ…
ベルトルト(行け!今ならまだ間に合う!!夢の中のユミルもそう言ってた…僕は彼女を)
-
596 : 2014/08/07(木) 21:54:11 -
ベルトルト「…絶対に手放さない!!」ベルトルト(馬車の前で、止まった?)ダッダッダッダッ…
ベルトルト(乗合馬車?…違う、ユミルはお金を持ってない。それにあの馬車の装飾…)
ベルトルト「まずい!あれって貴族の馬車じゃないか!!」
ベルトルト(ユミル、君はどこへ行くつもりなんだ!?何だって貴族の馬車になんか…)
ベルトルト「世間知らずの僕にだって分かる…。あの馬車は…」ギリッ
ベルトルト(開拓地にもあんな馬車が来てた。身寄りのない、見目の良い少女を狙って…)
-
598 : 2014/08/07(木) 21:56:26 -
ベルトルト「はははっ…ユミル。僕は諦めが悪い男なんだ。でも、故郷に帰るのは諦めた」
ベルトルト「その代りに君の事は絶対に諦めないって決めた。…やっぱり僕は嘘つきだね」
ベルトルト「…もうこれしかない」 ハァ…ハァ…
ベルトルト「ライナー、ごめん…。僕ら憲兵に捕まっちゃうかも…。でも後悔はしない!」
ベルトルト(君を捕まえる!!) ダッ… バシュゥッ…
ブワッ ギュィィィィィン…
ベルトルト「今、君の元へ行く!」
パシュン… クイッ
-
599 : 2014/08/07(木) 21:57:48 -
道行く人々「見て!あれ…」 ザワザワ… ザワザワ…
ザワザワ…通りのすがりの人々「立体機動か?…ここは街中だぞ!おい誰か…憲兵を呼んで来い!!」
ベルトルト「…」 シュパン… グンッ
キュルキュルキュル…
ベルトルト(君まであと…少し……) バシュッ… ビュォッ…
ベルトルト「ユミルーーーーっ!!!」バッ
-
600 : 2014/08/07(木) 21:59:49 -
~王都へ向かう馬車の中~
乗り合わせた少女「何だか外が騒がしいね…」
ユミル(そうだな…。通行人が空を見上げて指を指しているが、何かあったのか?)
乗り合わせた少女「嘘…!何アレ…あれが立体機動?兵士が使っているとこ初めて見た…」
ユミル「…立体機動?街中で、か?」
ユミル(馬鹿な…トロスト区の時は非常時だった。通常、街中で立体機動は禁止され…)
ユミル「!!?……ま、まさか!」バッ!
乗り合わせた少女「ね…ねぇ、あなた!そんなに窓から身を乗り出したら危ないってば!」
ユミル「あぁっ…」グッ…
乗り合わせた少女「もう本当に落ちちゃうからっ!!ほら、座って…」グイグイッ
-
601 : 2014/08/07(木) 22:00:55 -
ユミル「おいっ!速度を上げろ!追い付かれるぞっ!!」
貴族の従者「ペ…ペトラちゃん?」
ユミル「…聞こえてんのか?お前に言ってんだよっ!!返事は!?」
使用人の男「は、はい!」バチンッ!
ドドドドドドドドドッ…
ユミル「ベルトル…さん……だよな?」
ユミル「何やってんだよ…そんなことしたら、この街の憲兵に囲まれちまって、計画が…」
ユミル「急げよ!!もっとだ!もっと馬車の速度を上げろ!」
使用人の男「こ、これが限界です…。なんせ6人も乗ってるんですからっ!」
-
603 : 2014/08/07(木) 22:02:55 -
ベルトルト「ユミル!!」
ベルトルト(捕らえたっ!)バシュゥゥ…
ガチィッ… ギュィンッ…
ガタン!ガガガガガッ…
乗り合わせた少女達「「「キャァァァァアアア!!!」」」 ガガガガガガッ…
使用人の男「馬車が後ろに引っ張られてる!」ガクッ
ユミル「馬の脚を止めるな!そのまま走り続けろ!!…うぉっ!」ガタガタガタッ…
-
604 : 2014/08/07(木) 22:03:52 -
貴族の従者「一体、何が起こってるんだ…」ベルトルト「馬車を止めてっ!」バッ
使用人の男「ひゃ…っ!?」
ベルトルト「早くっ!今すぐこの馬車を止めろっ!!」
使用人の男「は、はいっ!!」
貴族の従者「と、止めるな!馬鹿者が!!」
ユミル「ベルトルさん…」ガラガラ…
ベルトルト「ユミル、やっと会えた…」ハァ…
-
605 : 2014/08/07(木) 22:04:37 -
乗り合わせた少女「本当に馬車が止まっちゃった…」ガラガラ… ガクン…
ベルトルト「振り落されるかと思った…。外装に穴を開けちゃったね、弁償出来るかな…」
ベルトルト「ねぇ、降りてきて…」ソォッ…
ユミル「…」ギギッ… タンッ
ベルトルト「おかえり、ユミル!ようやく君を捕まえた…」グイッ
ギュゥゥゥゥッ…
-
606 : 2014/08/07(木) 22:06:39 -
ユミル「あ……あっ………な、何で…」
ユミル「何で、震えてないんだ…?」
ユミル「私が怖いんだろう?…昨日までは立ってられないくらい、お前は震えてたのに…」
ユミル「何でここに来たんだ…。何で追い掛けてきた?今朝は部屋に来なかったくせに…」
ユミル「おまっ…お前は、何を考えてんだ…。それで私をどうしたいんだ?」ジワッ…
ベルトルト「泣いちゃダメだ、ユミル。僕も泣かない」ギュッ…
ベルトルト「怖くないんだ、君の事。もう少しも怖くない」
ベルトルト「君が戻って来ないって知った時、僕がこの世で一番怖いと思ったのは…」
ベルトルト「もう二度と君に会えなくなる事だった。そう考えたら自然と震えも止まった」
-
613 : 2014/08/07(木) 22:13:48 -
ユミル「そうだったっけ?…覚えてねぇな」貴族の従者「おっ、おい!お前、ちょっと綺麗な顔してるからって調子に…
ユミル「お前さ、よく私だって分かったな?化粧もしてたし、髪型も服装も違ってたのに」
ベルトルト「化粧をしててもユミルはユミルだ。すぐに分かった!相変わらず綺麗だよ」
ユミル「ば、馬鹿!綺麗とか…言うなよ…」///
ユミル「中身は醜悪な巨…
ベルトルト「ユミルっ!」
ユミル ビクッ!
ベルトルト「中身も綺麗な僕の恋人だ…」
ベルトルト「ほら、手を出して!右手」
-
615 : 2014/08/07(木) 22:15:49 -
ユミル「まだお前の『一生のお願い』は変わってないか?それとも忘れちまったのか?」
ベルトルト「…ユミル」
ベルトルト「忘れるわけないだろ!?」
ベルトルト「一言一句、間違えずに言える。ずっと考えて、やっと君に伝えたんだ…」
ユミル「そうか…」
ベルトルト「でもこの場で?…あの、結構、野次馬がね…集まってきちゃってるんだけど」チラッ
ザワザワ… ヒソヒソ…
ユミル「人が多いと、言えないのか…?」ジィッ…
-
616 : 2014/08/07(木) 22:16:52 -
ベルトルト(上目遣いなんて卑怯だっ…しかもすっごく可愛いし…)///ドキドキ…
ベルトルト「ち、違うって!そうじゃないけどそろそろ憲兵を呼ばれそうな予感が…」
ユミル「じゃ、憲兵が来る前に言え!今すぐ言え!とっとと言え!ほらほらほらほら!!」
ベルトルト「言うっ!言うから…ちょ、ちょっと落ち着いて!…し、深呼吸…」スゥーー
ベルトルト ハァーー「…よし!…じゃ、もう一度言うからね。よく聞いててよ?ユミル」
スゥゥゥゥ…
ユミル(見たかった、お前の顔を…。会いたかった、今日一日…ずっと…。だから……)
ユミル(どんな瞬間も見逃さない!今なら、お前の『一生のお願い』を受け止められる)
-
617 : 2014/08/07(木) 22:17:33 -
ベルトルト「君の全部を、僕にちょうだい!」
ベルトルト「その心も、身体も、声も、魂すら残らず欲しい!!」
ベルトルト「一生、僕のそばに居てくれる?ユミル!お願いだ」
通りがかりの男 ヒュゥーー「公開プロポーズかい、兄ちゃん?」ニヤニヤ
集まった野次馬「綺麗な姉ちゃん!この色男の求婚にどう返事をするんだい?」アハハ
ヒソヒソ… ザワザワ…
-
619 : 2014/08/07(木) 22:18:48 -
ユミル「最高にイカした第2の人生もこれで終わりか…いや、これから始まるのかな…」ベルトルト「ユミル…」
ユミル「よし!決めた!!」ニッ
ユミル「ベルトルさんと興味本位で集まった野次馬共、耳の穴かっぽじってよーく聞けよ?」
ユミル「私の返事は……」
-
620 : 2014/08/07(木) 22:19:53 -
ユミル「『うん』だ!これ以外の返事はねぇだろ!?どうだ、ベルトルさん!!」
ベルトルト「…」
ベルトルト「……」
ベルトルト「………」フルフルフルフル…
ベルトルト「ユミル!本当!?僕の『一生のお願い』叶えてくれるの?」
ユミル「あぁ…もうそれでいいよ。いいや、違うな…それがいい。私もそれを望んでいる」
ユミル「一人になって分かっちまった。お前から逃げて一人で罪を背負って生きる人生は」
ユミル「なんて苦しくてつまらない人生なんだろう…ってな。…おい、馬鹿!泣くなっ」
-
621 : 2014/08/07(木) 22:20:49 -
ベルトルト「ぐすっ……だって、信じられない…本当にもう二度と会えないと思って…」
ユミル「泣かないって言っただろ?ほら、顔を上げろ…お前の願いは叶った。笑ってくれ」
ベルトルト「ユミル、愛してる!!ずっと、ずっと僕のそばに居てね!約束だからね!」
ユミル「うん、分かってる…」ポンポン
ユミル(私ら二人の問題点はこれから少しずつ話し合って、折り合いをつけていく…)
ユミル(きっとそれが『夫婦』になるって事なんだ、多分。雰囲気に流されてないよな?)
ユミル「ベルトルさん、左手を出せ」
-
622 : 2014/08/07(木) 22:21:40 -
ベルトルト「えっ…?な、何で!?」ユミル「早く!左手だ」
ベルトルト「…は、はい」スッ
ユミル「お前の指輪、私が代わりに見付けてやった。薬指にはめてやる…」
ベルトルト「ぼ、僕の指輪!?ユミルが見付けたの?」
ユミル「あぁ、高台のふもとに落ちていたんだ。詳しい事はまた後でな。…薬指を出せ」
ベルトルト「待って!左手の薬指って…意味分かってる?ユミル」
ユミル「結婚指輪じゃなかったか?これ」
ベルトルト「…」
ベルトルト「あああぁぁああぁっ…!もう、今日はなんて日だ!最高だ!!」ギュゥゥゥゥゥ…
ユミル「わっ!?な、なんだよ…」
-
623 : 2014/08/07(木) 22:22:35 -
ベルトルト「君から出して、左手の薬指」
ユミル「あぁ…分かった」
ベルトルト「…本当に…結婚、しちゃうからね。今ここで」
ユミル「式は後でちゃんと頼むな!」ニッ
ベルトルト「勿論!これから二人で結婚式の衣装も取りに行くんだから」ニコッ
ザワザワ… キャァ/// プロポーズガセイコウシタ! ヒソヒソ… ソワソワ……
ユミル スッ
ベルトルト「今から、君は僕のお嫁さんだよ!」ソッ
グリッ キュッキュッ…
-
624 : 2014/08/07(木) 22:23:34 -
ユミル「ふふっ…」キラッ
ユミル「こんな泣き虫の旦那じゃ、先が思いやられるけどなぁ…これから教育するか」
スゥ… ツッ キュッ グリグリ…
ベルトルト「僕の指輪…戻って来た…」キラッ
ワァァァァァッ!! パチパチパチパチ… オメデトウ! パチパチ…
集まった野次馬「誓いのキスはしないのか~?」グハハ!
通りすがりの人々「おめでとう!若いお二人さん!!」パチパチパチ!
