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1 : 2015/03/22(日) 23:00:22.48 -
~2015年1月23日・結衣宅~結衣「は?…なんだよ急に」
京子「もしもの話だけどさ。もしも好きな子ができて、その子が女の子だったらさー」
結衣「!?」
京子「その子との子供は産めないわけじゃん」
結衣「そう、だな…」
京子「子孫を残せないわけだよ。それってやっぱり悲しくない?生き物として」
結衣「そう、だね…」
京子「精○バンクから精○もらうのもなんか嫌だしねー」
結衣「うむ…」
京子「あ、あれ?結衣にゃんそこはツッコんで欲しいんですが」
結衣「つッ!突っ込めるわけないだろ!!」
京子「……へ?」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427032822
ソース: http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427032822/
-
2 : 2015/03/22(日) 23:01:31.58 -
結衣「京子!」ガタッ京子「うおっ!?」
結衣「京子は…」
京子「ああごめんごめん。食事中に乙女らしからぬ発言を」
結衣「きょ、京子は!…その…好きな子が、いるのか…?」
京子「え!?い、いやいやいや!だからもしもの話だって言ってんじゃーんあはは」
結衣「……」
京子「あはは」
結衣「……」
京子「…///」
結衣(マジか)
-
3 : 2015/03/22(日) 23:02:48.20 -
結衣「で、でもまあ、そうだな。あれだよ」京子「あれ?」
結衣「うん。科学は日々進歩してるんだし、そのうちどうにかなるんじゃない?子供」
京子「あー。ナントカ細胞の開発により女性同士でも受○できるようになりました!とか?」
結衣「食事中に受○とか言うなよ///」
京子「お、おう…」
京子「でもそういうのってさー。科学的にどうにかなったとしても、倫理的に難しかったりするんじゃないかな」
結衣「ああ…そうだな。よく分かんないけど、クローン人間の研究とかと似たようなもんだしね」
京子「うん。仕方ない、ここはやはり精○バンクしか」
結衣「おいこら」
-
4 : 2015/03/22(日) 23:03:49.02 -
結衣(京子のやつそんなこと考えてたのか)結衣(ていうか子供って…すっ飛ばしすぎだろ。子供のこと考える前に他に考えることいっぱいあるだろ)
結衣(……相手が誰なのかは知らないけど)
結衣(……)
結衣(京子…いるんだろうな、好きな子。子供が欲しくなるほどの…)
結衣(相手は誰なんだろう)チラッ
京子「ゆいのカレーうんめぇ」モグモグ
結衣(いや…たぶん、心のどこかで信じちゃってるんだろうな私は)パク
結衣(京子が好きなのは…)モグモグ
TV「ピロピロリーンここで緊急速報です」
京子「ん、なんだろ」
-
5 : 2015/03/22(日) 23:05:14.14 -
———
1. プロローグ 終了
(全9編)SF風ゆるゆりSS
登場人物
歳納京子
船見結衣
吉川ちなつ
赤座あかり
杉浦綾乃
西垣奈々
船見まり(結衣の父方の従妹という設定でいきます)———
-
6 : 2015/03/22(日) 23:09:07.21 -
〜3月2日 15:30・部室〜あかり「あかりが本当の主人公だよぉ」
あかり「」ゴローン
あかり「お菓子食べよっと」
あかり「わぁいうすしお。あかりうすしお大好き」
あかり「♪」パリパリ
あかり「……」
あかり「わぁいプカリ」ングング
あかり「……」
あかり「みんな遅いなぁー」
京子「赤座あかりーーっ!!」スパーン!
あかり「ひいぃ!?」
あかり「もぉー京子ちゃん脅かさないでよぉー」プンプン
あかり「あかり心臓止まるかと思ったよぉ…」
京子「いやーあかりも退屈してると思ってさ。たまには刺激が欲しいかと」
あかり「あ、そうだったんだぁ〜」
あかり「えへへ。良い刺激になったよぉ。ありがと!京子ちゃんっ」ニコッ
京子「うっ」
京子(あかりが眩しいよぉ)
-
7 : 2015/03/22(日) 23:10:10.30 -
あかり「……」京子「」ゴローン
あかり「…ねえ京子ちゃん。何かしないの?」
京子「うーんまだ二人だしねー」
あかり「んー…」
京子「どうかした?」
あかり「」ススス…
あかり「」ピトッ
京子「うん?」
あかり「あかりもっと刺激が欲しいよぉ」
京子(あかりがえろいよぉ)
-
8 : 2015/03/22(日) 23:11:11.96 -
京子(よし、ここは調子に乗ってあかりとイチャイチャしてみよう)京子「じゃあおままごとしよう!」
あかり「お、おままごと?」
京子「うん。私が母親役ね」
あかり「あかりは?」
京子「赤ちゃん!」
あかり「ばぶぅ!?」
京子「よーちよちよち。あかりちゃんかわいいでちゅねー」ギュッ
あかり「ふえっ?」
京子「お〜よちよち」ナデナデ
あかり「え、えと……ばぶぅ」
京子「あかりちゃん。ママって言ってみて」
あかり「マ…マ。…マーマっ!」ニコッ
京子「!」
京子(……ほほう)
-
9 : 2015/03/22(日) 23:12:46.11 -
京子「じゃあミルク飲みましょうね〜」あかり「ばぶう!」ングング
京子「体ふきふきしましょうね〜」ナデナデ
あかり「あ、ちょっ…」
京子「」ナデナデナデナデ
あかり「ばぶっ…んっ…」
京子「はい、じゃあおしめ取り替えましょうね〜」
あかり「ばぶ」ゴロン
あかり「……」
あかり「って京子ちゃんスカートの中に手を入れないでぇ〜!」
京子「こら暴れたら脱がせられないでしょっ!めっ!」
あかり「だめぇ!だめなのぉ!見ないでぇ!」
京子「いいからいいから〜」
あかり「今は…だめなのぉ……」
京子「……」
あかり「〜〜っ///」
京子「……」
あかり「子供っぽいパンツなのぉ…」
京子「あ、そっちか」
あかり「へっ?」
ガラッ
ちなつ「遅くなりまし…」
京子「」
ちなつ「……」
バタン
京子「ちょっと待ってちなつちゃーーーん!」
-
10 : 2015/03/22(日) 23:13:37.02 -
ちなつ「最低です京子先輩!あかりちゃんを無理やり襲うだなんて!見損ないました!」京子(ちなつちゃんも昔同じようなことしてたような…)
京子「だってあかりが刺激欲しいって言うからさー」
あかり「」プイッ
京子(拗ねちゃった…)
京子「よし、じゃあ全員揃ったということで!トランプしよう!ばば抜きねー」
ちなつ「またですかー?」
あかり「」プイッ
-
11 : 2015/03/22(日) 23:14:37.65 -
京子「うーん。これかな?」あかり「」プイッ
京子「こっちかな?」
あかり「」…プイッ
京子「よし」サッ
あかり「!」
京子「はい上がりー」
あかり「」シュン…
ちなつ「次は何します?」
京子「もっと刺激的なことするか……」
あかり「…!」プイッ!
ちなつ「でも刺激のあることなんてそうそうないですよね」
京子「あるよ!この部室には刺激が溢れてるんだよ!」
ちなつ「例えば?」
京子「押し入れを開けるとそこにはタイムマシンが!」スパーン!
ちなつ「あるわけないじゃないですか。どこの紙芝居ですか」
京子「畳を上げるとそこには地下迷宮への入り口が!」ガコン!
ちなつ「ゲームのやりすぎですよ京子先輩。埃舞うからやめてくださいよ」ゴホゴホ
京子「……」
ちなつ「京子先輩?」
京子「あった」
-
12 : 2015/03/22(日) 23:16:07.81 -
京子(人が通るために掘られた道であることは間違いない。高さは3メートルぐらい。壁や床面はコンクリで固めた感じだ。それが青白く光ってる。強めの発光塗料を塗ったような…)ちなつ「先輩、入るつもりですか?」
京子「当たり前じゃん!だってダンジョンだよダンジョン!私はこんな刺激を求めていたんだよ!」ウズウズ
ちなつ「でも危なくないですか?もし崩れたりしたら…」
京子「ちなつちゃんはお留守番しててよ。怖いでしょ?」
ちなつ「こ、怖くありませんっ!京子先輩が行くなら私も行きます!気になりますし!」
京子「……あかりはどうする?」
あかり「…」
あかり「」プイ…
京子「おいで、あかり」
あかり「」…コクン
-
13 : 2015/03/22(日) 23:17:20.75 -
〜地下道〜京子(分かれ道もない一本道。途中下り階段がいくつかあった。どんどん地下深くへと進んでいるようだ)
あかり「あ、あのね、京子ちゃん」
京子「やめるタイミング掴めなかったんだろ?そんななら怒ったふりなんてするなよなー」
あかり「うん、ごめんね」
京子「いやいや私が悪かったよ。まあほんとに脱がす気はなかったけどさ、あかりがあんまりかわいいから私の母性本能が暴走しちゃって」
あかり「も、もぉ〜京子ちゃんてばぁ…」
ちなつ「あの…やっぱり戻りませんか?」
京子「大丈夫だってちなつちゃん。この道はきっと、私達が通るべくして作られた運命の道なのだよ」
ちなつ「何言ってるかよく分からないです。だとしても安全性は別問題ですよね。だいじょばないです」
京子「まーどうせ、西垣ちゃんの地下研究所でした!とかそんなオチだよ」
ちなつ「それはそれで刺激的ですね……爆風に飲まれたら逃げ場ありませんよ」
テクテク…
テクテク…
アッカリ アッカリ…
あかり「あ、ねえ見て。行き止まりみたいだよ?」
京子「おう、ほんとだ…」
ちなつ「ちょっと拍子抜けですね」
京子「でもまあ、とりあえず突き当たりまで行ってみよか」
-
14 : 2015/03/22(日) 23:18:39.26 -
京子(突き当たりの床には大きな扉があった。ドアノブまでちゃんと付いてる鉄の扉がそこにあった)京子「よーし開けてみよう!」
あかり「あかりわくわくするよぉ」
ちなつ「」ドキドキ…
京子「」クイッ
京子「……鍵閉まってるな」
ちなつ「」ホッ…
京子(…いや、と言うよりは錆び付いて動かないって感じか?元々鍵付きとして作られていない)
あかり「残念だねぇ」
ちなつ「さて、仕方ないので戻りましょう!」
京子「いや、見たところ扉はかなり錆び付いている!」
京子「刺激を与えれば開くかもしれない」カツン カツン
ちなつ「ちょっ、ちょっと先輩!乗ったら危ないですよ!ほんとに開いたらどうするんですか!」
京子「そりゃっ」ピョン
京子「うりゃっ」ガン!
バコーーーーン!!
ちなつ「!?」
あかり「京子ちゃーーん!!」
-
15 : 2015/03/22(日) 23:19:37.39 -
京子「いてて……ん?」京子(足元を見渡して、ここが階段なんだと分かった。黄色く発光する幅の広い階段)
京子(どうやらあの扉はこの階段に繋がっていたらしい。ダンジョン攻略は順調である)
あかり「京子ちゃん大丈夫ー?」
京子「うん。二人もおいでよー」
京子(立ち上がって二人を呼んでから、私は後ろを振り返った)
京子「……」
京子「なんじゃこりゃ」
京子(ダンジョンどころじゃなかった。地下研究所どころじゃなかった)
京子(広大な景色が広がっている。先を見通せないほどに広い。トンネルを抜けるとそこは、不気味な光を放つ地底都市だった)
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16 : 2015/03/22(日) 23:21:14.21 -
〜16:00・階段〜あかり「わぁー…!きっと妖精さんの王国だよぉ」カツン カツン
ちなつ「あかりちゃん!?走ったら危ないよ!」
あかり「ちなつちゃんもおいでよぉ。天国への階段を駆け下りる気分だよぉ」カツン カツン
京子(あかりが元気になったのはいいけど……天国って。なぜかシャレになってない気がする)
京子「あかり、ゆっくり進もっか」
あかり「はぁい…」
京子(結構高いな……建物も豆粒だ。人がいるかどうかも高すぎて見えない。とりあえず見えるところまで降りてみよう)
京子(でも、ここからでもよく見える建物が一つ。やたらでかいドーム状の建物がある。よく見るとてっぺんから何かが真っ直ぐ伸びてるな。パイプのような…)
京子(パイプはこの世界の天井に繋がってる。天井は金属製のもので固めてあって、地面同様どこまでも続いている。ここはまるで空を鉄板で覆ったような世界)
カツン カツン…
京子(そろそろ下を覗いてみよう)
ちなつ「きょ、京子先輩そんなところにいたら危ないですよ!」
京子「」ジーッ…
京子(異世界文明的なものを想像していたけど、ほとんど日本家屋やら、上の現代文明と変わらない)
京子(建物は全部ボロボロ。風化してる。高い建物は崩れてるのもある。…ここは荒廃都市だ。既に滅んだ世界みたいな)
京子(それから……なんだろう。屋根に所々穴が空いてる家がある。まるで何かが落ちてきたような…)
京子(路上は……なんか白いな。ゴツゴツした何かが大量に散らばってる感じ。よく見ると家の屋根にも同じのが乗っかって——)
京子「……!?」ゾクッ
あかり「♪」カツン カツン
京子「あ、あかり!」
-
17 : 2015/03/22(日) 23:22:43.08 -
京子(それは人骨だったと思う。荒廃都市だと言うのならあり得ないことではないけど…)京子(あり得ないのはその数だった。明らかに住人の数より多い。あんな数の人間がこの都市一つに住めるはずはない。ぱっと見ただけでも数百倍はあったと思う)
京子(不気味に思って、私は「怖くなってきた」とだけ言い二人に帰ることを提案した)
〜16:30・校門前〜
京子「あ、私教室に宿題忘れた!二人は先に帰ってて!」
あかり「そっかぁ…ばいばい京子ちゃん」
京子「畳下のことは三人の秘密だからな!あと危ないから今後勝手に入らないこと!んじゃっ!」タッタッタッ…
あかり「ばいば〜い」
ちなつ「……」
ちなつ(分かりやすっ!!)
-
18 : 2015/03/22(日) 23:23:40.71 -
〜部室〜京子「ごらく部部長として調査せねばなるまい」ガコン
スタッ
京子(下まで行ってみるか)スタスタ
京子(生きてる人に出くわしたらどうしよう。日本人だったらいいな。友達になれるかな)
京子「……」スタスタ
京子(不謹慎だけど。誰も生きていませんように)
〜階段〜
スタンッ
京子(よし、とりあえず階段まで辿り着いた。降りるとしよう)
ちなつ「宿題はどうしたんですか?」
京子「ひいぃ!?」
ちなつ「」スタンッ
京子「ち、ちなつちゃん?」
ちなつ「京子先輩が行くなら私も行くって言ったじゃないですか」
京子「だめだよちなつちゃん!」
ちなつ「先輩がよくて何で私はだめなんですか!」
京子「ええと…」
京子(止むを得ず、私が見たことをちなつちゃんに話した。都市が滅んでいることも、人の骨が散らばっていることも)
京子(ちなつちゃんは青ざめた顔をしながらも、頑なに「行く」と言い続けた)
京子(だから私はちなつちゃんも連れて行くことにした。……何より、やっぱり一人は寂しいから)
-
19 : 2015/03/22(日) 23:25:31.37 -
京子(最初に三人で階段を下った時よりずっと長い距離を下った。終点は近い。そして分かったことが一つ)京子(細かい鳥瞰図を見たことがなかったから、上から見降ろしていた時にはピンとこなかったけど——)
京子「——ちなつちゃん。ここって…」
ちなつ「はい…」
京子「私達の町、だね」
ちなつ「……」
ちなつ「……」ブルブル
京子「うん、やっぱり帰ろう!」
ちなつ「はあ!?ここまで来て何言ってるんですか!そんなこと言ってまた一人で来るつもりなんでしょ!?」
京子「だってちなつちゃん、こういうホラーっぽいの苦手でしょ?」
ちなつ「お、おばけ屋敷だと思えば怖くありません!私だってここ気になってしょうがないんですから、一緒に調べますっ!」
京子「でもちなつちゃん震えてるし…」
ちなつ「じゃあ私、怖いので目瞑ります!はい、これで怖くありません!京子先輩手引いてください!これなら私を追い返す理由はありませんよねっ!」
京子「う、うん…?」
京子(仕方ないか…)
ギュッ
-
20 : 2015/03/22(日) 23:28:19.17 -
〜17:00・道〜京子(やっぱり生き物はいない。どこを見てもただのしかばねばかり。それも全部人間のものだ)
京子「」キョロキョロ
ちなつ「…」スタスタ
京子(やっぱりここ、私達の町にそっくりだ。あのドームを除けば建物の配置がほとんど同じ)
京子(最初はダンジョン攻略みたいなノリだったのに…私達の町が死んじゃってるみたいで)
京子(そう思うと、怖いってより……なんだか悲しいな)
ちなつ「…」スタスタ
京子「」キョロキョロ
京子(ファンタジー的な考え方をすれば、並行世界みたいな感じなのかな。実はもう一つの世界があって、んでそっちは文明が滅んでましたと)
京子(いや、未来に来ちゃったとか…?)
京子(もしくはドラ○エⅥみたいな。こっちが現実で、上の世界の方が夢みたいなものだったと)
京子(夢と言うより…本当に天国だったりして。私達は皆、死者の霊魂でした。…なんてことはあるわけないと信じたい)
京子(とりあえず何か情報を得られるアイテムを探さねば)キョロキョロ
ちなつ「京子先輩」
京子「ん?」
ちなつ「これ私来た意味あるんですか!?」
京子(何も見えないもんね!ないよっ!帰りなよ!)
京子「でもまあ、正直私も怖かったし。ちなつちゃんがいてくれるだけで心強いよ。一人じゃ泣いちゃってたかも!」
ちなつ「…」
京子「怖いって気持ちなんかより、ちなつちゃんと手繋げて嬉しい!みたいなさっ」
ちなつ「……」
パッ
京子「え、あれ?」
ちなつ「も、もう大丈夫ですっ、私、自分の目で見て歩きますからっ」スタスタスタスタ
京子「ちょっ、え?待ってよちなつちゃ〜ん!」
-
21 : 2015/03/22(日) 23:29:33.11 -
京子(私達の家に行ってみよう、なんて提案はお互いにしなかった。そこに自分達の亡骸があるんじゃないか、なんて考えが浮かんだら怖くて)京子(ドームに近付くようなこともしなかった。パッと見であれが一番不穏だから)
京子(しばらく階段周辺の道をうろうろしていたけど、特に情報源になるようなものはなく、やっぱりどこもかしこも死体ばかり)
京子「これ以上外歩いててもしゃーないね。その辺の家に入ってみよっか」
ちなつ「は、はい…」ガタガタ
京子「大丈夫だってちなつちゃん!京子ちゃんがついてるよんっ☆」キュピーン
ちなつ「京子先輩が強がってる時って、分かりやすいですよね…」ブルブル
京子(うっ…)
京子(そうしていくつかの廃屋を見て回ったけど、建物の中も死体があるだけだった)
京子(一体だけの家もあれば、何体か転がっている家もある。死体の数が多い家は、どれも屋根に穴が空いていた)
京子(屋根の穴が何かを落とされた跡だとするなら、つまり……人、ってことになるのかな。乗っかってるのもあったし)
京子(もしかして、私達のいる上の世界から…?)
京子「…」ブルッ
京子(降ってきたり、しないよね…)
京子(他に気になったのは、家具もほとんどなかったこと。これじゃあまるで……まるで引っ越し後のような…)
京子「さっぱりわからん…」
-
22 : 2015/03/22(日) 23:30:59.85 -
〜17:30〜京子(これで10件目)
京子(ちなつちゃんも慣れてきたのか、それとも麻痺してしまったのか…震えは収まったようだ。でも、もう時間も遅いし)
京子「ここ見たら帰ろっか」
ちなつ「そうですね…」
ギー…
京子「」スタスタ
ちなつ「」スタスタ
京子「お、見てちなつちゃん!家具があるよ!タンスとクローゼット!」タタッ
ちなつ「はい。さっさと調べて帰りましょう」
京子(備え付けの家具だ。だからこれだけ置き去りなのかな)
京子「よーし…」
ガチャッ!
クローゼット「…」
京子「とくに何も見つからなかった。」
ちなつ「」ドキドキ…
ちなつ「」バッ!
タンス「…」
ちなつ「」ホッ…
ちなつ「」ガサゴソ
ちなつ「あっ、京子先輩!新聞!タンスの中に新聞がありましたよ!」
京子「おお、なんと都合の良いアイテムが!情報源としてこれ以上の物はない!でかしたちなつ隊員!」
ちなつ「はいはい。えーっと、どれどれ」パサリ
-
23 : 2015/03/22(日) 23:32:26.77 -
ちなつ「『2015/05/01☆本日の奇病通信☆今日は奇病に関する一連の流れを時系列順にまとめるよ!』ふむふむ。……奇病?」ちなつ『2014年9月:東京にて初の発病者。発病6時間後に病院にて死亡。政府はこれを報じず。研究機関にて研究開始』
ちなつ『2014年10月:研究機関にて奇病の一部性質判明。2ヶ月以上2年以内の潜伏期間を経て発病後数時間で死に至る空気感染型感染症。致死率100%。大気圧の高低が病原体の生息環境・感染速度に関係しているとの見解。ヒト以外への感染は観測されず。治療法不明』
ちなつ『2014年11月:関東地区を中心に発病者増加。病の噂が広まり始める。政府・医療機関は依然沈黙』
ちなつ『2014年12月:秘密裏に研究が進められていたクローン技術を用いて人類存続計画を———』
ちなつ「ぷっ。ちょっとちょっとなんですかこの記事あはは。冗談にもほどがあります。何ですかこのファンタジー。おかしな話ですね!これ京子先輩が考えたんですか?ちょっとやめてくださいよあはは」
京子(ちなつちゃんが混乱し始めている)
-
24 : 2015/03/22(日) 23:33:42.76 -
京子(クローンか…。つまりそういうことなのかな)京子「ちょっと続き読ませて。……ちなつちゃん?」
ちなつ「…」
京子(放心状態だ…)
京子「どれどれ」パサリ
京子『2015年1月:政府が詳細を伏せて奇病の存在を報道。またワクチンの開発に成功しているとの虚実を報道。検診・ワクチン投与という名目で日本居住者からクローンの元となる体細胞の採取。この時点でほぼ全ての日本居住者の感染を確認』
京子(ワクチン投与?うーんどっかで…)
京子『2015年2月:この時初めて政府が国内外に奇病の詳細、及び今後の計画を発表。同時に日本がクローンの生存圏として上界の構築を開始。また下界各地域に全自動クローン製造工場建設開始。発病者急増。国外感染発覚』
京子『2015年4月:オリジナル体死滅後の作業要員として作業用無人格クローン製造開始』
京子『※上界構築作業完了後の有人格クローン製造サイクル開始予定は約100年後との見込み』
京子(製造サイクル…?)