乗り合わせた少女「…すいません。おじさま?私達もうこの区を出ないと…」
-
625 : 2014/08/07(木) 22:25:07 -
貴族の従者「はっ!そうだ…。おい、ペトラ!いい加減に馬車に戻れ!ここで足止め…ベルトルト「キスはここじゃ恥ずかしいから無理だよ!」///テレテレ…
ユミル「ど、同感だ…。あぁっ…時間!?間に合うのか、本当に」
ベルトルト カチッ「……まずい…本当に時間が無い…」
ベルトルト「ユミル、行くよ!僕に掴まって」チュッ
ユミル「んっ…?」
ベルトルト「額にだったら、ここでキスしてもいいよね?」///
ユミル「いらん…。急げ!!」
ベルトルト「…えっと…まずスカートを縛る!排気口を塞がないように膝を立てて…」
ベルトルト「それで僕の肩から腕を回して。そのまましっかり抱きついてるんだ!いいね?」
-
626 : 2014/08/07(木) 22:25:45 -
ユミル シュルッ …ギュッ
ユミル「こ、こうか?」///
ザッザッザッ…
到着した憲兵「街中で立体機動装置を使った者はどいつだ?名乗り出ろ!どこだっ!?」
ベルトルト「あぁっと…そうだ、おじさん!」
貴族の従者「お、おじさん?」
ベルトルト「馬車に穴を開けてすいません。多分足りないと思うけどこれで何とかして!」ジャラッ
貴族の従者「…」ジャッ…
-
628 : 2014/08/07(木) 22:28:14 -
ベルトルト パシュッ… カッ ギュィィィィ…到着した憲兵「おいっ!所属と階級を言え!こんな事をしてタダで済むと思うなよっ!!」
乗り合わせた少女「いいなぁ…私も誰か素敵な人がさらいに来てくれないかなぁ…」
貴族の従者「はぁ…上玉を逃がした……。何だったんだ一体…ペトラちゃん…」ヘナヘナ…ペタン
ユミル「時間は!?」
ベルトルト「多分ギリギリ…。これからあの仕立て屋に寄る!その後、船に直行!!」
バシュッ カッ キリキリキリ…
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629 : 2014/08/07(木) 22:30:01 -
ユミル「街中で立体機動か…。下は大騒ぎだなぁ…明日の新聞にも載りそう」ハァ…
ベルトルト「追手は?」
ユミル「遠くに見える。でも立体機動じゃない!走って追って来てる…3人だ!撒けるか?」
ユミル(街中での立体機動は許可がいる。上官が許可しない限り立体機動装置は使えない…)
ベルトルト「二人だと速度が出ないから厳しいね…って思ったけど空中じゃなきゃ余裕!」
ユミル「おいおい…速度が出ないってな…当たり前だろ?基本一人で使う設計なんだから」
ユミル「また私を『重い』って言うつもりか?女に…いや、つ…妻に向かって…」
ベルトルト「確かに『重い』んだけど心地よい重さだ。一人じゃ軽すぎて、僕は不満だ」
ベルトルト「これからは二人で飛ぼう。どこへ行くにも二人がいい。重いのは大歓迎だ!」
ユミル「……やっぱ『重い』って思ってるんじゃねぇか!…馬鹿」ムッ
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630 : 2014/08/07(木) 22:30:38 -
ベルトルト「着いた!」ビュン… タッ
見習い針子「…お客さん?」
ベルトルト「悪い!時間が無いんだ。すぐに出してくれる?僕たちの衣装…」
ユミル「追われてるんだ!急いでくれ」
見習い針子「酷い!あの花嫁さんが見付からなかったからってもう乗り換えたんですか?」
ベルトルト「は?」
見習い針子「どこで知り合ったか知りませんけど!!こんな美人に誘惑されたからって…
ベルトルト「ちょ…ちょっと待って!何か誤解してるようだけど彼女、ユミルだから!!」
見習い針子「へぇっ?」
-
631 : 2014/08/07(木) 22:31:18 -
ユミル「…えっと、本人だ。今日、お前に『仲直りしろ!』って」叱られた本人だよ…」ユミル「ついでに『二人で一緒に取りに来るまで店に来るな』って言われたのも覚えてる」
見習い針子「…」
見習い針子「ば、化けましたね…。別人に見えます……」ゴクッ
ユミル「いいから早く出してくれ!憲兵に追われてんだよ!!」バンッ!
見習い針子「は、はいっ!今すぐにっ!!」タタタタタッ…
ベルトルト「…ありがとう。お店のご主人にもよろしく伝えて!会えなくて残念だけど…」
見習い針子「はい!マスターにもちゃんとご夫婦が衣装を取りに来た事、伝えます!!」
ユミル「もう会うことも無いけど、ドレス…大事に着るからな。あと、あれもありがと…」
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632 : 2014/08/07(木) 22:32:08 -
見習い針子「あれって…?」ユミル「『逃げずに償う勇気を持って欲しい』…そう私に言っただろ?職人さん」
見習い針子「はい…。生意気に口を出しました…」シュン…
ユミル「償っていくよ。とても難しい事だけど…こいつから『逃げる』のはやめたんだ」
ベルトルト「償う…」
ベルトルト「僕も、生きる事で償う…。きっと償いきれないけど、罪を背負い続ける…」
見習い針子「そうですか…。私には何も言えません…。でもこれだけは言わせて!」
見習い針子「…若いご夫婦に、祝福あれ」ニコッ
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634 : 2014/08/07(木) 22:33:58 -
今日はここまで
読んでくれてありがとう「仕立て屋店主」が「マスター」表記になっているのを発見した
「宝飾店の店主」に続き、表記ミス2回目。誤字が多くてすまない色々盛り込もうと思っていたのにすっかり忘れてしまった
これでいいのか迷ったけど結局これで出した。完結したら直すかも知れないまたしても中途半端な所で切ってしまった
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635 : 2014/08/07(木) 22:35:01 -
ついでに宣伝で申し訳ない。今回も息抜きしてた8か月前に深夜で投下したクリスマス話を修正・加筆して他板で立て直した
〆の箇所をかなり修正したので既読の方も読み直してくれたら嬉しいベルトルト「君が好きだから」マルコ「大好きなんだよ!ユミル」
(旧タイトル:ベルトルト「ユミル、処女で死ぬのは寂しいよね」X`mas SP)http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/6888/1406645936/
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641 : 2014/08/29(金) 22:26:43 -
脱走から6日目・夕方
壁外調査まであと2日
~ウォール・シーナ西 突出区~
ヤルケル区内 船着き場 船上
ビュゥッ… タッ… ガクッ
ベルトルト「はぁ…はぁ……はぁ…」
ユミル「…よし!上手く奴らを捲けた。さすがベルトルさんだな!」タンッ
ベルトルト「間に合った…。ユミル…これでまた君と一緒に旅が続けられる…」ギュッ
ユミル「よしよし…よく頑張ったな。偉かったぞ」ナデナデ…
ベルトルト「ふぅ…ガスもギリギリ。こっちも何とか間に合った。二人だと減りが早い」コンコン…
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643 : 2014/08/29(金) 22:28:27 -
アニ「おかえり、ベルトル。戻って来たんだね。ユミルは…見付からなかったみたいだね」
アニ「でもあんただけでも戻って来てくれて助かったよ……で、その女は何なの?」チラッ
ベルトルト「……またそれか」ハァーー…
ライナー「お前まさか、ユミルの代わりにヤルケル区の街娘をさらってきたのか!?」
ライナー「しかもかなりの美人じゃないか!まずいぞ…こんな所で騒がれたりしたら…」
ユミル「はぁ…説明とか面倒くせぇ…」
クリスタ「ユミル!……ユミル…良かった。待ってた…ずっと待ってたよ!!」ダッ ギュッ
ライナー「…ユ…ユミルだと?」
アニー「この女が?」
-
645 : 2014/08/29(金) 22:30:11 -
ユミル「なぁ、そうしてくれ!私をもっと咎めて叱ってくれ…だって私はお前を置いて…クリスタ「でも!戻って来てくれたから!!」
クリスタ「もう…もう、いいの……いいんだよ、ユミル」ヒック…
クリスタ「それに私……ううん…他の誰でもユミルに暴力をふるうのは嫌なの…」
クリスタ「だからこれでいいの。でも、私を置いて行った理由は後でちゃんと聞かせてね」
ユミル「あぁ…分かった。話せる事は全部お前に話すよ」
ユミル「クリスタ、思いっきり抱きしめてもいいか?」
クリスタ「うん…私もユミルを抱きしめたい!!」バッ ギュゥゥゥゥッ…
-
646 : 2014/08/29(金) 22:31:20 -
ユミル「もう二度とお前にも会うことは出来ないと覚悟を決めて宿を出たんだ…」グッユミル「私も嬉しい…またお前と再会できて…こうしてお前が私の腕の中にいる事が…」
クリスタ「ユミル、あなたの腕の中は…温かいよ……」グスッ グリグリ…
ユミル「ごめんな…クリスタ……」ギュゥゥゥゥッ…
アルミン「あれユミルなんだ…。女性らしいドレスのせい?それとも化粧のせいかな…」
アルミン「知らない人みたいだ。声が変わってないから辛うじて本人だと分かったけど…」
ライナー「信じられん…。あれがユミルか?馬子にも衣装だな。顔も雰囲気も違い過ぎる」
アニ「化粧一つで女は変わる…私は別段驚かないよ。ベルトルは見る目がある」
ベルトルト「顔で彼女を好きになった訳じゃないよ!そりゃ見た目も含めて好きだけど…」
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647 : 2014/08/29(金) 22:32:29 -
アニ「惚気たいなら聞いてやらないことも無いけど…あぁ…やっと船が動き出した」ホッライナー「これで一安心だな…物語で言えば大団円。仲直り出来て良かったな、お前ら」
ベルトルト「仲直りって言うかね…そ…それもそうなんだけど……えっと、実は僕ら…
ユミル「クリスタ、お前がここに居るって事はライナーを選んだんだな。自分の意思で…」
クリスタ「…違うよ。ユミルが出発までに船に乗らなかったら、飛び降りようと思ってた」
ユミル「それ、本当か?」
クリスタ「うん…。ベルトルトだけじゃなくて、私もあなたを探した」
クリスタ「でも見付からなくて、行き違いになるのを恐れてここであなたを待ってたの」
クリスタ「もしあなたが戻って来なかったら、私も直前に船を降りてこの区に残ろうって…」
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648 : 2014/08/29(金) 22:33:07 -
ユミル「そっか…私はお前に苦しい決断をさせるところだったんだな」ギュゥゥゥ…
クリスタ「苦しい決断?」
ユミル「私のために船を降りれば、ライナーと…ライナーのみならずアルミンやアニとも」
ユミル「永遠の別れになっていたと思うから…お前にとっては苦渋の決断だったはずだ」
クリスタ「…」
ユミル「左手の薬指…」
クリスタ「えっ…」ドキッ
-
650 : 2014/08/29(金) 22:35:34 -
クリスタ「うん…」
ユミル「ふふっ…そっか、良かったな!!ライナー」クルッ
ユミル「お前、もう選んでんじゃねぇか…」
クリスタ「私が何を選んだの?」
ユミル「ライナーとの未来を」
ライナー「!?……ユミル、お前…」
クリスタ「わ、私…そんなの分かんないよ!選んでない!!だって私はユミルのそばに…
ユミル「いいんだよ、それで。ライナーと一緒になってもずっとお前のそばに居るから」
-
651 : 2014/08/29(金) 22:36:26 -
ユミル「ずっとずーっと隣で見守ってるから…ベルトルさんと一緒に。お前達の事を…」
クリスタ「…ユミル」ギュゥゥゥッ…
ライナー「おい!急に何を言い出すんだっ…お前は!」
ユミル「まだ先の話になるが、クリスタは左手の薬指にお前の指輪をはめてもいいってさ」クククッ
ライナー「なっ……!?…ク、クリスタ…ユミルの言ってる事は本当か?」
クリスタ「もう、ユミルっ!!」///カァァッ…
ユミル「一緒に寝かせたのは正解だったな。どうやってこいつの心を動かした?まさか…
-
652 : 2014/08/29(金) 22:37:30 -
ライナー「て、手は出してないぞ!勘違いするな。昨夜俺の想いを改めて伝えただけだ!」ユミル「分かってるよ!冗談だ。ははっ…」
アルミン「二人とも顔が真っ赤だね」
ライナー「アルミンまで…あまり俺達をからかうな…」///
アニ「ねぇ…あんたさ、着ていた雨具はどうしたの?立体機動装置が剥き出しだけど」
ベルトルト「動きづらくて途中で脱ぎ捨てた…。ごめん、目立たないように外しておく」パチン… パチン…
ユミル「こいつの立体機動装置を使ってここまで来た。そうしなきゃ間に合わなかった」
ユミル「だが憲兵共にこの船に乗る所は見られてはいないはずだ。安心していい、アニ」
-
653 : 2014/08/29(金) 22:38:25 -
アニ「…そう…ならいいけど」
ユミル「すまない、どれもこれも私のせいだ…。だからこいつを責めるのは見当違いだ」
ユミル「憲兵に捕まる覚悟で立体機動装置を使ったんだ。で、私は捕まえられた…と」
ベルトルト「ユミル…」
クリスタ「ユミル、その指輪……あなたこそどうして左手に指輪をしてるの?」
ベルトルト「あっ!そうだった…。驚かないで聞いてね…その…僕ら……
ユミル「勢いで結婚しちまった!こいつと」グイッ!
ライナー「はっ?」
アルミン「えっ!?」
-
654 : 2014/08/29(金) 22:39:41 -
アニ「はぁ……」クリスタ「う、嘘っ…!」
クリスタ「ちょっと待って!!ユミルはともかく、ベルトルトは結婚できない歳だよっ!」
ベルトルト「それは関係ないよ、クリスタ」
ベルトルト「僕らはこれから戸籍も法律も意味がない所へ行く。婚姻は本人の気持ち次第」
ユミル「そうだな…。私達が『結婚した』って決めたんなら、もう『結婚してる』んだ」
クリスタ「ユミル…本当に結婚しちゃったんだ……私に内緒でベルトルトと…」シュン…
ライナー「夫婦喧嘩は犬も食わない…が、本当になっちまったな…クリスタ」
アルミン「それで戻って来たんだね、ユミル」
-
656 : 2014/08/29(金) 22:41:42 -
クリスタ「中身、見てもいいかな?」ワクワク…
ユミル「いいぞ!実はそれ、まだ袖を通してないんだ。試着する時間が無くてさ…」
クリスタ「思ったより生地が少ないね…でも肌触りがすごくいい…。付属品も凝ってる…」
ユミル「その中には特注のドレスとベール、グローブ、チョーカが入っていて……あっ!」
クリスタ「どうしたの?ユミル」
ユミル「いや…靴を買い忘れてな。別に全部揃える必要はないから裸足でもいいか…」
ベルトルト「ユミル」
ユミル「ん?」
-
658 : 2014/08/29(金) 22:44:24 -
ベルトルト「お待たせ!急いで戻って来た。すぐにでも君に見せたくて…」サッユミル「お前…これ、どうして…?私の靴のサイズなんて知らないだろ…」
ベルトルト「本当は君を連れて買いに行くつもりだったけど、偶然にサイズを知ってね」
ベルトルト「驚かせようと思ってこっそり買いに行ったら靴屋のおじさんに怒られた…」
ユミル「怒られた?」
ベルトルト「足裏のサイズが分かっても本人に履かせてみないと合うかどうか分からない」
ベルトルト「俺の店で靴を買いたかったらお前の女をここに連れて来い!…だってさ」
ユミル「ははっ…正論だ!この街の職人はみんな誇り高いんだな。靴ってのは難しいんだ」
ベルトルト「毎日履くわけじゃない!特別な靴だからって拝み倒して売ってもらったんだ」
ユミル「まぁ確かに特別な靴だわな。踵の高さが10cm?…こんな靴毎日履けねぇわ!」
-
659 : 2014/08/29(金) 22:45:18 -
ベルトルト「ねぇ履いてみてよ!今ここで」
ユミル「この揺れる船上でか?…チッ…お前な……ハァ……もう…仕方ねぇ奴だな」
ユミル「よっ……と。おっと、足元が…」ヨロッ… ムギュッ
ベルトルト「僕が支えてるから…大丈夫。このまま寄り掛かって。どう?履き心地は」
ユミル「…重心が高くなって少し不安定だが悪くはない。真っ白だから汚れないか心配だ」
ユミル「なぁ、私の靴のサイズを知ったのってあの時か?」
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662 : 2014/08/29(金) 22:50:13 -
ユミル「ありがとう、迎えに来てくれて。あの馬車に乗ってる時、帰りたくなったんだ」
ユミル「もう一度会いたくなった…お前に。でももう降りる事は出来ないんだと…
ベルトルト「つけてあげる!君に似合うはずだ、この髪留め。白百合の花を模ってるんだ」
ユミル「見りゃ分かるよ!とても高価な物だって事もな…。上品な真珠が使われている」
ベルトルト「この真珠はシーナにある淡水湖でしか取れないんだって。大事にしてね」パチン…
クリスタ「ユミル…すごく綺麗…。その見慣れないドレスも白が基調だからまるで…
アニ「ウェディングドレスみたい?クリスタ」
クリスタ「うん…。本当に花嫁さんみたい」
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666 : 2014/08/29(金) 22:56:13 -
ベルトルト「ダメだよ、死ぬなんて!!僕の前でそんなこと簡単に言わないでよっ!」ユミル「どっちかって言うとお前の方が死ぬ死ぬ言ってる印象なんだが…」
ユミル「最近で言えば、私と無理心中しようとしたりさ…」
ベルトルト「もう言わない…死ぬなんて、絶対言わない。君がいるから長生きしたい」ボソボソ…
ユミル「あはは!それがいい。そうしろ」
ユミル「長生きして、いっぱい苦しんで、泣いて、笑って、悩みながら生きるか…一緒に」
ベルトルト「うん…そうするよ、この先は」
クリスタ「ユミル、約束!」
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667 : 2014/08/29(金) 22:57:27 -
ユミル「うん?」クリスタ「ライナーと一緒に一晩同じ部屋で過ごしたら…私のお願いを叶えてくれるって」
ユミル「あれか…。私の顔に化粧をしたい…だったか?だがもう化粧をしてもらってな…」
クリスタ「上手な人にしてもらったんだね。その姿だと私のユミルじゃないみたい」
ベルトルト「もう僕のユミルだよ!」ムッ
クリスタ「でもほら、目元…涙で化粧が落ちてる。それに口紅も薄くなってるから」
クリスタ「私に化粧を直させて?いいでしょ?」
ユミル「もう落とすつもりだったんだが…約束だからな。お前の好きにしてくれ」
ベルトルト「ユミル、その口紅…」
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668 : 2014/08/29(金) 22:59:23 -
ユミル「ふぅ…今頃気付いたか、遅ぇぞ。お前が選んでくれたあの口紅だ。似合うか?」ベルトルト「似合うよ!すっごく似合う…僕の思った通りだ。君の肌に良く映える」///
ユミル「この靴、脱いでいいか?よろけて転びそうだ…。ちょっと高すぎやしないか?」
ベルトルト「でもこれくらいじゃないと誓いのキスがしにくいから」
ユミル「は?」
ベルトルト「僕の身長が高すぎるから、少し高めのヒールにした。キスしやすいように」
ユミル「あーーーっ…なるほどねー……とでも言うと思ったか!?なんだその理由は!」
ベルトルト「ちょっと!…これ、僕にとってはかなり切実な問題なんだよっ!?」
クリスタ「キスも…してるの?…ユミルの初めてのキスの相手ってベルトルトだったの?」ジーーーッ
アニ「いいんじゃないの?結婚したんだし…キスぐらいするだろ」
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670 : 2014/08/29(金) 23:01:32 -
ユミル「いや…いい、その…目立つし…。それに早く着替えて化粧を落としたい…」クリスタ「そのウェディングドレスを試着してみるだけだよ。私も着替えを手伝うから…」
クリスタ「化粧も直すから…。ねぇ、私にユミルのとびっきり綺麗な姿、見せてくれる?」
ユミル「お前にそう言われたら断れないだろ?じゃ袖を通してみるか…気乗りしないが」
ライナー「俺も用意すべきだった…クリスタの花嫁衣裳…。くそっ…」
ベルトルト「僕の言う事は聞いてくれないのに…クリスタの言う事は聞くんだ…」グスッ…
ユミル「そんな些細な事で落ち込むなよ!ほら、お前も着替えるんだろ?船室へ行くぞ」
アルミン「…」
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671 : 2014/08/29(金) 23:03:11 -
・
・~ウォール・ローゼ西 河川~
クロルバ区へ向かう船の中 乗客用船室
ユミル「はーーーっ…やっと解放された…」
ベルトルト「寸法もピッタリだったね。生地も縫製も良かった……綺麗だった、ユミル…」
ベルトルト「僕はかなり満足だ…あぁっ…いつかする僕らの結婚式が待ちきれない!」///
ベルトルト「この後は船内で一夜を明かして、この船がクロルバ区に着くのを待つだけだ」
アニ「ライナー…船室は1つしか取れなかったの?普通より少し広めの部屋だけどさ…」
アニ「さすがに6人も居ると狭い」
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672 : 2014/08/29(金) 23:04:43 -
ライナー「毛布もあるし今夜は寝るだけだ、文句言うな。それにしてもお前ら良かったな」
ベルトルト「うん…良かった。ユミルを捕まえる事が出来て…僕の元に戻って来てくれて」
ベルトルト「ありがとう…」ソッ…
ユミル「…いや、感謝してるのはこっちだ」ギュッ…
クリスタ「私もユミルの化粧姿…ううん、ウェディングドレス姿も見れて良かった…」
クリスタ「ねぇユミル、たまに私の化粧品を使ってユミルを変身させてもいいかな?」
ユミル「ダメだ。私なんかに使うのは勿体ない!化粧品は高価なんだ。もっと大事に使え」
ユミル「それ、ライナーから買って貰ったんだろ?約束は果たした。だから次は無い!」
クリスタ「む~~っ…ユミルのケチ…」
アルミン「良く似合ってた。綺麗だったよ、ユミル。その純白の髪留めも、高めの靴も…」
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675 : 2014/08/29(金) 23:08:15 -
クリスタ「ユミルの花嫁姿を写し取ってずっと紙の上に留めておけるだなんて素敵だね!」フフッライナー「さて、明日に備えてもう寝るか。少々狭くて窮屈だがそれも旅の思い出になる」ハハッ
アニ「賛成、クロルバ区に着いたらまず朝食を取ってそれから宿を…
アルミン「あの……さ…」
ライナー「どうした?アルミン」
アルミン「みんな、喉が乾かない?人数分の飲料水を用意しておいたんだけど…」
ベルトルト「…そう言われると水が飲みたくなってくるね」
ユミル「腹も空いたしな…」
-
677 : 2014/08/29(金) 23:10:24 -
ベルトルト「ねぇ…その左手の傷…どう?傷口、開いてない?…まだ痛むよね?」
ユミル「痛むよ…。だが、痛んで構わない。お前が気に病むことは無いんだ。すまない…」
ベルトルト「…」
アルミン「今、貨物室から持って来る。馬の様子も気になるし…少し待ってて…」
アルミン「それと…」チラッ
アルミン「ライナー、これから先の計画…僕は何も知らない。今夜中に教えて欲しい」
アルミン「ずっと先延ばしにされてきたけど、僕ら6人…君の条件通り、全員揃っている」
ライナー「…あぁ」
ライナー「分かった…お前が戻ったら俺から話す。いいか?アニ、ベルトル…」
-
678 : 2014/08/29(金) 23:11:29 -
アニ「よろしく、ライナー…」コクッ
ベルトルト「ごめん…いつも君に押し付けてばかりだ。僕からもお願いする」
アルミン「じゃ、僕が水を持って来たら続きを聞かせて」スクッ
クリスタ「行っちゃったね…何だかアルミン、少し怒ってるような感じがした…」
ユミル「気のせいだろ?いつもあんな感じじゃねぇか?あいつ…」
アニ「…アルミン」
-
681 : 2014/08/29(金) 23:15:26 -
アニ「悪いんだけど、次からは二人っきりの時にやってくんない?目のやり場に困る」
クリスタ「ア…アニ…。それを言っちゃダメだよっ!」///
ライナー「全くもって同感だ…」ハァ…
ユミル(アルミンから貰った物を飲み食いした後、急に睡魔が襲ってきた……か…)
アニ「…アルミン、遅いね」
ユミル(アルミンにはこいつらを恨む充分な理由がある…お前は何をしようとしている?)
アルミン「ただいま!待たせてごめん…話を続けよう、ライナー」
・
・ -
702 : 2014/09/14(日) 20:44:26 -
アルミン「全員に行き渡ったね、水筒」
クリスタ「うん!ありがとう、アルミン」
クリスタ「ところでこの乾パンは何?」
アルミン「みんなお腹が空いているじゃないかと思って、保存食の箱から少し持ってきた」
ユミル「乾パンか~…あんまり好きじゃないんだよな。口の中の水分、吸われるからさぁ」
クリスタ「せっかくアルミンが持って来てくれたのに、そういうこと言わないの!」
アニ ガリッ モクッ…モクッ……
アニ「硬いうえに味が無い。しかも口の中の水分、本当に全部持って行かれそう…」ケホッ
アニ「一口…」ソォッ… キュポン
アニ「ん?すごく香りが良い…」チュッ…
-
703 : 2014/09/14(日) 20:45:12 -
アルミン「レモン水だからね。作り方もちゃんとあの宿の給仕さんに聞いて作ったんだ」
ユミル「へぇ…手が込んでるな」キュポン…
ユミル「前に飲んだ時より少し香りが薄い気がするが…でもいい匂いだ」スゥーッ ハァ…
クリスタ「そうだね、美味しそう…」クンクン…
ユミル「レモン水ってさ、輪切りにしたレモンを水に浮かべて清涼感を出す飲み物なんだ」
ユミル「だがあの宿のレモン水って他とちょっと違うんだよな…」
クリスタ「どんな風に違うの?ユミル」
ユミル「あの宿のレモン水は果汁が絞ってあって、砂糖もほんの少しだけ入れてあってさ」
ユミル「甘味のおかげで酸味が引き立って、両方の味を楽しめる特別なレモン水だった」
クリスタ「そう言えばあのレモン水、酸っぱかったね。果実をかなり絞ってたみたい」
-
704 : 2014/09/14(日) 20:45:43 -
アニ「ぷはっ……初めて飲んだけど…美味しい…」フゥ…
クリスタ「えっと、私も飲んでみるね!」グイッ… ゴクッ……ゴクッ…ゴクッ…
クリスタ「はぁっ…すごく美味しい!宿のレモン水より甘味が強い。こっちは飲みやすい」
ユミル「アルミンが少し作り方を変えたんだな。私もあとで飲んでみるよ」
アルミン「レシピより砂糖を多めにしたんだ。疲れている時は甘いものが欲しくなるから」
ライナー「好評みたいだな、アルミンのレモン水」
ベルトルト「だね、でも僕らは普通の水だ。飲みたくなったらユミルから少しもらうよ」
ユミル「どうぞ、好きなだけ口を付けてくれ」
ライナー「お前も乾パン、食べるか?」モグモグ…
-
705 : 2014/09/14(日) 20:46:21 -
ベルトルト「いや、いらない…そんなにお腹も空いてないし。水だけは今飲んでおく」ユミル(みんなの様子に変わったところは無い。眠そうな奴もいないし…)チラッ
ユミル(アルミンがベルトルさんに薬を盛って眠らせたなんて、ちょっと考え過ぎか?)