京子『※病原体の発生源・発病条件・治療法等依然不明』
京子『以上、本日の奇病通信でした☆明日は奇病に関する一連の流れを時系列順にまとめるよ!それではみなさん明るく前向きにがんばって明るく生きまっしょい!』
京子「ざっくりまとめると……治らない病気が流行って、もう手遅れっぽいから、クローンを作って新しい世界で生かしてあげましょう。…ってこと、か」
ちなつ「私達人間じゃないんですか?」
京子「え?」
-
25 : 2015/03/22(日) 23:34:45.20 -
ちなつ「私、え?本当はみんな、死んじゃってるんですか?」京子「ち、ちなつちゃん落ち着いて」
ちなつ「は。製造工場?造り物だったんですか。意味わかんないです。は?なんなんですか?」ポロポロ
京子「いや、でもほら、私生きてるし!見てよほら、ね?京子ちゃんは京子ちゃんだよんっ!」
ちなつ「…」ボロボロ
京子「そ、そうだ!ほら、ミラクるんだって!」
京子「ミラクるんだって人間じゃないじゃん!漫画のキャラクターだよ!?それでもミラクるんは頑張って戦ってるじゃん!ね?だから、その……私達だってさ」
ちなつ「何なんですかそのフォロー」
京子「…」シュン
ちなつ「…もう帰りましょう…」
-
26 : 2015/03/22(日) 23:36:15.64 -
〜17:45・階段〜京子「…」カツン カツン
ちなつ「…」カツン カツン
京子(それなりの覚悟はしてたけど……霊魂どころか、作られた偽物だったなんて)
京子(涙は流せるのに……魂がないなんて…本当に、おかしな話だよ…)
ちなつ「」チラッ
京子「…」カツン カツン
ちなつ「…ふふっ」
京子「ちなつちゃん…?」
ちなつ「だって京子先輩、『ミラクるんだって戦ってるんだ』って」プッ
京子「なっ、なんだよー私だって必死に…」
ちなつ「はい。ありがとうございます」
京子「…うん」
ちなつ「京子先輩だって混乱して、本当は泣きたいほど辛いくせに」
京子「そんなことないもん!」
ちなつ「ダメですよ。強がっちゃ」ポン
京子「ぬお」
ちなつ「同じ辛さを分かってあげられるのは、私だけなんですからね」ナデナデ
京子「ちなつちゃん……うるうる」
ちなつ「だ、だから…」
ちなつ「今回だけは、私に甘えること……許してあげますからっ」プイ
京子「ちなつちゃん…ぐすん。ちなつちゃーん!」ギュウ
ちなつ「まったく……しょうがないですね、京子先輩は」ヨシヨシ
京子「」モミモミ
ちなつ「って先輩どこ揉んでるんですか!!」ガツン
京子「でへへ」
-
27 : 2015/03/22(日) 23:36:50.98 -
———
2. 探索編 終了
———
-
28 : 2015/03/22(日) 23:38:36.77 -
続きは明日から。
木曜までは1日1編ずつ更新していきます。
金曜にラスト3編をまとめて更新して完結の予定です。 -
34 : 2015/03/23(月) 22:13:02.16 -
設定はニーアの影響です。
「涙は流せるのに魂がないなんて」も。こっそりセリフを入れてみようかなと。
他作品パロディが他にもでてきますがご了承ください。 -
35 : 2015/03/23(月) 23:00:27.49 -
〜翌日(3月3日)14:00・2-5教室〜西垣「えーこのようにー」
綾乃「」カキカキ
綾乃「」カキカキ
綾乃「…」
綾乃「」チラッ
京子「」ボー…
綾乃「……」
西垣「えーそしてー」
綾乃「」ジッ…
京子「……はぁ」
綾乃(歳納京子が頬杖を突きながら窓の外を眺めて溜め息を吐いたぁ!?)
西垣「えーつまり、冬から春にかけての気温の上昇と気圧の変化によって、爆発的な風が起こる」
西垣「爆発的な風が起こる」
綾乃「」ジー…
綾乃(休み時間はいつにも増して元気だったのに…授業中は居眠りをするでもなく上の空…)
綾乃(何かがおかしい…)
西垣「杉浦聞いてるかー」
綾乃「は、はいっ!」ガタッ
西垣「じゃあ杉浦に質問だ。どんな時に爆発的な風が起こる?」
綾乃「えっと、先生が実験をしている時です!」
西垣「正解だ」
綾乃(歳納京子ったら何かあったのかしら……)
-
36 : 2015/03/23(月) 23:01:57.50 -
〜15:30・部室〜京子「…」ゴロゴロ
京子(これ以上現実を知りたくないのは山々だが。私は新聞を持ってきてしまった)
京子(まだ見てない所がある。どうせならしっかり把握しておこう)
…パサリ
『クローン体の性質に関して:細胞採取時点の年齢のまま誕生する。生殖能力を持たない。生存期間は約13ヶ月。成長・老化を伴わない』
京子(……)
京子「はい?」
『上界構築後の製造サイクルに関する計画概要:寿命を迎える前にボディ変換を行う。前代クローンの細胞を元にした新規クローン製造を1年周期で繰り返すことで人類存続を図る。記憶等は引き継がれる見込み』
京子(……マジか)
京子(私達が何故か年を取らなくなってから約20年。ずっと同じ身体で長いこと生きてたつもりだったけど、記憶を代々継いでるからそう勘違いしてただけなんだ)
京子(産まれてから14年間はオリジナルとして生きて、成長が止まってからの20年間は、この100年後の世界で死んだり生まれたりを繰り返してたってことか)
京子(…1年ごとに、私達は死んでたのか…)
『ボディ変換は年度末(3月28日0時0分)に一斉に行う』
京子(しかもよりにもよってこの日…)
-
37 : 2015/03/23(月) 23:03:01.67 -
『変換工程1:上界地盤から微細アームが生え全クローンへ一斉に全身麻酔を射ち捕獲する』『変換工程2:地盤内にて捕獲したクローンの細胞を採取する』
『変換工程3:不要となったクローン体を下界へ廃棄する』
京子(人がゴミのようだ。毎年大量のクローンが下に投げ棄てられるのか…。異常な死体の数と屋根の件はこれのことだね)
京子(…いやそれだけじゃないな。上界構築100年間に作られた作業用無人格クローンってのも、同じように廃棄されてるんだろう。それぐらいの数だった)
『変換工程4:採取した細胞を全自動クローン製造工場へ送る』
『変換工程5:クローン製造機に細胞を投入し新規クローンを製造する』
『変換工程6:登録された住所、または捕獲時の位置に新規クローンを再配置する。配置数時間後に目覚める予定』
京子(工場ってのはあのドームだよな。パイプを通して細胞やらクローンやらを運ぶわけだ)
京子(全自動ってことは無人でプログラムに従って動いてるってことかな。たぶんアームも含めて全部)
京子(…要点だけまとめると…)
京子(3月28日0時に地面からアームが生えて、私達を捕まえる。私達の細胞を採取したら下に棄てて、その細胞を使って工場で新しいクローンを作る。生まれ変わった私達はそれに気付かぬまま日常に戻る、と)
京子(そうやって20年間、人類存続を実現してきたわけか…)
京子(つまり今の私達は今月までの命。考えても仕方ないけど、やっぱり死ぬのは嫌だな…)
-
38 : 2015/03/23(月) 23:04:26.94 -
京子(記憶はたぶん、細胞採取時点のものが全部引き継がれるってことなんだろう)京子(2015年1月の細胞採取の時は、まだ国民にクローンの計画は知らされてなかった。その状態で最初のクローンが作られてるから、私達は自分らがクローンだってことを知ることなく生きてたんだ)
京子(関東で一時期病気が流行っていたってのはぼんやり記憶にあるけど…皆ワクチン投与で治った気になって過ごしてたわけか)
京子(アームはたぶん、肉眼では確認できないものなんだろう。それで瞬時に眠らされて、その時の記憶が次の代に引き継がれるから、やっぱり自分らが機械に管理された存在だなんて気付くことはできない)
京子「…」パサリ
京子(大事な情報はこんなところか)
京子(記事になくて他に気になってたのは……家具だな。まあ作業員が上に運んだんだろう。元の世界をより正確に再現するために。オリジナルかクローンかの違いはあるけど、本当に引っ越しだったんだ)
京子(新聞が置き去りだったのは、私達に真実を気付かせないためか。世界の実態が分かっちゃう物は全部下に残したんだろう)
京子(発光塗料っぽいあの不気味な光は、単純に暗闇を照らすためだったとして…)
京子(なんでこの部室が出入り口なのか。確かに作業員の移動のために道は必要だろうけど、なんでここ?)
京子(……偶然ってことでいいか)
京子(……)ゴローン
京子(今更だが)
京子「日本の技術すごすぎるだろおい!」ガバッ
綾乃「としのーきょーこーーー!!!」スパーン!
綾乃「ってえええーー!?歳納京子が新聞読んでるー!?」
-
39 : 2015/03/23(月) 23:05:41.20 -
京子「お、綾乃だ!綾乃〜〜!」ガバッ綾乃「ちょぉ!?ちょっと歳納京子っ」
京子「会えて嬉しいよ綾乃ー」スリスリ
綾乃「なっなによ、さっきまで教室で会ってたじゃない///」
京子「そんなこと言ってー。綾乃だって私と片時も離れたくなくてこうして会いに来てくれたんでしょ?」
綾乃「んなぁ!?///ち、違うわよ!ばか!」
京子「えー。じゃあなんか用事?」
綾乃「そうよ用事よっ!用事で仕方なく来ただけなんだからねっ」
京子「で、なんの用事?」
綾乃「へっ?えっと…」
綾乃(抱きつかれた衝撃で会いに来た理由を忘れてしまったわ)
綾乃「な、なんだったかしら……」
京子「忘れちゃったの?じゃあお茶でも飲んでってよ!入れてくるね!」タタッ
綾乃「え、いいわよ!生徒会の仕事だって残ってるんだから」
京子「いいからいいから」
-
40 : 2015/03/23(月) 23:06:37.48 -
綾乃「」ズズズ…綾乃「おいしいシーパラダイス」
綾乃「ところで歳納京子はどうして新聞なんて読んでたの?」
京子「ん?綾乃も読みたい?」
綾乃「いえ別にそういうわけじゃ…」
京子「ごめんね綾乃…この新聞、綾乃の大好きな四コマは載ってないんだ…」
綾乃「別に大好きではないわよ」
京子「そんなことよりさあ。綾乃は毎日楽しい?」
綾乃「え…どうしたのよ急にそんな…」
京子「いいから」
綾乃「…」
綾乃「…ええ、楽しいわよ」
綾乃「生徒会はやりがいがあるし、毎日みんなに助けてもらってるし」
綾乃「入学した時はいろいろ不安だったけど、千歳が話しかけてくれてね。千歳がずっと友達でいてくれるから、そのおかげで毎日が充実してるの」
京子「そっかあ」ニコッ
綾乃「そ、それにっ!と、とし、歳納京子と、あの…」モジモジ
京子「」ニコニコ
綾乃「えと…その……///」モジモジ
京子「」ニコニコ
綾乃「……な、なんでもない!」
京子「えー」
-
41 : 2015/03/23(月) 23:07:46.71 -
〜数分後〜綾乃「そろそろ戻るわね。生徒会のみんなに迷惑かかるから」
京子「おう。あ、これ今日出し忘れてたプリントね」ペラッ
綾乃「あらそう言えば。ありがと…ていうかあんた私の用事に気付いてたんじゃない」
京子「てへっ」
綾乃「もう…。それじゃあね」
京子「うん。生徒会がんばってねー」
綾乃(…やっぱりいつもと少し様子が違う。笑顔なのに、どこか寂しげな…)
綾乃「と、歳納京子」
京子「んー?」
綾乃「何かあったら、私にも相談しなさいよね」
京子「お?」
綾乃「せ、生徒会副会長なんだから!……それだけだからっ!」バタン
京子「……」
京子「えへへっ、ありがと。綾乃」
京子「……ん?」
-
42 : 2015/03/23(月) 23:08:55.21 -
あかり「」京子「あかりいたんだ」
あかり「ってえええーー!?歳納京子はあかりの存在に気付かずに新聞を読んでいたー!?」
あかり「もぉー!京子ちゃん新聞と杉浦先輩に夢中で全然あかりに気付かないんだもん」プリプリ
あかり「あかり寂しかったよぉ」ススス…
京子「ごめんごめーん。高度な冗談だってばー」
あかり「あまりにも高度すぎるよぉ。冗談というレベルを超越してしまっているよぉ。今日ばかりは許してあげないよー」ニコニコ
京子「そんなこと言ってこのノリを楽しんでるんだろ!こいつめっ!お団子をもみもみしてやるっ!」モミモミモミモミ
あかり「ちょっちょっと京子ちゃんお団子はだめぇ〜!」
ちなつ「遅くなりましたー」ガラッ
京子「あ!ちなちゅ〜〜」ピョーン
ちなつ「わっ!ちょっと先輩、いきなり抱きつくのやめてくださいよ」ゲシゲシ
京子「えー昨日の夜はあんなに二人で慰め合ったのに」シュン
ちなつ「ちょっ///誤解を招く言い方やめてください!」
京子「ねえねえちなつちゃんっ」
ちなつ「…なんですか?」
京子「あかり!」
あかり「なぁに?」
京子「…えへへー」
ちなつ「…なんなんですか…」
京子「生まれてこれて良かったね!」
-
43 : 2015/03/23(月) 23:09:34.59 -
私はこの計画の意図を掴めなかった。子孫繁栄の能力もないクローンを機械で作り続けるというこの人類存続計画。本物の人類は皆死んじゃうのに、作り物のクローンを生かすことにいったい何の意味があるんだろうって。本物の人達は何を考えていたんだろうって。
だけど…
私達がそれを考えるのは馬鹿らしい。だって私達はこんなに毎日を楽しんでいるんだから。昔の人達が何を考えていようと、私達自身が生まれて良かったと思ってるんだから、それだけで計画に意味はあったと言える。
それに、魂がないなんてことはない。そんな風にはとても思えない。だって私達は幸せを感じる心を持ってるんだから。
偽物だなんて言われても、「私達は生まれ変わった本物だ」って断言してやる。一年ごとに死んでるんじゃなくて、一年ごとに生まれ変わってるんだと思えば何も恐れることはない。
だから、これでいいか
-
44 : 2015/03/23(月) 23:10:20.75 -
京子「よくなーーーーーい!!」あかり「ひいぃ!?」
あかり「京子ちゃんいきなり叫んで脅かさないでよぉ!」プスピス
ちなつ「どうかしたんですか?」
京子「それはそれとしてもだ」
ちなつ「は?」
京子「ひとつ引っかかることがある」
ちなつ「引っかかること?」
京子「ごめんあかり、ちなつちゃん。私ちょっと西垣ちゃんとこ行ってくる!二人は先に帰ってて!」
ちなつ(西垣先生のところ?)
あかり「いってらっしゃーい」
バタン
〜17:00・廊下〜
京子「」テクテク
京子(『検診・ワクチン投与という名目でクローン元となる細胞を採取』…)
京子(なんとなくその時のことを憶えてるのは、オリジナルの記憶も代々受け継がれ続けてるからなんだってことは分かったけど)
京子(ワクチン投与に行った時…)
京子(私、誰かと一緒だった気がするんだよね)
京子(この世界にはいない誰かと……)
京子「ということで西垣ちゃんに記憶を呼び覚ます薬を作ってもらおう!」
京子「ナイスアイディア」テクテク
-
45 : 2015/03/23(月) 23:11:19.38 -
京子(昨日散々階段を昇り降りしたから…歩くのも辛い…)ヨボヨボ京子「足がパンパンパールシーリゾート……」
京子(ん?そう言えば)
京子(クローンの生存圏としてわざわざこんな高い場所に新しい世界が造られたってことは…)
京子(要するに上の世界は、病原体の生息環境に適さない安全な場所ってことになるんだよね)
京子(逆に下の世界は、私達クローンにとっても病原体の巣窟ってことになるんだよね)
京子(なんと私達は、下の世界に行っちゃったんだよねん☆)
京子「……」
京子「うおおー!?」
京子「……」
京子「うおおーーーー!!」
西垣「うおお、元気じゃないか歳納どうした」カツン カツン
京子「西垣ちゃん!どうしよう!どうしよう!」
西垣「どうした」
京子「私、一人じゃ不安だったから……ちなつちゃんも、連れ回しちゃって」
京子「どうしよう!ちなつちゃんが死んじゃうよー!」
西垣「なに!?それは大変だ!!」
-
46 : 2015/03/23(月) 23:13:11.61 -
〜理科準備室〜京子「———というわけなのです」
西垣「……」パサリ
西垣「いや、仮に感染していたとしてもだ。発病までの潜伏期間は2ヶ月以上と書かれている。今月末にボディ変換があるんだろ?発病する前に新しい身体になるんじゃないのか」
京子「いやでも、次の」
西垣「次の代に影響が出るとしたらそもそもこんな計画は成り立っていない。オリジナルの細胞採取時点でもほとんどが感染者だったと書かれているじゃないか」
京子「……あ、そっか」
西垣「それから、記憶を呼び覚ます薬についてだが。私には無理だ」
京子「ですよねー…」
西垣「何度か作ろうとしたこともあったんだけどな。ことごとく失敗している」
京子(作ろうとしてたんだ……何回爆発したんだろう)
京子「てか西垣ちゃん順応性高いね。私らクローンだったってのに」
西垣「はっはっは。そんな小さいこと…この広い宇宙に比べたらちっぽけなもんさ」
京子「ほう。西垣奈々はスケールが違うぜ」
西垣「だが諦めるのはまだ早いぞ歳納」
京子「ほぇ?」
西垣「お前はワクチン投与の記事を見て記憶に引っかかりを感じたんだろ?今どれぐらい思い出せてるんだ?言葉にしてみろ」
京子「うん。病気とワクチンの話をテレビで見てたんだけど、それもその人と一緒だったんだ。場所まではちょっと憶えてない。そんで、その人と一緒に国立病院行った。…はっきり思い出したのはそんぐらいかなー。『誰かがいた』ってことだけなんとなく思い出して、それがどんな人だったのかは全然思い出せない感じ」
西垣「……」
京子「…?」
西垣「…つまりきっかけさえあれば何でも思い出せるということじゃないか。一つ思い出せば連結した記憶が次々に蘇る。記憶とはそういうもののはずだ」
京子「ふむふむ」
西垣「そいつとの思い出を探しに行くといい。今のお前には町々の風景が変わって見えるかもしれないぞ」
京子「おお……なんかいけそうな気がしてきたよ西垣ちゃん!」
西垣「だろ?」
京子「うん。そう言えば、今日学校にいてなんとなく違和感があったんだ。寂しさというか、いつもそばにいるはずの人がいないような!」
西垣(……)
西垣「ああ、その意気だ」
-
47 : 2015/03/23(月) 23:14:30.02 -
西垣「お前が思い出すまでの間、私なりにも調べてみようと思う」京子「調べるって、その人のこと?」
西垣「いや、それはお前に任せるとして。お前はそいつに会いたいんじゃないのか?」
京子「うん、会いたい!」
西垣「私はそのためにどうすればいいのかを調べよう」
京子「ほんと!?」
西垣「ああ。なぜそいつのクローンは存在していないのか。存在しているとしたらどこにいるのか。私達の手でそいつのクローンを作ることが出来るとしたなら、どうすればいいのか。それを調べるつもりだが…」
京子「だが?」
西垣「もし私達の手でそいつを作ろうとなった場合。しかしこういった形で命を作るというのは本来、摂理に反する行いだ。そうでなくとも、命を生むということにはそれなりの責任が伴うものなんだ」
京子「いつになく真面目だね…」
西垣「大事なことなんだ。それに加えて、もし成功したとしても、作られた存在であることを意識してしまい自然に接することができないかもしれない。…お前は、それでもそいつに会いたいか?」
京子「うん。会いたい」
京子「一緒に生まれ変わるはずだった人を生まれさせてあげるだけだもん。私はそれが間違ってるとは思わないし、責任がなくたって一緒に生きてくつもりだよ」
京子「ていうか私達も機械から生まれた命だし、言いっこなしでしょ!」
西垣「…そうだな」
京子「ありがとね西垣ちゃん。じゃ、なんか分かったらよろしく!」ガラガラ
京子「うおっ!ちなつちゃん!?いつからそこに」
ワーワー
〜
西垣「——うーむ…」
西垣(職務をサボって校長にどやされるのはいいとして)
西垣(これはしばらく松本との実験もお預けだな)スッ…
西垣「やれやれだぜ」カツン カツン
-
48 : 2015/03/23(月) 23:17:15.85 -
〜18:00・階段〜西垣「」カツン カツン…
西垣(『そいつ』を仮に『A子ちゃん』としよう)
西垣(A子ちゃんは歳納と一緒にテレビを見ていた。検診も二人で行くほどの仲だ。歳納の家族、あるいは親友のような間柄か)
西垣(歳納が学校にいて寂しさを感じたと言うのなら、おそらくは七森中の生徒。この町に住んでいたことは間違いなさそうだ)
西垣(…見たところ上の町は下の町を完全に再現するように造られているようだ。ボロボロだが、学校、私や松本の家もある。完全に一致だ)
西垣(つまり住民の配置、配属も変わることなく管理されているということ。この町に住んでいた者であれば、クローン体も上の町に住んでいなくてはおかしい、ということになる)
西垣(もしA子ちゃんのクローンが存在しているのであれば、確実に歳納と出会う運命にあるはず。ということだ。やはりそもそも作られていないんだ)
西垣(ではなぜ?)
西垣(歳納と共に検診に行ったことが確かなら、A子ちゃんのクローン元細胞もその時確かに採取されているはず…)
西垣(製造サイクル期間中、どこかのタイミングでエラーが生じたのか?しかし実情を見る限りそんな不具合が出るほど不安定なプログラムだとは思えない)
西垣(となると、検診後に細胞を紛失してしまったか、採取した細胞がクローンに適さないものだったか。要は医療機関側のミスか)
西垣(…こればかりは分からずじまいになるかもしれないな)
西垣(…にしても妙だ。テレビを一緒に見て、一緒に国立病院に行っただと?そこまで詳細に思い出せて、なぜその存在だけが思い出せない?)