ユミル(もしそうだとしても理由が分からない。あの事が理由なら殺しているはず)
ユミル(私らはこれから真の意味で『仲間』になる。ここから先は6人、ずっと一緒だ…)
ユミル(信じ合わなきゃいけない。それは分かっている…だが、何だ?この胸騒ぎは…)
ユミル(アルミンの様子も落ち着かないように見える…。ただの思い過ごしだといいが)
ベルトルト「じゃ、アルミン。僕も水をもらうね。ありがとう」スッ…
アルミン「待って、ベルトルト」
-
706 : 2014/09/14(日) 20:47:08 -
ベルトルト「…ん?どうかしたの?」アルミン「僕とベルトルトの水筒だけ、中身の水が少ないんだ。ごめん…」チャポン…
ベルトルト「あ、本当だ…。まだ飲んでないのに…」ジャポジャポ…
アルミン「水筒を取りに行ったら馬が水を飲みたそうにしててさ、僕の分から分け与えた」
アルミン「コップ1杯分残したところで、次に君の水筒から水を注いでまた馬に与えた」
アルミン「勝手な事をしてごめん…。僕も自分の水を若干でも残しておきたかったし、」
アルミン「ベルトルトは優しいから許してくれると思って甘えてしまった…」
ライナー「次からは俺の水も使ってくれ!遠慮はいらないぞ。お前が用意した水だ」
ベルトルト「そっか、僕は別に構わない。これでも…うん、コップ3杯分は入ってる」
ベルトルト「クロルバ区でも水は補給できるし問題はない。馬の給水、忘れてたしね…」
-
709 : 2014/09/14(日) 20:49:18 -
ユミル「クリスタ、こっちへ来い。私の隣へ…。手を強く握ってろよ?動揺するな…」
ユミル「辛かったら私の身体にしがみつけ。私はずっとここに居る。お前を守るからな」
クリスタ「う…うん…」ソッ ギュッ…
アニ「誰が聞いているか分からないから、声は抑えて…ライナー。私からも説明する」
ベルトルト「僕からも補足があれば付け加えるよ…。ユミル、僕の手も握って…」
ユミル「あぁ…お前もこっちへ来い。私の隣だ。確かここは、お前の指定席だったな」
ベルトルト「そ、そうだよ。クリスタに君を独占されたくないから、そっちへ行く…」
ベルトルト(緊張で喉がカラカラだ…でも今は、胸が詰まってうまく飲み込めそうもない)
-
714 : 2014/09/14(日) 20:53:13 -
クリスタ「ううん…平気。覚悟は出来てる。話を続けて!ライナー」ライナー「分かった…」
ライナー「アルミン、その理由を話すためには、これも伝えておかなきゃならない…」
ライナー「今まで隠していてすまなかった…」
アルミン「嫌だ、やめてよ。聞きたくないんだ!僕は、本当に君達を信じて…仲間だと…
アルミン(耳を塞ぎたい!でも知っておかなきゃならない。心を強く持つんだ…怯むな!)
ライナー「俺達は巨人だ。ベルトルと、アニもそうだ。…そしてお前の故郷を蹂躙した」
アルミン「……っ…!?」ギュッ
アルミン「ははっ………うそ…だ…」ガタッ
-
715 : 2014/09/14(日) 20:53:51 -
ユミル「アルミン、座れ!!」アニ「アルミン…ごめ…ん……なさい……」ガタガタガタ…
クリスタ「ライナーが…巨人?アニもベルトルトも……どうして?そんな訳ない…」クラッ
ユミル「手を離すな…クリスタ。もっと強く握っていい…。キツかったら抱きしめてやる」
アルミン「ライナー…君達が僕の故郷を襲ったの?トロスト区襲撃も君達がやったのか?」
ベルトルト「トロスト区の事は…
ユミル「ベルトルさん!!」
ベルトルト ビクッ
-
716 : 2014/09/14(日) 20:54:32 -
ユミル「落ち着け!アルミン。辛いのは分かる…だが、その拳を収めるんだ…」
ベルトルト「いい!ユミル…。君は口を出すな!アルミン、殴っていい…殴ってくれ!!」
アルミン プルプルプル…
アルミン「殴らない…。殴ったら君はスッキリするだろ?…許されたと勘違いするだろ?」
アルミン「何度殴り殺しても足りないね!…どうして……どうしてなんだよっ!!」ギリッ
クリスタ「冷静でなんか、いられるわけないよね…アルミン。……ユミル、手を離して」
ユミル「クリスタ…」
-
717 : 2014/09/14(日) 20:55:24 -
クリスタ「アルミンの手を握っていたいの。背中をさすってあげたいから…ごめんね…」
ユミル「そっか…分かった……」スルッ…
ライナー「ベルトルは超大型巨人、俺は鎧の巨人と呼ばれている」
ライナー「アニの存在はまだ壁内の人間に知られていない」
アルミン「何となくだけどそうじゃないかって思ってた。でも、違うって信じたかった」
アルミン「アニは僕を騙した…」ボソッ
アニ「私は残酷な事をした…。私もこいつらと共犯なんだ。3人で同じ罪を背負っている」
-
720 : 2014/09/14(日) 20:57:59 -
クリスタ「アルミン…」ギュッ…
ライナー「…」
ベルトルト「…」
ツツーッ… ポロッ…
アニ「もう、殺したくなかったから…」ポロポロ…
アルミン「…」
アニ「誰も殺したくないから、逃げる事にした。かつての壁内、今は遺棄されたあの区へ」
アニ「任務を放棄した私らは、もう故郷には戻れない。でも任務を続行する事も出来ない」
アニ「私はあんたを殺せない…」
-
723 : 2014/09/14(日) 21:00:31 -
ユミル「こいつを言葉で追い詰めても、死んだ人は生き返らない…気持ちは分かるが…
アルミン「気持ちは分かるだと?ふざけるなっ!」
アニ「やめてっ!アルミン!!……お願い」
アニ「ライナーが全て話し終えたら、何日だってあんたの言葉を受け止めるから…耐えて」
アルミン「…くっ」ギュゥゥゥ…
ライナー「すまん……アルミン」
ライナー(強く拳を握り、涙を見せまいとしている。俺達の裏切りが許せないんだろう)
ライナー(そして俺がこれから話す計画が、更にお前を激昂させる事は分かり切っている)
-
724 : 2014/09/14(日) 21:01:21 -
ライナー(アニ…お前はアルミンに相談したがっていたのに、俺はそれをさせなかった)
ライナー(計画の不備を認め、謝罪した後…全員で考えよう。最善の方法を…早急に…)
ライナー「ふーーーーーっ……少し、休憩したい。水でも飲むか…」キュポンッ
ゴクッ… ゴクゴクゴクッ…
ライナー「冷たくて、美味いな…」
アルミン「…」ジーッ…
ユミル(ライナーに変わった様子は無い。水を飲んだのは…アニ、クリスタ、ライナー)
-
735 : 2014/09/14(日) 21:15:41 -
ベルトルト「最初の計画はこうだった」
ベルトルト「最初にアニがこの計画を立てた時、まだトロスト区は無事だった…」
ベルトルト「そう言うと他人事みたいだね。トロスト区を襲ったのは僕なのに…」
アルミン「ベルトルト!!」グイッ
アニ「やめて!アルミンっ…」ギュッ…
ベルトルト「一番最初に狙われるのは『南』だと…壁内の人類がそう思い込んでたから…」
ベルトルト「『西』の守りは多分、今よりずっと手薄だっただろう…と思う」
ベルトルト「さっきも言ったけど、アニが計画を立てた時はそれを織り込んでいた」
-
744 : 2014/09/14(日) 21:24:42 -
アニ「……ふぅ」
アニ「やっぱりこの作戦はダメだね。これが一番大きな『穴』だった」
アニ(…計画とは言えない粗末な代物)
クリスタ「認めるの?アルミンの言ってる事」
アニ「あぁ……」
ベルトルト「僕は絶対にしない!最初に言ったけど、計画を遅らせてでも別の案を考える」
ユミル「そうだな。それがいい…」ギュッ…
アルミン「…」
-
766 : 2014/09/29(月) 20:19:20 -
アルミン「この計画は5人いれば足りる。ベルトルトが幌馬車を動かせばね。僕は不要だ」アルミン「ここまで準備してやったんだ!もう僕を開放してくれてもいいだろ?アニ…」
アニ「…嫌だ。あんたを手放すなんて出来ない!!やっとここまで来たのに」フルフル…
アルミン「僕がここから去った後は君達の好きにすればいい」
アルミン「クロルバ区の扉を蹴破ろうとも、僕は関与しない。何も知らない!」
クリスタ「そんな事、私もユミルも絶対にさせない!!だから私達を信じて…アルミン」
アルミン「船を降りたらジャンの馬を貰うよ。それに乗ってカラネス区へ向かう」
アルミン「壁外調査には間に合わないけど、戻って来た彼らと合流し、この件を報告する」
ユミル「その頃には私らは壁内にはいない。調査兵団と言えども誰も私らを追えない…」
アルミン「自分の臆病さに呆れるよ。僕の家族だけじゃなく、みんなの仇である巨人達を」
-
769 : 2014/09/29(月) 20:22:02 -
ユミル(アルミンはこんなに往生際が良い奴だったか?お前は何を企んでんだ?)
ユミル(人類のために犠牲になる覚悟で全てを捨てて来たお前が絶対言うはずがない言葉)
ユミル(「自分が去った後はクロルバ区の扉を蹴破っても構わない」だなんて…)
ユミル(アルミン……お前の腹の中が見えない…)
アルミン「君達に水を用意したのが僕のここでの最後の仕事か…」
アルミン「レモン水、美味しいって言ってくれてありがとう。アニ、クリスタ…」
アルミン「ユミルも喉が乾いたら飲んでみてよ。元は君のために作ったんだからさ」
-
771 : 2014/09/29(月) 20:23:37 -
ベルトルト「えっ…」
アルミン「君達の脱出計画が成功するように、ついでに僕の無事の帰還を祈って欲しい」
アニ「アルミン!本当にこの計画から降りるの?戻ったってあんたに、壁内に未来は…
アルミン「君達と暮らす未来なんてのも無いんだ!エレンとミカサの元へ帰りたい…」
アニ「私とは一緒に行けないって事?……嫌いなんだ、私が」ボソッ
アルミン「逃がしてよ…僕を……。アニ、ライナー、ベルトルト!頼むよ!!」
アニ「…」ギュッ…
アルミン「水筒を持って。さぁ、みんなで乾杯しよう…」ニコッ
-
772 : 2014/09/29(月) 20:24:12 -
ライナー「限界、だな」
ベルトルト「うん…。アルミンを帰してあげよう、アニ…」
アニ「駄目だっ!そんなの……アルミンが居なきゃこの計画は失敗だっ!!」グスッ…
クリスタ「アニ…」ソッ…
アルミン「みんな水筒を持ったね。今思い返せばあの時が一番楽しかった…訓練兵の時だ」
アルミン「あの解散式の時みたいに……互いに進む道は違っても最後は笑顔で別れよう」
ユミル「アルミン…」
アルミン「乾杯、互いの今後に…」
-
773 : 2014/09/29(月) 20:24:50 -
ライナー「あぁ…。そうだな」クイッ
アニ「嫌だ…絶対に!!」ギュッ
クリスタ「うん…」クイッ… ゴクン
ユミル「…」
ベルトルト「これで最後か…」クイッ…
ユミル「待った!ベルトルさん」グイッ!
ベルトルト「ん!…ユミ…ル?」
ユミル「それを飲むな。何か変じゃねえか?」
ベルトルト「何が?」
-
774 : 2014/09/29(月) 20:25:40 -
ユミル「一度ならず、二度までも…。おかしいとは思わなかったのか?昨夜の事」
ベルトルト「昨夜?」
ユミル「私を迎えに行くつもりだったのに昼まで眠ってしまったって言ってただろ?」
ベルトルト「えっと、まだ怒ってる…?」
ユミル「怒ってない!問題はそこじゃなくて、何故昼まで眠りこんだか?だよ」
アニ「あれか…」
ベルトルト「だからアルミンから夜食と水を貰って、それを口にしたら急に眠く……えっ?」
ベルトルト「ユミル!アルミンを疑ってるの!?」
ユミル「今回も何かを仕込んでないとは限らない。私はお前を疑っている…」ジッ
アルミン「今回も?君が何の事を言ってるのか僕には意味が分からないんだけど…」
-
776 : 2014/09/29(月) 20:27:21 -
ユミル「アルミンにはお前らを恨む理由があり、それを実行に移す機会もある」
ユミル「眠り薬ならまだ可愛いもんだ…だが、劇薬だったらどうする?飲んだら終わりだ」
ベルトルト「この中に…毒が……?」ゾクッ
ユミル「お前はこの水を飲めるのか?アルミン…」
アルミン「ふぅ…」
アルミン「困ったな、思い込みの激しい迷探偵だね」
クリスタ「アルミン!」
アルミン「飲めるよ。じゃ、水筒を交換しようか?ベルトルト」ヒョイッ
-
777 : 2014/09/29(月) 20:28:12 -
ベルトルト「あっ…」パッアルミン「君は僕の水を飲んで。少ないけどね、少しは乾きを癒せるはずだよ」ズイッ…
アルミン「足りなかったらユミルから分けて貰って。僕はこれだけあれば充分だ」
ベルトルト「うん…」チャポッ
アルミン「ベルトルトは僕の事を疑ってるの?」
ベルトルト「い…いや、疑ってないよ。アルミンは今までよくやってくれたと思っている」
ベルトルト「それに信頼もしている。君には謝っても謝りきれない…それほど僕は…
アルミン「本当に僕を信頼してくれているなら、この水…一緒に飲もうか?」
ベルトルト「い、一緒に?」
アルミン「僕は君達にずっと騙されてきた」
-
778 : 2014/09/29(月) 20:29:03 -
アルミン「君達とは生涯の友になれると思っていた。こんな形で真相を知るなんて…」ベルトルト「……すまない」
アルミン「僕を信じているのなら断らないよね?さぁ、乾杯しよう。お互いの未来に…」
ユミル「…待て!」
アルミン「水筒は交換したよ?まだ何か不満があるの?ユミル…」ジロッ
ユミル「いや、不満は無い。ただ喉が痛くてね。喉に滲みるレモン水は飲みたくないんだ」
ユミル「だからベルトルさん。悪いが私のレモン水とその水を交換してくれないか?」
ユミル「コップ一杯の水があればついでに薬も飲めるしな。乾パンもこの際頂こう…」
アルミン「ユミル…何で?何でそんな事を急に言い出すんだ!」
-
779 : 2014/09/29(月) 20:30:09 -
ユミル「何でだって?喉の調子が悪いのは仕方ないだろ?アルミン」
アルミン「…ユミル」ギリッ
ユミル(これは賭けだ。もしアルミンが自分の水筒にも何かを入れていたら私の命はない)
ユミル(水筒を交換しろと言った時も全く動揺を見せなかった。こいつ、一緒に死ぬ気だ)
ユミル(私だって死にたくはない!でも引けない…アルミン。お前が私を止めてくれ…)
ユミル「顔色が悪いぞ、アルミン。真っ青だ。手も震えている。お前も薬を飲んでおけよ?」
アルミン「…ユミルだって震えてるじゃないか」ガタガタ…
ユミル クンクン(臭いはしない。薬品臭さは無い。色は見えないが多分無色透明だろう)
-
780 : 2014/09/29(月) 20:31:10 -
ユミル(私のレモン水は心配ない。こいつは水筒を渡す時、重さと匂いで判断していた)ユミル「ベルトルさんもどうした?心配そうに顔を覗き込んで…。大丈夫だよ!」ニイッ
ユミル「本当は信じたいんだ…。ヘボ探偵ですまないな!お前の身の潔白を証明したい」
ユミル「あのさ、アルミン…」
アルミン「な、なに…?ユミル…」キョドッ
ユミル「もし私がこの先死んだらさ、ベルトルさんを少しだけ許してやってくれないかな」
ベルトルト「この先死ぬ…?何だよ!それ…」
ユミル「人間誰だっていつかは死ぬだろ?『この先』がいつになるかは分からないが…」
ユミル「何となく今言っておきたくなった。ただの戯言だ」フフッ
アルミン「…」
-
781 : 2014/09/29(月) 20:31:56 -
ユミル「愛するものを失う悲しみ、きっとこいつにも分かるだろうから…。じゃ、飲むか」ユミル(……怖い…本当に毒が入っていたら…。ここで私は死ぬのか……)カタカタ…
ユミル「よし……飲むっ…!」ソッ… クイッ…
アルミン バッ「ダメだっ!!ユミ…
アニ「ユミル!」ブンッ
アルミン「!?」
ユミル「!?」
ユミル「おい!何すんだよっ!!私は喉が渇いてるんだ。それを返せ!」
アニ「奇遇だね。私も普通の水を飲みたくなった。だから私が飲むよ、残念だったね!」
-
782 : 2014/09/29(月) 20:32:45 -
ユミル「アニ……やめろ。それは危険だ…」
アニ「危険?本当に危険ならあんただって飲もうと思わないだろ?これは私が飲む」
アニ「いいよね?アルミン…」
アルミン「……ダメだ。どっちも飲んじゃダメだ!!」
アニ「私はあんたを信じてる。絶対に不幸にしない!だから一緒に来てよ…」グスッ…
アニ「私が死んでも、あんたを逃がしはしない。…幽霊になってもずっとそばにいる!」
アルミン「それは知ってる。もう聞いたよ!」
ユミル「アニ、その水筒から手を離せ。黙って下に置くんだ…」
クリスタ「どういう事なの…?どうして水を飲んじゃダメなの?」
-
783 : 2014/09/29(月) 20:33:22 -
ライナー「アニ、やめるんだ!ユミルの言う通りにしてくれ…」アニ「あんたらに指図される覚えはない!!」キッ
ベルトルト「アニ…その水筒を僕に渡して。それはアルミンが交換してくれた僕の水だ」
ベルトルト「大丈夫、何も入ってない。僕もアルミンを信頼している!僕が飲むから…」
クリスタ「そういう事なら私も飲む!」
ライナー「俺もだ、いいよな?アルミン」
アルミン「ふふっ…」
アルミン「みんな無理しちゃってさ!本当は怖いくせに…」
アルミン「……何だよ、付き合ってらんないよ。こんな下手な寸劇には」
ユミル「やっぱりそうか……」
-
784 : 2014/09/29(月) 20:34:30 -
アルミン「貸して、アニ」グイッ
アニ「…!?」
アルミン「ちょっとわざとらしすぎたかなぁ…」チャポチャポ…
ユミル「だいぶな。芝居がかってたし…って言うか、傍から見ればただの茶番だな」フーッ
アルミン「僕が…いや、アニが止めなかったらユミルは本当にこれを飲んでた?」
ユミル「止めると思ってた。お前は無関係の…もう無関係じゃないが、私を殺さないと」
ベルトルト「本当に何か入ってたんだ…」
ベルトルト「僕の水筒と、自分の水筒に君は何を入れたの?」
アルミン「苦しまずに死ねる薬だよ。ちょっと君には勿体ないと思ったけどね…」
-
785 : 2014/09/29(月) 20:35:08 -
ベルトルト「それって…ど、毒だよね!?」ゴクッ
アルミン「出来れば、うんっと苦しんで死んで欲しかったから…。でもそれも失敗した」
アルミン「何食わぬ顔で君に飲ませる事が出来なかった。まだどこかで迷っていたんだ」
ユミル「確かに迷いが顔に出ていたよ。お前は人殺しには向いてない」
アルミン「人?…巨人だよ、ベルトルトは」
ユミル「私は『人間』だと思う。こいつは変わった…。変わったと信じたい」
ベルトルト「僕はユミルの中で『人間』になったの?…そっか…うん……」
アルミン「さて、即席探偵に暴かれたところで道化は退散するよ。僕の願いはただ一つ…」
-
786 : 2014/09/29(月) 20:36:02 -
アルミン「クロルバ区を潰すな!平和な街をシガンシナ区のようにしないでくれ!!」
アルミン「犠牲を出さない最善の方法で扉を抜けたら、5人とも壁外へ消えて欲しい」
アルミン「これだけ叶えてくれたらもう充分。僕は君達の秘密を胸に抱えたまま死…
クリスタ グイッ ブンッ タタタッ…
アルミン「あっ…!」
ベルトルト「えぇっ!!ちょっ……」
ギッ バタン!
ユミル「おっ、おいっ!!クリスタ、待て!!」ダッ
アニ「奪い取られちゃったね…。2つの水筒」
アニ「アルミン、毒を入れたのは本当にあんたとベルトルの水筒だけ?」
-
788 : 2014/09/29(月) 20:38:16 -
アニ「あんたとクロルバ区で別れたら、私はこいつらをマリアの西の突出区まで送る」
アニ「その後また一人で壁内に戻り、あんたを探す…無事に戻れる保証はないけど」
アニ「戻る途中で巨人に食われて死んだら、あんたは喜べばいいよ。私は私の好きにする」
アルミン「一度目を付けられたら最後。僕は君から逃げきれそうもないね…」ハァーーッ…
アニ「ごめん…。それは覚悟しておいて」
アルミン「殺す事も死ぬ事も出来ず、見逃すことも出来ない。これからどうしようかな…」
ライナー「どうしてベルトルの水筒だけだったんだ?俺やアニのことも恨んでいるだろう」
アルミン「壁を破れるのは超大型巨人だけだったから。君らの攻撃の要はベルトルトだ」
アルミン「君達二人だけなら生かしておいてもリヴァイ兵長かミカサが何とかしてくれる」
-
791 : 2014/09/29(月) 20:40:43 -
アニ「アルミン、あんたはこれからどうするの?本当にクロルバ区で離脱するの…?」
アルミン「…」
ギギッ
ユミル「ただいまぁ~…」
クリスタ「ごめんなさい…」シュン…
アニ「おかえり、クリスタ。あとユミルも」
クリスタ「水筒ごと捨てて来ちゃった…」
クリスタ「また2つ買い直さないとだね。ごめんね…」
-
792 : 2014/09/29(月) 20:41:38 -
ユミル「アルミンが準備した毒がどれほどのものかは知らないが大丈夫かな…」ハァ
アニ「大丈夫だろ?これだけの河川だ…多少毒が混じっても川魚や人体に影響はないさ」
ユミル「ま、そうだよな。てなわけで安心しろよ?クリスタ」
クリスタ「アルミンがあの水を飲みそうだったから身体が勝手に動いてしまって…」
アルミン「そっか……ありがと、クリスタ。僕のために…」
クリスタ「死んじゃダメだからね!私もユミルもみんなも!!誰も欠けちゃダメだから」
クリスタ「みんなで行こうよ!壁外で一緒に暮らそう?アルミンも私達と一緒に…」ウルウル
アルミン「ねぇ、ベルトルト…。僕がこの計画から降りたら君は壁を蹴破るかい?」
ベルトルト「蹴破らない。人も殺さない。ただ最善の方法を探すのに時間が掛かる」
ベルトルト「だから明日、出発することは出来ない。計画をもう一度練り直す」
-
796 : 2014/09/29(月) 20:46:18 -
ライナー「どうしても明日出発しなきゃならないって訳じゃない。気負うなよ?アルミン」アルミン「それも分かってる…。でも、明日に間に合わせなきゃダメなんだ…」
ライナー「そうだ!すっかり忘れてた。クロルバ区に着く前にお前に返すからな、ユミル」
ユミル「はっ?…返すって何を?」
ライナー「指輪の手入れ用品だよ。今後も必要だろ?お前らの結婚指輪を磨くために」
ユミル「…アレか。そういやお前に預けてたんだっけ」
ライナー「もう簡単に手放したりするなよ?これからは大事にしろ」
ユミル「あぁ、返してもらったら大事にする。今後も錆びないように磨いてくよ」
クリスタ「ねぇ、それって何の話?」キョトン…
・
・ -
798 : 2014/09/29(月) 20:48:09 -
ベルトルト「じゃぁ、そろそろこの宿を出て向かおうか……アルミンの作戦通りに」
アルミン「うん…行こう!このクロルバ区を出て2時間ぐらいで例の場所に着くはずだ」
アルミン「この『旅行の手引書』の情報が正しければね。無論、疑ってはいないけど」
ベルトルト「その本に書いてある情報が正しい事は僕が保証する。…ね?ユミル」
ユミル「あ~~…『絶対別れない指輪』とか?確かに結果的にはそうなったが…」
アルミン「実は僕の家にもあったんだ…。南側に特化した『旅行の手引書』が」
ベルトルト「やっぱりあったんだ…西以外の手引書。読んでみたかったな…」ハァ…
ユミル「探してみるか?マリア西の突出区に着いたら、あの街の図書館か本屋でさ」
ユミル「私も手伝ってやるから…やりたい事や出来る事は全部やろうぜ!これからは」
-
801 : 2014/09/29(月) 20:51:32 -
アルミン「これから僕らは壁を越える。場所は北の方向へ壁沿いに進んだ…ここ!」スッ
ユミル「ここだな、クロルバ区を出てから2時間で着くかな?」トントン…
ベルトルト「着くよ。『旅行の手引書』の地図だもの!縮尺も合ってる」
アニ「この縮尺が正しいと仮定して、この距離なら巨大樹の森から巨木を持って来れる」
アルミン「うん…。この地点に着いたら立体機動で壁を登る。巨大樹の森を目視で確認」
アルミン「その後はベルトルト、ライナー、アニ…君達の力が必要になる」
ライナー「俺達の巨人の力だな…」
ベルトルト「トロスト区の件から日が経ってないからどれだけ僕の力が戻っているか…」
-
810 : 2014/09/29(月) 21:00:03 -
アルミン「100m以上の巨木であっても50mの高さの壁に立て掛けたら相当の傾斜がつく」アルミン「木の太さを考えないでざっくりと計算して100mの木では傾斜は30度ほど…」
ユミル「30度か…キツいな…。幌馬車に積んだ荷物の重さで荷引き馬が潰されちまう!」
ライナー「俺が下から支えて角度を緩やかにする!胸のあたりで木を支えたら傾斜は?」
アルミン「ちょっと待って!すぐ計算する…」カリカリカリ…
アルミン「えっと……100mの巨木をライナーが胸まで支えると…約23度ってところだね」
クリスタ「ゆるやかな坂道で20度くらいだよね?23度なら…うん!行ける…」
アニ「私も下から支えるよ。あんたは上からその手で支えな!ベルトル」
ベルトルト「分かってる!火が点かないように気を配りながら僕も上から支える」
アルミン「そしたらクリスタ、君は馬を宥めながら幌馬車を牽いて降りてきて欲しい」
-
812 : 2014/09/29(月) 21:01:57 -
アルミン「『仲間』か…」クリスタ「ほら、早く!」グイッ
クリスタ「最後にみんなで美味しいご飯を食べて、それから出発しよっ!」ニコッ
アルミン「ふふっ、そうだね!乾パンはさすがに美味しくなかったからね」
アルミン「腹ごしらえしたら出発しよう!」
・
・ -
813 : 2014/09/29(月) 21:03:10 -
脱走から7日目 夜
壁外調査まであと半日
~ウォール・ローゼ西区~
クロルバ区を出て壁沿いを北に40kmほど進んだ地点
アルミン「足元に気を付けて…慎重に行こう。この幌馬車で最後だ」
クリスタ「大丈夫…。怖くないから、暴れないでね、いい子だね…」ナデナデ…
ユミル「とうとう日が落ちた。ベルトルさんももう限界だ…」
ユミル「もう少し早く降ろせないか?すぐにでもあいつを巨人の姿から戻してやりたい…」
アルミン「この馬と馬車を降ろしたらベルトルトの仕事も終わりだ。我慢して、ユミル」
-
814 : 2014/09/29(月) 21:03:45 -
ユミル「…」
アニ ブシュゥッ…
アニ「ゲホッ……ここまできたら私が掴んでゆっくり降ろす!あんた達も掴まって!」
ユミル「アニ!」
クリスタ「どうどう…平気だよ。この巨人は怖くないんだよ…。私達の『味方』だからね」
クリスタ「もう少しだから、頑張って。落ち着いて……」ギュゥゥッ…
アニ(よし!全部掴んだ…。絶対に離さない!!)