西垣(オリジナルの記憶と言うのなら私にだって残っているぞ。親密な間柄なら尚の事忘れるはずがない)
西垣(…歳納が感じたその引っかかりを疑うつもりはないが…)
西垣(まあいい。それはともかく私が考えるべきは…)
-
49 : 2015/03/23(月) 23:18:43.17 -
西垣(やはりクローンの製造方法)西垣(とりあえず必要なのはA子ちゃんの細胞だろう。つまりはオリジナルの遺骸だが、探すにしても歳納がA子ちゃんのことをはっきりと思い出さないことにはどうにもならん)
西垣(とは言えだ。正体が分かったからと言って簡単に見つかるものでもない。大量に死人が出る時代だ。しっかりA子家の墓で眠っているとは考えにくい)
西垣(…この死体だらけの世界でA子ちゃんを特定する手段については後々考えるとして…)
西垣(死滅した細胞を元にクローンを作れるかどうかが一番の問題か。これがアウトとなればもうどうしようもない)
西垣(……)
西垣(歳納には期待させるようなことを言ってしまったか。日本の技術を信じるしかないな)
西垣(それを調べるにしてもやはり…)チラリ
西垣(あれがクローンの製造工場)
西垣(使える細胞を用意できたところでクローン製造機をどうにか動かさなくては意味がない。潜入する必要がある)
西垣(念のため調べはするが、こちら側からの侵入はまず無理だろう。工場内は下界の空気から遮断されているはずだ。そうでなければクローンは生まれた途端奇病に感染してしまうからな。パイプを通すのもそのためだろう。無理やり穴を空けるわけにもいかない)
西垣(工場内部と外界を繋げる道はあのパイプの他にない。今回下界で特に調べるべきことは、工場の正確な位置情報。唯一の侵入経路であろうパイプの先がどこに当たるかだ)
西垣(その後上界からパイプを伝って侵入するとしよう)
西垣「……」カツン カツン
西垣(製造機の操作法。遺骸の細胞を元にクローンは作れるのか。細胞以外に必要なものはあるのか。そもそも3月28日の自動製造以外にも手動操作で製造することは可能なのか。欲を言えば過去の製造履歴も欲しいな。工場で調べることは山ほどある)
西垣(あの工場の中はいったいどうなっているのか…)
西垣(……ふふっ。これはなかなか知的好奇心をそそられるな)
西垣(私の爆発的エネルギーを存分に発揮する時が来たようだ。待っているがいい我が生徒A子ちゃん。120年ぶりの復活を待ち望むがいい。私をなめるなよ。私の力でお前を絶対に生まれさせてやる)
西垣「オラわくわくすっぞ」カツン カツン…
-
50 : 2015/03/23(月) 23:19:26.92 -
———
3. 始動編 終了
———
-
51 : 2015/03/23(月) 23:20:17.91 -
補足
今後原作の出来事を回想するシーンが出てきます。このお話では、原作の一部は120年前(2014年〜2015年)の出来事だった、という設定でいきます。 -
52 : 2015/03/24(火) 23:00:15.74 -
〜3月14日 09:15・駅〜ちなつ(最初は「京子先輩の知り合いなんだろうな」ぐらいにしか考えていなかった)
ちなつ(だけどその話を聞いたことをきっかけに、私も段々と日々の生活の中に違和感を覚え始めた。だからきっと、私とも深い関係にある人に違いない)
ちなつ(京子先輩と私の共通の知人なら、ごらく部の一員なんじゃないか。そんな結論には至ったけど…)
ちなつ(あれからもうすぐ二週間。『いるはずのその人』をはっきりと思い出すことは、まだできていない)
ちなつ(西垣先生はいつも留守で、調べごとがどれぐらい進んでいるのかも、そもそも何をどう調べているのかも確認できていないし)
ちなつ(京子先輩の空元気もいよいよ見てて痛々しくなってきたし……)
ちなつ(思い出せないもどかしさと言うより、たぶん、その人がいないことへの寂しさなんだと思う)
ちなつ(いないことの違和感が強まっているんだと考えれば、答えに近づいているとも言えるけど…)
ちなつ「はぁ…」
ちなつ(あなたは誰なの?どこにいるの?どうして私達のそばにいないの?どうして私はあなたを忘れてしまったの?)
ちなつ「ごめんなさい…」
ちなつ(かく言う私も、最近はその人を想うだけで強く胸を締め付けられる)
ちなつ「…」ギュッ
ちなつ(まるでこれは、恋する乙女の気持ちだ)
-
53 : 2015/03/24(火) 23:01:01.87 -
〜09:25〜あかり「」アッカリ! アッカリ!
ちなつ(そろそろかな…)
あかり「ちなつちゃ〜ん」
ちなつ「あかりちゃん!」
あかり「お待たせー」
ちなつ「今日はわざわざ来てもらってごめんね」
あかり「ううん。いいよ〜っ」
ちなつ(今日はあかりちゃんとシミュレーションデート。あかりちゃんは私の彼女で、私はあかりちゃんの彼女)
ちなつ(『その人』を想う気持ちから、私はその人を、私の恋人だったのだと仮定してみた。もしそれが正しければ、このデートの中で何か思い出せるかもしれない)
ちなつ(あかりちゃんには「いつか出会う素敵な恋人とのデートのために練習をしたい」と言い、わざわざ来てもらった)
あかり「ねぇちなつちゃん。ちなつちゃんは今日、あかりのことをなんて呼ぶの?」
ちなつ「あー、そうだね。あかりちゃんって呼んだらあかりちゃんとしか思えなくなっちゃうし、そうね……」
ちなつ(仮名仮名……。『A子ちゃん』?いやいやどんなセンスよ。『K子ちゃん』。それっぽいけどしっくりこないわね……)
ちなつ「O子様にしましょう」
あかり「王子様!?」
-
54 : 2015/03/24(火) 23:01:57.52 -
ちなつ「だめかな?」あかり「ううん!あかり王子様役がんばるよぉ」
ちなつ「だめよO子様。今のやり直し。全然王子様っぽくないじゃない」
あかり「うん。じゃあ…」
あかり「おれ、今日はちなつのためにがんばるよぉ」キリッ
ちなつ「語尾!」
あかり「おれ、今日はちなつのためにがんばるよッ」キリリッ
ちなつ「うん、良い感じ!それなら私も彼女っぽく振る舞えそう!今日一日それでよろしくねO子様!」
あかり「お安い御用だぜぇ」
ちなつ(うーん…。まあいっか)
あかり「ちなつぅ。今日はどこに行きたいんだぁーい?」アハハ
ちなつ「いやん!O子様の行きたい場所ならどこでもいいですぅ〜〜」ウフフ
あかり(何このちなつちゃん!?)
ちなつ(ん?この感じ…)
-
55 : 2015/03/24(火) 23:02:56.65 -
ちなつ(それからというものの)〜11:00・映画館〜
ちなつ「」ガタガタ ブルブル
あかり(いたいたたた痛い!腕痛いよぉ)
あかり「ち、ちなつぅ。大丈夫だぜぇ。落ち着いて、怖くないんだぜぇ…」
〜
ちなつ「O子様!怖かったですね!私怖くて泣きそうでした!」
あかり「そうだね…怖かったね……」
ちなつ(ん?この感じ…)
〜12:30・レストラン〜
ちなつ「O子様っ!O子様のも食べてみたいですぅ。一口ずつ交換しましょっ。あーんしてください」
あかり「え、同じメニューなのに?」
ちなつ「確かに」
ちなつ(ん?この感じ…)
〜14:00・カラオケBOX〜
ちなつ「もう戻らないあーなたぁぁ〜〜」シクシク
あかり(ちなつちゃん感情込もりすぎだよぉ…)
ちなつ(ん?この感じ…)
-
56 : 2015/03/24(火) 23:04:13.11 -
〜15:30・閑散とした田舎道〜ちなつ(引っかかるようなことは何度もあった。擬似デートの中でこれだけ引っかかったのだから、やっぱり私とO子様は恋人同士だったと見てまず間違いない)
ちなつ(確実に答えに近付いている。けれど、これじゃあこの二週間に感じてきた違和感やデジャヴと大差はない。まだまだ記憶に霧がかかったまま)
ちなつ(やっぱりインパクトのある決定的なものが足りないんだわ。記憶の扉をこじ開ける、もっと大きな鍵になるような)
ちなつ(恋人同士がやることと言ったら、あとは……)
ちなつ「うん。やっぱり、もうアレしかないわね」
あかり「どうかしたのかぁ〜い?ちなつぅ」ニコニコ
ちなつ「キスをしましょう」
あかり「・ ・ ・ ・」
あかり「ちっちっちっちっちなつちゃーん!?」
-
57 : 2015/03/24(火) 23:05:10.68 -
ちなつ「目を閉じればすぐ終わるから!」ガバッあかり「友達どうしでやることじゃないよね!?」ドサッ
ちなつ「O子様に近付くためよ!」
あかり「誰かぁー!助けてぇ〜〜!!」ジタバタ
ちなつ「じたばたしないで目を閉じて!」
あかり「ちなつちゃん……ちなつちゃん……!顔が怖いよちなつちゃん……!」
あかり「ちなつちゃーん!ちなつちゃーーん!息が荒いよちなつちゃぁ〜〜ん!!」
車「」キキーッ!
西垣「やあやあ吉川じゃないか!……ん?なんだ吉川お盛んだなーはっはっは」
西垣「そうそう、私の方は順調と思ってくれていい。吉川の方も何か分かったらすぐに報告してくれ」
西垣「じゃあ私は先を急ぐんでな。まー…あれだ。こんな時間から路上で発情するのをとやかく言うつもりはない。青春は…爆発だーーー!!邪魔したな吉川。また会おう!」ハハハハ
車「」ブーン…
あかり「」ドキドキ
あかり「……あ、あれ?」パチッ
あかり「ちなつちゃん?どうかしたの?」
ちなつ「///」カァッ
あかり「顔が赤いよちなつちゃん?」
-
58 : 2015/03/24(火) 23:06:19.21 -
〜16:00 ・公園〜ちなつ(結局あかりちゃんと普通に休日を過ごすだけで終わってしまった気がするわ)テクテク
ちなつ(楽しかったけど……本来の最終目標は果たされずじまいね)
ちなつ(まあ、引っかかるようなことは多々あったし。こういうのの積み重ねが大事なのよねきっと。私の恋人だと分かっただけでも大収穫だわ)
ちなつ「あかりちゃん」
あかり「なんだぜぇ?」
ちなつ「あ、もう王子様設定いいよ。大変だったでしょ?」
あかり「ううん。あかり楽しかったよぉ」ニコッ
ちなつ「そっか。良かった」ニコッ
ちなつ「じゃあ、いつか私の前に現れるO子様のために!またシミュレーションに付き合ってねあかりちゃんっ」
あかり「うん!あかり、ちなつちゃんの役に立てるの嬉しいよぉ」
ちなつ「この後どうする?もう帰る?」
あかり「うーん……ちょっと座って休もっか?」
ちなつ「そうだね」
??「」テクテク
あかり「あ!ちなつちゃん、あの子のヘアゴムかわいいよぉ。猫さんだよぉ」
ちなつ「ふーん」
まり「」テクテク
ちなつ「!?」
ちなつ「…まり、ちゃん?」
あかり「あ、ほんとだ!よく見たらまりちゃんだねー」
-
59 : 2015/03/24(火) 23:07:33.46 -
まり「」テクテクちなつ(何かしらこの感覚。あの雰囲気…)
ちなつ(雰囲気はともかく……まりちゃんを見た瞬間、私はまりちゃんのことを思い出した。それは、永らく会っていなくて忘れていた人を思い出したような感覚。きっとあかりちゃんもそれは同じ)
ちなつ(言い換えれば、これはたぶん120年前の記憶に引っかかる感覚。クローンになってからはたぶん会っていない…)
ちなつ(でも引っかかるだけじゃなくて、見た瞬間に記憶はしっかり蘇った。ミラクるんのコスプレをして散歩したことも、一緒にかまくらを作ったことも。思い起こすきっかけが訪れて、連結した記憶が次々に蘇ったということ)
ちなつ(なのに、どうして?どうしてまりちゃんのことは思い出せてO子様のことだけは思い出せないの?きっかけならいくらでもあったのに、その一点の霧だけはどうしても晴れない)
ちなつ(本人を見ない限りは思い出せないということ?)
ちなつ(…いや、違う。コスプレ散歩をした時の通行人の痛い視線、その顔さえ私はぼんやり憶えてるんだもの。その法則からすれば、本人を見ずともO子様は導き出せるはずなのに)
ちなつ(単に遠い記憶だから思い出せないってわけじゃないの?)
ちなつ「……」
ちなつ(考えてみればそうよね……京子先輩だって、テレビを見て国立病院に行った、なんて具体的なことを思い出せたのに、誰と一緒だったのかだけは思い出せなかった。これも不自然と言えば不自然)
-
60 : 2015/03/24(火) 23:08:45.79 -
ちなつ(そうね。疑問は一旦置いといて…)ちなつ(O子様に関する記憶だけが、特別に深く沈んでいるのだと一度仮定してみましょう)
あかり「ちなつちゃん、どうかしたの?」
ちなつ「ねえあかりちゃん。まりちゃんとどうやって知り合ったか憶えてる?」
あかり「え?ええーと……あれ?ちょっと思い出せないかなぁ」
ちなつ「そうよね…」
ちなつ(まりちゃんに関する記憶も全てが蘇ったわけじゃない。なぜか出会ったきっかけだけは思い出せない。いや、それだけじゃなく、例えばまりちゃんと遊んだ『あの家』のことも…)
ちなつ(まりちゃんとの思い出にはO子様が大きく絡んでるんだ。だから所々不自然に霧がかかってるんだわ)
ちなつ(となると、まりちゃんに長らく会っていなかったのもO子様がいなかったからということ。つまり、O子様経由で私達はまりちゃんと会っていた、ということになるのよね)
ちなつ(まりちゃんはO子様の家族であると考えるのが一番自然だわ。つまりまりちゃんは……O子様の妹!)
ちなつ「ふふ。ふっふっふ」
あかり「ち、ちなつちゃん?」
ちなつ「重要参考人を見つけたわ」キラーン
ちなつ「あかりちゃん!そうと決まればまりちゃんにアタックよ!」ガシッ!
あかり「ふえ?何が決まったの〜〜!?」
タタタタ…
-
61 : 2015/03/24(火) 23:09:41.44 -
ちなつ(記憶が深く沈んでいるとは言っても確実に近付きつつある。沈んでいることにすら気付かなかったかつての私とは違うんだもの。求め始めたのだから、きっと答えには辿り着けるはず)タタタ…ちなつ(もしO子様の住んでいた場所を特定することができたなら、思い出す大きな鍵になると思っていた。でも、私も京子先輩もやっぱり家の場所も憶えてなくて…)タタタ…
ちなつ(だけど家族となれば話は別!まりちゃんがO子様のことを憶えていようといまいと、住んでる場所は一緒だもんね!これで住所特定も同然よ!)タタタ
ちなつ(それだけでなくどんどん情報を引き出せるはず!これはまたとないチャンスだわ)
ちなつ「まーりちゃんっ!」
まり「!?」
まり「ミラクるんのおねーちゃん…」
ちなつ「久しぶりだね!」
まり「うん」
ちなつ「今日はどうしたの?おつかい?」
まり「うん!」
ちなつ「まりちゃんえらいねー」ナデナデ
まり「えへへー」
ちなつ「ねえまりちゃん。まりちゃんってお姉ちゃんいたっけ?」
まり「ううん」
ちなつ「そっか…。そうだ。ねえまりちゃん、私のお友達の名前、知ってる?」
まり「京子おねーちゃん?」
ちなつ「正解!他には?」
まり「あかりちゃん」
あかり「!」
あかり「…えへへ〜」ナデナデ
ちなつ(私と再会したことをきっかけに、しばらく会っていないはずの京子先輩のことまでまりちゃんは思い出した。それなのに…)
ちなつ(やっぱりまりちゃんもO子様のことだけを忘れている…)
-
62 : 2015/03/24(火) 23:10:26.80 -
まり「じゃあばいばいおねーちゃん」ちなつ「え!?ちょっちょっと待って」
まり「?」
ちなつ(ここでお別れしたらいつ会えるか分からない。それは困るわ。京子先輩とも会わせたいし)
ちなつ(かと言って引き止めるのも……このまま付いて行って家に上がらせてもらうのも図々しいような)
ちなつ(時間も時間だし。今日は住所特定ぐらいで満足して、後日京子先輩と一緒に訪問して詳しく調査を……うん、そうしましょう)
ちなつ「まりちゃん。私、またまりちゃんに会いたいから、電話番号と住所を知ってたら教えてもらえるかな?」
まり「他人に個人情報を流してはならないってママが言ってたー」
ちなつ(他人!?)ガーン
まり「おねーちゃんばいばーい」タタタ
ちなつ「……」
ちなつ「そうだ!あかりちゃん、まりちゃんを尾行するのよ!」
あかり「えぇ!?なんで!?」
ちなつ「こんなことあかりちゃんにしか頼めないもん!」
あかり「あかり不審者さんだと思われちゃうよぉ…」
ちなつ「……え?…何言ってるの…?あかりちゃんの擬態能力があればそんな心配いらないじゃない!」
あかり「んん!?あかりそんなに器用に擬態能力使えないよ!?」\アッカリーン/
-
63 : 2015/03/24(火) 23:11:03.55 -
〜16:30・路上〜まり「ただーいまー」ガラガラ
「あ、ちなつちゃん!まりちゃんあのお家に入っていったよぉー」チョイチョイ
ちなつ「でかしたわあかりちゃん!」タタタッ
「でもちなつちゃん。コソコソしなくても、『お家まで送ってあげる』って言えば良かったんじゃないかなぁ」\ンーリカッア/
ちなつ「……」
ちなつ「それじゃおつかいにならないじゃない!可愛い子には旅をさせろって言うでしょ!?」
あかり「あ、そっかぁ〜」
ちなつ「さてさて。ここがO子様のお家ね」
あかり「へっ?」
ちなつ(とりあえず住所特定には成功)
ちなつ(うん、間違いない。このお庭で雪遊びをしたわ。記憶回路にビンビンきてる。もう一歩、もう一歩よ……)
あかり「ちなつちゃん、あんまり人のお家を覗くのは…」
ちなつ「あ、そうだ。表札表札…」
ちなつ「……」
あかり「…ちなつちゃん?」
ちなつ「……」
あかり「どうしたの…?」
ちなつ「船見———」
あかり「ねえ」ユサユサ
-
64 : 2015/03/24(火) 23:12:28.09 -
〜〜〜櫻子『ずるーい!私のに落ちてない!』ユサユサ
あかり『あはは櫻子ちゃんったら〜』
桜木『』ユラユラ
ボタボタッ
毛虫『』ウニョウニョ
…
ダダッ!
向日葵『船見先輩はやっ!』
〜〜〜
ちなつ「船見……先輩」
〜〜〜
『せせせせんぱい!怖かったですね!私怖くて泣きそうでした!』
『————……—————……』
『———————————————————』
『あれっそうでしたか!?』
〜〜〜
ちなつ「……」
〜〜〜
『お泊まりだからって浮かれて焦っちゃだめね。まずは食べさせあいっこ作戦よ!』
『先輩!先輩のも食べてみたいです。一口ずつ交換しましょっ。あーんしてください』
『—、————————?』
『確かに』
〜〜〜
ちなつ「先輩と…お泊まり…」
〜〜〜
『いつもは二人ずつ寝るから、今日はすごく広く感じますね』
『————』
『……せ、先輩っ。そっちいっても、いいですかっ』
『———いいよ』
〜〜〜
ちなつ「…」ドキン
-
65 : 2015/03/24(火) 23:13:18.45 -
あかり「ねえ、ちなつちゃんはまりちゃんのお家に何の用だったの?」ちなつ「ごめんあかりちゃん、ちょっと待ってて」タタッ…
あかり「ち、ちなつちゃん?」
ピーンポーン…
ちなつ「……」
『私が守ってあげるから。困ったことがあったらすぐ言いなよ』
ちなつ「…」
『私のことは—…—でいいよ』
『は、はいっ!ゆ…ゆ、ゆ———』
船見母「はーい」ガラガラ
ちなつ「あ、あの……!」
船見母「?」
ちなつ「結衣先輩、いますか!?」
船見母「ユイ…?」
船見母「……」
船見母「……ごめんなさい、家間違えてるんじゃないかしら」
ちなつ「……」
船見母「?」
ガラガラ…
ピシャン
ちなつ「…」
ちなつ「…」ウルッ
あかり「ちなつちゃん?」
-
66 : 2015/03/24(火) 23:14:04.51 -
ちなつ 「うっ…ううぅ……ゆい…せんぱい…」ポロポロあかり「ちなつちゃん、どうしたの?大丈夫?」
ちなつ「あかりちゃん……あかりちゃぁん」ヒシッ
あかり「…ちなつちゃん…」
あかり「大丈夫だよぉ。あかりがついてるよぉ」ギュウ
ちなつ「私……私……!」ポロポロ
あかり「うんうん」ナデナデ
ちなつ「恋人じゃなかったぁぁあ!」ウワーン
あかり「へ?」
あかり「……へ?」
ガラガラ
まり「おねーちゃん、どうしたの」オロオロ
あかり「あ、まりちゃん!あのね、あのね、えっとねっ」
まり「!」
まり「」タタタ…
あかり(あ、お家の中に入っちゃった)
ちなつ「うわあぁぁぁぁーーーん!!」ボロボロ
あかり(あ、戻ってきた)
まり「」…タタタ
まり「はい、おねーちゃん」ペラッ
ちなつ「え?」
まり「まりんちの住所と電話」
ちなつ「これ……書いてきてくれたの?」
まり「うん。だからもう泣かないでっ、おねーちゃん」
ちなつ「……」
ちなつ「」グシグシ
ちなつ「……うん!住所覚えてるなんてすごいね、まりちゃん!」ナデナデ
まり「えへへー」
あかり(なんだかよく分からないけど一件落着だよぉ)ニコニコ
-
67 : 2015/03/24(火) 23:15:17.42 -
〜17:00・帰り道〜ちなつ(まりちゃんが結衣先輩のお家に遊びに来てたおかげで、私は結衣先輩のことを思い出すことができた。まりちゃんには感謝してもしきれないわね)
ちなつ(結衣先輩は私を守ってくれる王子様。だけど……)
ちなつ(私だって守られてばかりじゃない。今回は私達が結衣先輩を助ける番。待っててね、結衣先輩)
ちなつ(そしていつか本当に恋人になってみせるんだから!!)
ちなつ「そうだ!京子先輩に自慢しなくちゃ!私、勝ったんだもの!」
あかり「?」
ピ ポ パ
ちなつ「ふふふ」
プルルルル…
携帯『ただいま電話に出ることができません』
ちなつ「あ?」
ちなつ(何よ……まあいいわ)ピ
あかり「京子ちゃん出なかったの?」
ちなつ「うん」テクテク
あかり「そっかぁ…」テクテク
ちなつ(そう言えば、表札やまりちゃんのことを見てもあかりちゃんは何の引っかかりも感じていなかった。沈んだ記憶があることにすら気付いていない様子。まあそれは以前の私達にも言えることだけど)
ちなつ(やっぱり『いるはずの人がいない』っていう、ちゃんとした意識が第一に必要だったのかな。モヤモヤしてても、存在には気付いたから。その始まりがあったから、私は結衣先輩に辿り着くことができたんだ)
ちなつ(やっぱり他の記憶とは法則からして違っているような……。まあ思い出せたんだもの細かいことはこの際いいわ。一言で言えば『愛の勝利』よ)
ちなつ(ともかく。つまり、あかりちゃんが結衣先輩のことを思い出しちゃう心配はないということ!)
ちなつ(あかりちゃんを巻き込むわけにはいかないもんね。あかりちゃんまで結衣先輩のいない寂しさを抱えることはない)
ちなつ(あかりちゃんには、いつもにこにこしていてほしいから)
あかり「」ニコニコ
ちなつ(でも、絶対あかりちゃんにも会わせてあげるからね)ニコッ
あかり「?」
あかり「どうかしたのかーい?ちなつぅ」ニコニコ
ちなつ「ふふっ。なんでも」
-
68 : 2015/03/24(火) 23:16:16.50 -
———
4. 想起編 終了
———
-
72 : 2015/03/25(水) 23:00:19.61 -
〜同日(3月14日)7:30・駅〜京子「お、来た来た。綾乃〜〜!!」
声が大きいわよ恥ずかしいじゃない///
京子「おはよ!」
綾乃「お…おはよう、歳納京子…。ていうかあなたその髪…」
京子「うん!綾乃とお揃いでポニテにしてみました」
綾乃「んなッ!」
歳納京子と…お揃いだなんて…///
京子「似合ってる?似合ってる?」
綾乃「…ま、まあまあよ」
京子「ほんと!?良かったっ」
綾乃「…」
どうしよう…ただでさえ緊張してたって言うのに
京子「じゃあ行きますか!」
綾乃「ええ…」
-
74 : 2015/03/25(水) 23:01:13.55 -
〜8:30・電車内〜ガタンゴトン…
京子「そしたらさー…」ウトウト
京子「さくっちゃんがさー…」ウトウト
綾乃「眠そうね歳納京子」
京子「んー…昨日の夜眠れなくってさー」
綾乃「ふーん」
綾乃「……」
ね、眠れなかったって、それって私とのデ、デデデデデートを楽しみにしてたってこと!?
綾乃「///」
…いや、でもまあそれもそうよね
デートかどうかはともかく、歳納京子の方から誘ってきたんだし
綾乃「着いたら起こしてあげるから。寝ててもいいわよ」
京子「ん…あんがと……」
京子「…」
京子「…」スー…スー…
京子「…」トサッ
綾乃「んなっ///」
歳納京子の顔が…私の肩に……!
京子「」スヤスヤ
綾乃「///」ドキドキ
寝息……寝顔……うなじぃぃ…!
私も昨日は眠れなかったけど
眠気が一気に吹き飛んだわ…
綾乃「…」ドキドキ
綾乃「どうしよう東照宮…」ドキドキ
京子「」スヤスヤ
綾乃「…」
でも歳納京子ったら一体どうしたのかしら…
急に何の前触れもなく「水族館行こう!」なんて言い出して…
-
75 : 2015/03/25(水) 23:01:55.03 -
〜10:30・バス停〜京子「やっっ…と着いたーー!」
綾乃「眠気は吹き飛んだみたいね」
京子「うん!綾乃の肩寝心地良かったよ」
綾乃「なっ!あなた気付いてて…!」
京子「へへへ〜」タタタッ
綾乃「もう…」
…今日は散々振り回される一日になりそう
京子「水族館!水族館だよ綾乃!楽しみだねっ」
綾乃「…ええ」
歳納京子がどういうつもりで私を誘ったのかは分からない。デートだなんて考えちゃうのは私だけなのかもしれない
でも、ただの友達としてでも私は十分。もっと仲良くなりたいと思ってたんだから、二人で遠くの水族館へ遊びに行くほどの仲になれただけでも私は十分嬉しい
綾乃「ショーまで時間あるのよね。最初どこ行くの?」
京子「あそこしかないでしょ!」
綾乃「あそこ?」
-
76 : 2015/03/25(水) 23:02:38.83 -
〜10:45・ジンベエザメ館〜京子「うおーーっ!?」
京子「すげえ!」タタタッ
綾乃「あ、こら歳納京子」
京子「でっけぇ〜〜!ほら綾乃早くっ!」
ジンベエザメ「」スイー…
綾乃「…」
綾乃「とっ歳納京子ったら子供ね〜ジンベエザメぐらいではしゃいじゃってっ」トテテッ
京子「ちっちゃいのもいる。親子かなぁ」
綾乃「…かわいい」
京子「かっこええ…」
ジンベエザメ「」スイー…
京子「私、ジンベエザメの潮吹きが見たいなあ。どぅばーーっ!って」
綾乃「いや、クジラじゃないんだから潮吹きはしないでしょ」
京子「そっかー…。じゃあ綾乃の潮吹」
ガッ!
京子「むい」
綾乃「…」
綾乃「…」ギロッ
京子「うほうほ。ほめんほめん」
綾乃「…」ゴゴゴゴ…
京子「…ほめんなひゃい」
綾乃「……」
綾乃「もう…。次行くわよ次っ!」スタスタ
京子「…」テクテク
綾乃「……歳納京子?」
京子「///」テクテク
綾乃「……」
綾乃(…なんで言ったあんたが赤くなってんのよ!?)
-
77 : 2015/03/25(水) 23:03:23.87 -
〜11:00・本館〜魚達「」スイスイ
京子「綺麗だなー」
くらげ「」フヨフヨ…
京子「ん」
京子「うわっ、なんだこのくらげ!」
綾乃「どれ?」
京子「ほらこれ。まんまるで触手が四本。そして顔がある」
綾乃「ほんとだ…まるでぬいぐるみみたい…」
くらげ「」フヨフヨ…
くらげ「」フヨ…
くらげ「」…
綾乃「?」
くらげ「」シュババババッ!
綾乃「ひっ!?」
京子「目にも止まらぬ速さで触手を動かし水中微生物を捕まえておいしそうに食べ始めた!」
くらげ「」ムグムグ
京子「器用だな。がんばれば漫画描けそうだよね」
綾乃「さすがにそれはないでしょ…」
-
78 : 2015/03/25(水) 23:04:01.61 -
〜11:30・イルカショー〜ワーワー
イルカ達「」ピョーン…
京子「おぉ…」
イルカ達「」バシャーン!
京子「うひゃー!」
司会『さあ、そんな元気いっぱいなイルカ達。次はみなさんと仲良く遊んでもらいましょう』
京子「おっ」
司会『みなさんの中で誰かお二人、こちらでイルカ達と遊んでみたいという方』
京子「はいはいはーーい!!はいはいはーーい!!」
綾乃「は、はしゃぎすぎよっ!歳納京子!」ウズウズ
京子「ほら綾乃も!アピールアピール!」
綾乃「しょ、しょうがないわねっ…」
司会『はい、ではそちらの親子の方』
綾乃「あら…」
京子「ちぇーっ。ぶーぶー」
綾乃「…ふふっ」
歳納京子は最近、何か思い悩んでいるようだった
それがずっと気がかりだったけど、少なくとも今日はそんな心配いらないみたい
悩み事は解決したのかな
無理して明るく振舞ってるわけでもなく、本当に心から今日を楽しんでいるように見える
京子「みんな生き生きしてるなー」
綾乃「え?」
京子「調教師の人もすごく楽しそう。私もイルカを調教してみたい」
綾乃「無理よ。あなたの場合戯れるだけで終わりそうだもん」
京子「そっかー…。じゃあ綾乃を調教」
ガッ!
京子「んにゅ」
-
79 : 2015/03/25(水) 23:04:38.43 -
〜12:30・レストラン〜店員「お待たせ致しましたー。シーフードカレーとBランチになります」ゴトッ
京子「うほーうまそう!」
店員「ごゆっくりど〜ぞ〜」
京子「いただきます!」
綾乃「いただきます」
京子「」バクバク…
京子「カレーうんめぇ!」
綾乃「ほんと子供なんだから」
京子「失礼な!私は子供」
京子「……」
綾乃「……?」
京子「…うめぇ」パクパク
綾乃「…」
ふとした瞬間に何かを思い出して、それが歳納京子を悩ませているような。それを周りに悟られまいと、いつも通りの自分を演じているような
この二週間、私は歳納京子を観察してそのことに気が付いていた
今日はそんな様子は見られない。歳納京子は本当に元気になった。そう思っていたけど、私自身が今日を楽しみすぎて気付かなかっただけなのかもしれない
京子「」モグモグ
歳納京子は今も何かを抱えている。こうやって時折物憂げな表情を見せるのは変わっていなかった
-
80 : 2015/03/25(水) 23:05:13.96 -
京子「デザートどれがいいかなー」綾乃「あ、歳納京子。このアイス、ラムレーズン入りですって」
京子「うーん。他のにする」
綾乃「え!?」
京子「いやー。毎日食べてたら飽きちゃってさー」
綾乃「そう…。ていうかあんた毎日食べてたの」
京子「これにしよう!塩キャラメルプリンパフェ」
綾乃「あ、私も同じのにしようかしら」
京子「お!じゃあビッグサイズにして二人で一つを食べようか?」
綾乃「ばっ///ばか言ってんじゃないわよ!」
京子「えー」
綾乃「…そもそもビッグサイズなんてないじゃない」
京子「てへっ」
綾乃「…」
やっぱり空元気なのかな…
「何かあったら私にも相談しなさい。」そう言ってからも、歳納京子は私に何も話してくれなかった
けど、人に話せない悩みの一つや二つは誰にだってある。だから相談役になることは諦めていたけど…
でもやっぱり、もし私にできることがあるなら何かしてあげたい
楽しんでばかりじゃだめだ
-
81 : 2015/03/25(水) 23:06:07.29 -
京子「プリンうめぇ」パク綾乃「…」
綾乃「ねえ歳納京子。これって、何かの気晴らしなの?」
京子「は?」
綾乃「あ、えっと……」
言い方が悪かった。こうじゃなくて…
綾乃「…ごめんなさい」
京子「いや謝られても……なんでそう思ったの?」
綾乃「だって歳納京子、最近何か悩んでたでしょ?上の空だったり、無理してたり」
京子「…」
綾乃「だから今日…」
京子「気晴らしのためだけに綾乃を連れ回したりしないよ」
綾乃「わ、私は…!……それでもいいのよ。何かあったら相談してって、言ったでしょ?」
京子「綾乃に慰めてもらわなきゃいけないほど京子ちゃんは弱くありません!」
綾乃「…そう…」
京子「まあ確かに悩んでることならあるんだけど、今日は綾乃と楽しく過ごしたいんだよ。その悩んでることとおんなじぐらい、綾乃のことだって大切だから」
綾乃「……ほんと?」
京子「うん!」
綾乃「…」
綾乃「…ありがと」ボソッ
歳納京子にとって私は大切なものの一つ
それを嬉しいと思う反面、悩みを打ち明けてくれないのはやっぱり悔しくて、「おんなじぐらい」という言葉はなぜだか少しだけ胸を衝いた
歳納京子は私を頼ってくれなくて、歳納京子にはたくさんの大切なものがあって…
私にはたぶん、二つの気持ちがあるんだ。歳納京子の役に立ちたい気持ちと、歳納京子の一番になりたい気持ち
そのどちらも叶えられないんだと思うと、大切だなんて言われても単純に喜ぶことはできなかった
-
82 : 2015/03/25(水) 23:06:47.82 -
京子「ていうか私、綾乃も最近何か悩んでるのかなあって思ってたんだけど。思い詰めた感じと言うか。だから今日気晴らしになればなーと思ってて」綾乃「…はあ!?」
京子「え?えっと…ごめん」
綾乃「いや謝られても…」
京子「何か悩んでるんじゃないの?」
綾乃「ええ悩んでるわよ…」
あんたのために悩んでるんでしょうが。なんで今の流れで分からないのよ
綾乃「はぁ…」
京子「えっと…私で良ければ相談に…」
どの口が言うのよ
綾乃「…とにかくっ!」
京子「とにかく?」
歳納京子には、今日だけでも悩み事を忘れてほしい。私は、今日だけでも歳納京子の一番になれたらと思う。だから…
綾乃「今日はお互い、他のことは考えずお互いのことだけを考えて、楽しむことに集中すること!分かったわね!」
京子「う、うん…」
綾乃「……」
私もしかして
今ものすごく恥ずかしいセリフを口走ったんじゃないかしら
遠回しに伝えようとしたつもりなのに、これじゃあ全然遠回しじゃない
しかもちょっと声が大きかったかも
京子「綾乃顔真っ赤だよ?」ニヤニヤ
綾乃「うるさいわよバカっ///」
-
83 : 2015/03/25(水) 23:07:37.44 -
お昼のことはあまりにも恥ずかしかったけど、不思議とよそよそしくなるようなこともなかった。むしろ胸のつかえが取れたような気分だ。言葉にして良かったと思う。結局悩み事は相談してくれなかったけど、一緒に楽しい時間を過ごすだけでも歳納京子のためになるんだと考えればいい。私はそのために今日を楽しもうと思う。
そして歳納京子も、私のために今日を楽しもうとしてくれている。少しずれてるけど、私のためを思って誘ってくれたというのは、考えてみればすごく嬉しいことだ。
この日がお互いにとってなんなのか。それが分かったから、あとは余計なことを考えず今日を楽しめばいい。
恥ずかしかったけど、それを伝えられて良かったと思う。
〜14:00・ベンチ〜
京子「へくちんっ!」
綾乃「あら、寒いの?」
京子「いや平気平気。きっと誰かが私の噂をしてるんだよ」
綾乃「あ、もしかして」
ピトッ
京子「ぬっ」
綾乃「ほら、首冷えてるじゃない。マフラーもしないで慣れない髪型するから…」
京子「…」
綾乃「……」
京子「///」
綾乃「…ッ!」
シュルルン!
京子「え?」
ファサッ
綾乃「そっちの方が…いいと思うから」
京子「うん…」
どうかしてるわ…こんなこと臆面もなくやってのけるなんて
ていうかなんで赤くなるのよ…いつも自分から引っ付いてくるくせに
京子「よし、では装備変更だ。歳納京子はいつものリボンを装備した。手ぐしで元通り。防御力が20上がった」
綾乃「なによそれ…」
-
84 : 2015/03/25(水) 23:08:20.93 -
〜15:30・道〜自販機「」ガシャコン
綾乃「はい」
京子「うん。…あったかレモン。あったかあったか」
綾乃「そろそろ時間よね」テクテク
京子「バスまであと30分…遊び足りん…」テクテク
綾乃「しょうがないわよ。こんな遠い場所なんだし」
京子「うん。ってことで、さ。また来ようね綾乃!」
綾乃「…」
綾乃「あ、あなたが…どうしてもって言うなら…」ゴニョゴニョ
京子「ん?」
綾乃「…」
綾乃「ええ。また一緒に遊びましょう」
京子「…うん!」
京子「あとはお土産買って、最後にもっかいジンベエ見る時間もあるかな」テクテク
綾乃「あっ」
京子「ん」
ペンギン「」ヨチヨチ…
綾乃「ペンギン…」
京子「あ、そっか。今ペンギンのお散歩タイムか」
ペンギン「」ヨチヨチ
綾乃「かわいい…」
京子「…ちょっと付いて行こっか?」
綾乃「え、でも時間…」
京子「いいからいいから!ちょっとだけ!写真撮ろ!」
綾乃「…うん」
-
85 : 2015/03/25(水) 23:09:03.32 -
その写真に映る私は歳納京子に肩を抱き寄せられて、それまでにないぐらい素直な笑顔を見せていた。頬は赤く染まっていてこうやってはたから見ても、疑いようもなく私は歳納京子に恋をしている。
心の中でさえなかなか素直になれない私だったけど、今日ばかりはそんなつんけんした態度をとても保ってはいられなかった。今日をきっかけに、普段からもう少し素直になれたらと思う。
ただの友達としてでも構わないなんて思っていたけど、やっぱりこれはデートであって欲しい。そんな願望まで強まってしまった。
もしかしたら、本当にこれはデートだったんじゃないか。歳納京子にとって、私は一番の大切なものなんじゃないか。そんな勘違いまで芽生え始めている。
その写真に映る歳納京子の頬も、同じように赤く染まっていたから。
〜17:00・電車内〜
綾乃「そしたらね……」ウトウト
綾乃「古谷さんがね……」ウトウト
京子「綾乃眠そうだね」
綾乃「だいじょぶよ…」
京子「私の肩なら空いてるよ。ほらっ!」バシバシ
綾乃「あなたねえ…」
京子「ほら」ポン
綾乃「…」
綾乃「じゃあ…」
綾乃「お言葉に甘えて…」
トサッ
京子「…へへ。おやすみ、綾乃」
綾乃「…」
…眠れるわけないじゃない
-
86 : 2015/03/25(水) 23:09:49.79 -
〜19:00・駅〜京子「ただいマンハッタン」タタッ
京子「おかエリコットシティ!」クルッ
綾乃「なーに?それ」
京子「……」
綾乃「…?」
京子「アメリカで揃えてある高度なギャグなの!」タタッ
…あれ…私何か怒らせるようなこと言ったかしら
京子「で」クルッ
綾乃「で?」
京子「ご飯どうする?」
綾乃「えっ!?もう解散じゃないの!?」
京子「…」
京子「そっか…綾乃はもう帰りたいんだね…うるうる」
綾乃「いや、そうじゃなくて…こんな時間だし、もう家で晩ご飯用意してると思うし…」
京子「…今日うちの人いないから…私は帰っても一人なんだ…」
綾乃「……」
綾乃「そういうことは早く言いなさいよ。で、どこ行きたいの?」
京子「いいの!?」
綾乃「しょうがないから付き合ってあげるわよ」
…なんだか調子が狂う。こんなの、普段の振り回され方じゃない。違和感があった。
私が本当に困った様子を見せた時、歳納京子は決してわがままを通したりはしないんだと気が付いた。歳納京子はこんな形で私を振り回したりしない。
自分でも、「気晴らしのためだけに綾乃を連れ回したりしない」って言ってたくせに。矛盾してる。
言い方が悪いけど、寂しさを埋めるために利用されているようで良い気はしなかった。
歳納京子の心の内が分からない。分かりやすい性格のようでいて、本当は何を考えているのかなんて全然分からない。
京子「よし、ワックのダブチにしよう」テクテク
綾乃「…」
今日は私のために誘ったと歳納京子は言ってくれたけど、それだって本心かどうかは分からない。ましてやデートだなんて。
でも、気晴らしのためでも構わないと言ったのは私の方だ。私に歳納京子を癒すことができるのなら、それ以上のことはないはずなのに
それなのに……役に立ちたい気持ちよりも、一番になりたい気持ちの方がどんどん膨らんでいく。
歳納京子にとって私はなんなんだろう。
一日中二人で遊んで…ただ単純に、今日は楽しかったと思えればそれで良かったのに
私と歳納京子では、今日がどんな日だったのかは大きく食い違っていたんじゃないか。勘違いをさせられていたんじゃないか。
そんなことを考え始めたら、胸の奥がもやもやし始めた。少しだけ泣きたくなった。
京子「綾乃ー?早くー」
綾乃「…ええ」タタッ
-
87 : 2015/03/25(水) 23:10:32.74 -
公園でハンバーガーを食べながら、私達はほとんど無言だった。理由はそれぞれに違っている。胸の中はもやもやしたままで、私は何を話していいのかも分からなくて。
歳納京子はそんな私のことも気にせずにまったく別のことを考えているようだった。
どうして私はここにいるんだろう。早く帰りたくてたまらない気持ちだった。
それなのに、夜の公園で二人きりという状況に何かを期待してしまう気持ちも消えきらない。こんな醜い感情を私は知りたくなかった。
食べ終わってからの帰り道も少しの会話を交わすぐらいで、水族館での盛り上がりが嘘のように私達は静かだった。
お互いに心の中ではきっとざわついている。私は歳納京子のことでいっぱいで、だけど歳納京子の中に私はいない。歳納京子はまったく別のことを考えている。
しばらく歩くと、歳納京子はふと立ち止まった。私のことは目に入っていない。歳納京子はそのマンションを、ただじっと見上げていた。
今まで見たことのない顔。心の抜け落ちたような。それでいて寂しげで、私をからかおうとしているわけじゃないことはすぐに分かった。
綾乃「歳納京子?」
京子「…」
-
88 : 2015/03/25(水) 23:11:16.43 -
綾乃「ねえ」京子「……」
綾乃「ねえってば」ユサユサ
胸が痛い。これはたぶん、心配する気持ちなんかじゃない
綾乃「ねえ!」
歳納京子の悩みの種がそこにあるんだと気付いた。私じゃない誰かを、歳納京子はじっと見つめている
綾乃「ねえ…」ユサユサ
どうしたのよ
どうして何も言わないのよ…
私の話聞きなさいよ
綾乃「今日ぐらい……私のことだけ見てなさいよ!」
———言ってしまった
逃げ出したくなった
だけど、こんなことを言っておきながら私が目を逸らしてはいけない。私は歳納京子の目をじっと見つめた
京子「…」
京子「綾乃?なんで泣いてんの?」
綾乃「———バカっ!」バチン!
綾乃「もう知らない!」タッタッタッ…
京子「……」
-
89 : 2015/03/25(水) 23:11:55.67 -
綾乃「うっ……ううぅ」なんなの?
なんなのよ
散々振り回して
もう嫌だ
綾乃「うぅぅ…」
もう絶対会いに行ってあげないんだから
綾乃「ばか!ばかっ!…大っ嫌い!!」
ガシッ
綾乃「え…?」
京子「ごめんね綾乃。一緒に帰ろうよ」
こんなに大嫌いなのに
追いかけてくれて、手を握られて、そんなことを言われただけで、全部許してしまおうなんて考えてる
本当にちょろい女。どうしようもない
-
90 : 2015/03/25(水) 23:12:56.40 -
京子「…」テクテク綾乃「…」テクテク
ずっと手を繋ぎたかった。それが叶えられてるのに、なんでこんなに気まずい空気なのよ。
…私のせいよね。あんなビンタしちゃったんだもの。
悩み事を忘れてほしかった理由は、歳納京子に元気になってほしかったから。「私のことだけ見て欲しかったから」なんて言っちゃいけない。
そのビンタを最後にしよう。私は、役に立ちたい気持ちだけを持つ。一番になりたい気持ちなんて持っちゃいけない。もう私は、そんな自分勝手にはなりたくない。そんな理由で歳納京子を傷付けたくない。
別の人のことで悩んでいたって、私は嫉妬なんてしちゃいけない。その悩みを癒すために、利用されてやるぐらいの気持ちでいよう。
そうあるべきなんだ。どんなに望んだって、私は歳納京子の一番になんてなれないんだから。それで役に立てることの、何が悲しいって言うんだろう。
私はそうやって、在り方を少し見つめ直す。私欲を捨てる覚悟を持ってでも歳納京子の役に立ちたい。
だとしたら…まずするべきことは、ちゃんと謝ることだ。手を繋いでいることを喜ばないことだ。
綾乃「…ごめんなさい、歳納京子。痛かった?」
京子「ねえ綾乃」
綾乃「何?」
京子「綾乃のこと大好きだよ」
綾乃「はいぃ!?」
京子「でもね」
綾乃「…」
京子「やっぱ行かなきゃ」
やめてよ
京子「ごめん綾乃。今日楽しかったよ。ばいばい!」タッタッタッ
綾乃「…」
あんなに一日中笑い合ったのに、お別れがこんなだなんて
どれだけ振り回すのよ
綾乃「なんなのよ……もう!」
私を置いてどこに行ったって、もう構わない。だけどそんな言葉は残して欲しくなかった。
私はもう胸が痛くて耐えられない。だから私は、歳納京子を追いかけることにした。
-
91 : 2015/03/25(水) 23:13:42.77 -
〜20:00・マンション〜インターホンに指を置いたまま、歳納京子はうつむいていた。髪に隠れて顔は見えない。だけど、涙が滴っていることが分かった。
近づいてみたけれど、なんと声を掛ければいいのかが分からない。
私が涙を流した理由を歳納京子は分かってくれなかった。それを悲しいと感じた私が、歳納京子に泣いている理由を問えるはずもない。
掛ける言葉は見つかりそうになくて、私は黙って歳納京子の手に触れた。冷たくて、とても弱々しい手。
京子「綾乃…」
綾乃「なに?」
京子「結衣は……私達の前から、消えたかったのかな」
その言葉の意味が、私には分からなかった。
泣いている理由も、大好きの意味も、今日誘ってくれた本当の理由も、私には何も分からない。私は歳納京子のことが何も分からない。
でも、悲しくてたまらないんだってことは分かる。
なぜだか、次第に私も同じ悲しみを感じ始めた気がした。
気がつけば私は、歳納京子を強く抱き締めていた。
-
92 : 2015/03/25(水) 23:15:18.44 -
〜20:10〜綾乃「……」
…それからもう10分…
綾乃「あの、歳納京子」
京子「…」ギュウ
綾乃「///」
〜20:20〜
通行人「…」ジロジロ
綾乃「…」
綾乃「歳納京子、ええと…そろそろ」
京子「…」ギュウ
綾乃「///」
〜20:30〜
綾乃「まだ、落ち着かない?」
京子「……」ギュウ
歳納京子の顔が埋まる私の肩はびっしょりと濡れている
綾乃「声殺さなくたっていいのよ」
京子「…うん…うん…っ!」
それから歳納京子は、1分間だけ子供に戻ったようにわんわん泣いた
〜20:40〜
綾乃「…歳納京子…」
京子「綾乃」
綾乃「は、はいっ!」
京子「慰められちゃったね」
綾乃「…」
京子「綾乃の前では強がっていたかったんだけどなぁ。ごめんね、ありがと」
綾乃「え、っと……」
綾乃「いいのよ。生徒会副会長なんだから」
京子「じゃあもうちょっと」ギュウ
綾乃「///」
-
93 : 2015/03/25(水) 23:16:02.32 -
〜20:50〜京子「ねえ綾乃」
綾乃「なに?」
京子「京子って呼んで」
綾乃「はひぃ!?」
京子「今だけでいいから」
綾乃「…」
綾乃「きょ…」
綾乃「…」
綾乃「きょ…きょーきょ、きょっ!」
綾乃「きょっ、きょきょっ……京」
京子「ぷっ」
綾乃「ちょっ///笑わないでよ!」
京子「だって綾乃」
綾乃「もー…」
もうちょっとだったのに……
京子「きょ!きょきょっ!きょ!」
綾乃「〜〜っ///こらーー!」
京子「あははは!」
-
94 : 2015/03/25(水) 23:16:46.49 -
〜21:00・帰り道〜京子「じゃあ気をつけてね。ほんとに一人で大丈夫?」
綾乃「ええ。あなたも帰り気をつけて」
京子「うん!おやすみ綾乃。今日楽しかったよ」
綾乃「私も楽しかったわ。…おやすみなさい」
京子「へへっ。おやすみ!」タッタッタッ
…名残惜しい
京子「綾乃!」クルッ
綾乃「はい?」
京子「今年の修学旅行は絶対4人で行こうね!」
4人…?