-
816 : 2014/09/29(月) 21:05:39 -
アルミン「本当に、出来ちゃったんだ。机上の空論が現実になった…」ハァーッ…
ユミル「まさか出来るとは思わなかったって顔やめろよ…。不安になったじゃねぇか!」
クリスタ「でも出来ちゃったよ!私達、みんなで壁を越えたんだ!!」
アニ「だけどまた少し休まないと巨人になれない。私もライナーも…」
ライナー「これも予定通りだろ?馬を木に繋いで俺達は日が昇るまで壁の上で休むんだ」
ライナー「明日も命を賭けなきゃならない。ここにいる全員がな…」
アニ「違うよ、アルミンはここで離脱する…」
アニ「そうだったよね?アルミン」
-
818 : 2014/09/29(月) 21:07:24 -
ユミル「私の悪口を笑い飛ばせるぐらい強くなったら聞かせてくれって言ってただろ?」
ユミル「お前は強いよ。ベルトルさんを殺さなかった」
ユミル「強い憤りや怒りを抑えて、こうやって壁を越える最善策を考え出した」
ユミル「私らのためじゃない事は知ってる。お前は壁内を守るために手を貸してくれた」
ユミル「だからお前にあの時の悪口を伝えるのはお前を貶めるためじゃない…」
ユミル「訂正したいんだ。この告白が自己満足だという事は分かっているが聞いてくれ」
アルミン「うん…そういう事なら聞いてあげるよ。教えて、ユミル」
ユミル「言っとくけど1年以上前に言った悪口だからな…」ゴホン…
-
819 : 2014/09/29(月) 21:08:30 -
ユミル「頭良いのは認めるが、身体能力は並み以下のところが気に入らない」アルミン「うん」
ユミル「兵士には向いていない。体力が無いから…」
クリスタ「ユミル…」
ユミル「お前と同じ『班』にはなりたくない。お荷物だ。誰かの足を引っ張る…」
アルミン「…」
ベルトルト「あっ!この話…あの時の……」
ユミル「この悪口を全部訂正したい!!お前は最高だっ、アルミン」バッ…
ギュゥゥゥゥッ…
-
820 : 2014/09/29(月) 21:09:34 -
アルミン「ふぇっ!……ユ、ユミル!?」ムニュッアニ「ちょっとユミル!」
ベルトルト「ユミルが…自分から男に抱きつくなんて……あぁっ!ま、ま、待って…」
ユミル「許してくれないか?一番役立たずだったのは私だ…。お前は強いよ、嘘じゃない」
アルミン「許すも何も、僕はその悪口を初めて聞いたんだ…」
アルミン「だから何とも思ってないよ!でも、ちょっと放して欲しいかな…その……」
アルミン「アニとベルトルトが凄い目で僕らを睨んでいるからね…」
ユミル「あっ……悪い、つい興奮しちまって…」パッ…
ユミル「アルミンは平気だったみたいだ…。男と言うか弟みたいな感じがするからかな」
ベルトルト「許してあげないからね…僕は」
-
822 : 2014/09/29(月) 21:11:42 -
ユミル「そういう問題もあるのか。一筋縄ではいかないもんだな…」ユミル「私らだけじゃ不安だな。今後もアルミンの知恵を借りたいところだが…」チラッ
アルミン「…」
クリスタ「日が昇ったら西へ向かうんだよね?ここは真西じゃないから修正しながら?」
ベルトルト「いや、このまま北西に向かって走って欲しい。誘導はライナーがする」
ユミル「何でだ?そういや日中に出発する理由をまだ聞いてない」
ユミル「巨人との遭遇率を上げてまでやらなきゃいけない大事な仕事って何だよ」
ベルトルト「僕らはこれから『塩工場』へ向かうんだ。そこで大量の塩を手に入れる」
クリスタ「塩工場?」
-
823 : 2014/09/29(月) 21:12:29 -
ベルトルト「この旅行の手引書を見て。ここら辺一帯は岩塩の採掘工場があったんだ」
ユミル「あぁ…それって酒場でお前が言ってた……」
ベルトルト「ウォール・マリアが健在だった頃、ここは壁内でも有数の岩塩産出地だった」
ベルトルト「今は巨人の領域だから誰も取って来れないけどね」
クリスタ「5年間も野ざらしになった塩って食べられるの?」
アニ「あはっ…岩塩だからね。5年どころじゃなく野ざらしだ。塩には消費期限が無い」
クリスタ「そ、そうだよね…恥ずかしい……」///
ライナー「狙うのは屋内にある麻袋に詰めてある塩だ。なるべく滞在時間を減らしたい」
ベルトルト「僕の計算では6人が死ぬまでに必要な塩は最低でも120kg…」
ベルトルト「でも余裕を持って300kgは積み込みたいね。そのために幌馬車も空けた」
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825 : 2014/09/29(月) 21:14:31 -
アニ「う~ん…渡り鳥や壁外の野生生物を捕まえて生き血を飲んで補うしかないね…」
アニ「私はお断りだけど」
クリスタ「私も絶対嫌だ…」グスッ
ユミル「じゃ、何とか成功させるしかないな!壁を越えるより楽じゃねぇか。なぁ?」
ベルトルト「ユミルぐらい楽観視してくれた方が案外すんなり手に入るかもね」
ユミル「アルミン、もう決めたのか?本当にここでお前とお別れなのか?」
アルミン「…」
-
826 : 2014/09/29(月) 21:15:30 -
アルミン「アニに聞きたい…。これが最後の質問だ」
アルミン「その答えによっては、僕は一緒に行かなきゃならなくなるかも知れない」
アニ「アルミン…本当に?」パアッ…
アニ「なんでも答えるよ!何が聞きたい!?さぁ言ってっ」
アルミン「君達の計画が全て上手くいったと仮定する」
アルミン「僕らは塩と幌馬車に積んだ物資と仲間、何一つ欠ける事なくたどり着く」
アルミン「その時、僕らは信じられない光景を目にするかも知れない…」
ユミル「信じられない光景?」
アルミン「まだ誰も行った事が無いんだ。5年間、誰一人としてたどり着いていない」
-
836 : 2014/09/29(月) 21:25:48 -
ユミル「あははっ!そう考えなきゃ、こんな事やってらんねぇな!!」ベルトルト「僕はユミルの明るさに救われてる…」ボソッ…
ベルトルト「僕の奥さんを殺さないでくれて、止めてくれてありがとう…アルミン」
アルミン「恨んでる事に変わりはないよ。君達を」
ベルトルト「それが正常な人間の反応だと思う。僕は君も守るつもりだ…」
アルミン「……おやすみ、ベルトルト」ゴロン…
ベルトルト「うん、おやすみ。アルミン…起きたら出発だよ」
・
・ -
839 : 2014/09/29(月) 21:28:24 -
アルミン「あか?……赤だ!扉は開いている!!」ユミル「っしゃ!あの中は巨人しかいない!無駄な殺生をしなくて済んだんだ…」
ベルトルト「はぁ……良かったぁ…」
アルミン「まだ気は抜けないよ!最後まで走る!!中に入ってみんなで扉を閉めるんだ!」
アルミン「行こう!遺棄された街へ…。これからあの街が僕らの世界になる」ピシッ
ガラガラガラガラ……
・
・ -
843 : 2014/09/29(月) 21:31:57 -
アニ「食事の支度をお願い、クリスタ」ニイッ
パチン ピッ… カッ…!!!
ライナー「クリスタ、行ってくる。お前はここで大人しく待っていてくれ」
ガリッ カッ…!!!