綾乃「……ええ!」
京子「」ニカッ
京子「またね。今日ありがと!おやすみ!」
綾乃「おやすみなさい。歳納京子」
京子「おう!おやすみ!」タッタッタッ…
結局どういうことだったのかしら。今日は分からないことだらけ
やっぱりこれは歳納京子にとって傷心旅行のようなものだったのかもしれない
でも、片想いでもいいって最初から思ってたし。在り方を見つめ直した結果としては正しいことができたと思うし
まだ胸の痛みは残っているけど…
綾乃「…はぁ」トボトボ
そうだ、帰ったら千歳に電話しなきゃ。報告待ってるだろうし
…いっぱい慰めてもらおう
京子「あーやのーーー!!」
綾乃「!?」ビクッ
京子「おーやーすーみーーーー!!」
綾乃「何回おやすみ言うのよ!ご近所迷惑でしょっ!罰金バッキンガムなんだからねーーーっ!!」
京子「おやすみーーーっ!」タッタッタッ…
———まあ、とにかく
役に立てたのならそれでいい
元気になったのならよかった
綾乃「おやすみなさい…」
綾乃「…」
綾乃「…京子」
綾乃「…」
綾乃「///」
-
95 : 2015/03/25(水) 23:17:56.16 -
———
5. 恋情編 終了
———
-
98 : 2015/03/26(木) 23:00:07.83 -
〜21:30・京子宅〜ドサッ
京子「」ゴローン
京子「…」
京子(…結衣のこと思い出せたし)
京子(綾乃に元気もらったし)
京子「よし!しゃきっとせねば」ガバッ
京子「…」
京子(…綾乃に電話…)
京子「…」
京子(はやめておこう)
京子「まずはちなつちゃんに報告だっ」
京子「うおっ!めっちゃ着信来てた」
京子(メールもどっさり…)
京子「今すぐ電話しよう」ピ ポ パ
プルルガチャ
ちなつ『ちょっと京子先輩どういうことですか!!』
京子「ひいぃ!?」
ちなつ『何か分かったらすぐ連絡取り合うって言ってたじゃないですか!それなのにずっと留守電ってどういうことですか!?』
京子「えっと…今日はちょっと大事な用が」
ちなつ『結衣先輩のことより大事な用があるんですか!?どっちにしろ電話無視とか何考えてるんですか!家にも誰もいないしっ、いったいどれだけ心配したと思ってるんですか!?』
京子「え?なになに心配してくれたの?」
ちなつ『当たり前じゃないですか!!』
京子「…」
京子「ごめんね。ちなつちゃん、泣いてるの?」
ちなつ『泣いてっないです。バカ!』
京子「ありがとね」
ちなつ『バカ!!』
京子(……ん?結衣先輩?)
-
99 : 2015/03/26(木) 23:00:54.29 -
京子「ちなつちゃん結衣のこと思い出したの!?」ちなつ『え?メール、見てないんですか?……ってもしかして京子先輩も!?』
京子「そうだよちなつちゃん!結衣だよ船見結衣!」
ちなつ『はい!結衣先輩、結衣先輩ですよ!』
京子「うん!いつも鋭いツッコミとラムレーズンをくれる結衣!」
ちなつ『素敵でかっこよくて私を守ってくれる結衣先輩!』
京子「優しくて照れ屋で寂しがりやな結衣っ!」
ちなつ『クールで知的で笑顔が国宝級の結衣先輩!』
京子「やったーー!結衣ぃーーー!!」
ちなつ『うおおぉーーぉ結衣せんぱぁーーーい!!』
京子「よし、じゃあ西垣ちゃんにも報告だね!西垣ちゃんにかかれば結衣復活はきっとすぐそこだよちなつちゃん!」
ちなつ『はいっ!!』
ちなつ『でも西垣先生に会えますかね。近況を聞こうとしてもいつも留守ですし。順調だってことだけは今日聞いたんですけど…』
京子「そうなんだ!…うーんまあ、明日とりあえず学校行ってみよっか。いなかったらあかりも呼んで私んちでゲームね」
ちなつ『のんきですね……。あといい加減個人携帯の連絡先も訊いときましょう』
京子「うーん。それは無理な気がするなぁ」
ちなつ『?』
-
100 : 2015/03/26(木) 23:01:25.85 -
〜ちなつ『私、気付いたんですけど』
京子「なになに?」
ちなつ『京子先輩って昔よりしっかりしてますよね』
京子「え、そうかなぁ」
ちなつ『結衣先輩の分まで私達のことを考えてくれてたというか、守ってくれてたというか。頼りになる先輩って感じでしたよ』
京子「それはつまり、結衣がいなけりゃちなつちゃんは私に惚れてたということか!」
ちなつ『そうかもしれませんね』
京子「え?え……え?」
ちなつ『冗談です。私、結衣先輩一筋ですから』
京子「ですよねー…」
ちなつ『ていうか、結衣先輩がいなければなんて話しないでください』
京子「うん。やっぱ私達、結衣がいなきゃだめだよね!」
ちなつ『はい。だめだめですよ』
京子「でもさ。結衣がいない分がんばってたって言うなら、ちなつちゃんだってそうだよ。私のボケ拾ってくれたり、心配してくれたり。『しょうがないですね京子先輩は』なんて言ってくれたり。それからねー…」
ちなつ『でも、私に結衣先輩の代わりは務まりません。結衣先輩の苦労がよく分かりました。結衣先輩が戻ってきたら、あんまり迷惑かけちゃだめですよ』
京子「いやいや。結衣はまんざらでもないんだって!」
ちなつ『そうですかね』
京子「うんっ」
ちなつ『…そうですね』
京子「そういや、あかりは逆に年々甘えん坊になってってる気がする」
ちなつ『え、そうですか?』
京子「うん。甘やかせすぎたのかな?」
ちなつ『それでいいと思いますけどね。私達がついていないと。あかりちゃんはどっちかと言うと守られる側の方が似合いますし』
京子「そだね」
ちなつ『…じゃあ私、今日は疲れたのでそろそろ寝ますね』
京子「うん。明日だけどさ、朝ちなつちゃんちに迎えに行くってことでいい?」
ちなつ『…はい。了解です』
京子「よし!んじゃ、おやすみちなつちゃんっ」
ちなつ『…おやすみなさい、京子先輩』
-
101 : 2015/03/26(木) 23:02:45.01 -
〜翌日(3月15日)9:00・理科室〜西垣「」キュッキュッ
ホワイトボード「」
西垣「…!」
イス「」ガタン
西垣「」カリカリ
紙「」
西垣「」カリカリカリカリ
フラスコ「」ゴポゴポッ
西垣「…」
試験管「」シュワワ…
試験管「」ボン!
西垣「おう」
フラスコ「」ゾゾゾ
西垣「…ふっ」
フラスコ「」ドカーン!
西垣「」ドカーン!
ドカーーーーーーーーーン!!
-
102 : 2015/03/26(木) 23:03:15.86 -
ちなつ(爆発に巻き込まれつつも西垣先生に会えたので結衣先輩のことを話した)西垣「でかしたぞ歳納!吉川!」ガタン!
西垣「歳納、念のためこの紙にフナミユイの情報を分かる範囲で書いてくれ。名前やら生年月日やら、住民票に書かれるような情報をだ。同名の別人がいるかもしれないしな、それをデータベースと照合してみるとしよう!きっと大丈夫だ」
京子「へ?へ?うん」
西垣「そうだ吉川。フナミマリの続柄は分かるか?」
ちなつ「いとこみたいですよ。確か、結衣先輩のお父様のご兄弟の子供、だったと思います」
西垣「なるほど。そして幼女とは素晴らしい!住所は分かるか?」
ちなつ「分かりますけど、まりちゃんのところに行くんですか?」
西垣「ああ!A子ちゃんの親族が現れるこの時を待ってたんだ!この紙に書いてくれ」
ちなつ(でも個人情報…。まあいいかこの人公務員だし(?))
ちなつ「分かりました。電話番号も書いときますね」
西垣「そうだ、大事な取り引きには交渉材料が必要だ。吉川、マリちゃんの好物は分かるか?」
ちなつ「ウニが好きみたいですよ」カキカキ
西垣「……」
西垣「うに………だと………?」
ちなつ「ええ」カキカキ
京子「書けたよー」ペラッ
西垣「おう、よし。これだけ分かれば十分だろう」
ちなつ「私も書きました」ペラッ
西垣「よし、そういうことなので私はうにを買ってくる!さてこれからが大変だ。少し時間がかかるかもしれないが、それまでお前らは待機だ!軽率な行動は慎むように」
西垣「続報に期待してくれ!ではまた会おう諸君」ハハハ
バタン
ちなつ「……」
京子「…」
ちなつ「連絡先…」
-
103 : 2015/03/26(木) 23:04:12.59 -
〜11:00・京子宅〜ちなつ「———うん。じゃあ待ってるね。……はーい」
ちなつ「」ピッ
ちなつ「あかりちゃんお昼食べてから来るそうです」
京子「りょーかーい…」ピコピコ
京子「…」ピコピコ
京子「うおぉー左手がザオリク使いやがった!?エグいことしやがるぜデ○タムーア…」
京子「MP尽きる。尽きるー。もうあかん。私たちがどれほど非力で不完全なものなのかをイヤというほど思い知らされたよ」
ちなつ「…」
京子「…やめだ。これ以上我が騎士ピエールを苦しませたくはない。しっかりレベルを上げてから挑むとしよう」
京子「…」ポチッ
ちなつ「……」
京子「…」
ちなつ「…あかりちゃんの前では恋しくなるの禁止ですよ。ただでさえ二人共泣き腫れた目してるんですから」
京子「だってー…」
ちなつ「あかりちゃんだって京子先輩のこと心配してるんですからね。他にもいろんな人に心配かけてるって分かってますか?」
京子「そうは言ってもさー…」
ちなつ「…先輩がそんな調子だと、私が恋い焦がれそびれるんですけど」
京子「お、いいねそれ。恋い焦がれそびれる。…コイコガレ・ソビレール!VS.イジメイケナインジャー」
ちなつ「…はぁ」
京子「デスタムーアにも勝てそう」
ちなつ(京子先輩は昔よりしっかりしてる。結衣先輩の分まで私達を守ってくれた。そんな風に言ったけど……)
ちなつ「今の先輩は頼りないです。かっこ悪いです!結衣先輩のこと思い出して、少しは元気になるのかと思えばいつまでもうじうじうじうじ!もっとしゃきっとしてください!」
京子「は、はい…」
ちなつ「西垣先生だって頑張ってるんですから!今は信じて待つしかないんですから!結衣先輩は絶対戻ってくるんですからっ!」
京子「はいっ」
ちなつ「ああ女々しい!今の京子先輩を見たら結衣先輩だってきっと呆れますよ!きっと愛想も尽きます!するとどうでしょう!『ふっ、もう京子には付き合っていられないぜ。やっぱり私には君しかいないよマイハニーティナトゥ』。結衣先輩は私一筋になってしまうんですよ!?私達は晴れて恋人同士です!!」
京子「はい」
ちなつ「最高じゃないですかっ!!」
京子「はい」
ちなつ「……ん?」
京子「ん?」
ちなつ「最高じゃないですか」
京子「そうですか…」
-
104 : 2015/03/26(木) 23:05:13.10 -
ちなつ「」ピコピコ京子「」ピコピコ
ちなつ「京子先輩は、恋人にしたい人いるんですか?」
京子「いないよ?」
ちなつ「即答ですね…。私、先輩には好きな人いると思ってたんですけど」
京子「うん。まあそれはいるんだけど」
ちなつ「は?」
京子「ちなつちゃんのことも、結衣のことも、あかりのことも」
ちなつ「…」
京子「生徒会のみんなも、クラスメイトも、先生達も。千鶴やまりちゃんや、みんなの家族も。もちろん私の家族も。私はみーんなのことが大好きだよ」
ちなつ「いや、そういうんじゃなくて……私はもうちょっと踏み込んだ話をしてるつもりなんですけど」
京子「んなこと言ったって仕方ないじゃん。京子ちゃんはみんなの永遠のアイドルなんだから」
ちなつ「何言って…」
京子「」ピコピコ
ちなつ「……」
ちなつ「それはそれで切ないですね」
京子「なんで?」
ちなつ「先輩がいいんならいいと思いますけどね」ピコピコ
京子「…」ピコピコ
-
105 : 2015/03/26(木) 23:06:17.34 -
私達はずっと生きていく。私達は大人にはなれない。後ろ向きな言い方をすれば、私達は決して未来へは進めない。時間を止めたまま、ずっとこのままで生きていく。だから京子先輩は恋人を作らない。ずっと続く時間の中で、それは私達の関係を大きく変える出来事になってしまうから。寂しがる人がいるから。悲しむ人がいるから。それを過去の出来事として片付けることも許されず、その気持ちと環境のままで、ずっと生きていかなきゃいけない人が必ずいるから。
だから京子先輩は自分の中の「好き」を全部同じものにしようとしている。恋愛も、家族愛も、友愛も、全部おんなじものとして捉えようとしている。好きの形の一致も食い違いも全部はぐらかして、不幸が生まれないようにしている。それが京子先輩なりの優しさ。
それはもしかしたら、結衣先輩を迎え入れる時のためでもあるのかもしれない。私達が無意識に結衣先輩のいない穴を補い合っていたように、京子先輩はそうやって無意識のうちに、結衣先輩を迎える準備をしていたのかもしれない。
いや、もしかしたらなんかじゃない。せっかく芽生えた恋心を押し殺す理由としては、それこそがまず第一なんだと私は思う。京子先輩の気持ちも、杉浦先輩の気持ちも、結衣先輩の気持ちも、外から見ていた私にさえなんとなく分かっていたから。
両想いだってことも分かってるくせに。それでも京子先輩は結衣先輩のことが大好きだから。
恋なんてしなければ、京子先輩のそんな在り方も簡単なことだったと思う。それなのに私達には恋心が芽生えてしまう。子孫を残せない生き物のはずなのに。どっちにしろ、女の子同士なのに。
京子先輩の在り方は簡単なはずがない。例え誰にも寂しい思いをさせないためだったとしても、芽生えてしまった気持ちを無視し続けるなんてできっこない。先輩はいつも平気そうな顔をして、心の内には泣きたくなるほどのもどかしい思いを隠している。
そんな気持ちを一人で抱えて、ほんとに平気だと言うんならそれでよかったんだけど。京子先輩に限ってそれはない。こうやって私に気付かせるためのヒントを漏らしちゃうあたり、やっぱり先輩は一人で寂しかったんだと思う。誰かに気付いて欲しい気持ちがあったんだと思う。先輩は分かりにくい性格だけど、実は不器用で繊細な女の子だってことぐらいは私にも分かる。
それに今は、結衣先輩のいないはっきりとした寂しさまで加わっているんだ。私でさえ、120年分の寂しさが一気に押し寄せたような気持ちに涙を堪えることはできなかったんだから。平気でいられるはずがない。
今にして思えば、先輩には「しゃきっとしろ」なんて叱咤をするのは間違ってたかな。そんな形で元気を出してもらおうなんて、そんな単純な考えで慰められるほど先輩の心は強くない。ましてや「またかっこいい先輩に戻って欲しい」だなんて。今はむしろ、しゃきっとしないでほしい。女々しくて何が悪いと言うんだろう。
これならまだ、新聞記事を見つけたあの日の方が正しく振る舞えていた。変な意識が芽生える前は、それが無意識にできていたというのに。
とりあえず、意を決して踏み込んだ話を切り出した甲斐はあったかな。元々はまったく別の目的だったんだけど。それでも私に何ができるのかなんて分からないんだけれど。
ちなつ「…」ピコピコ
ちなつ「モテる女はつらいですね」
京子「なにが?」ピコピコ
ちなつ「…べつにー」ピコピコ
-
106 : 2015/03/26(木) 23:07:39.69 -
〜13:00〜ちなつ「…」ピコピコ
京子「」ピコピコ
ちなつ「あっ」
京子「よし。ちなつちゃんを撃破」ピコピコ
ピーンポーン…
ちなつ「あかりちゃん来たみたいですね」
京子「うお。じゃあ死んでしまったちなつちゃん、ちょっと行ってきて」ピコピコ
ちなつ「ちょ。冗談でもそういう言い方やめてくださいよ」
京子「あ、ごめん…。でも冗談で言えるぐらいの精神力がなければこの戦場では生き残れないのだよ」ピコピコ
ちなつ「…。…そうでしょうか」
〜
ガチャ
ちなつ「いらっしゃー…い?」
あかね「」ヌン
ちなつ「!!!!!!!?」
あかり「ちなつちゃん!お待たせ〜」
ちなつ「」
あかり「…ちなつちゃん?」
あかね「ちなつちゃん。あかりのことヨロシクね」
ちなつ「」
あかね「それじゃああかり。お夕飯までには帰るのよ」
あかり「はーい。お姉ちゃんも行ってらっしゃい」ニコッ
あかね「うふふ。行ってきます」ニコリ
あかね「」スタスタ…
あかり「ちなつちゃん?」
ちなつ「」
あかり「ちなつちゃん?」
ちなつ「」
あかり「顔が青いよちなつちゃん?」
ちなつ「」
-
107 : 2015/03/26(木) 23:08:32.56 -
〜15:00〜あかり「京子ちゃん。トイレ借りるねぇー」
京子「ほーい」ピコピコ
あかり「…ほーい」
バタン
京子「」ピコピコ
京子「…今度さ、まりちゃんち行かない?あかりも連れて。来週にでもさ」
ちなつ「そうですね。私達も近いうちに遊ぼうって約束しましたし」
京子「西垣ちゃんが何しに行ったのかもちょっと気になるしね。そん時まりちゃんに訊いてみるか」
ちなつ「それはまりちゃんに電話でもいいんじゃないですか?」
京子「ついでに訊いてみるぐらいの気持ちだから」
ちなつ「そうですか。私はこう見えて気になってしょうがないんですけどね」
京子「私達はあんまりがっついちゃだめなんだよ。西垣ちゃんもああ見えていろいろ考えてるからね。私達から距離を置いて、詳しい経過を話さないのにも理由があるんだよ」
ちなつ「そうなんですかね」
京子「畳もロックされてたし」
ちなつ「え、そうなんですか?……ていうか先輩。もしかしてまた一人で下に行こうと」
京子「あ、ウニ買わなきゃ」
ちなつ「…いやそんなに気を使わなくても…」
京子「だって私は会うの久々だし。喜ばせたいもん」
ちなつ「あんまり期待させちゃうと、次が会いにくいですよ」
京子「じゃあそん時はまた持ってく。カモがウニ背負ってやって来るぐらいの思われ方でちょうど良いんだよ」
ちなつ「そのお金がどこから出るんだって話ですけどね」
京子「我が家のウニ貯金をなめるなよ?」
ちなつ「なんですかそれ。家族ぐるみでこの時を待ってたんですか」
京子「まあ、我が母はこういうことにはむしろ進んでお金を出してくれるはずだから」
ちなつ「そうですか。じゃあ、私もお母さんにお願いしてみますね。まりちゃんは私と結衣先輩の恩人でもありますし」
京子「うん、ありがとね」
ちなつ「でも今日は、西垣先生もまりちゃんにウニあげるんですよねきっと。週一でウニを食べる子供ってどうなんですかね。他の物でもいいんじゃないですか?」
京子「将来ウニになるためにはそれぐらいの修行は必要なんだよ」
ちなつ「修行を積むとウニになっちゃうんですか…」
京子「うん。そしたら結衣に食べてもらおう」
ちなつ「…ふふっ。そうですね」
-
108 : 2015/03/26(木) 23:09:41.13 -
〜17:00〜あかり「京子ちゃん。トイレ借りるねぇー…」
京子「ちゃんと返せよー」ピコピコ
あかり「返せないよぉ」ニコニコ
京子「借りた物を返さないとは!なんて奴だっ。あかりのくせに生意気だぞっ!」
あかり「えへへ〜」
バタン
ちなつ「……先輩。今日泊まってもいいですか?」
京子「うん。いいよー」
ちなつ「そうですか。じゃああかりちゃんと一緒に帰った後、家でご飯食べてからまた来ますね」
京子「うん。そん時は迎えに行くよ。……ん?あかりも誘うんだよね?」
ちなつ「いえ。あかりちゃんのいるところではちょっと…」
京子「えっちなことするの?」
ちなつ「しっ、しませんよ!」
京子「不安なのかい」
ちなつ「んっ……まあ、そうですね。正直そっちの方がまだ大きいです。…だって、近づいてるわけですし。3月28日」
京子「そんな嫌な日みたいに言わないでくれよぅ…」
ちなつ「しょうがないじゃないですか…」
京子「だからさ、ボディがチェンジするだけなんだって。身体の寿命が尽きる前に生まれ変わるの。死ぬわけじゃないんだよ」
ちなつ「またそうやって一方的に強がるんですね」
京子「いやいや。私は強がったりうじうじしたりするけど、生まれ変わるってのは本当のことだと考えてるんだよ。気休めとかじゃなくて」
ちなつ「私だってそう信じてますけど…それで不安が消えるわけないじゃないですか。魂の行き先なんてどうやって証明するって言うんですか?これに関してだけは、私はそんなに前向きな気持ちではいられないです」
京子「いや、これに関してはもう気持ちとか気構えの問題じゃないんだよ。死んでるのは事実だけど、生まれてるのも事実なんだよ。証明なら結衣がしてくれた」
ちなつ「……?どういうことですか?」
京子「本物の世界だからこそ結衣の存在が消えたんだよ。私達は本物だからこそ結衣を忘れて、生まれるはずだった結衣も本物だからこそ生まれなかった。私達が別の存在なら、結衣を忘れなくても良かったはずだし、偽物の結衣がここにいたって構わなかったはずだから。だからこの世界は、本物の人達の世界ってことになるんだよ」
ちなつ「……」
ちなつ「……?」
京子「検診の後だと思うし、その時の記憶はないから推論なんだけどね」
ちなつ「……??」
京子「だけど私は結衣を、もう絶対に悲しませたりしないって誓ったから。愛し合ってる私達なんだから、今なら結衣も、ちゃんと私達の世界に存在できるはずって結論にもなる。その一歩として私達は、結衣の存在に気付いて、そんで思い出せたわけだし。後は科学面の問題を解決すればいいだけ」
ちなつ「…分かったり分からなかったり……つまり何を言いたいのかは全然分からないんですけど。すいませんもう一回最初から言ってもらっていいですか?」
京子「…まあ…ちなつちゃんは気にしないで。心配いらないよって言うのにも、私なりの理屈があるんだってことだけ分かっててほしかったんだよ」
ちなつ「いや…だからその理屈が」
京子「でも、不安な時は遠慮せずいつでも泊まりにおいで。私も一人は寂しいからさ」
ちなつ「…はい」
京子「不安な気持ちが消えない時は、私でよければいっぱい慰めてあげるから。ちなつちゃんは恐がりだから、今は私が結衣の代わりに守ってあげるからね」
ちなつ「…」
-
109 : 2015/03/26(木) 23:10:21.64 -
〜19:00・ちなつ宅〜ちなつ「ねえお姉ちゃん」
ともこ「なに?」
ちなつ「守るって、どういうことなのかな」
ともこ「守る?」
ちなつ「ラブストーリーとかでよく言うよね。『君は私が守る』とか。危険な世界を冒険するわけでも、殺し屋に狙われてるわけでもないのに」
ともこ「…うーん…」
ちなつ「お姉ちゃんはそういうの、言われたことある?」
ともこ「え!?えーと…。あるというか…ないというか…」
ちなつ「そうなんだ」
ともこ「…」
ちなつ「よくわかんないよね」
ともこ「笑顔を守るってことなのよ」
ちなつ「笑顔?」
ともこ「お年頃の子は特にね。体より、心の傷の方が痛かったりするの。その痛みから護りたいって気持ちなんじゃないかな。そうやって笑顔を守りたいって」
ちなつ「…ふーん…」
ともこ「こんなアドバイスで良かった?」
ちなつ「…うん…。じゃあ行ってくるね」
ともこ「はい。行ってらっしゃい」
ちなつ「…あとそれと…」
ともこ「……?」
ちなつ「ううん。なんでも」
-
110 : 2015/03/26(木) 23:11:44.46 -
〜21:00・京子宅〜京子「ゆい〜。ゆい〜。私にもちなつちゃんを分けてよ〜」
ちなつ「ちなつは私のものだと言ってるだろーう?京子に渡すわけにはいかないのさっ」
京子「ふえぇ〜ん。生徒会副会長に二人の淫行を密告してやる〜」
ちなつ「……。おいこら。宣言した時点で密告じゃないだろ」ビシッ
京子「ぶふっ!」
ちなつ「あ、京子先輩笑った!私の勝ち〜」
京子「だって、急に普通の結衣が現れてそんなツッコミが入るとは」
ちなつ「これで私が3勝!0敗です!」
京子「ぐぬぬ…」
ちなつ「ていうか先輩、自分の役すらままならないってどういうことですか?全然違ってますよ」
京子「え〜私はこんなだよ。よし次にいこう…」ガサゴソ
京子「」バッ
京子「お、私ちなつちゃん役!」
ちなつ「…」ガサゴソ
ちなつ「」パッ
ちなつ「…私は京子先輩の役です」
京子「いいね、入れ替わりだね!じゃあスタート!」
京子「あぁん京子せんぱぁ〜い好き好き愛してるぅ〜ん」
ちなつ「あはは。さて続いてまいりましょう」ガサゴソ
京子「……あれっ!勝った!」
-
111 : 2015/03/26(木) 23:12:26.81 -
〜23:00〜京子「じゃあ電気消すねー」
ちなつ「はい」
パチン
ちなつ「……」
京子「おやすみ、ちなつちゃん」ゴロン
ちなつ「……」
ちなつ「…おやすみなさい」
京子「あれ?」
ちなつ「どうしました?」
京子「なんで私達は別々に寝ているんだろう」
ちなつ「……」
京子「ほらほら、遠慮するなよ〜。二人で慰め合おうよちなつちゃんっ」
ちなつ「……」
京子「おいで」
ちなつ「……」
ちなつ「『おいで』って、なんか憎たらしいです」
京子「へっ?……オイデッテ・ニクタラシーナ!ソビレールより強そうだね」
ちなつ「…それはないです」スッ
京子「おっ、ウェルカムちなつ〜」
-
112 : 2015/03/26(木) 23:13:19.81 -
〜23:30〜京子「眠れないのかい」
ちなつ「…」
京子「何も不安なことはないんだよちなつちゃん。結衣にもきっと会えるから」
ちなつ「…うん」
京子「どうしても辛いんなら、泣いたっていいんだぜっ」
ちなつ「もう泣かないって、まりちゃんと約束したんです」
京子「…そっか。ちなつちゃんは偉いね。でも昨日電話で」
ちなつ「泣いてないです」
京子「当たり前じゃないですかっ!」
ちなつ「やめてください」
京子「めちゃくちゃ嬉しかったよ」
ちなつ「……」
ちなつ「…京子先輩、結衣先輩がいないと全然私にべたべたしませんよね。昔はもっと…」
京子「ん、さては私のぬくもりが忘れられないんだな!もっとべたべたして欲しかったんだなちなつちゃ〜ん」ギュッ
ちなつ「そうじゃないです。やめてください」グイッ
京子「あぁん」
ちなつ「……」
ちなつ「…京子先輩は、みーんなのことが大好きなんですよね」
京子「うんっ」
ちなつ「私もそういう意味で…みんなのことが、大好きです。…だから、京子先輩のことも……嫌いじゃないです」
京子「お、ちなつちゃんがデレた〜」ギュッ
ちなつ「…そうじゃないです。やめてください」グイッ
京子「いけずぅ」
ちなつ「……」
ちなつ「…私が眠れない理由は、不安だからなんかじゃないんです」
京子「え?」
ちなつ「京子先輩ががんばるから、私はもう不安なんてないです」
京子「ほんと?よかったよかった」
ちなつ「…こんなこと…結衣先輩が戻ってきたら、してあげないんですからね」
京子「ん」
ギュウ
京子「ぬお」
ちなつ「…京子先輩は寂しんぼで、いつも無理してるから、今は私が結衣先輩の代わりにがんばらないといけないんです。守らないといけないんです。…私が、先輩の安らぎになりますから。それをっ、ずっと伝えたかったんです」
京子「…」
京子「…うん」
ちなつ「…」ギュウッ
京子「ありがとね、ちなつちゃん」
-
113 : 2015/03/26(木) 23:14:26.56 -
〜3月21日 昼下がり・とある公園〜あかり「あかりったらトイレに行っちゃうんだっちゃ!」
ちなつ「うん。行ってらっしゃい」
あかり「行ってきまーす。だにゃん」
あかり「にゃにゃーん…」テクテク…
京子「まりちゃん。ウニうまいかい?」
まり「うめぇ」モキュモキュ
京子「そうか。何よりだ」ナデナデ
京子「…あ、そうだまりちゃん」
まり「なんザマス?」
京子「先週あたり、大人の人が会いに来なかった?白い服着て、こう前髪垂らしてる女の人」
まり「ガキ先生!」
京子「垣先生と呼ばせてやがった……あの人はガキになりたいのか…」
京子「…垣先生は何しに来たの?」
まり「公園であそんだザマス」
京子「へー。ガキだなー。何して遊んだの?」
まり「うに食いながらお医者さんごっこしたザマス!」
京子「お医っ…!幼女をウニで誘惑して…野外でお医者さんごっこ…!?白昼堂々公園でウニを食べながらお医者さんごっこ…!ガキになれば許されるとでも思っているのか!?まさか…音沙汰ないのは検挙中だからなのか…!?」
ちなつ「っていうかいつまでまりちゃんにザマス口調やらせてるんですか」
京子「気に入ってる様子ですし。なー」ナデナデ
まり「なー」
ちなつ「……。あかりちゃんのぶりっ子口調もどんどん可笑しなことになってますよ」
京子「うむ。愉快愉快」
まり「ザマス」タタッ
京子「あれ、どこ行くの?」
まり「あかりちゃんにタックルかますザマスッ!」タタタ…
京子「おう。反動ダメージに気をつけてー」
ちなつ「…」
-
114 : 2015/03/26(木) 23:15:56.79 -
ちなつ「…あの…京子先輩」京子「ほいよ」
ちなつ「今日も…泊まりに来ませんか?」
京子「お、うんっ!……フフフ。もしかしてまりちゃんに嫉妬しちゃった?」
ちなつ「なっ!?んなわけないじゃないですか!」
京子「ちなつちゃんは甘えんぼさんだねっ」ナデナデ
ちなつ「…そうじゃないです。からかわないでください」
私は京子先輩のことが好き。
結衣先輩のことも、あかりちゃんのことも。生徒会のみんなも、クラスメイトも、先生達も。みんなの家族やまりちゃんも、もちろん私の家族も。
誰が好きかと訊かれたら、私は京子先輩と同じように、みーんなのことが大好きだと答えようと思う。
先輩は決して恋を実らせないけど、それは大好きな人達の幸福を願った優しさ。それでも泣きたくなる時はあるはずなのに、先輩はそうやって強がりながら生きていくから、私は先輩のそばで、先輩の在り方に倣って、共に強がって生きていこうと思う。大好きな京子先輩を守るためにも生きようと思う。
京子「…あのね…えへへ。ありがとねっ」ナデナデ
ちなつ「………」
———と、思ったんだけど…。だけど私は、先輩ほど恋に控えめにはなれそうにもない。掻き乱されたまま耐えることをしないのが私だから。
京子「ちなつちゃん、私にもなでなで!なでなで!」
ちなつ「…帰ってからにしてください」
京子「えーお預けー?そうだ、今日はお風呂も一緒がいいな。洗いっこしようよ」
ちなつ「えっちなのはだめですっ」
京子「洗いっこは健全だよ〜ぅ。じゃあお医者さんごっこしよう!」
ちなつ「そっちの方がやらしいです」
京子「うーん。じゃあおままごとだ。この前あかりとやった、ママと赤ちゃんのやつ!」
ちなつ「……」
ちなつ「…ばか言わないでください」
弱さはなかなか見せてくれないし、本物の涙なんて絶対に流さないけれど、二人きりの時は昔のような振る舞いで私に甘えてくれるようになった。それは大きな前進だ。
そして私も、二人きりになるとそれまでの態度ではいられなくなる。恥ずかしいからそれを周りに気取られないよう注意が必要ではあるけれど、二人だけの秘密の関係があるようで、それを嬉しく思ってしまうこの気持ちもなんだかこそばゆい。
私の恋は止まらないと思う。こんな気持ちをどう抑えろと言うのだろう。
恋を実らせないことでみんなの幸せを願うという京子先輩の在り方。そんな切ないはずの在り方に倣うという私の決意は本物なんだけど、この際、それを私なりにアレンジして考え方を少し変えてみようと思う。
一線を越えちゃいけないルールはあるけれど、ゴールのない恋の展開というのもそれはそれで悪くはない。実らせないことに決めた恋でもそれなりの楽しみ方がある。ルールがあるとは言っても、要するに友達以上恋人未満という同列の地位さえ守っておけば誰にも文句は言えないということ。ゴールテープさえ切らなければ全力疾走したっていい。なんなら二本の恋路を水面下で同時進行したって構わないわけだ。
結論として私は、どちらにも突っ走ります。我慢できません。
とりあえずこっちの恋は、早くも一歩リードと言ったところですかね杉浦先輩。笑顔で駆け抜ける私の存在にも気付かず、ヒィヒィ言いながら頑張っているあなたを見るのもまた面白い。何度だって周回遅れにしてあげるぐらいの気概が私にはあります。終わらないマラソンを一緒に楽しむとしましょう。
今日も私はみーんなに隠れて、歳納京子とじっくりベッドで慰め合います。
ちなつ「…うふふっ♪」
私達は今、お互いが抱き枕ですよ?
-
115 : 2015/03/26(木) 23:17:19.16 -
———
6. 誓言編 終了
———
-
116 : 2015/03/27(金) 23:00:13.28 -
〜3月27日 14:30・西垣宅〜西垣(完成だ)
西垣(絶対に生まれさせてやる。私はあの宇宙最強の科学力を…お前を生かすために調べ尽くしたんだーー!!それでもほんの些細な成果しか得られなかったが、お前を生まれさせるには十分な成果だ)
西垣(だがタイムリミットが近い。私は間に合ってしまった)
西垣(一ヶ月間、貫いた信条にさえ背を向けることになる。…仕方がない。歳納、吉川…今回はお前達が主人公だ)
西垣(見ているがいい船見。これからは、少年漫画的な熱い展開が待っている。私達はこれからとことんまでに臭いセリフを連発し、天から見ているお前を攻め立ててやるから覚悟しておけ)
西垣(もう一度言う。とことんまでに臭いセリフを連発し、お前をたじたじにさせてやる)
西垣(杉浦が言っていたぞ。『たじたじタージマハル』。お前は今からたじたじタージマハルになるんだ。お前を愛する奴らが秘める、照れくさくて見てられんほどの強い愛をお前に見せつけてやるということだ。これからの熱い展開すべてがお前のためにあるストーリーなのだと思い知ってそこで見ていろ)
西垣(いいやそんなわけがないだろう。私達はみんなを愛し、そしてみんなに愛されているんだ。お前だけに向けられる愛だと思ったら大間違いだぞ。愛し合う私達を見せつけてやる。悔しかったらさっさと生まれて出てきやがれってんだクソッタレめ)
西垣(そして私からはこの一言を送る。『この爆風に飲まれるがいい。逃げ場はどこにもないぞ。』一言じゃなかったな。すまない)
西垣(知ってるか?青春は爆発なんだ。ゆえにお前達が描く物語は、私にとっては爆発物語なんだ。お前達が私の力を必要としてくれた今回に限っては、私の力でお前達を爆発させてやるとしよう。逃げ場はどこにもないぞ)
西垣(一つだけ言っておく。これは決して悲しい死を描いた物語じゃないんだ。その時代の悲惨な歴史だけを見て、安易に死の話と捉えるな船見。これはお前がまた幸せに生きるまでの、サクセスストーリーであるべきなんだ)
西垣(いいや、言いたいことが一つだけなわけないだろ。馬鹿にするなよ。いくらでも存分に語り尽くしてやる。早く生まれたくてたまらなくさせてやる)
西垣(…生まれるがいい…)
西垣(私ならばこそできる。そしてあいつらもまた子供だからと言ってなめるなよ。私でさえ中学生の時に一度、愛する者をこの手で蘇らせているんだ)
チョコ「ワンワンッ、ワンワンッ」
西垣「うるせい!今語ってるんだから黙ってろい!」
チョコ「クゥーン…」
西垣「ははっ、うそうそ。冗談だよ。またちょっと留守にするからお留守番頼んだよ」ナデナデ
チョコ「ワンッ!」
西垣(…こいつの存在を繋いだのは私だけじゃない。私はいつか、引っ越し作業用無人格クローンの弔いに行ってやるぞ。全力で鑑識を回してやる)
西垣(さあさっさと終わらせてやるぞ。松本が寂しがってるんだ)
西垣「…我が爆友松本よ。明日は飯でも食いに行こう。もしもお前が今でも私を想ってくれているのなら……オラに元気を、分けてくれ…」
『……』
西垣「…ふっ」
西垣(マツモット…おまえがナンバーワンだ!!)
西垣「サンキューマイフレンド。元気玉の大きさは十分だ」
西垣(この力こそが宇宙を救った愛の結晶。この宇宙最強の爆発力で何もかもを爆発させてやる)
ギー…
バタン
西垣「明日は一緒に爆発しような、松本」カツン カツン…
-
117 : 2015/03/27(金) 23:01:09.07 -
〜14:45・体育館〜校長先生『え〜そんでもってー…』
京子(節目の日がまさかの登校日。このボディ最後の思い出が校長の長話になろうとは…)
ちなつ(今日は生まれ変わりの節目の日だから、京子先輩への贈り物があったんだけど…ベストタイミングはもう逃した。手伝ってもらったあかりちゃんには申し訳ない)
京子(ちなつちゃんが今夜のこと恐がってなければいいけど。やっぱちゃんと理屈を説明した方が良かったかな)
ちなつ(生まれ変わりと言えば…京子先輩の言ってた理屈って結局なんだったのかな。ちゃんと説明しないことにだって理屈があるんだろうけど…。まあ、もう私は今日のことなんて全然恐くないから別にいいんだけどね)
京子(正直私もちょっと恐いんだけどね。本当の意味では死なないって知ってても、アームに捕獲されるわけだから。0時の瞬間はちょっと緊張するなー)
ちなつ(先輩は0時の瞬間をどう過ごすんだろう。今日はお互い家族と過ごそうってなったはいいけど、先輩は本当に平気なのかな。実は一人で恐くて眠れなかったりするんじゃないかな)
京子(あえて起きててアームと戦ってみるのも面白いかもしれない。ソビレールとニクタラシーナを同時召喚すればきっと勝てる)
ちなつ(アームは見えないぐらい細くて、一瞬で眠れる麻酔を討ってくれるらしいし、恐ろしい体験はせずに済むってことではあるけど…)
京子(そっかアームは極細だったな。肉眼では捕捉できない上に、先手ラリホーで一瞬のうちに積むという恐ろしい難易度だ。張り合う前に戦闘終了。仕方がない…こうなったら最後の切り札、葉っぱ仮面の回避力と視力に頼るしか……)
校長先生『じゃあ次。生徒会からの挨拶どうぞ』
綾乃「はいぃぃい!!」
京子「ぶふっ!」
ちなつ「……」
-
118 : 2015/03/27(金) 23:01:59.79 -
ちなつ(……先輩の笑い声が聞こえた気がする。先輩はあの人のいったいどこに惚れたと言うんだろう)京子(綾乃は不意打ちがうますぎる。さすが綾乃の攻撃力は桁違いか。何より凄まじい攻撃範囲を兼ね備えている。その究極魔法を前にすれば敵は逃げたくても絶対に逃げられない。目視で捕捉するまでもなく敵を包み込む力がある。綾乃にかかればアームでさえけちょんけちょんだ。綾乃が勝ち誇ってぴょんぴょこ喜んでる様子が目に浮かぶ)
ちなつ(京子先輩が優しく微笑んでいる様子が目に浮かぶ。このラブレースで、私は杉浦先輩をけちょんけちょんにしてやるぐらいの気持ちだったのに。ヒィヒィ言ってるのを見て楽しんでやるぐらいの気持ちだったのに…。いや、こんな些細なことで勝ち誇られても私は負けた気にはならない。……ならない。私には、杉浦先輩の比じゃない強さがある)
京子(綾乃には葉っぱ仮面の比じゃない強さがある。綾乃を召喚したいところだが、残念ながら私にはMPが足りない。何より、出番を待っていた葉っぱ仮面はきっとそれだけで落ち込んでしまう。綾乃を召喚するには代償が大きすぎるんだ。綾乃はそれだけ強すぎるんだ)
ちなつ(杉浦先輩はあまりに弱すぎるんだ。贈り物だって、そもそも杉浦先輩が弱すぎるから私は…。それを渡したことをきっかけに、もしも私達の密な関係に気付いたりしたら、杉浦先輩はきっとそれだけで落ち込んでしまうから。…ほんと、杉浦先輩は張り合いがないなー…)
京子(いやそもそもアームと張り合っちゃダメでしょ!製造サイクルから逃れてどうすんだよ!ぴょんぴょこ勝ち誇ってる場合じゃないよ!まったく綾乃はおちゃめだなー…。…かわいいなぁー…)
綾乃「…」
綾乃『あー、あー…』
綾乃「…」
綾乃『えー…』モジモジ…
ちなつ(壇上挨拶ぐらい良い加減慣れればいいのに。なんで生徒会副会長やってんだろ)
綾乃『ゴホン!…えー…』モジモジ…
綾乃『…』
綾乃「」チラッ
京子(がんばれ、綾乃)
綾乃「……」
ちなつ(ん)
千歳(ん)
綾乃『…せ、生徒会副会長の杉浦綾乃です。えーと、本日はー』
京子(よしっ)
ちなつ「……」
ちなつ(ヒィヒィ言ってるのは私の方なのかな…)
千歳(ヒィ〜〜最高やでぇ)
-
119 : 2015/03/27(金) 23:02:59.75 -
〜15:15〜校長先生『え〜そんなんだからー…』
京子(また校長の長話が始まっちゃったよ)
京子(…西垣ちゃんは今日もいない。今もどっかで頑張ってるのかな…)
京子(結衣のクローンがそもそも作られてなかったんだってことは私にも分かった。結衣はこの世界のどこにもいない。データベースがどうとか言ってたし、西垣ちゃんもそれは調べて分かってそう)
京子(つまり西垣ちゃんは、結衣ボディの製造を目指して研究してるわけだよね。たぶん工場内の調査が主か)
京子(科学面は私には全然分かんないけど、とりあえず結衣の細胞は必要になるはずだ。これが気がかりなんだよね……使える細胞がどこにもないんじゃどうしようもない)
京子(まあそんなことは真っ先に調べるだろうし、復活は不可能じゃないってことが判明したからこそ今も頑張ってるんだろうけど。…どうなのかなぁ)
京子(まりちゃんとのお医者さんごっこってのも気になる。どう考えても、まりちゃんの体細胞をこっそり採取したってことだ。…親族の細胞を使って、どうにか結衣っぽく作り変えるとか……。いやいやそんなわけない。そんなのに結衣の魂は入らない)
京子(頑張ってくれてるのはいいけど、何をどう頑張ってるのかは私だってやっぱ知りたいよ。そりゃ不安にもなるよ。教えてくれれば何か手伝えることもあるかもしれないってのに…)
京子(…どうせ「生徒を危険な目に合わせるわけにはいかないから」とかなんだろうな…)
京子(3月3日以来、ほとんど学校にも来なかったし、連絡手段さえ残さない。徹底してるよなぁ…。私達だってもうわきまえてるっつーの)
京子(ていうかそんなに無理しなくてもいいのに。職務までサボっちゃダメでしょ。…ちゃんと寝てるのかな)
京子(最後に会った15日も、なんか焦ってるみたいだったし。まるで時間に追われてるみたいに……)
京子「……」
京子(ん?)
-
120 : 2015/03/27(金) 23:04:01.23 -
京子(時間に追われてる…のか?)京子(タイムリミットがある?いや。……いや、もしかして……クローン製造は、やりたい時にできるもんじゃないのか?勝手に操作することはできない…?だとしたら、つまり…自動製造の時期を逃したら、作れないってことなのか…!?)
京子(うわ、マジか……そこまで考えが回ってなかった。てっきり操作法を解明しようとしてるんだとばかり…)
京子(だとすると、細胞さえ機械に組み込めば、明日自動的に結衣が生まれる。ってことなのかな…?)
京子(…考えてみればそれだけじゃないな。病原体の巣窟である下界に私達が平気で行けるのは、ボディ変換が近いからだ。発病までの猶予期間は最短で二ヶ月だから、2月までは下界に行っちゃいけないってことになる。ボディ変換前に発病しちゃう可能性が出てくるからな。下界に行けなくなるのは調査をする上でも相当な痛手だろうし…)
京子(…どっちにしろ今夜がタイムリミットということですね…)
京子(私達に黙ってたのはそういうことでもあったのかな。タイムリミットがあることを私達が知ったら、この日までにちゃんと準備が整うことを、私達は期待しながら過ごしちゃうから)
京子(…実はちょっと自信なかったんじゃん。そのくせ「順調だ」とか「期待してくれ」とか言っちゃうんだもんな。悪い癖と言うかなんと言うか…)
京子(でも、間に合わないんなら今年は諦めて来年に回すだろうし。それなのに未だに根を詰めてやってるなら、ギリギリ間に合いそうってことになるのかな?)