ベルトルト「じゃ、僕も行くよ。大丈夫だよ、絶対に死なないから…」
アルミン「ユミル、立体機動装置外したけど…これどうす…
ユミル「貸せっ!」ブンッ
ユミル「アルミンの立体機動装置だ。刃を全部補充して行け!ガスボンベもこれを使え」
ベルトルト「ユミル…」
-
845 : 2014/09/29(月) 21:33:27 -
ユミル「何で?」
ベルトルト≪君、自分のためにその力は使わないって言いそうだから…≫ヒソヒソ…
ユミル≪あぁ、制約か…。命の危険があれば治すぞ…≫
ベルトルト≪でも君が巨人だってバレちゃうかも知れないじゃない!≫
ユミル≪そんなヘマはしないって!≫
ベルトルト「いいからっ!!君はここに居るんだっ。そんな危ない真似させられないよっ」
ユミル「自分はどうなんだよ…」ボソッ
ベルトルト「えっ…」
ユミル「今だってアニとライナーが頑張ってる…。人の身体でお前は何が出来るんだ?」
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847 : 2014/09/29(月) 21:35:14 -
ベルトルト「新婚早々…甘い結婚生活……」/// カァァァッ…クリスタ「気を付けて行ってらっしゃい。ユミル」
アルミン「ここで死んでも贖罪にならないからね、ベルトルト」
ベルトルト「うん…」
ユミル「行こうか!私はこっち、お前はあっちだ」
ユミル「途中でここに戻って来い!ガスボンベを渡す」
ベルトルト「はぁ…そっか、君を止めても無駄だった……」
ユミル「亭主が戦ってる姿を指を咥えて見てられるほど出来た女房じゃないんでね!」
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848 : 2014/09/29(月) 21:36:03 -
ユミル「こんな女を嫁にもらったのがてめぇ運の尽きだ!腹を括れよ?」ニッコリベルトルト「君には一生尻に敷かれそうな予感がする…」
ベルトルト「でもそれも悪くないな」クスッ
ベルトルト「本部へは僕も行く。君を護衛しながらガスを補充する!それでいい?」
ユミル「おぉ、その方が効率が良いな。即採用だ」パシュッ
ベルトルト「左手の傷、痛むでしょ?絶対に無理はしちゃだめだからね!」バシュゥッ…
アルミン「変なの…彼らはこんな西の端っこで人知れず命懸けの戦いをしてる」
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856 : 2014/10/12(日) 19:19:16 -
ベルトルト「そのつもりではあるけど……もう少し考えたいところだね」ユミル「ははっ!悠長だなぁ…。それじゃいざ攻め込まれた時、迷っちまうだろ?」
ベルトルト「う~ん…。そんな日が来ないといいけど…。まだどうするか考えさせて!」
ベルトルト「どうすれば君の命を守れるか、故郷の人間を騙せるか必死に考えるから…」
ユミル「壁内の人類を殺しきれなかったあげく任務を放棄して逃亡。戻れないよな、今更」
ユミル「もしここに住めなくなる日が来たらどこへだって私はお前に付いて行く」
ベルトルト「ありがとう。僕らは死ぬまで…いや、死んでもずっと一緒だからね、ユミル」
ユミル「はいはい、何度も聞いた。その台詞は」クククッ
ベルトルト「何度でも言うよ。これからもずっとね!」ニコッ
ベルトルト「アルミンとアニはどうするんだろう…」
ユミル「アルミンは人間だからな…。故郷へは連れて行けないだろう」
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858 : 2014/10/12(日) 19:21:07 -
ユミル「香辛料は難しいって最初から分かってただろ?そりゃお前らは好きだろうけどさ」ユミル「私は別に無くても構わないね!だって食った事が無いから欲しいとも思わないし」
ベルトルト「…はぁ。じゃ、僕のために覚えてよ、僕らの故郷の料理!アニが詳しいから」
ユミル「アニに教えを乞うのは嫌だ」ムスッ
ベルトルト「じゃ、僕がアニに教えてもらうからユミルには僕から教える。それでもダメ?」
ユミル「それなら覚えてやらないことも無いけど…」
ユミル「だってお前は食べたいんだろ?昔、故郷で食べた懐かしい味を」
ベルトルト「そう、それを君の料理で味わいたいんだ!ユミルは料理上手だから」
ユミル「お前なぁ…お、おだてても何も出ないぞ」///
ベルトルト「そんな事無いよ!ユミルは褒めた分だけキッチリ返してくれる子だよ」
ユミル「こら!子供扱いすんなよな…。来年で30だぞ、お前は今年で29」
ユミル「早いもんだよなぁ…ここに来てから12年も経っちまってた」
-
860 : 2014/10/12(日) 19:22:58 -
ベルトルト「でも極力使いたくないんだ、巨人の力は。だって僕はもう『人間』だから…」
ベルトルト「君と同じだ…」
ユミル「あぁ…」
ベルトルト「左手、見せて」
ユミル「ほいよ」スッ
ベルトルト「僕の付けた傷、だいぶ目立たなくなった…。まだ痛むかい?」
ユミル「季節が変わるとな、湿度が変わって皮膚が縮むんだ。そうすると痛む…少しな」
ベルトルト ギュッ… ナデナデ…
ベルトルト「痛くなったら言って。ずっとこうやって手のひらを撫でるから」
ベルトルト「この傷がある限り僕も忘れない。君を酷く傷つけてしまった事を…」
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861 : 2014/10/12(日) 19:23:52 -
ユミル「私も忘れない。マルセルがこの身体の中にいる事を、だ」
ユミル「お前の手、ガサガサだな…。土いじりや水仕事で荒れちまって」
ユミル「治癒の力も本当に使って無いんだな。巨人になれば治っちまうけど…」
ユミル「この小さな手荒れが元でお前が病気にならないかたまに心配になる」
ベルトルト「僕の事言えるの?君だって使って無いじゃない…僕らは人間なんでしょ?」
ベルトルト「ユミル…」チュッ
ユミル「おいっ……お前なっ、急に……」///
ベルトルト「あれから大きな喧嘩はしたことが無いね、僕ら」
ユミル「だな…。意見の相違があればお前の方が早々に白旗を上げてしまうからな」
-
862 : 2014/10/12(日) 19:24:27 -
ユミル「おかげで私は我儘し放題だ」
ベルトルト「君はいい奥さんだよ。僕にとって理想の女性だ」
ユミル「結婚記念日はちょっと前に終わったぞ……」
ベルトルト「『愛してる』って言葉は結婚記念日にしか言っちゃいけない訳じゃないから」
ユミル「そりゃそうだが…」グイッ
ベルトルト「愛してるよ」ギュゥゥゥゥ…
ユミル「…私も、お前を愛している」ギュッ…
-
863 : 2014/10/12(日) 19:25:25 -
ベルトルト「あははっ!もっと歳を取ってお爺ちゃんになっても僕は言うからね!」パッ
ベルトルト「君を好きだって!世界で一番愛してる!!…ってさ」
ユミル「もう!何なんだ、今日のお前はちょっと変だぞ!!」///カァッ
ベルトルト「あれ…?ユミル、指輪が……」
ユミル「ん?…あぁ、最近痩せたみたいでさ、少し緩いんだ。抜けるほどじゃないけど」
ベルトルト「食事、減らしてるの?減量なんてしなくていいよ!君はそのままがいい」
ベルトルト「どうして気が付かなかったんだろ…君の変化に。毎日見てるはずなのに」
ユミル「別に大したことじゃない。最近ちょっと身体がだるくてな、歳のせいかなぁ…」
ベルトルト「歳のせい?僕と1歳しか違わないのに何を言って…
ユミル「60と29歳だ。実年齢で言えばもう90近いだろ?お前はたまにそれを忘れてる」
-
868 : 2014/10/12(日) 19:29:59 -
ユミル「って事はナニか?もしエレンが生きてるとしたらあいつも童顔のままか」ククッベルトルト「エレンか…。彼は今頃どうしてるんだろうね」
ユミル「ミカサと結婚して子供でも産まれてるかもなぁ…。ジャンはどうしたかな?」
ベルトルト(子供か…)
ベルトルト(僕らの中で一番先に子供を産んだのはアニだった)
ベルトルト(子作りは生活が安定してから…ってみんなで決めたのに2年目で妊娠、出産)
ベルトルト(ちょっと早すぎだろ?と突っ込みを入れたくなったけど気持ちはよく分かる)
ベルトルト(厳しい生活の中で愛する人との営みは最上の娯楽であり、喜びであったから)
ユミル「そう言えばクリスタんとこの一番上の子はもう7歳になったな」
ベルトルト「男の子だからライナーに似ると思ってたのにクリスタにそっくりだよね」
ユミル「あぁ、線も細くてな…。だがもう少し成長したらライナーに似てくると思う」
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874 : 2014/10/12(日) 19:36:26 -
ベルトルト「!?」ベルトルト「す、するわけないでしょ…」ハァーーッ
ベルトルト「僕はユミルを悲しませない、裏切らない、浮気はしない」
ベルトルト「そう君に誓ったはずだけど…。守れてない?」
ユミル「守れてる。ここに来てからガッカリさせられたことは無い。『ここに』来てからは」
ベルトルト「…ユミルの方が意地悪だよ」グスッ
ユミル「だってお前の初恋の人ってアニだったじゃねぇか…。面影あるんだろ?」
ユミル「って、おい…!なにニヤニヤしてんだよ…。こっちは面白くないってのに!!」
ベルトルト「えへへっ…だってヤキモチ妬いてる顔が可愛いから!」
ユミル「ば、馬鹿かっ!お前は…」///
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877 : 2014/10/12(日) 19:39:11 -
ユミル「あの夜、お前が部屋を訪ねて来なかったらこの未来は無かった…」ベルトルト「ユミルっ!…うぅっ…ぐすっ……」バッ
ベルトルト「ありがとう…」ギュゥゥゥゥゥッ…
ユミル「ありがとう、ベルトルさん…。愛してるよ」
ベルトルト「僕も…。子供なんかいなくてもいい!君がいれば他に何も要らないんだ!!」
ユミル「相変わらず嘘をつくのが下手だな、ベルトルさんは」
ベルトルト「嘘じゃないよ!僕は昔っから子供が苦手で…
ユミル「いいよ、もう。そういう事にしておくからさ…」ギュゥゥッ
ユミル(優しい嘘だから余計辛いんだ。お前言ってただろ?お互い初めて結ばれた夜…)
ユミル(私との子供が欲しいって…。それにお前、子供大好きじゃねぇか…)
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878 : 2014/10/12(日) 19:40:14 -
ユミル(アニやクリスタの子供の世話、楽しそうにしてるじゃねぇか。目を細めてさ…)
ユミル「うぐっ…ひっ……あぁああ゛あ゛っ……」ギュッ!
ユミル「くそっ…どうしてだっ!!」
ユミル「どうしてうちのとこにだけ、赤ちゃんが来てくれないんだよっ!!」
ユミル「2人であんなに頑張ったのに!私が歳を取りすぎているからダメなのか!?」
ユミル「でもこの身体はちゃんと『女』なんだ!まだ乾いてない!月のもの来てるのに…」
ベルトルト「ユミル!!」ギュゥゥゥッ…
ユミル「畑が違えば子供が出来るかも知れない…。私じゃなければお前は子供を…
ベルトルト「ユミル!ダメだっ!!それ以上は…」グッ…
ユミル「んんんっ……っ……はぁ…や、…ぷは…っ……」
-
879 : 2014/10/12(日) 19:40:54 -
ベルトルト「…はっ…はっ……はぁーーーっ…」
ベルトルト「もし君がまた同じ事を言ったら、こんな風に問答無用で口を塞ぐ」
ユミル「…」
ベルトルト「僕の腕の中に身体を預けて、すっぽり入って。頭を撫でてあげるから」グイッ
ユミル「すまない…ベルトルさん…。また、やっちまった……」グスッ
ベルトルト「いいんだ。辛くなったら何度でも吐き出していいんだ」ナデナデ…
ベルトルト「ただ君の泣き顔を見るのが辛い。僕は子供がいなくても構わないんだから」
ベルトルト「でも、さっきの言葉だけは許せない」
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881 : 2014/10/12(日) 19:42:40 -
ベルトルト「だから、思い詰めないで…。君を手放せば君に子供が出来るかも知れない」ベルトルト「でも僕は君を手放さない!君が他の男の子供を産んだら僕は気が狂うと思う」
ベルトルト「これは僕の我儘だ…。でも、このまま僕と添い遂げてくれないか?」
ベルトルト「二人だけでいいじゃないか…。君が寂しく無いようにずっと隣にいるから…」
ベルトルト「愛してるよ、ユミル…。僕には君しかいないんだ…」ギュッ
ユミル「ベルトルさん…。泣かないでくれ……」
ユミル「ごめんな…。せっかくお前が外へ連れ出してくれたのに」ギュゥゥゥッ…
ユミル「ごめんなさい…」
ユミル「ゲホッ……ん?」
ベルトルト「寒い?ユミル…」
ユミル「いや、そんな事は無いんだが…おかしいな、少し咳が出た」
-
882 : 2014/10/12(日) 19:43:11 -
ベルトルト「風邪の引き始めかな?そろそろ家に戻ろうか?お昼は僕が作るよ」
ユミル「そうだな…。いや、もう少しここに居たい。まだお昼には早いだろ?」
ユミル「もう一度、キスしてくれないか?」
ベルトルト「言われなくても、一度と言わず何度でも」
ユミル「ふふっ…。かわいいなぁ、本当に」
ベルトルト「男に『かわいい』って褒め言葉じゃないからね」
ユミル チュッ…
ベルトルト「!?」
ユミル「…んっ………ぁ…っ…」チュッ
ベルトルト「……はぁ…ふぁ……っ……」チュゥッ… ムチュッ
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883 : 2014/10/12(日) 19:43:50 -
ベルトルト「待って!ユミル。あの…さ、これ始めちゃうと…」
ベルトルト「僕、止まらなくなっちゃうんだけど……」///
ユミル「じゃ、ここでするか」
ベルトルト「えぇっ!?」
ユミル「誰も見てないし、天気はいいし…たまにはお外で気分を変えて」
ベルトルト「巨人が見てるよ、僕らを」
ユミル「見えないよ。この壁上での私達の行為を覗くのは60m級でもない限り無理だね」
ベルトルト「言うね!ユミル。ちょっと元気になったみたいだ」
ユミル「なぁ…私もお前を手放せない。他の女がお前の子供を産むなんて許せない…」
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884 : 2014/10/12(日) 19:44:24 -
ベルトルト「うん…知ってる。僕ら何年夫婦をやってると思ってるの?」
ベルトルト「言葉だけじゃ足りないから今からは身体で愛を語るよ」
ユミル「そりゃ楽しみなこった…」///
・
・ -
885 : 2014/10/12(日) 19:45:01 -
862年 晩秋
ベルトルト「赤ちゃんが…できた…?」
ユミル「あぁ!アニとクリスタに見てもらったんだ。多分間違いないって!!」