京子(実はもう今夜に備えて準備に入ってるのかもしれない。その場合、結衣の細胞はどうしたのかな…)
京子(…ほんとに結衣風まりちゃんが生まれたら、私はどんな顔をすればいいんだろう。それこそ摂理に反してるよ)
京子(どうしよう。そわそわしてきた。校長の話なんて聞いてる場合じゃないよ。西垣ちゃんに会いたい)
京子(だとしてもちなつちゃんを巻き込むわけにはいかないよな。ただでさえ普通じゃない日なんだから、これ以上不安にはさせられない)
京子(…それと同じような考えで…西垣ちゃんは私も含めて、誰も巻き込まないようにしてくれたわけか)
京子(いっつも皆を爆発に巻き込んでるくせに…最近の西垣ちゃんはコミカルな爆発が足りない。ちょっとかっこ良すぎるよ)
奈々「今世紀最大の大爆発を見せてやるぞーーー!!」バーン!
京子「!?」
ザワザワ…
奈々「」カツン カツン…
校長先生『西垣先生!あんたねえ』ガミガミ
京子(生徒達がザワザワと騒いでいる中、西垣奈々はステージに向かって颯爽と歩を進める。校長の説教も意に介さず、そして今そのマイクを奪い取った…!)
奈々『聞いているかカカロット!私は明日っ、ビッグバンアタックを貴様にお見舞いしてやるぞ!!死にたくなければ貴様も充分に気を溜めておけ!!私を存分に爆発させてみろーーーーーー!!!』
…キーー……ン…
京子「……は?」
りせ「……///」
奈々『…それと、歳納と吉川は今すぐ理科室に来なさい。……以上だ』
奈々「…」カツン カツン…
京子(よく分からないけどコミカルに大爆発した)
ちなつ(なんであの人クビにならないんだろう)
-
121 : 2015/03/27(金) 23:05:07.51 -
〜15:30・理科室〜西垣「私達は船見のクローン製造を目指す。結論から言って、船見クローンを作ることは可能だ」
京子「ほんと!?」
西垣「ああ」
ちなつ「よかった…」
京子「でも私、工場で今夜のための準備でもしてるもんだと思ったんだけど」
西垣「なんだ気付いてたのか。さすがだな。それなら話が早い」
ちなつ「…?」
西垣「状況を言えば、船見の細胞はまだ入手できていない」
京子「おーぅ…」
西垣「これから船見の細胞を、つまりオリジナル船見の遺体を下界で探す。その細胞を元に奴を生まれさせる。すまないがその捜索をお前達にやってもらいたい。夜遅くなるかもしれないけど、やるならそれだけの覚悟で臨め」
京子「うん」
ちなつ「…??」
西垣「お前達が捜索をしている間、私は工場への侵入経路を確保したい。少し時間がかかるんでな。細胞を入手したら私がそれを製造機に組み込むわけだが、その作業を早々に終わらせられるよう予め下準備も済ませておく。悪いが私は遺体探しには加われない」
京子「うん」
西垣「こちらの作業が終わったらお前達を迎えに行く。まあ、その時まだ見つかっていないようであれば私も下界に行って合流しよう。細胞を入手した後のことはすべて私に任せろ。自動製造が始まる時間までにこれらの作業が完了すれば、無事船見が生まれる。一度生まれてしまえばサイクルのシステムが生まれさせ続けてくれる」
ちなつ「ちょ、ちょっと待ってください。それって時間ギリギリってことですか!?」
西垣「なんだ気付いてなかったのか」
ちなつ「……」
ちなつ「」ギロリ…
京子「い、いや私もついさっき気付いたことで…」
-
122 : 2015/03/27(金) 23:06:08.72 -
西垣「製造は手動操作では無理なんだよ吉川。製造サイクルに関しては無人を前提としているからな。どうにか最上位の権限も得てプログラムを改変すれば可能なんだろうが、さすがにそこまでの知識が私にはないし、何にどう影響するかも分からない。下手にいじるわけにはいかないんだ」ちなつ「…えーとつまり…?」
西垣「製造は、プログラムに従い3月28日に一斉に行われる。これは絶対だ。今夜までに細胞を用意してそれを装置にセッティングすれば、それだけで明日自動的に船見が生まれるということだ。アームが私達の細胞を採取してくれるのと同じ要領で、私達の手で船見の細胞を用意してやればいい」
ちなつ「…なんでそれを今言うんですか…」
京子「西垣ちゃんも忙しかったんだよ」
西垣「それからこれも蛇足だが、船見のクローンは過去一度も作られていなかった。工場には過去の製造履歴がすべて残されていてな。私達が約20回製造されてきたのに対し、船見の製造回数はゼロと記録されていた」
ちなつ「でもどうしてなんですか?結衣先輩は確かに京子先輩と検診に行ったんですよね。元の細胞ならその時に…」
西垣「ああ。物理的に言えば、やはり医療機関側で細胞を紛失してしまったということなんだろう。まあそれはこの際いいんだ」
ちなつ(物理的?)
西垣「この話で重要なのは、ゼロと『記録されていた』ということ。正確には、『記録する欄があった』ということだよ。つまり、船見の住民情報はデータベースに確かに存在していたんだ。例え20年間未製造が続いていても、船見の住民情報は抹消されていなかった」
京子「…?それが重要だったの?」
西垣「クローン製造に必要なのは細胞だけではなく、まず住民情報の登録が必要だったんだ。住民の情報がなければそもそも、システム的に居場所を作れない。その細胞を元に誰として製造するのかも、社会的にどんなステータスにして何処に配置するのかも判断できない。アームの捕獲対象にもならない」
京子「そのために必要なデータが消されずにちゃんと残ってたわけか」
西垣「ああ。要するに、システム側の都合としては、船見のクローンを作る準備が未だ整っているということだよ。あとは細胞のことだけを考えればいい」
ちなつ「ふむふむ」
西垣「蛇足が過ぎた。これからが大事な話というか…私の腕の見せ所というか…」ゴソゴソ
京子「ちょっと待って」
西垣「…」
-
123 : 2015/03/27(金) 23:07:07.06 -
京子「ちなつちゃんは連れて行けないよ」ちなつ「は!?」
西垣(…やはりそうきたか…)
京子「時間かかると思うし。今日は家族と過ごすって約束でしょ?」
ちなつ「それなら先輩だってそうじゃないですか!」
西垣(…捜索員が最低一人いれば良かったわけだが…)
京子「私は早く結衣に会いたいんだよ」
ちなつ「馬鹿にしてるんですか!?私だって結衣先輩に早く会いたくてたまらないに決まってるじゃないですか!!」
西垣(…私にはどちらか一人を選ぶなんてできなかった。どちらがより弱いかなんて、私には分からなかったんだ…)
京子「私一人で大丈夫だよ。ちなつちゃんはお留守番してて」
ちなつ「先輩は私が守るって言ったじゃないですか!!」
西垣(…!)
京子「死んでる結衣をちなつちゃんに見せたくないんだよ!!」
西垣「っ!!」
ちなつ「……」
西垣(……)
西垣「……悪いが吉川は私と一緒に来てもらおう」
ちなつ「え?」
西垣(…もはや正しい答えなんて私には分からん…)
-
124 : 2015/03/27(金) 23:08:14.43 -
西垣「後で説明するが、探し方を考えると一人でも二人でも大して変わらないんだ」ちなつ「そういう問題じゃない!!」
西垣「こっちの方が人手不足だから言ってるんだ。元々どちらかは私が連れて行くつもりだった」
京子「…」
西垣「さっき言った工場への侵入経路確保の話だが、要するに穴掘りだ」
ちなつ「はぁ?」
西垣「工場へは、上界から穴を掘って、パイプを伝って侵入するんだ。だけどせっかく掘った穴は、日付が変わると塞がってしまうんだよ。あれも地盤の自動補正プログラム的なやつなんだろう。つまり今日のためにもう一度穴を掘らなきゃいけないんだが、私一人ではこっちこそ時間不足になってしまう。掘るための機材があるとは言え、最低二人は人員がほしいんだ」
ちなつ「…本当ですか?」
西垣「馬鹿にするなよ。冗談かましてる場合じゃないことぐらい私にも分かってるぞ」
西垣(…一人でも二人でも変わらないのはこちらも同じだがな…)
西垣「他の者に協力を仰ぐにしても、ここがクローンの世界であるという真実を触れ回ることになってしまう。それだけは絶対に避けたい。お前しかいないんだ、吉川」
ちなつ「…そういうことでしたら…」
西垣(……)
ちなつ「先輩、ほんとに一人で大丈夫ですか?」
京子「うん!」
ちなつ「…もう…無理しちゃダメですよ?」
京子「大丈夫だよ。今までちなつちゃんにいっぱい元気もらったんだから」ナデナデ
西垣「!!!」
ちなつ「…やめてください…」
京子「じゃあ全部終わったらもーっと、ちなつちゃんの大好きなホールディングナデナデしてあげるからねっ」ナデナデ
西垣「」
ちなつ「…とにかくっ。分かりました先生!!チーナ穴掘ります!結衣先輩のためだったら例え火の中土の中です!!」
西垣(…なんたる爆発力。『元気玉こそ宇宙最強』がここでもまた証明された…)
-
125 : 2015/03/27(金) 23:09:04.56 -
西垣「それと、だな。探し方についてなんだがな。こんなにギリギリになってしまったのは、実はこれを仕上げていたからなんだ」ゴソゴソタラララッタラー
西垣「船見レーダーー」
ちなつ「なんですかそれ」
西垣「まりちゃんから細胞を少々頂いてな。これは、まりちゃんと遺伝子情報が近い者の居場所を探知してくれる機械なんだ。それが遺体であってもな。つまりまりちゃんの血縁者である船見結衣の座標を、なんと画面に映してくれるんだよ」
西垣「そう!例えるならド」
ちなつ「ドラゴンレーダーじゃないですか!」
西垣「!!!!」
京子「すげー!すげーよ西垣ちゃん!」
西垣「……」
西垣「まあな。ちなみに簡易地図表示機能も備わっている。レーダーは一つしかないから、捜索は一人でも二人でも大して変わらないわけだ。だけどあんまり期待しないでくれ」
京子「え?」
西垣「特定人物の探知に絞るほどの精度は実現できなかったんだ。血縁者は船見結衣だけじゃない。まりちゃんを中心とした一定範囲の血縁者すべてが、このレーダーに反応してしまう。今まで廃棄されたその者達のクローン体もすべてな」
京子「そっか…」
西垣「とは言っても、まりちゃん達親戚はこの地区からは離れている。管理されている地区の区分けからして別なんだ。住民データを調べて確認したからそれは間違いない。船見がこの地区にいればの話だが、この地区に絞って探すのであれば、レーダーに反応するのは船見とその父親のみとなるはずだ。その複数の反応のうちの、たった一つが当たりということだ」
京子「なるほど。結衣のお父さんが20体と、オリジナル結衣の1体が、レーダーに反応するってことだね」
西垣「残念ながら違う」
京子「…」
西垣「上界構築に約100年。この間に、私達の細胞を利用した作業用無人格クローンが大量に作られている。船見はそれさえ1体も作られていなかったが、父親の方は3850体作られていた。これもすべて反応してしまう」
京子「ひえぇー…」
ちなつ「……」
西垣「20体の方は船見家周辺に集中して廃棄されているとしても、無人格の方はおそらく地区内であちこちに散らばっているだろう。集中している方が都合が良いのか悪いのかは、船見の居場所にもよるわけだが…」
ちなつ「あの…やっぱり私も」
西垣「吉川。もうすぐ出発するからトイレに行って来い」
ちなつ「…はい」
ちなつ「…」テクテク…
ガラガラッ…
…ガラガラッ
-
126 : 2015/03/27(金) 23:10:18.34 -
西垣(……)西垣「レーダーだけに頼らず、船見がどこで眠っているのかを頭で考える必要がある。で、私なりの調査結果と見解だが」
京子「うん」
西垣「あの時代の死体処理の実情が分かる記事を見つけたんだ。それによると、埋めてくれる遺族がいる場合は棺に納めての簡単な土葬がほとんどだったようだ。他は室内放置や路上放置。死人が多すぎて、一般的な葬送の手段は取られていなかったわけだ」
京子「ほうほう」
西垣「つまり船見家の墓で眠っている可能性は薄い。レーダー開発前に私の方でも見に行ったが、やはりそれらしいものは見つからなかった。可能性が高いのは実家付近か。それ以外に集団埋葬地もあるかもしれん。いずれにしても、レーダーが土の中に反応を示していたら濃厚ということになる。廃棄されたクローンの方は、ほぼすべて土の上だろうからな」
京子「なるほど」
西垣「三次元探知機能でもあれば、行って確かめるまでもなく土の中の反応を得られたんだが…すまんな。二次元表示が限界だった。まあそういうことで…」ゴソゴソ
タラララッタラー
西垣「このスコップを持っていけ。サクサク掘れるやつだ」
京子「サクサク掘れるやつ!歳納京子穴掘ります!ありがとう!」
西垣「しかし路上放置の場合も十分考えられる。結局は発病のタイミングだからな。埋めてくれる者がその時すでにいなかった可能性もある。土の中とは限らない。家の中にいるんじゃないかとも思ったが、これも私の方で見たところそれらしいものはなかった。その他にも……お前ならいくつか心当たりがあるかもしれないしな。船見の居場所に」
京子「そうだね」
西垣「当たりはずれの判断方法だが、骨格でどうにかしてくれ。ハズレ役が母親なら厄介だったかもしれないが、父親だから骨格は大きく違っているはずだ。性別からして違う。当たりが見つかれば一目でピンとくるだろう」
京子「おお、なるほどそういうことか」
西垣「ああ。作業用クローンの数で言えば肉体労働向けの男性の方が女性よりも多くて厄介なんだが、この判断のし易さのためにあえてハズレ役に父親を選び、父方の従妹であるまりちゃんを私は選んだ」
京子「まりちゃんは偉大だなー。私もお医者さんごっこしたい」
西垣(……)
西垣「ああ。何より幼女だ。大人は頭が固いからな。直接父親の細胞を採取せずに済んで良かったよ。船見のオヤジがお医者さんごっこをしてくれるとは思えないし、むしろ願い下げだからな」
京子「まりちゃんには感謝してもしきれないね」
西垣「ああ。今度みんなでウニパーティでもしよう。私が全額出してやる」
京子「いいね」
西垣「そのあとはみんなでお医者さんごっこだな。きっと楽しくなるぞ」
ガラガラッ…
ちなつ「もどりましたぁー…」
京子「あ、ちなつちゃん。今度みーんなで合同お医者さんごっこね」
ちなつ「は!?」
-
127 : 2015/03/27(金) 23:11:03.99 -
西垣「探し方についてはそんなところだ。そうそう、階段に沿ってリフトを作っておいた。私も何度も筋肉痛にはなりたくなかったからな。操作法も分かりやすいから大丈夫だろう。そんなにスピードはないが、3分で移動できる」京子「すげー!そんなのまで作れちゃうの!?」
西垣「……?………??ここまで見ておいて何言ってるんだ。既存技術の産物なら出来て当然だろ。材料さえあれば3分で出来上がりだぞ」
京子「…はんぱねぇ…」
ちなつ「3分で作る技術は既存技術なんでしょうか」
西垣「それから畳が開かないように鍵をかけておいたんだが、畳の前で『開けごま』と言えば鍵が外れる」
京子「そんなベタな…。おーけー。ということで、行ってきますか」
西垣「焦るな。一つ大事な質問がある」
京子「何?」
西垣「そもそも私達クローンに、下の世界へ行く手段が簡単にあってはならないはずなんだ。階段を崩さないまでも、地下道をあんな形で残す理由がない。それなのに、なぜあの部室に出入り口が作られていたのか。これをお前はどう考える?」
京子「…」
京子「…作業用クローンって、私達のも作られてたの?」
西垣「船見以外はな。成人と比べればごく少数だが」
京子「そういうことなんじゃない?」
ちなつ「…」
西垣「…ああ。そういうことだろうな。命令通りには動かない反抗期の娘達の仕業というわけだ。船見の不在に気付き、私達に希望の道を残してくれた」
ちなつ「…そんなことってあるんですね」
西垣「人格がなくとも記憶は継いでいるからな。……むしろ、魂のない偽者だからこそ船見を忘れることはなかったのかもしれん」
京子「やっぱ気付いてたんだ」
西垣「不自然すぎるからな。認めざるを得ない。存在そのものが私達の中から消えていた」
ちなつ(……)
西垣「それはそれとしてだ。この事実で着目すべきは、感情のない者達にさえ船見への愛が宿っていたということ。愛は感情の矢印をも超越した、言わば存在肯定とその表現。あるいは痕跡。……なんてな」
西垣「120年前のお前達の痕跡として偽者が残り、偽者は痕跡として道を残した。道を進んだ現代のお前達もまた、その大きな一歩として船見の存在に気付いてやり、そして思い出してやるに至った。そうやって愛の物語は、120年前からずっと続いていたんだよ。…細胞で出来たダミーも侮れないな…。…んん?」
京子「んん?」
西垣「……!!そう、それはお前達のスタンドだったんだ!スタンドはLOVERSのカードの暗示。史上最弱が……最も最も最も最も」
京子「最も最も最も最も」
西垣京子「最も最も最も最も最も最も最も最も」
京子「最も最も最も最も最も最も恐ろしィィ!!」
垣「マギィーーーーーーーーッ!!」
ちなつ「冗談かましてる場合だったんですか先生……私感動してるところだったんですけど」
西垣「…いや本当にすまない」
京子(愛を語った照れ隠しかな)
西垣「つまり何を言いたいのかと言うとだな…」
京子「なんとなく分かったよ。私達は生きてる時だって死んでる時だって、結衣を愛してる。それを踏まえて行ってこいってこと?」
西垣(……)
西垣「…まあそんなところだ」
-
128 : 2015/03/27(金) 23:12:01.72 -
ちなつ「あ、先輩っ。私からもちょっと…」ガソゴソ京子「んっ」
ちなつ「これ…。こんなこともあろうかと、あかりちゃんと一緒にお弁当作ってきたんですけど…」
京子「お、マジで!」
西垣「!!!!!」
西垣(…ハチャメチャが押し寄せてくる…)
京子「てかちなつちゃんこうなる展開予想してたの!?」
ちなつ「いえ、そうじゃなくて……。私達は死んだりしないけど、それでも今日は節目の日ですから。私達からの、日頃の感謝の気持ちです」
西垣(これは泣かせてくれる。……いや、泣いてーるー場合ーじゃーないー)
京子「おお……でもなんでお昼までに渡さなかったの?」
ちなつ「わ、忘れてたんですよっ」
西垣(ワクワクーをーひゃーくばーいーにーしてー爆発の時を待つ)
京子「忘れるわけないって分かってるよ」
ちなつ「ん…。…そうですね」
西垣(お前がウニパ〜ティーのーしゅやーくーにーなろー。吉川っ。デッデーン)
京子「ありがとね。めっちゃ嬉しいよ」ナデナデ
ちなつ「……」
西垣(…夢中になれるモノが、いつかお前達をすげぇ奴にするんだ。ノーテンピーカン、空は晴れて……いっぱいおっぱい、ボク元気!さあトラブルと遊んでこい。ヤンチャ・ガール達よ…)
-
129 : 2015/03/27(金) 23:13:10.16 -
ちなつ「…あの……結衣先輩が戻ってきたら、こんなこと言ってあげないから、しっかり聞いててください」京子「ん?うん」
ちなつ「私は先輩と同じように、みんなのことが大好きで、ずっと愛してるんです。だから私は、京子先輩のことを、永遠に愛してます」
西垣「!!!!!!」
京子「…うん。私もずっと愛してるよ、ちなつちゃん」
ちなつ「…はい…」
西垣「も、もうやめてくれ……私の前ではやめてくれ……私には明日があるんだ……修行してる場合じゃなかったんだ……」
ちなつ「分かりにくいからかい方やめてください!!」
西垣「ひゅ、ひゅーひゅー」
ちなつ「イラッ」
西垣「臭くていいんだ」
ちなつ「あぁ!?」
西垣「愛を言葉で表現してみれば、見てるこっちが気恥ずかしいものなんだ。だがそれでもやってのけろ。その調子でぶつけていけ。言葉でも何でもいい。元気を分けるでも、抱擁でも、身を呈して守ると誓うでもいい。お前達には、私欲を捨てる覚悟を持つほどの強い愛がある」
西垣「それだけの本気度を船見にも見せつけてやれ。穴を掘るでも、駆け回るでも、涙を流すでもいい。やめろと言われようとも絶対にやめてやるな。そうであればこそ、『幸せ者な船見結衣のサクセスストーリー』が生まれる」
ちなつ「…」
西垣「……な、なんてな」
京子「うん!目一杯の愛を伝えてくるよ」
西垣「おうっ。じゃあ歳納、私からの愛だ。お小遣いをやろう」ピラッ
京子「なんで!?」
西垣「水も必要だろ?その辺の自販機で買い込んでおけ」
京子「おう。そう言えばそうだね」
西垣「こんなんで悪いな。私はそこまで気が回っていなかった」
京子「…ふーん…ありがと、助かるよ」
ちなつ「先生。一応言っときますけど、私達はそーゆー関係ではないですからね」
西垣「分かってるさ。お前のナンバーワンが誰なのかは、こないだの田舎道で」
ちなつ「///」ドスッ!