ユミル「最近よく吐き戻してたんだ。どうもおかしいと思ってクリスタに相談したら…
ベルトルト「…赤ちゃん」ボソッ
ユミル「ベルトルさん?」
ベルトルト「僕とユミルの…赤ちゃん…。僕らの所にも来てくれた…」フルフル…
ベルトルト「ユミル!!君って凄いよっ!」バッ
ベルトルト「やった!やったあぁああぁ!!」ギュゥゥゥゥッ…
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886 : 2014/10/12(日) 19:45:56 -
ユミル「あーーぁ…こっちにも大きな赤ちゃんがいた…」ナデナデ…ユミル「なぁ、ベルトルさん…。泣かなくたっていいんだぞ…」
ベルトルト「ユミルだって…泣かなくていいんだ。ぐすっ…」
ユミル「だ、だって…嬉しくて……あぁぁあっ……あか、赤ちゃんが……来てくれた…」
ベルトルト「うんうん!僕も嬉しくて…ひっぐ……」
ベルトルト「今日から家事は僕が全部やっちゃう!だから君は安静にしてるんだ。いいね?」
ユミル「そんな訳にはいかないだろ!妊婦だってな、適度に身体を動かさなきゃ」
ベルトルト「楽しみだなぁ…男の子かな?女の子かな?名前は何にしようか」
ベルトルト「元気に産まれてきてくれれば男でも女でも…いやでもやっぱり女の子が…
ユミル「アニんとこは今、4人目が7ヵ月だってな…」
ユミル「お前をあいつの家に派遣して父親の心構えをたっぷり教育してもらうのもいいな」
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887 : 2014/10/12(日) 19:46:26 -
ベルトルト「うちの子が女の子でアニの4人目が男の子だったら将来結婚とか…」ギリギリユミル「お、お前…気が早すぎるぞ!両方ともまだ産まれてもいないのに……」
ユミル「まったく、お前のお父さんは心配性だなぁ」スリスリ…
ベルトルト「僕もお腹を撫でていい?」
ユミル「もちろん!父親なんだからな。今後は手や頭だけじゃなくて腹も撫でてくれよ」
ベルトルト「毎日撫でて話しかけるよ…。この会話も聞いてるかな?」ナデナデ…
ベルトルト「ねぇ…僕がお父さんだよ?君が出てくるのをゆっくり待ってるからね」
ユミル「…」
ユミル「お前と、結婚して良かった…」
ベルトルト「えっ?」バッ
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889 : 2014/10/12(日) 19:48:01 -
ユミル「分からない…。でも今はこのお腹に命が宿ってる。それだけで充分だろ?」ニッ
ベルトルト「あぁ…充分だ」
ベルトルト「ユミル、また少し痩せた?」
ユミル「指輪が回るな…。赤ちゃんに栄養がいってるのかな?早く大きくなれよ…」
ベルトルト「美味しい料理、作るからね!これからはしっかり2人分食べてね」
ユミル「ははっ…努力する」
ユミル「しかし指輪が落ちると困る。街外れの宝飾店に何本かチェーンが残ってたな」
ユミル「体重が戻るまでは鎖に通して首にかけておくか。失くしたら離婚の危機だ」
ベルトルト「僕が持ってこようか?明日の朝にでも…」
ユミル「そうか?散歩がてら自分で行こうと思ってたが、行ってくれるならお願いする」
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892 : 2014/10/12(日) 19:50:29 -
ユミル「うちのはどっちかなぁ…まだ分からないからどっちでもいいように服の色は…ベルトルト「ユミル、話があるんだ」
ベルトルト「少し、口と手を休めて…先に横になって欲しい」
ユミル「…私はまだ眠くない」
ベルトルト「いいから!横になって」
ユミル「…」
ギシッ… ポスン
ベルトルト「顔もだいぶやつれたね。身体だけじゃなくて」ススッ…
ベルトルト「その首に下げてる指輪、今つければするりと抜けてしまうんだろう?」
ベルトルト「ユミル、何kg痩せた?赤ちゃんがいるのに」
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896 : 2014/10/12(日) 19:54:05 -
ベルトルト「こんなに、若くて、優しくて、可愛くて…赤ちゃんだって……」ユミル「私はこの子を産む…。昔から出産ってのは命懸けなんだ、特別な事じゃない」
ユミル「その時、お前は一人じゃない。この子がいるし…私もずっとそばに居るから…」
ベルトルト「…君の言ってる事が正しいとは限らない!」
ユミル「合ってるよ。分かるさ、自分の身体のことは、自分が一番よく分かっている」
ベルトルト「君は子を宿して体調を崩しただけだ。そう思い込んでるだけだ!!」
ベルトルト「巨人の身体だってまだ僕らの知らないことばかりだ!寿命だなんて…そんな」
ベルトルト「ユミル…僕は……」
ベルトルト「これから生まれてくる赤ちゃんより、君の方が大事だ」ギュッ
ユミル「だから言いたくなかったんだよ…。これを話せばお前は絶対そう言うと思った」
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897 : 2014/10/12(日) 19:55:22 -
ベルトルト「諦めよう。今回の赤ちゃんは…」
ベルトルト「元気になって、体調が戻ったらまた…
ユミル「嫌だっ!!」
ユミル「13年だぞ…。結婚してから13年も待ったんだ…」
ユミル「やっと私らのところにも来てくれた…。私達の赤ちゃんなんだよ!」
ユミル「何でだ?あれだけ欲しがっていたのに『諦めよう』なんて言葉がなぜ出てくる?」
ユミル「殺せるのか?私達の赤ちゃんを…殺すなよ。もう、誰も殺すな……」ギュゥッ…
ベルトルト「それでも僕は…」
ユミル「お前が弱い男だっていうのは知ってる。だけどお前は父親だからこの子を預ける」
ユミル「大丈夫、私には秘策があるんだ。私が死んだ後も、お前と一緒に子育てをする」
ベルトルト「ユミル…」
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898 : 2014/10/12(日) 19:56:03 -
ユミル「私は狂ってなんかいない、耳を貸せ」
ベルトルト「誰も聞いていないよ…この家には僕ら二人だけだ」
ユミル「いいから…」ソォッ…
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・ベルトルト「ダメだ!!」
ベルトルト「そんなこと、僕には出来ない…」
ユミル「この方法しかないんだ。それにこの方法ならお前の願いを叶えてやれる」
ベルトルト「僕の願い?」
ユミル「本当の意味で、私はお前の『一生のお願い』を叶える事が出来る」
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902 : 2014/10/12(日) 19:59:59 -
863年 よく晴れた春の日
アニ「アルミン!お湯の準備は出来てる!?もうすぐだよ」
アルミン「出来てる。大丈夫だって!これで8回目のお産だよ」
クリスタ「ユミル!頑張って!!赤ちゃん、もうすぐだからねっ」グスッ
ユミル「ぐっ…う゛ぅーーっ!!ベルトルさ……赤ちゃ……う゛ぅうぅあ゛ぁっ…!!!」
ベルトルト「ユミルっ!頭が見えてるよ。あと少しだ」
アニ「ライナー落ち着きなっ!あんたが父親じゃないんだから…」
ライナー「だがユミルは初産だぞっ!クリスタの時より苦しがってる…」ソワソワ…
クリスタ「ライナー黙って!ユミルは命懸けなの!!」
クリスタ「私達の時よりだいぶ時間が掛かってる…。ユミルの体力がもつかどうか…」
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903 : 2014/10/12(日) 20:00:58 -
ベルトルト「僕がいる!ユミル…もうすぐだから!!死ぬなっ」ギュッユミル「死ぬかっ!この子を産むまで死ねねぇんだよっ!!ぐあぁああああっ…!!」
ユミル「はっ…はぁっ……ああぁああっ…あぁああっ……痛いっ…い゛だいぃっ!!」
アニ「ほら、もうすぐだ!もうすぐ産まれるっ!」
クリスタ「ユミル!!!」
「ぎゃぁーーーぁあっ、ぎゃあああっ…」
アニ「や、やったぁ……。あぁっ…やっと……産まれたよ…」グスッ
ベルトルト「こんなに大きな声で泣いて……僕ら以外で久しぶりに見た、黒い髪の毛だ…」
アニ「ベルトル!早く抱きなっ。あんたが父親だ!」
ベルトルト「えっ…でもユミルが先…
アニ「いいから!!」
ベルトルト「…かちゃん……赤ちゃん……」ジワッ
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904 : 2014/10/12(日) 20:01:44 -
ベルトルト「ユミル!よく頑張ったね!見て、僕らの赤ちゃんだ!!」バッ!
ベルトルト「君によく似ている…可愛い女の子だよ…。ねえっ、よく見てよっ!」
「ほぎゃぁああっ……おぎゃーーーーっ……」
ユミル「…」
ベルトルト「ユ、ユミルっ!?」
ユミル「……っ…はぁ…だい、じょうぶ。少し…気を失ってただけだ…」ニイッ
ベルトルト「ユミル…びっくりした……」グシュグシュ…
ユミル「可愛いなぁ…目がかすんでよく…見えないけど、私に似てるって…?」
ユミル「ほら…もっと泣いていいんだぞ!私が、お母さんで…こいつが、お父さんだ」
ユミル「ふふっ…女の子かぁ……二人で決めた名前、何だっけなぁ……」ハァ…ハァ…
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906 : 2014/10/12(日) 20:03:26 -
アニ「クリスタ!ユミルに花嫁衣装を着せてあげよう。頼まれてただろ?」アニ「ほら!しがみついてないで早くしな!!」
クリスタ「うぅっ…ライナーとアルミンは部屋から出て!今から着替えさせる」ゴシゴシ
クリスタ「立体機動装置をつけて、ベルトルト。あなたも急ぐの!!」
ベルトルト「分かってる!でももう少しだけ…」
ライナー「出よう、アルミン…」
ライナー「ユミルとベルトルトの最期の時を邪魔しちゃいけない」
アルミン「うん…」
ベルトルト「ユミル、何か言いたいの?」
ユミル「あの、髪留めも…忘れずにつけてくれ…よな。百合の…花の……」
ベルトルト「大丈夫だよ。それも分かってるからね、墓まで持って行くんだろ?」
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907 : 2014/10/12(日) 20:04:14 -
ユミル「覚えて…いたか……ははっ……」クリスタ「身体を起こせる?」
ユミル「はぁ…はぁ……平気…だ。だが、あまり時間が、ない…みたいだ…」
ユミル「クリスタ、アニ…悪い…な」
クリスタ「赤ちゃんの顔、よく憶えておいてね……」ギュゥッ
ユミル「ベルトルさんだけじゃ……不安だからな、この子を…よろしく頼む…」チュッ
アニ「心配しなくていい!さぁ、頭を出して」
ユミル「ほんと…に可愛いなぁ…私の赤ちゃん」ハァ…
ユミル「この鎖も外してくれ…。この子に……ユミルにあげたい」ヒューッ… ヒューッ……
ユミル「私がこの子にあげれるのは…名前…と……この指輪くらいだ……」ハァ…ハァ…
ベルトルト「分かったよ…ユミル。もう何も話さなくていい…」
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908 : 2014/10/12(日) 20:05:04 -
ベルトルト「君の命が、もたなくなる…」ユミル「んっ…」コクン…
クリスタ「赤ちゃんは私が見てるから!二人共もう行って!!時間が無い」
アニ「立体機動装置ちゃんと付けた?ベルトル、慌てないで!でも急ぎなっ」
ベルトルト「つけた。…ユミル、もう行こう!」
ベルトルト「僕の背中に思いっきりしがみついて!!」
ユミル ハァ… ハァ…
ベルトルト「ユミル!もっと強くしがみつくんだっ!!」
ユミル「だいじょう…ぶ。そのまま…飛んでくれ…あの、ばしょ…まで」ギュッ
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909 : 2014/10/12(日) 20:06:01 -
ベルトルト(空はどこまでも澄んで…明るく、高く、雲一つない青空…)パシュッ… ヒュンッ
ベルトルト(僕達の子供が産まれた日なんだ!今日という日は天からも祝福された日)
ベルトルト(なのに、どうして君は逝ってしまうんだ?)ガッ キリキリキリ…
ベルトルト「かるい…軽いよ、ユミル……」グスッ
ユミル「はじ…て……おまえに…おぶわ…た時は、…おもいって言われたぞ…」ハハッ
ベルトルト「軽すぎて一人で飛んでるみたいだ…」
ユミル「……」ヒューッ… ヒューッ…
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910 : 2014/10/12(日) 20:06:52 -
ベルトルト「着いた!」タッ …ソッ
ベルトルト「ユミルっ!ユミル!!」ペチペチッ…
ユミル「まだ、生きて…るってば…ハァ……ハァ…。あわ…てんな……」
ユミル「ベルトルさん……あのこを……ユミルを…頼んだ…ら…な…」ニコッ
ベルトルト「大事に育てるよ…君と一緒に……」
ユミル ハァ…ハァ… ハーーーッ ハァーーーーッ…
ベルトルト(息が…。早くしないと!もうユミルの命が…)ジワッ
ベルトルト「ユミル、やるよ!君の『一生のお願い』叶えてあげるからね!」ゴシゴシ…
ベルトルト(僕が君に贈った純白のウェデングドレスを赤く染めて、ユミルが…笑った)
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914 : 2014/10/12(日) 20:10:23 -
ベルトルト「ユミル!?」ガバッ!ベルトルト「今、ユミルの声が…」キョロキョロ…
ベルトルト「違う…今の声は僕の頭の中から……」
ベルトルト「そうだ、この記憶!!僕も覚えている…」
ベルトルト「ユミル…」
【お前は、私が思う以上に…私を大切に思ってくれているんだな…】
【一緒に逃げてから、お前の私への執着心はどこから来るのか考えることがある】
【嫉妬深くて、強引で、我儘で、世間知らずで…でも絶えず燃え続ける炎のように熱い】
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977 : 2014/10/16(木) 06:56:13 -
こいつのせいで晒されてるわけだしな
26 :以下、名無しが深夜にお送りします:2014/10/15(水) 23:36:34 ID:xVFDL/gM
進撃
ユミル「ベルトルさんに『一生のお願い』の権利をやる」完結編
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1395055416/
信者が凄い
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