西垣「ぬおぅ…」
-
130 : 2015/03/27(金) 23:14:05.89 -
京子「じゃあ、さっそく行ってくるよ」ちなつ「気を付けてくださいね…待ってますから」
京子「うん。心配しないでちなつちゃん」
西垣「無理だけはするなよ歳納」
京子「…うん…」
ガラガラッ
京子「西垣先生」
西垣「うん?」
京子「先生がいなきゃ私達、ずっと結衣に会えないままだった。先生は、最高の恩師だよっ。ありがとね。愛してる」
西垣「……」
京子「…絶対結衣見つけてくるから!行ってきます!」
西垣「歳納!!」
京子「!?」ビクッ
西垣(……)
西垣「お前は史上最弱のLOVERSだ。すべては、おのれの弱さを認めた時に始まる」
京子「ちゃんと自分の言葉で言ってよ。先生ならできるでしょ?」
西垣「……ダメならダメでいいんだ…か弱い女の子なんだから、遅くなる前に帰って来い」
京子「…うん」
西垣「私もお前達を愛してる。それを絶対に忘れるな」
京子「うん。じゃあ今度、私を抱きしめて。……行ってきます!」
タッタッタッ…
-
131 : 2015/03/27(金) 23:16:22.51 -
西垣「」ゴソゴソ西垣「……よし、待たせた。準備完了だ。じゃあ私達も…」
西垣「……」
ちなつ「?」
西垣(……)
西垣(……しまった。無線機でも持たせるべきだったか。下界に携帯の電波が通ってるわけないじゃないか。今から調達している時間はない)
西垣「吉川。今すぐ歳納に電話をかけろ」
ちなつ「え、はい」ゴソゴソ…
西垣(こちらの作業が先に終わったら下界で歳納と落ち合うとは言ったが。連絡も取れずに探してたんでは入れ違いになってしまう。他にも言ってないことならまだあったというのに。…何をやってるんだ。何よりも大事なことだろうが)
ちなつ「むっ…通話中みたいです…」
西垣(……畳を閉じたらアウトだ)
西垣「私は部室に行ってくる。『ちょっと待て』とメッセージを送れ」
ちなつ「送りました」
西垣「…?」
西垣「……!!?」
西垣「…メールを打つスピードに自信はあるか」
ちなつ「はい。はんぱないです」
西垣「今から言うことを書いて送ってくれ」
西垣「こちらの作業が先に終わるようであれば階段の下まで行って待っている。もし遅くなるようであれば捜索を中断してでも、移動に時間がかかろうとも絶対に階段下に顔を出せ。一緒に探そう。絶対一人で意固地になるな」
西垣「それから言い忘れたが、骨の細胞だろうがなんだろうが問題ないからその点は心配するな。どの部位でも構わない」
西垣「それと、この際はっきり言うが、捜索のタイムリミットは22時30分としておく。言わずとも分かるだろうが工場までの移動時間も考えろ。それを過ぎたら何と言おうと諦めてもらう。どんな手段を使ってでも私が帰らせる。絶対だ。その時間にならずとも、体力の限界を感じたら諦めて早めに帰って来い。…ギリギリになってしまってすまなかった」
西垣「…私はお前達に大爆発してほしかったけど、たまには不発で終わったっていいんだ。本当のチャンスは来年だと思っておけ。…成功のイメージばかり与えてしまってすまなかった。死ぬほど抱きしめてやるから絶対帰って来い。休憩の時はこのメールをじっくり眺めろ。じゃあ行ってらっしゃい。……以上だ」
ちなつ「『私も抱きしめてやるから絶対帰って来い。お気を付けて。』送信完了です」
西垣「はんぱないな。まぎれもなく宇宙最速。特戦隊で奴のイスを奪ってやれ」
ちなつ「いいから行きましょう」
-
132 : 2015/03/27(金) 23:17:03.72 -
〜自販機前〜ガシャコン
京子「うん。……ほいほーい」
京子「…ん、いや」
京子「あさって」
ガシャコン
京子「…ごめんよ」
京子「…うん。だから今のうちに言っとくね」
京子「…」
ガシャコン
京子「生んでくれてありがとう」
京子「…」
京子「……ほい」
京子「ほーい…」
ピッ
京子(…ん、メール…)
京子(……)
京子(……)
京子(……)
京子「うむ。了解だ」
京子(……)
-
133 : 2015/03/27(金) 23:18:06.39 -
〜16:00・駐車場〜西垣「」カツン カツン…
西垣(『絶対見つけて来る』なんて言わせてはならない。『いつか絶対生まれさせる』と言わせるべきだ)
西垣(成功確率がどれほどのものかなんてあの二人次第だが、今年はダメ元でやるんだということをもっと言い聞かせるべきだったんだ。心当たりの何処にもいなかったらどうなる?この町がどれほど広いと思ってるんだ)
西垣(間に合いそうにない場合、歳納はどうするか…。アームが生え始める0時0分までに上界に戻らなくては、面倒になるのは私達の方だ。ボディ変換に間に合わず、一月後には寿命を迎えることになってしまう。それぐらいのことはあいつも理解しているはずだ)
西垣(念のため22時30分とは言っておいたが…あいつにとっての延長戦がどこまで続くかだ。だが私はそれを許さない。私の声が耳に入らずともだ。お前の強さを信じていればこその手段で、私はそれを許さない)
西垣(…強さを、信じることにしてしまった……絶望した時にあいつが何を選択するかなんて私には分からない。繊細で、こういう場合のあいつは独り善がりでもある。やはり無理やりにでも吉川を共に行かせるべきだったか)
西垣(教え方が間違っているんだ。教えるべきは良い面だけじゃない。時には身を滅ぼす愛も、一緒に死んでやりたくなるほどの強い愛もあるんだ。生者にとって、『死んでる時だって愛してる』が選択肢になってはならない。それさえも想定して教えておかなくてはならなかったんだ)
西垣(そもそも生徒にこんなことをさせること自体が間違っている。14歳の少女に愛する者の亡骸を見せるという時点でなぜその間違いに気付かない。探知機の開発が遅れたことにでもして、最初から来年に回すべきだったんだ)
西垣(何が「先生」。私は…)
西垣「後ろに乗ってくれ」
ちなつ「え、でもいろいろゴチャゴチャしてますけど」
西垣「一人ぐらい座れる。悪いな。助手席はカカロットの特等席なんだ」
ちなつ「……」
西垣(……)
ちなつ「…ふふっ」
西垣(…口が滑ったか…)
車「」バタン!
ちなつ「あの、先生」
西垣(……)
西垣「なんだ」
ちなつ「生意気な態度取って、ごめんなさい…」
西垣「ん?何そんなことでショボンとしてるんだ。私はそんなこと気にするほど弱くはないぞ?」
ちなつ「だって、先生は私達のためにこんなにがんばってくれてるのに。私は感謝してるんです。毎日毎日休まずにがんばって……お人好しすぎます。先生には、何の見返りもないのに」
西垣「馬鹿にしすぎだ。お人好しは認めるが、見返りがないだと?私だって早く船見に会いたくてたまらないんだぞ」
ちなつ「……」
ちなつ「先生、ちょっとかっこ良いです」
西垣「そうか。よく言われる」
ちなつ「そうですか。…それと…」
西垣「……」
西垣「……?なんだ言ってみろ」
ちなつ「…私、結衣先輩のことをすごく愛してるんです。それから、恋してるんです。……先輩が消えたくたって、生きたくなくたって、私は絶対、ちゃんと生きてほしいんです。…私、がんばりますから」
西垣「…ああ。その意気だよな」
ちなつ「?」
西垣「お前は『愛を見せつけてやれ』と私が教えるより先に、はっきりとした言葉で歳納に愛を見せつけたんだ。まさに最速。お前の想いは誰にも追い越せない。宇宙最速の座をキープして走り続けてみせろ。そして船見にも見せつけてやれ。その想いはきっと届くから」
ちなつ「…はい」
西垣「よし、行くぞ」
車「」ブイーン…
-
134 : 2015/03/27(金) 23:19:05.35 -
〜16:00・部室〜あかり「あかりが本当の主人公だよー…」
あかり「」ゴローン…
あかり「お菓子食べよっと」
あかり「わぁいうすしお。あかりうすしお大好き」
あかり「」パリパリ
あかり「……」
あかり「わぁいプカリ」ングング
あかり「……」
あかり「…みんな…。遅いなぁー」
京子「赤座あかりーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」スパーン!
あかり「ひいぃーっ!?」
あかり「もぉー京子ちゃん脅かさないでよぉー!」プンプーン
あかり「……」
あかり「京子ちゃん、どうして泣いてるの?」
京子「泣いてないっ!」
あかり「泣いてるよぉ…」
京子「泣いてないもん!」
あかり「ダメだよー」ギュウッ
京子「やめろっ」
あかり「大丈夫だよぉ」
京子「あかりのくせに、生意気だぞっ」
あかり「あかりがついてるよ」ナデナデ
京子「…うん…」
京子「うん、いつもあんがとねっ」ナデナデ
あかり「…えへへ」
京子「今日の活動は終わり!真っ直ぐ家に帰ること!分かったな」
あかり「うん!」
-
135 : 2015/03/27(金) 23:20:26.30 -
私がしゃきっとせずに誰がしゃきっとするんだ。今うじうじすることに何の意味がある。一度決めたなら信条に背こうとも生徒を喜ばせてやれ。可愛い子に旅をさせないことの何が信条だ。あいつの決意を踏みにじるな。駄目だったなら自責より前に慰めてやれ。教え切れなかったことは次の授業で教えてやれ。そして本気で守ってみせろ。私ならばできる。私はいつだって愛を青春に置き換え、そして青春を爆発的なエネルギーに置き換えているんだ。それはなぜだ?その力の熱さと強大さを知っているからだ。私にはその熱く強大なエネルギーがあるじゃないか。りせと合わせたこの宇宙最強のエネルギーを甘く見てはいけない。この力を持つ私なればこそあいつらの前に立てる。
孫悟空は何度敗北を経験した?孫悟空は宇宙最強のエネルギーをぶっ放した後にどんな顔をした?何度うじうじしたって私達は、そうやって最後に勝ち誇ればそれでいいんだ。だがやるからには勝つ気で挑め。戦うことさえ楽しんでしまえ。そんなことは子供の頃から学んでいる。そしてそれを教えてやれ。
これが私の在り方。師道なんだ。ああ、これでいい。信条を超越してやるぞ。
だが見たか孫悟空。悪役がいなくとも、私達はこんなにも熱くなれる。立ちはだかる悪意がおらずとも、私は宇宙最強のエネルギーを事ある毎に生み出し、それを自分の言葉に換えて生徒達に語ってやったぞ。
お前にはもう一度語ってやる。よく聞いていろ船見。
彼らはエネルギー弾を、愛するものを守るために、悪を滅するために放ったかもしれん。だが私にとってそれは、私達が読み取るための記号なんだ。敵のいない私達がそれを置き換えるならば、エネルギー弾の矛先はもはやお前に向けられている。
この意味が分かるか?私達はお前を絶対に滅してはおかない。絶対に生かしてやるという存在肯定のエネルギーなんだ。お前がお前を滅したことを私達は絶対に許さないぞ。この力を喰らって生の喜びを味わうがいい。ぶちのめしてやるから覚悟しておけ。
それ見たことか孫悟空。貴様の在り方を、私はアレンジしてオリジナルにしてやってるんだ。本気度なら貴様にだって私は勝てるぞ。そしてあいつもまた生まれた時から金髪なんだ。最速のあいつもスピードだけだと思ったら大間違いだぞ。ざまあみやがれ。
…さて、熱く語りかける役目を私が担うのもそろそろ終わりにさせてもらう。そろそろ私はコミカルな私に戻らせてもらうぞ。照れくさくて仕方がないんだ。
お前も充分に照れくさくなっただろう船見。たじたじタージマハルだろ?たじたじタージマハルで笑えるぐらいの余裕は出てきただろう。余裕がないなら余裕ありま温泉と微笑み返せ。どうだ面白いだろ?あいつのダジャレもまた柔らかな爆風を生んでいるんだぞ。
後はそこでじっとしていなさい。何度失敗しようと、私達は絶対にお前を迎えに行ってやるから。何度だってこの愛を伝えてやるから。
船見、もう分かってくれたよな。お前が存在を消す理由がどこにある。お前は生きてていいんだ。生まれてきてよかったんだ。そしてまた生まれて、お前が愛するあいつらに笑顔を見せてやれ。再会を果たした時のあいつの顔を今から想像して待っていろ。私達が誕生の日を祝い合うことの、絶大なる意味の強さを思い知ってその言葉を用意していろ。
この物語の主役はあいつらと船見。その間に交わされる、双方向の愛だったんだ。悲しい死のエピソードで終わるはずがない。それをお前は分かっていたはずだ。
幕引きの役目を持つのはお前自身なんだ。そしてお前達の本当の日常に戻るんだ。本当の主人公を名乗り続けるあいつにその座を返し、お前達が共に見守り続けてやれ。それがお前達の在るべき姿なんだ。あいつをなめるなよ。あいつは内に宿したその願いを誰よりも早く口にしているんだぞ。わけの分からない寂しさをずっと募らせているんだ。いい加減願いを叶えてやれ。
物語が終わりに向かうなら、もう熱さはいらないのかもしれない。あまりにも照れくさい物語は、そして温かで静謐なる終幕へと向かう。それでこそお前達二人だったんだと私は思う。思い出して、取り戻せ。あの幸せなひと時を。
伝えきれなかった愛を今度こそ伝え合え。そして共に誕生してみせろ。永遠に幸せに笑い合ってみせろ。この幸せ者共めっ。
……なんてな。
-
136 : 2015/03/27(金) 23:22:03.86 -
———
7. 先導編 終了
———
-
137 : 2015/03/27(金) 23:30:21.86 -
〜2015年3月27日 16:00・海岸〜ザザーン
京子「なんかさ。世紀末って感じだよね」
結衣「おい不謹慎なこと言うなよ」
-
138 : 2015/03/27(金) 23:31:25.35 -
ザザーン結衣「ていうか、何の目的なんだろうな。クローンて」
結衣「本物は間違いなく死んじゃうのに」
結衣「勝手に私達の細胞取ってさ」
結衣「計画の成功確率も1%以下だって噂だし」
結衣「そんなお金があるならもっと食べ物とか死体処理とか」
京子「はあー…だめだねえ結衣は。夢がないなー結衣は」
結衣「な、なんだよ…」
京子「前に私言ったじゃん?子孫は残すべきだ、みたいなこと」
結衣「…」
京子「子供は作れそうにないけど…でも、私達の遺伝子はこれからずっと続いていくわけじゃん。これってすごくない?」
結衣「まあ…」
京子「『生きとし生ける存在の、永遠なる楽園の夢』ってやつだよ」
結衣「なんだよそれ」
京子「私達の存在がずっと消えないってこと」
結衣「いやだから、それは本当の私達じゃなくて…」
京子「私達の心も死なないよ。私達が死んだら、私達の心は私達のクローンの中にまた入るんだよ。だからクローンは偽物なんかじゃない」
結衣「生まれ変わるってこと?」
京子「そうそう。また生まれたいって願えば、ほんとにできそうな気がしてこない?」
結衣「…そうだな。お前に言われるとできそうな気がするよ」
京子「うんうん。願えば何でも叶うんだよ」
-
139 : 2015/03/27(金) 23:32:06.95 -
結衣「ありがとな、京子」京子「何が?」
結衣「いや…お前と話してるとさ、世紀末だなんて忘れるっていうか」
京子「…そか」
結衣「でも、あんまり強がるなよ」
京子「強がってねーよっ」
結衣「どうだかな」
ザザーン
京子「ねえ結衣ー」
結衣「ん?」
京子「私ねー」
-
140 : 2015/03/27(金) 23:33:09.28 -
京子「好きな女の子、いるんだ」結衣「…うん。なんとなく分かってたよ」
京子「やっぱ結衣には何でもお見通しだね。ねえ、誰だと思う?」
結衣「私の知ってる人?」
京子「うん。よく知ってる」
結衣「そっか。ええーっと、ちなつちゃんかな?」
京子「ぶぶー。ちなつちゃんも大好きだけど、恋人になりたいって意味では違うかな」
結衣「うーん。じゃああかりか」
京子「ちがーう。結衣わざと間違えてるでしょ」
結衣「それはあかりに対して失礼なんじゃないか…」
京子「まああかりのことも大好きだけどねん」
-
141 : 2015/03/27(金) 23:34:21.03 -
結衣「…じゃあ…」ザザーン
結衣「綾乃、だな」
京子「…うん」
結衣「……そっか」
京子「やっぱ分かってた?」
結衣「最近露骨すぎるんだよ京子」
京子「え、そうかなぁ」
結衣「綾乃の誕生日あたりから様子変わったしな。なんかあったの?」
京子「あったというか、気付いたと言いますか…」
結衣「ふうん…」
京子「綾乃の子供作れなかったの、残念だなぁ」
ザザーン
結衣「私に告白したんだから、次は本人に告白だな」
京子「でもー…」
結衣「だめだよちゃんと伝えなきゃ。綾乃も待ってると思うよ」
京子「そうかなぁ…」
結衣「明日のパーティ、二人きりにしてやるからさ」
京子「変な気使わなくていいって」
結衣「まあそう言うなよ」
京子「ううーん…」
-
142 : 2015/03/27(金) 23:35:15.44 -
京子「…」京子「ねえ結衣…どうせなら、同じ場所で死にたいよね」
結衣「え?」
京子「そうだ、明日までにどこで死にたいか考えてきてよ。私も考えとくからさ」
結衣「はあ?」
京子「いいからいいから。結衣と私なら、きっと答えは一緒だよね」
結衣「いや、そういうことは綾乃に言ってやれよ。なんで私?」
京子「うーん。わからん」
結衣「わからんて…」
ザザーン
結衣「…そろそろ帰るか」
-
143 : 2015/03/27(金) 23:36:09.98 -
〜17:40〜京子「んじゃ、明日待ってるから」
結衣「ああ」
京子「じゃあねん」
結衣「…」
結衣「京子…」
京子「んー?」
結衣「毎日笑顔でいられるのは、おまえのおかげだよ。京子の前向きなところ、好きだよ」
京子「うん。…私も結衣が、大好きだよ!」
結衣「そっか…じゃあな」
京子「…うん。また明日ね」
-
144 : 2015/03/27(金) 23:37:07.48 -
結衣「……」結衣(今日はあっちに帰ろう)
結衣「———あ、もしもしお母さん?」
結衣「今日はさ、マンションの方に帰るよ」
結衣「…えっと、たまには皆で泊まろう、みたいになってさ」
結衣「うん」
結衣「いいじゃん。もうすぐみんな死んじゃうんだし」
結衣「大丈夫だよ」
結衣「うんありがとう」
結衣「そっちも何かあったら」
結衣「じゃあね」
ツーツーツー…
-
145 : 2015/03/27(金) 23:38:06.31 -
〜18:00・結衣宅〜ガン!
結衣「…」
結衣(何食べよう)
結衣(そっか、こっち食糧なかったっけ)
結衣(アイスならあったかも)
ズキン
結衣「……」
結衣(もう寝るか)
結衣(明日早いし)
ドサッ
結衣(朝は、一回実家に寄らなきゃな)
結衣(プレゼントあっちだし)
結衣(京子…喜んでくれるかな)
ズキン
結衣(下手したら嫌がるかもな)
結衣(綾乃と被ったらどうしよう)
ズキン
結衣「うっ…」
結衣(さっきから胸が苦しい)
結衣(身体だるいし)
結衣(吐き気も)
ズキン
結衣「くっ…」
ズキン
結衣(なに…これ)
結衣(…なんで、今日なんだよ…)
-
146 : 2015/03/27(金) 23:39:06.07 -
18:15検診時点でほぼ全ての日本滞在者の感染確認
感染後2年以内の死亡率は100%
感染から発病に至るまでの潜伏期間には大きな個人差
発病から死亡までは平均6時間
この痛みが、あと6時間続く
私は、あと6時間
何をして生きよう
———ねえ結衣…どうせなら、同じ場所で死にたいよね———
…なあ京子…お前はどこで死にたい?
この6時間で、お前が死にたい場所を当ててやるから
私はそこで先に待ってるから
あとで、答え合わせしような
ギー…
バタン
-
147 : 2015/03/27(金) 23:40:03.93 -
19:30「はあっ……はあっ……!」
公園、教室、部室
違う
お前のことだから、もっとひねくれた答えで私にツッコませるんだろ
ゲーセン?
ラムレーズン作ってる工場とか
ミラクるんやってた映画館
私の家だってんなら、楽で良かったのに
-
148 : 2015/03/27(金) 23:41:03.36 -
21:00「うっ…」
「はあっ……」
「……はあっ」
もう身体が動かない
何も見えない
ここ、どこだよ。くそっ
-
149 : 2015/03/27(金) 23:42:05.94 -
22:30私に分かるわけがないって分かってたよ
こうやって死んでいくんだ
かっこ悪いな
何がクローンだよ
私は死ぬじゃないか
生まれ変われる気なんてしないよ
死ぬ気しかしない
死にたくないな
いや
もういいか
もう生きなくていい
願えば何でも叶うって言うなら、もう生まれないでくれ
———綾乃の子供作れなかったの、残念だなぁ———
…こんな気持ちのままでいなきゃいけないなら
もう京子には、出会いたくない
綾乃にも会えない
どこに私の居場所があるんだよ、京子
…京子は来ない
京子には、大切な人がいるから
私のことなんか忘れて
お前が生まれ変わっても幸せになることを、願いながら私は死ぬから
「さよなら」
-
150 : 2015/03/27(金) 23:43:11.55 -
———
8. 宿願編 終了
———
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151 : 2015/03/27(金) 23:55:21.08 -
22:30「はあっ…はあっ…」
結衣の家。実家。公園、教室、部室。墓地や病院。私の家。
めぼしいところはすべて探した。走り回って、掘り起こして、それでも結衣は見つからなかった。私は「ごめんなさい」と繰り返しながら、ひたすら亡骸の山をあさった。
「こんなことなら…ゼエ……もっと体力、付けとくんだった…ゼエ」
後はレーダーに反応するものを一つ一つ見ていくしかない。
だけど、数が多すぎる。結衣の父親はこの120年の間に何度もクローンが作られた。それらがすべてこの下界に廃棄されている。とても調べ尽くせる数ではない。
それが結衣かどうかは一目で見分けられた。結衣の父親はそもそも体格が違うし、これまでに何度も目にしてその特徴を掴んでいた。
一目見れば分かるのに。
「結衣…どこにいるんだよ…」
-
152 : 2015/03/27(金) 23:56:46.07 -
22:40「もう時間が…」
ここで諦めても、来年また探せばいい。来年のこの日までに結衣を見つければそれでいい。
だけどそんなの嫌だ。あと一年でも結衣のいない毎日なんて嫌なんだ。それに、皆とも約束したんだ。
「急がなきゃ」
休んでる場合じゃない。
焦って走り出すと、足元の骨につまずいてしまった。アスファルトに引きずられて膝に痛みが走る。レーダーはガラガラと音をたてて転がった。
すぐに立ち上がってレーダーを拾い上げ、再び走り出す。
画面を確認すると、私はそのことに気が付いた。
「反応してない…ウソ、壊れた?」
ボタンを押してみたり、叩いたり振ったりしてみたけれど、レーダーはまったく反応しない。
「……なんだよちくしょう!」
感情に任せて、使い物にならなくなったそれをアスファルトに叩きつける。残響が虚しくこだました。
薄暗く静かで、死体だらけの町。そんな場所に何時間も一人でいられるほど私は強くない。もう私に心の余裕はなかった。
「結衣……ゆいぃ…」
私は結衣を見つけることができなかった。後はもう、その場で子供のように泣きじゃくることしかできなかった。
-
153 : 2015/03/27(金) 23:57:44.05 -
22:50このままここで死んでしまおうか。
今夜0時、私達は新しく生まれ変わる。上の世界にいる私達から細胞が採取されて、それを元に新しい私達が生まれる。
このまま下の世界にいれば、私の細胞は採取されない。もう次の私は生まれない。
来年また頑張るという希望にすがるよりも、なぜだか、結衣と同じ世界で眠るのも悪くないと思えてしまった。
「でも…」
だとしても
「どうせなら、同じ場所で死にたいよね」
結衣は寂しがりやだから。
私もやっぱり結衣と一緒がいいから。
当てなんてない。それでも私は立ち上がった。
-
154 : 2015/03/27(金) 23:59:06.21 -
23:00そうして足を引きずり続けて、私は結衣と120年ぶりの再会を果たす。
廃屋の壁にもたれる一つの亡骸があった。
妙に目に止まったのは、その亡骸を抱くように眠る、もう一つの亡骸があったから。ゆっくりと近づいて、その手に何かが握られていることに気付く。
「リボン…」
風化して色褪せていたけれど、その子はそのリボンを大事そうに握り締めていた。
例え頭のリボンが風に飛ばされてしまったとしても、大切な人の用意したプレゼントだけは決してなくさないようにと、私はそのリボンを強く握りながら結衣を抱いていた。
「結衣…」
やっと会えた。
「また生きて会おうね。約束だよ?」
寂しそうに壁にもたれる結衣の額に、私はキスをした。
-
155 : 2015/03/28(土) 00:00:10.70 -
〜3月28日・結衣宅〜チュンチュン
ん……うぅん
チュンチュン
うーんっ…
チュンチュンッ
うぅん
京子「チュンチューーーーーーン!!」
結衣「うるせえ!耳元で叫ぶな!」
京子「結衣、泣いてるの?」
結衣「うん。ちょっとね」
京子「ちょっと?」
結衣「夢見てた気がする」
京子「…そっか」
結衣「なあ京子」
京子「なーに?」
結衣「誕生日おめでとう」
京子「…へへっ。結衣もね♪」
— fin —
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